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夫婦の絆と子供への思い
永遠なる恋と輪廻の絆(前編)
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かつて“鹿島の神”との修業の最中に、蒼太は自分とメリアリアの輪廻転生の記憶を見せてもらった事があったのだが、それは今を遡る事56000年程の昔。
後世からは“神話”と呼ばれる時代の只中において、蒼太はメリアリアを“妻”としてささやかながら幸せで満ち足りた日々を送っていた、彼等はこの時には“ムー大陸”にあった国の首都に住んでおり、互いに仲睦まじく暮らしていたのだ。
ちなみにメリアリアは“アトランティス”の出身であって、つまりは異文明かつ異人種間での婚姻を結んだ訳であるモノの、ところが。
その最中にムーとアトランティスの間で戦争が巻き起こり、それが二人の仲を引き裂いた、彼等は泣く泣くそれぞれの国元・親元に帰らざるを得なくなり、そして夫婦の離別を待っていたかのようなタイミングで戦争の火蓋が切られたのである。
戦いは何年も続いて遂には蒼太も、そしてメリアリアも戦闘に駆り出される運びとなった、この時の両国は“終わりなき消耗戦”に突入しており中々、勝敗がハッキリとした形では着かなかったのだ。
何度となく戦場を経験する内に、二人にはそれぞれに大切な戦友も出来たのだが、さりとて彼等は一日たりともお互いの事を忘れた事は無く、“こんな戦いは早く終われば良い”、“いつか戦争が終わったら会いに行こう”と密かに心に決めていた。
しかし。
戦場は何処までも非情で冷たく、かつ過酷であった、その中で数多くの戦友達が相手の凶弾に倒れ、戦死して行ったがそれを繰り返し目の当たりにするに連れて蒼太の中には悲しみが、そしてメリアリアの中には明確な敵意が芽生えてしまっていった。
そんな中で遂に蒼太とメリアリアは再びの邂逅を果たす時がやって来た、内心で複雑な思いを抱く蒼太に対してメリアリアは言った、“仕方が無い事なのよ!!?”と、“これは運命だったのだから!!!!!”と。
そして二人は戦闘を開始した、否、明確な殺気を放ちつつ自分に向かって来る“妻”の鋭峰を、蒼太はなんとか防いで凌ぎながらも、メリアリアを説得しようと試みた、だけど。
「どうしたの、私と戦えないの!!?私の方が強いから戦いを避けているのでしょうっ。卑怯者っっっ!!!!!」
メリアリアが罵倒しつつ叫んだ、そしてそれは事実だった、この頃からメリアリアは既に戦闘技術で蒼太の先を行っていたのだ。
一方の蒼太は尚も逡巡していた、彼だって膂力に優れた歴然の戦士の一人であった、俗に言う“エース”だったのだがしかし、彼はどうしてもメリアリアへの思いを捨て去る事が出来なかった。
(あんなに愛してくれた人に、愛し合い続けた人に殺気の籠もった刃を向けるなんて・・・。本当にそれが正しい事なのか?そこに“救い”はあるのだろうか。それに第一、それじゃあ自分の思いは状況によって、都合によって簡単に変化してしまう事になるじゃないか!!!)
