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31.本当の望み
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アシュレー様とシャルル王子の婚約。
それは単に王家と公爵家との繫がりだけでは無いはずだ。
「たぶん、王子はアシュレー様と結婚しないと国王にはなれないんじゃないですか?」
ウィル曰く、父親であるリオンヌ公爵は貴族制のトップに立ちながらも絶対貴族制に反対らしい。なのに筆頭公爵家と言われるのは、成すべきことを成していたらいつの間にか権力がついてしまったんだとか。そんな公爵家が王家との繋がりを強くして更に権力を欲しているとは思えない。
公爵家に利が無いとしたらこの政略婚約は誰が望んだのか。
王子が街に来たときに漏らした王家の権力低下。よく観察してみれば既存の法を良いように捻じ曲げる貴族達。貴族に媚びる役人。
この国を好きに動かしているのは貴族だった。
王子はそんな貴族達なんかいらない、と言っていた。王子だけの考えなのか王族全体の考えなのかはわからない。
でも貴族制に反抗する王子を王位につけたい貴族は多くないだろう。
だからこの婚約の意味することは、おそらくソレなのだ。
少しの沈黙の後、アシュレー様はこちらに視線を向け質問で返してきた。
「貴族院のことをクー様はご存知でしょうか?」
その問に私はうなずく。
『貴族院』とはこの国の法を採決する場だが、その名が示すように、貴族のみが参加できる。
つまりこの国の法律は貴族によって決められている、貴族にしかこの国を変えることができない仕組みなのだ。
「殿下の御歳は19。もう成人されていますが立太式は行えておりません。貴族院での承認が降りないためです。
健康状態が芳しく無いとの理由で反対されていますが…
中でもド・ブロイ公が強く反対しているので、殿下の体調ではないところにも考えることがお有りなのでしょう。」
馬車が揺れる。アシュレー様の淡い金髪に反射した光が、美しい令嬢の顔をユラユラと漂う。
「わがリオンヌは公爵家で筆頭とは言われておりますが、貴族院を掌握しきれてはいません。
そのためシャルル殿下を王太子にと推していても承認されません。
しかしリオンヌ公爵家と婚姻関係になれば状況は変わるでしょう。
王位を継げないとなるとそれは公爵家を蔑ろにしているという事にも等しい。同じ公爵家であるド・ブロイは反対し辛い立場になると考えています。」
アシュレー様はこの政略結婚の意味を知っている。
それでも最初、婚約破棄を持ちかけてきた。
アシュレー様は王子を嫌ってはいない、と思う。
この国の民として王族を敬っているというよりは家族を思うような親愛だとしても、王子を大事に想っていることには違いない。
それでも尚、婚約に乗り気では無いということは王子を王太子、そして王に推すことへの不安があるからなのだろうと思っていた。
でも、アシュレー様が望んでいるのは婚約を破棄するというだけの事ではないんじゃないかな。
「アシュレー様は…王子の気持ちを知りたいと言っていましたね。
知りたいのは、王位を継ぐ意志があるかと言うことでしょうか。」
薄く笑みを浮かべるアシュレー様。少し自嘲気味に見えたのは馬車の中が薄暗いからか。
「そうかもしれませんね。
殿下の生き方に口出ししようなど尊大な考えを持っているつもりはありませんでしたが…
王位を望まないのであれば、私にできることがあるのではないかと。
王家に生まれたとはいえ、他の生き方を選んでも良いのではないでしょうか。」
生まれたときから決まっていたこと。
それに異を唱えることが許されるのか。
静かに、この国に浸透している文化に反旗を翻すようなことを言ってのけるアシュレー様が、いつにも増して神々しく見えた。
王子と結婚しなかったら王子は王にはなれないけれどその場合、継承権第二位のアシュレー様が王位につくんだろうか。
男女に尊卑をつけないリオンヌ家だからこそアシュレー様に継承権があるが、この国でそんな考え方をする人は多くない。女に権力を認めない土壌で王位につくならば凄く物凄く、死ぬほど凄まじい苦労をするに違いない。
