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夫婦の絆と子供への思い
“悠久の園”事件 7
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リエラとリュシーとサロメの3名は、“セイレーン”でもそれなりに名の知れたコンビであり、かつ実力的にもかなり上位を占める程度のモノを誇っていた。
もっともそれはまだ、その底力が本格的に開花する前のモノであって、曲がり形にも潜在能力を発揮できるようになった今現在のレベルに於いては恐らく、時折出現する事がある“支配者級”の大型モンスターとも互角に戦える位のそれを有していた、と思われるがしかし。
「てやああぁぁぁっ!!!」
そんな新たな強さに目覚めたリエラは、それによって得た力と技とを活かして突撃しつつもメリアリア目掛けて鋼鉄製の茨の鞭を、“ビュウゥゥッ!!!”と思いっ切り振り下ろす。
これが当たれば肉が割ける、等というモノでは無くて事と次第によっては骨まで砕ける程の威力を有していたのであるがしかし、メリアリアは澄ました顔のまま、それを難なく躱してみせた。
「まだまだまだぁ・・・っ!!!」
一度師匠に対する禁断の攻撃を繰り出してしまったリエラはタガが外れてしまったのか、二撃目からは最早なんの躊躇も無く次々とメリアリアに対して鉄鞭を振るうが一方のメリアリアはそれを武器も使わずに軽々と回避して行き、結果リエラの鞭は虚しく宙を切り裂くか、はたまた悪戯に地べたを叩くかのどちらかでしか無かったのだ。
「くそっ、このっ。当たれぇっ!!!」
ビュン、ビュン、ビュオォッ!!!と言う風切り音と共に鉄鞭が金髪碧眼の乙女目掛けて疾走して行くが、メリアリアはリエラの身体の流れを完全に見切っている為、命中弾は一発たりとも出なかった。
「ちいぃぃっ、くそっ。なら、これなら・・・っ!!!」
「・・・“鞭”はこう言う風に使う」
苦渋の顔を浮かべて矢継ぎ早に破れかぶれな打撃を繰り出すリエラに対してメリアリアは落ち着き払い、彼女が鞭を振るおうと後ろに大きく振りかぶった瞬間を突いて一気に肉薄すると初めて己の鞭を振るい、リエラの両腕にエルフの技術である聖力白金で出来ていた鉄製の蔓をたった一発でグルグルと絡み付かせ、拘束してみせたのである。
「あ、あああ・・・っ!!?」
「ああっ。リ、リエラッ!!?」
「今行くから!!!」
「・・・・・」
「・・・悪いがな、そうはいかない!!!」
情け無い声を挙げて両腕の自由を奪われてしまったリエラがその場にしゃがみ込んでしまうが、それを見たリュシーとサロメがすかさず救援に赴こうとするモノの、それを黙って見過ごす程には、アウロラもオリヴィアも甘くは無かった。
この時アウロラはリュシーの、そしてオリヴィアはサロメの相手をしており、しかもそのどちらもで後輩達を圧倒していた、リュシーは自慢の氷結魔法を排撃され、一方のサロメはこちらも細身の剣である“レイピア”を装備してオリヴィアと切り結んでいたのだが、それも斬撃の軌道をそらされ、或いは剣先を弾かれて防がれてしまい、攻撃が意味をなさなかった。
「・・・・・っ。ち、ちくしょうっ!!!」
「そこをどけっ。リエラ、今行くからちょっと待ってて!!!」
「・・・・・」
「笑わせるな・・・」
“そんな程度の腕でっ!!!”と叫び様オリヴィアは剣を剣に絡めるようにして回しつつ刺突を行い、あっさりとサロメの手の甲を突き刺してレイピアを叩き落とさせた、そしてリュシーは。
「きゃああぁぁぁっ!!!」
何やら叫び声が響いたと思ったらアウロラの特大魔法力放出の衝撃波をモロに浴びて吹っ飛ばされており、これ以上の継戦は誰が見ても不可能であった。
「あああっ。み、みんなぁっ!!!」
「・・・どうやら向こうは終わったみたいね、次はこちらの番かしら?」
「・・・・・っ。メ、メリアリア様っ!!!」
堪らずリリアーヌがメリアリアに向かって命乞いをしようとした、その時だ。
「・・・・・っ。はああぁぁぁっ!!!」
不意にリエラの周囲に強力な霊力の紅炎である“煌気”が渦を巻き始めたと思ったら、彼女の身体が輝き始めて行く。
「・・・そう。“紅炎魔法”が扱えるのよね?今の貴女は」
「たああぁぁぁーーーっっっ!!!!!」
気合い一閃、リエラは奮い立って両腕に力を込めるが、なんと彼女はメリアリアの聖鞭を紅炎魔法で融解させ、無理矢理に戒めを解こうと試みたのである。
しかし。
「・・・・・っっっ!!!!?」
(バ、バカなっ。何故だぁ・・・っ!!!)
