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夫婦の絆と子供への思い
“女王位選抜試験” その1
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メリアリアもアウロラもオリヴィアも、蒼太との逢瀬に現を抜かしていた訳では決して無かった、現役時代は勿論の事、引退してからも毎日のようにキチンとした自主トレを敢行しており、また新たに“茨の聖女”の役割を与えられてからは本格的な修業に汗を流す日々を送っていたのである。
もっとも。
これについては彼女達の夫である蒼太もまた同様であり、それ故にだから、彼等の身体能力と感性は“衰える”と言う事を知らなかった。
特に“神人化”の効能のお陰で肉体的な年齢を重ねなくて済むようになっていた蒼太やメリアリア達は、最盛期の力はそのままに、どんどん技術的なそれや精神的な円熟味が増して来ており、事情を知っている子供達や周囲の者達から羨ましがられていたのだ。
「父さん達は良いなぁ、歳を取らないでいられるなんて・・・!!!」
「あはは・・・。アラン、君にもその内に教えてあげるよ。だから今は自分自身の行くべき道を探して、鍛錬に邁進するんだよ?」
蒼太は家にいる時は、ちょくちょく子供達との接触を図るようにしていた、そうやって彼等に自分達が今まで潜り抜けて来た激戦や試練の内容を話したり、また実際に彼等のトレーニングに立ち会ったりしてその都度指導を熟していたのだ。
大概の場合、途中でメリアリアやアウロラ、オリヴィアと言った愛妻達がやって来て自分の隣に寄り添いながら、その身を押し付けて来るモノの、彼女達も彼女達で普段の時はともかく、本当に大事な内容を伝えている場合は話の腰を折るような真似はしないでいてくれたから、蒼太は安心して子供達に(特に長男と長女には)自分の経験や技術を継承させる事が出来たのであった。
そんなある日。
「ねえあなた、ちょっと良い・・・?」
「なにさメリー。どうかしたのか・・・?」
昼食を採った後に庭で呑気に日なたぼっこをしていた青年の元に、彼の戦友にして一番の愛妻であるメリアリアがやって来た。
「リエラを、覚えているかしら・・・?」
「ああ」
花嫁からのその問い掛けに、蒼太が頷きながら応じた。
「君の弟子だった女の子だろ?ちょっと男勝りな感じのする、だけどとっても真っ直ぐでいい子だと思うよ?それがどうしたのさ・・・」
「そのリエラがね?今度本格的に女王位への昇格試験を受ける決心をしたんだって。この前手紙で知らせて来たの・・・」
「・・・・・」
「あなたも知っている、とは思うけれど・・・。女王位と言うのは魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”の中でも最上位に位置しているの、憖っかな事ではその位を極める事はおろか。そもそも論として手を出す事さえ出来ないわ?」
「その女王位になりたいと、リエラが突然言いだした。理由がなんなのかは気になるけれど、個人的には応援したいね。ぜひ頑張って欲しいけど・・・」
「うん。あの、あのね・・・?それだけだったら別に良いの、ただちょっと気になる情報があって・・・。セリカを憶えてる?」
「・・・まあ、ね?忘れたくてもそう簡単には忘れられないキャラをしているからね、アイツは。それで?そのセリカがどうした」
「・・・・・」
夫の問い掛けにメリアリアが一瞬、確実に彼から目を逸らせ、その後でやや後ろめたそうに応えた。
