星降る国の恋と愛

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夫婦の絆と子供への思い

あすなろ園

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 上越自動車道を一路新潟方面へと向けて疾走させること、およそ3時間半。

 それから更に一般道を走ること1時間弱。

 一行は漸く新潟県の新発田市市街地に到達した、ここは蒼太達にとっては完全に未知な土地柄なので、案内はエリカに一任されている。

「次の角を曲がって、右だ・・・」

「・・・ブルボン・ジャパン本社ビルから1時間弱か。こんな所にお前の心の拠り所があるとはな、エリカ。だけどお前って子供好きだったっけ?」

「いいや?取り立てて好きでも無ければ嫌いでも無かった、少なくとも昔はな。今もそれはあまり変わっていないが・・・」

「・・・・・?」

「これから赴く養護学校は、色々な理由で親元では育てられなくなった子供達を保護している施設だ。ハッキリと言って彼等には身寄りがいない、と言っても過言では無いが。お願いだからその事は本人達には黙っておいて欲しい・・・」

「それは構わないが、エリカ。ハッキリと言って子供達は意外と鋭いぞ?恐らく何人かはその事実に気が付いているんじゃないのか・・・?」

「そうかも知れないが、そこを敢えて頼む。あの子達を傷付けたくは無いんだ、解ってくれ・・・」

「・・・ねえエリカ、子供達の事は解ったけれども。一体、何で私達をここまで連れて来たの?この施設と貴女とどう言う関係があるのかしら?」

 蒼太に続いてメリアリアが口を開くと、その疑問にエリカは淀みなく答えて言った。

「・・・ここは私の夫が職員をしている施設でね、“あすなろ園”と言うんだが今現在は私もたまに顔を見せて子供達にお菓子をあげているんだよ。勿論“ブルボン社製”のな?」

「一体、どう言うことですの?だって貴女は旦那様の実家で農業の手伝いをしているのでしょう?・・・“ブルボン・ジャパン”にも務められているみたいですけど」

「旦那の実家は“兼業農家”と言ってな、別に一年中農家だけをしている訳では無いんだ。農業以外にも別の仕事を請け負って生計を立てているのさ・・・」

「・・・エリカ、君の嫁ぎ先は豪農だったと前に聞いたが。しかも今も周囲に土地を持っている、とも。農家と地主だけでは食べていけない程にまで困窮しているのか?」

 アウロラとオリヴィアも、次々と質問を投げ掛けるモノのエリカは至って平静に返した。

「いいや、その気になれば地主と農家で充分に食べて行けるさ?ただしそれだと生活はかなり食い詰めなくてはならなくなるがな。何しろ旦那の家族は全部で8人いるから毎日の料理や掃除、洗濯等が思いの外大変でね。家事を皆で分担しながら熟しているんだ・・・」

 “それに加えて”とエリカは語る、“それぞれが金の掛かる趣味を持っているから余計に大変なんだよ”と。

「私達は本業である農家以外にも様々な分野に触手を伸ばして活動している。ちなみに旦那の叔父はこの地方の議員を務めているらしくてね、地元では顔が利くんだ・・」

「・・・そうか、政治家がバックに付いているのか。では今のお前に“ブルボン・ジャパン株式会社役員”の身分を与えてくれたのはその人物と言う訳か?」

「まあな、それもあるが・・・。しかし身寄りの無いこの国で私の事を最初に受け入れ、庇ってくれたのは旦那とその家族だった。今では大変に感謝しているよ」

「・・・なあエリカ、凄い疑問なんだけど。今現在の立場と言うか、地位もだけれどもお前、どうやってここまで地元に溶け込んだんだ?こう言っちゃなんだけど、凄く鮮やかな身のこなしとしか言いようが無いんだが」

「アハハハッ!!!まあ確かに旦那の実家の政治力だったり、コネクションなんかもそれなりに使わせてもらったけれども・・・。一番なのは人々の優しさ、暖かさだな。それに尽きるよ」

