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夫婦の絆と子供への思い
アランとフェリシア 2
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「僕達は真剣に愛し合っているんだよ父さん、母さん。頼むから結婚させて欲しい・・・!!!」
「「・・・・・」」
長男からの必死の訴えに、蒼太とメリアリアは敢えてその場では何も告げなかった、と言うより何か言ってやりたくても何一つとして発言する事が出来なかったのである。
理由は至って簡単だ、この話をカッシーニ家現当主である“ダーヴィデ伯爵”に伝えて指示を仰がねばならなかった、如何に可愛い我が子の頼みとは言えども最終的な決定権を持つ家主の意見を無視して勝手な真似は許されなかったのだ。
「幼馴染か・・・」
「・・・・・」
“何とかしてあげたいね・・・?”と呟く夫の言葉にメリアリアもまた、真剣な表情で頷くモノの、そんな二人のやりとりを見て祈るような面持ちとなるアランとリアに“そこで待っているように”、“この事は誰にも言ってはいけないよ?”と言い含めると、彼等は急いでダーヴィデとその妻“ベアトリーチェ”の元へと向かい、事の顛末を説明した、すると。
「・・・なん、だと?」
一瞬、ダーヴィデの顔面から血の気が失せたのがハッキリと確認出来た。
「カンプラード家のご令嬢を、事もあろうにアランがか・・・!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
“何という事をしてくれたんだろうか・・・!!!”とその場で苦しそうな顔付きとなって、喉の奥から絞り出すように声を発したダーヴィデ伯爵と、それを心配そうに見つめるベアトリーチェ夫人の事を、蒼太とメリアリアは一言も発さずに様子見していたが、やがて。
「アランとリアをここに呼びなさい・・・」
「お、お義父さんっ!!?」
「お父さんお願い、二人を許してあげて・・・!!!」
「・・・とにかくこの場に呼んで来るんだ。これは当主としての命令だよ?蒼太、それにメリアリアも」
暫しの沈黙を破って放たれたその声には暗い澱みも憤怒も無く、また何の抑揚も感じられなかった、蒼太達は迷った、いっそこの家からアランとリアを逃がすべきだろうか、等とも考えたがそんな事をしても結局は無駄であり、却って余計な苦しみを二人に強いるだけである、この場に連れて来るしかなかった。
「ダーヴィデお祖父ちゃん・・・!!!」
「お祖父様・・・!!!」
「・・・・・」
両親に連れられて、些か憔悴したような面持ちを浮かべている愛する孫達に、ダーヴィデとベアトリーチェはしかし厳しい視線を向けた。
「・・・話は聞いたよ?まさかお前ともあろう者がカンプラード家の御息女に手を出すとはな、しかもまだ子供の内からだ。如何に落ちぶれて我が国に亡命して来たとは言えどもカンプラード家は祖国であるコーラッド王国では格式高い家柄で知られた、誇りある一族なのだ。それを無分別に手籠めにした事実は恐ろしい程に重く、また険しいモノだぞ?」
「アラン?お前は大好きな人と結ばれて良かった、と思っているのだろうけれど・・・。実際は何の解決にもなっていない所か、却ってお前達の恋愛成就を遠ざける結果となってしまった事が解らないのかい?まだデビュタント前の伯爵令嬢に手を出すなんて・・・!!!」
「・・・・・っ。で、でも。お祖父ちゃん、お祖母ちゃん。僕達は!!!」
「お前は自分がやった事が何を意味するのかが全く解っていないようだな・・・!!!」
気持ちの逸る孫を見かねてダーヴィデが思わず苦言を呈した。
「カンプラード家のご令嬢を手籠めにせずとも、同家からは“もし良かったなら将来、娘をもらっていただけないか?”と言うお達しが内々に我が家に来ていたのだ。両家の仲は極めて順調であり、後はお前達が成人した暁に婚約を発表すれば全ては済んだ筈だったんだ。それをお前は・・・!!!」
「お前は自分から婚約破棄の書類にサインをしてしまったようなモノなんだよ?アラン。全く何という事を仕出かしたんだい!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?そ、そんな。そんな事は」
「・・・え、えっ。そうだったんですか?お義父さん、お義母さん!!!」
「私達でさえも、今まで全然知らなかったわ?どうしてもっと早く言ってくれなかったの・・・!!!」
突然の事に驚き戸惑う蒼太夫妻に対して威厳を保ったまま視線を孫から彼等へと向けたダーヴィデとベアトリーチェが夫婦にいきなり謝罪して来た。