「どこで嗅ぎ付けたのかは、解らないんだけど・・・。最近頻りに“自分もそのレースに参加してみたい”って言っているみたいなの。“この国の茨の女王がどの程度のモノなのか見てみたい”って、周囲に言い触らしているんだって・・・」
「・・・バカな事を!!!」
“はあぁ・・・っ!!!”と深い溜息を付きながら蒼太が言った。
「これだ、こうなるからセリカを傍に置きたくなかったんだ。時折突拍子もない事を言い出すからな、アイツは!!!」
「今はアウロラがなんとか宥めて、押さえてくれてるみたいなんだけど・・・。如何にあの子でもセリカを相手にいつまで持つか・・・」
「・・・・・っ。解ったよ、メリー」
切羽詰まった顔色でそう訴え掛けて来る愛妻に、蒼太が苦笑しながら告げた。
「要するに・・・。セリカをなんとかして欲しいんだろ?」
「・・・・・っ。うん」
その言葉に、メリアリアが泣きそうな表情を浮かべて蒼太に詰め寄る。
「あなただけを行かせはしないわ?私も勿論、一緒に行くから・・・。ただ、その。いざの際に、セリカがどう言う戦法を使ってくるのかが解らなくって・・・」
「・・・なるほど、解った。つまりサポートをして欲しいんだね?」
蒼太の言葉にメリアリアが、改めてコクンと頷いた。
「万が一の場合は戦闘は私がこなします、ただ・・・。あなたにはセリカの妹達からの手出しの排除や、もし私が劣勢になった場合の助太刀をお願いしたいの・・・」
「全然良いよ、そんなの。って言うか、むしろやらせてくれ!!!」
力強く言い切ってくれた夫に対して、漸く明るい面持ちとなりながらも、しかしやはり何処か申し訳無さそうにメリアリアが謝意を表した。
「どうも有り難う、あなた。そう言ってくれると思ってた、けど。あの・・・、ごめんなさい。せっかくセリカとの戦いやいざこざを終えたばかりだって言うのに・・・」
「・・・メリー」
するとそんな愛妻淑女に対して蒼太が優しく声を掛ける。
「今回の話は、そもそも何処から出て来たんだい?まあ多分、セリカの動向を知っているのはアウロラだから。あの子から知らせて来たんだろうとは思うけど・・・」
「・・・うん、あの。実はその通りで、アウロラが緊急の使いを寄越して教えてくれたの。それでね?“あなたに相談すべきかどうか迷っている”と」
「・・・それで。君が君の判断で打ち明けてくれたのか?」
「うん・・・。だって“夫婦で隠し事はしない”って言ったし、それに・・・。私達、もう他人じゃ無いと思ったから・・・」
「・・・・・っ。おいで?メリー」
おどおどと小さな声で応えるメリアリアに対して蒼太が微笑みながら告げた。
「嬉しいな、言いにくい事もちゃんと言ってくれるんだね?昔の君は、僕の事を思ってくれているのは嬉しかったんだけど・・・。何でも自分で抱え込もうとするキライがあったからさ、ちょっと心配していたんだ」
「う、それは・・・。だってもう、夫婦になったんだし。あなたの事は私の事でもあるもの、それに逆の立場だったらいくら気を遣ってくれているとは言えども。こんな大事な事を内緒にされるのは悲しいし、何より悔しくて辛い事だから・・・!!!」
自身の胸の中に転がり込んで来た花嫁の、柔い体の感触を確かめながら蒼太が彼女の言葉に耳を傾ける。
「正直に言って、セリカは強いわ?この前相対した時に一目見て解ったもの、ここがもし“プロイセン”で。彼女が“眠りの森の守護”を得ているのだとするならば、私の“フルバーストモード”を以てしても勝てるかどうか・・・」
「・・・・・」
「でも、だけど・・・。如何に“茨の女帝”とは言っても、決して不死身でも無ければ無敵でもない。必ず攻略法はあると思うの・・・」
「・・・かなり以前の話になるけれど。“カインの子供達”や“黄昏のルクレール”との戦いで、僕が使った戦法を憶えているか?メリー」