蒼太にはそれがどうしても違和感を覚えて納得出来なかった、“それは違うだろう”と頭で心で魂で、明確に感じ取っていたのである。
「戦いなさい。もし、それが出来ないのならば・・・。私はあなたを殺す・・・っ!!!」
そう言って襲い掛かって来たメリアリアが、彼に攻撃を繰り出そうとした瞬間だった、彼女は地面の凹凸に足を取られて転んでしまい、その場に倒れ伏してしまったのだ。
「ああ・・・っ!!!」
「・・・・・」
蒼太のチャンスだった、絶好のチャンスだった、“殺せ!!!”と頭の中で警鐘が鳴った、“やらなければやられるぞ!!?”と。
しかし。
「・・・・・っ!!!」
「一緒に、帰ろう・・・?」
蒼太はメリアリアを抱き起こし、そのままかつてのように抱擁した、彼はどうしてもメリアリアを忘れられなかったのだ。
それに“こうすることが正しい”と、“自分の命がどうなったとしても”とそこまで直感して理解したのである。
“今こそ命を懸けなければならない時なのだ”と、・・・だけど。
「・・・甘いわ?」
メリアリアは胸に隠し持っていた短剣を蒼太の胸に突き刺した、それは紛う事無き心臓を刺し貫いて蒼太はその場に倒れ伏し、程なく絶命してしまった。
「愛、してるよ?愛してる・・・」
本当に最後の最後、即ち自分の魂が肉体から離れるまで蒼太は優しい笑みを浮かべながらもそう訴え掛け続けたが、それを見た刹那にメリアリアは“何という事をしてしまったのだろう”と悟った、“自分はやってはいけない事をやってしまったのだ”と。
“失ってはならない人を失ってしまったのだ”と。
「・・・あ、あなた!!?許してあなたっっっ!!!!!」
メリアリアはその場に蹲り、恐怖と冷たさに身をワナワナと震わせながら蒼太の遺体に縋り付いて泣きじゃくった。
(ああっ。か、神様・・・!!!)
大粒の涙を流しつつもメリアリアは祈った。
(私の身はどうなっても構いません。だからお願いです、この人を返して。生き返らせて!!?私をもう一度、この人に会わせてください・・・!!!!!)
それからどれ位の時が経ったのかも解らなかったがメリアリアは真剣に祈った、祈る事しか出来なかったのだがすると泣き疲れたのだろう、いつの間にかに眠ってしまっていた。
その夢の中に神が出て来てこう告げた、“いずれお前達はまた出会う日が来るだろう”、“その時にもし、お前の罪が消えていたのならば。再び共に生きる事が出来るだろう・・・”と。
程なく目を覚ましたメリアリアはその言葉を胸に抱き、夫の亡骸を背負って国に帰るとその時の残りの人生の全てを彼の御霊を癒して慰め、鎮魂する為に費やしたのであった。
「・・・・・っ。嘘でしょう?」
「嘘では無いぞ?ちなみにな、うんと昔の過去世に於いては・・・。ちょっとした夫婦喧嘩が元でまたもやお主が殺されたり、逆にこの女子を殺した事もあった。まあ諍いの勢いと言うやつじゃな、なんならその場面も見てみるか?」
「・・・・・」
「ついでに言っておいてやろう。お主達は長い輪廻転生を繰り返す中で互いに浮気したりされたりも何度か経験しておるんじゃよ、しかしその度にお主達は本気で悔い改めて来た。勿論、一緒に暮らしている内に浮気相手に幻滅して来た、と言う事もあるにはあったが要はそれだけお互いの事が好きだったんじゃろうな。だからそれだけ真摯に反省してそれぞれへの思いにより深い領域まで気付いて行った、と言う訳じゃ。つまりは愛情を進化させて来た、とも言えるね・・・」
「愛情を、進化させる・・・。そんな事が出来るのですか?」
