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夫婦の絆と子供への思い
“星砕き”
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「ジョセフソン博士から手渡されたデータによると今現在、惑星ニビルは月軌道のすぐ外側。400000キロの地点を通過中だ・・・!!!」
「・・・・・・っ。400000キロだって!!?」
ジョセフソン博士から送られたデータをオリヴィアに読み上げてもらった蒼太は流石に仰天してしまい、声も上擦ったそれとなる。
「バカも休み休み言えよ。天文学的に言うならば、もう鼻先を掠める程の至近距離じゃないか。どうして今まで誰も何も言わなかったんだ!!!」
「みんな、封殺されていたから・・・!!!」
そんな夫の絶叫に、愛妻淑女が宥める様に答えて告げた。
「・・・多分、だけれども。誰も彼もがみな、国家の中枢権力から“何も言うな”って言われていたんじゃないかしら?自己の身分や命、そして家族の安全を守る為と、一般社会の静謐を守る為には仕方が無かったんじゃないかな」
「・・・いや、まあそうかも知れないけれども。だけど400000キロにまで接近していたのに誰もが気付かないなんて、そんなバカな!!!」
「“アンチ・クライスト・オーダーズ”の悪企みの影響も、あるのかも知れませんわ?」
蒼太の憤りを受けてアウロラもまた、苦言を呈した。
「彼等の妨害活動によって人々の霊性や常識、感性等は今や滅茶苦茶なモノになってしまっておりますから。そこに付け込まれたのだとすれば、納得も出来ますわ・・・?」
「ううーん・・・!!!」
愛妻2人の言葉は流石の蒼太も無視は出来ないし、かつ十二分に納得出来るモノだった、そう考えるとかつて魔王ゾルデニールが信仰していた“異神ガドラ”とは邪星ニビルが神格化されたモノだった、と見ることも出来たのだ。
「・・・とにかく。ニビルをここで打ち砕く、それも単に破壊させるだけじゃない。破片も一つ残らず粉々にして蒸発させるんだ!!!」
そう言うと蒼太は自身を“神人化”させる為にまずは精神を集中させて祈り始めた、否、彼だけではない、愛妻淑女達もそれぞれ、“女神化”する為に意識を研ぎ澄まさせて夫との繋がりを感じつつも己の本質へと願を飛ばすがそれが20分を越えた辺りで。
彼等の周囲に神々しい迄に強大なる光の波動が渦を巻き始めて一気に蒼太達へと集約していった、それが済んだ時。
そこには“4柱の神々”が顕現していたのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「みんな、準備は良いか?」
無事に神人化を果たした蒼太がまずは口を開いた。
「相手は神話に登場する程の星神。しかも武神ですら討伐が能わなかった“荒ぶる神”だ、一筋縄では行かないだろう・・・!!!」
「・・・知っている!!!」
女神化したメリアリアがまずは答えた。
「相手は天空の荒ぶる神、ニビルだ。我々の想像を絶する抵抗が予想される・・・!!!」
「それを討ち果たすのだから、こちらも命を懸けねばなりません・・・!!!」
「名にし負うニビル、もとい“オオボシカガセオ”。相手に取って不足は無い!!!」
そんな彼女の言葉を受けて、アウロラとオリヴィアも応えるモノの既に彼女達全員は生きるも死ぬも蒼太と共にある、と言う心持ちとなっている、今更その覚悟と決意は微塵も揺らぐことは無かった、それを見て取った蒼太は。
まずは自身の持ち得足る超射程神威“神断光脚”によって地球の至近距離を通過中のニビルに攻撃を仕掛けた、しかし。
「・・・・・っ!!?」
相手に対する手応えが、全く感じられずに暗黒惑星ニビルに真っ直ぐに伸びていった光の軌跡は跡形も無く雨散霧消してしまったのである、それを受けて。
メリアリアは紅炎魔法を、アウロラは爆裂魔法を、そしてオリヴィアは極光魔法をそれぞれ極大化して放つが結果は無しの礫であった。
「・・・・・っ!!?」
「これは・・・っ!!!」
「バカな・・・っ!!!」
「手応えがない・・・っ!!!」
「・・・・・っ。人よ」
そんな蒼太達の頭の中に、直接声が響いて来た。
「人よ、無駄じゃ。その方らの攻撃など我には痛くも痒くもない!!!」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「これは・・・っ!!?」
「一体、何者・・・っ!!!」
困惑している蒼太達であったが、やがてその正体に気付いた蒼太がニビルを睨みつつもハッキリと言い放った。
「大甕星。いいや“ニビル”か・・・っ!!?」
「いかにも・・・!!!」
蒼太の言葉に、ニビルの意識体が応える。
「我が名は“ニビル。そちたちには“オオボシカガセオ”の名で呼ばれておるようじゃがの!!!」
「大甕星よ、潔くこの地より立ち去りたまえ・・・!!!」
「無駄じゃ・・・!!!」
蒼太の言葉に、“オオボシカガセオ”はゆったりと余裕のある野太い声色で答えた。
「聞くが良い、大和民族の末裔どもよ。我は不死身よ、かつて神々すらも退けた儂の前では貴様らの如き木偶人形など木っ端同然・・・!!!」
「ほざいてろ!!!」
それに対して蒼太もまた、笑って余裕で返してみせた。
「何が不死身だ、それを言うんだったら俺だってまだ死んだことは一度も無いぞ?お前だけが特別だと思うなよ!!?」
そう言うなやいなや、蒼太は再びニビルに対して攻撃を開始するが結果は全くの無駄骨であった。
「・・・・・っ。なんだと!!?」
「一体、どういう・・・!!!」
「無駄じゃ、蒼太!!!」
驚き戸惑う蒼太達一行の前に、鹿島の神が香取の神を伴って現れる。
「ヤツは。“オオボシカガセオ”は常日頃より、“星穹の闇衣”と言う結界を身に纏っておる。故にこちらの攻撃は一切効かないんじゃ!!!」
「かつて儂らが彼奴めを討伐出来なんだ理由がそこにある。あの時は健葉槌神に“星穹の闇衣”ごと封じてもらうのが手一杯じゃった・・・!!!」
「・・・・・」
「それだけではない。彼奴めは宇宙の深淵を旅して戻って来る際に、闇の領域を通過する。その時にその辺り一体に充満している“負の法力”を極限まで吸い込んでやって来るのじゃ。今やヤツの力の源は“闇の宇宙”そのもの、と言って良い・・・」
「この輪環を断ち切らぬ限り、オオボシカガセオは討ち果たせぬのじゃ。そこが此奴の厄介な所なのじゃな・・・!!!」
(“星穹の闇衣”。あの惑星ニビル全体を覆っている濃密な暗雲の事か・・・!!?)
