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八話 邪神と戦ってみよう

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 《イリス・フィーリルア》

 ムドウには何時も過酷な命令をしてしまいます。
 しかし、戦に勝つにはあの方の力は必須です......

 何よりこちらもムドウの身を心配している余裕はありませんし......

 「とんでもなく強いナーガがいるぞー!」
 「女王陛下をまもれぃ!」
 「ダリウス様ーっ!」

 戦況は......数と質の差でこちらがやや不利。
 数でも質でも負けているのですから、こんなの最初から詰んでいますね。

 将棋で言うのなら、十枚落ち状態です......

 ふふふっ。

 いつものことですね。

 「ナーガには五人で対応しなさい! あなた! あなたは一人で戦線を維持してください」
 「一人で!? それは......」

 情けない。
 ムドウは一人で邪神と戦いに行ったというのに、旦那様は一人で数千の邪蛇を相手取ることを恐れますか......

 これは、結婚する相手を間違いましたかね?

 「あなた。愛してますよ?」
 「うっ......わかった。やってみる」

 いえいえ、これぐらいチョロイ男の方が、私にはちょうど良いですね。
 ムドウ攻略は娘に託しますか......
 イリスにムドウはもったない気もしますが、仕方ありませんね。

 「うおっ! なんだこのナーガ! 強すぎるぅぅっ! 女王陛下撤退を進言します!」
 「お馬鹿な事を言ってないで戦ってください!」
 「このままでは全滅しますよ!」
 「では、全滅しますか?」
 「「「「っ!」」」」
 
 おやおや、騎士の皆さんは必死に為りましたね。
 最初からそうして戦えば良いのですのに......

 しかし、あのナーガ達......確かに手に負えませんね。
 これは、ますます不利になってきました。

 冗談ではなく全滅してしまいます。
 さて、そろそろ一手打ちたい所ですが......打つ手がありませんね。

 旦那様も騎士達も、限界です。
 さっき森の中が爆発したのはムドウでしょうか?
 あちらもあちらで派手にやっているようです。

 今、私達陽動隊が撤退すれば、ムドウが四面楚歌になってしまいます。
 そうなれば流石にあの方でも死ぬでしょう......

 私達の運命はあの方の健闘次第と言うことですか。

 「シァアアアアアアーーっ!!」
 「女王様!」

 迂闊。

 思索にふけりすぎて、ナーガに背後を取られてしまいました。......絶体絶命です。
 コレで死んだらムドウを恨み殺します!

 「せいやぁああああああああーーっ!!」
 「......ッ......」

 気合いの声と共に私の窮地を救い、騎士達が手を焼いているナーガ首を、一蹴りで吹き飛ばしたのは、
 ムドウが可愛がっている弟子の女の子でした。

 ......流石はムドウの弟子ですね。凄まじ過ぎます。

 「助かりましたハクアさん」
 「オバサンは、お師匠様の愛人様ですからお助けするのは当然です!」

 愛人!? ムドウは私のことを嫌っていますよ!?

 「......ハクアさん。猫の手も借りたい状況ですので、幼女の手も借ります。残り四体のナーガを殲滅してください」
 
 ムドウには後方支援をさせておけと言われましたが、とんでもない。
 使えるものは幼女でも、使いましょう。
 それが生き残る秘訣です。

 常に頭を柔軟に......

 「嫌ですっ!」
 「はい?」

 迷い無く断られました。即答です。
 流石はムドウの弟子ですね。そんなところまで似ていなくて良いのですが......

 「オバサン。私はお師匠様の所に行ってきます」
 「はい?」
 「お師匠様は待っていてって言ったけど......もう、待てません! 三年も待ったんですっ! お師匠との約束通り......私はお師匠様と一緒に居つづけます」

 そういったハクアさんの纏う気が劇的に変わりました。
 視線の先は爆発した方向。

 いつまにか目の色が白から赤に変わっていますし......
 ですが、そっちは蛇達がひしめき合う魔境。

 行かせるわけには!

 「私は......私はお師匠の近くに行く......私にはできる。お師匠様の弟子の私にはできる。できるもんっ!」
 「ハクアさん......?」
 「お師匠様ぁあああああああああーーッ!!」

 ズドォオオオオオン!!

 音を置き去りにしたかのような超加速。
 私の目にはハクアさんの通った道の蛇達が勝手に吹き飛んで行くように見えます。

 たまたまそこにいた。
 それだけの理由で、ニ体のナーガも引き殺して行きました......

