虹色の薔薇が咲く場所は

如月 りん

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4章 ファイナルライブ

258話 会いたい

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「ねぇ紗南。
私、行きたい場所があるんだ。
1人で」
「わかった。
じゃあこの後も楽しんでいってね。
じゃあね」

紗南は笑顔でクラスの子たちの輪の中に入っていく。
紗南はこういう時嫌な顔一つしない。
(そういうところは紗南のいいところ
だよね。適度な距離というか)

3年生は校庭で屋台を
開いている。
もう外に出た瞬間にいい匂いがする。

ちなみに1組は焼きそば、
3組はお好み焼きらしい。
(香りの暴力がすごい)
たこ焼き一パックは8個入りで250円。
お楽しみたこ焼きは300円。

その下に注文を受けてから焼きますのでお時間いただきます、と
米印が書いてある。

お楽しみはタコを除いてチョコレート、イカ、エビ、トマト、チーズ、ちくわ、
など12種類からランダムで入れられる。

(でも指定もできるのか、○○は
入れないでみたいな。)

「すみません、たこ焼きください」
背を向けている店員さんに声をかける。
「はい、あ、」
「こんにちは」
(なんか気まずい)

「たこ焼き1つですか?」
「はい。あ、あとお楽しみも一つ」
油を塗ってボールの生地をお玉で
流してタコを入れる。

(生地のボールも具のボールも直前まで
ラップしてある。
天かす、紅生姜も、ちゃんと密閉容器に
入れて、調味料も使う時まで
クーラーボックスに入れてる。
衛生面はしっかりしてるんだな。)

外側が固まった生地を手際よく少しずつ傾ける。
焼き上がったものをプラスチック容器に
乗せた船皿に置いて
ソース、マヨネーズ、鰹節青のりの順番でかける。

「お待たせしました。ビニール袋は
どうしますか?」
「あ、お願いします」
1つずつ入れてくれた袋を一旦置いて、
300円と無料券を渡す。

「あの、今日類くんは?」
(やっぱり、一瞬ガッカリしたように
見えたのは気のせいじゃなかったか。)

「急用が入ったみたいで、
なんかすみません」
「あ、いえ。私こそごめんなさい。
こんなこと聞いて」

気まずいそうに視線を下に向けた
彼女。
「類に会いたかったんですか?」
図星だったのか体が揺れる。

「あ、会えたらラッキー、みたいな
軽い感じで、いや、違うな。
日取りを教えて無料券まで渡して。
期待したんだ。会いにきてくれないかなって。・・・本当は会いたかった。
女々しいよね、私」

自虐して笑う彼女。
「ほんの数分でも男女が一緒にいたら
類くんの立場が危ないでしょ。

類くんにその気がなくても周りが
密会だなんだって言ったら
否定しても言い訳だって、
決めつけられて。

そうなったら類くんだけじゃない。
舞ちゃんたちも、事務所も
信用を無くすかもしれない。
今後に関わるかもしれない。
だから会いたいって気持ちもあるし
会いたくないって気持ちもあるの。」


「誰かに会いたいって気持ちに女々しいもなにもないですよ。
会うことはできなくても会いたいと思うのは自由です。」
「うん、そうだね。
ありがとう、舞ちゃん」

「高橋さん、ちょっと」
「あ、今行く。ごめんね」

帰宅後、
電子レンジで2パック温めて、
3人で食べる。

ノーマル2個、お楽しみを2個ずつに
分け類の分は別皿で冷蔵庫に入れた。

「俺のは、・・・キムチだ。
美味しい」
「チョコレートだ。
僕、これ好きだな」
「チーズ美味しい」

数時間後、
「おかえり、類」
「ただいま、舞」
「冷蔵庫に類の分のたこ焼きが
入ってるから」
「うん、ありがとう」

昨日無料券を渡した時の表情は暗くて。
(会いたいって思ったのは
楓さんだけじゃなくてきっと、)
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