「蒼太、そしてメリアリアも。今回の事は私達の監督不行き届きだ、誠に申し訳ない!!!」
「全く、返す言葉もないさね。いつもいつも傍にいながら、事態にまるで気が付かなかったんだからね・・・!!!」
「・・・お、お義父さん。お義母さんも!!!」
「今は、そんな事を言っている場合では・・・!!!」
「君達はミラベルの任務や他の貴族達との交流会等で家を空ける事も多い、なので本来であれば子供達の世話は我々の領分だった筈だ・・・」
「まさか孫達が私らの目を盗んで逢瀬を繰り返していたなんて、夢にも思わなかったよ。本当に迂闊だった・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
尚も頭を垂れる義両親に対して蒼太もメリアリアも些か面食らってしまうモノの、一方で彼等はやはり冷静であってこの状況下でも頭をフル回転させていたのだが、こうなった以上は何処ともトラブルや摩擦を起こす事無く円満に事態を解決する為の方法はたった一つしかない。
「・・・お義父さん、お義母さんも。この事はまだ、我が家の使用人達は勿論のこと、恐らくはカンプラード伯爵家の主だった面々も存じ上げてはいないでしょう。今が最後にして最大のチャンスです!!!」
「カンプラード伯爵家に、フェリシアを傷物にした事を気付かれないように注意して。急いで返事を送ってちょうだい?“貴家のご令嬢を喜んでアランの妻としてもらい受けたい”と・・・!!!」
「・・・う~ん」
「蒼太、メリアリアも。事はそう簡単じゃないんだよ・・・」
すると意を決して進言する二人に対してダーヴィデ達が告げた。
「貴族には貴族のやり方がある、“政治的な駆け引き”と言うのもその領分の中に入っているのだよ。あまり性急に事を進め過ぎても相手から足下を見られてしまい、却って交渉が難航してしまう場合があるんだ・・・」
「向こうは多分、我が家以外にもめぼしいいくつかの家系に声を掛けているだろうからねぇ。しかも貴族によっては嫁入り前に母親が、娘がまだ生娘かどうかを確認する風習を持っている所もあってね?もしカンプラード家が“それ”をやる家系だった場合は余計に事態が拗れる事になるんだよ、私達としてはそれを恐れているのさ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
それに付いて蒼太とメリアリアが少しの間に自らの考えを纏めつつ、尚も食い下がろうとした、その時だった。
「失礼致します・・・」
ダーヴィデ伯爵付きのメイドの一人がコンコンと執務室の扉をノックする。
「何かね?悪いが今は忙しいんだよ、用事ならば後にしてくれないか・・・」
「あの、ですが・・・。つい今し方カンプラード伯爵家のご令嬢がお見えになられまして、なんでもアラン様に御用がお有りとか・・・」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「・・・フェリシアが訪ねて来たのか?」
「まさかこのタイミングでね・・・!!!」
驚愕するダーヴィデ伯爵夫妻に対して蒼太とメリアリアはやはり落ち着いていた、メイドに対してすかさず“フェリシア嬢は供の者を連れてきているのか?”と問い質すと“いいえ、お一人で御座います”との事だった為、“取り敢えずは応接室に通すように”と指示を出す。
「お義父さん、それにお義母さんも。これは良い機会かも知れませんよ?思い切ってフェリシア嬢自身にカンプラード家の風習やら今現在のアランとの関係に付いて尋ねてみましょう!!!」
「フェリシアがもし、昔のままの純真さと真心を持っている子だったなら交際を認める。そうでないならこの話は無かった事にして、何らかの処置をこの場で内々に行う。それで良いかしら?アラン・・・」
「・・・・・」
両親の言葉にアランは俯いて沈黙してしまっていたが、実はこの場にいた全員が“出来ることならばアランの思いに報いてやりたい”、“事態を丸く収めたい”と言う願いにも似た感情を抱いてはいた、しかし。
その中でも特に、貴族の風習の複雑さや汚らしさを知り尽くしているダーヴィデ伯爵夫妻は“中々に難しいかも知れないな”等と考え、反対に自分達が初恋の人であり尚且つ最愛の人との“幼馴染婚”を果たすことが出来た蒼太とメリアリアは“何としてでもアランとフェリシアの恋を成就させてやりたい”と思い描いていたのであった。
ただし。
(その為にはフェリシアの正体を見極めなければならない。キチンとした心のある、優しさと誠意を知っている人間かどうかをもう一度確認しておかなくては・・・!!!)
(もし中途半端な覚悟や適当な気持ちでアランに近付いたのならば、ただじゃおかないから・・・!!!)