「知っているわ・・・」
蒼太の声掛けに愛妻淑女が応じた。
「茨の女王に打ち勝つのは困難だ、だけど・・・。勝てないのならば、せめて負けなければ良い。そう言う戦法を使ったね」
「うん・・・」
「それにもう一つ二つ、スパイスを加えてやろう?メリー・・・」
「・・・・・っ。何かやりようがあるのねっ!!?」
メリアリアの顔付きがパッと明るいモノとなった。
「当たり前じゃないか、メリー。僕はね?勝てない戦いはしない主義なんだ!!!」
「・・・もう、蒼太ったら。悪い人なんだから!!!」
“あはははっ!!!”と二人で笑い合うと、彼等は早速夫婦水入らずの作戦会議を始めていった。
(やっぱり・・・。この人は凄い)
彼の話を聞きながら、メリアリアは改めて思うモノの、彼自身が力強くて頼もしいのは勿論なのだがそれ以外にもとにかく蒼太は場を明るくして和ませてくれるのである。
“彼がいれば必ずなんとかしてくれる”と言う絶対的な安心感を周囲に与えてくれるのだが、それに加えて。
「ねえ蒼太・・・」
「ええ・・・っ?なにさ、メリー」
「・・・ううん。何でもない」
普段は万事大人しめな好青年と言った出で立ちをしていながらその実、非常事態になると勇猛果敢に敵や困難にぶち当たって行く雄々しさに、メリアリアは惚れ惚れとしていたのである。
勿論、蒼太にだって怖さは間違いなくあるだろう、かく言う自分だって鞭を用いての近接戦闘をこなしているからこそ解るのだが殺気立って武器を持っている相手に思いっ切り肉薄してはその懐に入り込む、等という芸当は常に多大な恐怖や危険と隣り合わせな行動に他ならない。
何故ならばそれは相手の攻撃圏内、即ち“間合い”に明確に入る事になるからだ、だけど。
(格好良いよ?蒼太・・・っっっ❤❤❤❤❤)
蒼太は臆する事無くそれを率先して行い、見事に運命と人生とを切り開いて来た、彼は極限状態下に於いても恐怖に飲み込まれない強さとタフさと心構えを持っているのだ。
「恐怖に負けて体が竦んだり、どうして良いのか解らなくなって身動きが取れなくなったら戦場では間違いなく死ぬ」
「前と背中に目を持て、敏感に相手の気配を感じろ」
「躊躇ったらその瞬間に自分がやられると思え」
それら戦場に於ける鉄則と言うか現実を蒼太は子供の頃から嫌という程味わって来たし、メリアリアもまたそうだった、これも特殊部隊に配属された宿命だ、と思ってその境遇を粛々と、でも時には密かに泣きながらもなんとか受け入れて来たのだが、それだって蒼太がいてくれたからこそ成し得た事に他ならない。
殊に彼が傍にいてくれるとそれだけで本当に心強くて暖かくて、何より勇気と生きる力をもらえたのだ。
(蒼太、私の大切な人。私に生きる力と意味を与えてくれた人、特別な人。だから今度は私が守ってあげる、セリカからも何者からも。必ず私が・・・)
しかしいくらそう決意を新たにしても、結局は常に自分が守られる側なのだ、と言う事をメリアリアは理解していた。
(愛しいメリー、凄く可愛くて大切な人。出来ればこの子にはいつも安寧の中で微笑んでいて欲しい、愛と平和と光の中で笑っていて欲しい。傷一つ付けさせたく無い・・・!!!)
蒼太に意識を向けて、その心の声に耳を傾けると、彼はいつも本気でそう思ってくれていた、否、それだけではない、揺るぎない程にまで真面目で真っ直ぐな熱い思いを常に自分に向けてくれており、それ故にメリアリアは途方にくれるのだ。
(私、幸せ過ぎて怖い・・・っっっ❤❤❤❤❤大好きな人から愛してもらえるのって、こんなにも嬉しくて幸せで。気持ちが良いモノだったんだ!!!)
