星降る国の恋と愛

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夫婦の絆と子供への思い

“嘆きのセリカ” その2

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 その晩。

 メリアリア達三人は蒼太と共に遅くまでルテティア城内に残り、善後策を話し合っていた、如何にセリカが“戦うために来たのではない”とは言ってもそれは、なんら保証の限りでは無かったし、それになにより。

 相手はメリアリアと互角の強さを持っているのだと言う、油断は全く出来なかったのだ。

「まあ僕の知っている限り、セリカは・・・。なんの恨みもない人間をいきなり抹殺するような真似はしない筈だけど。ただし彼女の目的がまだ解らない以上、迂闊に動くことも出来ないんだよね・・・」

 自身の説明にメリアリア達は黙って頷き、次の言葉をひたすら待った、その真剣かつ熱心に耳を傾ける様子を観察していた蒼太は妻達が怒っている訳では無い事を悟り、漸く落ち着いて物事を整理する事が出来たのである。

「取り敢えず、まずは・・・。セリカが今、何処にいるのか、と言う事を探り当てなくてはならないし。それに彼女の真意を確かめなくてはならないんだけど・・・。つまり“返信”をどうするか、だよな」

「・・・・・」

(蒼太、受信だけじゃなくて送信も出来るんだ・・・)

 それを聞いたメリアリアが内心で思うが考えてみれば至極当然の話であり、別に驚くに値しなかった、この時にはもう、愛妻淑女メリアリアも冷静さを取り戻しており、夫に対する感情的なしこりも無くなっていたし、第一良く考えてみれば“セリカの事”や“暗号通信魔法の事”を黙っていたのは単なる状況の為せる業であり別に蒼太の所為せいでも何でも無いのだ、彼を叱責して詰め寄る必要は全く無かった、と言わざるを得ない。

(言わなかった、と言うよりも・・・。セリカの事は本当に忘れていたんだろうな、多分。ちょっと感情的になり過ぎちゃったかも知れないわ?蒼太に悪い事をしちゃった・・・)

 そんな事を考えるメリアリアであったが確かに、彼女は比類無き程にまで夫の事を愛していたし、万全の信頼も寄せていたのだが、しかし一方で、何の裏付けや説明も無しに彼のことをただただ妄信するような真似もしなかった、勿論メリアリアは蒼太が性格的に変な気色を持ち合わせていたり、または陰湿な謀略を巡らす人間では無い事を知ってはいるが、それでもやっぱり何か事件があるとまずはちゃんと彼に話を聞いて自分なりに見極め、その上で寄り添うようにしていたのである。

 それにこれは何もメリアリアのみならず、アウロラやオリヴィアもまたそうであったが夫に対して想像を絶する程の超慕と狂愛を抱いていたとは言えども、彼女達は決してそれに飲み込まれて自分や周囲をおざなりにするような事はしなかった(もっとも“その気配”はあったが)、最終的には必ず自分の責任において自分で自分の生き様を判断するようにしていたのである。

 今回の事もそうで、だから最初に話を聞かされた時は確かに“女性に関する事柄で隠し事をされた!!!”、“どうしてこんな凄い魔法の事を黙っていたのだろう?”等とちょっとしたショックを受けていたのだが、改めて思いを馳せてみれば蒼太の事である、黙っていた、と言うよりもナチュラルに失念していた可能性の方が高いし、それにそう考えた方が“間違いでは無い”と言う直感的確信が持てる。

(この人だって神様じゃないんだ、完璧な訳がない。間違っても“全てを知る者”では無いのだから・・・!!!)

 その事に思い至った時には、流石に“蒼太に悪かったかな・・・?”、“後でちゃんと謝らなきゃ・・・!!!”等とも思ったがしかし、一方で当の本人は愛妻達の誤解や怒りが解けた事に心底安堵しており、別に気にしてはいなかったのだ。

「まずはセリカ達といつ、どこで会うかを考えないといけないね。何しろこっちは僕を含めて四人、それに対してあっちは何人居るのかが不明な状況だ。探りを入れる為にも“会わない”と言う選択肢は無いだろう・・・」

「下手に“会わない”と言って突っぱねちゃうと、却ってセリカの敵意を煽る事にもなりかねないしね・・・?」

「それに交渉の可能性も失われてしまいます。特に今回のように相手の出方が解らない場合には・・・」

「セリカとか言う女が必ず敵対する、と決まった訳では無い以上は。多少は気遣いも必要になるだろうしな・・・」

 蒼太の言葉にメリアリア、アウロラ、オリヴィアの3名がそれぞれに答えた、要するに彼女達も“セリカの態度を硬化させないようにしろ”と言う事で一致したのだ。

「いきなり会うのも、どうかと思うし・・・。取り敢えず“ちょっと考えてみる”って返事をしておいたら?そうすればいきなり対面するのは避けられる筈だし、その間に戦力や態勢を整えて。改めて出方を考える、と言うのはどうかしら?」

