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三章 ハーレム編
七十三 もてもてだよね
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「魔女セレナが命じるわ、ダーリンを転移させなさい』
セレナの言霊と同時に、ロニエの愛しい人天野光が虚空へと姿を消した。
「ああ、ヒカル様ぁああ! ああヒカル様あああ」
ロニエは光がいなくなった直後から壊れたように光の名前を連呼した。
「気持ちは分かるけど、やめなさい」
セレナが凄く引き攣った目でロニエを注意した。
「セレナさん! お願いです! やっぱりロニエを連れていってください! ヒカル様と離れるなんて出来ません!!」
「男がいなくなったら貴女も片無しなのね。でも本当にごめんなさい。貴女を飛ばすことは出来ないのよ」
セレナは申し訳なさそうに謝るので、ロニエは理性と感情を推し量り、辛うじて理性が勝った。
「ヒカル様は愛する人が居ないとすぐにロニエの呪いで衰弱していきます。どうかヒカル様とは一日三回以上は必ずエッチしてください!」
「ハードね。貴女がいない分楽しんで来るわよ」
「セレナさん! やっぱりロニエは必ず行きます!! どんな手を使っても必ず行きます!! それまでヒカル様をどうかよろしくお願いします」
「貴女が言うと本当に出来そうね、ならダーリンと待ってるわ! 必ず間に合わせなさい!」
セレナが言い切る時を測ったようにセレナが転送された。
「ロニエ、そろそろ着替えた方が良いですよ」
「姉様!! そんな暇はありません! すぐにヒカル様の元に向かわなければいけないのです」
光とのエッチのままなのでロニエは裸でしかも光の精液を体中に浴びている。
そんなロニエを見て姉のイリアが心配する。
「私の頼みを聞いてくれるのなら、ロニエに協力しても良いですよ」
イリアがへら~っと笑っているのを見て何かをたくらんでいるのは丸わかりだ。
「どうせ姉様はヒカル様の第四王妃の座を狙っているのですよね」
「流石は私の妹です。なら話が早いですね。協力と言いましたが、何もしないで言いです。ですが邪魔をしないでください! 私も本気なのです!」
「..............嫌です。姉様にヒカル様を取られたくありません! 嫌です!」
ロニエは姉のイリアの事を大好きだが、誰よりも警戒するべき人物として認識している。
「取りませんよ、ただ天野様を分けてください! イリアも天野様に愛されたいのです!」
「何故ですか? 姉様は何故そこまでヒカル様にメロメロなのですか?」
「理由が必要ですか? ロニエは天野様を好きになった理由があるのですか! どうせ一目惚れですよね!」
図星だったのでロニエは答につまった。
「私も同じですよ。天野様に一目惚れして、あの純粋で優しいく笑ってるお顔が大好きなのですよ!」
「..............姉様はヒカル様の1番になりたいですか?」
「なれません。やはり天野様はロニエを1番愛するのでしょう、私はそれでも少しだけでも天野様に愛して頂けたらそれで十分です」
イリアは何も分かっていない。ロニエはそう結論づけた。
「その答ではロニエはいつまでも姉様を邪魔し続けます」
「良いのですか? 私が教えればすぐにでも天野様の所へ迎えますよ」
「姉様。立場が悪役になっています、嫌われますよ。それにロニエにとって1番怖いのがセレナさんが言った通り、方法が無い可能性でした。ロニエはあるのなら必ずヒカル様の元に駆けつけることが出来ます」
心の中でそういう誓いを立てたからと言いつつ続ける。
「姉様!! ヒカル様の愛を貰いたいなら女王を辞めるべきです」
「なら辞めましょう」
即答、イリアの即答。それに対して今度はロニエがへら~っと笑う。
「ロニエ、悪い笑みになっていますよ」
「姉様!! 合格です。でも足りません。まだまだ足りません」
「そうですか。ならどうすれば良いと言うのです」
イリアはこの恋を成就させるには、ロニエの協力が必要なことをキッチリと理解していた。そして
「教えません」
ロニエはイリアの覚悟を理解したうえで何も言わなかった。
「.......分かりました。ロニエ、貴女嫌われますよ」
「誰に嫌われようがヒカル様を幸せに出来るのならロニエは構いません。.......ヒカル様には内緒ですよ」
笑ってからロニエはしなやかな体を隠すためにドレスを着た。
「ヒカル様。ロニエはヒカル様のいない所で殿方に裸を見られるようなミスは致しませんよ」
直後。アルランが入ってきた。
ーーーーヒムート視点ーーーー
勇者アルランとノートンの活躍により、革命軍から城を一時的に奪回したヒムートは光消滅の話を聞いてもなを国を守る事を決めた。
それでも、城の外にはまだ大量の革命軍がいる。その数約五万と言ったところか、それに対してヒムートの仲間は四人だ。
