1 / 33
1−1.異世界転生()してたんですか!?①
しおりを挟む 後ろから、複数の声と足音が聞こえて来る。
それらの声を聞いて、私の体はビクリと震えた。
聞き覚えのある声が混じっていたからだ。
王太子の護衛をしていた騎士の声に、似ていると思った。
それと同時に、今の時期に王太子から離れないだろうと『似ているだけ』だと期待する気持ちが湧く。
後ろを振り向いて確認したい衝動に駆られるが、不審な動きをした方が目立つから出来ない。
せめて、フードでも被って顔を隠せていれば良かったのに。
馭者席に座る際にフードを被っていると、不審がられ兵に停められる。
馬車の操作上、事故に繋がる為の禁止事項とされているからだ。
騎士と門番の責任者と思しき男の会話が耳に入って来た。
「泊まる宿屋もないですし、ここの人達は通してしまっても良いのではないですか?」
「我が国の不手際を他国に押し付けるのか!」
騎士が、責任者らしい男を怒鳴りつけている。
騎士が何かを話す度に、私の身は縮まった。
「いえ、オーリア国入ってすぐのバダンリーク領では、話はついているんです。こちらの交換札を見せる事によってお互いが対応出来る様になっているんですよ」
「では、今対応しても変わらんな」
「ですから時間が掛かりすぎるんですよ。それに、そんなに急ぐ事ですか?」
説明をしている責任者らしい男も騎士も、どちらも苛立ちを隠せない様だ。
「何?俺の指示に従えないのか!」
「いえね、早馬じゃないんですから王都からここ迄来るには、日にちがかかると思うのですがね。そのお嬢様は馬術や馬車操作が優秀だったのですが?」
「そんな事はない」
「では、魔術が得意でフライで飛んで来れるとか?でも、その場合は馬車は捨てる事になりますが」
「魔力などないも等しい娘だ。大体フライなどの高度な魔術は、王宮魔術師長や副師長位の力がないと無理だろう」
「それでは、身体強化が長けているとか交渉術が秀でてよい馭者を雇ったとかですか?」
「ふん!あれは何をやっても無能だと聞いている」
「では、安心ではないですか。無能がこんな短期間でここ迄来ませんよ…………本当にここ迄来ているのなら、それは有能だと思いますがね」
大きく会話が響くなか、私はとても驚いていた。
しかし、そんな気持ちなど騎士の一言で消え失せた。
「これは平民が使うには、随分と立派ではないのか?」
私の後ろから、そんな声が聞こえた。
「そうですかね?何処にでもある、二頭馬車だと思いますがね」
「勿論俺達には貧相な馬車だが……しかし、見かけた事がある様な気がするんだがな」
「汎用性の高い物は、似るものだと思いますがね」
「まぁ、取っ手はどう見ても安物だが。おい、この窓のカーテンを開け顔を見せろ」
無造作に馬車を叩く騎士に、責任者らしい男が小さく呟いている。
「またですかい?一体何度目になるやら……」
「何かあったのでしょうか?私達は急いでオーリア国に向かわなければならないのですが」
カーテンを開ける音と同時に、そんなレニーの声が聞こえた。
私は人が見ても、一目瞭然に震えていたのだろう。
手網を通して分かったのか、馬達が不安そうにこちらを振り返える。
そっと落ち着く様に、アビィが手を重ねて震えを止めてくれた。
騎士達が横を通り過ぎる際は、自然と息を止めてしまった。
その際、騎士に従っている責任者らしい男の手には、しっかりと水晶が収まった箱を捧げ持っていた。
この国境門では、丁度門の中程に水晶で確認をする部屋を設けている。
今から、そこに設置しに行くのだろう。
そう思っていた時、騎士と責任者らしい男はまた言い合いを始めた。
その際、騎士が男を押した様に見えた。
「え?」
ニヤリといやらしく笑った見覚えのある騎士の顔と、驚いた責任者らしい男の顔が、妙に目に焼き付いた。
こちらに倒れてきた男は、必死に水晶を守ろうとしたのだろう。
しかし宙に浮いた水晶は、地の力に従い放物線を描き私の膝にポトリと落ちた。
それらの声を聞いて、私の体はビクリと震えた。
聞き覚えのある声が混じっていたからだ。
王太子の護衛をしていた騎士の声に、似ていると思った。
それと同時に、今の時期に王太子から離れないだろうと『似ているだけ』だと期待する気持ちが湧く。
後ろを振り向いて確認したい衝動に駆られるが、不審な動きをした方が目立つから出来ない。
せめて、フードでも被って顔を隠せていれば良かったのに。
馭者席に座る際にフードを被っていると、不審がられ兵に停められる。
馬車の操作上、事故に繋がる為の禁止事項とされているからだ。
騎士と門番の責任者と思しき男の会話が耳に入って来た。
「泊まる宿屋もないですし、ここの人達は通してしまっても良いのではないですか?」
「我が国の不手際を他国に押し付けるのか!」
騎士が、責任者らしい男を怒鳴りつけている。
騎士が何かを話す度に、私の身は縮まった。
「いえ、オーリア国入ってすぐのバダンリーク領では、話はついているんです。こちらの交換札を見せる事によってお互いが対応出来る様になっているんですよ」
