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ボクについて
組織壊滅編2
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脱出の最中、ボクが担当した動物達や、移植体その変異体、いわゆるクリーチャーってやつを自らの手で処分した。
言葉にするには余りに残酷な生きた死体。
言われるままに、地球を守るために実験していたボクは……。
初めての苦痛をここで味わうこととなった。
「蘭さん、泣いてるの?」
「どうして?」
施設を出る最後に、エィとキィはボクにそう問うた。
答えは既にもうこの時には明確だった。
「私は人の心を取り戻したからだよ」
これには2人とも首を傾げていた。
「俺達は処分しないの?こんな失敗作より有害だよ?」
「それともパパは、これから私たち兵器の魂を停止させるの?」
怯えもせずにボクに優しい視線を向け続けるこの子達は、あまりにも尊い。
「そんなことをする訳がない」
ボクが言葉にしても、2人はまだ納得出来ないようでいた。
「人は嫌いだ。でも俺は蘭さんに始末されるならそれでいいと思ってる」
「キィもだよ!」
人間の脳を植え付けられた猿が、ようやく楽になれると呟き横絶えたとき、ボクは手を合わせた。
大変申し訳ないことをしたと。
エィとキィはそんなボクを見て何を思ったのか。
見よう見まねして手を合わせた。
「……さて、モニターを見る限り、倒れた研究員の回収が進んでいるようだな。暗部がボク達を狙うのを諦めたということは、施設ごと無かったことにしようとしてるな」
ボクはいつも纏っていた白衣を脱ぎ捨てて、鼓動を失った彼に覆い掛けた。
「2人とも、お兄さんやお姉さんへのお別れは済んだか?」
尋ねるとエィとキィは顔を合わせて黙って頷いた。
手を合わせることに意味を見出してくれただろうか。
その後に、ゴゥ──という爆音がした。
耳鳴りがする。えぇい鬱陶しい……!
エィが傍に居なかったらボクは跡形もなく消し飛んでいたじゃないか。
キィが言う。
「ロングレンジレーダーにENEMY反応があるよ。宇宙規模からピンポイントでここを狙われてるみたい」
やはりか。
政府はボク達を見捨てたようだ。
それともエィとキィの能力を試しているのか?
「キィ、システムのHackingは完全じゃなかったのか?」
「んーん。相手も取り返しにくるの。すぐ上書きするけど面倒くさいな……」
「……そう言わず、少し遊んでやってくれ。あと死亡者はいるか?」
「んーん。皆回収されてるし、部隊の退避は済んだ後みたいだよ」
「そうか。ならよかった。エィの力を消耗する前にボク達もここを去ろう」
「俺、特に何もしてないんだけど……」
エィは肩凝りを慣らすように首を左右に傾けた。
「そういうな。充分すぎる活躍だよ。それにあまり、その能力を使って欲しくない」
「…………」
エィからの返事は無かったが、ボクは彼に姫抱きにされて宙を舞った。
キィもあの7色の羽でもって後を付いてくる。
「何処へ行けばいい?」
「そうだね……とりあえず私の祖国、日本へでも行こうか。あそこは平和でいい。夜も安全に出歩ける。エィもキィも気に入るはずだよ」
「日本て、ここから6303マイルもあるよ」
キィが続け様に言う。
「転移したほうが速いね。36秒後もう一撃、衛生レーザーがくるし」
「そうだな」
と気軽に返事をするエィ。
ここまで来るとボクは割と置いてけぼりになる。
「ちょっと待ってくれ!2人ともいつの間にそんな力を……。ボク達はまだその計算式の解除段階で!」
驚くボクを尻目に、エィとキィは転移装置すらもなしに時空の歪みを切り開いた。
あっという間だ。
見た事もない白い光の空間。
躊躇いもなく2人はボクを連れその中へと侵入した。
おそらく今エィから離れたらボクはこの光の狭間に取り残されるだろう。
ブラックホールが人智を超えた空間であるように。
瞬間的地点移動もまた、ボク達人間には到底理解の及ばない未知の領域だ。
「着いたぞ」
エィが降り立った場所は日本。
「 北緯35.710139度 東経139.81083度」
キィが観測した座標はスカイツリーだった。
「綺麗なところだ」
「うん!」
2人の瞳と髪の色がたちまち金色に変わる。
心を閉ざしている時は、夜の帳より黒いのだがね。
「2人共、気に入ってくれたようで良かったよ。これからここが、キミ達の故郷になるからね」
ふるさと……という言葉にはあまり馴染みがないのか、2人は暫く初めて見る光夜の景色に魅入っていた。
研究施設内のヴァーチャルモニターで体感していても、実際に外の空気を吸うことすら初めてだ。
無理もないか。
「蘭さんは、この中で育ったの?」
「そうだ」
今のはエィだ。
「朝日が出たらまた違う景色になるの?」
「毎日、その日その日で色が変わるよ。あまり意識していない人間が殆どだけどね」
これはキィ。
2人とも、スカイツリーの先端に立っているとは思えないほど、子供のように笑顔を見せた。
ボクは、この2人を守りたい。
その為になら、きっと自分の命すらいとわないだろう。
ただ幸せに暮らしたい。
たとえキミ達が人類最強兵器だとしても。
ボクは決して見捨てはしない。
そして必ず2人の笑顔を守り続けるだろう。
今、この時、この瞬間に誓って……。