これは絶望的な戦力差だった。
「ノートン様、アルラン、怪我は大丈夫ですか?」
激戦の様子が怪我から分かるように、ノートンの体は刀傷だらけで出血が止まらなかった。
アルランも、ノートン程ではないがそれなりに傷を負っていた。
ヒムートはそんな二人をかいがいしく手当していた。
「ガキンチョ、お前.......良い女になったじゃねーか、抱きたいぐらいだぜ」
ヒムートの四肢は美しくまさお伽話に出てくる。姫のようなはかなさと、荘厳さが調和していた。ノートンのストライクゾーンど真ん中であった。
「僕もヒムート様は美しくなられたと思います! また新たな幸せを見つけるのはどうですか?」
金髪のイケメンも認める金髪の美姫になっていた。
「いえ。私は死ぬまで光様の妻で在りつづけます」
アルランにはヒムートのはかなく笑っているのをみて、胸が痛くなった。
「な、なら! 僕とお付き合いしててもらえませんか? 必ずヒムート様を幸せにします」
顔を真っ赤にして人生初の告白をした、イケメン勇者アルランに対してヒムートはこれまた顔を真っ赤にした。
「.......嬉しいです」
そういった。命の危機に現れて、見事救って貰ったのだ。これがイケメン出なくても惹かれるのは当たり前だ。ヒムートも恋する裏若き女の子なのだから。
「本当ですか!?」
純粋にアルランは喜んだ、こんな幸せな事は無かったからだ。だってアルランは、ヒムートが小さな時から好きだったのだ。ヒムート・ヒースランド現在17歳、アルラン・グランヴィア現在17歳、アルランは子供の時にヒムートにあっている。ヒースランド王国に物見遊山に行った当時まだ八歳の事だ。
なれない町で道に迷ったアルランは、町裏で不良に絡まれていたヒムートを見付けた。
アルランはその正義感に乗っ取り、不良を撃退した。
『もう大丈夫だよ。僕が追い払ってあげたから』
恐怖で涙を流す銀髪の少女はアルランに天使の様な微笑みを浮かべて言った。
『ありがとう。あなたは?』
それがその笑顔がアルランの初恋の始まりだった。
すぐにアルランはヒムートが王族だと知ることになって身の程を知ることになるのは違話。
そんな幼き頃からの思いが実ったのだ。
「必ず、僕が幸せにします。そうだヒムートちゃんは子供をたくさん欲しいって言ってたよね?」
嬉しさが止まらなくなって、アルランは口が動くこと動くこと。もうアルランの頭の中にはどうヒムートと幸せになるのかしか考えていなかった。
「.......ありがとう。アル君」
「え?」
ヒムートがアルランをアル君と呼んだ。それはつまり。
「ヒムートちゃんは僕の事覚えてくれていたの?」
「忘れたことなんて無いよ。アル君を見たとき気付いたよ」
ドキドキとアルランの心臓が音を立てる。だが。
「でも、私は.......ヒムートは王様が.......光様が大好きなんです」
それは、ヒムートの涙によって崩れ去った。
「アル君の事は好きだよ.......好きでした。でも光様への思いとは違います。私は光様の子供が生みたかったんです」
幼き日の思いは砕け散った。
「そうだよね.......ヒムートちゃん.......ヒムート様。僕はまた身の程知らずでした」
相手は一国の姫と一国の王だ。たかだか、勇者とはいえ辺境出身のアルラン・グランヴィアには荷が重かったのだ。おくびには決して出さなかったが彼の心情は揺れに揺れていた。
そんなアルランの肩をぽんと叩いたのはノートンだった。
「まあ、なんだ坊主。ドンマイ!」
「ううぅ。僕は.......」
ノートンの気遣いに触れついに涙腺から雫が落ちた。
「まあ見てろ! プロポーズはこうやるんだ!」
「え?」
だがノートンは気遣いをする人種では無かった事をアルランは知らなかった。
「ガキンチョ。お前を抱きたい嫁になれ」
ストレートの告白だった。クリスが少し焦っているのは.......まあ、
「そんな.......私の.......」
ただ床の間での満足感の心配だが。
「嫌ーーーー!!」
全力の拒絶によってノートンの恋も幕を降ろした。
「ガキンチョ冗談だ。ボスの女に手を出す訳にはいかねーよ」
男らしく笑っていた。
だがそれから数日後。ゼントブルク軍が天野王国に到着し。それにより革命軍は鎮圧され、ヒムートとゼントブルクの王が密談してからヒムートは大きく態度を変えることになった。
「皆さん。今回は本当にありがとうございました」
玉座の間にて、ヒムートは
純白のドレスを身を纏いそういった。そして。
「よくぞ世が来るまで姫を守り抜いたアルラン・グランヴィア、褒めて使わすぞ」
「は! ありがたき」
ヒムートの隣の空席に腰掛けるのは長身の男性、それなりに容姿の整っているゼントブルク王クルックルだ。ここに本来居るはずのノートンとヘワタは今、城の地下に幽閉されている。
「姫よ.......懐かしい、辛くは無いか?」
