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夫婦の絆と子供への思い
“嘆きのセリカ” その7
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エレインと対峙した蒼太は彼女の結界呪法である“闇の衣”を破砕する事には成功したモノの、しかしそれでも尚、エレインは余裕を崩さない。
「テメーに一つ、言っておいてやるよ。蒼太!!!他の連中のはどうだか知らねーけど、私の“闇の衣”はすぐに、そして何度でも復元する事が出来る。嘘だと思うなら試してみなっっっ!!!!!」
「そうさせてもらうっ!!!」
黒衣の魔女の言葉にそう応えるや否や、蒼太は直ぐさま音速を超える速度で剣を振るい、無数の真空波を発生させて空中に浮遊しているエレインに切り込ませていった、しかし。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「ああ・・・っ!!!」
その悉くは彼女に到達する前に“見えない何か”によって阻まれ、攻撃が攻撃としての意味をなさなくなっていた。
「言っただろうが。私の結界呪法はスペシャルなんだよ、他のクズ共のヤツとは出来が違うんだ!!!」
“それだけじゃねえぞ?”とエレインはほくそ笑みながらも告げて来た、“私が場所を移動したならどうなるか・・・”とそう続けて。
「蒼太。テメーは辛うじてこっちの存在を感知出来るみてーだがそれも意識を集中させていれば、の話だろう?言っておいてやるけど、私はやろうと思えば“時渡り”が出来るし高速での空中浮遊術もマスターしている。仮にテメーが自分の事を守れたとしても、メリアリア達の事までは守れねーだろっっっ!!!!!」
そう言い終わると同時にエレインの姿がまたもや掻き消えて行き、気配も微弱にしか感じられなくなってしまう。
様々な場所を素早く移動しているのだろう、“時流の乱れ”が蒼太達の周囲の空間領域の彼方此方で発生しては消えて行く、と言う事を繰り返していた。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「蒼太・・・っ!!!」
堪りかねてメリアリアが叫ぶがこの状況では彼女達も迂闊に動けなかった、もし下手に攻撃を繰り出そうモノならばエレインより先にむしろ蒼太やセリカ達に命中してしまう可能性があったし、それに第一。
(こんなにも高速で彼方此方を移動している存在を、正確に捉える事は困難だ。それに相手は結界呪法を用いている、直撃したとしてもダメージが通る保証は無い・・・)
そう考えて、どうしても積極的な攻勢に打って出る事が出来なくなってしまっていたのだが、そんな彼女達の判断を蒼太は“是”としていた、彼が心配していたのは今のエレインをメリアリア達がいたずらに刺激して、その攻撃の矛先が彼女達に向いてしまう事だったのだから。
(威勢良く見せてはいるけれど・・・。エレインは今、疑心暗鬼に陥っているのだろう。ああ言う用心深くて狡賢いヤツの考える事は大体、見当が付く。奴は明らかにこちらを警戒している、万が一にも“闇の衣”が突破されて自分にダメージが通る事を恐れているんだ・・・!!!)
