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夫婦の絆と子供への思い
蒼太と花嫁達 9
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「随分と久方振りね?メリアリア・・・」
「あなたは・・・!!!」
メリアリアが女王位を受け継いでから、実に9年の月日が経過していた。
この間、見た目も心も麗しい美女となった彼女は遙かなる極東の島国“大八洲皇国”に於いて逞しく成長した幼馴染にして思い人の“綾壁 蒼太”と無事に再会を果たし、晴れて恋仲となって二人でガリア帝国へと帰還、愛欲と任務とに日々勤しんでいたのであるモノの、そんなメリアリアの前にー。
再びメディアス・カロルがやって来た、彼女はこの9年で更に自身の実力に磨きを掛けて来ており、内部からは気力の充実が窺える。
性格や趣味嗜好も変化したのだろうか、メリアリアとは対照的に露出過剰な出で立ちで、大人の女の色香を存分に醸し出していた。
「・・・何しに来たのよ、メディアス・カロル。言っておくけど私は忙しいのよ?」
「御挨拶ね、せっかく無事に帰って来た貴女達の事をお祝いに来たのに・・・」
そう返答するメディアスの顔には嫌みったらしさ満開の笑みが浮かび上がっており、別にメリアリアで無くともこれから彼女が侮蔑的な言葉を投げ掛けようとしているのかありありと見て取れる。
「聞いたわよ、なんでも呪いで異国の少女の姿に変えられていたんですってね?しかも仲間達からも相手にされなかったって。凄く憐れで惨めよねぇ、想像するだけで鳥肌が立つわ・・・」
「・・・・・」
「おまけに装備品も反応しなくなっちゃったんですってねぇ、いい気味だわメリアリア。そのまま死ねば良かったのに・・・」
「そう、それはお生憎様だったわね。お陰で私はピンピンしているわ・・・?」
「ええ、本当に。忌々しい限りだ事ね・・・」
心底口惜しそうにそう述べ立てるメディアスはしかし、尚も続けてメリアリアに告げた。
「なんでも幼馴染の恋人にも再会出来たんですってね?ねぇメリアリア。貴女はくれぐれも敵の魔術師に感謝しなくてはならないわよ?だって考えようによってはソイツが貴女にチャンスを与えてくれたんだからね・・・」
「・・・・・」
「だけど“エカテリーナ”だったっけ?ソイツもつくづく甘いわよねぇ、貴女どころか上手くやれば恋人すらも抹殺出来るチャンスだったって言うのに・・・」
「・・・なんですって?何よその言い方、どう言う意味なのっ!!?」
堪え切れずに思わず憤慨の色を露わにするメリアリアに対してメディアスは“楽しくてしょうがない”と言う面持ちとなって話を続けた。
「やだわぁ?なに怒ってるのよこれ位の事で。ちょっとした冗談じゃないの、そんなにムキにならないでよメリアリア・・・」
「・・・・・」
「それに私達、れっきとした仲間でしょ?ガリア人同士な訳だし。セイレーンの隊員でもあるんだから・・・」
「・・・そうね。“一応は”仲間だもんね?メディアス」
そんなメリアリアの言い方に、メディアスはピクリと眥を動かした、気位が高い彼女にとってほんの僅かでも自分を茶化したり反抗の意思を顕現させられるのは堪らなく不愉快である。
況してや恨み骨髄なメリアリアにそれをやられる事は、メディアスにとっては到底、我慢出来る事ではなかったのだ。
「ねえ、だけど・・・。正直に言って意外だったわ?だって高貴な事この上ないガリア貴族の令嬢だった貴女が事もあろうに異国人の、それも拠りにもよって黄色人種たるジャポネなんかに股を開くなんてね。何よ、そんなに気持ち良かったの?ジャポネとのセックスが・・・」
「・・・・・っ。貴女ね!!!」
「なぁに~、どうしたの?変態性欲持ちの淫乱女さん。ま、貴女にはお似合いな相手だわよね?下劣な黄色人種の男とせいぜい、楽しくやってれば良いのよ!!!」
「酷いわっ!!!」
その言葉を受けてメリアリアが堪らず叫んだ。
「彼は、蒼太はそんな人じゃないわ?取り消しなさいメディアス!!!」
「あぁ~ら、もしかしてかんに障っちゃった?ごめんなさいね、下衆男の大事な大事な淫乱女さん・・・」
「・・・・・っ。メディアス!!!」
“いい加減にしなさいっ!!!”と言ってメリアリアが臨戦態勢を取り、それに対抗する形でメディアスも武器を取って身構える。
「なによ、なになに~?まさかここでやり合おうって言うんじゃ無いわよね。女王位同士の私闘は硬く禁じられている事を知らないの~?」
「くううぅぅぅっ!!!」
「まあでも?貴女がどうしてもやりたいって言うんなら相手になってあげても良いけど。でも良いの~?本当に。間違いなくそっちが懲罰の対象になるわよ?ま、でも確かに恋人の事をここまでバカにされておめおめと引き下がったのでは“炎の聖女”の名が泣くわね。いっそ返上しなさいよメリアリア、私が大切にしてあげるからっ。あはははははははっ!!!!!」
「・・・・・っっっ!!!!!」
(なんて汚い女なの?メディアス・カロル。人の大切をモノを散々に踏み躙って、バカにしてっ。挙げ句に自分からは絶対に手を出さないつもりなんだわ、あくまで罪を私達に着せる為に・・・!!!)