神々の話を聞きつつ蒼太が見るにそれはニビルの表面全体を覆っている魔力を秘めた巨大な積乱雲であり、アレをどうにかしない限りかはニビル本体にダメージを通す事が出来ない訳であった、しかし。
「・・・要するに“宇宙の法則を利用している”、“極めて巨大なる闇の法力台風”のようなモノだ。それならば必ず何処かに“目”があるはずだ!!!」
“そこに”と蒼太は思った、“高次元の光のエネルギーで構成された波動砲を撃ち込んでやれば解決は付く!!!”と。
それもただの光のエネルギーではない、あのニビルは太陽の伴星である、と言う、つまりは。
太陽こそがニビルとは相反する性質を持ち合わせている“聖極星”な訳であり、そのエネルギーを極集約した最高出力の波動砲を“台風の目”に直接撃ち込んでやれば結界は自ずと瓦解する筈だ、と蒼太は看破したのだ、だから。
彼はまず、メリアリア達との絆とエネルギーの交流とを感じつつも更なる瞑想を行って自身を“超神化”させると同時に太陽神霊たる“天照大神”をその場に降臨させた、そうした上で。
天照大神の“万物を照らす超神力”を自らに取り入れつつも健御雷神と経津主神の“道を切り開く神力”、そして受けた攻撃的魔力や破滅性邪気の類いを余さず浄化、反転させてそっくりそのまま術者に跳ね返す神威“破獄天生”を絡め合わせた、一点突破形の波動砲撃型神威“神風迅雷”を極大出力で放つ事としたのである。
それだけではない、そこに更にメリアリア達の“絶対熱の極意”、“星震魔法”、“極閃呪文”をもミックスさせてぶっ放すのだが、その威力は流石の蒼太にも予測不能であり、第一そのあまりにも凄絶に過ぎるエネルギー輻射に自分達が堪えきれるかどうか、全く理解が及ばなかったのだ。
しかし。
「みんな、やるぞ?“星砕き”だっ!!!」
「ええっ!!!」
「はいですっ!!!」
「心得た・・・っ!!!」
これ以上無いほどにまで一つになった夫婦達である、今更“死”すらも彼等を引き離す事は出来なかった。
(ヤツが攻撃を繰り出した瞬間を狙って砲撃する。ニビルと相反する性質を持つ太陽の光エネルギーと、“やった事はやり返される”と言う“宇宙の法則”を利用した神威“破獄天生”をミックスさせて、そしてそれらを更に波動砲撃型神威である“神風迅雷”に絡めて撃ち放つのだ。それも妻達の力を借りた上での最大出力でな!!!そうすれば二つの神威の間に働く無限反復の相乗効果と神々の超神力とで“神風迅雷”の威力や破邪力が元々の何乗倍にまでブーストされて、結果としてニビルの妖力をも討ち破る事が出来るかも知れない・・・)
蒼太は最早、これに全てを賭ける心積もりとなっていた、とにもかくにもまずはニビルの守護結界を破砕しなければ希望は見えては来ないのである、それは間違いでは無かった。
そうしている内に。
ニビルからの第一波攻撃が地球に届いた、その途端に大地は揺れて鳴動し、大気は震えて巨大な地震がそこかしこで発生する。
「ぐううぅぅぅ・・・っ!!?」
「く・・・っ!!!」
「こんな事が・・・っ!!!」
「これ程とは・・・っ!!!」
その悪意的な攻撃波動を受けた瞬間、地球全体に大規模なアースクェイクが引き起こされて大地は或いは隆起し、また或いは沈下していった。
それだけではない、その威圧的な意思は蒼太達をたじろがせるのに充分な程の冷徹さと狂暴さを秘めていたのだ。
「こ、これは・・・っ。これが“オオボシカガセオ”の力か・・・っ!!?」
「こんなの何発も喰らったら・・・っ。地球がダメになっちゃうっ!!!」
「星全体から凄まじい迄の怒りの波動を感じますわ・・・。それでいてとても悲しい波動を!!!」
「これが惑星ニビルの底力、と言うわけか・・・っ!!!」
比類無き圧力に耐えながらも蒼太やメリアリア達が口々にそう言い合っていると、その際中にニビルはすかさず第二波攻撃を行って今度は天変地異を誘発させる。
世界各地で火山が爆発的な噴火を記録し、沿岸部には数十メートルクラスの大津波が押し寄せて第一波攻撃を辛うじて堪え凌いでいた人々に容赦なく襲い掛かっていった。
「・・・・・っ。く、くそっ!!!」
「なんて事なのっ!!?」
「こんな事って・・・っ!!!」
「人々が死に絶えて行く・・・!!!」
地球上に巻き起こっている異常現象を感知した蒼太達が口々に絶叫するが、ニビルは攻撃の手を緩めない。
「わっはっはっはっ。どうしたどうした?大和民族とその仲間達よ。貴様らは所詮、天津神が造りし木偶人形よ。儂の攻撃に対して何一つとして反撃出来まい!!!」
「偉そうに抜かすな!!!」
蒼太が絶叫して反目した。
「なんの力も持たぬ人々をいたぶって楽しいか?無闇矢鱈と命を奪うことが、そんなに面白おかしい事なのか?だとしたなら貴様はやはり、ただの邪で低俗な野良神だ。間違っても崇敬されるべき存在では無い!!!」
「言いおったな?木偶人形風情が!!!」
痛いところを突かれたのか、ニビルが鋭い意思を伝播させて来る。
「決めたぞ?今度という今度は地球を完全に破砕してくれる。今までのようなイビリ等とは訳が違うわいの!!!」
そう言うが早いか、ニビルは己の波動を練り込み始めて極大化させ、それを再び地球目掛けて放とうとした、その時だ。
蒼太もまた、必殺の超絶神威を生成すべく自身の内部で法力を至高の領域まで高め、集約させていった。
それは文字通り己の全てを賭けた博打であった、自分と言う生命の光の顕現、存在そのものの持てる体力、気力、精神力等の全てを余す事無く法力に変えて中心部分に向かって際限無く押し込ませて行き、一種の“ブラックホール”を生成して行くのである。
ありとあらゆる方向から力を極1点にまで集約して行き、更にはそこへと向けて周囲の時空次元からもエネルギーを吸収させる事によりその威力は留まる事を知らずに延々と高まって行く、そしてそれが“ホーキング輻射を放つ直前”でー。
極限まで収集、集約せしめた波動エネルギーを対象に向かって一方向に押し出し、射出するのだがこの時、高次元の“神威”によって生成された“超越プラズマ熱量”の奔流は超光速の怒濤となって周囲の時空間を歪曲、爆砕しながら直進して行き対象に直撃、それに関連するあらゆる次元波動、現象ごと完全に崩壊させて蒸発させるのだ。
(臆するな、蒼太!!!)
