凶器は透明な優しさ

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親友とのご対面

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先ほどの姫乃ちゃんの挨拶の後、

「ちょうど料理を食べる所だったのでご一緒にどうですか?」

そう姫乃ちゃんが言ってくれたのだ。

私も久しぶりに会った綾と話をしたかったし、何より帰国後すぐに私のところを訪ねてきてくれたことが嬉しかった。
だから、今日は帰ってとは言いたくなかった。

私の思いを感じ取ってくれたのか、姫乃ちゃんが夕飯を誘ってくれたのはとても助かった。

これで、綾とはお話ができて、しかも姫乃ちゃんの料理も食べられる!
この時の私は脳天気にもそう考えていた。



なんだこの緊張感は…

私のすぐ左側には綾
そしてテーブルを挟んで向こう側に姫乃ちゃん

この2人が一緒の空間にいるのは、多少の違和感はあるけどいつかは起こりうることだったと思う。

綾は大学からの唯一の友人だし、
姫乃ちゃんはほぼ毎日、晩御飯を共にする仲だ。

だからこういう場面にはいつかは遭遇したと思うし、そのうち綾にも姫乃ちゃんのことを紹介したかった。

綾は私と違ってコミュ力が高いから初めての人でも仲良くなれるし、元気満点な姫乃ちゃんとも相性が合うと思っていた。


なのにどうしてか、綾は私の隣に座ってから、いつものように相手と打ち解けようと話しかけるでもなく、姫乃ちゃんのことを観察して沈黙を破ることをしなかった。

このままの空気はとても耐えられないので、意を決してお互いのことを紹介する。

「こっちが私の大学からの友人である和泉綾、それでこちらが後輩の姫乃香代ちゃん」

そうして、私の説明で二人の間で固まっていた時が動き出した。


先制口撃を綾が外向きの笑顔と共に繰り出す。

「姫乃ちゃんって言うんだ、ウチの紗希が大変お世話になりました」

綾の口撃に頬を引き攣らせる姫乃ちゃん!負けじと応戦する。

「いえいえ、私も好きでやっていることなので。あと先輩は和泉さんのものではないですよね」

姫乃ちゃんの応戦にも余裕を持って対応する綾。

「大学入ってからずっと紗希の面倒を見てきたから、私のものって言っても過言ではないかな」

「そんなの和泉さんがそう思っているだけで、紗希先輩は思ってないかもしれませんよ。そうですよね紗希先輩?」

おぉっと私に飛び火してきた!