「では、今対応しても変わらんな」
「ですから時間が掛かりすぎるんですよ。それに、そんなに急ぐ事ですか?」
説明をしている責任者らしい男も騎士も、どちらも苛立ちを隠せない様だ。
「何?俺の指示に従えないのか!」
「いえね、早馬じゃないんですから王都からここ迄来るには、日にちがかかると思うのですがね。そのお嬢様は馬術や馬車操作が優秀だったのですが?」
「そんな事はない」
「では、魔術が得意でフライで飛んで来れるとか?でも、その場合は馬車は捨てる事になりますが」
「魔力などないも等しい娘だ。大体フライなどの高度な魔術は、王宮魔術師長や副師長位の力がないと無理だろう」
「それでは、身体強化が長けているとか交渉術が秀でてよい馭者を雇ったとかですか?」
「ふん!あれは何をやっても無能だと聞いている」
「では、安心ではないですか。無能がこんな短期間でここ迄来ませんよ…………本当にここ迄来ているのなら、それは有能だと思いますがね」
大きく会話が響くなか、私はとても驚いていた。
しかし、そんな気持ちなど騎士の一言で消え失せた。
「これは平民が使うには、随分と立派ではないのか?」
私の後ろから、そんな声が聞こえた。
「そうですかね?何処にでもある、二頭馬車だと思いますがね」
「勿論俺達には貧相な馬車だが……しかし、見かけた事がある様な気がするんだがな」
「汎用性の高い物は、似るものだと思いますがね」
「まぁ、取っ手はどう見ても安物だが。おい、この窓のカーテンを開け顔を見せろ」
無造作に馬車を叩く騎士に、責任者らしい男が小さく呟いている。
「またですかい?一体何度目になるやら……」
「何かあったのでしょうか?私達は急いでオーリア国に向かわなければならないのですが」
カーテンを開ける音と同時に、そんなレニーの声が聞こえた。
私は人が見ても、一目瞭然に震えていたのだろう。
手網を通して分かったのか、馬達が不安そうにこちらを振り返える。
そっと落ち着く様に、アビィが手を重ねて震えを止めてくれた。
騎士達が横を通り過ぎる際は、自然と息を止めてしまった。
その際、騎士に従っている責任者らしい男の手には、しっかりと水晶が収まった箱を捧げ持っていた。
この国境門では、丁度門の中程に水晶で確認をする部屋を設けている。
今から、そこに設置しに行くのだろう。
そう思っていた時、騎士と責任者らしい男はまた言い合いを始めた。
その際、騎士が男を押した様に見えた。
「え?」
ニヤリといやらしく笑った見覚えのある騎士の顔と、驚いた責任者らしい男の顔が、妙に目に焼き付いた。
こちらに倒れてきた男は、必死に水晶を守ろうとしたのだろう。
しかし宙に浮いた水晶は、地の力に従い放物線を描き私の膝にポトリと落ちた。
19
お気に入りに追加
728
あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
苺のクリームケーキを食べるあなた
メカ喜楽直人
恋愛
その人は、高い所にある本を取りたくて本棚と格闘しているサリを助けてくれた人。
背が高くて、英雄と称えられる王族医師団の一員で、医療技術を認められて、爵位を得た素晴らしい人。
けれども、サリにだけは冷たい。
苺のクリームケーキが好きな教授と真面目すぎる女学生の恋のお話。
ムカつく偏屈ヒーローにぎりぎりしながら、初恋にゆれるヒロインを見守ってみませんか。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

恋人が聖女のものになりました
キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」
聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。
それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。
聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。
多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。
ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……?
慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。
従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。
菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんでも投稿します。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる