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新章

十九話 リスティーの部屋

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 リスティーと二人だけで話すために、マイとメイはもちろん、ネネにも席を外してもらい、リスティーの部屋の前まで来た。
 すると、中から啜り泣くリスティーの声……

「くすんっ……バカ。ソラのバカ。大バカ野郎!」

 リスティー……言い返す言葉もないけど、『大バカ野郎』は汚過ぎるよ。

「嫌いッ! 嫌いッ! ソラなんか、だいっ嫌い!!」

 心に重く刺さる言葉だ。
 リスティーを何度も泣かせ、失望させ、こうなった。
 自業自得とはこのことだ。
 
 よほど悲しいのか、ドスン……ドスンと壁を叩くような音まで聞こえる。
 でも……

「リスティー……」
「ッ! ソラ♪ ……ッ! ソラ?」
「話がある……入って良い? ……いや、入るよ」
「えッ!? あっ! まっ――」

 ……もう一度だけ、もう一度だけ、リスティーと腹を割って話したい。
 そう、決めたんだ。

「リスティ……え?」
「……あっ」

 さあ! 話そう。話さなきゃいけないこと、話すべき事、話したいこと、たくさんある!!
 そう思って、リスティーの部屋に突入した俺の目に映ったのは……

 太い釘を、『空』と書かれた『わら人形』に打ち込んでいるリスティーの姿だった。

「ヒィ~ッ!」

 ……怖い。怖い!! チョー恐い!
 何これ? どういう状況? もしかして俺……

「えへへ……ワタシ、ソラ。大好き……だよ?」
「嘘つけ!! 俺の事を呪う儀式をしてるよな! そんなに俺が憎いか! 呪うほど憎いのか! ……ほんと、勘弁してください」
「違うもんッ! ソラは呪ってないもんッ!」

 呪ってるようにしか見えねぇーよ!

 というか、部屋に入る前に、『ソラなんか、だいっ嫌い』っていう怨念を聞いていたから、今更遅い。
 ……まさか、呪いの詞だと思わなかったけど。
 ん?

「『ソラは』? じゃあ、もしかして……」
「へ?」

 ドタバタと慌てて何かを背に隠している、リスティー。
 嫌な考えが頭を過ぎり、

「隠すな! 見せろ!!」
「だめ! 見ちゃだめ! 絶対ダメっ!!」

 リスティーに詰めより、無理矢理何を隠したか確認した。
 すると、そこにあったのは、『ヒジリ』と血文字で書かれた、『わら人形』だった。
 ……俺と名前が同じ、『わら人形』より、姫野さんの名前が付いた『わら人形』の方が、おどろおどろしく、釘や赤い液体が沢山染み込んでいる。

 ……血? 

「ねぇ。リスティー。怒らないから、何してたか教えてくれる?」
「ホント? ソラ……怒らないの?」
「怒らないよ。色々、グダグダしてるけど、俺は今、リスティーと仲直りしに来たんだから」

 これは本当。
 腹を割って話そうと言うのに、腹を立ててたら、目の前の『わら人形』のように、臓物……わらがこぼれ落ちてしまう。
 そんなの恐怖でしかない。……じゃ、なくて、意味がない。

「ネネに教えてもらった。縁切りのおまじない……って言ってた」
 
 おまじない? 呪術的なナニかにしか見えなかったけど。猟奇的な何かに見えるんだけど。
 ……しかも、裏で糸を引いているのが、そういうことに妙な風格があるネネなのが恐ろしい。
 
「それだけ? ……ソレなら、まあ良いけど」

 別に、リスティーが何をしようと、姫野さんと縁を切ることは決めていたし……ん? 縁切り?
 ……呪い関係ないよな?

「後、一つ。ヒジリがソラじゃない人に『りょーじょく』? される、おまじない」
「……?」

 りょーじょく?
 ……ハッ! もしかして凌辱!?

「なんて恐ろしい事を! ネネは姫野さんに怨みでもあるのかよ!」
「違うの! ネネは悪くないよ? リスティーが、『ヒジリからソラを取り返すにはどうしたら良いの』って聞いたから」

 だからって、わら人形を使った本格的な呪いの儀式を教えなくても良いと思う。
 しかも、凌辱……って、あいつ、実は姫野さんに怒ってたのかな?

「まあ、良いよ。どうせ、オカルトだし」

 そう、そんなのただのオカルト。
 現実の何かに力が働くわけがない!!

