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夫婦の絆と子供への思い
カッシーニ邸にて
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「お父さんは昔、小説を書いていたんでしょ?どんなジャンルを書いていたの?」
「・・・まだ日本にいた時の話なんだけど。近未来型のSFファンタジー純愛ラブコメを書いていた」
ある日のこと、カッシーニ邸の書斎で珍しく1人寛いでいた蒼太の元を長男のアランが訪ねて来た。
ちなみにその日は、彼は敢えてメリアリアから“逃げていた”、別に彼女が嫌いになった訳では無いが、しかし彼だってたまには1人でのんびりと過ごしたい時があるのである。
何しろ彼が1人でいる時は必ずと言って良い程、“好き好きオーラ”を全開にしたメリアリアがやって来る。
そうして彼に抱き着いては自身の身を擦り寄せてキスをせがみ、また或いは強要したりしてたっぷりと甘えてくるのだが普段はそれを苦にしない蒼太でも、やっぱりたまには静かに自分自身と向き合って心に潤いを持たせたい時があったのである、己の気持ちや考えを整理したい時があったのである。
メリアリアはそれを、夫が任務に出ている時に熟すのだが蒼太の場合はそうはいかない、だからこうやって義実家に身を寄せている時に自分と対話を行うようにしていたのであった。
ちなみにこれは何も、メリアリアだけに限った話ではなくてアウロラやオリヴィアもまた同様であったから、蒼太は若干辟易していた、とまではいかなくとも少々お疲れ気味であったのだ。
「幼馴染とのラブロマンスに、自分の学んだ事や気付いた事なんかを織り交ぜて書いていたのさ。だけどそれがどうかしたか・・・?」
「・・・でも、その。あんまり人気は出なかったんだよね?その作品は」
「まあね?ただ作家活動と言うモノは、相手があってのモノだから。だからどうしたって“虫が好かぬ”、“性に合わぬ”と言うのは出て来るんだよ。仮に自分を支えてくれる読者の間でさえも“この話は良いけどこの話はダメ”と言うのがあるからね?まあその辺りはどうにもならないモノだからね・・・」
「・・・・・」
「だけど僕は幸せだったさ?数は少ないけれど、熱心なファンが付いてくれて。話を更新する度に必死になって支えてくれていたからね。それに・・・」
「・・・それに?」
「“僕の夢”も叶ったからね・・・」
「・・・夢?」
「そうさ?まあそれに付いてはとやかく言うつもりは無いけれど、時にアラン。君の純愛官能小説は、上手く行っているのかい?」
「・・・お父さんじゃないけれど、ある程度のファンは付いてくれたよ?感想を書いてくれる人もいて、凄く励みになっているよ!!!」
“ただ・・・”とそこまで話しをしていたアランの表情が不意に曇った。
「時々、厳しい事を言われる事もあって。そう言う時はへこむけどね・・・」
「・・・お前ね、それは“贅沢な悩み”と言うモノだよ?僕の小説なんて、殆ど感想を書いてくれる人なんていなかったよ?当時僕が住んでいた関東地方には総数26000000人の人々が生活を送っていたんだ、そして日本全体では120000000人の人々が居てくれた訳なんだけれども。つまり僕はその人達の大半から無視されていたって事だよね」
“お前の書いている小説なんか、読むに値しないってね・・・!!!”と自虐気味に笑いながらそう話す父親の姿を、アランは黙って見つめていた。
「・・・だけど。ねえアラン、僕はそれでも幸せだったよ?さっきも言ったけれどもちゃんと夢は叶ったし、それに少数とは言えども熱心なファンの人々が付いてくれていたからね。彼等の存在は本当に支えになったよ、“自分の世界を受け止めてくれる人がいる”、“自分の思いを分かち合ってくれる人がいる”と言うのは本当に心強いモノだったし。それになによりかにより、“張り合い”とでも言うのかな?新しい話を生み出す際の原動力になってくれたんだ」
「・・・それは解るな、凄い良く解るよ」
「・・・ねえアラン、頼むからどうか強くなっておくれよ?皆の前では敢えて言うことはしないけれども、本当は弱さって罪なんだ。弱い人間ほどその生き様は醜くて汚らしいし、いざという時に己や大切な人も守れない。そしてその結果として自分や周囲に悲劇や災厄をもたらす。負の連鎖を生み出す事になるんだ」