 「まずい! あの子に何かあればムドウが敵になります!」

 あれだけの戦闘力を秘めた子を、後方支援に甘んじさせるほど甘やかしていました。
 あの子がムドウのアキレス腱となると思ったから連れて来ましたが......
 これでは邪神よりも厄介な敵が生まれてしまいます。

 本末転倒も良いところ......
 ですが、今の私達にあの蛇達の包囲を突破する力は......

 「おいっ! みんな! テンプのロリ弟子が、森に突っ込んだらしいぞ!」
 「なんだって! そりゃあ大変だ! 助けに行こう!」
 「いや、ダメだ! 助けに行けば女王を護りきれない......くそっ! どちらかしか救えないのか!」
 『馬鹿やろおおおおおおおう! ロリと女王! 天秤に掛けるまでも無いだろう!』
 「「「「「騎士長!」」」」」」
 『俺達は何者かを考えろ! そうすればどちらを捨てるかは明白!」
 「そうだ......」「俺達......」「騎士長!」
 『俺達はなんだ!?」
 「「「「「「「「ロリコンだぁああああああああああああーーッ!!」」」」」」」」

 ......違います。私の騎士です。

 『そうだろう! 子持ちのババァとぷりぷりのロリ! 助けるのはロリだぁ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼亜!!」
 「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」

 私の騎士達が蛇達をものともせずにハクアさんを追っていきます。

 ......あの騎士長。減給してやりましょう。

 「イリス! よくわからないけど、馬鹿とムドウの弟子のおかげで戦況が好転した!」
 「はい。分かっています」

 馬鹿のせいで薄くなってしまった、私の護りにすかさず旦那様が入ります。流石は私の下僕......
 
 「馬鹿(ロリコン)じゃなかった騎士達の半分でナーガを一体。旦那様!」
 「旦那様!?」

 イケません。つい心の呼び名が出てしまいました。

 「......旦那様! 私はあなたを愛しています! あなたなら、ナーガぐらい一人で倒してくれると......っ!」
 「......無茶だ」
 「帰ったら、大臣達を黙らせて二人目の子供を作りましょう!」
 「......無茶だ」

 どういう意味ですか!

 「あなた! カッコイイところを見せてください」
 「......イリス。解った。僕の死に様を見ててくれ!」
 「死なないで欲しいのですが......」

 旦那様は、私の腰に手を回し、勝手に唇を合わせてからナーガの元へとかけていきます。
 とろけそうになりました。

 「「「「「やっぱりロリだぁ嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼亜ーーッ!!」」」」」」

 何故か、血の涙を流して騎士達がまた数人森へと消えていきます......
 あの騎士達は何を期待していたのでしょうか?

 三ヶ月は無給ですね。

 「女王! 本当に護り切れません! 女王だけでも退避を!」
 「私の旦那様が......騎士達が......何より大英雄ムドウ・テンプが命をとして世界滅亡を回避する為に戦っているのです! 私だけ逃げられますか!」

 ムドウには何度も命を救われました。
 軍規を無視してイリスの事も救ってくれました。
 そのせいで軍を追放され、戦う義務が無くなった後も、
 魔王討伐まで私の友として戦ってくれました。

 この邪神戦だってあの方には無益。
 それでも平和のために戦ってくれるあの不器用な英雄に、私の全てをかけています。

 「無理だと言うなら逃げなさい! どうせちょっと観てくれのいい小娘と天秤にかけて負ける女王です!」

 既に式系統は崩壊。
 残った騎士達は十人足らず(既婚者)。

 私がフィーリルアで一番の美姫である。
 ......という言葉ももう見直さなければイケませんね。

 「ここでの戦いの意味はもうありません! それでも私は、あの英雄が戦っている限り、ここで命を燃やしつづけます」

 それが、あの方へのせめてもの敬意です。

 「私は旦那様と二人でも戦います」
 「っえ! 僕も!?」
 「ふふふっ。いつも通りです......騎士ならば、おのが信じる人を護りなさい!」
 「「「「うぉおおおおおおおおおーーっ!!」」」」」

 ここの終局も近い......みたいですね。
 騎士の皆さんはお馬鹿さんばかりです。
 誰一人逃げないのですから......

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 《ムドウ・テンプ》

 「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ! 《ファイナル・爆砕拳》!!」
 「ふははははははははははははははははははーーッ! 《蛇神の触手》ゴッド・スネーク・テンタクル !!」

 壮絶!!

 邪神強すぎて泣きそうなんだけど!