「出来るとも、ちなみに儂ら“神”の間でもずっと議題に昇っている事があるのじゃがな?どうしてお主達は、つまりは今の人間と言う輩共は瞬間的に愛を重ね合わせる事は出来てもその先にある“愛を進化させて行く”、“愛を育くみ合って行く”と言う事が致命的に出来ないんじゃろうか・・・」
「・・・・・」
「“愛”とは“存在する事”であり、また“合い”でもある。そしてそれは本来ならば相手へと跳ね返って報われ合って行くモノなんじゃよ?解き放たれた“愛情の思念の光り輝き”が双方の間で無限反復してどこまでもどこまでも増幅し、その煌めきがより一層激しく確かなモノになって行くんじゃ。しかし実際に社にやって来るお主達の願いを見てみるとやれ“相手とずっとらぶらぶしたい”だの、“相手とずっと一緒にいたい”と言っておきながら少しも愛を育くもうとは考えておらんのじゃ。だから途中で愛を見失ってしまい、その結果として浮気したり不倫に走ってしまうんじゃな。全く愚かな事をするもんじゃ・・・」
「そうですよね・・・」
これにはまだ少年だった蒼太も全力で同意した。
「相手がいる事は奇跡です、当たり前なんかじゃ無いんです。みんなにはそれが解らないんでしょうね・・・」
“況してや”と彼は続けた、“大好きな人と共にある時間を過ごせる事が、どれだけ有り難い事なのかを全く以て理解していないんだと思います”とそう結んで。
「中には純愛をバカにする人すらいます。それも声高にですよ?今の人々の感性や真意の在り方が、僕には良く解らないですよ・・・」
「・・・そうじゃのう。“純愛”と言うのは間違ってもたった一度の人生で味わえたり、いきなりそこにまで辿り着けたりするモノでは無いからな」
「これは父に教えてもらった事なんですけどね?神様。“本物の純愛”と言うの例えるならば“日本刀”と同じなんだって・・・」
蒼太が話すが“日本刀”と言う刀剣はまずは鉄鉱石を“炉”の中に(つまりは炎の中に)入れて熱し、それを取り出してから叩いて叩いて叩き付け、それを水に入れて冷ましてはまた熱して叩く、と言う工程を繰り返しながら徐々に形を整えて行く。
その過程で刀からは不純物が取り除かれると同時に硬度がどんどん増して行き、やがて非常にしなやかかつ強靱な刀身が出来上がるのである。
それを最終的には研ぎ師が研いで紋様を付け、漸く完成となるのであるが、蒼太の話す“純愛”も基本的にはそれと同じモノであり、要するに長い輪廻転生を繰り返す中で何度となく過ちや躓きを経験してそれらを是正し、償い、またあるいは度重なる試練を乗り越える事でより深く、確固たるモノへと成長・進化して行く、と言うのだ。
そうして最後の最後にもうそれ以上どうやっても変化・変質や、欠けたり付け足したりする事も出来なくなった瞬間に初めて完璧となり、遙かな高みへと昇って行くのだと、彼は結んだ。
「そうして出来た“愛の絆”というモノは最早誰が、どうやっても汚したり壊したりする事が出来ない程の凄まじい光りを放つんです。そうした時に自分の胸の中にある恋慕や愛意は初めて本当に“確かなるモノ”となってをハッキリとこの宇宙全体に顕現して行く事になるんですよね・・・」
「ほほう?」
「まあ父はもっと違う言葉や例えで説明をしていましたけれど・・・。だけど僕もそれを聞いて“正しい”と感じましたし、それにその教えを一応は“自分のモノ”にしましたので・・・。まあ僕の場合はまだ“知識でだけ”かも知れませんけれどね?だけどいずれは役立たせるつもりでいますから、今回は敢えて自分の言葉に直して説明してみました・・・」
「それでよい、それでよい・・・!!!」
“鹿島の神”は笑って言った。