 そう言ってエリカがまた言葉を紡ぐモノの、結婚する前に彼女は自分の旦那にだけはこれまでの生い立ちやバックボーン等を包み隠さず打ち明けたらしかった。

 自分があんまり恵まれた出自では無いこと、人買いに売られて売春宿で働かされていたこと、秘密組織に属していたこと、数多の命を奪って来たこと、そしてなにより“異世界の存在であること”を、だ。

「旦那はね?それらを特に何も言うでも無く黙って聞いてくれていたんだ。それで最後にただ一言だけ、“辛かったんだね”と言ってくれて。肩を抱き寄せてくれたんだ、こんな私の事を受け止めてくれたんだよ?私はその時に思ったんだ、“この人に付いて行こう”って・・・」

 そう言いながらもエリカは泣いていた、嗚咽を発しながら涙で顔を濡らしていたのだ。

 彼女は続けた、“私は旦那に言われて初めて自分がどれだけ辛い思いをして来たのか、と言う事が解ったんだ”と、“どれだけ悲惨な思いを胸に秘めながら今まで一生懸命に生き抜いて来たのかが、漸く理解出来たんだ”とそう告げて。

「自分の事を漸くにして受け止めてあげる事が出来たんだ。・・・それこそ真正面からちゃんとね?」

「・・・・・」

「旦那に言われたよ。“君がこんなにも悲しくて苦しい人生を送って来た人だったなんて知らなかった”って、“僕は君が憐れで仕方が無いよ”って。それを聞いた時に私は大声で泣いてしまった・・・」

 グズりながらもエリカは語るが彼女はやっと出会う事が出来たのである、女性としての憐れさ、儚さ、悲しさを嫌という程にまで思い知らされて生きてきた自分の苦しみや痛みを見抜いて受け止め、それでも共に歩んでくれる人を。

「旦那は言ってくれたよ、“本当はこんな言ったら君に物凄く失礼なんだろうけどね”って。“それでも君は悲し過ぎる”って。だけどね?自分で言うのもなんだけれども本当に私は憐れだったよ。親にも人買いにもバカにされて、蔑まされて、挙げ句に良いように扱われて。愛する人に操を立てる事も許されず、そもそも愛のなんたるかも知らず、自由さえ与えられなかった・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・エリカ」

「毎日のように力尽くで屈服させられ、尊厳も心も認められず、ただただひたすらにじられて。色々な人の道具にされて、良いように抱かれ続けて。終いには秘密組織の武器になった・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「それより何より憐れなのが、自分でその事に。自分の心と人生が目茶苦茶に壊されて行った事に、全く気付けなかったって点だ。自分で自分を解ってあげられなかったんだ!!!私は誰にも言えなかった、“助けて”って。本当は救って欲しかったのに、ずっとずっと嫌だったのに。・・・だけど」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・だけど?」

「その事に気付かせてくれたのが、今の旦那だ。そしてそれを忘れさせてくれたのも、癒してくれたのも彼なんだ。私は彼に出会えて本当に良かったよ、“自分とは何者か”、“何のために生まれて来たのか”と言う答えを知る事が出来たのだから・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「覚えておけ、蒼太。女はそれ自体で完成された生き物だ、全体的に心身のバランスが取れていて何をやらせてもそつなく出来る。対して男と言うのは何か一つのことを極めるような生き方しか出来ないんだ、一つのことしか見る事が出来ないんだな。・・・だけど」

 “それで良いんだ”とエリカは言った、“男は一方方向だけに、一気に力を集約させて生きて行くべきなんだ”と、“突き抜けるべきなんだ”と。

「そうする事で男は女を引っ張って行ける。一方で女と言うのは個人のみではもうそれ以上には進化も変化も出来ないんだよ、何故ならば既に完成された存在であるからだ。だから男に引っ掻き回してもらわなければ、“今以上”には到達出来ないんだ・・・」

「・・・なるほど」

「男は自分の内面に振り回され、そして女はそんな男に振り回される。そうやって人類は生きて来た、これからも多分そうだろう・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「良い男って言うのはね?蒼太。女を高みへと導いてあげられる存在の事を言うんだよ。間違っても女垂らしの事を指す言葉じゃ無いんだ、それを忘れないでくれ・・・」

 そんな事を話している内に。

 一行は特定認可養護施設“あすなろ園”へと到着した。
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