上 下
221 / 267
4章 ファイナルライブ

221話 記憶

しおりを挟む
「陸さん!」
「舞」
膝に手をついて上がった息を整える。

「気持ちはわかるけどここ
病院だからね」
待合室で私がくるのを待ってくれていた
日向さんと陸さん。

「すみません」
「他の奴らは後日見舞いにくるって」

STEPの2人に挟まれて病室に移動する。
入院病棟の3階にある談話室。
そこからは速報で翔が公演中に
倒れたと報道されていた。

(誰かニュースでも見てたら知るのかな)
病室の名札を確認する。
個室で白で統一された部屋のベットに
翔は眠っていた。
他の色がなく少しゾッとしてしまった。

顔は白かったが息をしていることに
安心する。
そばにあった椅子に腰かける。
(大丈夫、生きてる)
もっと内心焦るかと思ってたけど
自分でも引くほど冷静だった。

「医者からは疲れだろうってさ」
「命に別状はないから大丈夫だよ」
「そう、ですか」
陸さんと日向さんは気を利かせてか
病室に2人きりにしてくれた。

この光景、思い出した。
あの時の霊安室に似てるんだ。
(本能的に思い出さないように
してたのかな)


ー回想ー
暗い部屋で顔に白い布が被せてあった。
「父さん!母さん!」
先生の話を一緒に聞いている時ずっと 無言だったお兄ちゃんはその場で
泣き崩れた。

シーツから覗く手足はとても白く
触ると冷たくて私の両手では少しも
動かせないほどとても重かった。
その冷たさと重さがもう生きていないという事実を突きつけた、

反応はない。
微笑むお母さんも
抱き上げてくれるお父さんもいない。

私が泣くといつもお兄ちゃんが
そばに来てくれた。
時には背負ってくれた
背中がいつも大きく感じていた。

でも今は背中を丸めて泣いている。
嗚咽をしながら。
私はそんなお兄ちゃんを見て
しっかりしないとと決めた。

心配させないように、
少しでも楽にしてあげよう。
幼い頭で私はそう結論づけた。

ー回想終了ー
お父さん達のことを思い出すと急に
不安になる。
もう姿も朧げでどんな声だったか
思い出せない。
(今まで、忘れてたから。
このままだったらきっと翔のことも)
さっき冷静だったのが嘘みたいに
不安が溢れてくる。

(このまま目を醒さなかったら
どうしよう。本当に私1人になる。
またあの冷たさと重さを経験しないと
いけないの?)

布団から出ている右腕の手を
ゆっくり両手で包む。
(大丈夫、暖かい。
あの時に比べたら全然重くない)

でも不安は消えない。
「置いていかないで、お兄ちゃん」
これが罰なら恨むよ。
お父さん、
今まで忘れてたからってこんな仕打ち。

私の夢、叶わなくなるよ。
お母さん、
共演を見れなくていいの?

面会時間の終わる10分前。
病室を出ると陸さんと日向さんが
病室前の椅子に座り待っていてくれた。

「今日はもう帰ろうか、送ってくよ」
「え、それは」
「気にするな、舞。
何かあったら俺たちが翔に怒られる」
被っていたキャップを私に被せ、
陸さんはマスクをする。

ー帰り道ー
「思ったより報道陣が少なかった」
「まあ病院前だしな」
人の少ないバスの中で
アイドル2人に挟まれるのは
とても緊張する。
(私もアイドルだけど)

「バス停から病院まで結構距離あるけどその距離走ったの?」
「火事場の馬鹿力ってやつですよ。
病院についた途端に疲れました」

家の近くで2人と別れる。
「ありがとうございました」
キャップを返そうとしたら今度でいいと
断られてしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

その花は、夜にこそ咲き、強く香る。

木立 花音
青春
『なんで、アイツの顔見えるんだよ』  相貌失認(そうぼうしつにん)。  女性の顔だけ上手く認識できないという先天性の病を発症している少年、早坂翔(はやさかしょう)。  夏休みが終わった後の八月。彼の前に現れたのは、なぜか顔が見える女の子、水瀬茉莉(みなせまつり)だった。  他の女の子と違うという特異性から、次第に彼女に惹かれていく翔。  中学に進学したのち、クラスアート実行委員として再び一緒になった二人は、夜に芳香を強めるという匂蕃茉莉(においばんまつり)の花が咲き乱れる丘を題材にして作業にはいる。  ところが、クラスアートの完成も間近となったある日、水瀬が不登校に陥ってしまう。  それは、彼女がずっと隠し続けていた、心の傷が開いた瞬間だった。 ※第12回ドリーム小説大賞奨励賞受賞作品 ※表紙画像は、ミカスケ様のフリーアイコンを使わせて頂きました。 ※「交錯する想い」の挿絵として、テン(西湖鳴)様に頂いたファンアートを、「彼女を好きだ、と自覚したあの夜の記憶」の挿絵として、騰成様に頂いたファンアートを使わせて頂きました。ありがとうございました。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

桑原家のツインズ!高校デビュー☆

みのる
青春
桑原家の『ツインズ』が、高校生になりました!誰しにも訪れた、あの青春時代…(懐)

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

拝啓、お姉さまへ

一華
青春
この春再婚したお母さんによって出来た、新しい家族 いつもにこにこのオトウサン 驚くくらいキレイなお姉さんの志奈さん 志奈さんは、突然妹になった私を本当に可愛がってくれるんだけど 私「柚鈴」は、一般的平均的なんです。 そんなに可愛がられるのは、想定外なんですが…? 「再婚」には正直戸惑い気味の私は 寮付きの高校に進学して 家族とは距離を置き、ゆっくり気持ちを整理するつもりだった。 なのに姉になる志奈さんはとっても「姉妹」したがる人で… 入学した高校は、都内屈指の進学校だけど、歴史ある女子校だからか おかしな風習があった。 それは助言者制度。以前は姉妹制度と呼ばれていたそうで、上級生と下級生が一対一の関係での指導制度。 学園側に認められた助言者が、メンティと呼ばれる相手をペアを組む、柚鈴にとっては馴染みのない話。 そもそも義姉になる志奈さんは、そこの卒業生で しかもなにやら有名人…? どうやら想像していた高校生活とは少し違うものになりそうで、先々が思いやられるのだけど… そんなこんなで、不器用な女の子が、毎日を自分なりに一生懸命過ごすお話しです 11月下旬より、小説家になろう、の方でも更新開始予定です アルファポリスでの方が先行更新になります

処理中です...