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夫婦の絆と子供への思い
“嘆きのセリカ” その1
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蒼太は基本的には冷静さと暖かさとを兼ね備えている、“大人しい雰囲気を纏った優男”とでも言うべき風貌をしていたが、しかし。
その一方で“ここぞ”と言う時には勇猛果敢に、かつ信じられない程の力強さで敵や困難に立ち向かい、それらを破砕して打ち破っては突破口を形成させ、運命を切り開いてくれる存在だった。
現にその場面をメリアリア達は何度も目撃しているし、またその際に見せる彼のワイルドな気概や態度に思わずドキリとさせられるが、普段は自分の事を“僕”と呼び、万事落ち着いた感じの好青年、と言った容呈の彼の非常事態下に見せる雄々しさと頼もしさに、花嫁達はまるで違う男の人を見ているようで、それもまた彼をして妻達を惹き付ける一つの要因となっていたのだ。
そんな蒼太には決して多くは無い、とは言えどもメリアリア達以外にも幾人かの、親しく接している女性連中の姿があった、例えばルクセンブルク大公国の貴族院議員である“ミネオラ・ノエル・キサラギ”がそうであったし、またそれぞれの花嫁達の家族や親戚等もこの範疇に当て嵌まっている。
それ以外にもミラベルやセイレーンの同僚だったり、セラフィム時代からの交友関係のある“幼馴染”達であったりと、総勢で15、6人程の異性と何らかの繋がりを持っていたのであるモノの、しかし。
「・・・まあ、アイツらとはなんて言うかな。一種の“腐れ縁”とでも言えば良いのかな?僕にも良く解らないよ」
ある昼下がり、ちょっとした用事で“悠久の園”にまで赴いて来た自分に対して心配そうな面持ちで追い縋りながらその事を問い質して来るメリアリア、アウロラ、オリヴィアの愛妻軍団を前に蒼太はやや戸惑い気味に告げた。
「だけどもし・・・。君達が“どうしても嫌だ”、“会わないで欲しい”と言うのであれば、僕としてはいつでも関係を絶つようにするよ?少なくとも君達に内緒で会ったりはしないようにするから・・・」
「・・・本当に?」
「ああ、本当だとも!!!」
尚も不安げな面持ちを浮かべて自分にしがみ付いて来る妻達に対して蒼太は頷きながらそう応える。
「ただ・・・。仕事上での付き合いはどうにもならないから、そこはちょっと考えなければならないけれど・・・。それでもさっきも言った通り、君達が嫌ならば会わないようにするよ?約束する!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?嬉しいわ、蒼太。嬉しいのっっっっっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤」
「本当に良かったです、蒼太さんっっっっっ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
「どうも有り難う蒼太っ、我が儘を言ってごめんなさい・・・!!!!!!!!!!」
それを聞いたメリアリアが、アウロラが、そしてオリヴィアが漸くホッとしたかのような表情を浮かべて夫に抱き着いて来た。
「でも、だけど・・・。そんなに心配なのか?メリー、アウロラ。オリヴィア!!!」
「だって・・・」
するとちょっと苦笑しながら蒼太の放ったその言葉に、メリアリアが懇願するような眼差しで本心を吐露した。
「蒼太の事を、信用はしているけれど・・・。正直に言っていい気はしないわ?だってあなたは私の、ううん。“私達の”夫なんだものっ!!!」
「そうですっ!!!」
するとそれを聞いていたアウロラもまた口を開いた。
「蒼太さんは私の、いいえ。“私達”だけのモノなのですから、それなのに他の女性の方と一緒に居るのは流石に許せませんわ!!?」
「そうだぞ?蒼太。もう少し考えてくれないとな・・・」
最終的にはオリヴィアまでもがそれに乗っかって迫って来る。
