3LOVE=6x x= (上)

天海 時雨

文字の大きさ
上 下
7 / 24

question,answer,question

しおりを挟む
「アーリゼアは、小さい時から、その……こう、だったのか?」
「私の記憶ではそうではありません。ある日から突然、でした。……ちょうど姉様が五つぐらいの時、急に」
「……変だな」

 目を細めて率直に感情を口にした。それもそのはず、大らかな漁師の血が何年も通っている彼は、思ったことをかなり口にする。

「変人扱いするのなら関わらないでくださいね。……するようでしたら、私とシレーグナ姉様が全力で排除いたします故」

 ニーアリアンの表情は姉を守る真剣な目に変わり、サニーラを強くめつけた。

「いや、そういう意味ではなくて。……ある日突然、こんな風になるなんて、と思って」
「医者にも見せたようですが、精神的なもののようです。原因を引き起こした何かが変わることがないと、生涯治ることはないそうです。そのために分類していたのですが、私としたことが……」

 かちゃり、と細かな細工が施されたカップを置いた。

「……何があったんだろうな」
「誰も知りませんわ。母上が聞いても俯くだけで、何も言いません。母上は無理に聞き出そうなんて言ってましたけど」
「ふ、無駄だな。どちらにせよ話さないだろ」
「えぇ、歯噛みしていましたよ」

 嘲笑とも取れる微笑が、ニーアリアンの涼やかな顔を染めている。

「……言っていいのか? 聞かれているとも分からないのに」
「私は私の王女の位をいつか捨てますから。それに、それでもし死刑になったとしても本望ですよ。書庫を燃やして死んでやります」
「ははっ、物騒だな。敬意がないと?」

 面白がるような笑みを浮かべるサニーラ。その薄紫の目は、約束を破る子供のようだ。

「生まれたくて生まれたわけでもありませんし、それに駆け引きは嫌いですから」

 ばっさりと両親と自分の両親と姉妹を切り捨てる。その目に迷いはなく、その言葉が本気であることを示している。

「……好きじゃないのか?」
「大っ嫌いですよ、王族なんか。同族嫌悪でしょうね」
「……貴女は不思議だな?」
「そうですね、よく言われます!」
「ん……ぅ」

 はっきりと言い切ったニーアリアンの横のソファーで目覚めたのは、先程まで失神していたアーリゼアだ。未だ顔色は悪い。

「ぁ、ニーア、サニ……」
「大丈夫ですか?」
「ん、ごめんね……」
「いえ、礼には及びませんよ。立てますか?」
「うん、大丈夫……ちょっと、ふらふらするだけ」

 床に手をつきそうになるアーリゼアをすかさず支えるサニーラ。その横で、彼女の妹が微笑んだことは誰も見ていなかった。

「よかった……部屋に戻って休みますか?」
「もう大丈夫、ありがとうニーア。少し外の空気を吸ってきてもいい?」

 もとから誘われていたし、とアーリゼアは続ける。まだ少し顔色は悪いが、元気そうだ。

「え、でも……無理しないでいいぞ?」
「ううん、大丈夫だよ?」
「うーん……じゃあ、サニーラ様にお任せします」
「え……ニーアリアン?」

 ふふっ、とチャーミングな笑みを見せた。そしてそれを見つめるアーリゼアの目には、驚きと一種の懐かしさがあった。

「そんなに遠くまで行かないのなら大丈夫でしょう? あまり激しい運動はさせないで下さいね?」
「……あぁ、ありがとう!」

 サニーラは、高揚感に包まれていた。アーリゼアと外に出られるというのも一つのことだが、何かを手に入れたような感情。
 この感情の正体を知るのは、そう遠くない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

【完結】王太子妃の初恋

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
カテリーナは王太子妃。しかし、政略のための結婚でアレクサンドル王太子からは嫌われている。 王太子が側妃を娶ったため、カテリーナはお役御免とばかりに王宮の外れにある森の中の宮殿に追いやられてしまう。 しかし、カテリーナはちょうど良かったと思っていた。婚約者時代からの激務で目が悪くなっていて、これ以上は公務も社交も難しいと考えていたからだ。 そんなカテリーナが湖畔で一人の男に出会い、恋をするまでとその後。 ★ざまぁはありません。 全話予約投稿済。 携帯投稿のため誤字脱字多くて申し訳ありません。 報告ありがとうございます。

処理中です...