「・・・・・っ。いいな、それ!!!」

 その後に改めて為されたメリアリアの提案に、一も二も無く蒼太が飛び付いた。

「確かにそう言う風に言っておけば、当分の時間は稼げるし・・・。その間に情報収集をしたり、戦闘準備を整えたり出来るしね!!!」

「賛成です」

「私も、賛成する」

 アウロラとオリヴィアにも異論は無く、こうして取り敢えずの即席会議を終えた後、蒼太は手を宙へと向けてかざし、素早く意識を集中させつつ感覚をシャープにする。

 そうしておいて、精神の届く領域を拡大させて、この街の何処かにいるであろうセリカの気配を探り当てて行った、すると。

「・・・アイツ、僕の旧宅を根城にしているようだな。よりにもよって!!!」

 蒼太が苦笑しながら告げるがまさしくその通りであって、セリカは自分の配下の面々と共にこの一大城塞都市ルテティアの第3環状区画内に存在している、蒼太の生家“綾壁家”を拠点にしているらしかった。

(しかもそれを隠そうともしていない。つまりは“敢えて見付けさせた”と言う訳だな?しかし一体、その狙いはなんだ。セリカはメリーと同じで故意に人を傷付けたり悪戯な戦いはしない女性ひとだった筈だ、そんな彼女がわざわざ異世界にやって来る目的とは・・・?)

 少し考えを巡らせてみたのだが現状では情報が乏し過ぎて答えにまでは到達出来ず、蒼太はやむを得ずセリカに対しての返信術式を発動させる為の法力を生成し、てのひらから白く輝く1枚の“風の羽”を出現させた。

 それを天空へと舞い上げさせてセリカの元へと“送信”し、漸く一段落が付いた後でメリアリア達に詳細を話す。

「どうやらセリカは5人で行動を共にしているようだ、もっともその内の誰が友人で誰が腹心なのか、と言う事までは解らないけれど・・・」

「・・・あなたの家にいるって言うの?一体どう言う了見なのかしら、セリカは!!!」

 その言葉を受けてメリアリアが思わず声を荒げるモノの、彼女としてみれば見ず知らずの女に自分と蒼太の大事な思い出の場所を土足で踏み躙られた気分である、内心穏やかでは居られないだろう。

「ひょっとして“ワザと喧嘩を売っている”とか?だったら迷う事はないわ。こっちから討って出て行って、徹底的に叩き潰してやるからっっっ!!!!!」

「・・・・・っ。メ、メリアリアさん?」

「お、おいメリアリア。ちょっと気分を落ち着かせろ・・・!!!」

 いきり立つ愛妻淑女メリアリアにアウロラもオリヴィアも流石に制止に回るがその様子を見ていた蒼太は何だか嫌な予感に襲われる。

(セリカの事だから、多分。“たまたま偶然にも空き家を見付けて入った”、“それが僕の家だった等とは知る由も無く”、と言う流れでは無いだろうな。彼女はそんな不躾けで不用心な真似はしない、表札を見れば誰の家かは一目瞭然だっただろうし。それに僕は自宅を相続した後には掃除の為にも定期的に帰るようにしていたんだ、ちゃんと手入れがされていた事にもすぐに気が付いた筈だ!!!)

 “だがしかし”、とそこから先が解らない。

(何でわざわざ異世界に来てまで僕の家に陣取ったんだろう?況してやメリーを挑発するような真似をしてまで・・・。いいや、流石にそこまで気が回らなかったのか?いくらなんでもメリーと僕の生い立ちや人生の足跡までも調べて来た訳では無いだろうし・・・)

 “仮にもし、そうだとしたら・・・”と蒼太はそこで見方を変えた、“セリカは命懸けで僕達を殺そうとしている、と言う事だ”と。

(セリカ、何かあったのかな。いずれにせよ彼女と会う前にこちらももうちょっと情報を収集しておかないと、思わぬ所で足を取られるかも知れないな・・・)

 そう思い立って青年は、改めてメリアリアを宥めつつも“ガイア・マキナ”にいるであろう、“向こうの自分達”から情報を得る事と、セリカからの反応を見極める為にも彼女の再度の返信を待つことにした。
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