「長い長い輪廻転生を繰り返す中で人は誰しもが時には浮気したりされたり、または寝取り寝取られ、と言った事を何度となく体験して行くんじゃ。しかしその度に底の底のドン底まで悔い改めては反省して償い、また或いはそれらを跳ね返して突破して行く内にお互いへの“本当の気持ち”、つまりは“紛う事無き真実の愛情”と言ったモノに気付いて“それら”を再確認しつつも、成長させては進化させて行くんじゃな。そしてその結果として相手への思いや絆をより一層深めては更に強固なモノにして行くのじゃよ・・・」
“お主達だって最初の内はそうだったんじゃよ?”と鹿島の神は続けて言った。
「しかし様々な経験を積んで色々な試練や障害を乗り越えて行った事で、今や何があっても揺るぎない程の、熱烈かつ真摯な愛意と純慕とを相手に抱くに至っているのじゃ。誰よりも何よりもお互いの事を恋しく、大切に感じるようになっているのじゃな。そうなるまでが一苦労じゃが一度そうなってしまえばもう“怖いもの無し”じゃよ?今のお主達ならば何があっても大丈夫なようになっておるからの・・・」
「・・・じゃあまたなにか。僕やメリーに試練や障害が降り掛かって来たとしても?」
「うむ、その質問は“是”であり“非”なのじゃ。何故ならば宇宙と言うモノは無駄な事はせん、引き起こされて来る事象には全て意味があるんじゃよ。しかし今のお主達ならば最早、降り掛かって来る試練や障害をも簡単に、かつ確実に乗り越えて行けるだろうからな。それだけの深い愛情と強さをお互いに持っておるだろうから、試練が試練として機能せんのじゃ。だからお主達にはそう言った“無駄な苦しみ”と言うか、“余計な悲劇”はやっては来ないんじゃよ・・・」
それが“建御雷神”が蒼太に言った言葉であり、そしてそれは今にして思えば一種の“神託”だったのである。
「それにしてもお主、大した男子じゃな。見た目はあまりパッとしないが心意気と言うか、中身は中々の偉丈夫じゃわい。見事なモノよ・・・!!!」
「・・・僕はね?神様。“メリーにとって絶対に忘れる事が出来ない男になろう”って思っているんですよ、“メリーの中で一番の男になってやろう”って思っているんです!!!」
「ほほう・・・?」
蒼太の独白に建御雷神は面白いモノを見るように目を細めた。
「・・・だけどね?確かに望みはそうなんですけど、この世の中に於いては絶対って絶対に無いじゃないですか。それも解りますしそれに、こんな事を言ったならばメリーに怒られちゃうと思うんですけど。僕はね?女の子が憐れで仕方が無いんですよ」
「・・・お主、その年で良く勉強しておるな」
「だってそうじゃ無いですか。抱かれる度に他の誰かのモノになって、好きな人に操を立てる事も許されない。自分の思いを守り抜く事もままならないんですよ?簡単に上書きされちゃうんです、だけどね?そうしないと生きられないんです。前に進めないんですよ!!!・・・それって物凄く悲しい事じゃ無いですか」
“女性ってそう言う生き物なんですよ”、“だから当然、僕以外にも忘れられない男の人って出て来ると思うんですよね・・・”と蒼太は“鹿島の神”に告げた。
「だからね?神様、僕はメリーに最後の最後に僕の側にいてもらいたいんです。例えどれだけ汚されて乱されようとも、狂わされようとも最後に僕の隣にいてくれれば良いんですよ。それにあんまりこう言う事は言いたくは無いですけれども、もし仮に。僕以外に“忘れられない男”が居たとしても、僕はそれを責めるつもりはありません。僕はメリーの性格や性分を良く知っています、だからそんな彼女が“体や心を許す”と言うのがどれだけの葛藤の上に成り立っているモノなのか。どれだけの過酷な状況が襲い掛かって来た上での出来事だったのか、と言う事は解るつもりです」