「・・・じゃあお父さん。一応聞いておきたいんだけれども“本当の強さ”とはなんなのさ?」
「・・・解らない。“力とは何か”と言う事柄に付いてはハッキリとした答えを持てているんだけどね?」
息子の問い掛けに、蒼太は正直に答えた。
「“力”とは“何度でも立ち上がれる逞しさ”の事だよ、簡単に言うと。だけど“本当の強さ”とはなんなのか、僕もまだその答えを充分に絞り込めていないんだ。だけどね?アラン。前に自分の中に降って来た言葉があって、それを敢えて言うのならば“ありのままを認めて受け止める”、これに尽きると思うんだよね」
「・・・ありのままを受け止める」
「そうだ・・・」
蒼太は頷いた。
「例えばだよ?アラン、神々を見てごらん。あの方々は常にそのまま、ありのままで存在していて尚且つ、堂々としているだろう?光り輝いているだろう?あれが“強さ”だ、ありのままの自分を受け止めてそれを少しも誤魔化すことなく皆に晒す。今の君に出来るか?」
「・・・・・」
「自分自身を良く見せたり、誤魔化したりするのは自分に自信が無いからだ。自分が弱いから駆け引きや策謀を用いてそれらを補おうとするんだよ?」
「・・・でもお父さん。何かの本で読んだけど、“自分の弱さを知っている”のは凄く大切な事なんじゃないの?」
「そりゃ何も知らないでいるよりは良い事さ?だけどね、アラン。それは時として、そしてある意味では“罠”となるんだ。“本当に強い人”と言うのは自己分析の際に自分を厳しく見つめる事が出来る。ちなみに厳しさとは何か、と言えばそれは“紛い物や適当を絶対に認めない”と言う事だ。“決して妥協しない”と言う事だ。その強さを持っている人だけが真なる“自分の弱さ”を、それも“丸ごと”理解する事が出来るのだ」
「・・・・・」
「だけどその厳しさを徹底出来ない人、と言うのはある程度のレベルに達した瞬間に自分自身に丸め込まれてその結果。己の弱さを“都合良く”認める事は出来ても、そこから先に進む事が出来なくなってしまうのさ?何故ならば“弱さ”とは何かが全然解っていないからだ」
「・・・弱さ?」
「そうだ。さっきも言ったが・・・、“弱さ”とは本来“罪”なんだ。弱さとは“真の自分を認められない”と言う事だ、“直視出来ない”と言う事だ。弱ければ厳しさを発揮出来ず、それ故に“強さ”を知る事が出来ない。だから弱い人間と言うモノは、永遠に弱いままなんだ・・・」
「・・・・・」
「あとは先述した通りだよ?弱い人間と言うのは得てして“都合の良い形”でしか自分の弱さを認められないんだよ。これは僕の経験則なんだけど、“自分の弱さを知っている”と言う人間ほど陰険な策謀に走る傾向がある。駆け引きで事を済まそうとする傾向があるんだ、彼等の多くは正々堂々とただ有る事が出来ない。自分に厳しく出来ないから、いざの際に腹を決める度胸が無いんだ。そう言った気概を持つ事が出来ないんだ、だから何かあると“陰湿な計画”を“上手くやる”事しか頭になくなるんだよ。そしてそう言った人間ほど、下劣な意識や暴虐的な趣味嗜好の持ち主である可能性が高くなるんだ」
「・・・つまりは“悪”ってこと?」
「そうだね、ハッキリと言ってしまえば。それに彼等の大多数は弱さ故の卑怯卑劣さ、汚らしさを強さと履き違えている。策謀を用いる事も強さの1つ、等と勘違いしているのさ?だって考えてごらんよアラン、本当に強ければそもそも策謀や駆け引きに頼る必要なんか無いだろ?常に堂々としていれば良いのだから。だけど彼等の多くはそうは思わない、それどころか“弱さ”を誇りにすら思っているフシがある。まあ恐らく?ああ言った連中の内では“弱さを認める強さがある”、“それで良い”と言う風に自己完結しているんだろうね。だからそれ以上の進化や変化がいつまで経っても起きて来ないんだよ・・・」
「・・・弱さに、丸め込まれてしまっているって事か!!!」
「・・・そうだ。“本当に自分の弱さを知っている人”と言うのは=で自分の醜さ、情け無さも知っている、と言う事なんだ。そこまで自覚しているのであれば、僕は何も言うつもりは無いよ?ただ最近の人々の意識の傾向として、弱さを強さと錯覚しているフシがあるのでね。せめて君がその“罠”に陥らないように、言っておきたかったのさ!!!」