ノートンはヒムートの肩を厭らしく摩りながら隣に座っていた、クルックルに殴り掛かったのだ。
「.......はい。クルックル様」
表情を固くしているヒムートはそう答えた。
「それで.......何故王が、天野王国の玉座に腰掛けているのですか?」
アルランも様子をみて聞く。天野王国の玉座に腰掛けていいのは天野王国の王族だけだ。いくらゼントブルクの王様だからと言ってまかり通る訳が無い。
アルランの問いにクルックルは柔和な笑みをヒムートに向けた。
「少し早いが、姫そなたの口から説明して貰えるか?」
「はい」
ヒムートはクルックルに肩を摩られるのを嫌がるそぶりを見せずに言った。
「.......私はクルックル様と.......婚約しました」
「え?」
アルランは困惑した。しかしヒムートは世の男を魅了する天使の様な笑顔をアルランに向けた。それはアルランがヒムートに初恋に落ちたときと同じ笑顔だった。
「私は光様に.......こだわるのを辞めました。これからはクルックル様と幸せになります」
そういった。その笑顔をアルランには本当に幸せそうに見えて。
「心より!! 心よりお祝いします」
「ありがとう」
そう言った。
「勇者アルランよ、セントラルの魔女の話は聞いているか?」
「はい」
ゼントブルク王が話を変えて言った。
「そこの魔女に手を焼いているのだ。行ってくれるよな?」
「魔女.......ですか。確かその魔女は元天野ーーーー」
「アルラン!!」
ヒムートがアルランの話を遮った。
「.......魔女をお願いします」
「.......はい」
アルランはこの世界では珍しく、魔女に対して差別が無い。幼き頃に魔女と暮らした事があったからだ。.......その魔女は.......両親に捨てられ奴隷の身になったという。そんなアルランならセレナを救ってくれるかもしれない。
こうしてアルランはセントラル王国へ向かった。
それがアルランと光を引き合わせることになるとは知らずに。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
ついに明日はゼントブルク王クルックルとの結婚の日だ。結婚の方法はゼントブルク王国側に合わせる。三女神に誓いを言い、キスをすることで結婚となる。その後初夜を迎えるのだ。
ヒムートの体をまさぐるクルックルは言う。
「一日早いが、世は我慢できぬ、折角姫が世を選んでくれたのだ」
鼻息を荒げてヒムートのドレスをたくしあげようとする。それをヒムートが笑顔で止める。
「クルックル様、明日までの辛抱です。私は逃げませんよ」
ヒムートの笑みに気を良くした。クルックルは手を止めてヒムートの部屋から出ていこうとする。
「そういえば、また出たらしい」
「!? 本当ですか!! 今は何処に?」
出たと言うのは、最近になって現れはじめた。自称天野光だ。殆どが魔道具『被れば理想の姿になれちゃうんです!』という着ぐるみを着た偽者だが、ヒムートは密かに心を躍らせる。早く会いに行きたい。確かめたい。
「気持ちは分かるが、姫よ。天野王は既に死んだのだ、それに今更現れても、既に遅い。そうだろう? 姫はもう世の物なのだろう?」
優しい笑みを浮かべる。クルックルにロニエも朗らかな笑みで帰す。
「はい。クルックル様との結婚は致します。しかし.......生きているのなら会いたいのです」
「ほっほっほ、そうかそうか、だが、今回の偽者は風呂場で女子を襲った挙げ句、変装も疎かで誰からみてもすぐに偽者だと分かったらしいぞ。今はもうメイドに追い返されて城にもいない」
「..............そう.......ですか」
「落ち込まないでくれ姫よ、捜索は続ける」
「ありがとうございます。クルックル様」
窓の外の宿屋に入ろうとしてる二人組のカップルを見ながらそう呟いた。
ーーーセレナちゃんと光様が良くああして歩いていました.......
奇しくも本人だが、余りにも遠くの為に気付くことは無かった。
「世は行くぞ。明日は楽しませてくれ、ほっほっほ」
出て行き向かったのは王室だろう.......。
ーーー光様の部屋なのに.......
悔しい気持ちを噛み殺す。ヒムートがいるのは王妃の部屋、王室の向かいにあるその部屋にヒムートは寝泊まりしている。
光が王様になってから一度として使われる事の無かった部屋だ。ロニエは光と一緒に必ず寝るし、セレナもヒカルと同じ部屋で寝ることが多い。そしてヒムートは.......
「結局、光様に抱かれる事は無いのですね.......セレナちゃんは抱いたのに.......」
あの時セレナは言っていた。ちゃんと私達の事を愛していると。ヒムートは分かっていた。そして光を見るとつい甘えたくなって、何も考えられなくなるのだ。本当に見ているだけで幸せだったのだ。
夢は光の子供を生み育てること.......
