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夫婦の絆と子供への思い
“女王位選抜試験” その5
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「・・・リエラ、そっちに行ったぞ?」
「解ってるよ、翔太!!!」
夜のルテティア旧市街地の一角で片耳に装着したヘアピン型ヘッドホンに於いて連絡を取り合いつつも、翔太とリエラが相手チームに対して追撃を行っていた。
今現在、彼等は“女王位選抜試験”を受けている真っ最中であり、予選を難なくクリアーしたリエラチームは見事に本選へと駒を進めていたのだ。
ちなみに女王位選抜試験は予選から本選の第二試合まではサバイバル方式のチーム対抗戦となっていて、それが済んだ後の第三戦からはトーナメント方式の個人戦となり、個々の身体能力や技量、精神力に人格の高潔さ等が試される運びとなっていたのである。
「リエラ、相手チームの五人の内で三人は捕縛した。あと二人倒せばあたしらの勝ちだ!!!」
「了解っ。サロメもリュシーも有り難うっ!!!」
通信機器の向こう側で息巻く戦友二人に謝意を伝えるリエラであったが、この女王位選抜試験は毎年開催されている訳ではなくて、女王位に欠員が出るか、または将来的に欠員が出る事が確実視されてから始めて開催が決定される運びとなっていた。
その過酷な競技内容に多くの者が振るいに掛けられて脱落し、中には死者が出る事もあったがしかし、それでも誰もが皆、憧れを持って女王位を目指し、邁進して行った、ある者は野望の為に、またある者は名声を得る為に。
中には純粋に国を守る為にその身を捧げる者達もいたが、そんな歴代女王位の中でも“レジェンド”と呼ばれている実力者達が何名か存在していて、彼女達は特に羨望と敬意の眼差しを持って後輩達から見つめられていたのである。
「リエラ、相手2名は直上にいるぞ?君に急降下して来るっ!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?」
“自分もそうありたい”と、リエラは密かに願っていた、彼女が目標とするのは自身の師匠であると同時に“レジェンド”に名を連ねるメリアリアであったがリエラはまだ知らなかった、そのメリアリアは別になりたくて女王位に就いた訳では無かったのだ、と言う事に。
「リエラ、避けろっ!!!」
翔太が叫ぶのとリエラが相手の殺気に気付いて回避運動に移るのは、殆ど同時であった、彼女は優れた感受性と女性特有の広くて柔い関節稼働領域を最大に活かした高機動戦術を得意としており、そこに更に“茨の聖鞭”を取り入れて攻守共に隙の無い強さを誇っていたのだ。
もっとも。
それをリエラは教えてくれたのも他ならぬメリアリアだった、彼女直伝の鞭を用いた素早くて正確な打撃術とハイスピード戦闘技術はリエラをして彼女を次期女王候補筆頭に押し上げるに至っていたのである。
「ちいぃっ!!?」
「気付かれたっ、来るよ?クロエッ!!!」
相手チームの襲撃役二人はリエラの瞬足に舌を巻きつつも、自分達もすぐにそれに対処して位置を変えようと試みる。
しかし。
「てやああぁぁぁっ!!!」
“ビュンッ”、“ビュバッ!!!”と言う風切り音が響いたかと思うと廃ビルの屋上から壁伝いに駆け下りてきていた二人は共にあともう少しで標的であるリエラに手を伸ばせる位置まで来た時、“茨の鞭”の直撃を受けて地ベタへと打ち落とされ、叩き付けられていた。
「うぐっ!!?」
「ぐは・・・っ!!!」
撃墜された二人はそのまま地面に倒れ伏し、失神してしまった、その様子を見ていたリエラと翔太はまずは“残心”を取って様子を見、“危険は無い”と判断してから彼女達に駆け寄って身体の容態を探る。