密かに感じてそう身悶えるメリアリアであったが、元々女性と言うのは男が本当の意味で自分を理解し、真心を尽くして受け止めてくれた時にはそれ以上の恋意と愛慕を抱いてくれるモノなのであり、それになにより。
少なくともメリアリアとはそう言う女性だったから夫に対するこれ以上無い程の超慕と狂愛を胸に秘めつつ、それらをずっと彼に向け続けてくれていたのであった、それはとても幸せで辛く、堪らない位にまで熱くて熱くて、自分でもどうする事も出来ない程の激情的衝動を絶えず彼女自身に生じさせていたのであり、今や愛妻淑女の生きる為の原動力と化していたのである。
「って言うかさ、疑問だよね?セリカのヤツ、どうやって“女王位の選抜試験”に紛れ込むつもりなんだろう・・・」
「そうそれ!!!私も気になっていたんだけれど・・・。一体どうするつもりなんだろうね?」
すっかり明るさを取り戻したメリアリアは青年に嬉しそうにしがみ付きつつ、まるで他人事のように彼の言葉にそう応える。
そもそもが蒼太に対しては健気で純朴な愛情を、ずっと一途に宿し続けて来たメリアリアは今や誰に憚るともなくそれを燃え滾らせつつ彼に寄り添い、満たされた毎日を送り続けていた。
もっとも。
これについては彼女達の夫である蒼太もまた同様であり、それ故にだから、彼等の身体能力と感性は“衰える”と言う事を知らなかった。
特に“神人化”の効能のお陰で肉体的な年齢を重ねなくて済むようになっていた蒼太やメリアリア達は、最盛期の力はそのままに、どんどん技術的なそれや精神的な円熟味が増して来ており、事情を知っている子供達や周囲の者達から羨ましがられていたのだ。
「父さん達は良いなぁ、歳を取らないでいられるなんて・・・!!!」
「あはは・・・。アラン、君にもその内に教えてあげるよ。だから今は自分自身の行くべき道を探して、鍛錬に邁進するんだよ?」
蒼太は家にいる時は、ちょくちょく子供達との接触を図るようにしていた、そうやって彼等に自分達が今まで潜り抜けて来た激戦や試練の内容を話したり、また実際に彼等のトレーニングに立ち会ったりしてその都度指導を熟していたのだ。
大概の場合、途中でメリアリアやアウロラ、オリヴィアと言った愛妻達がやって来て自分の隣に寄り添いながら、その身を押し付けて来るモノの、彼女達も彼女達で普段の時はともかく、本当に大事な内容を伝えている場合は話の腰を折るような真似はしないでいてくれたから、蒼太は安心して子供達に(特に長男と長女には)自分の経験や技術を継承させる事が出来たのであった。
そんなある日。
「ねえあなた、ちょっと良い・・・?」
「なにさメリー。どうかしたのか・・・?」
昼食を採った後に庭で呑気に日なたぼっこをしていた青年の元に、彼の戦友にして一番の愛妻であるメリアリアがやって来た。
「リエラを、覚えているかしら・・・?」
「ああ」
花嫁からのその問い掛けに、蒼太が頷きながら応じた。
「君の弟子だった女の子だろ?ちょっと男勝りな感じのする、だけどとっても真っ直ぐでいい子だと思うよ?それがどうしたのさ・・・」
「そのリエラがね?今度本格的に女王位への昇格試験を受ける決心をしたんだって。この前手紙で知らせて来たの・・・」
「・・・・・」
「あなたも知っている、とは思うけれど・・・。女王位と言うのは魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”の中でも最上位に位置しているの、憖っかな事ではその位を極める事はおろか。そもそも論として手を出す事さえ出来ないわ?」
「その女王位になりたいと、リエラが突然言いだした。理由がなんなのかは気になるけれど、個人的には応援したいね。ぜひ頑張って欲しいけど・・・」
「うん。あの、あのね・・・?それだけだったら別に良いの、ただちょっと気になる情報があって・・・。セリカを憶えてる?」
「・・・まあ、ね?忘れたくてもそう簡単には忘れられないキャラをしているからね、アイツは。それで?そのセリカがどうした」
「・・・・・」
夫の問い掛けにメリアリアが一瞬、確実に彼から目を逸らせ、その後でやや後ろめたそうに応えた。
「どこで嗅ぎ付けたのかは、解らないんだけど・・・。最近頻りに“自分もそのレースに参加してみたい”って言っているみたいなの。“この国の茨の女王がどの程度のモノなのか見てみたい”って、周囲に言い触らしているんだって・・・」
