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柿原ミキエ その3
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柿原ミキエ その3
依頼人、柿原ミキエの実家に行った俺達を待っていたのは、ミキエの父であるコウジの死体と、部屋でテレビを見ていたミキエの弟、ツトムだった。
働かずに父親の年金に頼って生活していたツトムに父親のコウジが『死ね』と言ったのが理由で、コウジは息子であるツトムに殺された。
腐乱死体となったコウジは葬式ののちに火葬。
俺の狂撃波動により正常になった後に断罪者収容所に収監されたツトムは社会復帰のための生活訓練中である。
そして、俺は依頼者である柿原ミキエさんに事の顛末を説明していた。
「やっぱり、父は弟に殺されていたんですね...」
「ええ。こうなると、娘のミキエさんはもう、この件について無関係ではいられません、当然、旦那さんや子どもたちにも多少影響があると思ってください」
「私は間違っていたのでしょうか...?」
「間違っていた...?」
「私が父の身の安否を石間さんに依頼したせいで、私は旦那や子どもたちを犯罪加害者の家族にしてしまった...」
「しかし、今回の件については、加害者も被害者もミキエさんの家族ですから、ミキエさんがそこまで思いつめる事もないと思いますが...」
「弟に殺された父をあのまま実家に放置しておけば、私は旦那や子どもたちをこの事件に巻き込まずに済んだんです...」
「コウジさんの死体は腐っていました...腐乱死体になったコウジさんの死体から漏れた腐乱液は2階の床を貫通して1階の天井にシミを作っていました...」
「やめて、そんなこと聞きたくないわ!」
「ミキエさんが我々に依頼してくれなければ、コウジさんはツトムが餓死するまで、ずっとあの悲惨な状態のままだったでしょう、死体とはいえ、あなたの依頼は結果的にはコウジさんの魂を救ったと私は思ってます」
「あなたには所詮、他人事だからそんな綺麗事が言えるんです。死ぬのであれば、父ではなく、弟のツトムのほうが良かったと私は思っています」
「でも結果的には、あなたの依頼がきっかけで、俺はツトムを正常な状態に戻すことができた、彼は今、断罪者収容所で自立生活に向けて訓練を重ねています」
「どうして死刑にできないんですか?ツトムがまた人に迷惑をかけない保証がどこにあるんですか?」
「そんな保証はどこにも、ありません、ただ断罪者の犯罪はたとえ殺人事件でも心神喪失状態ということで、死刑にはなりません」
「あんな弟、死ねばよかったんだ!」
「とにかく、世間はあなたとあなたの旦那さんと子どもたちには同情的になってくれると思います、知り合いの新聞記者にも俺のほうできちんとした事実を報告させてもらいました」
「そう...ですか...すみません、先程はすこし感情的になってしまって...」
「いえ、所詮、他人ですからね...」
柿原ミキエは俺に一礼して、事務所を出た。
「なんか報われないですねぇ~石間さんはツトムにビール瓶で頭殴られたのに...」
「まぁな、でもこんなもんの連続だぞ、この仕事は。そんじゃ、奈良見、車の運転よろしくな!」
「ゲェ~!本当に行くんですか?断罪者収容所に」
「前に行くって言ったろ、ツトムの面会に」
「工事用ヘルメット、また頭にかぶってもいいですか?」
「勝手にしろ、ほい、とっとと準備しろ」
「ほ~い」
助手の奈良見ルナが運転する車が断罪者収容所に向かう。
断罪者収容所とは、断罪王現象により、社会不適合者、つまり断罪者になってしまった人間を正常に戻し、自立させるために訓練を施す収容所のことである。
面会室に見張りの刑務官と共に坊主頭の柿原ツトムが入ってきた。
「よぉ!久しぶりだな!頭もずいぶんすっきりして!その坊主頭、何ミリだ?」
「2ミリです」
「ひゃあ~それじゃあちょっと寒いんじゃないか?」
「ええ、まあ...」
俺の前で恥ずかしそうにはにかむ柿原ツトムは依然と比べると、とても明るい好青年に見える。
これではまるで別人じゃないか。
「石間さんの後ろの人、どうして工事用のヘルメットなんてかぶってるんですか?」
「そりゃ、お前にビール瓶で頭殴られないために決まってんだろ!」
「あははは、刑務官の前でそんなことするわけないじゃないですか~!」
「刑務官がいなかったら殴るの?」
「殴りませんよ...それより、俺、今、とっても楽しいです、なんか気持ちがスッキリしたっていうか...」
「そっか、よかったな、天国のお父さんもきっと喜んでいるぞ!」
「そうですね、お父さんにはなんか悪いことしちゃったな~って思ってます!」
コイツ...本当に反省してんのか...?