「・・・・・」
“お父さんからは”とアランは続けた、“まだまだ勉強させてもらうことがいっぱいあるね・・・”とそう呟いて。
「僕はそこまで考えられなかった。確かに策謀や陰謀と言うのは弱さ故の卑怯卑劣さの現れ、なんだよね?本当は恥ずべき事の筈なのに、みんなそれに憧れすら持ってしまっている・・・」
「本当はあんまり、こう言う事を言ってはいけないのかも知れないけれども・・・。まあ、僕達だって神様ではない。完璧な存在では無いから時には策謀や駆け引きを、どうしても用いらなければならない場面が有る事も事実だ。それはある意味では仕方が無い、だけどね?アラン。お願いだからそれを誇らしげに語るのだけは止めておくれよ?弱さとは本来ならば、何としてでも克服すべきモノなんだから。最初はね?弱いこと自体は恥では無いよ、ただ問題なのは“それに慣れ過ぎないようにして欲しい”と言う事なんだ。人々が最後に頼るのはやはり“誠意”であり“優しさ”であり“暖かさ”だ、そして最後に帰るのは“愛”であり“光”であり“安らぎ”なんだから。それを忘れないようにね・・・」
蒼太がそこまで話していた時だった、突然人の気配を覚えて彼が入り口に顔を向けると、それと同時に扉が開いて長い金髪を揺らしながら碧空の双眸で自身を見つめる絶世の美女が入って来る。
「・・・・・っっっ❤❤❤❤❤」
「・・・・・っっっ!!!!?」
「あ、母さん・・・」
彼女を見た時に蒼太は“しまった”と思った、話に夢中で接近に気が付かなかったのであるモノの、その人こそ彼の愛妻にしてカッシーニ家の一人娘である“メリアリア・サーラ・デ・カッシーニ”その人であったのだ。
「・・・・・っ。やっぱり、ここにいた!!!!!」
「あ、あはは・・・っ!!!」
“蒼太・・・っっっ❤❤❤❤❤”とホッと安心したような満面の笑みを浮かべてそう叫び様、メリアリアは彼に向かって駆け寄って来てはソファに座っている夫の上から腰を降ろして抱き着いた。
「もうっ、探したのっ。一体何処にいたの・・・?」
「あ、いやちょっとね?屋敷の中を、彼方此方歩き回っていたんだ・・・」
自ら発した質問にそう答える夫の顔に愛しそうに頬擦りをすると、トロンとした熱い眼差しを彼に向けてジッと見つめる。
「・・・あ、あのね?母さん。僕、ちょっとお父さんと話があって」
「・・・アラン。あなたにはお勉強があるんでしょ?それにセイレーンの訓練だってしなければならない筈だし、ここに居る時間なんて無い筈だけど」
まだ父親に話し足りない事があったのだろうアランが母に向かって不服を申し立てるが、するとそんな我が子に対して逆に“邪魔をするな”とでも言わんばかりの態度で辛辣な目線を投げ掛けつつ、メリアリアが言い放った。
「うぐ・・・っ!!!」
「下がりなさい、アラン。お父さんが困っているじゃないの。早く下に行って・・・!!!」
「あ、あははっ。アラン、お母さんもこう言っているから・・・!!!」
流石に蒼太は決まりが悪そうにしながら我が子にやんわりと退室を促すモノの、本当はまだまだ話したい事がいっぱいあったのだろうアランはそれでも無念そうに書斎を後にしていった。
「・・・もうっ。あの子にも困ったものね」
「あ、あははっ。そうだね・・・」
“いつまで経っても父親離れ出来ないのだから・・・っっっ❤❤❤❤❤”等と言いつつメリアリアは恍惚とした顔で全身を密着させ、彼の顔にキスの雨を降らせて行く。
それが済むとー。
法力を操って、遠隔操作で書斎の出入り口に二重に鍵を掛け、蒼太を独占して行った。
(・・・アラン、結局君には言えなかったけれども。人は本来ならば誰もが皆“光り”であり“強きモノ”なんだ、何故ならばこの宇宙には不要なモノは全く無い。全ては必要であり必然によって生まれ出で、引き起こされて来る現象なんだ。逆に言えばそれは“不要になった瞬間に消されてしまう”と言う事なんだ、そんな厳しい宇宙で存在出来ているのだから。光りを放てているのだから、君達はもっと自分に自信を持って良いんだよ?その事にいつか気付く時が来るだろう!!!)