「・・・・・」
「奇麗事を言うつもりはありません、僕だって出来ればメリーは僕だけのモノでいて欲しいです。自分の中にそう言う思いが全くないとは言いません、ですけどね。もしメリーに何かがあって、僕以外に忘れられない男が出来てしまったとしたならば。・・・僕は“その人に対する思い”や“思い出”ごと、メリーを抱き締めるつもりです。共に生きるつもりです、・・・あの子をまるごと貰い受けて、ずっと側に居るつもりなんです」
「・・・お主のその思いは必ずやいつか、意中の女子に伝わるであろう。せいぜい精進いたせよ?しっかりと見届けさせてもらうからの」
“あの子にはどんな事があっても生きていて欲しいんです・・・!!!”と述べ立てた蒼太に対して最後の最後で健御雷神は謎めいた言葉をまだ少年だった彼に言って聞かせた。
後世からは“神話”と呼ばれる時代の只中において、蒼太はメリアリアを“妻”としてささやかながら幸せで満ち足りた日々を送っていた、彼等はこの時には“ムー大陸”にあった国の首都に住んでおり、互いに仲睦まじく暮らしていたのだ。
ちなみにメリアリアは“アトランティス”の出身であって、つまりは異文明かつ異人種間での婚姻を結んだ訳であるモノの、ところが。
その最中にムーとアトランティスの間で戦争が巻き起こり、それが二人の仲を引き裂いた、彼等は泣く泣くそれぞれの国元・親元に帰らざるを得なくなり、そして夫婦の離別を待っていたかのようなタイミングで戦争の火蓋が切られたのである。
戦いは何年も続いて遂には蒼太も、そしてメリアリアも戦闘に駆り出される運びとなった、この時の両国は“終わりなき消耗戦”に突入しており中々、勝敗がハッキリとした形では着かなかったのだ。
何度となく戦場を経験する内に、二人にはそれぞれに大切な戦友も出来たのだが、さりとて彼等は一日たりともお互いの事を忘れた事は無く、“こんな戦いは早く終われば良い”、“いつか戦争が終わったら会いに行こう”と密かに心に決めていた。
しかし。
戦場は何処までも非情で冷たく、かつ過酷であった、その中で数多くの戦友達が相手の凶弾に倒れ、戦死して行ったがそれを繰り返し目の当たりにするに連れて蒼太の中には悲しみが、そしてメリアリアの中には明確な敵意が芽生えてしまっていった。
そんな中で遂に蒼太とメリアリアは再びの邂逅を果たす時がやって来た、内心で複雑な思いを抱く蒼太に対してメリアリアは言った、“仕方が無い事なのよ!!?”と、“これは運命だったのだから!!!!!”と。
そして二人は戦闘を開始した、否、明確な殺気を放ちつつ自分に向かって来る“妻”の鋭峰を、蒼太はなんとか防いで凌ぎながらも、メリアリアを説得しようと試みた、だけど。
「どうしたの、私と戦えないの!!?私の方が強いから戦いを避けているのでしょうっ。卑怯者っっっ!!!!!」
メリアリアが罵倒しつつ叫んだ、そしてそれは事実だった、この頃からメリアリアは既に戦闘技術で蒼太の先を行っていたのだ。
一方の蒼太は尚も逡巡していた、彼だって膂力に優れた歴然の戦士の一人であった、俗に言う“エース”だったのだがしかし、彼はどうしてもメリアリアへの思いを捨て去る事が出来なかった。
(あんなに愛してくれた人に、愛し合い続けた人に殺気の籠もった刃を向けるなんて・・・。本当にそれが正しい事なのか?そこに“救い”はあるのだろうか。それに第一、それじゃあ自分の思いは状況によって、都合によって簡単に変化してしまう事になるじゃないか!!!)