「ふふ。もう叶いません。光様.......」
「失礼します」
ヒムートに仕えるメイドが部屋に入ってきた。キリッと姿勢を正し笑顔を作る。
「クルックル様はとても言い方ですね」
「ヒムート様を幸せにしてくれるでしょう」
心の中の叫びを押さえ込んで笑う。
「クルックル様が来てからと言うもの、ヒムート様は良く笑うようになりました。天野王と居たときよりも、あの方は」
「王様の!! 悪口を言わないで!! 出ていって!!」
「はい!」
蓋をしたはずの思いが溢れてしまった。
もう諦めたのに。四年も待った。光様はもう.......いないのに.......そんなことわかっているのに。
「.......一つだけヒムート様に伝言を頼まれました聞きますか?」
出ていこうとしていたメイドが足を止めて言った。
「声を荒げてしまいすみません。光様の事は私の中でまだ整理が着いてい無いのです。聞かせてください。何ですか?」
感情のコントロールに失敗したことを恥じつつ、もう一度笑顔を作った。
「今日、ある人物に言われました。その目がとても真剣に見えたので伝えます」
「誰からですか?」
「それは言えません。その方達と約束ですから」
ヒムートは首を傾げながら、ガラスの水差しを持って刺さっている黄色の花を眺めた。
「では伝えます」
『ヒムート・ヒースランド! 見損なったわ! 貴方の愛がその程度だったとはね』
バリンとガラスを落とした。
「ヒムート様!? お怪我は?」
メイドが言っていることが耳に入らなかった。だって分かったから、
「セレナちゃん!?」
そう紛れも無くヒムートにそんなことを言うのは青髪の魔女を置いて他にはいないから、そしてそれはヒムートが閉じた心に侵入してしまった。
ヒムートは更に思考を加速させる。
「セレナちゃんはセントラルに居るはず.......でも王様が居ないのに帰るはずは無い......。まさか! 王様は! サファリさん、その方は今何処に?」
ヒムートはもう押さえられなかった。もしかしたら生きているのかもしれない。自分が世界で唯一愛した人が。
「ヒムート様.......どうか期待なさらないでください。あの方はもういないのです。お願いします。今の幸せを離さないでください」
メイドに言われて少しだけ落ち着く.......だがヒムートの心に深く刺さった。
「分かっています。クルックル様は素敵な方です。私は明日何があろうとクルックル様と結婚します」
そう、そう選んだのだから。それが一番良い選択なのだ。自分のためにも天野王国の為にも。
クルックルの事は嫌いじゃない.......むしろ前から気になっていた。いつも優しくしてくれる、少しだけ年上の男性だ。ヒムートの好みの男性と言えるだろう。そう光が居なかったら、間違い無くクルックルと結婚して居たはずだ。
更にクルックルは婚約するならば天野王国の復興をすると約束してくれた。
ヒムートにとって、生きる意味は、もう光に託された天野王国の復興と再建しかなかった。結婚すれば光の願いを叶えられる。
それでもヒムートは迷った。
本当にそれでいいのか? 心に何かが引っ掛かっていた。光への思いの何かが.......
そんなヒムートに更にクルックルは言った。もし辛いなら一緒に居るだけでも良いと、その傷を共に乗り越えようと言ってくれた。でも何時までも過去の人を愛するのは辛いだけだと、それでは死んだ光も悲しむだろうと教えてくれた。
その言葉を聞いてヒムートは考えた。
四年間.......いや光とであってから五年間待った。これ以上光は光の事で悲しむことを望むか?
光の願いはいつもヒムートの幸せを願っていた。その光が生涯の独り身を望むか?
望まない。
ならもうこの世にいない光の為にも、光の遺した国と自分の未来のために前を向かなければいけない!
死んだ光の分まで、幸せにならなればいけない。
ならば、クルックルの申し出はヒムートの天野王国の復興の目的と、光の意思に叶っている。女の子にとって結婚は幸せの象徴。光が死に四年たった今だからこそヒムートはクルックルと結婚することを決めた。
ーーー私は、この光様に託された国を守り、幸せにならなければいけないのです。
ヒムートはクルックルとの密談を思い出しながら、この四年で膨らんだ胸を握りしめた。
『ヒムート・ヒースランド! 見損なったわ! 貴方の愛がその程度だったとはね』
その言葉がヒムートの胸をチクリと刺した。
結局、セレナが何を言いたいのか分からなかった。
「セレナちゃんにはわからないです。ヒムートは幸せにならなければいけないのです。それが王様の望みなのですから」
ヒムートは鏡に映る自分の姿を見て呟いた。
「それに、私はもう.......王様のお嫁様には慣れ無いです」
その悲痛な声が部屋に静かに響いた。
四年もの間、ただひたすら、愛する者を待ち続けた少女はもう止まることは出来ないとそう静かに決断した。
こうしてヒムート・ヒーストランドは五年以上のもう届かない初恋に終止符を打った。
その瞳には大粒の涙が流れ落ちていた.......
