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ルーカス
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「でもルーカスだったらモテるからすぐに他の恋人出来るでしょう?」
エリーゼの幼馴染への愛は本物だ。
かの幼馴染は、エリーゼの故郷で上の学校に通っているらしいが、まとまった時間が出来るとすぐにエリーゼのもとへやってくるから私も何回か会ったことがある。男らしいルーカスとは違い、綺麗な感じのイケメンだ。エリーゼと並ぶと一枚の絵画のようにしっくりくるのは、一緒にいる長い時間が作り上げた信頼関係も関係しているのかな。2人はお互いしか見ておらず、あの絆は本物にしか思えない。番であるルーカスを袖にした、と聞いても納得したくらいの。
「まぁそれはさぁ…どうでもいい相手だったら、ね」
ああ、モテる男は違うね…。でも彼は本当にエリーゼがいいのか。私が思わず彼をじっと見つめると、ルーカスの頬が一瞬朱に染まった。
「君、面白い人だね」
「そう?」
「そうだよ、ちょっとペースが乱される」
「ああ、それは私が貴方のことを好きじゃないからでしょう」
私があっさり指摘すると、彼が破顔した。
「そういうとこだよ、話してて気が楽だ」
そのセリフを聞いて、きっとモテる人って大変なんだろうな、と感じた。15歳の私はそれなりにしか恋愛経験がないしそれらは全て片思いだったから成就したことがないわけで、だからこそ想像するしかないけれど。
「それで、お義兄さんが好きなんだよね?」
「好きっていうか…」
私は答えを言い淀んだ。少し前までこの人のことをよく知らなかったから、多分答えを誤魔化していたと思うが、今日の会話できっとこの人は真剣に取り合ってくれるだろうなと感じたので、今まで誰にも言ったことのない秘密を教えることにした。彼も私に自分の心を見せてくれたから、お返しに。
「好きは好き、で間違いないけど…義兄さんが私の番なんだと思ってる」
その返答にたっぷり10秒はルーカスは押し黙った。
「え?」
私は苦笑した。
「だから、義兄さんが、私の番なんだと思ってるんだってば。義兄さんに確認したことはないけどね」
7歳年上の姉は昔から華やかな美人で、とてもよくモテた。正直今の私と同じ15歳の頃には既に彼氏がいたが、どの人とも短い付き合いしか続かなくて、それでも別れたらすぐに次の恋人が出来る感じで、恋多き人であったのだ。
その姉が義兄と付き合い始めてから、変わった。義兄は穏やかで優しく姉によく尽くしてくれたし、義兄の愛で彼女は落ち着き、傍からみていても相思相愛の仲であった。学校を出たらすぐに結婚して、リチャードが産まれた。
姉のことが大好きな私は、彼が自分の番なのだと分かってもずっと黙っていた。
最初は微かな違和感だった。義兄が近くにいると、仄かにヴァニラのような甘い香りが漂う。最初は香水をつけているのか思って気にしないように努めていたが、徐々にその香りが濃くなってきて、これは違うと感じ始めた。一度、さり気なく姉に、義兄って香水つけてる?と聞いてみたところ、つけてないよという返事だったので、自分の周囲に番に出会った人がいなかったので判断がつき兼ねたが、これこそ番なのではないかと思い始めた。義兄から何か言われたことは一切なく、私が思うにおそらく彼は気づいていない。
聞いていたような狂おしい気分になることはなく、ただ単に義兄が側にいると甘い香りがするだけで、私は彼らが付き合って、結婚し、子供が産まれるまでずっと側で見守っていた。正直先ほども義兄からはヴァニラの香りがしたし、何なら少し濃くなっている気もしたが私は知らんぷりをした。気にしないことには慣れている。
私がそう言うと、ルーカスは私のことを真正面から見つめた。
「君、すごい子だね…尊敬する」
「そうかなぁ…。だってさ、番ってだけで好きになれないよね?義兄さんのことは人間として好きだけど、そもそも姉の夫だから恋愛対象で考えたことない。だからルーカスが思うような意味では、義兄さんのことは好きじゃないよ」
だからこそ、姉が番に出会って全てを捨てて逃避行したのが私は信じられない。でも、義兄の話によると最近2人の間がうまくいってなかったのだとしたら、あり得るかも知れないとため息をつきたい気分だ。結婚している間に浮気をするような人ではないが、姉はもともと気が多いのは妹である私がよく知っている。勿論、リチャードのことを置いていってしまったのは許せないが、番が絡んで頭がどうかしてしまったのか。
ルーカスは、それは分かるよ、と頷く。
「俺がエリーゼを諦めたのもそれが理由…。俺は今までまともに好きになった人がいなくて、だからエリーゼに出会った時、番だ!って一瞬燃え上がったけど、あの子はそうじゃなかったから、冷静になれた部分はある。エリーゼを見ていると今も苦しいけどそれはただ単に番だからだと思うし、彼女たちが幸せそうなのを見て自分の選択は正しかったと思ってる」
へえ、見直した。
「意外にいいヤツだったんだね」
「意外にってのは余計」
「でもまともに好きになった人がいないってのが今までの彼女たちに対してめちゃくちゃ失礼だね」
複数形にしたのは、この人のことだから今までたくさんの女達と付き合ってきたはずだと思ったから。案の定彼は否定しなかった。
「…そのことに関しては反省している。でももう適当に付き合うのはやめようと決めて…だから今は、誰とも付き合ってない」
「意外に真面目だね」
「その意外に、は受け入れる」
私は思わず声を上げて笑った。
