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神前式
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「和樹、遅れるなよ?」
「遅れないよ、こんな日には・・・」
神社の境内にある待合室から紋付き袴姿の父、大悟がスマートフォンで電話を掛けていた。
その向こうで応対しているのは長男の和樹だ、既に身支度を調えられているその出で立ちは父親とは違い、いわゆる“スーツ姿の礼装スタイル”だ。
西暦2020年6月の吉日、晴れの日ー。
この日、一条家は朝から大わらわとなっていた。
透の両親のみならず二人の兄である和樹と勝、そして父方母方の祖父母や親戚縁者までもが集まって来て朝からワイワイガヤガヤと騒いでいたのだ。
と言っても場所は実家である一条家ではない、東京にある赤坂氷川神社の境内、そこの“一条家”と書かれている待合室においてだ。
ちなみに隣の待合室には“宮下家”と書かれていて、そこには既に柚希の実家、宮下家の親戚縁者一同も揃い、あちらこちらで挨拶合戦が巻き起こっていた。
その場にいる誰も彼もがみな、袴姿だったり高級そうな和服を着たり。
要するに和のテイストで服装や身形が統一されていた。
そうだ、今日は二人の、一条透と宮下柚希の門出の日なのだ、・・・正確には一条柚希の、だけれども。
まだ高校生の二人はそれでも18歳になった日を境にして結婚し、役所に届け出を行った。
で、その流れで今日の挙式となったのである、本当は式自体は生活が落ち着いてきて蓄えが出来てから、改めてするつもりであったけれども両家の両親が“金は出してやる”と言い、またプランナーの提示してくれた0円挙式などの、費用の掛からないプランを参考にして“自分達らしい安くてゴージャスで厳かな”神前式を挙げる事にしたのだ。
それが今日だった。
「柚希が、ついに透くんのモノになるのか・・・」
「お父さん」
「ついこの前までは、まだ赤ん坊だったのになぁ・・・」
「本当に、あっという間だったね・・・」
角隠しをかぶり、白無垢に身を包んだ柚希の前で父である克典と母春香が感慨深そうにそう告げるがその目は心なしか涙ぐんでおり、時折鼻をズズッと啜る仕草が印象的だった、だって両親の泣いている場面なんて柚希は見た事が無かったのだから。
「柚希、綺麗だよ、実に素晴らしい・・・」
「お父さん・・・」
「本当によく育ってくれたよ、お前は自慢の娘だったんだけどなぁ・・・」
「まさかこんなに早く嫁いじゃうなんて思わなかったからねぇ~・・・」
感極まっているのだろう、声まで震わせて娘に必死に言葉を掛ける克典と春香は普段の教育パパママでは無かった、娘の幸せを願い、また送り出す寂しさに涙を見せる、一介の人の親に他ならなかったのだ。
「透くんを、あんまり困らせるんじゃないぞ?ちゃんと幸せにしてもらえ」
「もー、当たり前じゃん。お父さんたら・・・」
「でもな、辛かったらいつでも帰っておいでな?」
「大丈夫だよ、透はそんな人じゃないから」
と、自身も涙ぐみながらそこはキッパリと言い放つ柚希だったがやはり、両親にも夫の事をもっと信用して欲しいと思う辺り、彼女もいつの間にか妻としての心構えが出来はじめていると言ったところか。
コンコン。
「はい」
「ああ、透くん!!」
ガチャリと言う音と共に新郎が部屋に入って来た。
黒い紋付き袴姿の透だ、髪の毛はオールバックにして整え、手には扇子を持っている。
「おじさん。いや、あのお義父さん・・・」
「あはははは・・・」
「やっぱりまだ違和感があるね、透くん」
「まあ最初っから息子みたいなモンだったけどな!!」
と、透に義父呼ばわりされた克典が苦笑交じりにそう応える。
「お義父さん、お義母さん。今後はどうかよろしくお願い致します」
「こちらこそです!!」
「どうかよろしく、娘共々よろしくお願いします!!」
「透・・・」
「柚希・・・」
目の前に義理の(実の)父母がいるにも関わらずそっちのけで見つめ合う透と柚希。
もう完全に二人っきりの世界である。
「可愛いよ柚希、ううん、うんと綺麗だよ、世界で一番綺麗だ!!」
「透・・・。ありがとう。透も凄く格好いいよ、世界で一番格好いい!!」
「あはは・・・。ありがとう柚希」
「二人とも立派だよ」
「本当だね、絵になるよ!!」
「あははは・・・。ありがとうございます」
「・・・じゃあ取り敢えず」
「式までは二人っきりで、ね。話したい事もあるだろうから・・・」
「後でプランナーさんが来るから。指示を聞くようにな」
「・・・どうも」
「ありがとう、また後でね!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「いや~、なんかさ。改めてなんか喋んなくちゃって思うと、なんかさ」
「あははははっ。な、なんかね・・・」
「柚希はさ、その・・・」
「・・・なに!?」
「あははは、なんかさ。何つったら良いのかな・・・」
「ねーっ。急に言われてもねぇっ!!」
「・・・柚希」
「ん・・・」
「幸せに、なろうな。てかするから、必ず!!」
「ん。必ず。なろうね!!」
そう告げるとまだ朱を塗る前の柚希の唇に、透はソッと唇を重ねた。
夫婦となってからももう何度もしているキスだけど、今日のは特別。
「柚希、愛してるよ」
「私も愛してるよ、透。ううん、あなた」
