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4章 ファイナルライブ
241話 浴衣
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舞と花火を見る場所を話し合う。
花火が打ち上がる場所と出店の会場は
明るすぎる。
暗いところだから映えるという意見は
一致した。
ここに来る途中に見つけた鳥居。
神殿までは石段で結構距離がある。
その石段の中間暗いに腰掛ける。
「いいの?」
「人いないし大丈夫でしょ」
少しすると1発目が上がる。
とても大きな菊の花。
それを合図に、たくさん上がる。
菊や牡丹、ハートや星、冠菊。
弾ける時のドーンという音は苦手だけど
散る時のパラパラという音は好きだ。
舞は視線を逸らさず食い入るように
見ている。
何分、何十分、私たちは一言も交わさず
写真も録画も撮らずただ眺めていた。
クライマックス手前で合図したわけでもなくほぼ同時に立ち上がる。
巾着に入れていた小さな懐中電灯で
足元を照らしながら石段を降りる。
私の家で舞は浴衣から着てきた服に
着替えた。
浴衣一式をつつんだ
「いいの、むしろ貰ってくれた方が
叔母さんも嬉しいだろうし」
「ありがとう、叔母さんにもお礼
言っておいてくれる?」
「うん」
電車に乗って家に帰る。
(叔母さん、か。他人の家庭を羨んだら
ダメだよね)
「あ、おかえり」
「た、ただいま。蓮」
玄関を開けると蓮も外に出る瞬間だったのかドアノブの位置に手を伸ばしていた
「それは?」
よく見るともう片方の手にはそれなりに大きくて薄い袋?を持っている。
「手持ち花火セット」
線香花火、ススキ花火、スパーク花火
花火の小袋がたくさん入っている、
「でも、なんで今?」
確信を突かれたのか蓮は淀んだ。
「み、みんなでやろうと思って。
それぞれ忙しかったし最終日くらい夏らしいことしたいなって。
なのに!雪希も舞も友達と出かけるし
類だって朝からどこかに行ってるし」
「それで1人寂しくやろうと?」
拗ねているのか無言だが肯定だと
分かった。
(いいのか、一応今年受験生なのに)
「その包みは何?」
今度は蓮が聞いてきた。
「さっきまで着てた浴衣」
「自分で着付けできるの?」
「調べながらなら多分。着てみる?」
「え、いいの?」
「・・・うん」
部屋で包みを解く。
(浴衣の着付けって紗南を見てたら
めんどくさそうと思ってたのに。
めんどくさいから髪はポニーテールで
いっか)
腰紐を巻いて、おはしょりを整える。
(なんで着てみるなんて
口に出たんだろう)
胸紐を結び、帯に取り掛かる。
(私が蓮に見てほしいって
思っちゃったから?)
「あー、失敗した。
着る前に髪を先にやれば、」
(髪はポニーテールでいいってさっき自分で思ったのに。)
髪型を検索している時点でもうダメだ。
(いつもと違う自分を演出したいんだ。
可愛いて、綺麗だって思われたい)
煩悩を追い払うように頭を振る、
髪をまとめて簪を挿す。
「どう?」
平然を意識した。
蓮は固まっていた。
(なんで何も言わないの?)