その戒めは綻びる所か逆にどんどん強さを増して行っており、蔓の部分に付いている無数の茨の刺によってリエラの両腕の方がむしろ傷を負っていた。
それだけではない、彼女が生成させた紅炎魔法があさっての方向へと流出しており、その更に先を見るとメリアリアが空中に突き出した人差し指の先端部分に法力が集められている事が解った。
「・・・・・っっっ!!!!!こ、これはっ。何故!!?」
「・・・紅炎魔法は私が貴女に教えてあげた力よ?」
愛弟子の疑問にメリアリアが応えた。
「その力がどう言ったモノなのか、どうすれば何が起こるのかを、私は知り尽くしているの。況してや弟子の貴女から力を奪うなど造作も無いこと・・・」
「・・・・・っっっ!!!!!く、くそっ。コイツッ、くそ」
その説明を受けてヤケになってしまったリエラは半ば無理矢理に絡み付いていた鞭を振り解こうと藻掻くが、茨の聖鞭は逆にどんどん彼女の締め上げて、刺を深みへと食い込ませていった。
一方で。
「・・・リエラ」
“貴女には罰を受けてもらいます・・・”とメリアリアは静かにしかし、声高に宣言しつつもリエラから奪った紅炎魔法の光球を彼女に向けて射出した。
そして。
「“至高なる火焔の鋳造術”!!!」
それが彼女の身体に触れるか否か、と言うタイミングでそう叫んで術式を発動させると、真紅の炎は白金色に光り輝く火焔となって渦巻きながらリエラを包み、回転しつつ対流して行った。
「・・・・・っっっ!!!!?あ、ああっ。リエラッ!!!」
「これは本来、“炎呪封環”と言う夫が作った技だけど・・・。それを私が扱い易いように組み直したのよ?名付けて“シュプリーム・フレイム・キャスティング”ッ!!!」
「・・・・・っっっ!!!!!メリアリア様お願いっ、リエラに酷いことをしないでっ。私が悪かったんです、私が責任を取りますから!!!」
「残念だけど・・・。もうこうなった以上は貴女だけの責任では済まないわ?私達の胸の内で留める訳にもいかないの、皇帝陛下に決を仰がなくてはならないの・・・!!!」
メリアリアのその言葉に、リリアーヌは改めて悔恨の念を抱いていた。やはりこんな無謀な賭けに出るべきでは無かった、結局自分達は何も成し得ずに終わる事になるでは無いか。
「ちなみに言っておくけれど・・・。この“シュプリーム・フレイム・キャスティング”は“紅炎”を遥かに超えた“極炎”を用いた封印術なのよ?だから如何に貴女が足搔こうが解ける事はないの、リエラ・・・」
“もっとも”と彼女は続けた、“既に意識は無いでしょうけれどね?”とそう言って。
「高速で対流回転する極炎のプラズマ波動の振動が貴女の法力と精神に深く作用して力を奪い、眠らせるの。この呪縛式を解けるのは私と蒼太のみ・・・!!!」
「お願いします、メリアリア様。どうか炎の術をお解き下さいっ、全ての責任は私にありますっ。命を懸けて償いますから、どうか・・・っ!!!」
「・・・そこまでだ」
メリアリア達がリエラ達の戦闘継続能力を粗方奪い、勝敗の帰趨が明らかとなった時の事だった。
不意に複数人の人の気配と共に野太い男の声がして、メリアリア達はそちらを向き直ると同時に一斉に跪くが、するとそこには。
「皇帝陛下・・・」
「皇后陛下も・・・」
「フィリップ七世陛下・・・」
今上皇帝であるフィリップ七世が皇后オセアンヌやラーガ近衛師団長を連れて来訪しており、良く見るとその背後には彼女達の最愛の夫である蒼太の姿まであった、そんな彼等に対してー。
慌てずにしかし、急いで恭しく頭を下げる“茨の聖女”達に向かい、フィリップ七世は歩を進めつつも“楽にしてよい”とそう告げると自らはリリアーヌの元へと歩み寄った。
「久しいな、リリアーヌ。体調が優れぬようだが、その後の塩梅は如何かな・・・?」