目を瞠ったルーカスは私の笑顔を見下ろすとーーー君の笑顔は可愛いね、と囁いた。
エリーゼの幼馴染への愛は本物だ。
かの幼馴染は、エリーゼの故郷で上の学校に通っているらしいが、まとまった時間が出来るとすぐにエリーゼのもとへやってくるから私も何回か会ったことがある。男らしいルーカスとは違い、綺麗な感じのイケメンだ。エリーゼと並ぶと一枚の絵画のようにしっくりくるのは、一緒にいる長い時間が作り上げた信頼関係も関係しているのかな。2人はお互いしか見ておらず、あの絆は本物にしか思えない。番であるルーカスを袖にした、と聞いても納得したくらいの。
「まぁそれはさぁ…どうでもいい相手だったら、ね」
ああ、モテる男は違うね…。でも彼は本当にエリーゼがいいのか。私が思わず彼をじっと見つめると、ルーカスの頬が一瞬朱に染まった。
「君、面白い人だね」
「そう?」
「そうだよ、ちょっとペースが乱される」
「ああ、それは私が貴方のことを好きじゃないからでしょう」
私があっさり指摘すると、彼が破顔した。
「そういうとこだよ、話してて気が楽だ」
そのセリフを聞いて、きっとモテる人って大変なんだろうな、と感じた。15歳の私はそれなりにしか恋愛経験がないしそれらは全て片思いだったから成就したことがないわけで、だからこそ想像するしかないけれど。
「それで、お義兄さんが好きなんだよね?」
「好きっていうか…」
私は答えを言い淀んだ。少し前までこの人のことをよく知らなかったから、多分答えを誤魔化していたと思うが、今日の会話できっとこの人は真剣に取り合ってくれるだろうなと感じたので、今まで誰にも言ったことのない秘密を教えることにした。彼も私に自分の心を見せてくれたから、お返しに。
「好きは好き、で間違いないけど…義兄さんが私の番なんだと思ってる」
その返答にたっぷり10秒はルーカスは押し黙った。
「え?」
私は苦笑した。
「だから、義兄さんが、私の番なんだと思ってるんだってば。義兄さんに確認したことはないけどね」
7歳年上の姉は昔から華やかな美人で、とてもよくモテた。正直今の私と同じ15歳の頃には既に彼氏がいたが、どの人とも短い付き合いしか続かなくて、それでも別れたらすぐに次の恋人が出来る感じで、恋多き人であったのだ。
その姉が義兄と付き合い始めてから、変わった。義兄は穏やかで優しく姉によく尽くしてくれたし、義兄の愛で彼女は落ち着き、傍からみていても相思相愛の仲であった。学校を出たらすぐに結婚して、リチャードが産まれた。
姉のことが大好きな私は、彼が自分の番なのだと分かってもずっと黙っていた。
最初は微かな違和感だった。義兄が近くにいると、仄かにヴァニラのような甘い香りが漂う。最初は香水をつけているのか思って気にしないように努めていたが、徐々にその香りが濃くなってきて、これは違うと感じ始めた。一度、さり気なく姉に、義兄って香水つけてる?と聞いてみたところ、つけてないよという返事だったので、自分の周囲に番に出会った人がいなかったので判断がつき兼ねたが、これこそ番なのではないかと思い始めた。義兄から何か言われたことは一切なく、私が思うにおそらく彼は気づいていない。
聞いていたような狂おしい気分になることはなく、ただ単に義兄が側にいると甘い香りがするだけで、私は彼らが付き合って、結婚し、子供が産まれるまでずっと側で見守っていた。正直先ほども義兄からはヴァニラの香りがしたし、何なら少し濃くなっている気もしたが私は知らんぷりをした。気にしないことには慣れている。
私がそう言うと、ルーカスは私のことを真正面から見つめた。
「君、すごい子だね…尊敬する」
「そうかなぁ…。だってさ、番ってだけで好きになれないよね?義兄さんのことは人間として好きだけど、そもそも姉の夫だから恋愛対象で考えたことない。だからルーカスが思うような意味では、義兄さんのことは好きじゃないよ」
だからこそ、姉が番に出会って全てを捨てて逃避行したのが私は信じられない。でも、義兄の話によると最近2人の間がうまくいってなかったのだとしたら、あり得るかも知れないとため息をつきたい気分だ。結婚している間に浮気をするような人ではないが、姉はもともと気が多いのは妹である私がよく知っている。勿論、リチャードのことを置いていってしまったのは許せないが、番が絡んで頭がどうかしてしまったのか。
ルーカスは、それは分かるよ、と頷く。
「俺がエリーゼを諦めたのもそれが理由…。俺は今までまともに好きになった人がいなくて、だからエリーゼに出会った時、番だ!って一瞬燃え上がったけど、あの子はそうじゃなかったから、冷静になれた部分はある。エリーゼを見ていると今も苦しいけどそれはただ単に番だからだと思うし、彼女たちが幸せそうなのを見て自分の選択は正しかったと思ってる」
へえ、見直した。
「意外にいいヤツだったんだね」
「意外にってのは余計」
「でもまともに好きになった人がいないってのが今までの彼女たちに対してめちゃくちゃ失礼だね」
複数形にしたのは、この人のことだから今までたくさんの女達と付き合ってきたはずだと思ったから。案の定彼は否定しなかった。
「…そのことに関しては反省している。でももう適当に付き合うのはやめようと決めて…だから今は、誰とも付き合ってない」
「意外に真面目だね」
「その意外に、は受け入れる」
私は思わず声を上げて笑った。
目を瞠ったルーカスは私の笑顔を見下ろすとーーー君の笑顔は可愛いね、と囁いた。
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