お互いにそう告げ合うと、二人はまたどちらともなくキスをした。
「遅れないよ、こんな日には・・・」
神社の境内にある待合室から紋付き袴姿の父、大悟がスマートフォンで電話を掛けていた。
その向こうで応対しているのは長男の和樹だ、既に身支度を調えられているその出で立ちは父親とは違い、いわゆる“スーツ姿の礼装スタイル”だ。
西暦2020年6月の吉日、晴れの日ー。
この日、一条家は朝から大わらわとなっていた。
透の両親のみならず二人の兄である和樹と勝、そして父方母方の祖父母や親戚縁者までもが集まって来て朝からワイワイガヤガヤと騒いでいたのだ。
と言っても場所は実家である一条家ではない、東京にある赤坂氷川神社の境内、そこの“一条家”と書かれている待合室においてだ。
ちなみに隣の待合室には“宮下家”と書かれていて、そこには既に柚希の実家、宮下家の親戚縁者一同も揃い、あちらこちらで挨拶合戦が巻き起こっていた。
その場にいる誰も彼もがみな、袴姿だったり高級そうな和服を着たり。
要するに和のテイストで服装や身形が統一されていた。
そうだ、今日は二人の、一条透と宮下柚希の門出の日なのだ、・・・正確には一条柚希の、だけれども。
まだ高校生の二人はそれでも18歳になった日を境にして結婚し、役所に届け出を行った。
で、その流れで今日の挙式となったのである、本当は式自体は生活が落ち着いてきて蓄えが出来てから、改めてするつもりであったけれども両家の両親が“金は出してやる”と言い、またプランナーの提示してくれた0円挙式などの、費用の掛からないプランを参考にして“自分達らしい安くてゴージャスで厳かな”神前式を挙げる事にしたのだ。
それが今日だった。
「柚希が、ついに透くんのモノになるのか・・・」
「お父さん」
「ついこの前までは、まだ赤ん坊だったのになぁ・・・」
「本当に、あっという間だったね・・・」
角隠しをかぶり、白無垢に身を包んだ柚希の前で父である克典と母春香が感慨深そうにそう告げるがその目は心なしか涙ぐんでおり、時折鼻をズズッと啜る仕草が印象的だった、だって両親の泣いている場面なんて柚希は見た事が無かったのだから。
「柚希、綺麗だよ、実に素晴らしい・・・」
「お父さん・・・」
「本当によく育ってくれたよ、お前は自慢の娘だったんだけどなぁ・・・」
「まさかこんなに早く嫁いじゃうなんて思わなかったからねぇ~・・・」
感極まっているのだろう、声まで震わせて娘に必死に言葉を掛ける克典と春香は普段の教育パパママでは無かった、娘の幸せを願い、また送り出す寂しさに涙を見せる、一介の人の親に他ならなかったのだ。
「透くんを、あんまり困らせるんじゃないぞ?ちゃんと幸せにしてもらえ」
「もー、当たり前じゃん。お父さんたら・・・」
「でもな、辛かったらいつでも帰っておいでな?」
「大丈夫だよ、透はそんな人じゃないから」
と、自身も涙ぐみながらそこはキッパリと言い放つ柚希だったがやはり、両親にも夫の事をもっと信用して欲しいと思う辺り、彼女もいつの間にか妻としての心構えが出来はじめていると言ったところか。
コンコン。
「はい」
「ああ、透くん!!」
ガチャリと言う音と共に新郎が部屋に入って来た。
黒い紋付き袴姿の透だ、髪の毛はオールバックにして整え、手には扇子を持っている。
「おじさん。いや、あのお義父さん・・・」
「あはははは・・・」
「やっぱりまだ違和感があるね、透くん」
「まあ最初っから息子みたいなモンだったけどな!!」
と、透に義父呼ばわりされた克典が苦笑交じりにそう応える。
「お義父さん、お義母さん。今後はどうかよろしくお願い致します」
「こちらこそです!!」
「どうかよろしく、娘共々よろしくお願いします!!」
「透・・・」
「柚希・・・」
目の前に義理の(実の)父母がいるにも関わらずそっちのけで見つめ合う透と柚希。
もう完全に二人っきりの世界である。
「可愛いよ柚希、ううん、うんと綺麗だよ、世界で一番綺麗だ!!」
「透・・・。ありがとう。透も凄く格好いいよ、世界で一番格好いい!!」
「あはは・・・。ありがとう柚希」
「二人とも立派だよ」
「本当だね、絵になるよ!!」
「あははは・・・。ありがとうございます」
「・・・じゃあ取り敢えず」
「式までは二人っきりで、ね。話したい事もあるだろうから・・・」
「後でプランナーさんが来るから。指示を聞くようにな」
「・・・どうも」
「ありがとう、また後でね!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「いや~、なんかさ。改めてなんか喋んなくちゃって思うと、なんかさ」
「あははははっ。な、なんかね・・・」
「柚希はさ、その・・・」
「・・・なに!?」
「あははは、なんかさ。何つったら良いのかな・・・」
「ねーっ。急に言われてもねぇっ!!」
「・・・柚希」
「ん・・・」
「幸せに、なろうな。てかするから、必ず!!」
「ん。必ず。なろうね!!」
そう告げるとまだ朱を塗る前の柚希の唇に、透はソッと唇を重ねた。
夫婦となってからももう何度もしているキスだけど、今日のは特別。
「柚希、愛してるよ」
「私も愛してるよ、透。ううん、あなた」
お互いにそう告げ合うと、二人はまたどちらともなくキスをした。
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