「・・・・・」
「・・・うん、骨や内臓に異常は無いみたいだね!!!」
“流石だよリエラ!!!”と翔太が幼馴染を称えると、リエラは嬉しそうに“当たり前じゃない!!!”と応えて返した。
「だけど翔太は凄いわ?ちゃんと私のサポートをしてくれるし、敵の位置も私よりも早く気付けるし。本当に助かっちゃうわ!!?」
「あはは・・・。まあ、なんていうか。お役に立てたなら嬉しいよ・・・!!!」
リエラの言葉に少年が照れるが、男性の彼は本来であればこの選抜試験の対象外であり、言わば部外者的存在である。
だけど。
「翔太がいてくれて、その。本当に助かるし。それに、あの・・・。私も嬉しいし・・・!!!」
「・・・僕も嬉しいよ?リエラ。君と一緒に戦えるなんて!!!」
「・・・・・っ。本当に!!?」
どうしても数を揃えられなかったチームは団体選抜の間だけ、特例として男性を起用しても良い事となっていたのであり、そのルールに目を付けたリエラが翔太を誘ったのだ。
表面上はそれとなく、さり気なく、しかし本心では熱烈なまでに彼女は彼を欲していた、翔太と居ればどんな厳しい環境下に於いてもやっていける様な感じがしたし、何よりも勇気がもらえて心が休まるのである。
それに実際に翔太は役に立ってくれていた、チーム対抗戦の間に、彼が撃破した相手選手は実に10人を超えておりリエラの8人を上回っていたし、また直接的では無いにしても撃破をアシストしてくれてもいて、その重要性は他のチームメイトであるサロメとリュシーも認めていた。
「やるじゃん、翔太。あんたこんなに強かったんだね!!?」
「本当だよね?こんなことならもっと早くにウチらと組んでくれたら良かったのに!!!」
「あ、あははっ。あははははは・・・!!!」
戦友二人に絡まれている翔太を見ていて、リエラはリュシーとサロメに嫉妬すると同時に何だか誇らしい気分になってしまった、彼が褒められ、認められるのは我が事のように嬉しかったし、何よりも幸せな気分になれるが、一方で。
そんな和気あいあいとしているリエラチームを、廃ビルの屋上から憂いを帯びた瞳で観察している女性がいた、メリアリアだ。
煌めく長い金髪を夜風に棚引かせつつ、左右対称の美しい容を下に向けて愛弟子達の様子を見ているが、そんな彼女の周りには他にもアウロラ、オリヴィアを始めとして多数のセイレーンの先達メンバーが集まって来ていた。
応援するチームはそれぞれで異なるが、全員の目的は概ね一致していた“この戦いを見届ける”と言う、たたそれだけのために総勢で六十名程のかつてのセイレーンやミラベルに所属していた面々が、十名前後の小集団に別れて様々な廃ビルの屋上から選抜試験の推移を見守っていたのである。
「・・・ですけど、あの。本当によろしかったのですか?蒼太さんに知らせなくて」
「そうだぞ?メリアリア。まあ君の気持ちも解るが・・・。蒼太はそんな事は気にしていないと思うけど」
愛妻淑女と同様に、純白の聖力ローブに身を包んで口々に訴える青髪令嬢と黒髪貴女であったがちなみに。
ただし蒼太はこの場には来ていない、メリアリアが敢えて知らせなかった為だったのだが、何故かと言えばそれはリエラの一件で彼に迷惑を掛けてしまった、と言う負い目が彼女自身にあったからだ。
だからどうしてもメリアリアは今日の事を言い出せなかった、まあもっとも蒼太も蒼太で“今日は任務で遅くなる”と言っていたから、仮にメリアリアから要請されても応じてくれたかどうか。
「・・・・・」
(ううん、あの人だったら。蒼太だったら私の為に、何とか時間を作ってくれただろうな。蒼太はそう言う人だから・・・)
メリアリアが内心で夫のいない寂しさと、彼に対する申し訳なさに一人で耐えていると。