頭の中に鹿島の神と香取の神の声が響く。
(儂らが力と命とを分け与えてやろう、底支えをしてやろう。決して何も恐れるな、お主の感じたままを信じるんじゃ!!!)
(お主も妻達も、儂らが纏めて守る故何も案ずるな。お主はただ、神威を放つ事だけに集中しておればええ・・・!!!)
(・・・神々様、有り難う!!!)
正直、自分はここで死ぬかも知れないと思っていた蒼太にとって、これは僥倖であった、神々が自分を下支えしてくれるのならば、そして守ってくれるのならばこんなに心強いモノは無い。
しかも今回はそれだけでは終わらなかった、かてて加えて蒼太には他にも頼もしい援軍が待っていたのだ。
「メリー、アウロラ。オリヴィア!!!僕に力を貸してくれ・・・」
「解ってるっ!!!」
「ええっ!!!」
「任せておけっ!!!」
三人は夫の呼び掛けに応じるなや否や、己の持てる究極の領域にまで波動を高め、それぞれに必殺の呪法を顕現させていった。
それは魂同士で婚ぎ合っている関係上、夫へと自然かつ即座に流れ込んで行き、結果として彼の頭上では直径で5キロほどもある大きさの、巨大で強大なる聖光波動エネルギーの塊が金色に輝く球体として姿を見せていたのであるが、しかし。
「愚か者どもよ、それがどうした?儂にはそんなモノが効かない事がまだ解らんのか!!?」
「・・・生憎と、人間はそんなに物分かりが良い様には出来ていないんだよ。人間は元来が身の程知らずで向こう見ずで、だけどそれ故に無限の知恵と勇気と力とを発現させる事が出来るんだ!!!」
“例えどんな絶望的な状況に於いてもな!!?”と蒼太は先日鹿島の神に言われた言葉を、今度は自分のそれとしてニビルに向かって言い放った。
「人間は諦めが悪い生き物なんだ、だからこそいつでも自分の持てる可能性の輝きを信じて遺憾なくそれを発揮させる事が出来る存在なのさ?おたくには解らないだろうけどな!!!」
「ほざいておれ、木偶人形。何が可能性の輝きだ、そんなモノは微に砕いてやるわ!!!」
そう告げるとニビルは練り上げた暗黒の破壊法力を一気呵成に解き放とうとしたのだが、それと同時に。
「・・・・・っ!!!」
(見付けたぞ、あれが“星穹の闇衣”の目だ・・・!!!)
暗黒惑星の表面全体を覆っている黒雲の表面に浮き出ていた巨大な渦の奔流を、蒼太はギリギリで見抜いたのだ、そしてその直後に。
((今だ蒼太、やれいっ!!!))
神々の声が聞こえて来て、その刹那の内に蒼太は己の全てを解き放った、両の手の平を胸の前で合わせると真言を素早く唱えて神威に名を与え、命を吹き込んで術をこの世に顕現させていくモノの、それを。
思いっ切りニビルに向けて、否、もっと正確に言えばニビルを取り巻く暗雲の“目”に向けて突き出して見せるがその途端に頭上で輝く球体は更に膨張してエーテルがプラズマ化し、バリバリ、バチバチと激しい放電現象を誘発させる。
臨界点を突破したエネルギー球はやがて指し示された唯一の“逃げ道”から超光速の怒濤となって解き放たれ、“ギュオオオォォォォォッッッ!!!!!”と言う凄まじい迄の轟音と共に一挙に疾走していったのである。
それは既にして発生させられていた“破壊の暗黒法力”を瞬間的に飲み込んでニビル本星に直撃した。
「ぐわあああああああああーーーっっっ!!!!!!!?」
ニビルから耳を劈く程の苦悩の声が響き渡り、宇宙空間が揺れた様に感じられた。
“目”に光の砲撃を受けた闇の衣はたちどころに四散して行き、続いてニビルそのものの大地に超大たるエネルギー波が直に叩き付けられた、それは時間にして僅か30秒にも満たない程度の短いモノでしかなかったがニビルの内核を硬い岩盤ごと打ち砕くには充分に過ぎる程の鋭さと猛烈さと熱量を誇っていたのだ。
しかも。
荒れ狂う波動エネルギーの奔流力場は単にニビルを砕いただけでは収まらなかった、その場に滞留して砕かれたニビルの岩盤を、更に粉微塵に粉砕して終いには完全に蒸発させてしまったのである。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「あ、あ・・・っ!!?」
「やった、のか・・・?」
その様子を地球から眺めていた蒼太と妻達は、そのあまりの威力の凄絶さに茫然としつつもお互いに無事な事をまずは確認し合う。
「・・・・・っ。全員、無事か?」
「・・・うん、大丈夫よ!!?」
「はいですっ、問題ありません!!!」
「私達は至って元気だよ、蒼太!!!」
それを聞いた蒼太は思わず“はあぁ・・・っ!!!”と胸を撫で下ろした、自分には今の所、どこにも異常は見られない。
