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19. 貴方こそが
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お昼前、厨房でトラヴィスの昼食を準備していたら、使用人がフォスター先生の到着を知らせてくれた。昼食作りを中断して、トラヴィスの部屋へ急ぐと、先生だけではなくメグも来てくれていたので、久しぶりの再会に密かに心躍った。
「ユーリさん、お元気そうで何よりです」
丸っこい眼鏡をかけたフォスター先生が、いつもながらの穏やかな声で挨拶をしてくれた。どうやらトラヴィスとフォスター先生は歓談をしていたらしく、ローテーブルには紅茶のセットが置かれていた。
「フォスター先生、お久しぶりです」
私はカーテシーをした。
トラヴィスが一人で、またフォスター先生とメグが並んでソファに腰掛けているから、私は立っておこうとその場にとどまった。
するとトラヴィスがどこか不思議そうに私を見た。トラヴィスは、私以外の人がいると“無”の顔になるが、最近は私が慣れてきて、彼が“無”であってもどんな表情なのか、分かるようになってきた。
「なんで立っている」
「え? いや、でも座る場所がないので……大丈夫です、私のことは気にしないでください」
「俺が立たせているみたいだろ。座れ」
と彼が指し示したのは、彼のソファだった。
フォスター先生とメグがちらりと視線を交わしたのが分かった。
(えっと、えっとえっとえっと!)
確かに一人分は空いている。空いているけれど、患者と治療師の関係ではありえない距離感だ。しかもセルゲイが後で部屋入ってくるかもしれない――。
(そもそも、トラヴィスはどうしてそんなことを言った!?)
私が激しく逡巡していると、フォスター先生が助け船を出してくれた。
「今から私がトラヴィス様の怪我を診させて頂きますので、ユーリさん、お手伝いをしてくださいますか?」
「ハイ!」
若干食い気味の返事となった。トラヴィスの眉間に皺が寄ったのが分かったが、これが正解のはずである。
それからフォスター先生が問診をしながら、トラヴィスの両足を診るのを見守った。穏やかな口調ながら、フォスター先生が繰り出す質問はどれも的確だった。足だけではなく、身体の他に受けた怪我についてもフォスター先生は尋ね、トラヴィスは短いながらもその全てに返答した。
トラヴィスが言っていた通り、襲撃を受けてからすぐに他の騎士たちが助けに来たのは確かで、怪我は両足に集中していたとのことだった。
フォスター先生がトラヴィスと会話をしながら、怪我の症状について「これはメモをしてください」と言えば、私はそれを書き記していく。
火傷はそこまで深くはなく、きちんとした手当をすれば皮膚の痛みは軽減され、骨の陥没自体は治らない可能性は高いが、他の骨には異常はないという見立てだった。
(……時間はかかりそうだけど、これならリハビリを頑張れば、歩けるようになる。もしかしたら、走れるようにだって)
今はまだ希望的観測にしか過ぎない。だが、これはトラヴィスにとって何よりも朗報になるだろう。もちろん、私にも。
「――これで以上です。ありがとうございました」
フォスター先生も、トラヴィスのマスクについては何も触れなかった。私が書いた診断書をフォスター先生に手渡すと、先生はそれらをじっくり吟味するように読みこみながら、時々さらさらと書き加えていく。
「右足の骨陥没部分は固定した方がいいでしょうか?」
私が尋ねると、フォスター先生は首を横に振った。
「怪我をされた時期を思えば、治りの早さには影響しないでしょうね。もちろん痛みが軽減するならしてもいいですが……」