「いやぁ~、本当に待たせたね・・・!!!」
勝ち誇ったように高笑いをするメディアスに対してメリアリアが苦渋の顔色を浮かべているとー。
メリアリアの背後から誰かが近付いてくる気配がして陽気な声色の言葉が聞こえて来る。
彼女の幼馴染にして最愛の恋人である“綾壁 蒼太”その人だが彼は何食わぬ面持ちのまま呑気な空気を纏い付かせ、飄々とその場に馳せ参じたのであった。
「ああっ。そ、蒼太・・・っ!!!」
「真面目にゴメンよ?何しろ編入手続きって面倒臭くてね・・・。って、あれ?」
彼氏の登場に張り詰めていた空気が思わず和む。
ホッとした表情で自分に駆け寄って来たメリアリアを庇える立ち位置をさり気なく取ると蒼太は無邪気な雰囲気のままメディアス・カロルに向き直った。
「貴女は確か。メリーの前任者だった人ですよね?名前はえ~と、何だったっけかなぁ・・・」
「メディアスよ?メディアス・カロル。案外物覚えが悪いのねぇ、淫乱女の下衆男さん・・・」
「いやぁ、どうもすみません。だけど僕にとっては貴女は別にどうでも良い存在なので、記憶の中から抹殺していただけですよ。覚えている価値なんて無いでしょ?大した人間じゃないんだから・・・」
「・・・何ですって?」
するとそれを聞いたメディアスの顔付きが変わったのが、メリアリアにはハッキリと見て取れた。
「随分と失礼な物言いなのね?年上に対する礼儀も弁えていないのかしら、況してやレディに対してお世辞の一つも使えないなんて。これだから日本人は嫌なのよ!!!」
「いやいや。僕も真っ当な人々や神々に対する礼儀作法なら、嫌という程叩き込まれて来ましたけどね?貴女みたいな負け犬のゴミクズにまともに向き合うためのマナーは流石に誰からも教わりませんでしたよ。ハッキリと言ってメディアスさんとは関わるだけ時間の無駄ですからね・・・」
「・・・今なんて言ったの?私はもしかして喧嘩を売られているのかしら」
「あれぇ、もしかして怒っているんですか?嫌だな、マジにならないで下さいよ。僕は別に貴女を貶しているわけではありません、ただ事実を述べ立てているだけですから。それに僕達は“一応は”仲間じゃないですか、同じガリア人同士でも有るわけですし。仲良くやろうぜ?あははははっ!!!」
そんな蒼太の言葉や態度が余程かんに障ったのか、メディアスの顔からは余裕の色が消え失せて行くモノの蒼太は全く意に介していない。
それでも流石に油断無く即応体制を取ったまま、彼は打って変わってメリアリアに優しい口調で語り掛けた。
「何だか下らない事を言われていたみたいだけれども。だけどどうか許してあげてよメリー、メディアスさんはね?本当は悔しくて悔しくて仕方が無いのさ。実は滅茶苦茶誇りに思っていた炎使いとしての実力と矜持と、それに女王位としての立場とを9歳も年下のうら若くて可愛らしい君にアッという間に追い抜かれていってしまったんだから。そりゃ内心、穏やかではいられないよねぇ・・・」
「・・・何ですって!!?」
「あははっ、またまた熱くなっちゃって。そうやって眉間にシワを寄せるのを止めなさいって、ただでさえ貴女は面倒臭い女性なんだから。それにこの際だからハッキリと言わせてもらうけれども貴女ごときがいくらイキがった所で僕やメリーに勝てるわけ無いでしょ?素直になりなよいい加減。そう言う心の在り方って凄く大事だと思うけどなぁ・・・」
「・・・・・っっっ!!!!!」
「・・・ち、ちょっと蒼太!!!」
“これは流石にまずいわね・・・”と判断したメリアリアは臨戦態勢のまま彼氏とメディアスの間に割って入ろうと試みるモノの、それは他ならぬ蒼太自身によって押し留められてしまった。
「蒼太、どうして・・・?」
「・・・まあ大丈夫だからさ?見てなって、メリー」
心配そうに詰め寄る恋人に対して落ち着いた笑みを向ける蒼太であったが実は彼は前々からメディアスのメリアリアに対する悪態の数々を知っており、小さな頃から忌々しく思っていたのだ。
(ちくしょう、メディアスのやつ。いつか必ず復讐してやる!!!)