セレナの言霊と同時に、ロニエの愛しい人天野光が虚空へと姿を消した。
「ああ、ヒカル様ぁああ! ああヒカル様あああ」
ロニエは光がいなくなった直後から壊れたように光の名前を連呼した。
「気持ちは分かるけど、やめなさい」
セレナが凄く引き攣った目でロニエを注意した。
「セレナさん! お願いです! やっぱりロニエを連れていってください! ヒカル様と離れるなんて出来ません!!」
「男がいなくなったら貴女も片無しなのね。でも本当にごめんなさい。貴女を飛ばすことは出来ないのよ」
セレナは申し訳なさそうに謝るので、ロニエは理性と感情を推し量り、辛うじて理性が勝った。
「ヒカル様は愛する人が居ないとすぐにロニエの呪いで衰弱していきます。どうかヒカル様とは一日三回以上は必ずエッチしてください!」
「ハードね。貴女がいない分楽しんで来るわよ」
「セレナさん! やっぱりロニエは必ず行きます!! どんな手を使っても必ず行きます!! それまでヒカル様をどうかよろしくお願いします」
「貴女が言うと本当に出来そうね、ならダーリンと待ってるわ! 必ず間に合わせなさい!」
セレナが言い切る時を測ったようにセレナが転送された。
「ロニエ、そろそろ着替えた方が良いですよ」
「姉様!! そんな暇はありません! すぐにヒカル様の元に向かわなければいけないのです」
光とのエッチのままなのでロニエは裸でしかも光の精液を体中に浴びている。
そんなロニエを見て姉のイリアが心配する。
「私の頼みを聞いてくれるのなら、ロニエに協力しても良いですよ」
イリアがへら~っと笑っているのを見て何かをたくらんでいるのは丸わかりだ。
「どうせ姉様はヒカル様の第四王妃の座を狙っているのですよね」
「流石は私の妹です。なら話が早いですね。協力と言いましたが、何もしないで言いです。ですが邪魔をしないでください! 私も本気なのです!」
「..............嫌です。姉様にヒカル様を取られたくありません! 嫌です!」
ロニエは姉のイリアの事を大好きだが、誰よりも警戒するべき人物として認識している。
「取りませんよ、ただ天野様を分けてください! イリアも天野様に愛されたいのです!」
「何故ですか? 姉様は何故そこまでヒカル様にメロメロなのですか?」
「理由が必要ですか? ロニエは天野様を好きになった理由があるのですか! どうせ一目惚れですよね!」
図星だったのでロニエは答につまった。
「私も同じですよ。天野様に一目惚れして、あの純粋で優しいく笑ってるお顔が大好きなのですよ!」
「..............姉様はヒカル様の1番になりたいですか?」
「なれません。やはり天野様はロニエを1番愛するのでしょう、私はそれでも少しだけでも天野様に愛して頂けたらそれで十分です」
イリアは何も分かっていない。ロニエはそう結論づけた。
「その答ではロニエはいつまでも姉様を邪魔し続けます」
「良いのですか? 私が教えればすぐにでも天野様の所へ迎えますよ」
「姉様。立場が悪役になっています、嫌われますよ。それにロニエにとって1番怖いのがセレナさんが言った通り、方法が無い可能性でした。ロニエはあるのなら必ずヒカル様の元に駆けつけることが出来ます」
心の中でそういう誓いを立てたからと言いつつ続ける。
「姉様!! ヒカル様の愛を貰いたいなら女王を辞めるべきです」
「なら辞めましょう」
即答、イリアの即答。それに対して今度はロニエがへら~っと笑う。
「ロニエ、悪い笑みになっていますよ」
「姉様!! 合格です。でも足りません。まだまだ足りません」
「そうですか。ならどうすれば良いと言うのです」
イリアはこの恋を成就させるには、ロニエの協力が必要なことをキッチリと理解していた。そして
「教えません」
ロニエはイリアの覚悟を理解したうえで何も言わなかった。
「.......分かりました。ロニエ、貴女嫌われますよ」
「誰に嫌われようがヒカル様を幸せに出来るのならロニエは構いません。.......ヒカル様には内緒ですよ」
笑ってからロニエはしなやかな体を隠すためにドレスを着た。
「ヒカル様。ロニエはヒカル様のいない所で殿方に裸を見られるようなミスは致しませんよ」
直後。アルランが入ってきた。
ーーーーヒムート視点ーーーー
勇者アルランとノートンの活躍により、革命軍から城を一時的に奪回したヒムートは光消滅の話を聞いてもなを国を守る事を決めた。
それでも、城の外にはまだ大量の革命軍がいる。その数約五万と言ったところか、それに対してヒムートの仲間は四人だ。
これは絶望的な戦力差だった。
「ノートン様、アルラン、怪我は大丈夫ですか?」
激戦の様子が怪我から分かるように、ノートンの体は刀傷だらけで出血が止まらなかった。