「とりあえず、また来るよ、早くここを出れるといいな」
「僕はどちらかと言えば、こっちのほうが居心地がいいんですけどね」
俺はツトムの言葉にあえて返事を返さずに面会室を出た。
「石間さん、アレ、本当に反省してるんですか?」
「アイツは俺の予想通り、断罪者だったが、もしかすると断罪者になる前から、すこし壊れたヤツだったのかもしれない...」
「ツトムは今回の件でミキエさんの旦那さんや子どもたちのことを知っちゃったんですよね?」
「もちろん」
「出所したツトムがミキエさんの旦那さんや子どもたちに危害を加えないといいですね」
「ああ、俺もそう祈っているよ」
次回予告 梅原ノリオ その1
依頼人、柿原ミキエの実家に行った俺達を待っていたのは、ミキエの父であるコウジの死体と、部屋でテレビを見ていたミキエの弟、ツトムだった。
働かずに父親の年金に頼って生活していたツトムに父親のコウジが『死ね』と言ったのが理由で、コウジは息子であるツトムに殺された。
腐乱死体となったコウジは葬式ののちに火葬。
俺の狂撃波動により正常になった後に断罪者収容所に収監されたツトムは社会復帰のための生活訓練中である。
そして、俺は依頼者である柿原ミキエさんに事の顛末を説明していた。
「やっぱり、父は弟に殺されていたんですね...」
「ええ。こうなると、娘のミキエさんはもう、この件について無関係ではいられません、当然、旦那さんや子どもたちにも多少影響があると思ってください」
「私は間違っていたのでしょうか...?」
「間違っていた...?」
「私が父の身の安否を石間さんに依頼したせいで、私は旦那や子どもたちを犯罪加害者の家族にしてしまった...」
「しかし、今回の件については、加害者も被害者もミキエさんの家族ですから、ミキエさんがそこまで思いつめる事もないと思いますが...」
「弟に殺された父をあのまま実家に放置しておけば、私は旦那や子どもたちをこの事件に巻き込まずに済んだんです...」
「コウジさんの死体は腐っていました...腐乱死体になったコウジさんの死体から漏れた腐乱液は2階の床を貫通して1階の天井にシミを作っていました...」
「やめて、そんなこと聞きたくないわ!」
「ミキエさんが我々に依頼してくれなければ、コウジさんはツトムが餓死するまで、ずっとあの悲惨な状態のままだったでしょう、死体とはいえ、あなたの依頼は結果的にはコウジさんの魂を救ったと私は思ってます」
「あなたには所詮、他人事だからそんな綺麗事が言えるんです。死ぬのであれば、父ではなく、弟のツトムのほうが良かったと私は思っています」
「でも結果的には、あなたの依頼がきっかけで、俺はツトムを正常な状態に戻すことができた、彼は今、断罪者収容所で自立生活に向けて訓練を重ねています」
「どうして死刑にできないんですか?ツトムがまた人に迷惑をかけない保証がどこにあるんですか?」
「そんな保証はどこにも、ありません、ただ断罪者の犯罪はたとえ殺人事件でも心神喪失状態ということで、死刑にはなりません」
「あんな弟、死ねばよかったんだ!」
「とにかく、世間はあなたとあなたの旦那さんと子どもたちには同情的になってくれると思います、知り合いの新聞記者にも俺のほうできちんとした事実を報告させてもらいました」
「そう...ですか...すみません、先程はすこし感情的になってしまって...」
「いえ、所詮、他人ですからね...」
柿原ミキエは俺に一礼して、事務所を出た。
「なんか報われないですねぇ~石間さんはツトムにビール瓶で頭殴られたのに...」
「まぁな、でもこんなもんの連続だぞ、この仕事は。そんじゃ、奈良見、車の運転よろしくな!」
「ゲェ~!本当に行くんですか?断罪者収容所に」
「前に行くって言ったろ、ツトムの面会に」
「工事用ヘルメット、また頭にかぶってもいいですか?」
「勝手にしろ、ほい、とっとと準備しろ」
「ほ~い」
助手の奈良見ルナが運転する車が断罪者収容所に向かう。
断罪者収容所とは、断罪王現象により、社会不適合者、つまり断罪者になってしまった人間を正常に戻し、自立させるために訓練を施す収容所のことである。
面会室に見張りの刑務官と共に坊主頭の柿原ツトムが入ってきた。
「よぉ!久しぶりだな!頭もずいぶんすっきりして!その坊主頭、何ミリだ?」
「2ミリです」
「ひゃあ~それじゃあちょっと寒いんじゃないか?」
「ええ、まあ...」
俺の前で恥ずかしそうにはにかむ柿原ツトムは依然と比べると、とても明るい好青年に見える。
これではまるで別人じゃないか。
「石間さんの後ろの人、どうして工事用のヘルメットなんてかぶってるんですか?」
「そりゃ、お前にビール瓶で頭殴られないために決まってんだろ!」
「あははは、刑務官の前でそんなことするわけないじゃないですか~!」
「刑務官がいなかったら殴るの?」
「殴りませんよ...それより、俺、今、とっても楽しいです、なんか気持ちがスッキリしたっていうか...」
「そっか、よかったな、天国のお父さんもきっと喜んでいるぞ!」
「そうですね、お父さんにはなんか悪いことしちゃったな~って思ってます!」
コイツ...本当に反省してんのか...?
「とりあえず、また来るよ、早くここを出れるといいな」
「僕はどちらかと言えば、こっちのほうが居心地がいいんですけどね」
俺はツトムの言葉にあえて返事を返さずに面会室を出た。
「石間さん、アレ、本当に反省してるんですか?」
「アイツは俺の予想通り、断罪者だったが、もしかすると断罪者になる前から、すこし壊れたヤツだったのかもしれない...」
「ツトムは今回の件でミキエさんの旦那さんや子どもたちのことを知っちゃったんですよね?」
「もちろん」
「出所したツトムがミキエさんの旦那さんや子どもたちに危害を加えないといいですね」
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