特にメリアリアが手出しできないのを良いことに散々にしたい放題やりたい放題だったメディアスの心無い罵詈雑言と、それにグッと堪えて耐え続けるメリアリアの姿を見た時に蒼太の心はとても痛んだ。
(メリー、かわいそう・・・)
(こんなに可愛らしくて純朴で。それでいてとってもいい子なのに・・・)
“今に見てろよメディアス”、“必ず叩きのめしてやる!!!”と蒼太は幼い頃から密かに反撃を決意していたのであったが、一方で。
「流石にそこまで言われたのならば黙視は出来ないわね・・・・」
そんな蒼太の煽り立てに、メディアスはウカウカと乗ってしまった、彼女としてみれば蒼太は生意気な年下の後輩であり格下相手に映っていたから別段、警戒していなかった。
彼女は愚かだった、自分の目と感性を用い、更には自身の人生を賭けて相手の本質を深く見極めようとせずに、ただ表面的な2、3の事象だけで彼の事を完全に理解した気になっていたのだ。
「蒼太、と言ったわね?この場で貴男に決闘を申し込むわ。女王位同士での対決は掟で硬く禁止されているけれどもそれ以外の“試合”ならばある程度は認められているのは知っているわよね?」
「えっ、本気で俺とやり合う気ですか?まあ別に良いですけど。ただし一応は言わせてもらうけれども怪我じゃ済みませんよ?まあ命までは取ろうと思わないけど・・・」
「上等だよ、てめえは。ギッタギタにして病院送りにしてやる・・・!!!」
だから彼女は蒼太の自分に対する積もりに積もったドス黒い恨みの丈も、反対にメリアリアに対する深い愁哀も全く理解する事が出来ないままに、完全に彼のペースに巻き込まれて狂暴な本性を剥き出しにすると間髪を入れずにいきなり襲い掛かって来た。
まだ立会人の選任はおろか、“始め!!!”の号令も掛かっていない内から一方的に自身の肉体に豪炎を纏い、それを後方からジェットのように噴出させつつ目にも止まらぬ早さで蒼太目掛けて吶喊していった、そうしておいてー。
射程距離にまで到達したメディアスは更に追撃用の摂氏10000度もの火炎の連撃を蒼太の肉体目掛けてぶっ放すが、それがまさに彼に届くか届かないか、と言う一瞬にも満たない僅かな合間にー。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!?」
「・・・っ!?!?!?!?!?」
(・・・・・っ。な、何だこれは?なぜ景色が反転している。私は一体、どうなったんだ!!!)
信じられない出来事が起きた、何とメディアスの視点が完全に逆転して天地が逆さまにひっくり返り、それと前後して視線がいつもより下に降りてゆく。
急激な変容は嫌でも動揺を誘発させるモノの、いつまで経っても鼓動が早くなる所か何やら息苦しさのような感覚と同時に首筋がスースーとして若干の涼しさを感じるモノの、彼女がその答えを導き出すより先に事態は再び動きを見せた。
「・・・・・?」
(・・・な、なんだ?今のは。一体全体何だったのだ、私はどうしてしまったのか!!?)
上下の狂っていた視点が一気に元に戻って視線も元々の正位置に還るがそれと前後して首と体の繋ぎ目の辺りに若干の痛みと違和感を覚えて狼狽した。
それだけでは無い、気が付くとメディアスの頭頂部にはいつの間にかに蒼太の手が添えられており、ググッと顔全体を下へ下へと押し込んで来る。
「・・・・・っ。な、何を!!!」
「喋るな!!!」
目くじらを立てて何事かを言い掛けたメディアスに対して蒼太は静かに、しかし鋭く言い放った。
「闘いはここまでだ。今ここで何が起きたのかを、貴女は知らなくて良いよ?ただ二言だけ、付け加えて置くならばお前は今後、2度とメリーには近付くな。それともう一つ、せっかく拾った命を無駄に散らせたく無いのならば、あと30分程度は何も言わずにこの場を動かぬ事だ・・・!!!」
それだけ言うと。
蒼太はメリアリアを連れ立ってメディアスの元を離れ、今度こそ本当に帰路にと就いて行ったのであるモノの、その途次ー。
「・・・・・」
「・・・ね、ねえ蒼太!!!」
「・・・・・」
「あなた、あの・・・。さっきはメディアスの首を」
メリアリアにそう言われても、蒼太は暫くの間は何も喋らなかった、ただただ彼女と恋人繋ぎで手を繋いだまま、ひたすらセイレーンより割り当てられた、男性寮の自分の部屋へと歩を進めて行ったのであるモノの、やがてー。
「・・・あれは“戻し斬り”と言う奥義だよ」
それだけ話してくれた。
「・・・“戻し斬り”?」
「そうだ」
聞き慣れない言葉に怪訝そうな顔付きとなって尋ね続けるメリアリアに対して蒼太が頷き、なるべく彼女に解りやすいように説明を開始する。
「何だかちょっと自画自賛のような話し方になってしまって申し訳無いのだけれど・・・。類い稀なる切れ味を誇る名剣と、達人以上の実力を持つ剣士の技量が合わさった時に初めて顕現される、と言われている剣術の極意だよ」
「・・・・・」