「君は私の・・・。いや失礼、“私達の”モノなのだからな。それを忘れないでもらいたい!!!」
三人はそう言い終わると互いに互いを牽制するかのような動きを取った、ムスッとした顔付きで相手にガンを飛ばし、何事かを言いたそうにしている。
けれども。
「いいや、解った解った。本当にごめんよ、僕が悪かったからっっっ!!!!!」
それを察した蒼太が慌てて三人の中に割って入り、事態を沈静化させるべく行動を開始するモノの、彼には彼女達全員の心の声が聞こえてくるようだった、即ち。
口では“私達の”等と言っておきながらその実“蒼太は私のモノなんだ”、“私だけの夫なんだっ!!!”と言う超慕と言うか、狂愛の意思そのものだったのであるがしかし、この前の喧嘩の記憶も新しいのにまたもやそれを再現させる事は絶対に避けなければならなかった。
「とにかくこの件は真剣に考えて対処するよ。約束する!!!だからね、ねっ?みんなもほら、ムスッとしないで。ちょっと落ち着こう、ねっ。ねっ!!?」
そう言って火消しに必死になる青年であったが戦闘時の勇敢さは何処へやら、こう言う時の彼は三人の愛妻達の気迫に圧されてしどろもどろになってしまい、何とも情けない事この上無い。
夫の威厳もクソも無い、ヘタレた彼の、だがしかし真摯な態度はこうした状況下にある妻達には却って絶妙な癒しとなり、また矛を収める切っ掛けとなってくれるから、そう言う意味では貴重であった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「むうぅ・・・っ!!!」
そんなメリアリア達が怒気を露わにしつつもそれを鎮め始めた矢先だった、蒼太と妻達は殆ど同時に打ち揃って“魔法の気配”を感じ取り、咄嗟に思わず身構える。
それは間違っても自分達の発したモノでは無く、つまりはそれ以外の誰かが何かをしようとしている証左に他ならなかったのである。
「・・・・・っ!!?」
「あれは・・・?」
「炎で出来た、トンボか・・・?」
「・・・・・っ!!!」
気配のする方向を注視していた四人の前に、炎の魔法で形作られた1匹のトンボが飛翔して来るモノの、その動きは不規則かつ素早くて、憖っかな事では捕らえられそうに無かったが、しかし。
「・・・・・」
戸惑うメリアリア達を他所に蒼太は何事かを思い定めて空中に手を伸ばし、双眸を閉じて何やら呪文を唱え始めた、すると。
なんと炎のトンボが徐々に蒼太と距離を詰めて行き、最終的には彼の差し出した手の指先に止まったのだ。
「・・・・・?」
「・・・えっ。えっ?」
「なんだ?コイツは・・・」
尚も困惑しつつも花嫁達が夫の様子を見守っているとー。
不意に蒼太が炎のトンボを手で握り潰し、法力磁場を四散させてしまった。
「・・・・・」
「「「・・・・・」」」
その後に訪れた、張り詰めた空気の満ちた状況下での暫しの沈黙に、誰もが言葉を発しなかったが、遂に。
メリアリアが耐えかねて夫に尋ねた、“ねえあなた”と、“今のは一体、なんだったのか?”と。
「・・・魔法を使った“念話”の一種だ。要するにスマートフォンのメール機能があるだろ?それの魔法版だと思えば良い」
「・・・・・」
「念話・・・?」
「“テレパシー”や“チャネリング”のようなモノなのか?」
「そう言ったモノとは、ちょっと違うな。と言うのは“テレパシー”や“チャネリング”と言うのは、ある程度以上の力量を持つ者ならば比較的簡単に盗視盗聴する事が出来るんだ。だがコイツはそうはいかない・・・」
なるべく簡潔に、かつ要点を纏めて蒼太が妻達に説明をするが、これは“量子暗号通信”と“魔法”とを組み合わせたモノだと言う、即ち正しい手順や呪文を知っている者でなければ解読する事は極めて困難であり、その為第三者による盗視盗聴が事実上不可能に近い、と言うのだ。
「頭の中で極めて難しい暗算処理を行って、法力を量子暗号化させなければならないのが欠点だけど・・・。それさえクリアー出来ればまず間違いなく、途中で意図した者以外の誰かに盗み見られるのは避ける事が出来る。究極の暗号通信呪法だよ・・・」