そんな気持ちを胸に秘めつつ、蒼太達はアランを伴い全員でフェリシアの待っている応接室へと向かった、途中で使用人達を全員下がらせ自分達だけで部屋の中へと入室するが、するとそこには。
「アラン・・・ッ❤❤❤❤❤」
「フェリシア・・・!!!」
黒髪黒眼の白雪のような肌を持った可愛らしい女性がソファの直ぐ側で屹立しながら待っていて、アランの姿を確認した途端に周りに人がいるにも関わらずに彼へと飛び付いて来た。
「アラン。ああ、アラン・・・ッ!!!!!」
「ああフェリシア、どんなに会いたかった事だろうか・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
それを後ろから黙って見ていた蒼太達であったが、やがてー。
一頻りの間、抱擁を交わした2人はそれを解くと改めてダーヴィデ伯爵以下の面々へと向き直る。
「お久し振りで御座います、ダーヴィデ伯爵とベアトリーチェ夫人。それに蒼太おじ様とメリアリアおば様も、ご機嫌麗しゅう存じます・・・」
「・・・やあフェリシア嬢。大きくなったな、その後は息災かな?」
「カンプラード伯爵夫妻は、元気でいらっしゃるのかい・・・?」
顔に柔らかな微笑みを湛えたまま慇懃にお辞儀をするフェリシアに対してまずは、当主たるダーヴィデ伯爵とその妻であるベアトリーチェが応対する。
「随分、大きくなったね?以前我が家に遊びに来ていた頃はまだ、幼い少女に過ぎなかったが・・・」
「先程の挨拶と言い、ステキなレディになったねぇ。フェリシア嬢・・・!!!」
そんな何気ないやり取りが繰り返された後に、いよいよ蒼太達が挨拶をする番がやって来た。
「蒼太おじ様、それにメリアリアおば様も。お元気そうで何よりです・・・。って言いますか、あの。その、お二人とも本当にお変わりないですよね?ずっとお若いままですけれど・・・!!?」
「あはは・・・。フェリシア、君は本当に大きくなったね?それに立派なレディになった、幼い頃からよくアランと遊んでくれていた事を覚えているよ・・・」
「聞いたわよ、今はセイレーンで活躍しているんですって?なんでも“青氷の美姫”って呼ばれているのだとか・・・」
いつまで経っても若々しくて精力的な蒼太とメリアリアの姿を久方振りに見たフェリシアは、事情を知らなかった事も手伝って些か面食らってしまったが、しかしすぐに普段の彼女を取り戻してあっけらかんと応対していった。
「う~ん、まあその・・・。何と言いますか、一部の人達が勝手に呼んでいるだけですよ?私自身はちゃんと“フェリシア・カンプラード”と呼んでもらいたいのですけれど・・・」
「そうか、なるほどね・・・。まあしかし、“異名”なんてそんなモノだよ。こっちになんの相談も無く、大抵は周囲からいつも一方的に決められるんだから!!!」
“ところで”とそこまで楽しそうに話していた蒼太は不意にそれまでと打って変わって声のトーンを落として言った、面持ちも神妙なそれとなり、目も笑ってはいなかった。
「さっき君はアランに抱き着いていたみたいだったけど・・・。2人は一体どう言う間柄なのか、詳しく教えてもらえないかな・・・?」
「間違っても“単なる幼馴染”では無いわよね?いくらなんでもそれだけの理由で女の子は男の子に、あんなにしっかりと抱き着いたりはしないモノだわ。それも軽々しくね・・・?」
「・・・・・」
それを聞いたフェリシアの表情が一瞬だけ固まったのを、蒼太達は見逃さなかった、しかし。
「・・・私達、お付き合いをしているんです。おじ様、おば様。勿論遊びじゃありません、真剣に愛し合っているんです!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
チラリとアランの顔を見ながらフェリシアもまた覚悟を決めたような真面目な顔で答えるモノのどうやら流石にこう言う状況下でおちゃらけたり、はたまた下手な嘘を突き通すような人間では無い事は解った。
それに。
(アランとの事は遊びでは無いようだ。こう言う場で“真剣に愛し合っている”と言うのであれば、それが事実なのだろう・・・)
(軽い気持ちで寄り添っている訳では無いのは解ったけれど・・・。果たして覚悟は決まっているのかしら?“何があっても共に歩む”と言う強い気持ちがあるのかどうか・・・)
内心で彼女の人物査定を開始した蒼太とメリアリアは更にフェリシアに質問をぶつけて見た。
「君達が付き合っている、と言う事実はつい今さっきアランの口から聞いて知ってはいたが・・・。君達は何年前から、どの程度の付き合いをしているんだ?差し障りが無ければ是非とも教えてもらいたいな・・・」
「・・・・・」
「・・・・・っ。ですから、全て愛し合っています。心も身体も全部です、私達がまだ子供の頃からです!!!」
「・・・つまりはプラトニックな関係では無くて、ハッキリとした肉体関係もある。そう言う風に受け取っても構わないかな?」
「・・・はい、構いません!!!」
「・・・ちなみに、だよ?フェリシア嬢。その事はカンプラード伯爵夫妻はご存知なのかな?」
するとその言葉を受けて今度はそれまで黙っていたダーヴィデ伯爵が口を開いた。
「・・・いいえ、両親にはまだ言ってはいません。と言うよりもまだ我が家の誰も知りません、知っているのはアランと私。それにあなた方だけです」
「・・・それはいけない事では無いのかね?貴族の令嬢は通常ならば、結婚する相手に操を立てていなければならない筈だ。当然、カンプラード伯爵夫妻もそのように考えられていると思われるがね」
「・・・・・」
するとそれを聞いたフェリシアの表情がみるみる曇り、やや辛そうなそれでいて、申し訳なさそうな面持ちとなって項垂れる。
「・・・解っています、本当はいけないことをしているんだって。それに父と母には、申し訳ない事をしている事も知っています。でも、だけど。私達は真剣に愛し合っているんです、その気持ちに嘘偽りはありません!!!」
「お父さんもお母さんも、お祖父ちゃんも止めてよ。フェリシアを苦しめないでくれ!!!」
「・・・・・」
「うーん・・・」
そんな周囲からのフェリシアに対する集中砲火を見るに見かねたアランがすかさず間に割って入るモノの、この一連のやりとりで蒼太達はフェリシアと言う女性の内面を粗方観察し終えていた。
(これらが“演技では無い”とするのならばだが・・・。彼女はアランに対する熱烈なまでの一途さを持っているようだ、いいやそれだけじゃない。御両親に対しても深い愛情と感謝の念を抱いている・・・!!!)