「・・・皇帝陛下、私は!!!」
“私は、愚か者でした”、“どうかお許し下さいっ!!!”とその場に跪きながらも項垂れるメイドに対して、フィリップは何も言わずに静かに目を閉じた、そしてー。
「・・・この者達か?蒼太よ」
「はい、陛下。今現在、そこに横たわっている者達こそ次世代の光りであり希望であります!!!」
「・・・・・」
そう言って蒼太に問い質すモノの、その直後に。
“見ればまだ、女子供ではないか”、“よくぞここまで食い入って来たモノよ・・・”とフィリップ七世は他人事のようにしかし、かなり興味深そうにリエラ達の事を見渡していた。
「しかし流石に相手が悪かったようだな?リリアーヌよ・・・」
「・・・・・」
俯き加減となっていたリリアーヌはそう声を掛けられても最早、何を言う気力もなく、またなんと言って良いのかも解らずに押し黙ってしまう。
しかし。
「・・・そうまでしてエリクに会いたいか?リリアーヌ」
「・・・・・っっっ!!!!?」
そのフィリップ七世の言葉にリリアーヌは一も二も無く飛び付いた。
「・・・はいっ。はい、会いたいですっ。エリク様に会えるのならば、私はもうどうなったとしても!!!」
「・・・・・」
“それほどか・・・”と呟くと、フィリップは近習の1人に命じてエリクを呼びに行かせた、これには蒼太はおろかメリアリアもアウロラもオリヴィアも、そしてリリアーヌ本人も驚愕するモノの、そんな一堂の前に。
程なくして“エリク・デュオン・ド・メロヴィング”その人が現れた。
「リリアーヌ!!!」
「エリク様・・・っ!!!」
2人はそう叫んで駆け寄ると抱き締め合い、涙ながらに抱擁を交わす。
「済まないっ。僕のせいで君は、君は・・・っ!!!」
「良いんですっ、そんなこと。ああ、エリク様・・・っ!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「よろしいかな・・・?」
それが一頻り、済む頃合を見計らってフィリップ七世が再び口を開いた。
「リリアーヌ。君は良くエリクの傍に仕えてくれていた、だが今回の事を見過ごす事は出来ん。・・・解ってくれるな?」
「・・・・・」
「お祖父様、待って下さいっ。僕はリリアーヌを・・・!!!」
「お前とこの少女では身分が違いすぎるのだ、それがどう言う事なのかがお前にはまだ解っておるまい!!!」
「育って来た環境や生き様、習慣や生活態度の何もかもが違うのです。とてもではありませんが夫婦となって共にある事は出来ません!!!」
それが皇帝と皇后の意見であった。
「エリクは将来、然るべき女性と結ばれる運命にある。・・・いいや、むしろ“結ばれなくてはならない”のだ。解ってくれるな?リリアーヌ」
「・・・・・」
「だが」
と俯き加減となり悲しみに満ち溢れた表情を覗かせるリリアーヌに対してフィリップ七世は続けた。
「君が真剣にエリクの事を思ってくれている事は重々伝わって来た、だから温情判決を出そう。君と結婚させる事は出来ないが、君がもし“それでも構わない”と言うのであれば。今まで通りエリクの傍にいて孫を支えてやって欲しい、勿論謹慎も解く事にする。・・・どうかな?」
「・・・・・っっっ!!!!?あ、有り難う御座いますっ。皇帝陛下っ!!!」
優しい笑みを浮かべてそう告げるフィリップ七世に対してリリアーヌは思わず涙ぐみながら頭を下げた。
そしてー。
「エリク様・・・っ!!!」
「リリアーヌッ!!!」
2人は再び抱き合って久方振りの逢瀬を満喫し始めるが、そんな彼等を尻目に。
「ところで蒼太。今回の君の行動には大いに同情もするし感心もするが・・・。かと言って余の立場からすれば中々にいただけない事も多い、自らの出処進退に付いて何か申し開きはあるか?」