レポートNo.2。以上。組織脱出計画成功。同時に暗部からのTARGETLOSTに成功。これより、逃亡生活に突入する。RAN
言葉にするには余りに残酷な生きた死体。
言われるままに、地球を守るために実験していたボクは……。
初めての苦痛をここで味わうこととなった。
「蘭さん、泣いてるの?」
「どうして?」
施設を出る最後に、エィとキィはボクにそう問うた。
答えは既にもうこの時には明確だった。
「私は人の心を取り戻したからだよ」
これには2人とも首を傾げていた。
「俺達は処分しないの?こんな失敗作より有害だよ?」
「それともパパは、これから私たち兵器の魂を停止させるの?」
怯えもせずにボクに優しい視線を向け続けるこの子達は、あまりにも尊い。
「そんなことをする訳がない」
ボクが言葉にしても、2人はまだ納得出来ないようでいた。
「人は嫌いだ。でも俺は蘭さんに始末されるならそれでいいと思ってる」
「キィもだよ!」
人間の脳を植え付けられた猿が、ようやく楽になれると呟き横絶えたとき、ボクは手を合わせた。
大変申し訳ないことをしたと。
エィとキィはそんなボクを見て何を思ったのか。
見よう見まねして手を合わせた。
「……さて、モニターを見る限り、倒れた研究員の回収が進んでいるようだな。暗部がボク達を狙うのを諦めたということは、施設ごと無かったことにしようとしてるな」
ボクはいつも纏っていた白衣を脱ぎ捨てて、鼓動を失った彼に覆い掛けた。
「2人とも、お兄さんやお姉さんへのお別れは済んだか?」
尋ねるとエィとキィは顔を合わせて黙って頷いた。
手を合わせることに意味を見出してくれただろうか。
その後に、ゴゥ──という爆音がした。
耳鳴りがする。えぇい鬱陶しい……!
エィが傍に居なかったらボクは跡形もなく消し飛んでいたじゃないか。
キィが言う。
「ロングレンジレーダーにENEMY反応があるよ。宇宙規模からピンポイントでここを狙われてるみたい」
やはりか。
政府はボク達を見捨てたようだ。
それともエィとキィの能力を試しているのか?
「キィ、システムのHackingは完全じゃなかったのか?」
「んーん。相手も取り返しにくるの。すぐ上書きするけど面倒くさいな……」
「……そう言わず、少し遊んでやってくれ。あと死亡者はいるか?」
「んーん。皆回収されてるし、部隊の退避は済んだ後みたいだよ」
「そうか。ならよかった。エィの力を消耗する前にボク達もここを去ろう」
「俺、特に何もしてないんだけど……」
エィは肩凝りを慣らすように首を左右に傾けた。
「そういうな。充分すぎる活躍だよ。それにあまり、その能力を使って欲しくない」
「…………」
エィからの返事は無かったが、ボクは彼に姫抱きにされて宙を舞った。
キィもあの7色の羽でもって後を付いてくる。
「何処へ行けばいい?」
「そうだね……とりあえず私の祖国、日本へでも行こうか。あそこは平和でいい。夜も安全に出歩ける。エィもキィも気に入るはずだよ」
「日本て、ここから6303マイルもあるよ」
キィが続け様に言う。
「転移したほうが速いね。36秒後もう一撃、衛生レーザーがくるし」
「そうだな」
と気軽に返事をするエィ。
ここまで来るとボクは割と置いてけぼりになる。
「ちょっと待ってくれ!2人ともいつの間にそんな力を……。ボク達はまだその計算式の解除段階で!」
驚くボクを尻目に、エィとキィは転移装置すらもなしに時空の歪みを切り開いた。
あっという間だ。
見た事もない白い光の空間。
躊躇いもなく2人はボクを連れその中へと侵入した。
おそらく今エィから離れたらボクはこの光の狭間に取り残されるだろう。
ブラックホールが人智を超えた空間であるように。
瞬間的地点移動もまた、ボク達人間には到底理解の及ばない未知の領域だ。
「着いたぞ」
エィが降り立った場所は日本。
「 北緯35.710139度 東経139.81083度」
キィが観測した座標はスカイツリーだった。
「綺麗なところだ」
「うん!」
2人の瞳と髪の色がたちまち金色に変わる。
心を閉ざしている時は、夜の帳より黒いのだがね。
「2人共、気に入ってくれたようで良かったよ。これからここが、キミ達の故郷になるからね」
ふるさと……という言葉にはあまり馴染みがないのか、2人は暫く初めて見る光夜の景色に魅入っていた。
研究施設内のヴァーチャルモニターで体感していても、実際に外の空気を吸うことすら初めてだ。
無理もないか。
「蘭さんは、この中で育ったの?」
「そうだ」
今のはエィだ。
「朝日が出たらまた違う景色になるの?」
「毎日、その日その日で色が変わるよ。あまり意識していない人間が殆どだけどね」
これはキィ。
2人とも、スカイツリーの先端に立っているとは思えないほど、子供のように笑顔を見せた。
ボクは、この2人を守りたい。
その為になら、きっと自分の命すらいとわないだろう。
ただ幸せに暮らしたい。
たとえキミ達が人類最強兵器だとしても。
ボクは決して見捨てはしない。
そして必ず2人の笑顔を守り続けるだろう。
今、この時、この瞬間に誓って……。
レポートNo.2。以上。組織脱出計画成功。同時に暗部からのTARGETLOSTに成功。これより、逃亡生活に突入する。RAN
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