「通常、斬撃等が命中すると人間の体細胞は引き裂かれ、形が崩れていってしまう。つまりは組成が破壊されてしまう訳だからそこから壊死が始まって行くのだけれども。ところがある一定以上の鋭さと早さで切り裂かれた細胞と言うのは元々の形を保ったまま、潰れる事無くキレイに切断されるんだ。そしてその状態では意識が“死”を認識して実際にそれが現象として誘発されるまで僅かな合間のタイムラグが引き起こされる。その瞬間を狙って細胞同士をくっ付けると双方が癒着して復元するんだ。この真理を応用したモノが、さっき僕がやってみせた“戻し斬り”さ?アイツの攻撃が僕の体に触れるかどうかの刹那の間合いを利用して、カウンターの要領で聖剣を召喚し、そのまま咄嗟に超速の“居合い抜き”を行って刃筋をアイツの首筋にぶち当てたんだ!!!」
「・・・・・」
「まあ、僕も今まで数える程しかやった事が無かったけれども・・・。だけどちゃんと修業を積んで技自体は自分のモノにしていたから、成功させる自信はあった。現に君も見ていただろう?みるみる内に奴の胴体と首がくっ付いて行くのを。あれはね、単に体の形状が元通りになっただけじゃないんだよ。筋肉や骨格、それに神経系節が癒着して復元したって事なんだ。まあそれで?メディアスは一命を取り留めたって言う訳さ・・・」
「・・・でも、あの。それって一歩間違えてしまったなら、あなたが殺人犯になってしまっていたって事じゃない。私は嫌よ?あなたが事もあろうにあんな汚らわしい女の命を背負って一生をフイにするなんて!!!」
とメリアリアはここで初めて苦言を呈した、確かに蒼太が無事に済んだのは喜ばしい事に変わりは無いが、しかし本音を言えば彼女は恋人になるべく罪を重ねて欲しくはなかったのである。
況してやあんな取るに足らない女の命の重みを背負って残りの人生を歩いて行く等、到底許容できるモノでは無かったのだ。
・・・だけど。
「・・・僕はね?メリー、アイツの事が許せなかった。君が手出しできないのを良いことにずっとずっと酷い事ばかりして来ただろう?だからいつか必ず復讐してやるって心に決めていたんだ、それが叶ってスッとしたよ」
「それはそうだけど。でも・・・」
「君がアイツに何度も何度も理不尽になじられて、それでもグッと耐え続けているのを見て、凄く悲しかったよ。辛くて辛くて堪らなかった、だから必ずいつか抹殺してやろうって思っていたんだ・・・」
「・・・・・」
「まあ、しかしアイツももう終わりさ?確かに命までは取らなかったけれども1度は確実に首を切り飛ばされたんだからね。仮に治癒したとしてもそれは傷付く前の状態に戻った、と言う訳では無いんだ。ダメージはダメージとして確実に体に蓄積されて行く、日常生活を送る程度ならば難なく出来るだろうけれども・・・。もう戦える体じゃ無いよ」
「・・・そっか」
そうまとめて会話を締めた彼氏に対して、メリアリアは特にそれ以上は何も言わなかった。
事実としてこの時彼女は嬉しくて仕方が無かったのである、“あの忌々しい女から漸く解放された”と言う事と“蒼太が自分の為にここまで親身になって怒りを滾らせてくれていたのだ”と言う事が。
そして何より“自分を守ってくれたのだ”と言う事が堪らなく嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
だから。
「・・・ねえ蒼太」
「んん?何さメリー・・・」
「あの、その・・・。何でもない」
“どうも有り難う”とそれだけ告げるのが精一杯な程に鼓動が早く脈打って、胸がドキドキと高鳴って来る。
そうだ、自分が取るべきは間違っても恋人に説教をする事では無い、自分の為に戦ってくれた彼に黙って寄り添う事なんだ、とメリアリアは心の底から直感してその通りに行動しようとするモノの、思い返せば本当に不思議なモノだ、どうしてこの人の事を考えるとこんなにも優しい気持ちになれるのだろうか。
(・・・やっぱり。私は蒼太の事が堪らなく好き。この人の事を本当に愛してるの、私は蒼太と同じ道を行く。何が起ころうとも絶対に、絶対に!!!)
「だけどメディアス・カロルだったか?アイツは本当に汚らしい女だったね。メリー、よく今まで手を出さずに堪えたよ。凄く偉かったね!!!」
「えへへへ・・・っ!!!」
そう言って蒼太は彼女の頭を何度となく撫でてくれた、それはとても気持ち良くて心地好くて、彼女のささくれ立って荒んだ心をキレイに洗い流し、癒して行く。
「私達を挑発して、こっちから手を出させようとしていたんだわ?いざとなったらあなたと私の二人掛かりで襲われたって、そんな事まで言い出しそうな勢いだったモノね・・・」
「ああ、自分に罪が掛からないように“正当防衛”を狙っていたんだろうね。まあ策を弄する人間ほど芯が弱いもんだよ、現にアッサリと討ち取れただろ?」
「うんっ。だけど蒼太はやっぱり凄いよ、アイツはあれでも“元・女王位”なんだからね?それに打ち勝っちゃうなんて・・・」
「いや~、あっはっはっは・・・っ!!!」
(すぐ近くに、もっと凄くて強い女性がいるからね・・・!!!)