「いいえ皇帝陛下、全く以て御座いません・・・」
“素直なヤツだな・・・”とそう言って頭を下げる蒼太に対してフィリップ七世は思わず苦笑してしまった、今回の件は蒼太は自分からフィリップ七世に報告に行ったのであり、黙っていればバレなかった可能性もあったのだが、さて。
「私の罪は明白です、皇帝陛下の御期待に応えられなかったのですから・・・」
「陛下、お待ち下さいっ!!!」
するとそう言ってその場に跪き、言葉を綴る蒼太の前にメリアリア達が慌てて躍り出て来た。
「夫は今回、本当に難しい判断を迫られました。だけど本人達が悪人では無かったのと私に対する思いもあってこの人は、最終的にはリエラ達を通したのです!!!」
“私達は”とメリアリアは尚も続けた、“その当の本人達を捕縛しております”と。
「夫の責任は妻である私達にもありますっ。ですけれども今回、私達はそれを果たしました。賊の侵入は防ぎましたし、当事者達は逮捕してもおります。以上の点を鑑みて何卒どうか、ご温情を賜ります事を・・・っ!!!」
「・・・ふっ」
“わはははははっ!!!”とそれを聞いたフィリップ七世は笑い出してしまっていた、宮廷と言う権謀術数渦巻くドス黒い思念の中で生まれ育って来た彼としては、自分に正直にいてくれる存在や互いに強固な愛情を抱き合っている者達は稀有であり、何より貴重であったのだ。
「・・・まったく、楽しませてくれるな?君達は」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「解った、今回の蒼太の不手際は不問に付そう。それにしても・・・」
「・・・・・」
“蒼太よ”とフィリップ七世は蒼太に対して素朴な質問を投げ掛けてみた、“何故わざわざ報告に来たのだ?”と、“黙っていれば君の地位も安泰だったと思うのだがな?”と。
それに対して。
「あなたに嘘を付く、と言う事は絶対にやってはいけない事です皇帝陛下。だって本来ならば私達は誠意誠実を以てあなたにお仕えしなければならないのに、失敗したからと言ってそれを偽ってしまったのでは救いが無いじゃないですか!!!」
「・・・ぷっ」
“それに失敗する度に嘘を付いていたりしたら、とんでもない事になりますよ!!!”、“況してやあなたに対してですよ!!?”等と真顔で答えて来る蒼太に対して“わははははははっ!!!”とフィリップは再び笑い始めてしまった、彼にとっては皇后や家族に次いで久方振りの心を許せる存在が現れてくれた、実に楽しい夜になった。
(ある意味得難い存在よ、此奴は本気で誠意誠実を以て仕える事がベストだと思っている。面白い、やはり此奴とその一味は傍に置いておくべきかも知れん・・・)
「・・・・・?」
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「・・・あ、あの。陛下?」
「ぷっくくくっ。良い良い、やはり君達は愛いヤツだよ・・・!!!」
“大事にせねばな?”と皇后に対してそう告げると、彼女が微笑みながら頷くのを確認してからフィリップ七世は改めて御触れを出した、その内容は。
「今回の事はあくまで無差別かつ抜き打ちの非常訓練だった。従って賊等は最初から誰もいなかったので皆安心するように!!!」
と言うそれであったのだ。
これによってリエラ達は罪を免れ、その侵入事件自体が無かった事になり、更には蒼太の失敗もメリアリア達の功績も帳消しとなったのである。
もっともそれはまだ、その底力が本格的に開花する前のモノであって、曲がり形にも潜在能力を発揮できるようになった今現在のレベルに於いては恐らく、時折出現する事がある“支配者級”の大型モンスターとも互角に戦える位のそれを有していた、と思われるがしかし。
「てやああぁぁぁっ!!!」