気掛かりなのは妻達であったが彼女達も問題は無いと言う、これ以上無いほどの安堵が彼を満たした。
「・・・・・っ。やったのか?僕らは」
「見事じゃ、蒼太。そしてその奥方達よ・・・」
漸く我に帰った4人が辺りを見渡していると、そこへ鹿島の神と香取の神が現れた。
「“オオボシカガセオ”は滅んだ、お主達がやったんじゃ。大したもんじゃのう!!!」
「いやはや。人間など大した事は無い、等と思っていたが中々どうして立派なもんじゃ。儂らが勝てなかったあの“アマツカガセオ”をのう・・・!!!」
「・・・大甕星は、どうなったのですか?」
「肉体は、確かに滅んだ。しかしヤツの神体は別での、まだ生きておるよ。もっともかなりのダメージを受けているようじゃ、相当弱っておるからの・・・!!!」
「“アマツカガセオ”は、儂らと健葉槌神が3柱で封印した。彼奴めはこのまま天界に連れて帰る、もう地球に災いが巡って来る事は無くなるじゃろうて・・・」
「・・・・・っ。はあぁ~っ!!!」
“疲れた・・・!!!”と蒼太は言った、彼は緊張しっ放しだったのであるから無理も無いが、それらから一気に解き放たれた安堵感は例えようも無い程にまで清々しかった。
「あっはははっ。最後は結局、神様に頼りましたね。本当にどうも有り難う御座いました!!!」
(・・・蒼太)
そう言った瞬間、頭の中に神々の声が響き渡って来た。
(奥方達の目の前で、事の詳細を述べるのは止めておけ。お主、また引っ叩かれるぞ?)
(自分の命をドブに捨てるような真似は、あんまりしちゃいかんよ?今回は儂らが守ったからお主は怪我も無く済んだが・・・)
(・・・・・)
神々のその言葉に、蒼太は尤もだと思った、やっぱり自分の命を粗末にするのは絶対に良くないと、今回こそは思い知らされた瞬間であったのだ。
「神様・・・。でも本当にどうも有り難う、あなた方の力が無ければ正直、絶対に勝てなかったよ!!!」
蒼太は今回、最低でも“天照大神”、“健御雷神”、“経津主神”の3柱の神々の力を借りている、“天照大神”には闇の衣を打ち破る絶対理力を、また“健御雷神”と“経津主神”には“オオボシカガセオ”を打倒する際の手助けと星を砕く底力の付与、加えて神威を放つ際の莫大な量のエネルギー輻射から自分と妻達を守ってもらった恩があるのだ。
「ついさっき気付いたんですけど・・・。僕達の周囲には、絶えず理力の防壁が展開されていました。あれが無ければとてものこと、“オオボシカガセオ”を倒すだけの力を生成する事が出来なかった。それに大甕星の圧力からも、身を守ってくれましたしね!!!」
「あれは儂らの自慢の結界でな?力を防御に振り切った時に初めて出来る代物なのじゃ」
「いやぁ、本当に大したもんじゃな。蒼太よ、今やお主は儂らの領域に限りなく近しい存在となっておるんじゃぞ?」
「あっはははっ、有り得ないですよ。神様・・・!!!」
“あなた方に比べれば、僕なんてまだまだペーペーですからね!!!”と蒼太が言うと、神々は“わははは!!!”と高らかに笑い、そして言った。
「しかしとにかく見事じゃ、蒼太。今回はしかと学ばせてもらったわい・・・」
「うむ。“人間の有り様を観察してそこから学べる事もある”、まさにその通りじゃったの・・・」
「僕も学びましたよ、神様・・・」
「・・・・・?」
「んん・・・?」
「人間の祈りと神の力が真に一つとなった時、大いなる救いの道は開かれる・・・。それが解りましたから!!!」
「・・・ふむ」
「なるほどの」
「神々は人の為に祈り、そして人は神々の為に祈る。それらが組み合わさった瞬間に、無限の力は解き放たれるのです。・・・そう言う事じゃ無いですか」
「・・・のう、蒼太。お主今からでも“神上がり”せんか?お主にはその資質が十二分にあるぞ?」
「お主ならば、“精妙界”を通り越して一気に“無明界”まで到達出来るぞ?そのすぐ上が高天原じゃ!!!」
「あはは・・・。神様、僕はもう少し人間でいたいですよ・・・!!!」
半ば本気で勧誘して来る武神と剣神に対して蒼太はチラリとメリアリア達の事を見やりながらそう述べた。
「僕にはまだ、人間としてやりたい事がいっぱいいっぱいあるんですよ。それらを成し遂げた後で無ければ、神様になるのはちょっと・・・」
「むううぅぅぅ・・・!!!そうか、惜しいのう・・・」
「それは“煩悩”と言うヤツじゃぞ?蒼太よ。まあお主の場合は愛情と煩悩とが表裏一体となっておるようじゃがの・・・」
(ちなみに、蒼太よ。心配は無いと思うがあの女子達の事を裏切るで無いぞ?)
(左様。今やあの娘達の心も頭もお主の事でいっぱいじゃからな?くれぐれも大事にしてやるんじゃぞ・・・!!!)