そう直感した蒼太はもう一度“理力”を生成して聖剣に纏わせると同時に瞳を閉じて再び精神を集中させ始めた、“神人化”を会得している彼はそれ故に時空間を超越した探査を行う事が出来るのであり、もっと言ってしまえば単に距離だけで無く刻間をも克服して、相手に干渉する事が可能となっていたのだ。
特に高次元の世界では“中今”と言って時間も空間も“今、この瞬間”にその全てが集約されて存在しており、ただ単に刻流が過去から未来へと一方向に過ぎ去って行ったり、はたまた遙かな彼方にまで領域が広がっているだけでは無いのである。
そして蒼太は生身の状態でそんな特異的な宇宙に片脚を突っ込んで生きているため、精神を研ぎ澄ませれば過去はおろか未来をある程度までは覗き見る事が出来るし、“神人化”していれば攻撃を発動させると同時にその結果を直に相手にもたらす事が出来た。
ただし。
既に起きてしまった“過去”を見る場合とは違って“未来視”と言うのは非常に困難を極める作業である、何故ならば“様々な可能性の世界が波動状態で”、しかも“ごちゃ混ぜに重なり合って存在しているから”であり、その中でも特に現実的に起こりうるモノだけをキチンと選別しなければならない。
もっと言ってしまえば更に“その内の最たるモノ”に焦点を絞り込まなくてはならず、そんな事は万物の真理や本性を理解している神の領域に達しなければ、まず間違いなく不可能に近かったのだが、蒼太はそれを戦闘と言う極限状態の只中にあって、敢えてやろうとしていたのだ。
まずは余計な雑念を刮ぎ落として意識を丹田に集中させ、それと同時に呼吸を落ち着かせつつも自我を無心の境地へと誘って行く。
そうする事で初めて自分の中に宿り在りたる“神の部分”と直結する事が出来るのだが、そうやって霊性さを最大に発揮させた彼の中には次々とイメージが現れては消えていった、自分が攻撃される未来、メリアリア達が攻撃される未来、そしてセリカ達が攻撃される未来である。
その内でもセリカ達のモノは全体的にぼやけていてあやふやであり、メリアリア達のそれも今一ハッキリとしない。
ところがもう一つの未来だけはヤケにリアリティがあって、細かい部分まで鮮明に透視する事が出来た、即ちエレインが背後から蒼太に忍び寄り、手にした短剣で彼の心臓を背中越しに突き刺す、と言うモノである。
それを見極めた蒼太はそれこそが現実に起こりうる未来だと確信して剣を両手で握り締め、上段に構えた状態で精神を研ぎ澄ませたまま黒衣の魔女の気配を探る、そうしておいてー。
“それ”が自らの背後に出現するや否や、超速で振り向きざま構えた剣を一気呵成に振り下ろした、するとー。
「ぎゃああぁぁぁー・・・っっっ!!!!!」
何も無い筈の空間に亀裂が入って大量の血飛沫が飛び散り、それと同時に断末魔の叫び声が周囲にこだまする。
返り血を浴びないようにと咄嗟に身を逸らせた蒼太がそれでも残心を取っていると、彼が剣を振り抜いた場所から唐突に1人の女が出現してそのままその場に倒れ伏していった。
「・・・・・っっっ!!!!?バ、バカなっ。どうして」
右肩から腹までをバッサリと切り裂かれていた“黒衣の魔女”は呻くようにそれだけ告げると程なく絶命し、全身から力が抜けるがその様子を暫くの間、注意しながら観察していた蒼太は漸く構えを解いて聖剣に付いた血を拭い、腰に掛けていた鞘へと戻した。
「・・・・・っ。蒼太!!!」
「蒼太さんっ!!!」
「やったのか・・・!!?」
そんな夫の姿を見ていた花嫁達が急いで彼の元へと駆け寄って来るが、彼女達はまだ緊張状態の只中にあって、周囲を油断無く警戒している。
「・・・もう、大丈夫だ。エレインの命の灯火は消えたよ?彼女は確実に絶命している、害は無い」