フォスター先生が横に控えているメグに申し付け、医療用品がつまっているケースを取ってきてもらっている。蓋をあけ、慎重にラベルを確認しながらいくつかの薬を取り出した。
「基本は塗り薬で対応しましょう。これとこれを一日二回塗ってください――効能はお分かりですよね?」
「はい」
「私が来るまで蜂蜜とアロエを塗っていたようですが、続けてください。塗り薬の合間の、昼がいいかもしれませんね」
「承知しました」
フォスター先生は頷いた。
「眠りが浅い時のために飲み薬を置いていきましょうか。普段は必要ないと思いますがね」
「お願いします」
「リハビリを始められているようですが、進行予定表はお持ちですか?」
「はい、ここに」
私が差し出すと、先生はそれも丁寧にじっくり見てくださった。
「もう少し暑くなった時に泳ぐという選択肢を入れてもいいかもしれません。水の中だと、抵抗が少ないですし――本格的に暑くなったら考えてみてください」
「はい」
「うん。他はいいですね。――トラヴィス様、何か質問はございますか」
トラヴィスが首を横に振った。彼の顔には十分な説明を受けた患者の、どこか安堵したような表情が浮かんでいた。
フォスター先生の手にかかると、すぐに治る、という気がするから本当に不思議だ。穏やかな人柄と落ち着いた物腰。鋭い洞察力に豊富な経験。彼は医者に必要なすべてを持っているといっても過言ではない。
「トラヴィス様の側にはこれからもユーリさんがいますから、何かあれば彼女にお聞きになってください。ユーリさんは本当に得難い治療師ですよ」
フォスター先生がそうやって手放しで私を褒めるので、慌てた。
「フォスター先生、私は――」
「分かっています」
落ち着いた声で、トラヴィスが頷いたので私は言葉を飲み込んだ。先生は驚いた様子もみせずに穏やかに微笑んだ。
「もちろん、私も何かあればいつでも駆けつけますので」
「はい。本当に今日はご足労いただき、ありがとうございました」
トラヴィスが不自由な足で立ち上がり、騎士の礼のポーズを取った。
「トラヴィス様、そんなもったいないことをせずとも……」
さすがにフォスター先生が止めた。
フォスタ―先生は尊敬されるべき医師ではあるが、侯爵家の次男で、また王宮で務める騎士だったトラヴィスの方が間違いなく立場が上だ。その彼がこうして最上級の礼をフォスター先生に尽くしている姿は、胸にくるものがあった。
「もったいないことなんてありません」
トラヴィスはあっさりそう言うと、右足を庇いながらゆっくりとソファに座った。
(トラヴィスは……相手が誰であっても、こうやってきちんと礼を言える人なんだわ……)
貴族だからとか、女性だからとか――。
確かにトラヴィスは最初からそんなことでは私を判断していなかった。多くの貴族が特権階級意識を抱いているこの国で、私が没落した貴族で、また女性でも、一人の人間として対応してくれていた。
(人嫌いではあったようだけど――でもそれは相手が貴族だろうが、平民だろうが関係なく。……男性よりは女性の方がもっと苦手だったみたいだけど)
必要とあれば、アンソニーにも礼を伝えていた。
それに、私が食事を取ったかを気にしたり、座ってくれ、と言ったり――いつも気遣ってくれている。
いつかセルゲイが、私のことをフラットな女性だと呼んだ。だが私の場合、視点がこの世界の人と違うのはある意味当然なことである。
だが、トラヴィスは……。
(トラヴィスこそが、フラットな人だ――……でもどうして、人を寄せ付けないのかしら。何か、理由があるのだろうか)
私はいつものように眉間に皺を寄せているトラヴィスを見つめながら、そんなことを考えていた。
やがて先生たちが帰宅する時間になり、私は彼らを表玄関まで送ることにした。トラヴィスは自分もと腰を上げかけたが、フォスター先生が固辞した。セルゲイは時間をつくれなかったようで、最後まで姿をあらわさなかった。