そんな新たな強さに目覚めたリエラは、それによって得た力と技とを活かして突撃しつつもメリアリア目掛けて鋼鉄製の茨の鞭を、“ビュウゥゥッ!!!”と思いっ切り振り下ろす。
これが当たれば肉が割ける、等というモノでは無くて事と次第によっては骨まで砕ける程の威力を有していたのであるがしかし、メリアリアは澄ました顔のまま、それを難なく躱してみせた。
「まだまだまだぁ・・・っ!!!」
一度師匠に対する禁断の攻撃を繰り出してしまったリエラはタガが外れてしまったのか、二撃目からは最早なんの躊躇も無く次々とメリアリアに対して鉄鞭を振るうが一方のメリアリアはそれを武器も使わずに軽々と回避して行き、結果リエラの鞭は虚しく宙を切り裂くか、はたまた悪戯に地べたを叩くかのどちらかでしか無かったのだ。
「くそっ、このっ。当たれぇっ!!!」
ビュン、ビュン、ビュオォッ!!!と言う風切り音と共に鉄鞭が金髪碧眼の乙女目掛けて疾走して行くが、メリアリアはリエラの身体の流れを完全に見切っている為、命中弾は一発たりとも出なかった。
「ちいぃぃっ、くそっ。なら、これなら・・・っ!!!」
「・・・“鞭”はこう言う風に使う」
苦渋の顔を浮かべて矢継ぎ早に破れかぶれな打撃を繰り出すリエラに対してメリアリアは落ち着き払い、彼女が鞭を振るおうと後ろに大きく振りかぶった瞬間を突いて一気に肉薄すると初めて己の鞭を振るい、リエラの両腕にエルフの技術である聖力白金で出来ていた鉄製の蔓をたった一発でグルグルと絡み付かせ、拘束してみせたのである。
「あ、あああ・・・っ!!?」
「ああっ。リ、リエラッ!!?」
「今行くから!!!」
「・・・・・」
「・・・悪いがな、そうはいかない!!!」
情け無い声を挙げて両腕の自由を奪われてしまったリエラがその場にしゃがみ込んでしまうが、それを見たリュシーとサロメがすかさず救援に赴こうとするモノの、それを黙って見過ごす程には、アウロラもオリヴィアも甘くは無かった。
この時アウロラはリュシーの、そしてオリヴィアはサロメの相手をしており、しかもそのどちらもで後輩達を圧倒していた、リュシーは自慢の氷結魔法を排撃され、一方のサロメはこちらも細身の剣である“レイピア”を装備してオリヴィアと切り結んでいたのだが、それも斬撃の軌道をそらされ、或いは剣先を弾かれて防がれてしまい、攻撃が意味をなさなかった。
「・・・・・っ。ち、ちくしょうっ!!!」
「そこをどけっ。リエラ、今行くからちょっと待ってて!!!」
「・・・・・」
「笑わせるな・・・」
“そんな程度の腕でっ!!!”と叫び様オリヴィアは剣を剣に絡めるようにして回しつつ刺突を行い、あっさりとサロメの手の甲を突き刺してレイピアを叩き落とさせた、そしてリュシーは。
「きゃああぁぁぁっ!!!」
何やら叫び声が響いたと思ったらアウロラの特大魔法力放出の衝撃波をモロに浴びて吹っ飛ばされており、これ以上の継戦は誰が見ても不可能であった。
「あああっ。み、みんなぁっ!!!」
「・・・どうやら向こうは終わったみたいね、次はこちらの番かしら?」
「・・・・・っ。メ、メリアリア様っ!!!」
堪らずリリアーヌがメリアリアに向かって命乞いをしようとした、その時だ。
「・・・・・っ。はああぁぁぁっ!!!」
不意にリエラの周囲に強力な霊力の紅炎である“煌気”が渦を巻き始めたと思ったら、彼女の身体が輝き始めて行く。
「・・・そう。“紅炎魔法”が扱えるのよね?今の貴女は」
「たああぁぁぁーーーっっっ!!!!!」
気合い一閃、リエラは奮い立って両腕に力を込めるが、なんと彼女はメリアリアの聖鞭を紅炎魔法で融解させ、無理矢理に戒めを解こうと試みたのである。
しかし。
「・・・・・っっっ!!!!?」
(バ、バカなっ。何故だぁ・・・っ!!!)