アルランも、ノートン程ではないがそれなりに傷を負っていた。
ヒムートはそんな二人をかいがいしく手当していた。
「ガキンチョ、お前.......良い女になったじゃねーか、抱きたいぐらいだぜ」
ヒムートの四肢は美しくまさお伽話に出てくる。姫のようなはかなさと、荘厳さが調和していた。ノートンのストライクゾーンど真ん中であった。
「僕もヒムート様は美しくなられたと思います! また新たな幸せを見つけるのはどうですか?」
金髪のイケメンも認める金髪の美姫になっていた。
「いえ。私は死ぬまで光様の妻で在りつづけます」
アルランにはヒムートのはかなく笑っているのをみて、胸が痛くなった。
「な、なら! 僕とお付き合いしててもらえませんか? 必ずヒムート様を幸せにします」
顔を真っ赤にして人生初の告白をした、イケメン勇者アルランに対してヒムートはこれまた顔を真っ赤にした。
「.......嬉しいです」
そういった。命の危機に現れて、見事救って貰ったのだ。これがイケメン出なくても惹かれるのは当たり前だ。ヒムートも恋する裏若き女の子なのだから。
「本当ですか!?」
純粋にアルランは喜んだ、こんな幸せな事は無かったからだ。だってアルランは、ヒムートが小さな時から好きだったのだ。ヒムート・ヒースランド現在17歳、アルラン・グランヴィア現在17歳、アルランは子供の時にヒムートにあっている。ヒースランド王国に物見遊山に行った当時まだ八歳の事だ。
なれない町で道に迷ったアルランは、町裏で不良に絡まれていたヒムートを見付けた。
アルランはその正義感に乗っ取り、不良を撃退した。
『もう大丈夫だよ。僕が追い払ってあげたから』
恐怖で涙を流す銀髪の少女はアルランに天使の様な微笑みを浮かべて言った。
『ありがとう。あなたは?』
それがその笑顔がアルランの初恋の始まりだった。
すぐにアルランはヒムートが王族だと知ることになって身の程を知ることになるのは違話。
そんな幼き頃からの思いが実ったのだ。
「必ず、僕が幸せにします。そうだヒムートちゃんは子供をたくさん欲しいって言ってたよね?」
嬉しさが止まらなくなって、アルランは口が動くこと動くこと。もうアルランの頭の中にはどうヒムートと幸せになるのかしか考えていなかった。
「.......ありがとう。アル君」
「え?」
ヒムートがアルランをアル君と呼んだ。それはつまり。
「ヒムートちゃんは僕の事覚えてくれていたの?」
「忘れたことなんて無いよ。アル君を見たとき気付いたよ」
ドキドキとアルランの心臓が音を立てる。だが。
「でも、私は.......ヒムートは王様が.......光様が大好きなんです」
それは、ヒムートの涙によって崩れ去った。
「アル君の事は好きだよ.......好きでした。でも光様への思いとは違います。私は光様の子供が生みたかったんです」
幼き日の思いは砕け散った。
「そうだよね.......ヒムートちゃん.......ヒムート様。僕はまた身の程知らずでした」
相手は一国の姫と一国の王だ。たかだか、勇者とはいえ辺境出身のアルラン・グランヴィアには荷が重かったのだ。おくびには決して出さなかったが彼の心情は揺れに揺れていた。
そんなアルランの肩をぽんと叩いたのはノートンだった。
「まあ、なんだ坊主。ドンマイ!」
「ううぅ。僕は.......」
ノートンの気遣いに触れついに涙腺から雫が落ちた。
「まあ見てろ! プロポーズはこうやるんだ!」
「え?」
だがノートンは気遣いをする人種では無かった事をアルランは知らなかった。
「ガキンチョ。お前を抱きたい嫁になれ」
ストレートの告白だった。クリスが少し焦っているのは.......まあ、
「そんな.......私の.......」
ただ床の間での満足感の心配だが。
「嫌ーーーー!!」
全力の拒絶によってノートンの恋も幕を降ろした。
「ガキンチョ冗談だ。ボスの女に手を出す訳にはいかねーよ」
男らしく笑っていた。
だがそれから数日後。ゼントブルク軍が天野王国に到着し。それにより革命軍は鎮圧され、ヒムートとゼントブルクの王が密談してからヒムートは大きく態度を変えることになった。
「皆さん。今回は本当にありがとうございました」
玉座の間にて、ヒムートは
純白のドレスを身を纏いそういった。そして。
「よくぞ世が来るまで姫を守り抜いたアルラン・グランヴィア、褒めて使わすぞ」
「は! ありがたき」
ヒムートの隣の空席に腰掛けるのは長身の男性、それなりに容姿の整っているゼントブルク王クルックルだ。ここに本来居るはずのノートンとヘワタは今、城の地下に幽閉されている。
「姫よ.......懐かしい、辛くは無いか?」
ノートンはヒムートの肩を厭らしく摩りながら隣に座っていた、クルックルに殴り掛かったのだ。