等と考えつつも蒼太は改めてメリアリアの事を見つめるが彼女はいつだってそうだった、子供の時からそうだったのだがなんだかんだ言っても蒼太の罪科も功績も、黙ってみんな一緒に背負って付いて来てくれる女の子だった。
そうやって遙かな天の頂きにも、はたまた恐ろしい地獄の底にも付き合ってくれる、常に共に有り続けてくれる大事な大事な伴侶だったのだ。
「ねえ蒼太・・・」
「何さ?メリー・・・」
「今夜は飲もう?どうせ明日は休みだよね、二人でいっぱい飲み明かそうよ!!!」
「あははっ。嬉しいな、メリー・・・!!!」
そんな恋人の心境の移り変わりを雰囲気と態度から何となく察したのだろう、メリアリアが改めて声を掛けて来てくれるモノの、それに対して。
“でもね?メリー・・・”と蒼太は彼女の肩を抱き寄せて、耳元でソッと告げて来た。
「・・・・・?」
「今夜は、寝かさないよ?」
「・・・・・っ。んもぅ、エッチ!!!」
そう返すメリアリアの表情にはしかし、怒りの炎の色は無く、反対に頬は紅潮して上目遣いとなり、蕩けるような甘い眼差しを蒼太に向けている。
「だけど良いよ、して良いよ?いっぱい抱いて、いっぱい愛して・・・っ❤❤❤❤❤」
耳まで真っ赤にしたままで、それでもトロンと蕩けた瞳を向けて自分に思いを伝えて来てくれる彼女の事が、どうしよう無い程に可愛らしくて蒼太は家路を急ぐ事にした。
「あなたは・・・!!!」
メリアリアが女王位を受け継いでから、実に9年の月日が経過していた。
この間、見た目も心も麗しい美女となった彼女は遙かなる極東の島国“大八洲皇国”に於いて逞しく成長した幼馴染にして思い人の“綾壁 蒼太”と無事に再会を果たし、晴れて恋仲となって二人でガリア帝国へと帰還、愛欲と任務とに日々勤しんでいたのであるモノの、そんなメリアリアの前にー。
再びメディアス・カロルがやって来た、彼女はこの9年で更に自身の実力に磨きを掛けて来ており、内部からは気力の充実が窺える。
性格や趣味嗜好も変化したのだろうか、メリアリアとは対照的に露出過剰な出で立ちで、大人の女の色香を存分に醸し出していた。
「・・・何しに来たのよ、メディアス・カロル。言っておくけど私は忙しいのよ?」
「御挨拶ね、せっかく無事に帰って来た貴女達の事をお祝いに来たのに・・・」
そう返答するメディアスの顔には嫌みったらしさ満開の笑みが浮かび上がっており、別にメリアリアで無くともこれから彼女が侮蔑的な言葉を投げ掛けようとしているのかありありと見て取れる。
「聞いたわよ、なんでも呪いで異国の少女の姿に変えられていたんですってね?しかも仲間達からも相手にされなかったって。凄く憐れで惨めよねぇ、想像するだけで鳥肌が立つわ・・・」
「・・・・・」
「おまけに装備品も反応しなくなっちゃったんですってねぇ、いい気味だわメリアリア。そのまま死ねば良かったのに・・・」
「そう、それはお生憎様だったわね。お陰で私はピンピンしているわ・・・?」
「ええ、本当に。忌々しい限りだ事ね・・・」
心底口惜しそうにそう述べ立てるメディアスはしかし、尚も続けてメリアリアに告げた。
「なんでも幼馴染の恋人にも再会出来たんですってね?ねぇメリアリア。貴女はくれぐれも敵の魔術師に感謝しなくてはならないわよ?だって考えようによってはソイツが貴女にチャンスを与えてくれたんだからね・・・」
「・・・・・」
「だけど“エカテリーナ”だったっけ?ソイツもつくづく甘いわよねぇ、貴女どころか上手くやれば恋人すらも抹殺出来るチャンスだったって言うのに・・・」
「・・・なんですって?何よその言い方、どう言う意味なのっ!!?」
堪え切れずに思わず憤慨の色を露わにするメリアリアに対してメディアスは“楽しくてしょうがない”と言う面持ちとなって話を続けた。
「やだわぁ?なに怒ってるのよこれ位の事で。ちょっとした冗談じゃないの、そんなにムキにならないでよメリアリア・・・」
「・・・・・」
「それに私達、れっきとした仲間でしょ?ガリア人同士な訳だし。セイレーンの隊員でもあるんだから・・・」
「・・・そうね。“一応は”仲間だもんね?メディアス」
そんなメリアリアの言い方に、メディアスはピクリと眥を動かした、気位が高い彼女にとってほんの僅かでも自分を茶化したり反抗の意思を顕現させられるのは堪らなく不愉快である。
況してや恨み骨髄なメリアリアにそれをやられる事は、メディアスにとっては到底、我慢出来る事ではなかったのだ。
「ねえ、だけど・・・。正直に言って意外だったわ?だって高貴な事この上ないガリア貴族の令嬢だった貴女が事もあろうに異国人の、それも拠りにもよって黄色人種たるジャポネなんかに股を開くなんてね。何よ、そんなに気持ち良かったの?ジャポネとのセックスが・・・」
「・・・・・っ。貴女ね!!!」
「なぁに~、どうしたの?変態性欲持ちの淫乱女さん。ま、貴女にはお似合いな相手だわよね?下劣な黄色人種の男とせいぜい、楽しくやってれば良いのよ!!!」
「酷いわっ!!!」
その言葉を受けてメリアリアが堪らず叫んだ。
「彼は、蒼太はそんな人じゃないわ?取り消しなさいメディアス!!!」
「あぁ~ら、もしかしてかんに障っちゃった?ごめんなさいね、下衆男の大事な大事な淫乱女さん・・・」
「・・・・・っ。メディアス!!!」
“いい加減にしなさいっ!!!”と言ってメリアリアが臨戦態勢を取り、それに対抗する形でメディアスも武器を取って身構える。
「なによ、なになに~?まさかここでやり合おうって言うんじゃ無いわよね。女王位同士の私闘は硬く禁じられている事を知らないの~?」
「くううぅぅぅっ!!!」
「まあでも?貴女がどうしてもやりたいって言うんなら相手になってあげても良いけど。でも良いの~?本当に。間違いなくそっちが懲罰の対象になるわよ?ま、でも確かに恋人の事をここまでバカにされておめおめと引き下がったのでは“炎の聖女”の名が泣くわね。いっそ返上しなさいよメリアリア、私が大切にしてあげるからっ。あはははははははっ!!!!!」
「・・・・・っっっ!!!!!」
(なんて汚い女なの?メディアス・カロル。人の大切をモノを散々に踏み躙って、バカにしてっ。挙げ句に自分からは絶対に手を出さないつもりなんだわ、あくまで罪を私達に着せる為に・・・!!!)