「・・・そ、そんな!!?」
「そんな事って!!!」
「・・・ねえ、あなた」
するとそれを聞いて驚愕の余りに言葉を失ってしまったアウロラとオリヴィアの両名を差し置いて、少し頭の中を整理しながらメリアリアが声を発した。
「どうしてあなたがそれを知っているの?ううん、それだけじゃないわ。どうしてあなたはこの通信術式の解読法を理解しているの・・・?」
「・・・・・」
「・・・答えて!!!」
それを聞いても尚も決まりが悪そうに黙りこくっている夫に対してメリアリアが甲高く、そしてやや強い口調で改めて問い質した。
「・・・むかし僕が神界からの修業の帰り道。“時渡り”をしている最中に“時空乱流”に巻き込まれそうになった為に、やむを得ず一時別の並行世界に行ったのは覚えてる?」
「・・・確か。“ガイア・マキナ”と言ったわね?」
「そうだ。そこは餓えと戦乱の世界線でね?“ドラクロワ・カウンシル”と言う邪な秘密結社によって人々や自然環境が滅茶苦茶に掻き乱されてしまった場所だったんだ・・・」
「知っているわ・・・」
夫の話にメリアリアが頷いた。
「確か・・・。その世界にも“向こうの私達”がいて、そこで本格的な戦闘訓練を受けたんでしょう?」
「その話なら私も聞いたことがあります。確か向こうで3年間ほどを過ごされた、とか・・・」
「最終的には敵の首領と主だった者達を討伐して、世界を救って来たのだろう?」
「・・・ああ」
メリアリアとの問答に、アウロラやオリヴィアも加わって話は更に加速して行った。
「その“ガイア・マキナ”にも“ガリア帝国”や“エイジャックス連合王国”、果ては“プロイセン大帝国”等が乱立していたのだけれど・・・。その中でも“プロイセン”に“エイガー・プレイツェルト”と言う秘密組織があってね」
「・・・・・」
「・・・・・」
「“エイガー・プレイツェルト”・・・?」
「まあ・・・。要するに向こうのセイレーンだよ、解りやすく言えば。そしてそこの頂点には“茨の女帝”と讃えられている女戦士がいた、本名を“セリカ・グレイツェル”。通称を“嘆きのセリカ”と言うんだけれどもソイツがこの魔法を最も得意としていたんだ。幸いにして僕達とは同盟関係にあったから、この魔法の発動方法は僕達にも緊急連絡手段として密かに開示されていたんだよ・・・」
「・・・・・っ。それでその、“セリカ”とはどう言う関係なの?」
一番聞きたかった核心部分を解き明かす為に、メリアリアは蒼太に詰め寄った。
「どうって・・・。ただの知人だよ、会えばお互いに挨拶をする程度のね。まあ一応は?簡単な自己紹介も済ませてはいたんだけど・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「それでその・・・。じゃあ今の“炎のトンボ”の魔法は、その“セリカ”が放ったモノなのかしら?」
「・・・ああ」
蒼太が些か言いにくそうに返した。
「セリカがこっちに来ているようだ、自分の親友や腹心達と一緒にね。なんの目的があっての事なのかは、解らないけれど・・・」
そこまで話すと蒼太は“ハァ・・・ッ!!!”と溜息を付いた。
「何の用かは知らないけれど・・・。セリカが“久し振りに会って話がしたい”と言って来た、断ると後々煩いし。それに何よりも怖いからね、コイツは・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・怖いって、どう怖いの?」
「セリカは僕よりも強いんだよ、勿論“神人化”すればその限りでは無いんだけど・・・。ただ相手がわざわざ“こちらが神になる為の祈りを捧げる時間”を与えてくれる、とは思えないしなぁ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・じゃあ“波動砲”で撃ち滅せば良いじゃない?」