(どうやら心の中では色々と葛藤をしているみたいね?だけどそれでもアランを取った、と言う事は間違ってもアランとの事は遊びなんかでは無い。本気なんだ・・・!!!)
そう判断する夫婦であったが特に、女性であると同時にフェリシアとはかつての境遇が似ていたメリアリアには彼女の真剣な気持ちや重い苦悩が手に取るように察せられて、思わず色々と考えさせられる。
(ただ単に自分の思いを主張するだけで無くて、ちゃんと悪い部分は悪いと言える素直さと謙虚さを持っているみたい。人間としてはまだ可愛げもあるし、信用出来る事は解ったけれど・・・)
「・・・大好きなんです、アランの事が。自分以外の誰かをこんなにも愛しく思えたのは初めてなんです、どうかお願いします。ダーヴィデ伯爵、ベアトリーチェ夫人。それにおじ様もおば様も、どうか私とアランの事を認めて下さいっ!!!!!」
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん。お父さんもお母さんも、お願いだよ。僕とフェリシアを結婚させて欲しいんだ!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“フェリシア嬢に”、と今度はベアトリーチェが声を掛けた、“ちょっと聞きたい事がある”とそう言って。
「正直に答えてもらいたいんだけどね・・・。カンプラード伯爵家では結婚する際に母親ないしは専門の役目を持っている女性が、花嫁が乙女かどうかを確認する慣わしはあるかい?」
「・・・・・?いいえ、そんな習慣は見た事が無いです。それに私には兄と姉がおりますけれども、姉が結婚する時だってそんな事は行われてはおりませんでした!!!」
「・・・そうか!!!」
するとそれを聞いたダーヴィデの表情がパッと明るくなる。
「本当はあんまり褒められた事では無いのだが・・・。フェリシア嬢よ、君が既にアランによって純潔を散らされてしまった事が、カンプラード伯爵夫妻に露見しなければまだやりようはあるかも知れない・・・!!!」
「・・・・・っ。お祖父ちゃん!!?」
「ダーヴィデ伯爵、それでは・・・!!?」
「・・・まあまだ18の砌で大掛かりな婚約は早過ぎるとは思うが。事が事なのだ、仕方があるまい!!!」
「我が家としては、アランとフェリシア嬢の婚約を認めても良いと考えている・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
若い2人にそう告げるダーヴィデとベアトリーチェの言葉を、蒼太とメリアリアは黙って聞いていた。
ダーヴィデ伯爵夫妻には知られずに済んでいたのだが、まかり間違えていれば本来ならば蒼太達がアランとフェリシアの立場に立たされていた筈である、その考えが頭を掠めた2人はしかし同時に、“この人と結婚して良かった”と内心で己が運命や宇宙、そして神々に感謝し、それと共に“この人以外は考えられない”との思いを新たにしていた。
「ただし残る問題はカンプラード伯爵夫妻だ。家は問題無いにしても、肝心のカンプラード伯爵夫妻が“許さない”と言えば全てがぶち壊しになってしまうだろう・・・!!!」
「実力的にはどうなのさ、アラン。あと必要なのは名声もなんだけど、あんたにこの子を娶るだけの器量はあるのかい?」
「・・・アランもリアも、今現在はセイレーンに属していますよ?お義父さん、お義母さん。特にアランは“黄金の風”と言う異名を持っており、リアも女王位まであと一歩の所まで来ています」
「アランは風使い、リアは炎使いとして脚光を浴びる程の実力を持っているのよ?お父さん、お母さん。特にアランは法力よりも体力や精神力が強靱で、生命力に優れているみたいなの。リアは絶対熱を使い熟す事が出来ればもう一段、強さのレベルを上げる事が出来ると思うのだけれど・・・」
ベアトリーチェ夫人の疑念に対して子供達の代わりに口々に述べ立てる蒼太とメリアリアであったが、彼等夫婦の話を要約すると早い話が。
単なる外見だけの話では無くてアランは蒼太の、そしてリアはメリアリアの特性や能力すらをも受け継いでいた訳であり、それぞれに持てる輝きを発揮しつつあったのだ。
「・・・そうか、それほどまでならば問題は無いかも知れないな」
ダーヴィデが頷きつつも膝を打った。
「解ったよ、まあどうなるかはやってみなければ解らないが。可愛い孫達の為だ、力を尽くしてみよう。取り敢えずはカンプラード伯爵夫妻に“フェリシア嬢をもらい受けたい”旨の通達を出す事にする、後は・・・」