(・・・・・っ。わ、解りました。神様)
再び神が頭の中に直接話し掛けて来た、と思ったら今度はメリアリア達の事だった、神は何やら感じるモノがあったらしい。
「ではな、蒼太よ。そしてその妻君達、世話になったな!!!」
「この愛しき三千世界を楽しく遊び尽くせよ?蒼太よ。もっとも神になればもっと素晴らしい生活が待っておるがな・・・」
そう言うと2柱の神々は、封印された“オオボシカガセオ”の魂を連れたって一足先に天界へと帰還していた健葉槌神の後を追い、この3次元世界を後にした。
“人間もまだまだ捨てたモノではないな・・・!!!”と言う言葉を残して。
「・・・・・・っ。400000キロだって!!?」
ジョセフソン博士から送られたデータをオリヴィアに読み上げてもらった蒼太は流石に仰天してしまい、声も上擦ったそれとなる。
「バカも休み休み言えよ。天文学的に言うならば、もう鼻先を掠める程の至近距離じゃないか。どうして今まで誰も何も言わなかったんだ!!!」
「みんな、封殺されていたから・・・!!!」
そんな夫の絶叫に、愛妻淑女が宥める様に答えて告げた。
「・・・多分、だけれども。誰も彼もがみな、国家の中枢権力から“何も言うな”って言われていたんじゃないかしら?自己の身分や命、そして家族の安全を守る為と、一般社会の静謐を守る為には仕方が無かったんじゃないかな」
「・・・いや、まあそうかも知れないけれども。だけど400000キロにまで接近していたのに誰もが気付かないなんて、そんなバカな!!!」
「“アンチ・クライスト・オーダーズ”の悪企みの影響も、あるのかも知れませんわ?」
蒼太の憤りを受けてアウロラもまた、苦言を呈した。
「彼等の妨害活動によって人々の霊性や常識、感性等は今や滅茶苦茶なモノになってしまっておりますから。そこに付け込まれたのだとすれば、納得も出来ますわ・・・?」
「ううーん・・・!!!」
愛妻2人の言葉は流石の蒼太も無視は出来ないし、かつ十二分に納得出来るモノだった、そう考えるとかつて魔王ゾルデニールが信仰していた“異神ガドラ”とは邪星ニビルが神格化されたモノだった、と見ることも出来たのだ。
「・・・とにかく。ニビルをここで打ち砕く、それも単に破壊させるだけじゃない。破片も一つ残らず粉々にして蒸発させるんだ!!!」
そう言うと蒼太は自身を“神人化”させる為にまずは精神を集中させて祈り始めた、否、彼だけではない、愛妻淑女達もそれぞれ、“女神化”する為に意識を研ぎ澄まさせて夫との繋がりを感じつつも己の本質へと願を飛ばすがそれが20分を越えた辺りで。
彼等の周囲に神々しい迄に強大なる光の波動が渦を巻き始めて一気に蒼太達へと集約していった、それが済んだ時。
そこには“4柱の神々”が顕現していたのである。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「みんな、準備は良いか?」
無事に神人化を果たした蒼太がまずは口を開いた。
「相手は神話に登場する程の星神。しかも武神ですら討伐が能わなかった“荒ぶる神”だ、一筋縄では行かないだろう・・・!!!」
「・・・知っている!!!」
女神化したメリアリアがまずは答えた。
「相手は天空の荒ぶる神、ニビルだ。我々の想像を絶する抵抗が予想される・・・!!!」
「それを討ち果たすのだから、こちらも命を懸けねばなりません・・・!!!」
「名にし負うニビル、もとい“オオボシカガセオ”。相手に取って不足は無い!!!」
そんな彼女の言葉を受けて、アウロラとオリヴィアも応えるモノの既に彼女達全員は生きるも死ぬも蒼太と共にある、と言う心持ちとなっている、今更その覚悟と決意は微塵も揺らぐことは無かった、それを見て取った蒼太は。
まずは自身の持ち得足る超射程神威“神断光脚”によって地球の至近距離を通過中のニビルに攻撃を仕掛けた、しかし。
「・・・・・っ!!?」
相手に対する手応えが、全く感じられずに暗黒惑星ニビルに真っ直ぐに伸びていった光の軌跡は跡形も無く雨散霧消してしまったのである、それを受けて。
メリアリアは紅炎魔法を、アウロラは爆裂魔法を、そしてオリヴィアは極光魔法をそれぞれ極大化して放つが結果は無しの礫であった。
「・・・・・っ!!?」
「これは・・・っ!!!」
「バカな・・・っ!!!」
「手応えがない・・・っ!!!」
「・・・・・っ。人よ」
そんな蒼太達の頭の中に、直接声が響いて来た。
「人よ、無駄じゃ。その方らの攻撃など我には痛くも痒くもない!!!」
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「これは・・・っ!!?」
「一体、何者・・・っ!!!」
困惑している蒼太達であったが、やがてその正体に気付いた蒼太がニビルを睨みつつもハッキリと言い放った。
「大甕星。いいや“ニビル”か・・・っ!!?」
「いかにも・・・!!!」
蒼太の言葉に、ニビルの意識体が応える。
「我が名は“ニビル。そちたちには“オオボシカガセオ”の名で呼ばれておるようじゃがの!!!」
「大甕星よ、潔くこの地より立ち去りたまえ・・・!!!」
「無駄じゃ・・・!!!」
蒼太の言葉に、“オオボシカガセオ”はゆったりと余裕のある野太い声色で答えた。
「聞くが良い、大和民族の末裔どもよ。我は不死身よ、かつて神々すらも退けた儂の前では貴様らの如き木偶人形など木っ端同然・・・!!!」
「ほざいてろ!!!」
それに対して蒼太もまた、笑って余裕で返してみせた。
「何が不死身だ、それを言うんだったら俺だってまだ死んだことは一度も無いぞ?お前だけが特別だと思うなよ!!?」
そう言うなやいなや、蒼太は再びニビルに対して攻撃を開始するが結果は全くの無駄骨であった。
「・・・・・っ。なんだと!!?」
「一体、どういう・・・!!!」
「無駄じゃ、蒼太!!!」
驚き戸惑う蒼太達一行の前に、鹿島の神が香取の神を伴って現れる。
「ヤツは。“オオボシカガセオ”は常日頃より、“星穹の闇衣”と言う結界を身に纏っておる。故にこちらの攻撃は一切効かないんじゃ!!!」
「かつて儂らが彼奴めを討伐出来なんだ理由がそこにある。あの時は健葉槌神に“星穹の闇衣”ごと封じてもらうのが手一杯じゃった・・・!!!」
「・・・・・」
「それだけではない。彼奴めは宇宙の深淵を旅して戻って来る際に、闇の領域を通過する。その時にその辺り一体に充満している“負の法力”を極限まで吸い込んでやって来るのじゃ。今やヤツの力の源は“闇の宇宙”そのもの、と言って良い・・・」
「この輪環を断ち切らぬ限り、オオボシカガセオは討ち果たせぬのじゃ。そこが此奴の厄介な所なのじゃな・・・!!!」
(“星穹の闇衣”。あの惑星ニビル全体を覆っている濃密な暗雲の事か・・・!!?)