愛妻による熱烈な求愛の最中でも蒼太は少しの間、寂しそうに自分の元を去って行った息子の事を思っていた。
「・・・まだ日本にいた時の話なんだけど。近未来型のSFファンタジー純愛ラブコメを書いていた」
ある日のこと、カッシーニ邸の書斎で珍しく1人寛いでいた蒼太の元を長男のアランが訪ねて来た。
ちなみにその日は、彼は敢えてメリアリアから“逃げていた”、別に彼女が嫌いになった訳では無いが、しかし彼だってたまには1人でのんびりと過ごしたい時があるのである。
何しろ彼が1人でいる時は必ずと言って良い程、“好き好きオーラ”を全開にしたメリアリアがやって来る。
そうして彼に抱き着いては自身の身を擦り寄せてキスをせがみ、また或いは強要したりしてたっぷりと甘えてくるのだが普段はそれを苦にしない蒼太でも、やっぱりたまには静かに自分自身と向き合って心に潤いを持たせたい時があったのである、己の気持ちや考えを整理したい時があったのである。
メリアリアはそれを、夫が任務に出ている時に熟すのだが蒼太の場合はそうはいかない、だからこうやって義実家に身を寄せている時に自分と対話を行うようにしていたのであった。
ちなみにこれは何も、メリアリアだけに限った話ではなくてアウロラやオリヴィアもまた同様であったから、蒼太は若干辟易していた、とまではいかなくとも少々お疲れ気味であったのだ。
「幼馴染とのラブロマンスに、自分の学んだ事や気付いた事なんかを織り交ぜて書いていたのさ。だけどそれがどうかしたか・・・?」
「・・・でも、その。あんまり人気は出なかったんだよね?その作品は」
「まあね?ただ作家活動と言うモノは、相手があってのモノだから。だからどうしたって“虫が好かぬ”、“性に合わぬ”と言うのは出て来るんだよ。仮に自分を支えてくれる読者の間でさえも“この話は良いけどこの話はダメ”と言うのがあるからね?まあその辺りはどうにもならないモノだからね・・・」
「・・・・・」
「だけど僕は幸せだったさ?数は少ないけれど、熱心なファンが付いてくれて。話を更新する度に必死になって支えてくれていたからね。それに・・・」
「・・・それに?」
「“僕の夢”も叶ったからね・・・」
「・・・夢?」
「そうさ?まあそれに付いてはとやかく言うつもりは無いけれど、時にアラン。君の純愛官能小説は、上手く行っているのかい?」
「・・・お父さんじゃないけれど、ある程度のファンは付いてくれたよ?感想を書いてくれる人もいて、凄く励みになっているよ!!!」
“ただ・・・”とそこまで話しをしていたアランの表情が不意に曇った。
「時々、厳しい事を言われる事もあって。そう言う時はへこむけどね・・・」
「・・・お前ね、それは“贅沢な悩み”と言うモノだよ?僕の小説なんて、殆ど感想を書いてくれる人なんていなかったよ?当時僕が住んでいた関東地方には総数26000000人の人々が生活を送っていたんだ、そして日本全体では120000000人の人々が居てくれた訳なんだけれども。つまり僕はその人達の大半から無視されていたって事だよね」
“お前の書いている小説なんか、読むに値しないってね・・・!!!”と自虐気味に笑いながらそう話す父親の姿を、アランは黙って見つめていた。
「・・・だけど。ねえアラン、僕はそれでも幸せだったよ?さっきも言ったけれどもちゃんと夢は叶ったし、それに少数とは言えども熱心なファンの人々が付いてくれていたからね。彼等の存在は本当に支えになったよ、“自分の世界を受け止めてくれる人がいる”、“自分の思いを分かち合ってくれる人がいる”と言うのは本当に心強いモノだったし。それになによりかにより、“張り合い”とでも言うのかな?新しい話を生み出す際の原動力になってくれたんだ」
「・・・それは解るな、凄い良く解るよ」
「・・・ねえアラン、頼むからどうか強くなっておくれよ?皆の前では敢えて言うことはしないけれども、本当は弱さって罪なんだ。弱い人間ほどその生き様は醜くて汚らしいし、いざという時に己や大切な人も守れない。そしてその結果として自分や周囲に悲劇や災厄をもたらす。負の連鎖を生み出す事になるんだ」
「・・・じゃあお父さん。一応聞いておきたいんだけれども“本当の強さ”とはなんなのさ?」