“天に祈るだけだな”とそれだけ言い放つと、ダーヴィデは黙って瞑目し、ベアトリーチェもそれに倣った。
「「・・・・・」」
長男からの必死の訴えに、蒼太とメリアリアは敢えてその場では何も告げなかった、と言うより何か言ってやりたくても何一つとして発言する事が出来なかったのである。
理由は至って簡単だ、この話をカッシーニ家現当主である“ダーヴィデ伯爵”に伝えて指示を仰がねばならなかった、如何に可愛い我が子の頼みとは言えども最終的な決定権を持つ家主の意見を無視して勝手な真似は許されなかったのだ。
「幼馴染か・・・」
「・・・・・」
“何とかしてあげたいね・・・?”と呟く夫の言葉にメリアリアもまた、真剣な表情で頷くモノの、そんな二人のやりとりを見て祈るような面持ちとなるアランとリアに“そこで待っているように”、“この事は誰にも言ってはいけないよ?”と言い含めると、彼等は急いでダーヴィデとその妻“ベアトリーチェ”の元へと向かい、事の顛末を説明した、すると。
「・・・なん、だと?」
一瞬、ダーヴィデの顔面から血の気が失せたのがハッキリと確認出来た。
「カンプラード家のご令嬢を、事もあろうにアランがか・・・!!?」
「・・・・・」
「・・・・・」
“何という事をしてくれたんだろうか・・・!!!”とその場で苦しそうな顔付きとなって、喉の奥から絞り出すように声を発したダーヴィデ伯爵と、それを心配そうに見つめるベアトリーチェ夫人の事を、蒼太とメリアリアは一言も発さずに様子見していたが、やがて。
「アランとリアをここに呼びなさい・・・」
「お、お義父さんっ!!?」
「お父さんお願い、二人を許してあげて・・・!!!」
「・・・とにかくこの場に呼んで来るんだ。これは当主としての命令だよ?蒼太、それにメリアリアも」
暫しの沈黙を破って放たれたその声には暗い澱みも憤怒も無く、また何の抑揚も感じられなかった、蒼太達は迷った、いっそこの家からアランとリアを逃がすべきだろうか、等とも考えたがそんな事をしても結局は無駄であり、却って余計な苦しみを二人に強いるだけである、この場に連れて来るしかなかった。
「ダーヴィデお祖父ちゃん・・・!!!」
「お祖父様・・・!!!」
「・・・・・」
両親に連れられて、些か憔悴したような面持ちを浮かべている愛する孫達に、ダーヴィデとベアトリーチェはしかし厳しい視線を向けた。
「・・・話は聞いたよ?まさかお前ともあろう者がカンプラード家の御息女に手を出すとはな、しかもまだ子供の内からだ。如何に落ちぶれて我が国に亡命して来たとは言えどもカンプラード家は祖国であるコーラッド王国では格式高い家柄で知られた、誇りある一族なのだ。それを無分別に手籠めにした事実は恐ろしい程に重く、また険しいモノだぞ?」
「アラン?お前は大好きな人と結ばれて良かった、と思っているのだろうけれど・・・。実際は何の解決にもなっていない所か、却ってお前達の恋愛成就を遠ざける結果となってしまった事が解らないのかい?まだデビュタント前の伯爵令嬢に手を出すなんて・・・!!!」
「・・・・・っ。で、でも。お祖父ちゃん、お祖母ちゃん。僕達は!!!」
「お前は自分がやった事が何を意味するのかが全く解っていないようだな・・・!!!」
気持ちの逸る孫を見かねてダーヴィデが思わず苦言を呈した。
「カンプラード家のご令嬢を手籠めにせずとも、同家からは“もし良かったなら将来、娘をもらっていただけないか?”と言うお達しが内々に我が家に来ていたのだ。両家の仲は極めて順調であり、後はお前達が成人した暁に婚約を発表すれば全ては済んだ筈だったんだ。それをお前は・・・!!!」
「お前は自分から婚約破棄の書類にサインをしてしまったようなモノなんだよ?アラン。全く何という事を仕出かしたんだい!!!」
「・・・・・っっっ!!!!?そ、そんな。そんな事は」
「・・・え、えっ。そうだったんですか?お義父さん、お義母さん!!!」
「私達でさえも、今まで全然知らなかったわ?どうしてもっと早く言ってくれなかったの・・・!!!」
突然の事に驚き戸惑う蒼太夫妻に対して威厳を保ったまま視線を孫から彼等へと向けたダーヴィデとベアトリーチェが夫婦にいきなり謝罪して来た。
「蒼太、そしてメリアリアも。今回の事は私達の監督不行き届きだ、誠に申し訳ない!!!」
「全く、返す言葉もないさね。いつもいつも傍にいながら、事態にまるで気が付かなかったんだからね・・・!!!」