「・・・・・っ。で、でも蒼太。エレインには確か」
「そ、そうですっ。“闇の衣”以外にも例のトリックがあって・・・」
「油断ならない存在なのでは無いか?今、倒した女が本当にエレインだと言う可能性は・・・」
「・・・いいや、本当のエレインだと思う」
するとそれを聞いて何事かを言い掛けた青年に代わってセリカが口を開いた。
「この女は今まで私達が感じていた気配を全身から発散させていたし・・・。それに何より話す時の口調や雰囲気がソックリだった」
「・・・それは。でもコイツには!!!」
「例のトリックの話でしょう?大丈夫よ、蒼太から教えてもらってからは私達もコイツの幻術を警戒していたからね・・・」
そう説明するセリカだったが彼女達が蒼太から教わった内容と言うのは“くれぐれも重ねた掛けの幻術には注意してくれ”と言うモノだったのだ。
「あの日・・・。メリーに言われて気が付いたんだけど、エレインは現実世界ソックリの幻想世界を生み出して。そこにセリカや俺達を閉じ込めようとしていたんだな・・・」
「・・・あなたから連絡をもらって驚いたわ?まさかこんな方法で私達に気が付かれないように、ここまで強力な幻術を操っていたなんて!!!」
そう言ってセリカは過去へと思いを馳せるが、蒼太によれば。
「恐らく、と言う前置詞が付くけれど・・・。エレインは幻影呪術で現実世界と瓜二つの幻想世界を作り出し、それを君達に掛けていたのだろう」
との事だった。
「勿論、どんなに優れたモノであってもいきなり強力な幻影呪術を使用すれば君達に直ぐさま感付かれてしまう可能性がある訳だから。最初は本当に薄らと周囲の景色が霞む程度の濃度で威力を調節しておいて、そこから毎日のように僅かずつエネルギーレベルを上げていったんだろうね。そうやって君達の感覚を麻痺させながら少しずつ自分の手中に取り込んでいったのだろう・・・」
「・・・なるほど」
それを聞いてセリカは妙に納得してしまった、それならば自分に全く感付かれずに直ぐ側にいたラッツェが連れ去られた事にも理解が及ぶと言うモノだ。
「仮に途中で気付かれて“解呪の術式”を用いられたとしても、元々が現実世界とそっくりな幻想世界なのだから幻術がバレる心配が無い。妙な違和感は残ったかも知れないけれど、それでも多分“気のせいか”で終わりだっただろう・・・」
「長い間幻術の中で過ごせば感覚が麻痺させられるだけじゃない、意識も“それが現実だ”と錯覚してしまうからね。と言う事は・・・」
“エレインはかなり長期間に渡って私達のすぐ傍で生活を共にしていた訳ね?”とセリカは結んだ。
「恐らくね?アイツは最初から君達を利用するつもりで狙いを定めていたんだろう。いざとなったら“闇の衣”とこの幻術トリックを使って1人ずつ始末を付ける計画だったのだろうね、本当に恐ろしい女だったよ・・・」
「・・・・・」
「君達が下手に違和感を覚えなくて良かったかも知れないよ?もしそんな事にでもなったらエレインは即座に君達を抹殺していたかも知れなかったのだから・・・」
「・・・蒼太、それは良かったけれど。ラッツェは無事なのかしら?アイツは少なくとも何人かと連携して動いていたみたいだったから、もしかしたならラッツェはもう」
「あはは・・・。心配は要らないよ」
すると神妙そうな面持ちとなってそう告げるセリカに対して蒼太が笑いながら応えた。
「言っただろう?“あっちの自分”達にも声を掛けて動いてもらっている、と。それが三日前の事だから多分、今頃は君の弟も保護されている頃だろうさ・・・」
「・・・だけど。アイツらがラッツェを監禁していた場所が解らないんだよ?」
