君は僕の番じゃないから

椎名さえら

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ルーカス

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私がその日、放課後に学校から自宅に直帰すると、両親が甥のリチャードを抱っこしながら、ぎゃあぎゃあ騒いでいた。リチャードは姉リリアの息子で、3歳になったばかりである。近所に住んでいる関係でたまに預かることはあるものの、それにしては両親の顔が険しく、リチャードはその雰囲気を感じたのか泣きべそであった。


「どうしたの?」
「オリヴィア…!それが…」

リチャードを抱きかかえたまま父親が心底困り果てた顔をしてみせた。

「リリアに番が見つかってーーー駆け落ちしたみたいだ」
「は?」

私の脳裏に、義兄のおとなしそうな笑顔が浮かんだ。

「え、義兄さんと?」

混乱していておかしなことを言ってしまい、母にすぐに指摘された。

「そんなわけないでしょ、知らない男の人とよ!離婚届とリチャードも置いて何処かに行ってしまったの!ああもう……あの子は本当に……なんていうことをしでかしたのかしら!!」

私は呆然とそこに立ち尽くしていた。

姉は、義兄と学生の時から付き合って、愛し愛されて結婚した。2人は私の理想の夫婦であった。それに、リチャードのことも本当に可愛がっていた。姉は浮気をするような人ではなかったし、義兄一途であることは妹である私もよく知っている。その全てを捨て去って、駆け落ちをした…?



?)


ぞくり、と寒気がした。


「それで…今から離婚協議で義兄さんがいらっしゃるのと…駆け落ちした相手の家族の方もいらっしゃるから…悪いけれどリチャードの面倒をみていてくれる?」

離婚協議。
その口ぶりだと、番同士だから仕方ないと、義兄が姉を諦めるべきなのだと両親は思っているのだろうか。私はリチャードを抱きかかえながら、ぼんやりと両親の顔を眺めていたのだった。




義兄は憔悴した顔で我が家を訪れた。

リチャードを抱っこしたまま玄関を開けて彼を顔を合わせると、リチャードの髪の毛を彼は優しく撫でた。

「オリヴィア、リリアのことで面倒をかけてごめんね」

どうしてこんなことになったのだろう。彼がリチャードを抱っこしようと腕を伸ばしたが、父の様子に異変を感じたか嫌がったので、とりあえず両親と話す間は私が世話をすることにした。

義兄が応接間に入っていってしばらくしてまたドアが叩かれる音がした。おそらく、相手方の家族であろうと思って、玄関を開けた。


「あ、貴方は…」


そこには、友達の番である男の人が立っていた。





友達ーーエリーゼはここから少し離れた街から数ヶ月前に引っ越してきた。とても可愛らしい顔立ちで、性格も明るくてよくモテる。転校初日、先生から指定された席が隣同士だった関係で、親しくなった。彼女には幼馴染の恋人がいる、ということを私は程なくして知った。

そして、この目の前の男の人は、エリーゼの番なのである。

姉の事件の後に思うとすごく不思議な話ではあるのだがエリーゼは番である彼にまったく惹かれなかったようで、幼馴染の彼への愛しか感じないらしかった。彼も、エリーゼの恋人にあったことがあるらしくて、諦めたのだと聞いた。それでも番同士、気は合うのか、2人きりでは会わないらしいが、友達も交えて時々御飯をしたりはするくらいの交流がある。私もそれで彼のことを知ったのである。

彼、ルーカスは、まさかここで知り合いに会うとは思っていなかったのだろう、困ったように笑った。普段はとにかく明るくて、場を盛り上げる人が、今日は静かに佇んでいた。

「俺の従兄弟が、迷惑かけたようだね」
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