「・・・お、お義父さん。お義母さんも!!!」
「今は、そんな事を言っている場合では・・・!!!」
「君達はミラベルの任務や他の貴族達との交流会等で家を空ける事も多い、なので本来であれば子供達の世話は我々の領分だった筈だ・・・」
「まさか孫達が私らの目を盗んで逢瀬を繰り返していたなんて、夢にも思わなかったよ。本当に迂闊だった・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
尚も頭を垂れる義両親に対して蒼太もメリアリアも些か面食らってしまうモノの、一方で彼等はやはり冷静であってこの状況下でも頭をフル回転させていたのだが、こうなった以上は何処ともトラブルや摩擦を起こす事無く円満に事態を解決する為の方法はたった一つしかない。
「・・・お義父さん、お義母さんも。この事はまだ、我が家の使用人達は勿論のこと、恐らくはカンプラード伯爵家の主だった面々も存じ上げてはいないでしょう。今が最後にして最大のチャンスです!!!」
「カンプラード伯爵家に、フェリシアを傷物にした事を気付かれないように注意して。急いで返事を送ってちょうだい?“貴家のご令嬢を喜んでアランの妻としてもらい受けたい”と・・・!!!」
「・・・う~ん」
「蒼太、メリアリアも。事はそう簡単じゃないんだよ・・・」
すると意を決して進言する二人に対してダーヴィデ達が告げた。
「貴族には貴族のやり方がある、“政治的な駆け引き”と言うのもその領分の中に入っているのだよ。あまり性急に事を進め過ぎても相手から足下を見られてしまい、却って交渉が難航してしまう場合があるんだ・・・」
「向こうは多分、我が家以外にもめぼしいいくつかの家系に声を掛けているだろうからねぇ。しかも貴族によっては嫁入り前に母親が、娘がまだ生娘かどうかを確認する風習を持っている所もあってね?もしカンプラード家が“それ”をやる家系だった場合は余計に事態が拗れる事になるんだよ、私達としてはそれを恐れているのさ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
それに付いて蒼太とメリアリアが少しの間に自らの考えを纏めつつ、尚も食い下がろうとした、その時だった。
「失礼致します・・・」
ダーヴィデ伯爵付きのメイドの一人がコンコンと執務室の扉をノックする。
「何かね?悪いが今は忙しいんだよ、用事ならば後にしてくれないか・・・」
「あの、ですが・・・。つい今し方カンプラード伯爵家のご令嬢がお見えになられまして、なんでもアラン様に御用がお有りとか・・・」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「・・・フェリシアが訪ねて来たのか?」
「まさかこのタイミングでね・・・!!!」
驚愕するダーヴィデ伯爵夫妻に対して蒼太とメリアリアはやはり落ち着いていた、メイドに対してすかさず“フェリシア嬢は供の者を連れてきているのか?”と問い質すと“いいえ、お一人で御座います”との事だった為、“取り敢えずは応接室に通すように”と指示を出す。
「お義父さん、それにお義母さんも。これは良い機会かも知れませんよ?思い切ってフェリシア嬢自身にカンプラード家の風習やら今現在のアランとの関係に付いて尋ねてみましょう!!!」
「フェリシアがもし、昔のままの純真さと真心を持っている子だったなら交際を認める。そうでないならこの話は無かった事にして、何らかの処置をこの場で内々に行う。それで良いかしら?アラン・・・」
「・・・・・」
両親の言葉にアランは俯いて沈黙してしまっていたが、実はこの場にいた全員が“出来ることならばアランの思いに報いてやりたい”、“事態を丸く収めたい”と言う願いにも似た感情を抱いてはいた、しかし。
その中でも特に、貴族の風習の複雑さや汚らしさを知り尽くしているダーヴィデ伯爵夫妻は“中々に難しいかも知れないな”等と考え、反対に自分達が初恋の人であり尚且つ最愛の人との“幼馴染婚”を果たすことが出来た蒼太とメリアリアは“何としてでもアランとフェリシアの恋を成就させてやりたい”と思い描いていたのであった。
ただし。
(その為にはフェリシアの正体を見極めなければならない。キチンとした心のある、優しさと誠意を知っている人間かどうかをもう一度確認しておかなくては・・・!!!)
(もし中途半端な覚悟や適当な気持ちでアランに近付いたのならば、ただじゃおかないから・・・!!!)