その戒めは綻びる所か逆にどんどん強さを増して行っており、蔓の部分に付いている無数の茨の刺によってリエラの両腕の方がむしろ傷を負っていた。
それだけではない、彼女が生成させた紅炎魔法があさっての方向へと流出しており、その更に先を見るとメリアリアが空中に突き出した人差し指の先端部分に法力が集められている事が解った。
「・・・・・っっっ!!!!!こ、これはっ。何故!!?」
「・・・紅炎魔法は私が貴女に教えてあげた力よ?」
愛弟子の疑問にメリアリアが応えた。
「その力がどう言ったモノなのか、どうすれば何が起こるのかを、私は知り尽くしているの。況してや弟子の貴女から力を奪うなど造作も無いこと・・・」
「・・・・・っっっ!!!!!く、くそっ。コイツッ、くそ」
その説明を受けてヤケになってしまったリエラは半ば無理矢理に絡み付いていた鞭を振り解こうと藻掻くが、茨の聖鞭は逆にどんどん彼女の締め上げて、刺を深みへと食い込ませていった。
一方で。
「・・・リエラ」
“貴女には罰を受けてもらいます・・・”とメリアリアは静かにしかし、声高に宣言しつつもリエラから奪った紅炎魔法の光球を彼女に向けて射出した。
そして。
「“至高なる火焔の鋳造術”!!!」
それが彼女の身体に触れるか否か、と言うタイミングでそう叫んで術式を発動させると、真紅の炎は白金色に光り輝く火焔となって渦巻きながらリエラを包み、回転しつつ対流して行った。
「・・・・・っっっ!!!!?あ、ああっ。リエラッ!!!」
「これは本来、“炎呪封環”と言う夫が作った技だけど・・・。それを私が扱い易いように組み直したのよ?名付けて“シュプリーム・フレイム・キャスティング”ッ!!!」
「・・・・・っっっ!!!!!メリアリア様お願いっ、リエラに酷いことをしないでっ。私が悪かったんです、私が責任を取りますから!!!」
「残念だけど・・・。もうこうなった以上は貴女だけの責任では済まないわ?私達の胸の内で留める訳にもいかないの、皇帝陛下に決を仰がなくてはならないの・・・!!!」
メリアリアのその言葉に、リリアーヌは改めて悔恨の念を抱いていた。やはりこんな無謀な賭けに出るべきでは無かった、結局自分達は何も成し得ずに終わる事になるでは無いか。
「ちなみに言っておくけれど・・・。この“シュプリーム・フレイム・キャスティング”は“紅炎”を遥かに超えた“極炎”を用いた封印術なのよ?だから如何に貴女が足搔こうが解ける事はないの、リエラ・・・」
“もっとも”と彼女は続けた、“既に意識は無いでしょうけれどね?”とそう言って。
「高速で対流回転する極炎のプラズマ波動の振動が貴女の法力と精神に深く作用して力を奪い、眠らせるの。この呪縛式を解けるのは私と蒼太のみ・・・!!!」
「お願いします、メリアリア様。どうか炎の術をお解き下さいっ、全ての責任は私にありますっ。命を懸けて償いますから、どうか・・・っ!!!」
「・・・そこまでだ」
メリアリア達がリエラ達の戦闘継続能力を粗方奪い、勝敗の帰趨が明らかとなった時の事だった。
不意に複数人の人の気配と共に野太い男の声がして、メリアリア達はそちらを向き直ると同時に一斉に跪くが、するとそこには。
「皇帝陛下・・・」
「皇后陛下も・・・」
「フィリップ七世陛下・・・」
今上皇帝であるフィリップ七世が皇后オセアンヌやラーガ近衛師団長を連れて来訪しており、良く見るとその背後には彼女達の最愛の夫である蒼太の姿まであった、そんな彼等に対してー。
慌てずにしかし、急いで恭しく頭を下げる“茨の聖女”達に向かい、フィリップ七世は歩を進めつつも“楽にしてよい”とそう告げると自らはリリアーヌの元へと歩み寄った。
