上 下
5 / 17
エリーゼ

エピローグ

しおりを挟む
今日は父親は工事現場で泊まりで、帰ってこない予定だがアーヴィンが来てくれたと知ったら会いたかったろうな、などと思っていたら、一旦離れていたアーヴィンの腕が私を抱き寄せたから驚いた。いつもアーヴィンは私がハグをすれば受け入れてはくれたが自分からしてくれたことはほとんどなかった。

「ど、どしたの?」
「酷いことを言って、悪かった…」
「酷いこと?」
「距離を置くとか…番を探すとか…結婚してから番に会ったら不幸になるしかないとか…」
「ああ…」

彼はぎゅうぎゅうと私を抱きしめながら、自分の額を私の頭にくっつけている。まるで彼が私に甘えているかのような感じなのだが、一体何があったのだろうか。てか、ここ玄関ホール…。ダイニングルームにでも入ろうと声をかけようと思ったのだが、その前にふうっとため息をついてアーヴィンが言った。

「僕は怖かったんだ…」
「怖かった?」
「うん、いつかエリーが僕から離れていってしまうかもと思って」

ん?
逆じゃない?

「僕はもうずっと子供の頃からエリーが可愛くて可愛くて…でもいつかエリーが番に会ったら僕のことを捨てそうな気がしてたから…それを考えると怖かったんだ。だからお前を試す感じであんなことを言ってしまった。本当に最低だった」


否定はしない。










しかし残念なことに、私はアーヴィンが罪を犯したとしても、彼のことを理解しようと努める女である。対幼馴染に関しては完全に阿呆な女なのである。自覚はある!自覚はあるから責めないで下さい!

「でもマークから実際にエリーが番を見つけたって聞いた時はもう…居ても立ってもいられてなくてすぐに駆けつけてきてしまった。案の定、あいつとデートしてたし、抱きしめられてるの見たらもう我慢できなくって…。ごめん。傷つけた責任は取る。こんな僕がフラレても仕方ないと思ってる」

そう言いながら、ぎゅうぎゅうに抱きしめている腕はまったく緩む気配が見られない。言ってることとやってることが別なんですけどー?まるで私のことを離せないって言ってるみたいだ。

「ふは」

そう思ったら面白くて、私は笑ってしまった。

「あのね、アーヴィン。私ね、あの人といてもまったくときめかなかったんだよ。私にとってアーヴィンは、番よりもね、番らしいから。アーヴィンにしかときめかない」
「エリー!許してくれるのか」
「ううん、許さない」

えっ、とアーヴィンが私を抱きしめたまま固まった。

「アーヴィンが番を見つけても、私を不幸にしないって約束して欲しい」
「…うん、本当に傷つけて悪かった」

あの言葉は私の心臓にぐいっと打ち付けられた楔のようだった。
これからきっと一緒にいつづけても、私の心には一生不安が残り続けるだろう、アーヴィンが実際に番をみつけて、それでも尚、私と居続けてくれるという選択肢をしない限りは。


「怒らないで聞いてほしいんだけど…実は僕もう番見つけてるんだ」
「え・・・ええええええ?!!?」

ちょっと待って!
新事実すぎて頭の中が混乱中でございます!

「お前も知ってるけど…ミシェルさん」
「ああああの美人の?」

ミシェルさんは、兄とアーヴィンの共通の学校の友人である。ミシェルさんっていうと数年前には出会っているはず。え、でもミシェルさんとアーヴィンってホントただの友人のような気がしてるけど…?

「同じだったんだ。僕、お前のことが好きすぎてまったく反応しなかった。匂いすらも分からなかったから番だって気づかなかったくらいなんだ。ミシェルさんは分かったみたいだけど、あまりにも僕が反応しないから呆れてた。僕たちは何にもなかったし、今はもうミシェルさんには恋人がいるからね?」
「…う、うん」
「僕にとってはエリーはずっと番以上の存在だったけど…エリーがいつか番を見つけたら離れていくって思ったら怖くなってきて…最近エリーがどんどん綺麗になってこの前も告白されてただろう?」
「うん」

同級生に告白されて、瞬殺で断りましたけどね!