「リエラさんが勝てると良いですわね、メリアリアさん・・・」
「それは、な?しかしこれから先は相手も強者揃いの上に、今年はクセ者も揃っている、と聞く。一筋縄では行かないだろう・・・」
沈黙を守っているメリアリアの横でアウロラとオリヴィアがそれぞれに再び声を挙げるが今回、充当される女王位の席は三つあり、つまりは三名が新たな女王位として選ばれる運びとなっていた、だから可能性が全くないと言う訳では無いモノの、しかし。
「女王位は、そんなに甘くは無いわ・・・?」
メリアリアがおもむろに口を開いた、彼女は弱冠12歳の時に上層部の意向によって半ば無理矢理に女王位に選出され、それから実に10年間もの間その座に居続けた女傑である、今や女王位とはなんなのか、どうあるべきなのか、と言う事を知り尽くしていた存在である、と言う事が出来た。
「女王位はなる事も難しいけれど、なってからの方が余程大変なのよ?憖っかな覚悟と実力しか無いのならば、むしろここで落とされた方があの子達の為になる・・・」
「・・・それは、まあ。確かにそうですけれど」
「今まで見たところでは、あのリエラと言う少女に隙はないし落ち度もない。・・・もっとリラックスしても大丈夫だと思うぞ?」
そう言ってアウロラやオリヴィアが言葉を発するモノの、メリアリアは今回、出来ればリエラには出場を辞退して欲しいと思っていたのである。
それと言うのは自身の経験によるモノだったのだが彼女は女王位になってから心の休まる暇が無かった、任務は辛くて苦しいモノばかりだったし、時には死を覚悟した事だってある、とてもでは無いが他人に奨めたい職業や役割等では断じて無かったのだ。
唯一の例外が、蒼太が一緒にいてくれた事だった、彼と一緒に過ごしていた時だけが、彼女から不安と恐怖を取り去り、心に安らぎを与えてくれたのであるモノの、しかし。
メリアリアはまだ、リエラにとって翔太が“そう言う存在”である事を知らなかった、彼女だとて神では無い、解らない事だって勿論あったし、それに彼女達がこの選抜試験を観戦に来たのは今回が初めてだ、予選は原則非公開で行われるから関係者以外の立ち入りは固く禁じられていた。
「それにしても。あの男の子はなんなのでしょうね、リエラさんの知り合いでしょうか?情報によると予選からずっと一緒にいるみたいですけれど・・・」
「直感力と反射神経がズバ抜けているな、それに体力や気力等もリエラに引けを取らない。もし彼が女だったら素晴らしい女王位候補になっただろうに・・・」
「・・・・・」
それに付いてメリアリアが口を開こうとした、その時だ。
「おい、大変だ。“風の導き手”がいるぞ!!?」
遅れて現場に到着した女性メンバーの一人が、息を切らせつつも大声でそう訴えたのだ。
「・・・・・っっっ!!!!?」
「え、え・・・っ!!?」
「風の導き手・・・っ。蒼太かっ!!?」
3人がビックリして振り向き様にその女性メンバーに尋ねると彼女は呼吸を整えつつも“ああ・・・っ!!!”としっかりと頷いた。
「しかも一人じゃないぞ?何だか美しい女性と一緒だった、長く伸びた赤い髪の毛に蒼い双眸をしていて純白のドレスを着ている・・・」
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「・・・セリカだっ!!!」
オリヴィアがそう言い終わるや否や、メリアリアは早歩きでその女性メンバーに近付いて、思いっ切り鋭く問い質していた。
「どこに居たの?教えなさいっ、早くっっっ!!!!!」
「あ、ああ・・・っ。ここから割かし近くの廃ビルの屋上だよ、かつてのガリア航空の本社跡地の・・・!!!」