「いやぁ~、本当に待たせたね・・・!!!」
勝ち誇ったように高笑いをするメディアスに対してメリアリアが苦渋の顔色を浮かべているとー。
メリアリアの背後から誰かが近付いてくる気配がして陽気な声色の言葉が聞こえて来る。
彼女の幼馴染にして最愛の恋人である“綾壁 蒼太”その人だが彼は何食わぬ面持ちのまま呑気な空気を纏い付かせ、飄々とその場に馳せ参じたのであった。
「ああっ。そ、蒼太・・・っ!!!」
「真面目にゴメンよ?何しろ編入手続きって面倒臭くてね・・・。って、あれ?」
彼氏の登場に張り詰めていた空気が思わず和む。
ホッとした表情で自分に駆け寄って来たメリアリアを庇える立ち位置をさり気なく取ると蒼太は無邪気な雰囲気のままメディアス・カロルに向き直った。
「貴女は確か。メリーの前任者だった人ですよね?名前はえ~と、何だったっけかなぁ・・・」
「メディアスよ?メディアス・カロル。案外物覚えが悪いのねぇ、淫乱女の下衆男さん・・・」
「いやぁ、どうもすみません。だけど僕にとっては貴女は別にどうでも良い存在なので、記憶の中から抹殺していただけですよ。覚えている価値なんて無いでしょ?大した人間じゃないんだから・・・」
「・・・何ですって?」
するとそれを聞いたメディアスの顔付きが変わったのが、メリアリアにはハッキリと見て取れた。
「随分と失礼な物言いなのね?年上に対する礼儀も弁えていないのかしら、況してやレディに対してお世辞の一つも使えないなんて。これだから日本人は嫌なのよ!!!」
「いやいや。僕も真っ当な人々や神々に対する礼儀作法なら、嫌という程叩き込まれて来ましたけどね?貴女みたいな負け犬のゴミクズにまともに向き合うためのマナーは流石に誰からも教わりませんでしたよ。ハッキリと言ってメディアスさんとは関わるだけ時間の無駄ですからね・・・」
「・・・今なんて言ったの?私はもしかして喧嘩を売られているのかしら」
「あれぇ、もしかして怒っているんですか?嫌だな、マジにならないで下さいよ。僕は別に貴女を貶しているわけではありません、ただ事実を述べ立てているだけですから。それに僕達は“一応は”仲間じゃないですか、同じガリア人同士でも有るわけですし。仲良くやろうぜ?あははははっ!!!」
そんな蒼太の言葉や態度が余程かんに障ったのか、メディアスの顔からは余裕の色が消え失せて行くモノの蒼太は全く意に介していない。
それでも流石に油断無く即応体制を取ったまま、彼は打って変わってメリアリアに優しい口調で語り掛けた。
「何だか下らない事を言われていたみたいだけれども。だけどどうか許してあげてよメリー、メディアスさんはね?本当は悔しくて悔しくて仕方が無いのさ。実は滅茶苦茶誇りに思っていた炎使いとしての実力と矜持と、それに女王位としての立場とを9歳も年下のうら若くて可愛らしい君にアッという間に追い抜かれていってしまったんだから。そりゃ内心、穏やかではいられないよねぇ・・・」
「・・・何ですって!!?」
「あははっ、またまた熱くなっちゃって。そうやって眉間にシワを寄せるのを止めなさいって、ただでさえ貴女は面倒臭い女性なんだから。それにこの際だからハッキリと言わせてもらうけれども貴女ごときがいくらイキがった所で僕やメリーに勝てるわけ無いでしょ?素直になりなよいい加減。そう言う心の在り方って凄く大事だと思うけどなぁ・・・」
「・・・・・っっっ!!!!!」
「・・・ち、ちょっと蒼太!!!」
“これは流石にまずいわね・・・”と判断したメリアリアは臨戦態勢のまま彼氏とメディアスの間に割って入ろうと試みるモノの、それは他ならぬ蒼太自身によって押し留められてしまった。
「蒼太、どうして・・・?」
「・・・まあ大丈夫だからさ?見てなって、メリー」
心配そうに詰め寄る恋人に対して落ち着いた笑みを向ける蒼太であったが実は彼は前々からメディアスのメリアリアに対する悪態の数々を知っており、小さな頃から忌々しく思っていたのだ。
(ちくしょう、メディアスのやつ。いつか必ず復讐してやる!!!)