「エレインが自分から言っていたのだろう?“座敷牢を使っている”と。ハーメルン近辺でそんな施設があるとすれば場所は自ずと限られて来る、目星も付けやすいと思うけど・・・」
蒼太がそんな事をセリカに説明していた時だった、1枚の“風の羽”が彼の頭上からヒラヒラと舞い降りて来て、その掌に収まったのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・それは?」
「向こうの俺達からだよ、どうやらラッツェ君を無事に保護したらしい。多少、衰弱はしているようだけど・・・。それでも命に別状は無いそうだ・・・」
キョトンとした面持ちで尋ねて来る妻達にそう言葉を返すと蒼太はセリカに言った、“良かったな”と。
「これで俺の家を燃やさずにおいてくれるんだろうな?セリカ・・・」
「・・・蒼太」
“有り難う・・・!!!”とセリカは蒼太に頭を下げた。
「テメーに一つ、言っておいてやるよ。蒼太!!!他の連中のはどうだか知らねーけど、私の“闇の衣”はすぐに、そして何度でも復元する事が出来る。嘘だと思うなら試してみなっっっ!!!!!」
「そうさせてもらうっ!!!」
黒衣の魔女の言葉にそう応えるや否や、蒼太は直ぐさま音速を超える速度で剣を振るい、無数の真空波を発生させて空中に浮遊しているエレインに切り込ませていった、しかし。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「ああ・・・っ!!!」
その悉くは彼女に到達する前に“見えない何か”によって阻まれ、攻撃が攻撃としての意味をなさなくなっていた。
「言っただろうが。私の結界呪法はスペシャルなんだよ、他のクズ共のヤツとは出来が違うんだ!!!」
“それだけじゃねえぞ?”とエレインはほくそ笑みながらも告げて来た、“私が場所を移動したならどうなるか・・・”とそう続けて。
「蒼太。テメーは辛うじてこっちの存在を感知出来るみてーだがそれも意識を集中させていれば、の話だろう?言っておいてやるけど、私はやろうと思えば“時渡り”が出来るし高速での空中浮遊術もマスターしている。仮にテメーが自分の事を守れたとしても、メリアリア達の事までは守れねーだろっっっ!!!!!」
そう言い終わると同時にエレインの姿がまたもや掻き消えて行き、気配も微弱にしか感じられなくなってしまう。
様々な場所を素早く移動しているのだろう、“時流の乱れ”が蒼太達の周囲の空間領域の彼方此方で発生しては消えて行く、と言う事を繰り返していた。
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「蒼太・・・っ!!!」
堪りかねてメリアリアが叫ぶがこの状況では彼女達も迂闊に動けなかった、もし下手に攻撃を繰り出そうモノならばエレインより先にむしろ蒼太やセリカ達に命中してしまう可能性があったし、それに第一。
(こんなにも高速で彼方此方を移動している存在を、正確に捉える事は困難だ。それに相手は結界呪法を用いている、直撃したとしてもダメージが通る保証は無い・・・)
そう考えて、どうしても積極的な攻勢に打って出る事が出来なくなってしまっていたのだが、そんな彼女達の判断を蒼太は“是”としていた、彼が心配していたのは今のエレインをメリアリア達がいたずらに刺激して、その攻撃の矛先が彼女達に向いてしまう事だったのだから。
(威勢良く見せてはいるけれど・・・。エレインは今、疑心暗鬼に陥っているのだろう。ああ言う用心深くて狡賢いヤツの考える事は大体、見当が付く。奴は明らかにこちらを警戒している、万が一にも“闇の衣”が突破されて自分にダメージが通る事を恐れているんだ・・・!!!)