「.......はい。クルックル様」
表情を固くしているヒムートはそう答えた。
「それで.......何故王が、天野王国の玉座に腰掛けているのですか?」
アルランも様子をみて聞く。天野王国の玉座に腰掛けていいのは天野王国の王族だけだ。いくらゼントブルクの王様だからと言ってまかり通る訳が無い。
アルランの問いにクルックルは柔和な笑みをヒムートに向けた。
「少し早いが、姫そなたの口から説明して貰えるか?」
「はい」
ヒムートはクルックルに肩を摩られるのを嫌がるそぶりを見せずに言った。
「.......私はクルックル様と.......婚約しました」
「え?」
アルランは困惑した。しかしヒムートは世の男を魅了する天使の様な笑顔をアルランに向けた。それはアルランがヒムートに初恋に落ちたときと同じ笑顔だった。
「私は光様に.......こだわるのを辞めました。これからはクルックル様と幸せになります」
そういった。その笑顔をアルランには本当に幸せそうに見えて。
「心より!! 心よりお祝いします」
「ありがとう」
そう言った。
「勇者アルランよ、セントラルの魔女の話は聞いているか?」
「はい」
ゼントブルク王が話を変えて言った。
「そこの魔女に手を焼いているのだ。行ってくれるよな?」
「魔女.......ですか。確かその魔女は元天野ーーーー」
「アルラン!!」
ヒムートがアルランの話を遮った。
「.......魔女をお願いします」
「.......はい」
アルランはこの世界では珍しく、魔女に対して差別が無い。幼き頃に魔女と暮らした事があったからだ。.......その魔女は.......両親に捨てられ奴隷の身になったという。そんなアルランならセレナを救ってくれるかもしれない。
こうしてアルランはセントラル王国へ向かった。
それがアルランと光を引き合わせることになるとは知らずに。
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ついに明日はゼントブルク王クルックルとの結婚の日だ。結婚の方法はゼントブルク王国側に合わせる。三女神に誓いを言い、キスをすることで結婚となる。その後初夜を迎えるのだ。
ヒムートの体をまさぐるクルックルは言う。
「一日早いが、世は我慢できぬ、折角姫が世を選んでくれたのだ」
鼻息を荒げてヒムートのドレスをたくしあげようとする。それをヒムートが笑顔で止める。
「クルックル様、明日までの辛抱です。私は逃げませんよ」
ヒムートの笑みに気を良くした。クルックルは手を止めてヒムートの部屋から出ていこうとする。
「そういえば、また出たらしい」
「!? 本当ですか!! 今は何処に?」
出たと言うのは、最近になって現れはじめた。自称天野光だ。殆どが魔道具『被れば理想の姿になれちゃうんです!』という着ぐるみを着た偽者だが、ヒムートは密かに心を躍らせる。早く会いに行きたい。確かめたい。
「気持ちは分かるが、姫よ。天野王は既に死んだのだ、それに今更現れても、既に遅い。そうだろう? 姫はもう世の物なのだろう?」
優しい笑みを浮かべる。クルックルにロニエも朗らかな笑みで帰す。
「はい。クルックル様との結婚は致します。しかし.......生きているのなら会いたいのです」
「ほっほっほ、そうかそうか、だが、今回の偽者は風呂場で女子を襲った挙げ句、変装も疎かで誰からみてもすぐに偽者だと分かったらしいぞ。今はもうメイドに追い返されて城にもいない」
「..............そう.......ですか」
「落ち込まないでくれ姫よ、捜索は続ける」
「ありがとうございます。クルックル様」
窓の外の宿屋に入ろうとしてる二人組のカップルを見ながらそう呟いた。
ーーーセレナちゃんと光様が良くああして歩いていました.......
奇しくも本人だが、余りにも遠くの為に気付くことは無かった。
「世は行くぞ。明日は楽しませてくれ、ほっほっほ」
出て行き向かったのは王室だろう.......。
ーーー光様の部屋なのに.......
悔しい気持ちを噛み殺す。ヒムートがいるのは王妃の部屋、王室の向かいにあるその部屋にヒムートは寝泊まりしている。
光が王様になってから一度として使われる事の無かった部屋だ。ロニエは光と一緒に必ず寝るし、セレナもヒカルと同じ部屋で寝ることが多い。そしてヒムートは.......
「結局、光様に抱かれる事は無いのですね.......セレナちゃんは抱いたのに.......」
あの時セレナは言っていた。ちゃんと私達の事を愛していると。ヒムートは分かっていた。そして光を見るとつい甘えたくなって、何も考えられなくなるのだ。本当に見ているだけで幸せだったのだ。
夢は光の子供を生み育てること.......