「“波動砲”、つまりは“龍神の咆哮”を用いようとしても同じ事だ。あれは自分の波動エネルギーと自然法力とを融合させたモノを極限まで高めて一点に凝縮し、それをプラズマ力場で包み込んで一方向に向かってぶっ放す技なんだ。確かに一旦発動させられれば回避はかなり困難になるけれど・・・。だけど発動するまでの隙があり過ぎる、実戦では使えないよ・・・」
“それに・・・”と蒼太は続けた、“セリカに会えば解るだろうけれど”とそう言って。
「ハッキリと言って・・・。セリカは君と同じだけの強さを持っている、それは単に技量だけの問題じゃない。“心”や“覚悟”もそうなんだ、アイツはね?メリー。プロイセンに生まれた君なんだよ、少なくとも僕にとってはね。だからそう言う人と、力の限りを尽くして傷付け合うのは、殺し合うのは。どうしたって僕には耐えられないんだ、嫌なんだよどうしても!!!」
「・・・・・」
その言葉を聞いてメリアリアは多少、溜飲を下げた、自分の弱さや至らなさを素直に認める心意気と言い、愛妻と姿が重なる存在と戦う事は出来ない、と断言する潔さと言い、人間として中々に可愛げがあるではないか。
それに感受性が強くて様々な事を経験して来た今の彼女には蒼太の気持ちが痛いほど良く理解出来たのであり、その苦悩もまた存分に伝わって来たのである、だから彼女としてはそれ以上、夫に対してモノを言う事が出来なくなってしまったのだ。
「・・・じゃあでも。どうするの?あなた」
「取り敢えず・・・。まずはセリカと会ってみるよ、どうやら戦いに来た訳では無いようだし・・・。いきなり襲い掛かられたりはしないだろうからね」
「・・・ねえ。あなた」
「んん?なにさ、メリー・・・」
「私も一緒に付いて行ってあげる・・・」
メリアリアは気付いた時にはそう発言していた、正直な話で女性に関する事柄を隠していたのはショックだったがそれとてもワザとやった訳では無い事は重々に伝わって来たし、それになにより。
それを差っ引いたとしてもメリアリアは蒼太の事が、どうしようも無い位に愛しくて愛しくて堪らないのである、蒼太の存在ややることなすことが一々彼女の恋心をこれ以上無い程にまで刺激するのだ。
「・・・・・っ。そんなこと、だけど!!!」
「あなた一人では、何かあった時に殺されてしまうかも知れないわ?だから私が一緒に行って守ってあげる・・・っ!!!」
「・・・・・っ。メリーッ!!!」
「・・・それだったなら、私も行きます。きっと何かの役に立てますから!!!」
「私もだ、私も君を守るよ。それにこう見えても私はメリアリアよりも強いからな!!!」
「アウロラ、オリヴィア・・・ッ!!!」
“みんな、有り難う・・・!!!”、“凄く助かるよ!!?”等と感動のあまりに本心からそう叫んで自分の手を握る夫に対して、メリアリアは思わず“もう・・・”、“しょうがないんだから・・・”と呟いて苦笑してしまう。
取り敢えずは今回の事件の裏側にいる者の正体が判明し、また蒼太が故意に隠し事をしていたわけでは無い事が解った、だとすればもう何も迷う事はない、後は全力で彼を守り抜くだけである。
(まだ解らない事は、あるけれど・・・。少なくともこの人を、夫をみすみす死なせてたまるもんですか。見ていなさいよ、セリカ!!!)
自分の為すべき事が明確になった時のメリアリアは恐ろしい程の力を逡巡無く発揮出来る存在である、況してや今回は最愛の夫の命が懸かっているのだ、失敗は絶対に許されない。
それに彼女は自分の夫に勝手に近付いて来る存在(特に女)が大嫌いである、今後のためにもそこの所をハッキリと示しておく必要があった。
(蒼太は、この人は私が絶対に守ってみせる。例え私の体に換えても、命に換えてもっ!!!だって私の一番大好きな人なんだもの、大切な人なんだもの。傷一つ付けさせてたまるもんかっっっ!!!!!)
(蒼太さんは私が必ず守り抜いてあげます。例え私の命と引き換えになったとしても、人生と引き換えになったとしてもっ。蒼太さんだけは生かして返してあげるっっっ!!!!!)
(・・・蒼太。私の一番愛しい人、大切な人。例え何があっても私が君を守り抜いてみせるからなっ!!?私の生命の灯火を、全て使い果たそうともだっっっ!!!!!)