「・・・解らない。“力とは何か”と言う事柄に付いてはハッキリとした答えを持てているんだけどね?」
息子の問い掛けに、蒼太は正直に答えた。
「“力”とは“何度でも立ち上がれる逞しさ”の事だよ、簡単に言うと。だけど“本当の強さ”とはなんなのか、僕もまだその答えを充分に絞り込めていないんだ。だけどね?アラン。前に自分の中に降って来た言葉があって、それを敢えて言うのならば“ありのままを認めて受け止める”、これに尽きると思うんだよね」
「・・・ありのままを受け止める」
「そうだ・・・」
蒼太は頷いた。
「例えばだよ?アラン、神々を見てごらん。あの方々は常にそのまま、ありのままで存在していて尚且つ、堂々としているだろう?光り輝いているだろう?あれが“強さ”だ、ありのままの自分を受け止めてそれを少しも誤魔化すことなく皆に晒す。今の君に出来るか?」
「・・・・・」
「自分自身を良く見せたり、誤魔化したりするのは自分に自信が無いからだ。自分が弱いから駆け引きや策謀を用いてそれらを補おうとするんだよ?」
「・・・でもお父さん。何かの本で読んだけど、“自分の弱さを知っている”のは凄く大切な事なんじゃないの?」
「そりゃ何も知らないでいるよりは良い事さ?だけどね、アラン。それは時として、そしてある意味では“罠”となるんだ。“本当に強い人”と言うのは自己分析の際に自分を厳しく見つめる事が出来る。ちなみに厳しさとは何か、と言えばそれは“紛い物や適当を絶対に認めない”と言う事だ。“決して妥協しない”と言う事だ。その強さを持っている人だけが真なる“自分の弱さ”を、それも“丸ごと”理解する事が出来るのだ」
「・・・・・」
「だけどその厳しさを徹底出来ない人、と言うのはある程度のレベルに達した瞬間に自分自身に丸め込まれてその結果。己の弱さを“都合良く”認める事は出来ても、そこから先に進む事が出来なくなってしまうのさ?何故ならば“弱さ”とは何かが全然解っていないからだ」
「・・・弱さ?」
「そうだ。さっきも言ったが・・・、“弱さ”とは本来“罪”なんだ。弱さとは“真の自分を認められない”と言う事だ、“直視出来ない”と言う事だ。弱ければ厳しさを発揮出来ず、それ故に“強さ”を知る事が出来ない。だから弱い人間と言うモノは、永遠に弱いままなんだ・・・」
「・・・・・」
「あとは先述した通りだよ?弱い人間と言うのは得てして“都合の良い形”でしか自分の弱さを認められないんだよ。これは僕の経験則なんだけど、“自分の弱さを知っている”と言う人間ほど陰険な策謀に走る傾向がある。駆け引きで事を済まそうとする傾向があるんだ、彼等の多くは正々堂々とただ有る事が出来ない。自分に厳しく出来ないから、いざの際に腹を決める度胸が無いんだ。そう言った気概を持つ事が出来ないんだ、だから何かあると“陰湿な計画”を“上手くやる”事しか頭になくなるんだよ。そしてそう言った人間ほど、下劣な意識や暴虐的な趣味嗜好の持ち主である可能性が高くなるんだ」
「・・・つまりは“悪”ってこと?」
「そうだね、ハッキリと言ってしまえば。それに彼等の大多数は弱さ故の卑怯卑劣さ、汚らしさを強さと履き違えている。策謀を用いる事も強さの1つ、等と勘違いしているのさ?だって考えてごらんよアラン、本当に強ければそもそも策謀や駆け引きに頼る必要なんか無いだろ?常に堂々としていれば良いのだから。だけど彼等の多くはそうは思わない、それどころか“弱さ”を誇りにすら思っているフシがある。まあ恐らく?ああ言った連中の内では“弱さを認める強さがある”、“それで良い”と言う風に自己完結しているんだろうね。だからそれ以上の進化や変化がいつまで経っても起きて来ないんだよ・・・」
「・・・弱さに、丸め込まれてしまっているって事か!!!」
「・・・そうだ。“本当に自分の弱さを知っている人”と言うのは=で自分の醜さ、情け無さも知っている、と言う事なんだ。そこまで自覚しているのであれば、僕は何も言うつもりは無いよ?ただ最近の人々の意識の傾向として、弱さを強さと錯覚しているフシがあるのでね。せめて君がその“罠”に陥らないように、言っておきたかったのさ!!!」
「・・・・・」