そう直感した蒼太はもう一度“理力”を生成して聖剣に纏わせると同時に瞳を閉じて再び精神を集中させ始めた、“神人化”を会得している彼はそれ故に時空間を超越した探査を行う事が出来るのであり、もっと言ってしまえば単に距離だけで無く刻間をも克服して、相手に干渉する事が可能となっていたのだ。
特に高次元の世界では“中今”と言って時間も空間も“今、この瞬間”にその全てが集約されて存在しており、ただ単に刻流が過去から未来へと一方向に過ぎ去って行ったり、はたまた遙かな彼方にまで領域が広がっているだけでは無いのである。
そして蒼太は生身の状態でそんな特異的な宇宙に片脚を突っ込んで生きているため、精神を研ぎ澄ませれば過去はおろか未来をある程度までは覗き見る事が出来るし、“神人化”していれば攻撃を発動させると同時にその結果を直に相手にもたらす事が出来た。
ただし。
既に起きてしまった“過去”を見る場合とは違って“未来視”と言うのは非常に困難を極める作業である、何故ならば“様々な可能性の世界が波動状態で”、しかも“ごちゃ混ぜに重なり合って存在しているから”であり、その中でも特に現実的に起こりうるモノだけをキチンと選別しなければならない。
もっと言ってしまえば更に“その内の最たるモノ”に焦点を絞り込まなくてはならず、そんな事は万物の真理や本性を理解している神の領域に達しなければ、まず間違いなく不可能に近かったのだが、蒼太はそれを戦闘と言う極限状態の只中にあって、敢えてやろうとしていたのだ。
まずは余計な雑念を刮ぎ落として意識を丹田に集中させ、それと同時に呼吸を落ち着かせつつも自我を無心の境地へと誘って行く。
そうする事で初めて自分の中に宿り在りたる“神の部分”と直結する事が出来るのだが、そうやって霊性さを最大に発揮させた彼の中には次々とイメージが現れては消えていった、自分が攻撃される未来、メリアリア達が攻撃される未来、そしてセリカ達が攻撃される未来である。
その内でもセリカ達のモノは全体的にぼやけていてあやふやであり、メリアリア達のそれも今一ハッキリとしない。
ところがもう一つの未来だけはヤケにリアリティがあって、細かい部分まで鮮明に透視する事が出来た、即ちエレインが背後から蒼太に忍び寄り、手にした短剣で彼の心臓を背中越しに突き刺す、と言うモノである。
それを見極めた蒼太はそれこそが現実に起こりうる未来だと確信して剣を両手で握り締め、上段に構えた状態で精神を研ぎ澄ませたまま黒衣の魔女の気配を探る、そうしておいてー。
“それ”が自らの背後に出現するや否や、超速で振り向きざま構えた剣を一気呵成に振り下ろした、するとー。
「ぎゃああぁぁぁー・・・っっっ!!!!!」
何も無い筈の空間に亀裂が入って大量の血飛沫が飛び散り、それと同時に断末魔の叫び声が周囲にこだまする。
返り血を浴びないようにと咄嗟に身を逸らせた蒼太がそれでも残心を取っていると、彼が剣を振り抜いた場所から唐突に1人の女が出現してそのままその場に倒れ伏していった。
「・・・・・っっっ!!!!?バ、バカなっ。どうして」
右肩から腹までをバッサリと切り裂かれていた“黒衣の魔女”は呻くようにそれだけ告げると程なく絶命し、全身から力が抜けるがその様子を暫くの間、注意しながら観察していた蒼太は漸く構えを解いて聖剣に付いた血を拭い、腰に掛けていた鞘へと戻した。
「・・・・・っ。蒼太!!!」
「蒼太さんっ!!!」
「やったのか・・・!!?」
そんな夫の姿を見ていた花嫁達が急いで彼の元へと駆け寄って来るが、彼女達はまだ緊張状態の只中にあって、周囲を油断無く警戒している。
「・・・もう、大丈夫だ。エレインの命の灯火は消えたよ?彼女は確実に絶命している、害は無い」
「・・・・・っ。で、でも蒼太。エレインには確か」
「そ、そうですっ。“闇の衣”以外にも例のトリックがあって・・・」
「油断ならない存在なのでは無いか?今、倒した女が本当にエレインだと言う可能性は・・・」
「・・・いいや、本当のエレインだと思う」
するとそれを聞いて何事かを言い掛けた青年に代わってセリカが口を開いた。
「この女は今まで私達が感じていた気配を全身から発散させていたし・・・。それに何より話す時の口調や雰囲気がソックリだった」