「久しいな、リリアーヌ。体調が優れぬようだが、その後の塩梅は如何かな・・・?」
「・・・皇帝陛下、私は!!!」
“私は、愚か者でした”、“どうかお許し下さいっ!!!”とその場に跪きながらも項垂れるメイドに対して、フィリップは何も言わずに静かに目を閉じた、そしてー。
「・・・この者達か?蒼太よ」
「はい、陛下。今現在、そこに横たわっている者達こそ次世代の光りであり希望であります!!!」
「・・・・・」
そう言って蒼太に問い質すモノの、その直後に。
“見ればまだ、女子供ではないか”、“よくぞここまで食い入って来たモノよ・・・”とフィリップ七世は他人事のようにしかし、かなり興味深そうにリエラ達の事を見渡していた。
「しかし流石に相手が悪かったようだな?リリアーヌよ・・・」
「・・・・・」
俯き加減となっていたリリアーヌはそう声を掛けられても最早、何を言う気力もなく、またなんと言って良いのかも解らずに押し黙ってしまう。
しかし。
「・・・そうまでしてエリクに会いたいか?リリアーヌ」
「・・・・・っっっ!!!!?」
そのフィリップ七世の言葉にリリアーヌは一も二も無く飛び付いた。
「・・・はいっ。はい、会いたいですっ。エリク様に会えるのならば、私はもうどうなったとしても!!!」
「・・・・・」
“それほどか・・・”と呟くと、フィリップは近習の1人に命じてエリクを呼びに行かせた、これには蒼太はおろかメリアリアもアウロラもオリヴィアも、そしてリリアーヌ本人も驚愕するモノの、そんな一堂の前に。
程なくして“エリク・デュオン・ド・メロヴィング”その人が現れた。
「リリアーヌ!!!」
「エリク様・・・っ!!!」
2人はそう叫んで駆け寄ると抱き締め合い、涙ながらに抱擁を交わす。
「済まないっ。僕のせいで君は、君は・・・っ!!!」
「良いんですっ、そんなこと。ああ、エリク様・・・っ!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「よろしいかな・・・?」
それが一頻り、済む頃合を見計らってフィリップ七世が再び口を開いた。
「リリアーヌ。君は良くエリクの傍に仕えてくれていた、だが今回の事を見過ごす事は出来ん。・・・解ってくれるな?」
「・・・・・」
「お祖父様、待って下さいっ。僕はリリアーヌを・・・!!!」
「お前とこの少女では身分が違いすぎるのだ、それがどう言う事なのかがお前にはまだ解っておるまい!!!」
「育って来た環境や生き様、習慣や生活態度の何もかもが違うのです。とてもではありませんが夫婦となって共にある事は出来ません!!!」
それが皇帝と皇后の意見であった。
「エリクは将来、然るべき女性と結ばれる運命にある。・・・いいや、むしろ“結ばれなくてはならない”のだ。解ってくれるな?リリアーヌ」
「・・・・・」
「だが」
と俯き加減となり悲しみに満ち溢れた表情を覗かせるリリアーヌに対してフィリップ七世は続けた。
「君が真剣にエリクの事を思ってくれている事は重々伝わって来た、だから温情判決を出そう。君と結婚させる事は出来ないが、君がもし“それでも構わない”と言うのであれば。今まで通りエリクの傍にいて孫を支えてやって欲しい、勿論謹慎も解く事にする。・・・どうかな?」
「・・・・・っっっ!!!!?あ、有り難う御座いますっ。皇帝陛下っ!!!」
優しい笑みを浮かべてそう告げるフィリップ七世に対してリリアーヌは思わず涙ぐみながら頭を下げた。
そしてー。
「エリク様・・・っ!!!」
「リリアーヌッ!!!」
2人は再び抱き合って久方振りの逢瀬を満喫し始めるが、そんな彼等を尻目に。