そんな気持ちを胸に秘めつつ、蒼太達はアランを伴い全員でフェリシアの待っている応接室へと向かった、途中で使用人達を全員下がらせ自分達だけで部屋の中へと入室するが、するとそこには。
「アラン・・・ッ❤❤❤❤❤」
「フェリシア・・・!!!」
黒髪黒眼の白雪のような肌を持った可愛らしい女性がソファの直ぐ側で屹立しながら待っていて、アランの姿を確認した途端に周りに人がいるにも関わらずに彼へと飛び付いて来た。
「アラン。ああ、アラン・・・ッ!!!!!」
「ああフェリシア、どんなに会いたかった事だろうか・・・!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
それを後ろから黙って見ていた蒼太達であったが、やがてー。
一頻りの間、抱擁を交わした2人はそれを解くと改めてダーヴィデ伯爵以下の面々へと向き直る。
「お久し振りで御座います、ダーヴィデ伯爵とベアトリーチェ夫人。それに蒼太おじ様とメリアリアおば様も、ご機嫌麗しゅう存じます・・・」
「・・・やあフェリシア嬢。大きくなったな、その後は息災かな?」
「カンプラード伯爵夫妻は、元気でいらっしゃるのかい・・・?」
顔に柔らかな微笑みを湛えたまま慇懃にお辞儀をするフェリシアに対してまずは、当主たるダーヴィデ伯爵とその妻であるベアトリーチェが応対する。
「随分、大きくなったね?以前我が家に遊びに来ていた頃はまだ、幼い少女に過ぎなかったが・・・」
「先程の挨拶と言い、ステキなレディになったねぇ。フェリシア嬢・・・!!!」
そんな何気ないやり取りが繰り返された後に、いよいよ蒼太達が挨拶をする番がやって来た。
「蒼太おじ様、それにメリアリアおば様も。お元気そうで何よりです・・・。って言いますか、あの。その、お二人とも本当にお変わりないですよね?ずっとお若いままですけれど・・・!!?」
「あはは・・・。フェリシア、君は本当に大きくなったね?それに立派なレディになった、幼い頃からよくアランと遊んでくれていた事を覚えているよ・・・」
「聞いたわよ、今はセイレーンで活躍しているんですって?なんでも“青氷の美姫”って呼ばれているのだとか・・・」
いつまで経っても若々しくて精力的な蒼太とメリアリアの姿を久方振りに見たフェリシアは、事情を知らなかった事も手伝って些か面食らってしまったが、しかしすぐに普段の彼女を取り戻してあっけらかんと応対していった。
「う~ん、まあその・・・。何と言いますか、一部の人達が勝手に呼んでいるだけですよ?私自身はちゃんと“フェリシア・カンプラード”と呼んでもらいたいのですけれど・・・」
「そうか、なるほどね・・・。まあしかし、“異名”なんてそんなモノだよ。こっちになんの相談も無く、大抵は周囲からいつも一方的に決められるんだから!!!」
“ところで”とそこまで楽しそうに話していた蒼太は不意にそれまでと打って変わって声のトーンを落として言った、面持ちも神妙なそれとなり、目も笑ってはいなかった。
「さっき君はアランに抱き着いていたみたいだったけど・・・。2人は一体どう言う間柄なのか、詳しく教えてもらえないかな・・・?」
「間違っても“単なる幼馴染”では無いわよね?いくらなんでもそれだけの理由で女の子は男の子に、あんなにしっかりと抱き着いたりはしないモノだわ。それも軽々しくね・・・?」
「・・・・・」
それを聞いたフェリシアの表情が一瞬だけ固まったのを、蒼太達は見逃さなかった、しかし。
「・・・私達、お付き合いをしているんです。おじ様、おば様。勿論遊びじゃありません、真剣に愛し合っているんです!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
チラリとアランの顔を見ながらフェリシアもまた覚悟を決めたような真面目な顔で答えるモノのどうやら流石にこう言う状況下でおちゃらけたり、はたまた下手な嘘を突き通すような人間では無い事は解った。
それに。
(アランとの事は遊びでは無いようだ。こう言う場で“真剣に愛し合っている”と言うのであれば、それが事実なのだろう・・・)
(軽い気持ちで寄り添っている訳では無いのは解ったけれど・・・。果たして覚悟は決まっているのかしら?“何があっても共に歩む”と言う強い気持ちがあるのかどうか・・・)
内心で彼女の人物査定を開始した蒼太とメリアリアは更にフェリシアに質問をぶつけて見た。
「君達が付き合っている、と言う事実はつい今さっきアランの口から聞いて知ってはいたが・・・。君達は何年前から、どの程度の付き合いをしているんだ?差し障りが無ければ是非とも教えてもらいたいな・・・」
「・・・・・」
「・・・・・っ。ですから、全て愛し合っています。心も身体も全部です、私達がまだ子供の頃からです!!!」
「・・・つまりはプラトニックな関係では無くて、ハッキリとした肉体関係もある。そう言う風に受け取っても構わないかな?」
「・・・はい、構いません!!!」
「・・・ちなみに、だよ?フェリシア嬢。その事はカンプラード伯爵夫妻はご存知なのかな?」
するとその言葉を受けて今度はそれまで黙っていたダーヴィデ伯爵が口を開いた。
「・・・いいえ、両親にはまだ言ってはいません。と言うよりもまだ我が家の誰も知りません、知っているのはアランと私。それにあなた方だけです」
「・・・それはいけない事では無いのかね?貴族の令嬢は通常ならば、結婚する相手に操を立てていなければならない筈だ。当然、カンプラード伯爵夫妻もそのように考えられていると思われるがね」
「・・・・・」
するとそれを聞いたフェリシアの表情がみるみる曇り、やや辛そうなそれでいて、申し訳なさそうな面持ちとなって項垂れる。
「・・・解っています、本当はいけないことをしているんだって。それに父と母には、申し訳ない事をしている事も知っています。でも、だけど。私達は真剣に愛し合っているんです、その気持ちに嘘偽りはありません!!!」
「お父さんもお母さんも、お祖父ちゃんも止めてよ。フェリシアを苦しめないでくれ!!!」
「・・・・・」
「うーん・・・」
そんな周囲からのフェリシアに対する集中砲火を見るに見かねたアランがすかさず間に割って入るモノの、この一連のやりとりで蒼太達はフェリシアと言う女性の内面を粗方観察し終えていた。
(これらが“演技では無い”とするのならばだが・・・。彼女はアランに対する熱烈なまでの一途さを持っているようだ、いいやそれだけじゃない。御両親に対しても深い愛情と感謝の念を抱いている・・・!!!)