なのに、王子には生き方を選んで欲しい。自分を犠牲にしても。
それがこの人の望みなのだ。
それは単に王家と公爵家との繫がりだけでは無いはずだ。
「たぶん、王子はアシュレー様と結婚しないと国王にはなれないんじゃないですか?」
ウィル曰く、父親であるリオンヌ公爵は貴族制のトップに立ちながらも絶対貴族制に反対らしい。なのに筆頭公爵家と言われるのは、成すべきことを成していたらいつの間にか権力がついてしまったんだとか。そんな公爵家が王家との繋がりを強くして更に権力を欲しているとは思えない。
公爵家に利が無いとしたらこの政略婚約は誰が望んだのか。
王子が街に来たときに漏らした王家の権力低下。よく観察してみれば既存の法を良いように捻じ曲げる貴族達。貴族に媚びる役人。
この国を好きに動かしているのは貴族だった。
王子はそんな貴族達なんかいらない、と言っていた。王子だけの考えなのか王族全体の考えなのかはわからない。
でも貴族制に反抗する王子を王位につけたい貴族は多くないだろう。
だからこの婚約の意味することは、おそらくソレなのだ。
少しの沈黙の後、アシュレー様はこちらに視線を向け質問で返してきた。
「貴族院のことをクー様はご存知でしょうか?」
その問に私はうなずく。
『貴族院』とはこの国の法を採決する場だが、その名が示すように、貴族のみが参加できる。
つまりこの国の法律は貴族によって決められている、貴族にしかこの国を変えることができない仕組みなのだ。
「殿下の御歳は19。もう成人されていますが立太式は行えておりません。貴族院での承認が降りないためです。
健康状態が芳しく無いとの理由で反対されていますが…
中でもド・ブロイ公が強く反対しているので、殿下の体調ではないところにも考えることがお有りなのでしょう。」
馬車が揺れる。アシュレー様の淡い金髪に反射した光が、美しい令嬢の顔をユラユラと漂う。
「わがリオンヌは公爵家で筆頭とは言われておりますが、貴族院を掌握しきれてはいません。
そのためシャルル殿下を王太子にと推していても承認されません。
しかしリオンヌ公爵家と婚姻関係になれば状況は変わるでしょう。
王位を継げないとなるとそれは公爵家を蔑ろにしているという事にも等しい。同じ公爵家であるド・ブロイは反対し辛い立場になると考えています。」
アシュレー様はこの政略結婚の意味を知っている。
それでも最初、婚約破棄を持ちかけてきた。
アシュレー様は王子を嫌ってはいない、と思う。
この国の民として王族を敬っているというよりは家族を思うような親愛だとしても、王子を大事に想っていることには違いない。
それでも尚、婚約に乗り気では無いということは王子を王太子、そして王に推すことへの不安があるからなのだろうと思っていた。
でも、アシュレー様が望んでいるのは婚約を破棄するというだけの事ではないんじゃないかな。
「アシュレー様は…王子の気持ちを知りたいと言っていましたね。
知りたいのは、王位を継ぐ意志があるかと言うことでしょうか。」
薄く笑みを浮かべるアシュレー様。少し自嘲気味に見えたのは馬車の中が薄暗いからか。
「そうかもしれませんね。
殿下の生き方に口出ししようなど尊大な考えを持っているつもりはありませんでしたが…
王位を望まないのであれば、私にできることがあるのではないかと。
王家に生まれたとはいえ、他の生き方を選んでも良いのではないでしょうか。」
生まれたときから決まっていたこと。
それに異を唱えることが許されるのか。
静かに、この国に浸透している文化に反旗を翻すようなことを言ってのけるアシュレー様が、いつにも増して神々しく見えた。
王子と結婚しなかったら王子は王にはなれないけれどその場合、継承権第二位のアシュレー様が王位につくんだろうか。
男女に尊卑をつけないリオンヌ家だからこそアシュレー様に継承権があるが、この国でそんな考え方をする人は多くない。女に権力を認めない土壌で王位につくならば凄く物凄く、死ぬほど凄まじい苦労をするに違いない。
なのに、王子には生き方を選んで欲しい。自分を犠牲にしても。
それがこの人の望みなのだ。
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