三者三様の決意とやる気とを胸に秘めつつ、花嫁達はこれからも夫と共に歩む、と言う選択を“当たり前の事”として自然の内に為していた。
その一方で“ここぞ”と言う時には勇猛果敢に、かつ信じられない程の力強さで敵や困難に立ち向かい、それらを破砕して打ち破っては突破口を形成させ、運命を切り開いてくれる存在だった。
現にその場面をメリアリア達は何度も目撃しているし、またその際に見せる彼のワイルドな気概や態度に思わずドキリとさせられるが、普段は自分の事を“僕”と呼び、万事落ち着いた感じの好青年、と言った容呈の彼の非常事態下に見せる雄々しさと頼もしさに、花嫁達はまるで違う男の人を見ているようで、それもまた彼をして妻達を惹き付ける一つの要因となっていたのだ。
そんな蒼太には決して多くは無い、とは言えどもメリアリア達以外にも幾人かの、親しく接している女性連中の姿があった、例えばルクセンブルク大公国の貴族院議員である“ミネオラ・ノエル・キサラギ”がそうであったし、またそれぞれの花嫁達の家族や親戚等もこの範疇に当て嵌まっている。
それ以外にもミラベルやセイレーンの同僚だったり、セラフィム時代からの交友関係のある“幼馴染”達であったりと、総勢で15、6人程の異性と何らかの繋がりを持っていたのであるモノの、しかし。
「・・・まあ、アイツらとはなんて言うかな。一種の“腐れ縁”とでも言えば良いのかな?僕にも良く解らないよ」
ある昼下がり、ちょっとした用事で“悠久の園”にまで赴いて来た自分に対して心配そうな面持ちで追い縋りながらその事を問い質して来るメリアリア、アウロラ、オリヴィアの愛妻軍団を前に蒼太はやや戸惑い気味に告げた。
「だけどもし・・・。君達が“どうしても嫌だ”、“会わないで欲しい”と言うのであれば、僕としてはいつでも関係を絶つようにするよ?少なくとも君達に内緒で会ったりはしないようにするから・・・」
「・・・本当に?」
「ああ、本当だとも!!!」
尚も不安げな面持ちを浮かべて自分にしがみ付いて来る妻達に対して蒼太は頷きながらそう応える。
「ただ・・・。仕事上での付き合いはどうにもならないから、そこはちょっと考えなければならないけれど・・・。それでもさっきも言った通り、君達が嫌ならば会わないようにするよ?約束する!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?嬉しいわ、蒼太。嬉しいのっっっっっ❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤」
「本当に良かったです、蒼太さんっっっっっ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪」
「どうも有り難う蒼太っ、我が儘を言ってごめんなさい・・・!!!!!!!!!!」
それを聞いたメリアリアが、アウロラが、そしてオリヴィアが漸くホッとしたかのような表情を浮かべて夫に抱き着いて来た。
「でも、だけど・・・。そんなに心配なのか?メリー、アウロラ。オリヴィア!!!」
「だって・・・」
するとちょっと苦笑しながら蒼太の放ったその言葉に、メリアリアが懇願するような眼差しで本心を吐露した。
「蒼太の事を、信用はしているけれど・・・。正直に言っていい気はしないわ?だってあなたは私の、ううん。“私達の”夫なんだものっ!!!」
「そうですっ!!!」
するとそれを聞いていたアウロラもまた口を開いた。
「蒼太さんは私の、いいえ。“私達”だけのモノなのですから、それなのに他の女性の方と一緒に居るのは流石に許せませんわ!!?」
「そうだぞ?蒼太。もう少し考えてくれないとな・・・」
最終的にはオリヴィアまでもがそれに乗っかって迫って来る。
「君は私の・・・。いや失礼、“私達の”モノなのだからな。それを忘れないでもらいたい!!!」
三人はそう言い終わると互いに互いを牽制するかのような動きを取った、ムスッとした顔付きで相手にガンを飛ばし、何事かを言いたそうにしている。