「・・・それは。でもコイツには!!!」
「例のトリックの話でしょう?大丈夫よ、蒼太から教えてもらってからは私達もコイツの幻術を警戒していたからね・・・」
そう説明するセリカだったが彼女達が蒼太から教わった内容と言うのは“くれぐれも重ねた掛けの幻術には注意してくれ”と言うモノだったのだ。
「あの日・・・。メリーに言われて気が付いたんだけど、エレインは現実世界ソックリの幻想世界を生み出して。そこにセリカや俺達を閉じ込めようとしていたんだな・・・」
「・・・あなたから連絡をもらって驚いたわ?まさかこんな方法で私達に気が付かれないように、ここまで強力な幻術を操っていたなんて!!!」
そう言ってセリカは過去へと思いを馳せるが、蒼太によれば。
「恐らく、と言う前置詞が付くけれど・・・。エレインは幻影呪術で現実世界と瓜二つの幻想世界を作り出し、それを君達に掛けていたのだろう」
との事だった。
「勿論、どんなに優れたモノであってもいきなり強力な幻影呪術を使用すれば君達に直ぐさま感付かれてしまう可能性がある訳だから。最初は本当に薄らと周囲の景色が霞む程度の濃度で威力を調節しておいて、そこから毎日のように僅かずつエネルギーレベルを上げていったんだろうね。そうやって君達の感覚を麻痺させながら少しずつ自分の手中に取り込んでいったのだろう・・・」
「・・・なるほど」
それを聞いてセリカは妙に納得してしまった、それならば自分に全く感付かれずに直ぐ側にいたラッツェが連れ去られた事にも理解が及ぶと言うモノだ。
「仮に途中で気付かれて“解呪の術式”を用いられたとしても、元々が現実世界とそっくりな幻想世界なのだから幻術がバレる心配が無い。妙な違和感は残ったかも知れないけれど、それでも多分“気のせいか”で終わりだっただろう・・・」
「長い間幻術の中で過ごせば感覚が麻痺させられるだけじゃない、意識も“それが現実だ”と錯覚してしまうからね。と言う事は・・・」
“エレインはかなり長期間に渡って私達のすぐ傍で生活を共にしていた訳ね?”とセリカは結んだ。
「恐らくね?アイツは最初から君達を利用するつもりで狙いを定めていたんだろう。いざとなったら“闇の衣”とこの幻術トリックを使って1人ずつ始末を付ける計画だったのだろうね、本当に恐ろしい女だったよ・・・」
「・・・・・」
「君達が下手に違和感を覚えなくて良かったかも知れないよ?もしそんな事にでもなったらエレインは即座に君達を抹殺していたかも知れなかったのだから・・・」
「・・・蒼太、それは良かったけれど。ラッツェは無事なのかしら?アイツは少なくとも何人かと連携して動いていたみたいだったから、もしかしたならラッツェはもう」
「あはは・・・。心配は要らないよ」
すると神妙そうな面持ちとなってそう告げるセリカに対して蒼太が笑いながら応えた。
「言っただろう?“あっちの自分”達にも声を掛けて動いてもらっている、と。それが三日前の事だから多分、今頃は君の弟も保護されている頃だろうさ・・・」
「・・・だけど。アイツらがラッツェを監禁していた場所が解らないんだよ?」
「エレインが自分から言っていたのだろう?“座敷牢を使っている”と。ハーメルン近辺でそんな施設があるとすれば場所は自ずと限られて来る、目星も付けやすいと思うけど・・・」
蒼太がそんな事をセリカに説明していた時だった、1枚の“風の羽”が彼の頭上からヒラヒラと舞い降りて来て、その掌に収まったのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・それは?」
「向こうの俺達からだよ、どうやらラッツェ君を無事に保護したらしい。多少、衰弱はしているようだけど・・・。それでも命に別状は無いそうだ・・・」
キョトンとした面持ちで尋ねて来る妻達にそう言葉を返すと蒼太はセリカに言った、“良かったな”と。
「これで俺の家を燃やさずにおいてくれるんだろうな?セリカ・・・」
「・・・蒼太」
“有り難う・・・!!!”とセリカは蒼太に頭を下げた。
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