 さっき、姫野さんと酷い別れ方をしたのは俺の意思。
 おまじないは関係ない。

 それより。
 本題に入ろう。

「リスティー……」

 色素の薄い瞳を見つめる。

「俺は……リスティーとこれからも一緒にいたい」
「……ムム! ホント?」
「うん」
「や、ヤッター♪ ネネのおまじないが効いちゃった♪」

 ソレは恐いから辞めてほしい。

「でも! 俺は何度も、リスティーを裏切って、泣かしたんだ……ソレについては、贖罪しないといけない。どうすれば良い?」
「しょくざい?」
「罪を償うって意味。リスティーが許してくれるならなんでもする」

 一つ。一つ。ケジメをつける。
 これで、指を切れと言われたら……切る。

「ソラに罪があるなら……リスティーね。リスティーもね。知ってたから……同罪だよ?」
「は?」

 知ってた?
 急に何を言い出しているんだ?

「ソラとヒジリがコソコソしてるの全部知ってたよ? ナニをしてるのかも含めてね?」

 背筋が冷え上がり、カチリと何かが切り替わった。

「……いつから?」

 馬鹿か俺は? 
 ……そこじゃないだろ!!

「多分、最初から……だってソラ。ヒジリの匂いがするもん」

 匂いって獣かよ。
 だから、そうじゃない!

「じゃ、なんで……? どうして?」

 そうじゃないけど、聞くべき事が纏まらない。
 知っていたなら何故、怒らなかったのか?
 気付いてない振りをしていたのか?
 ……どう思っていたのか?

 全部、全部!
 聞かなきゃいけない。

 言葉にしなくてもわかるなんて事はないから……
 知りたいこと、聞きたいこと、思ったこと、全部、全部、ちゃんと聞く。

「最初は……ソラに裏切られたって……思ったから凄く悲しかった……よ?」
「な……んで?」

 聞いてもないのに、知りたいことを話してくれる。
 瞳を覗き込まれる。

「ソラに飽きられたのかなって……思った。おっぱいが小さいからかなって思った……凄く凄く悲しかった」

 おっぱいの大きさは関係ない……と思う。
 俺はただ……そう、ただ……

「でも、ソラはそんなことしないって思ったから、きっと何か事情があるんだろうって……思ったの」
「……っ」
「ソラは優しいから……ヒジリの為にナニかしてたんだよね?」
「……俺は優しくなんか」

 駄目だ……全部。
 見透かされている。

「でも!? やっぱり言ってほしかった。ちゃんと言ってほしかったの!」
「……そうか」

 思い返せば、リスティーは聞こうとしてくれていた。
 待ってくれていた。
 
「それなのに! いきなり! いきなり!! 終わりにするなんて! 言って……そんなの……酷いよ……」

 ポンッと胸を叩かれた。
 対して強くない筈なのに、仰向けに倒れるほど重かった。

「なんでよ……話してよ。話してよ……ちゃんと教えてよ。ソラ……」

 一緒にリスティーも倒れてきて、ゆっくりなんども胸を叩かれる。
 ぽたぽたと涙が落ちて来る。
 ……また、泣かせてしまって居る。

「ね? ソラ……贖罪なんて要らないから……ワタシのこと好きか嫌いか教えて。ソラのホントの気持ち、教えて」
「……」
「そうしたら、リスティーはソラを信じられよ?」
「……ッ!」

 そうか……そうだった。
 何よりまず、コレを伝えるべきだった。

 キュッ。

 リスティーを抱きしめる。
 そして……伝える。

「俺はリスティーが大好きだ。どうしようもないくらい好きなんだ」
「……」
「だからこそ……嫌われるのが恐かった。だからこそ……リスティーだけには言えなかった」
「む~? ワタシにだけ? ソレって……」
「うん……ごめんね。ネネには言ってた」

 嫌われても、まあ、ネネはいなくなくなったりしないし。
 リスティーはどこか遠くに言ってしまう気がした。

「……ごめん。ずっと、リスティーに言いたくて……でも、言えなくて……ごめん」

 好きだからこそ言えないことがある。

「良いよ。……ソラは……ソラは、ね」
「ん?」

 俺は?