神々の話を聞きつつ蒼太が見るにそれはニビルの表面全体を覆っている魔力を秘めた巨大な積乱雲であり、アレをどうにかしない限りかはニビル本体にダメージを通す事が出来ない訳であった、しかし。
「・・・要するに“宇宙の法則を利用している”、“極めて巨大なる闇の法力台風”のようなモノだ。それならば必ず何処かに“目”があるはずだ!!!」
“そこに”と蒼太は思った、“高次元の光のエネルギーで構成された波動砲を撃ち込んでやれば解決は付く!!!”と。
それもただの光のエネルギーではない、あのニビルは太陽の伴星である、と言う、つまりは。
太陽こそがニビルとは相反する性質を持ち合わせている“聖極星”な訳であり、そのエネルギーを極集約した最高出力の波動砲を“台風の目”に直接撃ち込んでやれば結界は自ずと瓦解する筈だ、と蒼太は看破したのだ、だから。
彼はまず、メリアリア達との絆とエネルギーの交流とを感じつつも更なる瞑想を行って自身を“超神化”させると同時に太陽神霊たる“天照大神”をその場に降臨させた、そうした上で。
天照大神の“万物を照らす超神力”を自らに取り入れつつも健御雷神と経津主神の“道を切り開く神力”、そして受けた攻撃的魔力や破滅性邪気の類いを余さず浄化、反転させてそっくりそのまま術者に跳ね返す神威“破獄天生”を絡め合わせた、一点突破形の波動砲撃型神威“神風迅雷”を極大出力で放つ事としたのである。
それだけではない、そこに更にメリアリア達の“絶対熱の極意”、“星震魔法”、“極閃呪文”をもミックスさせてぶっ放すのだが、その威力は流石の蒼太にも予測不能であり、第一そのあまりにも凄絶に過ぎるエネルギー輻射に自分達が堪えきれるかどうか、全く理解が及ばなかったのだ。
しかし。
「みんな、やるぞ?“星砕き”だっ!!!」
「ええっ!!!」
「はいですっ!!!」
「心得た・・・っ!!!」
これ以上無いほどにまで一つになった夫婦達である、今更“死”すらも彼等を引き離す事は出来なかった。
(ヤツが攻撃を繰り出した瞬間を狙って砲撃する。ニビルと相反する性質を持つ太陽の光エネルギーと、“やった事はやり返される”と言う“宇宙の法則”を利用した神威“破獄天生”をミックスさせて、そしてそれらを更に波動砲撃型神威である“神風迅雷”に絡めて撃ち放つのだ。それも妻達の力を借りた上での最大出力でな!!!そうすれば二つの神威の間に働く無限反復の相乗効果と神々の超神力とで“神風迅雷”の威力や破邪力が元々の何乗倍にまでブーストされて、結果としてニビルの妖力をも討ち破る事が出来るかも知れない・・・)
蒼太は最早、これに全てを賭ける心積もりとなっていた、とにもかくにもまずはニビルの守護結界を破砕しなければ希望は見えては来ないのである、それは間違いでは無かった。
そうしている内に。
ニビルからの第一波攻撃が地球に届いた、その途端に大地は揺れて鳴動し、大気は震えて巨大な地震がそこかしこで発生する。
「ぐううぅぅぅ・・・っ!!?」
「く・・・っ!!!」
「こんな事が・・・っ!!!」
「これ程とは・・・っ!!!」
その悪意的な攻撃波動を受けた瞬間、地球全体に大規模なアースクェイクが引き起こされて大地は或いは隆起し、また或いは沈下していった。
それだけではない、その威圧的な意思は蒼太達をたじろがせるのに充分な程の冷徹さと狂暴さを秘めていたのだ。
「こ、これは・・・っ。これが“オオボシカガセオ”の力か・・・っ!!?」
「こんなの何発も喰らったら・・・っ。地球がダメになっちゃうっ!!!」
「星全体から凄まじい迄の怒りの波動を感じますわ・・・。それでいてとても悲しい波動を!!!」
「これが惑星ニビルの底力、と言うわけか・・・っ!!!」
比類無き圧力に耐えながらも蒼太やメリアリア達が口々にそう言い合っていると、その際中にニビルはすかさず第二波攻撃を行って今度は天変地異を誘発させる。
世界各地で火山が爆発的な噴火を記録し、沿岸部には数十メートルクラスの大津波が押し寄せて第一波攻撃を辛うじて堪え凌いでいた人々に容赦なく襲い掛かっていった。
「・・・・・っ。く、くそっ!!!」
「なんて事なのっ!!?」
「こんな事って・・・っ!!!」
「人々が死に絶えて行く・・・!!!」
地球上に巻き起こっている異常現象を感知した蒼太達が口々に絶叫するが、ニビルは攻撃の手を緩めない。
「わっはっはっはっ。どうしたどうした?大和民族とその仲間達よ。貴様らは所詮、天津神が造りし木偶人形よ。儂の攻撃に対して何一つとして反撃出来まい!!!」
「偉そうに抜かすな!!!」
蒼太が絶叫して反目した。
「なんの力も持たぬ人々をいたぶって楽しいか?無闇矢鱈と命を奪うことが、そんなに面白おかしい事なのか?だとしたなら貴様はやはり、ただの邪で低俗な野良神だ。間違っても崇敬されるべき存在では無い!!!」
「言いおったな?木偶人形風情が!!!」
痛いところを突かれたのか、ニビルが鋭い意思を伝播させて来る。
「決めたぞ?今度という今度は地球を完全に破砕してくれる。今までのようなイビリ等とは訳が違うわいの!!!」
そう言うが早いか、ニビルは己の波動を練り込み始めて極大化させ、それを再び地球目掛けて放とうとした、その時だ。
蒼太もまた、必殺の超絶神威を生成すべく自身の内部で法力を至高の領域まで高め、集約させていった。
それは文字通り己の全てを賭けた博打であった、自分と言う生命の光の顕現、存在そのものの持てる体力、気力、精神力等の全てを余す事無く法力に変えて中心部分に向かって際限無く押し込ませて行き、一種の“ブラックホール”を生成して行くのである。
ありとあらゆる方向から力を極1点にまで集約して行き、更にはそこへと向けて周囲の時空次元からもエネルギーを吸収させる事によりその威力は留まる事を知らずに延々と高まって行く、そしてそれが“ホーキング輻射を放つ直前”でー。
極限まで収集、集約せしめた波動エネルギーを対象に向かって一方向に押し出し、射出するのだがこの時、高次元の“神威”によって生成された“超越プラズマ熱量”の奔流は超光速の怒濤となって周囲の時空間を歪曲、爆砕しながら直進して行き対象に直撃、それに関連するあらゆる次元波動、現象ごと完全に崩壊させて蒸発させるのだ。
(臆するな、蒼太!!!)