「・・・バカな事を!!!」
“はあぁ・・・っ!!!”と深い溜息を付きながら蒼太が言った。
「これだ、こうなるからセリカを傍に置きたくなかったんだ。時折突拍子もない事を言い出すからな、アイツは!!!」
「今はアウロラがなんとか宥めて、押さえてくれてるみたいなんだけど・・・。如何にあの子でもセリカを相手にいつまで持つか・・・」
「・・・・・っ。解ったよ、メリー」
切羽詰まった顔色でそう訴え掛けて来る愛妻に、蒼太が苦笑しながら告げた。
「要するに・・・。セリカをなんとかして欲しいんだろ?」
「・・・・・っ。うん」
その言葉に、メリアリアが泣きそうな表情を浮かべて蒼太に詰め寄る。
「あなただけを行かせはしないわ?私も勿論、一緒に行くから・・・。ただ、その。いざの際に、セリカがどう言う戦法を使ってくるのかが解らなくって・・・」
「・・・なるほど、解った。つまりサポートをして欲しいんだね?」
蒼太の言葉にメリアリアが、改めてコクンと頷いた。
「万が一の場合は戦闘は私がこなします、ただ・・・。あなたにはセリカの妹達からの手出しの排除や、もし私が劣勢になった場合の助太刀をお願いしたいの・・・」
「全然良いよ、そんなの。って言うか、むしろやらせてくれ!!!」
力強く言い切ってくれた夫に対して、漸く明るい面持ちとなりながらも、しかしやはり何処か申し訳無さそうにメリアリアが謝意を表した。
「どうも有り難う、あなた。そう言ってくれると思ってた、けど。あの・・・、ごめんなさい。せっかくセリカとの戦いやいざこざを終えたばかりだって言うのに・・・」
「・・・メリー」
するとそんな愛妻淑女に対して蒼太が優しく声を掛ける。
「今回の話は、そもそも何処から出て来たんだい?まあ多分、セリカの動向を知っているのはアウロラだから。あの子から知らせて来たんだろうとは思うけど・・・」
「・・・うん、あの。実はその通りで、アウロラが緊急の使いを寄越して教えてくれたの。それでね?“あなたに相談すべきかどうか迷っている”と」
「・・・それで。君が君の判断で打ち明けてくれたのか?」
「うん・・・。だって“夫婦で隠し事はしない”って言ったし、それに・・・。私達、もう他人じゃ無いと思ったから・・・」
「・・・・・っ。おいで?メリー」
おどおどと小さな声で応えるメリアリアに対して蒼太が微笑みながら告げた。
「嬉しいな、言いにくい事もちゃんと言ってくれるんだね?昔の君は、僕の事を思ってくれているのは嬉しかったんだけど・・・。何でも自分で抱え込もうとするキライがあったからさ、ちょっと心配していたんだ」
「う、それは・・・。だってもう、夫婦になったんだし。あなたの事は私の事でもあるもの、それに逆の立場だったらいくら気を遣ってくれているとは言えども。こんな大事な事を内緒にされるのは悲しいし、何より悔しくて辛い事だから・・・!!!」
自身の胸の中に転がり込んで来た花嫁の、柔い体の感触を確かめながら蒼太が彼女の言葉に耳を傾ける。
「正直に言って、セリカは強いわ?この前相対した時に一目見て解ったもの、ここがもし“プロイセン”で。彼女が“眠りの森の守護”を得ているのだとするならば、私の“フルバーストモード”を以てしても勝てるかどうか・・・」
「・・・・・」
「でも、だけど・・・。如何に“茨の女帝”とは言っても、決して不死身でも無ければ無敵でもない。必ず攻略法はあると思うの・・・」
「・・・かなり以前の話になるけれど。“カインの子供達”や“黄昏のルクレール”との戦いで、僕が使った戦法を憶えているか?メリー」
「知っているわ・・・」
蒼太の声掛けに愛妻淑女が応じた。
「茨の女王に打ち勝つのは困難だ、だけど・・・。勝てないのならば、せめて負けなければ良い。そう言う戦法を使ったね」
「うん・・・」
「それにもう一つ二つ、スパイスを加えてやろう?メリー・・・」
「・・・・・っ。何かやりようがあるのねっ!!?」
メリアリアの顔付きがパッと明るいモノとなった。
「当たり前じゃないか、メリー。僕はね?勝てない戦いはしない主義なんだ!!!」
「・・・もう、蒼太ったら。悪い人なんだから!!!」
“あはははっ!!!”と二人で笑い合うと、彼等は早速夫婦水入らずの作戦会議を始めていった。