「ところで蒼太。今回の君の行動には大いに同情もするし感心もするが・・・。かと言って余の立場からすれば中々にいただけない事も多い、自らの出処進退に付いて何か申し開きはあるか?」
「いいえ皇帝陛下、全く以て御座いません・・・」
“素直なヤツだな・・・”とそう言って頭を下げる蒼太に対してフィリップ七世は思わず苦笑してしまった、今回の件は蒼太は自分からフィリップ七世に報告に行ったのであり、黙っていればバレなかった可能性もあったのだが、さて。
「私の罪は明白です、皇帝陛下の御期待に応えられなかったのですから・・・」
「陛下、お待ち下さいっ!!!」
するとそう言ってその場に跪き、言葉を綴る蒼太の前にメリアリア達が慌てて躍り出て来た。
「夫は今回、本当に難しい判断を迫られました。だけど本人達が悪人では無かったのと私に対する思いもあってこの人は、最終的にはリエラ達を通したのです!!!」
“私達は”とメリアリアは尚も続けた、“その当の本人達を捕縛しております”と。
「夫の責任は妻である私達にもありますっ。ですけれども今回、私達はそれを果たしました。賊の侵入は防ぎましたし、当事者達は逮捕してもおります。以上の点を鑑みて何卒どうか、ご温情を賜ります事を・・・っ!!!」
「・・・ふっ」
“わはははははっ!!!”とそれを聞いたフィリップ七世は笑い出してしまっていた、宮廷と言う権謀術数渦巻くドス黒い思念の中で生まれ育って来た彼としては、自分に正直にいてくれる存在や互いに強固な愛情を抱き合っている者達は稀有であり、何より貴重であったのだ。
「・・・まったく、楽しませてくれるな?君達は」
「・・・・・」
「・・・・・?」
「解った、今回の蒼太の不手際は不問に付そう。それにしても・・・」
「・・・・・」
“蒼太よ”とフィリップ七世は蒼太に対して素朴な質問を投げ掛けてみた、“何故わざわざ報告に来たのだ?”と、“黙っていれば君の地位も安泰だったと思うのだがな?”と。
それに対して。
「あなたに嘘を付く、と言う事は絶対にやってはいけない事です皇帝陛下。だって本来ならば私達は誠意誠実を以てあなたにお仕えしなければならないのに、失敗したからと言ってそれを偽ってしまったのでは救いが無いじゃないですか!!!」
「・・・ぷっ」
“それに失敗する度に嘘を付いていたりしたら、とんでもない事になりますよ!!!”、“況してやあなたに対してですよ!!?”等と真顔で答えて来る蒼太に対して“わははははははっ!!!”とフィリップは再び笑い始めてしまった、彼にとっては皇后や家族に次いで久方振りの心を許せる存在が現れてくれた、実に楽しい夜になった。
(ある意味得難い存在よ、此奴は本気で誠意誠実を以て仕える事がベストだと思っている。面白い、やはり此奴とその一味は傍に置いておくべきかも知れん・・・)
「・・・・・?」
「・・・・・っ!!?」
「・・・・・っ!!!」
「・・・あ、あの。陛下?」
「ぷっくくくっ。良い良い、やはり君達は愛いヤツだよ・・・!!!」
“大事にせねばな?”と皇后に対してそう告げると、彼女が微笑みながら頷くのを確認してからフィリップ七世は改めて御触れを出した、その内容は。
「今回の事はあくまで無差別かつ抜き打ちの非常訓練だった。従って賊等は最初から誰もいなかったので皆安心するように!!!」
と言うそれであったのだ。
これによってリエラ達は罪を免れ、その侵入事件自体が無かった事になり、更には蒼太の失敗もメリアリア達の功績も帳消しとなったのである。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
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