(どうやら心の中では色々と葛藤をしているみたいね?だけどそれでもアランを取った、と言う事は間違ってもアランとの事は遊びなんかでは無い。本気なんだ・・・!!!)
そう判断する夫婦であったが特に、女性であると同時にフェリシアとはかつての境遇が似ていたメリアリアには彼女の真剣な気持ちや重い苦悩が手に取るように察せられて、思わず色々と考えさせられる。
(ただ単に自分の思いを主張するだけで無くて、ちゃんと悪い部分は悪いと言える素直さと謙虚さを持っているみたい。人間としてはまだ可愛げもあるし、信用出来る事は解ったけれど・・・)
「・・・大好きなんです、アランの事が。自分以外の誰かをこんなにも愛しく思えたのは初めてなんです、どうかお願いします。ダーヴィデ伯爵、ベアトリーチェ夫人。それにおじ様もおば様も、どうか私とアランの事を認めて下さいっ!!!!!」
「お祖父ちゃん、お祖母ちゃん。お父さんもお母さんも、お願いだよ。僕とフェリシアを結婚させて欲しいんだ!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“フェリシア嬢に”、と今度はベアトリーチェが声を掛けた、“ちょっと聞きたい事がある”とそう言って。
「正直に答えてもらいたいんだけどね・・・。カンプラード伯爵家では結婚する際に母親ないしは専門の役目を持っている女性が、花嫁が乙女かどうかを確認する慣わしはあるかい?」
「・・・・・?いいえ、そんな習慣は見た事が無いです。それに私には兄と姉がおりますけれども、姉が結婚する時だってそんな事は行われてはおりませんでした!!!」
「・・・そうか!!!」
するとそれを聞いたダーヴィデの表情がパッと明るくなる。
「本当はあんまり褒められた事では無いのだが・・・。フェリシア嬢よ、君が既にアランによって純潔を散らされてしまった事が、カンプラード伯爵夫妻に露見しなければまだやりようはあるかも知れない・・・!!!」
「・・・・・っ。お祖父ちゃん!!?」
「ダーヴィデ伯爵、それでは・・・!!?」
「・・・まあまだ18の砌で大掛かりな婚約は早過ぎるとは思うが。事が事なのだ、仕方があるまい!!!」
「我が家としては、アランとフェリシア嬢の婚約を認めても良いと考えている・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
若い2人にそう告げるダーヴィデとベアトリーチェの言葉を、蒼太とメリアリアは黙って聞いていた。
ダーヴィデ伯爵夫妻には知られずに済んでいたのだが、まかり間違えていれば本来ならば蒼太達がアランとフェリシアの立場に立たされていた筈である、その考えが頭を掠めた2人はしかし同時に、“この人と結婚して良かった”と内心で己が運命や宇宙、そして神々に感謝し、それと共に“この人以外は考えられない”との思いを新たにしていた。
「ただし残る問題はカンプラード伯爵夫妻だ。家は問題無いにしても、肝心のカンプラード伯爵夫妻が“許さない”と言えば全てがぶち壊しになってしまうだろう・・・!!!」
「実力的にはどうなのさ、アラン。あと必要なのは名声もなんだけど、あんたにこの子を娶るだけの器量はあるのかい?」
「・・・アランもリアも、今現在はセイレーンに属していますよ?お義父さん、お義母さん。特にアランは“黄金の風”と言う異名を持っており、リアも女王位まであと一歩の所まで来ています」
「アランは風使い、リアは炎使いとして脚光を浴びる程の実力を持っているのよ?お父さん、お母さん。特にアランは法力よりも体力や精神力が強靱で、生命力に優れているみたいなの。リアは絶対熱を使い熟す事が出来ればもう一段、強さのレベルを上げる事が出来ると思うのだけれど・・・」
ベアトリーチェ夫人の疑念に対して子供達の代わりに口々に述べ立てる蒼太とメリアリアであったが、彼等夫婦の話を要約すると早い話が。
単なる外見だけの話では無くてアランは蒼太の、そしてリアはメリアリアの特性や能力すらをも受け継いでいた訳であり、それぞれに持てる輝きを発揮しつつあったのだ。
「・・・そうか、それほどまでならば問題は無いかも知れないな」
ダーヴィデが頷きつつも膝を打った。
「解ったよ、まあどうなるかはやってみなければ解らないが。可愛い孫達の為だ、力を尽くしてみよう。取り敢えずはカンプラード伯爵夫妻に“フェリシア嬢をもらい受けたい”旨の通達を出す事にする、後は・・・」
“天に祈るだけだな”とそれだけ言い放つと、ダーヴィデは黙って瞑目し、ベアトリーチェもそれに倣った。
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