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新章

十一話 姫野邸の一泊

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《姫野邸 別荘》

「姫野さん。……なんか前に来た時と違う場所なんだけど」

 リスティーに帰って来るなと言われ、高校から姫野さんの案内で着いた見え覚えのない場所。
 姫野さんの家にはつい先日訪れた事があるのだが、何故かその時とは違う場所だった。

「ええ。別荘ですから」
「別荘って……」

 その言葉だけでも高校生離れしたした驚くべき事だが、目の前にそびえる、その『別荘』が、ヨーロッパの貴族が住む様な城……豪邸なのは『別荘』としてどうなのかと言葉を失うしかない。

「すみません。本邸には、じぃやお兄様……お邪魔虫が滞在中なので、空様をお招き出来ないのです」
「いや、謝らなくても良いから」

 別に家に文句をつけている訳じゃない。
 問題にしているのはもっと別の事。

「ですが、ここならば、空様と私を邪魔する障害はありません。空様を必ず満足させることをお約束いたします」

 そういって俺の腕を取り、豪邸の中に招き入れてくれる。
 中に入ると数人の使用人が慌ただしく、動き回っていた。
 ……きっと、突然の来訪にしっちゃかめっちゃかになっているんだろう。
 使用人達がその場で頭を下げて、挨拶をして来る。

「フフフ。ソラ様。先ずは汗を流しませんか?」

 お風呂……か。
 確かに少し、汗で身体がべとべとしている。

「先の展開を予測して言うけど、まさか姫野さんも一緒に入る気じゃないよね?」
「当然入りますよ? 私の裸体を見るのは不快ですか?」
「……」

 ちょっと頭を抱える。
 ……やっぱりか。
 でも、姫野さんとお風呂というイベントの誘惑には抗えない。
 ごめん、夜神くん今日で最後だから……

「興奮する」
「ふふふ、恐悦です」

 そういって、すとんと姫野さんが胸に寄り掛かってきた。
 俺は唾を飲み込みながら、姫野さんの柔らかい腰に手を回す。

「ですが、空様。お風呂は身体を洗う所です。オイタはダメですよ?」
「ゴクッ……」

 ここまで誘惑しながらのお預け宣告。
 堪らないモノを感じる。
 やっぱり、姫野さんは男を魅力する天才だ。
 男の欲望をよくわかっている。
 ただ、やらせてくれるだけでは、ダメなのである。
 こういうところは、リスティー……いや、ネネにも見習ってほしい。

「解った」
「フフフ……では、参りましょうか。こちらです」

 多分、今、理性が飛んで姫野さんを襲っても、怒りはしないだろうが、コレはきっと姫野さんの術中。
 できる限り、我慢した方が、愉しめる筈。

「いやしかし! 我慢出来ん!」
「フフフ……乗り越えられれば、楽しいひと時を必約致します」
「ゴクリ……」

 俺は耐えて耐えて耐えまくった。
 お風呂で幾度となく繰り出される誘惑にも、お風呂上がりの誘惑にも、食事中の誘惑にも……
 そして、ようやくその時が来た。
 そう、就寝時間である。

「フフフ……良く我慢出来ましたね? ですが……ちょっぴり、私に魅力がないのかと残念に思います」
「実際は、ギリギリだったんだけどね……」

 月明かり、大きくふかふかなベッドに座っている俺の隣に、部屋の鍵をかけた姫野さんが腰をかけた。
 ピトッと膝が接触し、甘い女の子の香が鼻孔を幸せにしてくれる。
 ……スベスベしてる。

「では、もう良いですよ?」
「ゴクリ……」

 言いながらそっと寄り掛かって体重をかけて来る。
 保護欲をそそる仕草に、言い難い欲望がついに爆発する。

「姫野さんッ!」
「フフフ……ハイ。空様」

 肩を抱いて、鼻息荒く姫野さんの唇を奪った。
 そして、獣の如く押し倒していた。
 
「フフフ……ご堪能ください。私の空様……」

 端的にいって、凄かった。
 俺の激しい欲求を全て笑顔で受け入れてくれた。
 何より、身体の相性が良いのか……一度始めたら精根尽きるまで、何も考えられなくなり、病み付きになった。
 極上の抱き心地。

 事後……

 ほんのり汗をかいて湿っている姫野さんの身体を抱きながら、スーッと理性を取り戻し果てしない罪悪感に襲われていた。
 ……また、欲望に負けてしまっていた。
 何時からか? そんなの姫野邸に来る前から……

「……」

 顔を見られると、落ち込んでいるのがばれる気がする。
 それは流石に、惨めになるから、姫野さんの顔を胸元に押し付ける様に抱きしめる。

「……満足なさいましたか?」
「うん。……したよ」

 男は下半身に脳が支配され、後先考えないと言うけど俺は、本当にコントロール出来ていない。
 だからこそ、リスティーと別れるべき、もちろん、姫野さんとも。
 
「姫野さん……」
「なんですか?」
「愛情もなく、君を汚しちゃった……ゴメン」

 俺に罪悪感をたたき付けるのは、ベッドシーツに付いた朱い染み。
 やってはいけないことをしてしまった。
 姫野さんのそれはもっと、大切にしないといけないもの。
 あんな、欲情だけで奪っていいモノではなかった。

「謝らないでください。私が望んだことです。何より……本当に愛情はなかったのですか?」
「ないよ。……誰でも良かった」

 ただ、姫野さんに欲情しただけ。
 それだけ。
 性欲のはけ口に出来れば良かった……それだけだった。

「違います」
「……ぇ?」

 ぎゅっと姫野さんが俺の腕を握った。

「フフフ……っ。私は、この腕から空様の愛情を感じました」
「そんなこと……」
「感じました」
「……」

 姫野さんが顔をあげ、強い瞳を向けて来る。
 それだけは絶対ですと、言われている気がする。

「空様は、えっちな方ですが、それだけで、私を抱きしめられるほど、単純ではありませんよ」
「……」

 そうなのかも知れない。
 俺は、姫野さんを愛して……
 いや、それはもう、考えちゃいけないことだ。

「そんなことないよ。だって、俺はもう一回、姫野さんを汚すもん」
「っ! ……フフフ。ハイ。何度でも……夜はまだまだコレからですので」

 俺は断ち切る為に、もう一度、頭を真っ白にして、罪悪感に溺れることにした。
 ……そんな俺を、姫野さんはずっと優しい微笑みで受け止めつづけてくれた。


 
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