そこまで聞いたメリアリアはいても立ってもいられなくなって、まるで弾かれるようにして直ぐさまその場から蒼太の元へとすっ飛んで行き、アウロラとオリヴィアも急いでそれに続いた。
「解ってるよ、翔太!!!」
夜のルテティア旧市街地の一角で片耳に装着したヘアピン型ヘッドホンに於いて連絡を取り合いつつも、翔太とリエラが相手チームに対して追撃を行っていた。
今現在、彼等は“女王位選抜試験”を受けている真っ最中であり、予選を難なくクリアーしたリエラチームは見事に本選へと駒を進めていたのだ。
ちなみに女王位選抜試験は予選から本選の第二試合まではサバイバル方式のチーム対抗戦となっていて、それが済んだ後の第三戦からはトーナメント方式の個人戦となり、個々の身体能力や技量、精神力に人格の高潔さ等が試される運びとなっていたのである。
「リエラ、相手チームの五人の内で三人は捕縛した。あと二人倒せばあたしらの勝ちだ!!!」
「了解っ。サロメもリュシーも有り難うっ!!!」
通信機器の向こう側で息巻く戦友二人に謝意を伝えるリエラであったが、この女王位選抜試験は毎年開催されている訳ではなくて、女王位に欠員が出るか、または将来的に欠員が出る事が確実視されてから始めて開催が決定される運びとなっていた。
その過酷な競技内容に多くの者が振るいに掛けられて脱落し、中には死者が出る事もあったがしかし、それでも誰もが皆、憧れを持って女王位を目指し、邁進して行った、ある者は野望の為に、またある者は名声を得る為に。
中には純粋に国を守る為にその身を捧げる者達もいたが、そんな歴代女王位の中でも“レジェンド”と呼ばれている実力者達が何名か存在していて、彼女達は特に羨望と敬意の眼差しを持って後輩達から見つめられていたのである。
「リエラ、相手2名は直上にいるぞ?君に急降下して来るっ!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?」
“自分もそうありたい”と、リエラは密かに願っていた、彼女が目標とするのは自身の師匠であると同時に“レジェンド”に名を連ねるメリアリアであったがリエラはまだ知らなかった、そのメリアリアは別になりたくて女王位に就いた訳では無かったのだ、と言う事に。
「リエラ、避けろっ!!!」
翔太が叫ぶのとリエラが相手の殺気に気付いて回避運動に移るのは、殆ど同時であった、彼女は優れた感受性と女性特有の広くて柔い関節稼働領域を最大に活かした高機動戦術を得意としており、そこに更に“茨の聖鞭”を取り入れて攻守共に隙の無い強さを誇っていたのだ。
もっとも。
それをリエラは教えてくれたのも他ならぬメリアリアだった、彼女直伝の鞭を用いた素早くて正確な打撃術とハイスピード戦闘技術はリエラをして彼女を次期女王候補筆頭に押し上げるに至っていたのである。
「ちいぃっ!!?」
「気付かれたっ、来るよ?クロエッ!!!」
相手チームの襲撃役二人はリエラの瞬足に舌を巻きつつも、自分達もすぐにそれに対処して位置を変えようと試みる。
しかし。
「てやああぁぁぁっ!!!」
“ビュンッ”、“ビュバッ!!!”と言う風切り音が響いたかと思うと廃ビルの屋上から壁伝いに駆け下りてきていた二人は共にあともう少しで標的であるリエラに手を伸ばせる位置まで来た時、“茨の鞭”の直撃を受けて地ベタへと打ち落とされ、叩き付けられていた。
「うぐっ!!?」
「ぐは・・・っ!!!」
撃墜された二人はそのまま地面に倒れ伏し、失神してしまった、その様子を見ていたリエラと翔太はまずは“残心”を取って様子を見、“危険は無い”と判断してから彼女達に駆け寄って身体の容態を探る。
「・・・・・」
「・・・うん、骨や内臓に異常は無いみたいだね!!!」
“流石だよリエラ!!!”と翔太が幼馴染を称えると、リエラは嬉しそうに“当たり前じゃない!!!”と応えて返した。