蒼太にはそれがどうしても違和感を覚えて納得出来なかった、“それは違うだろう”と頭で心で魂で、明確に感じ取っていたのである。
「戦いなさい。もし、それが出来ないのならば・・・。私はあなたを殺す・・・っ!!!」
そう言って襲い掛かって来たメリアリアが、彼に攻撃を繰り出そうとした瞬間だった、彼女は地面の凹凸に足を取られて転んでしまい、その場に倒れ伏してしまったのだ。
「ああ・・・っ!!!」
「・・・・・」
蒼太のチャンスだった、絶好のチャンスだった、“殺せ!!!”と頭の中で警鐘が鳴った、“やらなければやられるぞ!!?”と。
しかし。
「・・・・・っ!!!」
「一緒に、帰ろう・・・?」
蒼太はメリアリアを抱き起こし、そのままかつてのように抱擁した、彼はどうしてもメリアリアを忘れられなかったのだ。
それに“こうすることが正しい”と、“自分の命がどうなったとしても”とそこまで直感して理解したのである。
“今こそ命を懸けなければならない時なのだ”と、・・・だけど。
「・・・甘いわ?」
メリアリアは胸に隠し持っていた短剣を蒼太の胸に突き刺した、それは紛う事無き心臓を刺し貫いて蒼太はその場に倒れ伏し、程なく絶命してしまった。
「愛、してるよ?愛してる・・・」
本当に最後の最後、即ち自分の魂が肉体から離れるまで蒼太は優しい笑みを浮かべながらもそう訴え掛け続けたが、それを見た刹那にメリアリアは“何という事をしてしまったのだろう”と悟った、“自分はやってはいけない事をやってしまったのだ”と。
“失ってはならない人を失ってしまったのだ”と。
「・・・あ、あなた!!?許してあなたっっっ!!!!!」
メリアリアはその場に蹲り、恐怖と冷たさに身をワナワナと震わせながら蒼太の遺体に縋り付いて泣きじゃくった。
(ああっ。か、神様・・・!!!)
大粒の涙を流しつつもメリアリアは祈った。
(私の身はどうなっても構いません。だからお願いです、この人を返して。生き返らせて!!?私をもう一度、この人に会わせてください・・・!!!!!)
それからどれ位の時が経ったのかも解らなかったがメリアリアは真剣に祈った、祈る事しか出来なかったのだがすると泣き疲れたのだろう、いつの間にかに眠ってしまっていた。
その夢の中に神が出て来てこう告げた、“いずれお前達はまた出会う日が来るだろう”、“その時にもし、お前の罪が消えていたのならば。再び共に生きる事が出来るだろう・・・”と。
程なく目を覚ましたメリアリアはその言葉を胸に抱き、夫の亡骸を背負って国に帰るとその時の残りの人生の全てを彼の御霊を癒して慰め、鎮魂する為に費やしたのであった。
「・・・・・っ。嘘でしょう?」
「嘘では無いぞ?ちなみにな、うんと昔の過去世に於いては・・・。ちょっとした夫婦喧嘩が元でまたもやお主が殺されたり、逆にこの女子を殺した事もあった。まあ諍いの勢いと言うやつじゃな、なんならその場面も見てみるか?」
「・・・・・」
「ついでに言っておいてやろう。お主達は長い輪廻転生を繰り返す中で互いに浮気したりされたりも何度か経験しておるんじゃよ、しかしその度にお主達は本気で悔い改めて来た。勿論、一緒に暮らしている内に浮気相手に幻滅して来た、と言う事もあるにはあったが要はそれだけお互いの事が好きだったんじゃろうな。だからそれだけ真摯に反省してそれぞれへの思いにより深い領域まで気付いて行った、と言う訳じゃ。つまりは愛情を進化させて来た、とも言えるね・・・」
「愛情を、進化させる・・・。そんな事が出来るのですか?」
「出来るとも、ちなみに儂ら“神”の間でもずっと議題に昇っている事があるのじゃがな?どうしてお主達は、つまりは今の人間と言う輩共は瞬間的に愛を重ね合わせる事は出来てもその先にある“愛を進化させて行く”、“愛を育くみ合って行く”と言う事が致命的に出来ないんじゃろうか・・・」
「・・・・・」
