星降る国の恋と愛

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夫婦の絆と子供への思い

“嘆きのセリカ” その5

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「姉さん、蒼太はなんて言って来たの・・・?」

「・・・敵の正体を、蒼太が掴んでくれたみたいね」

 “本当っ!!?”とミリエラの表情が明るくなり、対するセリカの顔も少しだけ綻んだ。

 今回の事件の詳細に付いての自分達の考察を含めた電文を、蒼太はセリカに送信していたのであるモノの、それは1秒と掛からず彼女の頭上に顕現すると、女帝が伸ばした掌の中にゆっくりと舞い落ちて行った。

「エレイン・マクスウェル。それがラッツェを拉致した者の名前・・・」

「エレイン・・・?アングロサクソン系の名前だね、ガリア人やケルト人のモノじゃないみたいだけれど・・・」

「誰であろうと関係無い、ラッツェは返してもらう!!!」

 そういきり立つセリカの元に、蒼太から再び“風の羽”に法力変換された量子暗号通信電文が送られて来た、曰く。

 “敵の正体が判明したからと言って、決して早まらないで欲しい”、“まだ確たる証拠がある訳ではない”、“裏付け捜査をあっちの自分達に頼んだから、その結果が出るまで待ってくれ”との事だったのだ。

「・・・・・っ!!!」

「・・・姉さん、今は蒼太を信じるしかっ!!!」

 逸る気持ちを必死に押さえ続けて来たのであろう、姉の姿を見続けて来たミリエラが心配しつつも縋るような眼差しで声を掛けて来るモノの、正直に言ってこの内容は応えた、ラッツェが拉致されてから早くも1週間が経過しており、その間セリカはろくに寝ていなかった。

 御世間様では漸くそれに付いての噂話や情報が出回って来ており、その証拠に巷の情報屋の耳や様々な国々の諜報網にこの出来事の一部始終が引っ掛かるようになっていたのだが、確かに“一等星のリゲル”の妻ならばこちらの隙を突いてラッツェを掠う事など造作も無かっただろう。

「幻影呪術と闇魔法に精通している、とは・・・。やられたな、流石の私でも気が付けなかった・・・」

「・・・でもさ、でもさ。考えてみたらおかしいよね?どうして姉さんが相手の呪術に気付けなかったんだろう。“そっち系”への感覚は滅茶苦茶鋭い上に、“眠りの森の守護”まであったって言うのに」

「・・・相手も只者じゃ無いんでしょうね」

 妹の疑問に対してセリカが自嘲するかのようにそう応えた。

「ラッツェが消えた瞬間の事は、未だに訳が解らないわ?だって一瞬、目を離した隙にもういなくなっていたんだもの・・・」

「“物凄いスピードで連れ去った”とか。それとも“こちらの感覚を麻痺させた”とか・・・?」

「・・・いいえ、それはないわ?“眠りの森の守護”がある以上はどんな素早い動きだって敵の存在ならば確実に感知できるし、それに呪術を使われた形跡は確認出来なかった。ううん、それどころか“力の発動の瞬間”自体が全く解らなかったのだから」

 セリカの言葉にミリエラが項垂うなだれた。

「うう~ん、そっかぁ・・・」

「とにかく・・・。今は蒼太達を信じて待つしか無いわ?騙し討ちにしようとしておきながらなんだけど、あの人達だけが頼みの綱ね・・・!!!」

 そう言ってセリカは宙を仰ぎ見、胸の内で密かに“今回の事件が解決して弟が無事に帰って来ますように”と神に祈るが、一方で。

 蒼太達もまた、同じ事に頭を悩ましていた、どうして“茨の女帝”とまで呼び讃えられている挙げ句、“眠りの森の守護”まで持っている筈のセリカが傍にいながら家族を守れなかったのであろうか。

「ねえ蒼太。その“眠りの森の守護”って、一体なんなの?私達には無いモノなのかしら・・・」

「・・・要するに土地の持っている自然エネルギーを身に纏って自分の力に変換するのさ?いいや、ただパワーがアップするだけじゃなくて例えば肉体が活性化したりとか。はたまた認識能力や感知能力と言った、いわゆる“感性”も軒並み底上げされる呪術システムらしいんだよ」

 “まあもっとも”と蒼太は続けた、“セリカに眠りの森の守護が与えられるのはプロイセン国内だけだ”とそう言って。

「“茨の女帝”と言うのは元々、国の中枢や国の重要人物達を守護する為に選ばれたエース中のエースの事だからね。要するに元来が“専守防衛”的な存在なんだよ、そしてそんな“茨の女帝”に力を与える為の呪術結界システムが“眠りの森の守護”と言う訳なんだけども・・・」