けれども。
「いいや、解った解った。本当にごめんよ、僕が悪かったからっっっ!!!!!」
それを察した蒼太が慌てて三人の中に割って入り、事態を沈静化させるべく行動を開始するモノの、彼には彼女達全員の心の声が聞こえてくるようだった、即ち。
口では“私達の”等と言っておきながらその実“蒼太は私のモノなんだ”、“私だけの夫なんだっ!!!”と言う超慕と言うか、狂愛の意思そのものだったのであるがしかし、この前の喧嘩の記憶も新しいのにまたもやそれを再現させる事は絶対に避けなければならなかった。
「とにかくこの件は真剣に考えて対処するよ。約束する!!!だからね、ねっ?みんなもほら、ムスッとしないで。ちょっと落ち着こう、ねっ。ねっ!!?」
そう言って火消しに必死になる青年であったが戦闘時の勇敢さは何処へやら、こう言う時の彼は三人の愛妻達の気迫に圧されてしどろもどろになってしまい、何とも情けない事この上無い。
夫の威厳もクソも無い、ヘタレた彼の、だがしかし真摯な態度はこうした状況下にある妻達には却って絶妙な癒しとなり、また矛を収める切っ掛けとなってくれるから、そう言う意味では貴重であった。
「・・・・・」
「・・・・・」
「むうぅ・・・っ!!!」
そんなメリアリア達が怒気を露わにしつつもそれを鎮め始めた矢先だった、蒼太と妻達は殆ど同時に打ち揃って“魔法の気配”を感じ取り、咄嗟に思わず身構える。
それは間違っても自分達の発したモノでは無く、つまりはそれ以外の誰かが何かをしようとしている証左に他ならなかったのである。
「・・・・・っ!!?」
「あれは・・・?」
「炎で出来た、トンボか・・・?」
「・・・・・っ!!!」
気配のする方向を注視していた四人の前に、炎の魔法で形作られた1匹のトンボが飛翔して来るモノの、その動きは不規則かつ素早くて、憖っかな事では捕らえられそうに無かったが、しかし。
「・・・・・」
戸惑うメリアリア達を他所に蒼太は何事かを思い定めて空中に手を伸ばし、双眸を閉じて何やら呪文を唱え始めた、すると。
なんと炎のトンボが徐々に蒼太と距離を詰めて行き、最終的には彼の差し出した手の指先に止まったのだ。
「・・・・・?」
「・・・えっ。えっ?」
「なんだ?コイツは・・・」
尚も困惑しつつも花嫁達が夫の様子を見守っているとー。
不意に蒼太が炎のトンボを手で握り潰し、法力磁場を四散させてしまった。
「・・・・・」
「「「・・・・・」」」
その後に訪れた、張り詰めた空気の満ちた状況下での暫しの沈黙に、誰もが言葉を発しなかったが、遂に。
メリアリアが耐えかねて夫に尋ねた、“ねえあなた”と、“今のは一体、なんだったのか?”と。
「・・・魔法を使った“念話”の一種だ。要するにスマートフォンのメール機能があるだろ?それの魔法版だと思えば良い」
「・・・・・」
「念話・・・?」
「“テレパシー”や“チャネリング”のようなモノなのか?」
「そう言ったモノとは、ちょっと違うな。と言うのは“テレパシー”や“チャネリング”と言うのは、ある程度以上の力量を持つ者ならば比較的簡単に盗視盗聴する事が出来るんだ。だがコイツはそうはいかない・・・」
なるべく簡潔に、かつ要点を纏めて蒼太が妻達に説明をするが、これは“量子暗号通信”と“魔法”とを組み合わせたモノだと言う、即ち正しい手順や呪文を知っている者でなければ解読する事は極めて困難であり、その為第三者による盗視盗聴が事実上不可能に近い、と言うのだ。
「頭の中で極めて難しい暗算処理を行って、法力を量子暗号化させなければならないのが欠点だけど・・・。それさえクリアー出来ればまず間違いなく、途中で意図した者以外の誰かに盗み見られるのは避ける事が出来る。究極の暗号通信呪法だよ・・・」
「・・・そ、そんな!!?」
「そんな事って!!!」
「・・・ねえ、あなた」
するとそれを聞いて驚愕の余りに言葉を失ってしまったアウロラとオリヴィアの両名を差し置いて、少し頭の中を整理しながらメリアリアが声を発した。