「“愛”とは“存在する事”であり、また“合い”でもある。そしてそれは本来ならば相手へと跳ね返って報われ合って行くモノなんじゃよ?解き放たれた“愛情の思念の光り輝き”が双方の間で無限反復してどこまでもどこまでも増幅し、その煌めきがより一層激しく確かなモノになって行くんじゃ。しかし実際に社にやって来るお主達の願いを見てみるとやれ“相手とずっとらぶらぶしたい”だの、“相手とずっと一緒にいたい”と言っておきながら少しも愛を育くもうとは考えておらんのじゃ。だから途中で愛を見失ってしまい、その結果として浮気したり不倫に走ってしまうんじゃな。全く愚かな事をするもんじゃ・・・」
「そうですよね・・・」
これにはまだ少年だった蒼太も全力で同意した。
「相手がいる事は奇跡です、当たり前なんかじゃ無いんです。みんなにはそれが解らないんでしょうね・・・」
“況してや”と彼は続けた、“大好きな人と共にある時間を過ごせる事が、どれだけ有り難い事なのかを全く以て理解していないんだと思います”とそう結んで。
「中には純愛をバカにする人すらいます。それも声高にですよ?今の人々の感性や真意の在り方が、僕には良く解らないですよ・・・」
「・・・そうじゃのう。“純愛”と言うのは間違ってもたった一度の人生で味わえたり、いきなりそこにまで辿り着けたりするモノでは無いからな」
「これは父に教えてもらった事なんですけどね?神様。“本物の純愛”と言うの例えるならば“日本刀”と同じなんだって・・・」
蒼太が話すが“日本刀”と言う刀剣はまずは鉄鉱石を“炉”の中に(つまりは炎の中に)入れて熱し、それを取り出してから叩いて叩いて叩き付け、それを水に入れて冷ましてはまた熱して叩く、と言う工程を繰り返しながら徐々に形を整えて行く。
その過程で刀からは不純物が取り除かれると同時に硬度がどんどん増して行き、やがて非常にしなやかかつ強靱な刀身が出来上がるのである。
それを最終的には研ぎ師が研いで紋様を付け、漸く完成となるのであるが、蒼太の話す“純愛”も基本的にはそれと同じモノであり、要するに長い輪廻転生を繰り返す中で何度となく過ちや躓きを経験してそれらを是正し、償い、またあるいは度重なる試練を乗り越える事でより深く、確固たるモノへと成長・進化して行く、と言うのだ。
そうして最後の最後にもうそれ以上どうやっても変化・変質や、欠けたり付け足したりする事も出来なくなった瞬間に初めて完璧となり、遙かな高みへと昇って行くのだと、彼は結んだ。
「そうして出来た“愛の絆”というモノは最早誰が、どうやっても汚したり壊したりする事が出来ない程の凄まじい光りを放つんです。そうした時に自分の胸の中にある恋慕や愛意は初めて本当に“確かなるモノ”となってをハッキリとこの宇宙全体に顕現して行く事になるんですよね・・・」
「ほほう?」
「まあ父はもっと違う言葉や例えで説明をしていましたけれど・・・。だけど僕もそれを聞いて“正しい”と感じましたし、それにその教えを一応は“自分のモノ”にしましたので・・・。まあ僕の場合はまだ“知識でだけ”かも知れませんけれどね?だけどいずれは役立たせるつもりでいますから、今回は敢えて自分の言葉に直して説明してみました・・・」
「それでよい、それでよい・・・!!!」
“鹿島の神”は笑って言った。
「長い長い輪廻転生を繰り返す中で人は誰しもが時には浮気したりされたり、または寝取り寝取られ、と言った事を何度となく体験して行くんじゃ。しかしその度に底の底のドン底まで悔い改めては反省して償い、また或いはそれらを跳ね返して突破して行く内にお互いへの“本当の気持ち”、つまりは“紛う事無き真実の愛情”と言ったモノに気付いて“それら”を再確認しつつも、成長させては進化させて行くんじゃな。そしてその結果として相手への思いや絆をより一層深めては更に強固なモノにして行くのじゃよ・・・」
“お主達だって最初の内はそうだったんじゃよ?”と鹿島の神は続けて言った。
「しかし様々な経験を積んで色々な試練や障害を乗り越えて行った事で、今や何があっても揺るぎない程の、熱烈かつ真摯な愛意と純慕とを相手に抱くに至っているのじゃ。誰よりも何よりもお互いの事を恋しく、大切に感じるようになっているのじゃな。そうなるまでが一苦労じゃが一度そうなってしまえばもう“怖いもの無し”じゃよ?今のお主達ならば何があっても大丈夫なようになっておるからの・・・」