「・・・つまり国外では使えない、と言う訳ね?」

「ああ、その通りだよメリー。だから今現在のセリカの強さは君とほとんど互角だ、と思ってくれて良いよ?」

 愛妻淑女メリアリアの疑問に粗方答えた青年は、“あちらの世界の自分達”から次々と送られて来るメッセージに目を通していた。

「・・・どう蒼太、何か解った?」

「・・・エレインと言う女は随分と狡猾で用心深い存在らしいな、常に自分の周囲に“闇の衣”と呼ばれている結界呪法を張り巡らせているのだそうだ」

「・・・・・?」

「“闇の衣”・・・?」

「なんだそれは?始めて聞くモノだが・・・」

 キョトンとした面持ちとなって首を傾げる花嫁達に、蒼太が詳細を説明して行った。

「幻影呪術と闇魔法とを組み合わせた、“呪法”と呼ばれているモノの一種だよ。これを掛けられた者はありとあらゆる攻撃が無力化されるだけじゃない、自分の姿や存在感を消し去る事が可能になるのだそうだ」

「・・・じゃあエレインはそれを使って?」

「・・・いいや、だけどおかしいな。それだけならばセリカが気付けない訳が無い、彼女の感性の鋭さは常軌を逸するレベルだったし。それになにより“眠りの森の守護”を得たセリカはまさに自然エネルギーと一体化するんだ、例え“闇の衣”を纏っていようが異物が侵入して来たならたちどころに解る筈なんだよ」

「・・・ねえでも。“それ”を阻害する力を持っているんでしょ?その“闇の衣”って言う呪法は」

「いいやメリー、良く考えてみてごらんよ。この宇宙に存在している全てのモノはすべからく波動を放っている、“闇の衣”だとてそれは例外では無いんだ。そして例え人には解らなくても“自然”は敏感に“それ”に反応するように造り出されている筈なんだよ。それなのに・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「闇の衣はね?対象者の周囲に宇宙レベルでの“特異点”を生み出す事で、ありとあらゆる物理法則や力の干渉を撥ね除けるように造られているんだ。これを打ち破れるのは“始原の超神”の生み出す無限にして絶対的なる大いなる意志のうねり、即ち“純粋法力”に他ならない」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・つまりは“理力”の事だよね?確か神々の扱う“神力”もそれと同様の力を持っているんだっけ」

 自らの言葉に補足を加えてくれたメリアリアに感謝をしつつも蒼太は“その通りだ”と頷いた。

「あれは全てを超越している、宇宙の意志そのものの力だからね。だからどんな障害も邪魔者も貫いて対象となる現象に、徹底的に作用するんだよ・・・。メリー、アウロラ。そしてオリヴィアも!!!思い出してみてよ、君達が昔発動させた光がそれだ。あれで僕も何度も助けてもらったっけ・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「話を元に戻すよ?つまりエレインは“闇の衣”以外にもまだ何か、手品を用いているんじゃないかと僕は睨んでいるんだ。そうじゃなきゃ色々と説明が付かないんだよね・・・」

「・・・認識能力を阻害する能力か、それだけなら昔話で聞いた事があるけれど。まだこれ以上、他に何かあるんだって言われると」

「・・・ですね。ちょっと私達には理解出来ないですけれど」

「・・・いっそのこと。そのエレインとやらを探し出して、一気に暗殺してしまったらどうだ?」

「あ、あははは・・・」

 そんな愛妻達の反応を見ながら蒼太が苦笑して告げた、“それが出来たら苦労は無いよ・・・”とそう述べて。

「・・・まあ、あんまり煮詰めても仕方が無いからね。今は現状でこんな所かなぁ、みんなは何か言っておきたい事はあるかい?」

「ねえ蒼太、その“エレインに関する話”も確かに大事なんだけど・・・。私前から思っていたんだけれど、その“ガイア・マキナ”と言う世界を一度見てみたいわね・・・!!!」

「あら、それなら私も思っていました。向こうにも私達がいて、しかも向こうの蒼太さんと結婚して共に生活をしているのだとか・・・!!!」

「餓えと戦乱の世界線だと言っていたけど・・・。向こうの私達がどうやって日々を送っているのか、その暮らしぶりも気になるところだしね・・・!!!」

 “呑気だなぁ・・・”、“でも平和で良いかも”等とそんな事を蒼太が考えているとー。

 メリアリアが再び青年に向かって口を開き、言った。

「ねえねえ、でもさ。却ってその方が良かったかもよ?ううん、変な意味じゃ無いんだけれど、だってもし。その“ガイア・マキナ”と言う世界が私達の世界と瓜二つだったなら、私達が混乱してしまうかも知れないわ?ううん、それだけじゃない。終いにはどっちがどっちの世界なのか、解らなくなってしまうかもね・・・!!!」

「・・・・・っ。今なんて言った?」

「・・・えっ、えっ!!?今って?」

 最初の内はそれを聞き流していた蒼太だったが、すぐに何事かに気が付いてメリアリアに詰め寄った。

「今、“似た者同士ではどっちがどっちか解らなくなる”って言ったよね?」

「・・・・・っ。う、うん。言ったけど、それがどうかしたの?」

「・・・それだよ、メリー。お陰で解ったよ、エレインが“闇の衣”以外にも使っていたトリックが!!!」

「・・・ええっ!!?」

「・・・まさかっ!!!」

「ほ、本当なの?蒼太・・・っ!!!」

 驚き戸惑う花嫁達に対して、蒼太がニヤリと笑いながら頷いた。
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