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本編

(21. 魔女狩り)

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「ご主人様ぁ~、そろそろ終わりにしてもいいですか……」

「駄目だ。ほら、ここを間違えているぞ」

「うわぁ……」

 眩しい金髪が目の前にさらっと落ちてきたかと思うと、ご主人様の白くて長い指が私の手元の紙を指した。

 ここは今日の宿の一部屋。まだ字を書くのが苦手な私のために、ご主人様はこうして書き取りの練習の時間を取ってくれている。使用人相手にわざわざこんなことしてくれるなんて、本当に感謝してもしきれない。ちゃんと身につければ仕事の役にも立つし、できる限り早く身につけたいって思ってるんだけど……せっかく遠くの街まで来てるんだから、もうちょっと外見て回りたかったなあ……。

「きちんと書けるようにならないと、あのお嬢さんに笑われるだろうな?」

「わかってますよー!」

 そうだ、薬師さんに手紙書くって約束したんだ。大きなローブを着たちっちゃい灰色髪の女の子。私よりずっと年下なのに落ち着いてて、綺麗な金色の目で真っ直ぐ人の目を見る子。

「……ふへへ」

 遠くのテーブルに置いてある香水、あれあの子が作ったんだって。市場調査で寄った雑貨屋で思いがけず見つけた品を見れば新しい友だちを思い出して頬が緩む。一緒に字もぐにゃっとなる。あ、しまった。

 ご主人様は仕事の書類をめくりながら、しょうがないなとばかりに苦笑した。



「……何か、騒がしいな」

「へ?」

 ご主人樣が立ち上がって、窓の外を見に行った。どうしたのかな。

 窓が開くと外のざわめきが耳に入る。夕陽に照らされるご主人様の顔が怒ってるみたいにしかめられていく。気になって私も見に行くと、周りの建物からも大勢の人が顔を出していた。

 大通りにごった返す人波も、どうも一つの方向を見ている。門の方だ。

「何かあったんですかね?」

「……ミィナ。仕事を命じる」

「えっ、はい?」

「この騒ぎの情報を集めろ。どんな些細なことでも良い。ただし、何を聞いてもそれ以上のことはするな。一通り集まったら……これを鳴らせ。迎えに行く」

 ご主人様は外を睨みながら、小さな鈴を取り出した。私が受け取っても音一つ立てない不思議な鈴だ。

「ご主人様、これってまさか……」

「説明は後だ。意識すればちゃんと鳴る。いいか、どんなことを知っても決して一人でどうにかしようと思ってはいけないよ」

「!」

 頭に手を置かれ、言い聞かせるように目を覗き込まれる。……前にそれで迷惑をかけたことがあるから。

 でも、あのクソ野郎から逃げてたときとは違う。私は貴重な魔道具を握りしめてしっかり頷いた。

「わかりました。ご主人様、お気をつけて」

「ああ。お前も」




 それから宿を出て情報を集めて、愕然とした。

 魔王の配下である魔女を、領兵が捕まえたというのだ。

 恐ろしいことにその魔女は、騎士が殺したはずの魔王を呪術で蘇らせたらしい。領主はいち早くその企みに気づいて魔女を討伐しに向かったけど、あと僅か間に合わず魔王は復活してしまった。その魔王は、魔女を囮にして逃げたらしい。

 街の人々は震え上がっていた。魔王の力が完全に戻ったら、復讐しに来るんじゃないかって。

 それにやっぱりあの薬師は魔女だったのかって……あんな得体の知れない子ども、さっさと殺しておけば良かったって。

 話を聞く度に怒鳴りたかった。あの子はそんな子じゃない!

 あんたらが忌々しげに捨ててるその薬、すごく質がいいものだってご主人様が言ってた。赤ぎれを治す薬も若い娘に人気の香水も、あの厳しいご主人様が認めるくらいのものなんだよ! そんな、人を操る効能なんてあるわけない!

 噂だけ信じる奴らにはらわたが煮えくり返りながら、ポケットの鈴を握りしめてまた街を走った。
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