特にメリアリアが手出しできないのを良いことに散々にしたい放題やりたい放題だったメディアスの心無い罵詈雑言と、それにグッと堪えて耐え続けるメリアリアの姿を見た時に蒼太の心はとても痛んだ。
(メリー、かわいそう・・・)
(こんなに可愛らしくて純朴で。それでいてとってもいい子なのに・・・)
“今に見てろよメディアス”、“必ず叩きのめしてやる!!!”と蒼太は幼い頃から密かに反撃を決意していたのであったが、一方で。
「流石にそこまで言われたのならば黙視は出来ないわね・・・・」
そんな蒼太の煽り立てに、メディアスはウカウカと乗ってしまった、彼女としてみれば蒼太は生意気な年下の後輩であり格下相手に映っていたから別段、警戒していなかった。
彼女は愚かだった、自分の目と感性を用い、更には自身の人生を賭けて相手の本質を深く見極めようとせずに、ただ表面的な2、3の事象だけで彼の事を完全に理解した気になっていたのだ。
「蒼太、と言ったわね?この場で貴男に決闘を申し込むわ。女王位同士での対決は掟で硬く禁止されているけれどもそれ以外の“試合”ならばある程度は認められているのは知っているわよね?」
「えっ、本気で俺とやり合う気ですか?まあ別に良いですけど。ただし一応は言わせてもらうけれども怪我じゃ済みませんよ?まあ命までは取ろうと思わないけど・・・」
「上等だよ、てめえは。ギッタギタにして病院送りにしてやる・・・!!!」
だから彼女は蒼太の自分に対する積もりに積もったドス黒い恨みの丈も、反対にメリアリアに対する深い愁哀も全く理解する事が出来ないままに、完全に彼のペースに巻き込まれて狂暴な本性を剥き出しにすると間髪を入れずにいきなり襲い掛かって来た。
まだ立会人の選任はおろか、“始め!!!”の号令も掛かっていない内から一方的に自身の肉体に豪炎を纏い、それを後方からジェットのように噴出させつつ目にも止まらぬ早さで蒼太目掛けて吶喊していった、そうしておいてー。
射程距離にまで到達したメディアスは更に追撃用の摂氏10000度もの火炎の連撃を蒼太の肉体目掛けてぶっ放すが、それがまさに彼に届くか届かないか、と言う一瞬にも満たない僅かな合間にー。
「・・・・・」
「・・・・・っ!!?」
「・・・っ!?!?!?!?!?」
(・・・・・っ。な、何だこれは?なぜ景色が反転している。私は一体、どうなったんだ!!!)
信じられない出来事が起きた、何とメディアスの視点が完全に逆転して天地が逆さまにひっくり返り、それと前後して視線がいつもより下に降りてゆく。
急激な変容は嫌でも動揺を誘発させるモノの、いつまで経っても鼓動が早くなる所か何やら息苦しさのような感覚と同時に首筋がスースーとして若干の涼しさを感じるモノの、彼女がその答えを導き出すより先に事態は再び動きを見せた。
「・・・・・?」
(・・・な、なんだ?今のは。一体全体何だったのだ、私はどうしてしまったのか!!?)
上下の狂っていた視点が一気に元に戻って視線も元々の正位置に還るがそれと前後して首と体の繋ぎ目の辺りに若干の痛みと違和感を覚えて狼狽した。
それだけでは無い、気が付くとメディアスの頭頂部にはいつの間にかに蒼太の手が添えられており、ググッと顔全体を下へ下へと押し込んで来る。
「・・・・・っ。な、何を!!!」
「喋るな!!!」
目くじらを立てて何事かを言い掛けたメディアスに対して蒼太は静かに、しかし鋭く言い放った。
「闘いはここまでだ。今ここで何が起きたのかを、貴女は知らなくて良いよ?ただ二言だけ、付け加えて置くならばお前は今後、2度とメリーには近付くな。それともう一つ、せっかく拾った命を無駄に散らせたく無いのならば、あと30分程度は何も言わずにこの場を動かぬ事だ・・・!!!」
それだけ言うと。
蒼太はメリアリアを連れ立ってメディアスの元を離れ、今度こそ本当に帰路にと就いて行ったのであるモノの、その途次ー。
「・・・・・」
「・・・ね、ねえ蒼太!!!」
「・・・・・」
「あなた、あの・・・。さっきはメディアスの首を」
メリアリアにそう言われても、蒼太は暫くの間は何も喋らなかった、ただただ彼女と恋人繋ぎで手を繋いだまま、ひたすらセイレーンより割り当てられた、男性寮の自分の部屋へと歩を進めて行ったのであるモノの、やがてー。
「・・・あれは“戻し斬り”と言う奥義だよ」
それだけ話してくれた。
「・・・“戻し斬り”?」
「そうだ」
聞き慣れない言葉に怪訝そうな顔付きとなって尋ね続けるメリアリアに対して蒼太が頷き、なるべく彼女に解りやすいように説明を開始する。
「何だかちょっと自画自賛のような話し方になってしまって申し訳無いのだけれど・・・。類い稀なる切れ味を誇る名剣と、達人以上の実力を持つ剣士の技量が合わさった時に初めて顕現される、と言われている剣術の極意だよ」
「・・・・・」
「通常、斬撃等が命中すると人間の体細胞は引き裂かれ、形が崩れていってしまう。つまりは組成が破壊されてしまう訳だからそこから壊死が始まって行くのだけれども。ところがある一定以上の鋭さと早さで切り裂かれた細胞と言うのは元々の形を保ったまま、潰れる事無くキレイに切断されるんだ。そしてその状態では意識が“死”を認識して実際にそれが現象として誘発されるまで僅かな合間のタイムラグが引き起こされる。その瞬間を狙って細胞同士をくっ付けると双方が癒着して復元するんだ。この真理を応用したモノが、さっき僕がやってみせた“戻し斬り”さ?アイツの攻撃が僕の体に触れるかどうかの刹那の間合いを利用して、カウンターの要領で聖剣を召喚し、そのまま咄嗟に超速の“居合い抜き”を行って刃筋をアイツの首筋にぶち当てたんだ!!!」
「・・・・・」