「良いの、ソラは気にしないで。……(ネネ……飼い主のワタシに隠し事した。ユルサナイ)」

 ガタガタ。

 なんか、部屋の外で物音がしたけど、今は気にしない。
 もっと、大事なことがある。

「リスティー……全部話すから……聞いてくれる?」
「……うんっ。でも……その前に」

 ガタガタ。

 やっぱりなんか外がうるさい気がする。
 ……まあ良いか。

「もう一回。リスティーを好きって言って」
「……え?」

 もう一回!?
 人を好きと言うことがどれだけ恥ずかしい事かわからないのか!
 しかも、一回目は勢いで言えたけど……

「言ってくれないと、やっぱり許さない」

 ……ええぃ! ままよ!

「俺は!! 俺は! リスティーが大好きだ!」
「終わりにしたりしない?」
「しない! したくない!」
「リスティーとずっと一緒にいる? 病める時もアレな時も……一緒にいる?」

 アレな時ってなんだ?

「もう、リスティーに隠し事しない? アレ事も、ちゃんと教えてくれる?」

 ……だから、アレ事ってなんだ?

「どうなの!? ソラ!」

 よくわからないけど……リスティーは真剣。 
 なら、

「する! する!! 全部する!」

 俺も真剣に答える。
 だってリスティーが大切だから……

「……なら、ソラが隠してるエッチな本、全部持ってきて」
「……は? なんで?」
「早く!!」
「ハッ! ハイ!!」

 意味がわからないけど、慌てて立ち上がり、取りに行こうとすると、

「「その必要はありません!」」
「マイ! メイ!?」

 ガランと襖を開けて、双子メイド登場。
 手には大量の秘蔵本がある。
 ……あああーっ! 絶対に見つからないように、床をくり抜いて隠していた。
 超絶ハードものまで!!

「な、なんで!!」
「「ご主人様の性癖を知る必要がありましたので」」

 メイドにそんな必要はないと思う。
 むしろ、掃除してたら見つけちゃったって惚けてほしかった。

「コレを使うご主人様を想像して」
「身体の奥が疼くのを止めていました」
「君達、来たの昨日だよね!? 色々はえぇーよ!」
「「いえいえ」」

 顔を赤くして照れる双子。

「一応、褒めてないからな?」
「ソラ!!」
「ハイ!! ソラです」

 リスティーの声に身体の芯が震える。
 ……双子は音もなく居なくなっていた。
 あいつら、荒らすだけ荒らして、ソレはないんじゃないのか?

 バシンバシンと詰め寄られ、

「ヒジリと何回したの?」
「何を!?」
「……浮気エッチ」
「なんですと!?」
「何回したの!!」
「うっ……」

 凄まじい気迫。
 これは言わないとダメみたいだ……でも。

 そんなん一々数えていない。
 でも、そんなこと言っても怒られそうだから……

「二十回くらい?」

 多く見積もって……ソレくらい。
 後で、嘘と言われないように

「なら! 四十回。リスティーともして!」
「……何時?」
「今!! すぐ!」

 四十回?
 無茶苦茶にもほどがある。

「俺は話があるんだけど……ソレは?」
「どうせ嫌な話でしょ? 後! 楽しい気分でしたいもんッ! ヒジリに負けたままなんて嫌だもん!」

 多分、見透かされている……
 でも、

「いやいや、四十回なんて、一日で終わる回数じゃ……」
「大丈夫。一日じゃなくても良いから」

 そういう問題じゃない。

「その代わり、終わるまではずっとリスティーから離れちゃダメ。リスティーの事しか考えちゃだめ!」

 全然大丈夫じゃない。

「いやいやいや!」
「嫌なの!?」
「嫌じゃない!」

 嫌じゃない。
 嫌じゃないけど……

「したい?」
「……したい」

 以外の言葉を言えない。

「良かった。じゃ、増やしてあげるね」
「え?」
「倍にして百回っ♪」

 ソレ……倍じゃねぇーよ!
 
「わ、わかった! わかったから!」

 これ以上ごねて増やされては敵わない。
 ……まあ、嫌ではないけれど、リスティーに言わなきゃいけない事がまだある。

「うん♪ じゃ、何からにするの?」

 そういって笑顔のリスティーが俺の本を指差した。
 ……ああ。そのためだったのね。

「お手柔らかに頼むよ……」
「ソラ……大好きだよ?」
「……解ってる。もう、解ってる」

 ……ソレから、四日間。
 本当に、離してくれなかった。



  

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