マトリョーシカ少女

天海 時雨

文字の大きさ
上 下
24 / 34

幼馴染(?) 紗凪side

しおりを挟む
「……というわけで、悠月とは仲良くなった」
「なるほど……それであのナイフを」
「そっ。いらないって言ったんだけど、使ってみたら便利でね」
「はー……」
「あ、同情はしないでね。惨めだから」
「するほど優男でもねぇよ。今更だろ」
「そ。ならいいや、じゃーあたし帰る──」

 ついっと紗凪のパーカーの袖を引っ張る静月。

「え、何?」
「……お前、覚えてねぇのな。俺は思い出したぞ」
「は? 何を?」
「お前昔、この屋敷にいたろ」
「え、いたけど」

 何言ってんのこいつという目で見られてる。え、私なんか忘れたっけ? それさえも覚えてないわ。

「……ツキ君と、ゲン。覚えてないか?」
「……ああ! やっぱあれ静月? 誰かの組員の子供だったのかなと思ってたよ」
「……やっぱり忘れられてたか」
「存在自体は覚えてたけど」
「……まぁいい。とりあえず今日は泊まるんだろ?」
「ん。じゃあおやすみ」
「おやすみ」

 同情されてないこと、惨めに思われてないこと。それを知れただけでも良かったのかな。
 ドアに寄りかかって少し考える。にしても、あのツキ君だとは──思わなかった。

「……ツキ君、か」

 記憶はおぼろげだが、仲が良かったことは覚えている。そして彼は────、

「初恋、だっけ?」

 そう、初恋。両親が死んでからは、思い出すこともなかったけれど。ただ、あの日──葬式の日だけは、私は彼の前に立っても俯くだけだった。

「……お母さんは、覚えてるかな」

 覚えてるに決まってるでしょ、と目の前で笑ってくれたら、私はこんな悩まないのかな。──お母さんに会って話せてたら、こんな歪んでなかったのかな。

「…………」

 ペタペタと歩き出して、寝室に向かおうとした時────。

「……やっぱりか」

 唐突に開いたドアに反応できず、そのまま静月の部屋に倒れこんでしまった。痛い。

「いっ、た……急に開けな──」

 開けないでよ。そう言おうとしたのに、なぜかまた部屋に引きずり込まれた。これまた痛い。

「ちょ、静月。痛いって」
「泣いてんのはそのせいじゃないよな」
「は?」
「気付かなかったか?」

 え、と思って頬を袖で拭うと確かに水が滲む。──なんで泣いてるんだろう、私。

「……思い出させたか? 悪かったな」

 思い出し泣きなんて、最近は悠月の前でもしてなかったのに──いや、最近はしてなかった。
 嫌な夢を見ることはあるけど、ただ気持ち悪くなって吐いて終わるだけ。そのあとは大概寝れなくて、毛布にくるまりながら夜が更けるのを待つ。そんな習慣は中学生の時から出来上がっている。

「え、なんで……」
「泣くになんでも何もないだろう。とりあえず我慢するな」

 そうは言われても、人前で泣いてるのに我慢するなというのは私には無理だ。人並みに恥ずい。
 なので袖で目を拭こうとするけど──阻まれる。

「……あの、拭きたいんだけど」
「悪いが、母親の命令でな」
「……どんな家族なんだよ」
「居心地はいいぞ」
「…………」

 拭けないままかなりの圧で抱き締められる。あーあ、静月の服汚れるし。

「いや、もう多少血で汚れてるからいい」
「え……」
「声に出てた」
「あ、そう。さすが若頭」

 ──静月はパジャマで繁華街に行くのかと思ったら、少し笑えてきた。

「……ん、もういいよ。止まったから」
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。じゃーね」

 止める声は聞こえなかったけれど、止める間もないようにドアを閉めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...