「来てくださってありがとうございました」
表玄関を出た所で改めてお礼を言うと、二人共穏やかに微笑んでくれた。フォスタ―先生が首を横に振った。
「いいえ、本当はもう少し早く来たかったのですが……なかなか難しくてすみません」
「まさか! 先生たちは、可能な限り早く来てくださいました」
トラヴィスの部屋では自分の立ち位置を理解して黙っていたメグが口を開いた。
「ユーリさんが元気そうで本当に良かったわ――トラヴィス様もお顔はずっと怖かったけど、いい人じゃない? それにユーリさんをとても信頼しているようだしね」
私が顔を向けると、メグはにっこりと笑った。
「そうでしょうか……?」
「もちろんそうよ。貴女を信頼していなかったら、ジョージの往診を受けなかったでしょうから。まぁ、他でもないユーリさんのことだから驚かないけれどね。きっと一生懸命な心がトラヴィス様に伝わったのね」
「メグさん……」
「エヴァンス邸でもユーリさんらしく頑張られているのね。貴女の患者さんは幸せだわ。なんて素晴らしい治療師なんでしょう、本当に貴女は私達の誇りだわ。ね、ジョージ?」
「ああ」
静かな肯定に胸がいっぱいになり、またしてもじわっと涙が浮かびそうになった。しかし今日は私は慌ててそれを押しやった。
「また私を泣かせるつもりですね、二人共!」
「ばれたわね、ジョージ」
「そうだな」
最後は全員で顔を見合わせ、笑顔になった。必要なことがあればいつでもまた声をかけてくれ、と言い残して二人は帰っていった。
(ありがとうございます、フォスター先生、メグさん)
二人の乗った馬車が外門を出ていくのを私はずっと見送っていた。
☆
厨房に寄って、昼食を作り上げた。バーカートに乗せてトラヴィスの部屋に向かうと、どうしてか扉が少し開いていた。
「――気に入ってるようじゃないか、ユーリを」
部屋の中からセルゲイの声がした。
(あ、私の話をしている……これは聞いてはいけないかも)
ぴたりと足を止めた。バーカートがあるから、少しずつ後退しないと、車輪が軋んだ音を立てて、気づかれてしまうかもしれない。
「お前が人を寄せつけるなんてな。ユーリは確かにいい子だが、今はただの庶民だぞ。このままずっと側に置くつもりか?」
「兄上には関係ない」
答えるトラヴィスの声には温度がなかった。
「アンジェリカはどうする? お前に会いたいと何度も申し入れが来ているが」
「ユーリさん、お元気そうで何よりです」
丸っこい眼鏡をかけたフォスター先生が、いつもながらの穏やかな声で挨拶をしてくれた。どうやらトラヴィスとフォスター先生は歓談をしていたらしく、ローテーブルには紅茶のセットが置かれていた。
「フォスター先生、お久しぶりです」
私はカーテシーをした。
トラヴィスが一人で、またフォスター先生とメグが並んでソファに腰掛けているから、私は立っておこうとその場にとどまった。
するとトラヴィスがどこか不思議そうに私を見た。トラヴィスは、私以外の人がいると“無”の顔になるが、最近は私が慣れてきて、彼が“無”であってもどんな表情なのか、分かるようになってきた。
「なんで立っている」
「え? いや、でも座る場所がないので……大丈夫です、私のことは気にしないでください」
「俺が立たせているみたいだろ。座れ」
と彼が指し示したのは、彼のソファだった。
フォスター先生とメグがちらりと視線を交わしたのが分かった。
(えっと、えっとえっとえっと!)
確かに一人分は空いている。空いているけれど、患者と治療師の関係ではありえない距離感だ。しかもセルゲイが後で部屋入ってくるかもしれない――。
(そもそも、トラヴィスはどうしてそんなことを言った!?)