「どうしてあなたがそれを知っているの?ううん、それだけじゃないわ。どうしてあなたはこの通信術式の解読法を理解しているの・・・?」
「・・・・・」
「・・・答えて!!!」
それを聞いても尚も決まりが悪そうに黙りこくっている夫に対してメリアリアが甲高く、そしてやや強い口調で改めて問い質した。
「・・・むかし僕が神界からの修業の帰り道。“時渡り”をしている最中に“時空乱流”に巻き込まれそうになった為に、やむを得ず一時別の並行世界に行ったのは覚えてる?」
「・・・確か。“ガイア・マキナ”と言ったわね?」
「そうだ。そこは餓えと戦乱の世界線でね?“ドラクロワ・カウンシル”と言う邪な秘密結社によって人々や自然環境が滅茶苦茶に掻き乱されてしまった場所だったんだ・・・」
「知っているわ・・・」
夫の話にメリアリアが頷いた。
「確か・・・。その世界にも“向こうの私達”がいて、そこで本格的な戦闘訓練を受けたんでしょう?」
「その話なら私も聞いたことがあります。確か向こうで3年間ほどを過ごされた、とか・・・」
「最終的には敵の首領と主だった者達を討伐して、世界を救って来たのだろう?」
「・・・ああ」
メリアリアとの問答に、アウロラやオリヴィアも加わって話は更に加速して行った。
「その“ガイア・マキナ”にも“ガリア帝国”や“エイジャックス連合王国”、果ては“プロイセン大帝国”等が乱立していたのだけれど・・・。その中でも“プロイセン”に“エイガー・プレイツェルト”と言う秘密組織があってね」
「・・・・・」
「・・・・・」
「“エイガー・プレイツェルト”・・・?」
「まあ・・・。要するに向こうのセイレーンだよ、解りやすく言えば。そしてそこの頂点には“茨の女帝”と讃えられている女戦士がいた、本名を“セリカ・グレイツェル”。通称を“嘆きのセリカ”と言うんだけれどもソイツがこの魔法を最も得意としていたんだ。幸いにして僕達とは同盟関係にあったから、この魔法の発動方法は僕達にも緊急連絡手段として密かに開示されていたんだよ・・・」
「・・・・・っ。それでその、“セリカ”とはどう言う関係なの?」
一番聞きたかった核心部分を解き明かす為に、メリアリアは蒼太に詰め寄った。
「どうって・・・。ただの知人だよ、会えばお互いに挨拶をする程度のね。まあ一応は?簡単な自己紹介も済ませてはいたんだけど・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「それでその・・・。じゃあ今の“炎のトンボ”の魔法は、その“セリカ”が放ったモノなのかしら?」
「・・・ああ」
蒼太が些か言いにくそうに返した。
「セリカがこっちに来ているようだ、自分の親友や腹心達と一緒にね。なんの目的があっての事なのかは、解らないけれど・・・」
そこまで話すと蒼太は“ハァ・・・ッ!!!”と溜息を付いた。
「何の用かは知らないけれど・・・。セリカが“久し振りに会って話がしたい”と言って来た、断ると後々煩いし。それに何よりも怖いからね、コイツは・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・怖いって、どう怖いの?」
「セリカは僕よりも強いんだよ、勿論“神人化”すればその限りでは無いんだけど・・・。ただ相手がわざわざ“こちらが神になる為の祈りを捧げる時間”を与えてくれる、とは思えないしなぁ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・じゃあ“波動砲”で撃ち滅せば良いじゃない?」
「“波動砲”、つまりは“龍神の咆哮”を用いようとしても同じ事だ。あれは自分の波動エネルギーと自然法力とを融合させたモノを極限まで高めて一点に凝縮し、それをプラズマ力場で包み込んで一方向に向かってぶっ放す技なんだ。確かに一旦発動させられれば回避はかなり困難になるけれど・・・。だけど発動するまでの隙があり過ぎる、実戦では使えないよ・・・」
“それに・・・”と蒼太は続けた、“セリカに会えば解るだろうけれど”とそう言って。
