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11話

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 十三は一旦家に帰ってしまった。
 というのも、泊まるにしても着替えもないし、明日掃除するにあたりスーツでするわけにもいかず、なら一旦帰ってからまた来るということになったのだ。
 僕はといえば『俺が来るまでにシャワーくらい浴びてください』と言われて、さっき頭から被った生ゴミ臭を洗い流している。

「あいつ、いつ戻ってくるんだろ……」

 別に淋しいわけじゃないが、帰ってくるなら時間ぐらい聞いておけばよかった。
 シャワーを浴び終え、少し暑かったから下着とTシャツだけ着て、それからゴミ袋を横によけて少しだけ道を作っておく。こうして改めて見れば、確かに十三の部屋よりは汚いかもしれない。

「ん? いや、ゴミ袋なんてなかったような?」

 思い出せば、あいつの家にはゴミ袋のひとつも、いや、こんなヤバい臭いもしなかった気がする。むしろすごくいい香りがして、余計なものは何ひとつ置いてなくて、でも生活感があって……。
 そこまで考えて、僕は自分の部屋がいかに汚く、人様、特にか、かか、彼氏? 恋人? を呼べるものでないかを思い知らされた。

「なんか、急に恥ずかしくなってきた、かも」

 これを明日、一緒に片付ける、んだよな? それって、つまり、僕の恥ずかしいものも、見られたくないものも見られるってこと、だよな?
 明日のことを想像して立ちすくんでいた僕に、容赦なく玄関のベルが鳴ってきた。

「あ、ああぁ……」

 やっぱりやめておけばよかった。でも今さら帰れなんて言えるわけがない。
 泊めるだけ泊めて、明日の片付けは一人でしよう。十三にもその旨を言おう。そう腹をくくり、僕は「はい」と玄関の扉を開けた。

「すみません、遅くなりまし……紅羽さん、なんてカッコしてるんですか……」
「ん……?」

 格好? あれか、某ショッピングセンターで買ったキャラクターものなんだけど、やっぱり二十歳越えた大人が着るものじゃなかったか?

「あぁ、これは、その、これしかなくて、だな。大人が着るには、確かにちょっとあれかもしれないが、今日は我慢してくれ」
「はあああぁぁぁ……」

 十三は額を押さえて深いため息をついてから、

「俺と紅羽さんの間で認識の相違があるのはわかりました。とりあえず上がっても?」

とドアを開けたままでいる僕を、なぜか直視しないようにして言った。

「あ、それなんだけどな。今日は泊まるだけにして、明日の掃除は僕一人でやろうと思う」
「……は?」

 十三の声が、今まで聞いたことないほどに低くなる。けれど表情はいつものように穏やかだし、さっきのは聞き間違いかもしれない。

「いやだから、掃除は僕だけで」
「紅羽さん」
「ひゃ、ひゃい……!?」

 あ、やっぱり気のせいじゃなかったようだ。
 十三は反らしていた視線を僕へと移し、それから一歩、玄関へと踏み込んできた。

「つまらないことを考えてるんでしょうが、無意味ですよ。風呂にも入らず、生ゴミ臭させてたあなたが、今さら俺に何を隠すんです?」
「うっ」

 会社に寝泊まりしていた時は、正直、自分に対して無関心だった自覚はある。それをこうして引き合いに出されてしまえば、このゴミ部屋を見せるのも今さらな気がして「わか……った」と渋々ながらも頷けてしまえるから不思議だ。

「じゃ、じゃあ……、どうぞ」
「ではお邪魔します」

 十三が丁寧に靴を揃えて部屋へと上がる。
 ラフなシャツにジャージのズボン、肩からは少し大きめの鞄を下げていて、手にはコンビニ袋を持っている。明日の朝ご飯だろうか。

「とりあえず今日はもう遅いし、寝るか!」

 相変わらずの汚部屋おべやに十三が顔をしかめる。気にせず先にロフトベッドに上がり「ほら、十三」と手招きすれば、また十三がため息をついた。

「まぁ、そこしかありませんしね」

 渋々ベッドに上がってはくれたが、大の男二人が寝るにはいささか小さい。今度から十三には違う場所で寝てもらおうかな。まだ場所ないけど。

「にしても紅羽さん」
「ん?」
「名前、呼んでくれないんですか? さっきは呼んでくれましたよね?」
「んえ!?」

 驚きで身体が跳ねた。ベッドからギシッと音がして揺れたから、すぐに大人しくしたけれど。

「ね、なんでです?」
「それ、は」

 四つん這いの格好でベッドの頭側に逃げる僕を、上からのしかかる形で十三が防いでくる。うなじあたりに生暖かい感触が伝わって、それが十三から舐められたのだと理解した瞬間、ガリッとした痛みが走る。

「ひ、あっ」

 自分の口から甘い声が出る。それが堪らなく恥ずかしくて、僕は声を我慢するために枕に顔を埋めた。

「紅羽さん」

 腰を両手で持ち上げられ、下半身だけを十三に突き出す姿勢になってしまう。下着越しにあてられた熱は明らかに十三のモノで、それは明らかに大きく膨らんでいて、どう考えても僕に入るとは思えない。

「ま、まって、やだ、はいんないっ、そんなおっきいの、はいんない……っ」
挿入いれませんから。だからそんな怖がらないでください」

 ちらりと十三を盗み見てみる。十三は必死に我慢するように荒く息を吐いてはいるが、それ以上をする気は本当にないのか、確かに手を出してはこない。

「ほんとに……?」
挿入いれてほしいなら別ですけど。それに忘れたんですか? 紅羽さん、最初に少し挿入いれただけで気を失ったじゃないですか」
「ぅ……」

 そういえばそんなことあったなぁ……。でもあれは不可抗力だと思う。息が出来なかったのだし。

「あれは、十三のがおっきくて、苦しかったからで、僕のせいじゃない……」
「はぁぁぁ……、紅羽さん、わざとじゃないんですよね?」
「わざと息をしないわけないだろ」
「そこじゃないんですけど、もういいです」

 諦めたようにため息をついてから、十三はTシャツの中に手を入れて、背筋を指先でゆっくりとなぞってきた。

「ぁ……っ」
「名前、呼んでくれないんですか?」
「なま、え、は」

 背筋から前に回ってきた指が、ツンと立っている胸の先端を緩く弾いてきた。不覚にも腰が跳ね、自分から十三に腰を押しつける形になってしまう。

「ぼくと、とさ、は上司と部下、だからっ」
は違いますよね。二人の時ぐらい……」

 意地悪するようにカリカリと爪先で弄られ、僕は段々と力が入らなくなっていって、しまいには上半身ごと枕に預けてしまう。

「だ、だって、いつも呼んでたら、か、会社でも、まちがえて、たぶん、よんじゃう、から……っ」

 ふわふわする頭でなんとかそれだけを口にする。

「紅羽さん、あなたどんだけ真面目で……。わかりました。俺も会社では紅羽先輩って呼びます。だから二人の時くらい、紅羽さんって呼んでもいいですよね?」
「んあっ」

 両方の突起を軽くつままれ、僕は背中を仰け反らせる。そのふわりとした慣れない感覚にぼけーっとしていると、一旦身体を離した十三が、コンビニ袋からボトルのようなものを取り出していた。
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