「だけど翔太は凄いわ?ちゃんと私のサポートをしてくれるし、敵の位置も私よりも早く気付けるし。本当に助かっちゃうわ!!?」
「あはは・・・。まあ、なんていうか。お役に立てたなら嬉しいよ・・・!!!」
リエラの言葉に少年が照れるが、男性の彼は本来であればこの選抜試験の対象外であり、言わば部外者的存在である。
だけど。
「翔太がいてくれて、その。本当に助かるし。それに、あの・・・。私も嬉しいし・・・!!!」
「・・・僕も嬉しいよ?リエラ。君と一緒に戦えるなんて!!!」
「・・・・・っ。本当に!!?」
どうしても数を揃えられなかったチームは団体選抜の間だけ、特例として男性を起用しても良い事となっていたのであり、そのルールに目を付けたリエラが翔太を誘ったのだ。
表面上はそれとなく、さり気なく、しかし本心では熱烈なまでに彼女は彼を欲していた、翔太と居ればどんな厳しい環境下に於いてもやっていける様な感じがしたし、何よりも勇気がもらえて心が休まるのである。
それに実際に翔太は役に立ってくれていた、チーム対抗戦の間に、彼が撃破した相手選手は実に10人を超えておりリエラの8人を上回っていたし、また直接的では無いにしても撃破をアシストしてくれてもいて、その重要性は他のチームメイトであるサロメとリュシーも認めていた。
「やるじゃん、翔太。あんたこんなに強かったんだね!!?」
「本当だよね?こんなことならもっと早くにウチらと組んでくれたら良かったのに!!!」
「あ、あははっ。あははははは・・・!!!」
戦友二人に絡まれている翔太を見ていて、リエラはリュシーとサロメに嫉妬すると同時に何だか誇らしい気分になってしまった、彼が褒められ、認められるのは我が事のように嬉しかったし、何よりも幸せな気分になれるが、一方で。
そんな和気あいあいとしているリエラチームを、廃ビルの屋上から憂いを帯びた瞳で観察している女性がいた、メリアリアだ。
煌めく長い金髪を夜風に棚引かせつつ、左右対称の美しい容を下に向けて愛弟子達の様子を見ているが、そんな彼女の周りには他にもアウロラ、オリヴィアを始めとして多数のセイレーンの先達メンバーが集まって来ていた。
応援するチームはそれぞれで異なるが、全員の目的は概ね一致していた“この戦いを見届ける”と言う、たたそれだけのために総勢で六十名程のかつてのセイレーンやミラベルに所属していた面々が、十名前後の小集団に別れて様々な廃ビルの屋上から選抜試験の推移を見守っていたのである。
「・・・ですけど、あの。本当によろしかったのですか?蒼太さんに知らせなくて」
「そうだぞ?メリアリア。まあ君の気持ちも解るが・・・。蒼太はそんな事は気にしていないと思うけど」
愛妻淑女と同様に、純白の聖力ローブに身を包んで口々に訴える青髪令嬢と黒髪貴女であったがちなみに。
ただし蒼太はこの場には来ていない、メリアリアが敢えて知らせなかった為だったのだが、何故かと言えばそれはリエラの一件で彼に迷惑を掛けてしまった、と言う負い目が彼女自身にあったからだ。
だからどうしてもメリアリアは今日の事を言い出せなかった、まあもっとも蒼太も蒼太で“今日は任務で遅くなる”と言っていたから、仮にメリアリアから要請されても応じてくれたかどうか。
「・・・・・」
(ううん、あの人だったら。蒼太だったら私の為に、何とか時間を作ってくれただろうな。蒼太はそう言う人だから・・・)
メリアリアが内心で夫のいない寂しさと、彼に対する申し訳なさに一人で耐えていると。
「リエラさんが勝てると良いですわね、メリアリアさん・・・」
「それは、な?しかしこれから先は相手も強者揃いの上に、今年はクセ者も揃っている、と聞く。一筋縄では行かないだろう・・・」