 ファイナルって言ってるのにピンピンしてるし......戦闘力一万以上は確定しちゃってるよ。
 魔王が子供みたいに思えて来る。

 「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!!」
 「ふははははははははははははははははははーーッ!!」

 しかも、本気で戦ってのに邪神の奴は終始笑ってやがる。
 どんだけ余裕かましてくれてんの?

 ムドウさんそろそろ怒るよ? マジで怒るよ?

 「まさか、人間でこの我と互角に戦うつわものがいるとはのう」
 「互角!? 笑う余裕があるお前に言われたくないな」
 「久しぶりの血肉の踊る戦いに勝手に頬が緩むのじゃっ!」
 
 頬なんか見えねーよ。
 
 ......全身を自らの強靭な触手で覆い、攻と防を兼ね備えている。
 触手の速さも全力の俺より少し早い。

 あの触手をなんとか剥がさない限り、勝期は無い......が。
 さっきから全力の攻撃をしてもビクともしない。

 完全に詰んでいる......

 ハハハッ......ハクアを連れて逃げたい。

 「しかし、見上げた男よのう。我がしもべを戦いに巻き込むなとゆったら、本当に巻き込まんのじゃから」
 
 何を言ってるんだろう?
 相手が数万の蛇を戦いに使わないと言ったんだから、それはコチラにとってのメリットでしかない。
 受けるに決まっている。

 ナーガみたいな奴と同時に相手を出来る余裕なんか無いし......
 これは、騎士達がいてもダリウスぐらいしか当てにはできなかったかもしれない。
 悔しいがイリス女王の作戦は嵌まってる。

 「おい! 邪神! 会話をする気があるなら、こっちの王と話さないか?」
 「ふはははははは......っ。迫害の歴史を歩んだ我に言っているのか?」
 「迫害?」
 「蛇の獣人は人を好んで食す。何時の時代もそれが人間とは相容れないのだ。貴様とて同じであろうよ?」
 「......俺は。迫害云々の前に蛇自体が気色悪くて嫌いだな」
 「ふははははははーーッ! 我の前で個人の好悪を説くか、あっぱれなり! 貴様は誠に面白い」

 シュルシュルと気色悪い声で笑う邪神は、当たれば必死(し)の幾本もの触手を消しかけながら言う。

 「気に入った! 我が直々に貴様をくろうて血肉にしてやろう!」
 「確かに、そういう発想じゃ共生はムリそうだな」

 邪神を倒すには戦いながら見えた自力の限界の先。
 ファイナル・モードを越えたモード。
 それを使うしかない!
 
 「見せてやるよ! 魔王にも使わなかった取っておき。泣いて許しを求めても遅いからな!」
 「っえ? 許せと言ったら許すのか?」
 「......」
 
 子供みたいな声で、気の抜けることを言う邪神......
 何こいつ?

 「......許して欲しいのかよ?」
 「嫌じゃ! 我は今、貴様と闘うのが快(こころよ)いからな! ふははははーーッ!!」

 俺は良くねぇーよ!

 これだから意思の疎通が出来そうで出来ない敵ってのは厄介だ。
 種が違う。

 魔王が人間を滅ぼそうとしたように、邪神は人間を食料としか思っていない。
 弱肉強食。 
 それが今ここにある理(ことわり)。

 蛇は食いたく無いけど......

 「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアーーッ!」

 ファイナル・モードのその先。
 そこへ行くには、もっと深く自我に没頭する。

 深く、深く、深く、深く!

 「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」

 もっと、もっと、もっと深く!!

 「ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!」
 「ん? 何じゃ? 隙だらけじゃないか! つまらん最後よのう! 《蛇神の触手》ゴッド・スネーク・テンタクル !!」

 ガブリっ!

 えっ......? そんなのあり!?
 待ってくれないの!? お約束でしょ? 魔王は待ってくれたよ!
 
 脇腹を触手にえぐられ致命傷を負ってしまった。
 これは......死ぬ傷だ。

 仲間の死を誰よりも見てきたから解る。

 「ふははははははーーッ!」
 「くっ......不覚」

 マジで!
 不覚過ぎる。

 「ではペろりと食ろうてやろう」
 「うっ......無念」

 マジで!
 無念過ぎる。

 タタタタタタッ......

 足音?

 「お師匠さまぁあああああああああああーッ!」
 「ハクア!」
 
 絶体絶命の大ピンチそこにハクアが駆けつけた。
 ハクアは俺と邪神をみて言う。

 「お師匠様! 蛇さんと交尾の最中ですかー? (>w< )」

 ちげーよ!
 

 
 
 
 
 
 



 
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