“お父さんからは”とアランは続けた、“まだまだ勉強させてもらうことがいっぱいあるね・・・”とそう呟いて。
「僕はそこまで考えられなかった。確かに策謀や陰謀と言うのは弱さ故の卑怯卑劣さの現れ、なんだよね?本当は恥ずべき事の筈なのに、みんなそれに憧れすら持ってしまっている・・・」
「本当はあんまり、こう言う事を言ってはいけないのかも知れないけれども・・・。まあ、僕達だって神様ではない。完璧な存在では無いから時には策謀や駆け引きを、どうしても用いらなければならない場面が有る事も事実だ。それはある意味では仕方が無い、だけどね?アラン。お願いだからそれを誇らしげに語るのだけは止めておくれよ?弱さとは本来ならば、何としてでも克服すべきモノなんだから。最初はね?弱いこと自体は恥では無いよ、ただ問題なのは“それに慣れ過ぎないようにして欲しい”と言う事なんだ。人々が最後に頼るのはやはり“誠意”であり“優しさ”であり“暖かさ”だ、そして最後に帰るのは“愛”であり“光”であり“安らぎ”なんだから。それを忘れないようにね・・・」
蒼太がそこまで話していた時だった、突然人の気配を覚えて彼が入り口に顔を向けると、それと同時に扉が開いて長い金髪を揺らしながら碧空の双眸で自身を見つめる絶世の美女が入って来る。
「・・・・・っっっ❤❤❤❤❤」
「・・・・・っっっ!!!!?」
「あ、母さん・・・」
彼女を見た時に蒼太は“しまった”と思った、話に夢中で接近に気が付かなかったのであるモノの、その人こそ彼の愛妻にしてカッシーニ家の一人娘である“メリアリア・サーラ・デ・カッシーニ”その人であったのだ。
「・・・・・っ。やっぱり、ここにいた!!!!!」
「あ、あはは・・・っ!!!」
“蒼太・・・っっっ❤❤❤❤❤”とホッと安心したような満面の笑みを浮かべてそう叫び様、メリアリアは彼に向かって駆け寄って来てはソファに座っている夫の上から腰を降ろして抱き着いた。
「もうっ、探したのっ。一体何処にいたの・・・?」
「あ、いやちょっとね?屋敷の中を、彼方此方歩き回っていたんだ・・・」
自ら発した質問にそう答える夫の顔に愛しそうに頬擦りをすると、トロンとした熱い眼差しを彼に向けてジッと見つめる。
「・・・あ、あのね?母さん。僕、ちょっとお父さんと話があって」
「・・・アラン。あなたにはお勉強があるんでしょ?それにセイレーンの訓練だってしなければならない筈だし、ここに居る時間なんて無い筈だけど」
まだ父親に話し足りない事があったのだろうアランが母に向かって不服を申し立てるが、するとそんな我が子に対して逆に“邪魔をするな”とでも言わんばかりの態度で辛辣な目線を投げ掛けつつ、メリアリアが言い放った。
「うぐ・・・っ!!!」
「下がりなさい、アラン。お父さんが困っているじゃないの。早く下に行って・・・!!!」
「あ、あははっ。アラン、お母さんもこう言っているから・・・!!!」
流石に蒼太は決まりが悪そうにしながら我が子にやんわりと退室を促すモノの、本当はまだまだ話したい事がいっぱいあったのだろうアランはそれでも無念そうに書斎を後にしていった。
「・・・もうっ。あの子にも困ったものね」
「あ、あははっ。そうだね・・・」
“いつまで経っても父親離れ出来ないのだから・・・っっっ❤❤❤❤❤”等と言いつつメリアリアは恍惚とした顔で全身を密着させ、彼の顔にキスの雨を降らせて行く。
それが済むとー。
法力を操って、遠隔操作で書斎の出入り口に二重に鍵を掛け、蒼太を独占して行った。
(・・・アラン、結局君には言えなかったけれども。人は本来ならば誰もが皆“光り”であり“強きモノ”なんだ、何故ならばこの宇宙には不要なモノは全く無い。全ては必要であり必然によって生まれ出で、引き起こされて来る現象なんだ。逆に言えばそれは“不要になった瞬間に消されてしまう”と言う事なんだ、そんな厳しい宇宙で存在出来ているのだから。光りを放てているのだから、君達はもっと自分に自信を持って良いんだよ?その事にいつか気付く時が来るだろう!!!)
愛妻による熱烈な求愛の最中でも蒼太は少しの間、寂しそうに自分の元を去って行った息子の事を思っていた。
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