沈黙を守っているメリアリアの横でアウロラとオリヴィアがそれぞれに再び声を挙げるが今回、充当される女王位の席は三つあり、つまりは三名が新たな女王位として選ばれる運びとなっていた、だから可能性が全くないと言う訳では無いモノの、しかし。
「女王位は、そんなに甘くは無いわ・・・?」
メリアリアがおもむろに口を開いた、彼女は弱冠12歳の時に上層部の意向によって半ば無理矢理に女王位に選出され、それから実に10年間もの間その座に居続けた女傑である、今や女王位とはなんなのか、どうあるべきなのか、と言う事を知り尽くしていた存在である、と言う事が出来た。
「女王位はなる事も難しいけれど、なってからの方が余程大変なのよ?憖っかな覚悟と実力しか無いのならば、むしろここで落とされた方があの子達の為になる・・・」
「・・・それは、まあ。確かにそうですけれど」
「今まで見たところでは、あのリエラと言う少女に隙はないし落ち度もない。・・・もっとリラックスしても大丈夫だと思うぞ?」
そう言ってアウロラやオリヴィアが言葉を発するモノの、メリアリアは今回、出来ればリエラには出場を辞退して欲しいと思っていたのである。
それと言うのは自身の経験によるモノだったのだが彼女は女王位になってから心の休まる暇が無かった、任務は辛くて苦しいモノばかりだったし、時には死を覚悟した事だってある、とてもでは無いが他人に奨めたい職業や役割等では断じて無かったのだ。
唯一の例外が、蒼太が一緒にいてくれた事だった、彼と一緒に過ごしていた時だけが、彼女から不安と恐怖を取り去り、心に安らぎを与えてくれたのであるモノの、しかし。
メリアリアはまだ、リエラにとって翔太が“そう言う存在”である事を知らなかった、彼女だとて神では無い、解らない事だって勿論あったし、それに彼女達がこの選抜試験を観戦に来たのは今回が初めてだ、予選は原則非公開で行われるから関係者以外の立ち入りは固く禁じられていた。
「それにしても。あの男の子はなんなのでしょうね、リエラさんの知り合いでしょうか?情報によると予選からずっと一緒にいるみたいですけれど・・・」
「直感力と反射神経がズバ抜けているな、それに体力や気力等もリエラに引けを取らない。もし彼が女だったら素晴らしい女王位候補になっただろうに・・・」
「・・・・・」
それに付いてメリアリアが口を開こうとした、その時だ。
「おい、大変だ。“風の導き手”がいるぞ!!?」
遅れて現場に到着した女性メンバーの一人が、息を切らせつつも大声でそう訴えたのだ。
「・・・・・っっっ!!!!?」
「え、え・・・っ!!?」
「風の導き手・・・っ。蒼太かっ!!?」
3人がビックリして振り向き様にその女性メンバーに尋ねると彼女は呼吸を整えつつも“ああ・・・っ!!!”としっかりと頷いた。
「しかも一人じゃないぞ?何だか美しい女性と一緒だった、長く伸びた赤い髪の毛に蒼い双眸をしていて純白のドレスを着ている・・・」
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「・・・セリカだっ!!!」
オリヴィアがそう言い終わるや否や、メリアリアは早歩きでその女性メンバーに近付いて、思いっ切り鋭く問い質していた。
「どこに居たの?教えなさいっ、早くっっっ!!!!!」
「あ、ああ・・・っ。ここから割かし近くの廃ビルの屋上だよ、かつてのガリア航空の本社跡地の・・・!!!」
そこまで聞いたメリアリアはいても立ってもいられなくなって、まるで弾かれるようにして直ぐさまその場から蒼太の元へとすっ飛んで行き、アウロラとオリヴィアも急いでそれに続いた。
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