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question,answer,question
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「アーリゼアは、小さい時から、その……こう、だったのか?」
「私の記憶ではそうではありません。ある日から突然、でした。……ちょうど姉様が五つぐらいの時、急に」
「……変だな」
目を細めて率直に感情を口にした。それもそのはず、大らかな漁師の血が何年も通っている彼は、思ったことをかなり口にする。
「変人扱いするのなら関わらないでくださいね。……するようでしたら、私とシレーグナ姉様が全力で排除いたします故」
ニーアリアンの表情は姉を守る真剣な目に変わり、サニーラを強く睨めつけた。
「いや、そういう意味ではなくて。……ある日突然、こんな風になるなんて、と思って」
「医者にも見せたようですが、精神的なもののようです。原因を引き起こした何かが変わることがないと、生涯治ることはないそうです。そのために分類していたのですが、私としたことが……」
かちゃり、と細かな細工が施されたカップを置いた。
「……何があったんだろうな」
「誰も知りませんわ。母上が聞いても俯くだけで、何も言いません。母上は無理に聞き出そうなんて言ってましたけど」
「ふ、無駄だな。どちらにせよ話さないだろ」
「えぇ、歯噛みしていましたよ」
嘲笑とも取れる微笑が、ニーアリアンの涼やかな顔を染めている。
「……言っていいのか? 聞かれているとも分からないのに」
「私は私の王女の位をいつか捨てますから。それに、それでもし死刑になったとしても本望ですよ。書庫を燃やして死んでやります」
「ははっ、物騒だな。敬意がないと?」
面白がるような笑みを浮かべるサニーラ。その薄紫の目は、約束を破る子供のようだ。
「生まれたくて生まれたわけでもありませんし、それに駆け引きは嫌いですから」
ばっさりと両親と自分の両親と姉妹を切り捨てる。その目に迷いはなく、その言葉が本気であることを示している。
「……好きじゃないのか?」
「大っ嫌いですよ、王族なんか。同族嫌悪でしょうね」
「……貴女は不思議だな?」
「そうですね、よく言われます!」
「ん……ぅ」
はっきりと言い切ったニーアリアンの横のソファーで目覚めたのは、先程まで失神していたアーリゼアだ。未だ顔色は悪い。
「ぁ、ニーア、サニ……」
「大丈夫ですか?」
「ん、ごめんね……」
「いえ、礼には及びませんよ。立てますか?」
「うん、大丈夫……ちょっと、ふらふらするだけ」
床に手をつきそうになるアーリゼアをすかさず支えるサニーラ。その横で、彼女の妹が微笑んだことは誰も見ていなかった。
「よかった……部屋に戻って休みますか?」
「もう大丈夫、ありがとうニーア。少し外の空気を吸ってきてもいい?」
もとから誘われていたし、とアーリゼアは続ける。まだ少し顔色は悪いが、元気そうだ。
「え、でも……無理しないでいいぞ?」
「ううん、大丈夫だよ?」
「うーん……じゃあ、サニーラ様にお任せします」
「え……ニーアリアン?」
ふふっ、とチャーミングな笑みを見せた。そしてそれを見つめるアーリゼアの目には、驚きと一種の懐かしさがあった。
「そんなに遠くまで行かないのなら大丈夫でしょう? あまり激しい運動はさせないで下さいね?」
「……あぁ、ありがとう!」
サニーラは、高揚感に包まれていた。アーリゼアと外に出られるというのも一つのことだが、何かを手に入れたような感情。
この感情の正体を知るのは、そう遠くない。
「私の記憶ではそうではありません。ある日から突然、でした。……ちょうど姉様が五つぐらいの時、急に」
「……変だな」
目を細めて率直に感情を口にした。それもそのはず、大らかな漁師の血が何年も通っている彼は、思ったことをかなり口にする。
「変人扱いするのなら関わらないでくださいね。……するようでしたら、私とシレーグナ姉様が全力で排除いたします故」
ニーアリアンの表情は姉を守る真剣な目に変わり、サニーラを強く睨めつけた。
「いや、そういう意味ではなくて。……ある日突然、こんな風になるなんて、と思って」
「医者にも見せたようですが、精神的なもののようです。原因を引き起こした何かが変わることがないと、生涯治ることはないそうです。そのために分類していたのですが、私としたことが……」
かちゃり、と細かな細工が施されたカップを置いた。
「……何があったんだろうな」
「誰も知りませんわ。母上が聞いても俯くだけで、何も言いません。母上は無理に聞き出そうなんて言ってましたけど」
「ふ、無駄だな。どちらにせよ話さないだろ」
「えぇ、歯噛みしていましたよ」
嘲笑とも取れる微笑が、ニーアリアンの涼やかな顔を染めている。
「……言っていいのか? 聞かれているとも分からないのに」
「私は私の王女の位をいつか捨てますから。それに、それでもし死刑になったとしても本望ですよ。書庫を燃やして死んでやります」
「ははっ、物騒だな。敬意がないと?」
面白がるような笑みを浮かべるサニーラ。その薄紫の目は、約束を破る子供のようだ。
「生まれたくて生まれたわけでもありませんし、それに駆け引きは嫌いですから」
ばっさりと両親と自分の両親と姉妹を切り捨てる。その目に迷いはなく、その言葉が本気であることを示している。
「……好きじゃないのか?」
「大っ嫌いですよ、王族なんか。同族嫌悪でしょうね」
「……貴女は不思議だな?」
「そうですね、よく言われます!」
「ん……ぅ」
はっきりと言い切ったニーアリアンの横のソファーで目覚めたのは、先程まで失神していたアーリゼアだ。未だ顔色は悪い。
「ぁ、ニーア、サニ……」
「大丈夫ですか?」
「ん、ごめんね……」
「いえ、礼には及びませんよ。立てますか?」
「うん、大丈夫……ちょっと、ふらふらするだけ」
床に手をつきそうになるアーリゼアをすかさず支えるサニーラ。その横で、彼女の妹が微笑んだことは誰も見ていなかった。
「よかった……部屋に戻って休みますか?」
「もう大丈夫、ありがとうニーア。少し外の空気を吸ってきてもいい?」
もとから誘われていたし、とアーリゼアは続ける。まだ少し顔色は悪いが、元気そうだ。
「え、でも……無理しないでいいぞ?」
「ううん、大丈夫だよ?」
「うーん……じゃあ、サニーラ様にお任せします」
「え……ニーアリアン?」
ふふっ、とチャーミングな笑みを見せた。そしてそれを見つめるアーリゼアの目には、驚きと一種の懐かしさがあった。
「そんなに遠くまで行かないのなら大丈夫でしょう? あまり激しい運動はさせないで下さいね?」
「……あぁ、ありがとう!」
サニーラは、高揚感に包まれていた。アーリゼアと外に出られるというのも一つのことだが、何かを手に入れたような感情。
この感情の正体を知るのは、そう遠くない。
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