「化けたね」
その一言だけ
(想像以上にグサッときた)
どう返そうか考えていると、
蓮はふわりと笑う。
「冗談だよ。
そんな泣きそうな顔しないでよ。
似合ってる。とても綺麗」
「げ、現役のアイドルだもん。
浴衣の一つ、着こなせないとね」
花火の袋を眺め、裏面の注意事項を見る
近くにバケツもあった。
「開けていい?」
「いいよ」
各種類を二等分する。
その間、蓮はロウソクに火をつける。
最初に火をつけたのは蓮。
赤い火花が勢いよく地面に落ちては
消える。
私のは黄色のスパーク花火。
たまに蓮が私の花火から火をもらって
つけたり楽しかった。
最後に線香花火。
真っ暗な中、彼岸花を連想させる花火
だけが映える。
「ごめん」
バチバチと夢中になっていると呟いた。
「え?」
「あのSNSのこと。
傷つけて、追い詰めて、ごめん」
「私もごめん。カッとなっちゃって。
子供だよね。言い訳だけどあの時、
余裕がなかったんだ」
「そんなの俺も子供だよ。
少し考えれば分かったのに。」
ほぼ同時に落ちた火種。
あっという間に消えた。
2人で片付けをして、雪希たちが
帰ってきて笑い合って私たちの夏休みは
終わった
花火が打ち上がる場所と出店の会場は
明るすぎる。
暗いところだから映えるという意見は
一致した。
ここに来る途中に見つけた鳥居。
神殿までは石段で結構距離がある。
その石段の中間暗いに腰掛ける。
「いいの?」
「人いないし大丈夫でしょ」
少しすると1発目が上がる。
とても大きな菊の花。
それを合図に、たくさん上がる。
菊や牡丹、ハートや星、冠菊。
弾ける時のドーンという音は苦手だけど
散る時のパラパラという音は好きだ。
舞は視線を逸らさず食い入るように
見ている。
何分、何十分、私たちは一言も交わさず
写真も録画も撮らずただ眺めていた。
クライマックス手前で合図したわけでもなくほぼ同時に立ち上がる。
巾着に入れていた小さな懐中電灯で
足元を照らしながら石段を降りる。
私の家で舞は浴衣から着てきた服に
着替えた。
浴衣一式をつつんだ
「いいの、むしろ貰ってくれた方が
叔母さんも嬉しいだろうし」
「ありがとう、叔母さんにもお礼
言っておいてくれる?」
「うん」
電車に乗って家に帰る。
(叔母さん、か。他人の家庭を羨んだら
ダメだよね)
「あ、おかえり」
「た、ただいま。蓮」
玄関を開けると蓮も外に出る瞬間だったのかドアノブの位置に手を伸ばしていた
「それは?」
よく見るともう片方の手にはそれなりに大きくて薄い袋?を持っている。
「手持ち花火セット」
線香花火、ススキ花火、スパーク花火
花火の小袋がたくさん入っている、
「でも、なんで今?」
確信を突かれたのか蓮は淀んだ。
「み、みんなでやろうと思って。
それぞれ忙しかったし最終日くらい夏らしいことしたいなって。
なのに!雪希も舞も友達と出かけるし
類だって朝からどこかに行ってるし」
「それで1人寂しくやろうと?」
拗ねているのか無言だが肯定だと
分かった。
(いいのか、一応今年受験生なのに)
「その包みは何?」
今度は蓮が聞いてきた。
「さっきまで着てた浴衣」
「自分で着付けできるの?」
「調べながらなら多分。着てみる?」
「え、いいの?」
「・・・うん」
部屋で包みを解く。
(浴衣の着付けって紗南を見てたら
めんどくさそうと思ってたのに。
めんどくさいから髪はポニーテールで
いっか)
腰紐を巻いて、おはしょりを整える。
(なんで着てみるなんて
口に出たんだろう)
胸紐を結び、帯に取り掛かる。
(私が蓮に見てほしいって
思っちゃったから?)
「あー、失敗した。
着る前に髪を先にやれば、」
(髪はポニーテールでいいってさっき自分で思ったのに。)
髪型を検索している時点でもうダメだ。
(いつもと違う自分を演出したいんだ。
可愛いて、綺麗だって思われたい)
煩悩を追い払うように頭を振る、
髪をまとめて簪を挿す。
「どう?」
平然を意識した。
蓮は固まっていた。
(なんで何も言わないの?)
「化けたね」
その一言だけ
(想像以上にグサッときた)
どう返そうか考えていると、
蓮はふわりと笑う。
「冗談だよ。
そんな泣きそうな顔しないでよ。
似合ってる。とても綺麗」
「げ、現役のアイドルだもん。
浴衣の一つ、着こなせないとね」
花火の袋を眺め、裏面の注意事項を見る
近くにバケツもあった。
「開けていい?」
「いいよ」
各種類を二等分する。
その間、蓮はロウソクに火をつける。
最初に火をつけたのは蓮。
赤い火花が勢いよく地面に落ちては
消える。
私のは黄色のスパーク花火。
たまに蓮が私の花火から火をもらって
つけたり楽しかった。
最後に線香花火。
真っ暗な中、彼岸花を連想させる花火
だけが映える。
「ごめん」
バチバチと夢中になっていると呟いた。
「え?」
「あのSNSのこと。
傷つけて、追い詰めて、ごめん」
「私もごめん。カッとなっちゃって。
子供だよね。言い訳だけどあの時、
余裕がなかったんだ」
「そんなの俺も子供だよ。
少し考えれば分かったのに。」
ほぼ同時に落ちた火種。
あっという間に消えた。
2人で片付けをして、雪希たちが
帰ってきて笑い合って私たちの夏休みは
終わった
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