私が激しく逡巡していると、フォスター先生が助け船を出してくれた。
「今から私がトラヴィス様の怪我を診させて頂きますので、ユーリさん、お手伝いをしてくださいますか?」
「ハイ!」
若干食い気味の返事となった。トラヴィスの眉間に皺が寄ったのが分かったが、これが正解のはずである。
それからフォスター先生が問診をしながら、トラヴィスの両足を診るのを見守った。穏やかな口調ながら、フォスター先生が繰り出す質問はどれも的確だった。足だけではなく、身体の他に受けた怪我についてもフォスター先生は尋ね、トラヴィスは短いながらもその全てに返答した。
トラヴィスが言っていた通り、襲撃を受けてからすぐに他の騎士たちが助けに来たのは確かで、怪我は両足に集中していたとのことだった。
フォスター先生がトラヴィスと会話をしながら、怪我の症状について「これはメモをしてください」と言えば、私はそれを書き記していく。
火傷はそこまで深くはなく、きちんとした手当をすれば皮膚の痛みは軽減され、骨の陥没自体は治らない可能性は高いが、他の骨には異常はないという見立てだった。
(……時間はかかりそうだけど、これならリハビリを頑張れば、歩けるようになる。もしかしたら、走れるようにだって)
今はまだ希望的観測にしか過ぎない。だが、これはトラヴィスにとって何よりも朗報になるだろう。もちろん、私にも。
「――これで以上です。ありがとうございました」
フォスター先生も、トラヴィスのマスクについては何も触れなかった。私が書いた診断書をフォスター先生に手渡すと、先生はそれらをじっくり吟味するように読みこみながら、時々さらさらと書き加えていく。
「右足の骨陥没部分は固定した方がいいでしょうか?」
私が尋ねると、フォスター先生は首を横に振った。
「怪我をされた時期を思えば、治りの早さには影響しないでしょうね。もちろん痛みが軽減するならしてもいいですが……」
フォスター先生が横に控えているメグに申し付け、医療用品がつまっているケースを取ってきてもらっている。蓋をあけ、慎重にラベルを確認しながらいくつかの薬を取り出した。
「基本は塗り薬で対応しましょう。これとこれを一日二回塗ってください――効能はお分かりですよね?」
「はい」
「私が来るまで蜂蜜とアロエを塗っていたようですが、続けてください。塗り薬の合間の、昼がいいかもしれませんね」
「承知しました」
フォスター先生は頷いた。
「眠りが浅い時のために飲み薬を置いていきましょうか。普段は必要ないと思いますがね」
「お願いします」
「リハビリを始められているようですが、進行予定表はお持ちですか?」
「はい、ここに」
私が差し出すと、先生はそれも丁寧にじっくり見てくださった。
「もう少し暑くなった時に泳ぐという選択肢を入れてもいいかもしれません。水の中だと、抵抗が少ないですし――本格的に暑くなったら考えてみてください」
「はい」
「うん。他はいいですね。――トラヴィス様、何か質問はございますか」
トラヴィスが首を横に振った。彼の顔には十分な説明を受けた患者の、どこか安堵したような表情が浮かんでいた。
フォスター先生の手にかかると、すぐに治る、という気がするから本当に不思議だ。穏やかな人柄と落ち着いた物腰。鋭い洞察力に豊富な経験。彼は医者に必要なすべてを持っているといっても過言ではない。
「トラヴィス様の側にはこれからもユーリさんがいますから、何かあれば彼女にお聞きになってください。ユーリさんは本当に得難い治療師ですよ」
フォスター先生がそうやって手放しで私を褒めるので、慌てた。
「フォスター先生、私は――」
「分かっています」
落ち着いた声で、トラヴィスが頷いたので私は言葉を飲み込んだ。先生は驚いた様子もみせずに穏やかに微笑んだ。
「もちろん、私も何かあればいつでも駆けつけますので」
「はい。本当に今日はご足労いただき、ありがとうございました」
トラヴィスが不自由な足で立ち上がり、騎士の礼のポーズを取った。
「トラヴィス様、そんなもったいないことをせずとも……」
さすがにフォスター先生が止めた。