「自分から離れていく日が来るのかと思ったら…ごめん本当に…もう自分でも止められなくて、勝手に口が動いて酷い嘘ついた。マークにも拗らせてるって叱られた」

要するに彼は…
番は既に見つけていたけど自分にとっては番はたいしたものではなかった。
けど、私がどれくらいアーヴィンのことが好きか分からなかったから、私が番を見つけた時に、もしかしたら捨てられるって思った。ほほーん。なるほど。私がどれくらいアーヴィンが好きなのか、自信がなかったってわけね。ちゃんと見てくれたら私がどれだけ彼が好きかって分かるはずなんですけど。









でももう一度言いますね。
私、対幼馴染限定で、ちょろい女なんです。自覚はある!後悔はしていない!


そうか、だから番と結婚しているのは10%くらいしかいないのか、とふと思いついた。番に運良く巡り合ったとしても、もうその時に他に好きでしょうがない人がいたら反応しない場合があるんだ。そもそもまわりでも番に会ったっていう人はそんなにいないから、まぁ仮説だけど、ね。でももしかしたら番に会っても、アーヴィンみたいに気づきもしないパターンもあるのか?…とにかく、2人共が同じ気持ちでなければなかなか結婚までは至らないだろうから、番同士の成婚率が低いのかも知れない。そこは普通の恋愛と同じだ。

「本当にごめん。ずっと謝り続けるから、いつか許して欲しい…」

彼はどうやら私を離せないらしく、抱きしめたまま懇願している。
はいここ玄関ホール…。
私は最早この状況がシュール過ぎて笑ってしまっていて、笑ってる時点で許すも許さないもないんだが、アーヴィンにこんなに求められてるっていうのが嬉しすぎて返答できずにいた。しばらくして、ぽんぽんと彼の腕を叩いた。


「うん、もういいよ、アーヴィン。怒ってない」
「エリー!」

いつもずっと私ばかりが追いかけていると思ってた。
彼は仕方なく私のことを受けいれてくれていると思ってたけど、そうじゃなくって彼もちゃんと私のことを好きでいてくれたんだって思ったら、嬉しくって仕方ない。それが分かったから、思いきってこの街に来て、良かったと思う。

「エリー、キスしていい?」
「え」

今までほっぺにはそりゃあ何百回とされたし、してきたキスだけど、これはそう…じゃないのかな?などと思っていたら、ちゅっとアーヴィンが唇にキスを落とした。それからまたぎゅうぎゅう抱きしめてくる。

「僕が拗らせてたからエリーのファーストキスをあいつに取られた。許せない。僕が悪いけど。くそ、許せない」

(ああこの人、もしかして…)

今まで頑張って隠してたけど、めちゃくちゃ独占欲強い人、だったのかな。
自分が好きな人がこれだけ執着してくれてたんだったら…そりゃ番に私が惹かれないよね~。

「また帰ってきてくれるよね?」
「え?せっかく転校したのに?しかも学校結構面白そうなんだけど…」
「駄目だ!この街はお前の番が住んでるから絶対に駄目だ!」
「え、でもルーカスは結構いいひと……」
「あいつの名前は聞きたくない!」
「せめて一学期はこっちの学校通おうかなー。お父さんも喜んでくれるし」
「僕が耐えられない!」


あれれ。思ってた以上に執着…いいえ、溺愛されているようです。
私達、結局48時間も離れていられなかったんですよね。

私はぎゅうぎゅうに抱きしめられながら、番よりも番らしく愛してくれる幼馴染の背中に手を回したのであった。




<君は僕の番じゃないから、終わり>



しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

デートリヒは白い結婚をする

毛蟹葵葉
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。 関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。 式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。 「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」 デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。 「望むところよ」 式当日、とんでもないことが起こった。

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました

山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。 だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。 なろうにも投稿しています。

こんな姿になってしまった僕は、愛する君と別れる事を決めたんだ

五珠 izumi
恋愛
僕たちは仲の良い婚約者だった。 他人の婚約破棄の話を聞いても自分達には無縁だと思っていた。 まさか自分の口からそれを言わなければならない日が来るとは思わずに… ※ 設定はゆるいです。

義弟の婚約者が私の婚約者の番でした

五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」 金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。 自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。 視界の先には 私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

処理中です...