「えぇっと、確かに大学入ってからずっと綾には世話になっているかな。プライベートな部分はほとんど綾と一緒にいたし1番の友人だよ?」

私の言葉にご満悦の綾、そして低い声で唸っている姫乃ちゃん。

「どう、言った通りでしょう」

さらに追い討ちをかける綾。

「もぅ綾、姫乃ちゃんをいじめないでよ」

「いやぁ私の紗希をたぶらかそうとしている奴が、一体どの程度の人か知りたいじゃん」

なぜか「私の紗希」という部分に力を入れて話し、姫乃ちゃんの反応をじっと見つめていた。

「たぶらかしてなんかいません。ただ先輩と仲良くご飯を食べているだけです」

「ふぅ~ん。仲良くねぇ」

綾はそう言って思案したあと姫乃ちゃんに尋ねた。

「ただ仲良くするだけでいいんだ」

どう言う意味の質問だったのか私には分からなかった。
だけど綾は姫乃ちゃんの反応で何かがわかったのか、なるほどという表情をしていた。

なるほどはいいけど、このままだといつまで経っても料理にありつけない。
いい加減に料理が冷めてしまうし、お腹も空いたので早く晩御飯が食べたい。

「ねぇ探りあいはそれぐらいにして、晩御飯食べようよ?せっかく姫乃ちゃんが作ってくれた料理が冷めちゃうよ」

「そうねぇ確かに美味しそうだもんね、本当に私も頂いてもいいのかしら?」

「流石にこの状況で一人だけ食べるななんて言えないですよ」

姫乃ちゃんも一旦は警戒心を解いたのか、いつもの雰囲気に戻る。

3人でいただきますをして姫乃ちゃんの料理をいただく。

「何これ、めっちゃ美味しいんですけど!」

「そうでしょそうでしょ!」

料理を褒められて自分の事のように嬉しくなって思わず同意する。

「紗希の家でこんな美味しい料理が食べられる日が来るとは思わなかったわ」

「いつも二人食べる時は大体外食してたもんね」

「そうねぇ二人とも料理が苦手だから家でご飯なんて食べたことなかったもんね」

「そういえば海外出張の直前にいった洋食屋さんSNSでバズってすごい行列ができてたよ」

「えぇ~またいきたかったけど行列は勘弁だわ」

久しぶりの綾との会話が楽しくて思わずはしゃいでいると、テーブルの向こうからどこか沈んだ声で姫乃ちゃんがボソッと声を漏らした。

「紗希先輩と和泉さんって本当に仲良しなんですね…」

「まぁ~ね、姫乃さんと違って長年の関係だからね」

綾はそう言いながら私の左腕を抱きしめる。

「そうなんですね…」

どんどん姫乃ちゃんの表情が暗くなっていく。

いつも二人でテーブルを挟んで食べているときは、こんな距離なんか無いみたいに姫乃ちゃんを近くに感じていた。

なのに今は、この距離がとても遠く感じる。
手を伸ばしても届かないじゃ無いかと思うほど遠く。

こんな落ち込んだ姫乃ちゃんは見たくない。
なんでもいいから姫乃ちゃんを元気づけることを言わないと!

「でも私と姫乃ちゃんも仲良しでしょ!ほら…一緒に寝た仲じゃない!?綾とは一緒に寝たことないから!」

自分でもよく分からないまま、1番仲良しのエピソードっぽいことを口に出す。

「本当ですか紗希先輩!」

とりあえず正解を引き当てたのか、姫乃ちゃんの表情はパァ~と明るくなった。

一方、こちらにとっては不正解だったのか一気に顔が怖くなる綾。

「紗希、上下関係を逆手に取って後輩を食べるだなんて最低ね」

「えっ?…いやっそんなことしてないから!健全に睡眠をとっただけだから!断じてエッチなことはしてないから!」

「はぁ~。わかっているわよ紗希がそんなことしないって。今のは、ただの私の八つ当たり」

無駄にあわあわさせられて少々ムッとした顔をしたのに、綾は全く気にせずに姫乃ちゃんを見つめる。

「まぁ、姫乃さんがどういうつもりで紗希に近づいているのか、なんとなく想像がついてきたからってのもあるけど」

私もよくわかっていない理由に早くも綾は気づいたんだろうか?
一体どんな理由なのかと待ち構えていると、

「今ここでその理由を言わないであげる代わりに、今週末に一緒に飲みいきましょう。私とあなたの二人で」

綾が思いもよらないことを言い出した。

それに誘い方がなんだかおかしい。

姫乃ちゃんが近づいてきた理由ってそんなに私には言い難いことなんだろうか?

「あなたの思う理由が本当かどうかなんて分からないじゃないですか?」

姫乃ちゃんがツンとした様子でそういうと、綾はそっと立ち上がり姫乃ちゃんの耳元に口を近づけて何かを呟いた。

その瞬間、姫乃ちゃんがハッとした顔をして、あなたなんかには知られたくなかったと言わんばかりの顔をした。

「…わかりました。今週末ですね」

そうして、綾のお誘いを嫌々承諾する姫乃ちゃんがいた。

「まぁそんなに嫌そうな顔をしないでよ。ちゃんとあなたの興味のある話もしてあげるから」

「会ったばかりのあなたが私の興味のある話なんてできるとは思いませんが」

「そうかしら?…昔の紗希の話なんて興味ないのかな?」
「あります!」

食い気味に反応する姫乃ちゃん。
そしてワンテンポ遅れて反応する私。

「えっなんで私の昔話をするの!?やめてよ、絶対に恥ずかしい話はしないでよ!」

綾とは長年の付き合いだから、私のやらかしも色々知られている。
一応私は姫乃ちゃんの先輩なんだから、あまり見損なわれるようなことは言わないでほしい。

「そう言ってるけど、姫乃さんは紗希の恥ずかしい話は聞きたくない?」

「もちろん聞きたいです!」

あぁ~終わった~。
私の先輩として威厳は消滅するんだ~。

どの話が姫乃ちゃんに知られてしまうんだろう。
大学時代の私の恥ずかしいエピソードなんて捨てるほどあるもんなぁ。

来週からどうやって姫乃ちゃんの接したら良いんだろうか…。
私は頭を抱えずにはいられなかった。
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