フォスタ―先生は尊敬されるべき医師ではあるが、侯爵家の次男で、また王宮で務める騎士だったトラヴィスの方が間違いなく立場が上だ。その彼がこうして最上級の礼をフォスター先生に尽くしている姿は、胸にくるものがあった。
「もったいないことなんてありません」
トラヴィスはあっさりそう言うと、右足を庇いながらゆっくりとソファに座った。
(トラヴィスは……相手が誰であっても、こうやってきちんと礼を言える人なんだわ……)
貴族だからとか、女性だからとか――。
確かにトラヴィスは最初からそんなことでは私を判断していなかった。多くの貴族が特権階級意識を抱いているこの国で、私が没落した貴族で、また女性でも、一人の人間として対応してくれていた。
(人嫌いではあったようだけど――でもそれは相手が貴族だろうが、平民だろうが関係なく。……男性よりは女性の方がもっと苦手だったみたいだけど)
必要とあれば、アンソニーにも礼を伝えていた。
それに、私が食事を取ったかを気にしたり、座ってくれ、と言ったり――いつも気遣ってくれている。
いつかセルゲイが、私のことをフラットな女性だと呼んだ。だが私の場合、視点がこの世界の人と違うのはある意味当然なことである。
だが、トラヴィスは……。
(トラヴィスこそが、フラットな人だ――……でもどうして、人を寄せ付けないのかしら。何か、理由があるのだろうか)
私はいつものように眉間に皺を寄せているトラヴィスを見つめながら、そんなことを考えていた。
やがて先生たちが帰宅する時間になり、私は彼らを表玄関まで送ることにした。トラヴィスは自分もと腰を上げかけたが、フォスター先生が固辞した。セルゲイは時間をつくれなかったようで、最後まで姿をあらわさなかった。
「来てくださってありがとうございました」
表玄関を出た所で改めてお礼を言うと、二人共穏やかに微笑んでくれた。フォスタ―先生が首を横に振った。
「いいえ、本当はもう少し早く来たかったのですが……なかなか難しくてすみません」
「まさか! 先生たちは、可能な限り早く来てくださいました」
トラヴィスの部屋では自分の立ち位置を理解して黙っていたメグが口を開いた。
「ユーリさんが元気そうで本当に良かったわ――トラヴィス様もお顔はずっと怖かったけど、いい人じゃない? それにユーリさんをとても信頼しているようだしね」
私が顔を向けると、メグはにっこりと笑った。
「そうでしょうか……?」
「もちろんそうよ。貴女を信頼していなかったら、ジョージの往診を受けなかったでしょうから。まぁ、他でもないユーリさんのことだから驚かないけれどね。きっと一生懸命な心がトラヴィス様に伝わったのね」
「メグさん……」
「エヴァンス邸でもユーリさんらしく頑張られているのね。貴女の患者さんは幸せだわ。なんて素晴らしい治療師なんでしょう、本当に貴女は私達の誇りだわ。ね、ジョージ?」
「ああ」
静かな肯定に胸がいっぱいになり、またしてもじわっと涙が浮かびそうになった。しかし今日は私は慌ててそれを押しやった。
「また私を泣かせるつもりですね、二人共!」
「ばれたわね、ジョージ」
「そうだな」
最後は全員で顔を見合わせ、笑顔になった。必要なことがあればいつでもまた声をかけてくれ、と言い残して二人は帰っていった。
(ありがとうございます、フォスター先生、メグさん)
二人の乗った馬車が外門を出ていくのを私はずっと見送っていた。
☆
厨房に寄って、昼食を作り上げた。バーカートに乗せてトラヴィスの部屋に向かうと、どうしてか扉が少し開いていた。
「――気に入ってるようじゃないか、ユーリを」
部屋の中からセルゲイの声がした。
(あ、私の話をしている……これは聞いてはいけないかも)
ぴたりと足を止めた。バーカートがあるから、少しずつ後退しないと、車輪が軋んだ音を立てて、気づかれてしまうかもしれない。
「お前が人を寄せつけるなんてな。ユーリは確かにいい子だが、今はただの庶民だぞ。このままずっと側に置くつもりか?」
「兄上には関係ない」
答えるトラヴィスの声には温度がなかった。
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