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第1章 雨の回廊
雨の回廊(2)
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「さてミシン殿」
「ミジーソ。しかし調べるといっても、何を調べればいい。欠けていると言っても、たかだが、こんな小さな穴だ。別に、通路の壁に小さなひび割れがあったところで、そう困るものではないのではないか? 報告や修復というのは、形式的なものなのかな」
「いえミシン殿。それは違いますぞ。雨が別の場所へ流れ出すといのは、一歩間違うと大変なことなのですわい。
この欠けたところにわれわれが入って、調べまする」
「こんな狭い穴に入るのか……?」
一見、人が入れるとも思えなかったが、石や木の造りではない雨造りの穴は、体を入れても引っかかることはなく、すんなり中に入ることができてしまった。
地に足が着くまでに少しだけ距離があって、飛び降りるような形になった。
気づかなかったが、もとの回廊と飛び降りた先との間にほんの少しの溝がある。
「気をつけなされミシン殿。絶対に、その溝へは足を滑らせないよう。雨と一緒に、人間の空間ではない雨の次元に流れてしまいますぞ」
入ると、同じように雨が降っている暗い場所で、奥へ続いているらしかった。
道は青白くあわく光って、狭い通路のように奥へ奥へと伸びている。そこを、ミジーソを前にして二人は進んでいく。
回廊と違って、この通路には脇に測道のように雨が流れ込んでいる真っ黒な溝がある。ここもさきの飛び移るときにあった溝と同じで、絶対に足を滑らせないように、とミジーソは言い聞かせるように言った。
通路は、ややしゃがみ込んで行かねば行けないくらいの狭く小さな通路になってきた。
やがてほとんど、這いつくばって進むしかないようになる。
ミシンは気が滅入るようだった。ミジーソは、随分先に行ってしまい、彼の足が小さく影のように見えている。
「いかんな。こんな溝を作ってしまっておっては。しかも、なかなか深いわい……」ミジーソのぼやきが先の方で聞こえている。
「ミジーソ! まだ、先へ行くのか?」
「ミシン殿。先に、広い空間がありましたぞ。もう着く。早くあなたも来るのじゃ」
一気に進み抜けると、ミジーソの言った通り、開けた空間に出た。壁と天井が随分と高い。景色は同じで周囲を雨が降っているのだが、少し違うのは壁の高いところにあたる位置の所々に、青白い模様らしきものが浮かび上がっている。シンプルな模様だが、今までに見たことがない模様で奇妙さを覚えた。
そしてここには、ひと(住人)がいた。
ひと、と形容できるだけのもの、頭、胴、手足は備わっている、つまりひとの姿をしているが、顔には目鼻口がなく、耳も髪の毛もなくつるつるの丸で、服も着ておらず体も頭同様につるつるだった。男・女の別も定かではなく、皆一様に人間の子どもくらいの背丈しかない。彼らはここの床の色と同じようにぼんやりと青白く光っているように見えた。
ミシンらを見て、とくに住人らの反応はなく、ただじっとこちらを見ている者が数人。あとは、とくに関心もなく、各々に動いている。何をしているというわけでもなく、一体、この者たちは何なのか。
ミジーソも初めて見る者で、よくわからないというようだった。
敵意は感じられない。
見渡せば、この開けた空間には、ミシンらの出てきた穴以外にも、幾つかの穴があって、そこをこの住人らが出入りしている。住人の数は多くはなく、見える範囲でせいぜい十数人足らず。あの穴は中で他の穴とつながっているのか、別のどこかへ続いているのはわからないが。
「ミジーソ。しかし調べるといっても、何を調べればいい。欠けていると言っても、たかだが、こんな小さな穴だ。別に、通路の壁に小さなひび割れがあったところで、そう困るものではないのではないか? 報告や修復というのは、形式的なものなのかな」
「いえミシン殿。それは違いますぞ。雨が別の場所へ流れ出すといのは、一歩間違うと大変なことなのですわい。
この欠けたところにわれわれが入って、調べまする」
「こんな狭い穴に入るのか……?」
一見、人が入れるとも思えなかったが、石や木の造りではない雨造りの穴は、体を入れても引っかかることはなく、すんなり中に入ることができてしまった。
地に足が着くまでに少しだけ距離があって、飛び降りるような形になった。
気づかなかったが、もとの回廊と飛び降りた先との間にほんの少しの溝がある。
「気をつけなされミシン殿。絶対に、その溝へは足を滑らせないよう。雨と一緒に、人間の空間ではない雨の次元に流れてしまいますぞ」
入ると、同じように雨が降っている暗い場所で、奥へ続いているらしかった。
道は青白くあわく光って、狭い通路のように奥へ奥へと伸びている。そこを、ミジーソを前にして二人は進んでいく。
回廊と違って、この通路には脇に測道のように雨が流れ込んでいる真っ黒な溝がある。ここもさきの飛び移るときにあった溝と同じで、絶対に足を滑らせないように、とミジーソは言い聞かせるように言った。
通路は、ややしゃがみ込んで行かねば行けないくらいの狭く小さな通路になってきた。
やがてほとんど、這いつくばって進むしかないようになる。
ミシンは気が滅入るようだった。ミジーソは、随分先に行ってしまい、彼の足が小さく影のように見えている。
「いかんな。こんな溝を作ってしまっておっては。しかも、なかなか深いわい……」ミジーソのぼやきが先の方で聞こえている。
「ミジーソ! まだ、先へ行くのか?」
「ミシン殿。先に、広い空間がありましたぞ。もう着く。早くあなたも来るのじゃ」
一気に進み抜けると、ミジーソの言った通り、開けた空間に出た。壁と天井が随分と高い。景色は同じで周囲を雨が降っているのだが、少し違うのは壁の高いところにあたる位置の所々に、青白い模様らしきものが浮かび上がっている。シンプルな模様だが、今までに見たことがない模様で奇妙さを覚えた。
そしてここには、ひと(住人)がいた。
ひと、と形容できるだけのもの、頭、胴、手足は備わっている、つまりひとの姿をしているが、顔には目鼻口がなく、耳も髪の毛もなくつるつるの丸で、服も着ておらず体も頭同様につるつるだった。男・女の別も定かではなく、皆一様に人間の子どもくらいの背丈しかない。彼らはここの床の色と同じようにぼんやりと青白く光っているように見えた。
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敵意は感じられない。
見渡せば、この開けた空間には、ミシンらの出てきた穴以外にも、幾つかの穴があって、そこをこの住人らが出入りしている。住人の数は多くはなく、見える範囲でせいぜい十数人足らず。あの穴は中で他の穴とつながっているのか、別のどこかへ続いているのはわからないが。
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