頭の中に鹿島の神と香取の神の声が響く。
(儂らが力と命とを分け与えてやろう、底支えをしてやろう。決して何も恐れるな、お主の感じたままを信じるんじゃ!!!)
(お主も妻達も、儂らが纏めて守る故何も案ずるな。お主はただ、神威を放つ事だけに集中しておればええ・・・!!!)
(・・・神々様、有り難う!!!)
正直、自分はここで死ぬかも知れないと思っていた蒼太にとって、これは僥倖であった、神々が自分を下支えしてくれるのならば、そして守ってくれるのならばこんなに心強いモノは無い。
しかも今回はそれだけでは終わらなかった、かてて加えて蒼太には他にも頼もしい援軍が待っていたのだ。
「メリー、アウロラ。オリヴィア!!!僕に力を貸してくれ・・・」
「解ってるっ!!!」
「ええっ!!!」
「任せておけっ!!!」
三人は夫の呼び掛けに応じるなや否や、己の持てる究極の領域にまで波動を高め、それぞれに必殺の呪法を顕現させていった。
それは魂同士で婚ぎ合っている関係上、夫へと自然かつ即座に流れ込んで行き、結果として彼の頭上では直径で5キロほどもある大きさの、巨大で強大なる聖光波動エネルギーの塊が金色に輝く球体として姿を見せていたのであるが、しかし。
「愚か者どもよ、それがどうした?儂にはそんなモノが効かない事がまだ解らんのか!!?」
「・・・生憎と、人間はそんなに物分かりが良い様には出来ていないんだよ。人間は元来が身の程知らずで向こう見ずで、だけどそれ故に無限の知恵と勇気と力とを発現させる事が出来るんだ!!!」
“例えどんな絶望的な状況に於いてもな!!?”と蒼太は先日鹿島の神に言われた言葉を、今度は自分のそれとしてニビルに向かって言い放った。
「人間は諦めが悪い生き物なんだ、だからこそいつでも自分の持てる可能性の輝きを信じて遺憾なくそれを発揮させる事が出来る存在なのさ?おたくには解らないだろうけどな!!!」
「ほざいておれ、木偶人形。何が可能性の輝きだ、そんなモノは微に砕いてやるわ!!!」
そう告げるとニビルは練り上げた暗黒の破壊法力を一気呵成に解き放とうとしたのだが、それと同時に。
「・・・・・っ!!!」
(見付けたぞ、あれが“星穹の闇衣”の目だ・・・!!!)
暗黒惑星の表面全体を覆っている黒雲の表面に浮き出ていた巨大な渦の奔流を、蒼太はギリギリで見抜いたのだ、そしてその直後に。
((今だ蒼太、やれいっ!!!))
神々の声が聞こえて来て、その刹那の内に蒼太は己の全てを解き放った、両の手の平を胸の前で合わせると真言を素早く唱えて神威に名を与え、命を吹き込んで術をこの世に顕現させていくモノの、それを。
思いっ切りニビルに向けて、否、もっと正確に言えばニビルを取り巻く暗雲の“目”に向けて突き出して見せるがその途端に頭上で輝く球体は更に膨張してエーテルがプラズマ化し、バリバリ、バチバチと激しい放電現象を誘発させる。
臨界点を突破したエネルギー球はやがて指し示された唯一の“逃げ道”から超光速の怒濤となって解き放たれ、“ギュオオオォォォォォッッッ!!!!!”と言う凄まじい迄の轟音と共に一挙に疾走していったのである。
それは既にして発生させられていた“破壊の暗黒法力”を瞬間的に飲み込んでニビル本星に直撃した。
「ぐわあああああああああーーーっっっ!!!!!!!?」
ニビルから耳を劈く程の苦悩の声が響き渡り、宇宙空間が揺れた様に感じられた。
“目”に光の砲撃を受けた闇の衣はたちどころに四散して行き、続いてニビルそのものの大地に超大たるエネルギー波が直に叩き付けられた、それは時間にして僅か30秒にも満たない程度の短いモノでしかなかったがニビルの内核を硬い岩盤ごと打ち砕くには充分に過ぎる程の鋭さと猛烈さと熱量を誇っていたのだ。
しかも。
荒れ狂う波動エネルギーの奔流力場は単にニビルを砕いただけでは収まらなかった、その場に滞留して砕かれたニビルの岩盤を、更に粉微塵に粉砕して終いには完全に蒸発させてしまったのである。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「あ、あ・・・っ!!?」
「やった、のか・・・?」
その様子を地球から眺めていた蒼太と妻達は、そのあまりの威力の凄絶さに茫然としつつもお互いに無事な事をまずは確認し合う。
「・・・・・っ。全員、無事か?」
「・・・うん、大丈夫よ!!?」
「はいですっ、問題ありません!!!」
「私達は至って元気だよ、蒼太!!!」
それを聞いた蒼太は思わず“はあぁ・・・っ!!!”と胸を撫で下ろした、自分には今の所、どこにも異常は見られない。
気掛かりなのは妻達であったが彼女達も問題は無いと言う、これ以上無いほどの安堵が彼を満たした。
「・・・・・っ。やったのか?僕らは」
「見事じゃ、蒼太。そしてその奥方達よ・・・」
漸く我に帰った4人が辺りを見渡していると、そこへ鹿島の神と香取の神が現れた。
「“オオボシカガセオ”は滅んだ、お主達がやったんじゃ。大したもんじゃのう!!!」