「ふふ。もう叶いません。光様.......」
「失礼します」
ヒムートに仕えるメイドが部屋に入ってきた。キリッと姿勢を正し笑顔を作る。
「クルックル様はとても言い方ですね」
「ヒムート様を幸せにしてくれるでしょう」
心の中の叫びを押さえ込んで笑う。
「クルックル様が来てからと言うもの、ヒムート様は良く笑うようになりました。天野王と居たときよりも、あの方は」
「王様の!! 悪口を言わないで!! 出ていって!!」
「はい!」
蓋をしたはずの思いが溢れてしまった。
もう諦めたのに。四年も待った。光様はもう.......いないのに.......そんなことわかっているのに。
「.......一つだけヒムート様に伝言を頼まれました聞きますか?」
出ていこうとしていたメイドが足を止めて言った。
「声を荒げてしまいすみません。光様の事は私の中でまだ整理が着いてい無いのです。聞かせてください。何ですか?」
感情のコントロールに失敗したことを恥じつつ、もう一度笑顔を作った。
「今日、ある人物に言われました。その目がとても真剣に見えたので伝えます」
「誰からですか?」
「それは言えません。その方達と約束ですから」
ヒムートは首を傾げながら、ガラスの水差しを持って刺さっている黄色の花を眺めた。
「では伝えます」
『ヒムート・ヒースランド! 見損なったわ! 貴方の愛がその程度だったとはね』
バリンとガラスを落とした。
「ヒムート様!? お怪我は?」
メイドが言っていることが耳に入らなかった。だって分かったから、
「セレナちゃん!?」
そう紛れも無くヒムートにそんなことを言うのは青髪の魔女を置いて他にはいないから、そしてそれはヒムートが閉じた心に侵入してしまった。
ヒムートは更に思考を加速させる。
「セレナちゃんはセントラルに居るはず.......でも王様が居ないのに帰るはずは無い......。まさか! 王様は! サファリさん、その方は今何処に?」
ヒムートはもう押さえられなかった。もしかしたら生きているのかもしれない。自分が世界で唯一愛した人が。
「ヒムート様.......どうか期待なさらないでください。あの方はもういないのです。お願いします。今の幸せを離さないでください」
メイドに言われて少しだけ落ち着く.......だがヒムートの心に深く刺さった。
「分かっています。クルックル様は素敵な方です。私は明日何があろうとクルックル様と結婚します」
そう、そう選んだのだから。それが一番良い選択なのだ。自分のためにも天野王国の為にも。
クルックルの事は嫌いじゃない.......むしろ前から気になっていた。いつも優しくしてくれる、少しだけ年上の男性だ。ヒムートの好みの男性と言えるだろう。そう光が居なかったら、間違い無くクルックルと結婚して居たはずだ。
更にクルックルは婚約するならば天野王国の復興をすると約束してくれた。
ヒムートにとって、生きる意味は、もう光に託された天野王国の復興と再建しかなかった。結婚すれば光の願いを叶えられる。
それでもヒムートは迷った。
本当にそれでいいのか? 心に何かが引っ掛かっていた。光への思いの何かが.......
そんなヒムートに更にクルックルは言った。もし辛いなら一緒に居るだけでも良いと、その傷を共に乗り越えようと言ってくれた。でも何時までも過去の人を愛するのは辛いだけだと、それでは死んだ光も悲しむだろうと教えてくれた。
その言葉を聞いてヒムートは考えた。
四年間.......いや光とであってから五年間待った。これ以上光は光の事で悲しむことを望むか?
光の願いはいつもヒムートの幸せを願っていた。その光が生涯の独り身を望むか?
望まない。
ならもうこの世にいない光の為にも、光の遺した国と自分の未来のために前を向かなければいけない!
死んだ光の分まで、幸せにならなればいけない。
ならば、クルックルの申し出はヒムートの天野王国の復興の目的と、光の意思に叶っている。女の子にとって結婚は幸せの象徴。光が死に四年たった今だからこそヒムートはクルックルと結婚することを決めた。
ーーー私は、この光様に託された国を守り、幸せにならなければいけないのです。
ヒムートはクルックルとの密談を思い出しながら、この四年で膨らんだ胸を握りしめた。
『ヒムート・ヒースランド! 見損なったわ! 貴方の愛がその程度だったとはね』
その言葉がヒムートの胸をチクリと刺した。
結局、セレナが何を言いたいのか分からなかった。
「セレナちゃんにはわからないです。ヒムートは幸せにならなければいけないのです。それが王様の望みなのですから」
ヒムートは鏡に映る自分の姿を見て呟いた。
「それに、私はもう.......王様のお嫁様には慣れ無いです」
その悲痛な声が部屋に静かに響いた。
四年もの間、ただひたすら、愛する者を待ち続けた少女はもう止まることは出来ないとそう静かに決断した。
こうしてヒムート・ヒーストランドは五年以上のもう届かない初恋に終止符を打った。
その瞳には大粒の涙が流れ落ちていた.......
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