(やっぱり・・・。この人は凄い)
彼の話を聞きながら、メリアリアは改めて思うモノの、彼自身が力強くて頼もしいのは勿論なのだがそれ以外にもとにかく蒼太は場を明るくして和ませてくれるのである。
“彼がいれば必ずなんとかしてくれる”と言う絶対的な安心感を周囲に与えてくれるのだが、それに加えて。
「ねえ蒼太・・・」
「ええ・・・っ?なにさ、メリー」
「・・・ううん。何でもない」
普段は万事大人しめな好青年と言った出で立ちをしていながらその実、非常事態になると勇猛果敢に敵や困難にぶち当たって行く雄々しさに、メリアリアは惚れ惚れとしていたのである。
勿論、蒼太にだって怖さは間違いなくあるだろう、かく言う自分だって鞭を用いての近接戦闘をこなしているからこそ解るのだが殺気立って武器を持っている相手に思いっ切り肉薄してはその懐に入り込む、等という芸当は常に多大な恐怖や危険と隣り合わせな行動に他ならない。
何故ならばそれは相手の攻撃圏内、即ち“間合い”に明確に入る事になるからだ、だけど。
(格好良いよ?蒼太・・・っっっ❤❤❤❤❤)
蒼太は臆する事無くそれを率先して行い、見事に運命と人生とを切り開いて来た、彼は極限状態下に於いても恐怖に飲み込まれない強さとタフさと心構えを持っているのだ。
「恐怖に負けて体が竦んだり、どうして良いのか解らなくなって身動きが取れなくなったら戦場では間違いなく死ぬ」
「前と背中に目を持て、敏感に相手の気配を感じろ」
「躊躇ったらその瞬間に自分がやられると思え」
それら戦場に於ける鉄則と言うか現実を蒼太は子供の頃から嫌という程味わって来たし、メリアリアもまたそうだった、これも特殊部隊に配属された宿命だ、と思ってその境遇を粛々と、でも時には密かに泣きながらもなんとか受け入れて来たのだが、それだって蒼太がいてくれたからこそ成し得た事に他ならない。
殊に彼が傍にいてくれるとそれだけで本当に心強くて暖かくて、何より勇気と生きる力をもらえたのだ。
(蒼太、私の大切な人。私に生きる力と意味を与えてくれた人、特別な人。だから今度は私が守ってあげる、セリカからも何者からも。必ず私が・・・)
しかしいくらそう決意を新たにしても、結局は常に自分が守られる側なのだ、と言う事をメリアリアは理解していた。
(愛しいメリー、凄く可愛くて大切な人。出来ればこの子にはいつも安寧の中で微笑んでいて欲しい、愛と平和と光の中で笑っていて欲しい。傷一つ付けさせたく無い・・・!!!)
蒼太に意識を向けて、その心の声に耳を傾けると、彼はいつも本気でそう思ってくれていた、否、それだけではない、揺るぎない程にまで真面目で真っ直ぐな熱い思いを常に自分に向けてくれており、それ故にメリアリアは途方にくれるのだ。
(私、幸せ過ぎて怖い・・・っっっ❤❤❤❤❤大好きな人から愛してもらえるのって、こんなにも嬉しくて幸せで。気持ちが良いモノだったんだ!!!)
密かに感じてそう身悶えるメリアリアであったが、元々女性と言うのは男が本当の意味で自分を理解し、真心を尽くして受け止めてくれた時にはそれ以上の恋意と愛慕を抱いてくれるモノなのであり、それになにより。
少なくともメリアリアとはそう言う女性だったから夫に対するこれ以上無い程の超慕と狂愛を胸に秘めつつ、それらをずっと彼に向け続けてくれていたのであった、それはとても幸せで辛く、堪らない位にまで熱くて熱くて、自分でもどうする事も出来ない程の激情的衝動を絶えず彼女自身に生じさせていたのであり、今や愛妻淑女の生きる為の原動力と化していたのである。
「って言うかさ、疑問だよね?セリカのヤツ、どうやって“女王位の選抜試験”に紛れ込むつもりなんだろう・・・」
「そうそれ!!!私も気になっていたんだけれど・・・。一体どうするつもりなんだろうね?」
すっかり明るさを取り戻したメリアリアは青年に嬉しそうにしがみ付きつつ、まるで他人事のように彼の言葉にそう応える。
そもそもが蒼太に対しては健気で純朴な愛情を、ずっと一途に宿し続けて来たメリアリアは今や誰に憚るともなくそれを燃え滾らせつつ彼に寄り添い、満たされた毎日を送り続けていた。
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