上 下
5 / 7

有能な代官候補の確保

しおりを挟む
ハロルドのお墨付きをもらった後、自分の少ない荷物をカバンにしまいきる。

多少は入らなかったものもあるけど、そこはしょうがないとしよう。

どうせここの家の人たちなら私のものは心置きなく捨ててしまうだろうから置いていくことにした。

そうして私自身の準備が整ったら、後は本当に少ないが私に対して好意的だった人に挨拶をしてから出ようと思う。


この屋敷の中では階級が低い人が住んでいるあたりにやってきた。

コンコンと扉をノックをして、中からの声を聞いてから扉を開ける。

そこにいたのは、文官と一目でわかるような体つきをした気弱そうな青年がいた。

「アントム、あなたに重大な話があるの」

そう言って、先ほど起こった突然の出来事を伝える。

アントムには私が次期代官に潜り込ませるため、私の知識や考え方をみっちりと教え込んでいる途中であった。

ちなみに、なぜこの青年を選んだかといえば…1番気弱そうな文官であったためというなんとも言い難い理由である。

だけど、私の運が良かったのか彼の運が悪かったのか。

これまで先輩の文官からまともに教えを受けてこなかったため、私のこの領地の文官とは相いれない考え方を素直に受け入れてくれた。

そのせいでさらに他の文官からは扱いが悪くなったみたいだが…

まっまぁそれは良いとして、今では私の片腕とまではいかないまでも他の文官では任せられないことを彼には色々とお願いしていた。

だから、今後の方向性について一応彼には伝えておく必要があった。

「えっ婚約破棄!それに実家に帰らされる!そんなことがあっても良いんですか!」

私のことなのに、私以上に先ほどの出来事に対して怒ってくれる。

正直なところ嬉しくてしょうがない出来事だったので、こんな反応を返されると返事に困ってしまう。

でも、私のことを思って言ってくれるのは嬉しい。

「ありがとうアントム、私のためにそこまで怒ってくれて。でもいいの」

そう言って心からの笑顔をアントムに見せてあげる。

「正直この領地の運営を味方がいない状態でやっていくのにも疲れていたところなの。だから今回のことは逆に助かっちゃった」

私が気に病んでいないことを感じたアントムは怒りを収める。

だけど今度は不安そうな顔をして話しかける。

「そうですか、それなら良かったです?でも今度は僕の方が大変になりそうですね」

そう言って苦笑いを浮かべるアントム。

「確かにね、他の文官からのあなたの評価って酷いものだものね」

正直に彼の現状について口に出す。

私の仕事を手伝ってしまったせいで、私から以外は全く仕事を与えられなくなってしまっていた。

本当にここの文官は領主の影響をよく受けていると思うよ。

いくら気に入らない相手だからって、貴重な労働力を遊ばせておくなんて頭がおかしいと思う。

特に、ここのような領地が広い場合は管理する人はいくらいても足りないっていうのに…

ここの文官たちの対応の拙さについて頭を悩ませてしまう。

それも今日までのことだからいいとしよう。

まぁアントムにとっては死活問題だけど。

「これからは先輩に媚を売ってなんとか仕事をもらえるようにしないといけませんね」

下を向きため息をついて、幸薄そうな雰囲気がどんどん強くなるアントムに、思わず救いの手を差し伸べる。

「…もし良ければだけど、うちの領地に来ない?」

私の言葉を聞いた瞬間、アントムはバッと顔をあげて真剣な顔をして私に詰め寄ってくる。

「よろしいのですか!?」

「むしろ私が良いのか心配なんだけど。この領地に家族や恋人とかいないの?」

あっ聞いちゃあまずかったかな?

そう思わせる表情をしたアントムがボソボソと話し始める。

「家族はいますけど成果の上がらない文官ということで見放されていますし、恋人なんて…今まで一度もいたことはありませんね」

うわぁ~この歳まで恋人がいたことがないのか…

誰かに紹介されないとこのまま人生を終了してしまいそうだな。

そこまでの面倒は見れないけど、せめて私の仕事を手伝ってくれたことのお返しぐらいはしてあげないと。

そもそも成果が上がらない文官って思われているのも私のせいだし…

「そっそれなら私の領地に来てみたらどうかしら?あなたならすぐに採用してあげれるわよ?」

「それならすぐに!っといきたいところですが、ヘレナ様に言われた最後の仕事を終えてから向かいたいと思います」

「アントムのそういう丁寧に仕事に向き合うところ、好きよ」

私が頷きながらアントムのことを評価すると、褒められ慣れていないのかアントムは顔を赤くして狼狽出す。

「あっはい!ありがとうございます!」

アントムがこれほどまで評価されない理由が私なのでここまで喜ばれると複雑である。

「それじゃあ、次は私の領地で待っているわね」

そうして変えの効かない代官候補であるアントムを手に入れることに成功した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者とその幼なじみの距離感の近さに慣れてしまっていましたが、婚約解消することになって本当に良かったです

珠宮さくら
恋愛
アナスターシャは婚約者とその幼なじみの距離感に何か言う気も失せてしまっていた。そんな二人によってアナスターシャの婚約が解消されることになったのだが……。 ※全4話。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは要らないですか?

曽根原ツタ
恋愛
「クラウス様、あなたのことがお嫌いなんですって」 エルヴィアナと婚約者クラウスの仲はうまくいっていない。 最近、王女が一緒にいるのをよく見かけるようになったと思えば、とあるパーティーで王女から婚約者の本音を告げ口され、別れを決意する。更に、彼女とクラウスは想い合っているとか。 (王女様がお好きなら、邪魔者のわたしは身を引くとしましょう。クラウス様) しかし。破局寸前で想定外の事件が起き、エルヴィアナのことが嫌いなはずの彼の態度が豹変して……? 小説家になろう様でも更新中

愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。

梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。 ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。 え?イザックの婚約者って私でした。よね…? 二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。 ええ、バッキバキに。 もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

処理中です...