「まあ、僕も今まで数える程しかやった事が無かったけれども・・・。だけどちゃんと修業を積んで技自体は自分のモノにしていたから、成功させる自信はあった。現に君も見ていただろう?みるみる内に奴の胴体と首がくっ付いて行くのを。あれはね、単に体の形状が元通りになっただけじゃないんだよ。筋肉や骨格、それに神経系節が癒着して復元したって事なんだ。まあそれで?メディアスは一命を取り留めたって言う訳さ・・・」
「・・・でも、あの。それって一歩間違えてしまったなら、あなたが殺人犯になってしまっていたって事じゃない。私は嫌よ?あなたが事もあろうにあんな汚らわしい女の命を背負って一生をフイにするなんて!!!」
とメリアリアはここで初めて苦言を呈した、確かに蒼太が無事に済んだのは喜ばしい事に変わりは無いが、しかし本音を言えば彼女は恋人になるべく罪を重ねて欲しくはなかったのである。
況してやあんな取るに足らない女の命の重みを背負って残りの人生を歩いて行く等、到底許容できるモノでは無かったのだ。
・・・だけど。
「・・・僕はね?メリー、アイツの事が許せなかった。君が手出しできないのを良いことにずっとずっと酷い事ばかりして来ただろう?だからいつか必ず復讐してやるって心に決めていたんだ、それが叶ってスッとしたよ」
「それはそうだけど。でも・・・」
「君がアイツに何度も何度も理不尽になじられて、それでもグッと耐え続けているのを見て、凄く悲しかったよ。辛くて辛くて堪らなかった、だから必ずいつか抹殺してやろうって思っていたんだ・・・」
「・・・・・」
「まあ、しかしアイツももう終わりさ?確かに命までは取らなかったけれども1度は確実に首を切り飛ばされたんだからね。仮に治癒したとしてもそれは傷付く前の状態に戻った、と言う訳では無いんだ。ダメージはダメージとして確実に体に蓄積されて行く、日常生活を送る程度ならば難なく出来るだろうけれども・・・。もう戦える体じゃ無いよ」
「・・・そっか」
そうまとめて会話を締めた彼氏に対して、メリアリアは特にそれ以上は何も言わなかった。
事実としてこの時彼女は嬉しくて仕方が無かったのである、“あの忌々しい女から漸く解放された”と言う事と“蒼太が自分の為にここまで親身になって怒りを滾らせてくれていたのだ”と言う事が。
そして何より“自分を守ってくれたのだ”と言う事が堪らなく嬉しくて嬉しくて仕方が無かった。
だから。
「・・・ねえ蒼太」
「んん?何さメリー・・・」
「あの、その・・・。何でもない」
“どうも有り難う”とそれだけ告げるのが精一杯な程に鼓動が早く脈打って、胸がドキドキと高鳴って来る。
そうだ、自分が取るべきは間違っても恋人に説教をする事では無い、自分の為に戦ってくれた彼に黙って寄り添う事なんだ、とメリアリアは心の底から直感してその通りに行動しようとするモノの、思い返せば本当に不思議なモノだ、どうしてこの人の事を考えるとこんなにも優しい気持ちになれるのだろうか。
(・・・やっぱり。私は蒼太の事が堪らなく好き。この人の事を本当に愛してるの、私は蒼太と同じ道を行く。何が起ころうとも絶対に、絶対に!!!)
「だけどメディアス・カロルだったか?アイツは本当に汚らしい女だったね。メリー、よく今まで手を出さずに堪えたよ。凄く偉かったね!!!」
「えへへへ・・・っ!!!」
そう言って蒼太は彼女の頭を何度となく撫でてくれた、それはとても気持ち良くて心地好くて、彼女のささくれ立って荒んだ心をキレイに洗い流し、癒して行く。
「私達を挑発して、こっちから手を出させようとしていたんだわ?いざとなったらあなたと私の二人掛かりで襲われたって、そんな事まで言い出しそうな勢いだったモノね・・・」
「ああ、自分に罪が掛からないように“正当防衛”を狙っていたんだろうね。まあ策を弄する人間ほど芯が弱いもんだよ、現にアッサリと討ち取れただろ?」
「うんっ。だけど蒼太はやっぱり凄いよ、アイツはあれでも“元・女王位”なんだからね?それに打ち勝っちゃうなんて・・・」
「いや~、あっはっはっは・・・っ!!!」
(すぐ近くに、もっと凄くて強い女性がいるからね・・・!!!)
等と考えつつも蒼太は改めてメリアリアの事を見つめるが彼女はいつだってそうだった、子供の時からそうだったのだがなんだかんだ言っても蒼太の罪科も功績も、黙ってみんな一緒に背負って付いて来てくれる女の子だった。
そうやって遙かな天の頂きにも、はたまた恐ろしい地獄の底にも付き合ってくれる、常に共に有り続けてくれる大事な大事な伴侶だったのだ。
「ねえ蒼太・・・」
「何さ?メリー・・・」
「今夜は飲もう?どうせ明日は休みだよね、二人でいっぱい飲み明かそうよ!!!」
「あははっ。嬉しいな、メリー・・・!!!」
そんな恋人の心境の移り変わりを雰囲気と態度から何となく察したのだろう、メリアリアが改めて声を掛けて来てくれるモノの、それに対して。
“でもね?メリー・・・”と蒼太は彼女の肩を抱き寄せて、耳元でソッと告げて来た。
「・・・・・?」
「今夜は、寝かさないよ?」
「・・・・・っ。んもぅ、エッチ!!!」
そう返すメリアリアの表情にはしかし、怒りの炎の色は無く、反対に頬は紅潮して上目遣いとなり、蕩けるような甘い眼差しを蒼太に向けている。
「だけど良いよ、して良いよ?いっぱい抱いて、いっぱい愛して・・・っ❤❤❤❤❤」
耳まで真っ赤にしたままで、それでもトロンと蕩けた瞳を向けて自分に思いを伝えて来てくれる彼女の事が、どうしよう無い程に可愛らしくて蒼太は家路を急ぐ事にした。
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