「ハッキリと言って・・・。セリカは君と同じだけの強さを持っている、それは単に技量だけの問題じゃない。“心”や“覚悟”もそうなんだ、アイツはね?メリー。プロイセンに生まれた君なんだよ、少なくとも僕にとってはね。だからそう言う人と、力の限りを尽くして傷付け合うのは、殺し合うのは。どうしたって僕には耐えられないんだ、嫌なんだよどうしても!!!」
「・・・・・」
その言葉を聞いてメリアリアは多少、溜飲を下げた、自分の弱さや至らなさを素直に認める心意気と言い、愛妻と姿が重なる存在と戦う事は出来ない、と断言する潔さと言い、人間として中々に可愛げがあるではないか。
それに感受性が強くて様々な事を経験して来た今の彼女には蒼太の気持ちが痛いほど良く理解出来たのであり、その苦悩もまた存分に伝わって来たのである、だから彼女としてはそれ以上、夫に対してモノを言う事が出来なくなってしまったのだ。
「・・・じゃあでも。どうするの?あなた」
「取り敢えず・・・。まずはセリカと会ってみるよ、どうやら戦いに来た訳では無いようだし・・・。いきなり襲い掛かられたりはしないだろうからね」
「・・・ねえ。あなた」
「んん?なにさ、メリー・・・」
「私も一緒に付いて行ってあげる・・・」
メリアリアは気付いた時にはそう発言していた、正直な話で女性に関する事柄を隠していたのはショックだったがそれとてもワザとやった訳では無い事は重々に伝わって来たし、それになにより。
それを差っ引いたとしてもメリアリアは蒼太の事が、どうしようも無い位に愛しくて愛しくて堪らないのである、蒼太の存在ややることなすことが一々彼女の恋心をこれ以上無い程にまで刺激するのだ。
「・・・・・っ。そんなこと、だけど!!!」
「あなた一人では、何かあった時に殺されてしまうかも知れないわ?だから私が一緒に行って守ってあげる・・・っ!!!」
「・・・・・っ。メリーッ!!!」
「・・・それだったなら、私も行きます。きっと何かの役に立てますから!!!」
「私もだ、私も君を守るよ。それにこう見えても私はメリアリアよりも強いからな!!!」
「アウロラ、オリヴィア・・・ッ!!!」
“みんな、有り難う・・・!!!”、“凄く助かるよ!!?”等と感動のあまりに本心からそう叫んで自分の手を握る夫に対して、メリアリアは思わず“もう・・・”、“しょうがないんだから・・・”と呟いて苦笑してしまう。
取り敢えずは今回の事件の裏側にいる者の正体が判明し、また蒼太が故意に隠し事をしていたわけでは無い事が解った、だとすればもう何も迷う事はない、後は全力で彼を守り抜くだけである。
(まだ解らない事は、あるけれど・・・。少なくともこの人を、夫をみすみす死なせてたまるもんですか。見ていなさいよ、セリカ!!!)
自分の為すべき事が明確になった時のメリアリアは恐ろしい程の力を逡巡無く発揮出来る存在である、況してや今回は最愛の夫の命が懸かっているのだ、失敗は絶対に許されない。
それに彼女は自分の夫に勝手に近付いて来る存在(特に女)が大嫌いである、今後のためにもそこの所をハッキリと示しておく必要があった。
(蒼太は、この人は私が絶対に守ってみせる。例え私の体に換えても、命に換えてもっ!!!だって私の一番大好きな人なんだもの、大切な人なんだもの。傷一つ付けさせてたまるもんかっっっ!!!!!)
(蒼太さんは私が必ず守り抜いてあげます。例え私の命と引き換えになったとしても、人生と引き換えになったとしてもっ。蒼太さんだけは生かして返してあげるっっっ!!!!!)
(・・・蒼太。私の一番愛しい人、大切な人。例え何があっても私が君を守り抜いてみせるからなっ!!?私の生命の灯火を、全て使い果たそうともだっっっ!!!!!)
三者三様の決意とやる気とを胸に秘めつつ、花嫁達はこれからも夫と共に歩む、と言う選択を“当たり前の事”として自然の内に為していた。
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