「いやはや。人間など大した事は無い、等と思っていたが中々どうして立派なもんじゃ。儂らが勝てなかったあの“アマツカガセオ”をのう・・・!!!」
「・・・大甕星は、どうなったのですか?」
「肉体は、確かに滅んだ。しかしヤツの神体は別での、まだ生きておるよ。もっともかなりのダメージを受けているようじゃ、相当弱っておるからの・・・!!!」
「“アマツカガセオ”は、儂らと健葉槌神が3柱で封印した。彼奴めはこのまま天界に連れて帰る、もう地球に災いが巡って来る事は無くなるじゃろうて・・・」
「・・・・・っ。はあぁ~っ!!!」
“疲れた・・・!!!”と蒼太は言った、彼は緊張しっ放しだったのであるから無理も無いが、それらから一気に解き放たれた安堵感は例えようも無い程にまで清々しかった。
「あっはははっ。最後は結局、神様に頼りましたね。本当にどうも有り難う御座いました!!!」
(・・・蒼太)
そう言った瞬間、頭の中に神々の声が響き渡って来た。
(奥方達の目の前で、事の詳細を述べるのは止めておけ。お主、また引っ叩かれるぞ?)
(自分の命をドブに捨てるような真似は、あんまりしちゃいかんよ?今回は儂らが守ったからお主は怪我も無く済んだが・・・)
(・・・・・)
神々のその言葉に、蒼太は尤もだと思った、やっぱり自分の命を粗末にするのは絶対に良くないと、今回こそは思い知らされた瞬間であったのだ。
「神様・・・。でも本当にどうも有り難う、あなた方の力が無ければ正直、絶対に勝てなかったよ!!!」
蒼太は今回、最低でも“天照大神”、“健御雷神”、“経津主神”の3柱の神々の力を借りている、“天照大神”には闇の衣を打ち破る絶対理力を、また“健御雷神”と“経津主神”には“オオボシカガセオ”を打倒する際の手助けと星を砕く底力の付与、加えて神威を放つ際の莫大な量のエネルギー輻射から自分と妻達を守ってもらった恩があるのだ。
「ついさっき気付いたんですけど・・・。僕達の周囲には、絶えず理力の防壁が展開されていました。あれが無ければとてものこと、“オオボシカガセオ”を倒すだけの力を生成する事が出来なかった。それに大甕星の圧力からも、身を守ってくれましたしね!!!」
「あれは儂らの自慢の結界でな?力を防御に振り切った時に初めて出来る代物なのじゃ」
「いやぁ、本当に大したもんじゃな。蒼太よ、今やお主は儂らの領域に限りなく近しい存在となっておるんじゃぞ?」
「あっはははっ、有り得ないですよ。神様・・・!!!」
“あなた方に比べれば、僕なんてまだまだペーペーですからね!!!”と蒼太が言うと、神々は“わははは!!!”と高らかに笑い、そして言った。
「しかしとにかく見事じゃ、蒼太。今回はしかと学ばせてもらったわい・・・」
「うむ。“人間の有り様を観察してそこから学べる事もある”、まさにその通りじゃったの・・・」
「僕も学びましたよ、神様・・・」
「・・・・・?」
「んん・・・?」
「人間の祈りと神の力が真に一つとなった時、大いなる救いの道は開かれる・・・。それが解りましたから!!!」
「・・・ふむ」
「なるほどの」
「神々は人の為に祈り、そして人は神々の為に祈る。それらが組み合わさった瞬間に、無限の力は解き放たれるのです。・・・そう言う事じゃ無いですか」
「・・・のう、蒼太。お主今からでも“神上がり”せんか?お主にはその資質が十二分にあるぞ?」
「お主ならば、“精妙界”を通り越して一気に“無明界”まで到達出来るぞ?そのすぐ上が高天原じゃ!!!」
「あはは・・・。神様、僕はもう少し人間でいたいですよ・・・!!!」
半ば本気で勧誘して来る武神と剣神に対して蒼太はチラリとメリアリア達の事を見やりながらそう述べた。
「僕にはまだ、人間としてやりたい事がいっぱいいっぱいあるんですよ。それらを成し遂げた後で無ければ、神様になるのはちょっと・・・」
「むううぅぅぅ・・・!!!そうか、惜しいのう・・・」
「それは“煩悩”と言うヤツじゃぞ?蒼太よ。まあお主の場合は愛情と煩悩とが表裏一体となっておるようじゃがの・・・」
(ちなみに、蒼太よ。心配は無いと思うがあの女子達の事を裏切るで無いぞ?)
(左様。今やあの娘達の心も頭もお主の事でいっぱいじゃからな?くれぐれも大事にしてやるんじゃぞ・・・!!!)
(・・・・・っ。わ、解りました。神様)
再び神が頭の中に直接話し掛けて来た、と思ったら今度はメリアリア達の事だった、神は何やら感じるモノがあったらしい。
「ではな、蒼太よ。そしてその妻君達、世話になったな!!!」
「この愛しき三千世界を楽しく遊び尽くせよ?蒼太よ。もっとも神になればもっと素晴らしい生活が待っておるがな・・・」
そう言うと2柱の神々は、封印された“オオボシカガセオ”の魂を連れたって一足先に天界へと帰還していた健葉槌神の後を追い、この3次元世界を後にした。
“人間もまだまだ捨てたモノではないな・・・!!!”と言う言葉を残して。
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