「・・・じゃあまたなにか。僕やメリーに試練や障害が降り掛かって来たとしても?」
「うむ、その質問は“是”であり“非”なのじゃ。何故ならば宇宙と言うモノは無駄な事はせん、引き起こされて来る事象には全て意味があるんじゃよ。しかし今のお主達ならば最早、降り掛かって来る試練や障害をも簡単に、かつ確実に乗り越えて行けるだろうからな。それだけの深い愛情と強さをお互いに持っておるだろうから、試練が試練として機能せんのじゃ。だからお主達にはそう言った“無駄な苦しみ”と言うか、“余計な悲劇”はやっては来ないんじゃよ・・・」
それが“建御雷神”が蒼太に言った言葉であり、そしてそれは今にして思えば一種の“神託”だったのである。
「それにしてもお主、大した男子じゃな。見た目はあまりパッとしないが心意気と言うか、中身は中々の偉丈夫じゃわい。見事なモノよ・・・!!!」
「・・・僕はね?神様。“メリーにとって絶対に忘れる事が出来ない男になろう”って思っているんですよ、“メリーの中で一番の男になってやろう”って思っているんです!!!」
「ほほう・・・?」
蒼太の独白に建御雷神は面白いモノを見るように目を細めた。
「・・・だけどね?確かに望みはそうなんですけど、この世の中に於いては絶対って絶対に無いじゃないですか。それも解りますしそれに、こんな事を言ったならばメリーに怒られちゃうと思うんですけど。僕はね?女の子が憐れで仕方が無いんですよ」
「・・・お主、その年で良く勉強しておるな」
「だってそうじゃ無いですか。抱かれる度に他の誰かのモノになって、好きな人に操を立てる事も許されない。自分の思いを守り抜く事もままならないんですよ?簡単に上書きされちゃうんです、だけどね?そうしないと生きられないんです。前に進めないんですよ!!!・・・それって物凄く悲しい事じゃ無いですか」
“女性ってそう言う生き物なんですよ”、“だから当然、僕以外にも忘れられない男の人って出て来ると思うんですよね・・・”と蒼太は“鹿島の神”に告げた。
「だからね?神様、僕はメリーに最後の最後に僕の側にいてもらいたいんです。例えどれだけ汚されて乱されようとも、狂わされようとも最後に僕の隣にいてくれれば良いんですよ。それにあんまりこう言う事は言いたくは無いですけれども、もし仮に。僕以外に“忘れられない男”が居たとしても、僕はそれを責めるつもりはありません。僕はメリーの性格や性分を良く知っています、だからそんな彼女が“体や心を許す”と言うのがどれだけの葛藤の上に成り立っているモノなのか。どれだけの過酷な状況が襲い掛かって来た上での出来事だったのか、と言う事は解るつもりです」
「・・・・・」
「奇麗事を言うつもりはありません、僕だって出来ればメリーは僕だけのモノでいて欲しいです。自分の中にそう言う思いが全くないとは言いません、ですけどね。もしメリーに何かがあって、僕以外に忘れられない男が出来てしまったとしたならば。・・・僕は“その人に対する思い”や“思い出”ごと、メリーを抱き締めるつもりです。共に生きるつもりです、・・・あの子をまるごと貰い受けて、ずっと側に居るつもりなんです」
「・・・お主のその思いは必ずやいつか、意中の女子に伝わるであろう。せいぜい精進いたせよ?しっかりと見届けさせてもらうからの」
“あの子にはどんな事があっても生きていて欲しいんです・・・!!!”と述べ立てた蒼太に対して最後の最後で健御雷神は謎めいた言葉をまだ少年だった彼に言って聞かせた。
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私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
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だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
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