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夫婦の絆と子供への思い
剣で槍が討てるか? 4
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「ロレーヌ公爵が、か・・・?」
「はいそうです、ポールさん。間違いありません」
「彼はこの一連の事件であまりにも漁夫の利を得すぎています。・・・何か裏があるに違いありません」
ノエルとの通信を切った後。
改めて電話でミラベル本部に事の次第を報告した蒼太とアンリであったが、すると今度は上層部の一人であるポール・アギヨンから“もっと詳しい話しが聞きたい”との要望が出された為に直々に彼と面会する事になったのであったモノの、その場で二人は口々に捲し立てていた。
「ロレーヌ公爵家自体の噂は、私も何度か耳にした事はあるが・・・。しかしロレーヌ公爵御本人にお会いした事は一度もない、あの方は本当に社交界の日陰者の様な存在なのだ。間違いなく事件の関係者なのかね?」
「彼はかつては槍の名手でした、そして今回の手配犯の得物も槍で同じなのです。それに先にも御報告させていただきました通り、ロレーヌ公爵は合衆国の主要銀行の幾つかに我が国の“忠心派”の貴族達と繋がりの深い有力企業の株式を、かなりの高値で売り払っています」
「このままでは“忠心派”の屋台骨が揺らいでしまいます、そしてそれは延いてはガリア帝国の根幹を破壊する事と同義語なのです。もしそれがロレーヌ公爵の目的だとするならば、彼は間違いなく今回の事件に一枚噛んでいる可能性が高いです。何故ならば襲撃犯の思想、目的とロレーヌ公爵の行動理念とは全く以て合致しているからです」
「・・・・・」
“カロリング家の復讐か・・・”と、そう呻いたきりポールは暫しの間沈黙してしまうモノの、正直に言って彼も彼でこの一連の暗殺騒動の裏にある犯人連中の“真の目的”に付いては計りかねており、ある種の不気味さを感じてもいたのだ。
しかし。
「・・・仮に、だ。これは仮の話なのだが君達の推測が事実だとして。ロレーヌ公爵が、カロリング家と繋がっている可能性は?」
「カロリング家に付いては、ある噂があるそうです」
そう言って蒼太とアンリは、先程ノエルから聞かされた“カール・マルテル・ピピンに妾がいて、その妾との間に隠し子がいた”と言う話をポールへと伝えた。
「・・・もし。その噂話が実は本当で、カロリング家が代々メロヴィング朝廷との間に近しい位置を占めていたとしたら?」
「・・・だが何の証拠も無いのだろう?もしこの段階でロレーヌ公爵邸へと踏み込んだとしても、のらりくらりと躱されるだけだろうさ。否、それどころか。却って此方の調査能力や手の内を晒す事になりかねん、非常に危険としか言いようが無い!!!」
ポールが結んだ。
「今回の事は、あくまで“途中経過報告”として聞いておく。君達は今後も分を守った上で捜査を継続してくれたまえ・・・!!!」
「そんな・・・っ。いやあのですね、ポールさん・・・!!!」
「了解しました、ポールさん」
するとそんなポールに尚も食って掛かろうとしているアンリとは対照的に、蒼太はあっさりと引き下がって見せた。
「ただ一つ、お願いがあります・・・」
「んん・・・?なんだ、言ってみたまえ」
「私を今一度、オーブリー伯爵令息の護衛に就けてはいただけないでしょうか・・・」
「・・・・・?」
「蒼太?お前・・・っ!!!」
その言葉に驚愕しつつも、更に何事かを言い掛ける親友を制するようにして蒼太は続けた。
「まだ戦いは終わってはいません。もし暗殺犯の狙いが本当に“忠心派貴族の撲滅”にあるのだとすれば奴等はまた必ず、オーブリー伯爵令息を襲撃に来るでしょう。これ以上の忠心派貴族の損失は、貴族院の運営と言う意味でも非常に問題になると思われます」
「・・・今現在、オーブリー伯爵令息は御実家であるオーヴェルニュ伯爵邸の自室に閉じ籠もってしまっておられるそうだ。まあ、その方が確かに安全ではあるがな?ところで次また奴等が来るとして、はたして君はオーブリー伯爵令息を守りきれるかね?」
「相手は槍を持っています。まともに戦ったなら、正直に申し上げて私では勝ち目はありませんが・・・。しかし最悪の場合は御令息と共に逃げる事位は出来ます、少なくともこのまま無防備な状態で放置しておくよりは・・・!!!」
「ち、ちょっと待った。待って下さい!!!」
するとそこまで述べ立てていた蒼太の言葉を横から遮る形で咄嗟にアンリが口を開いた。
「ポールさん、俺も一緒に護衛任務に就けて下さい。何かあった場合でも二人ならば対応出来る事柄が増えますし、それに相手にも仲間がいるかも知れません。もし2対1になれば如何に蒼太と言えども後れを取ってしまう可能性があります!!!」
“それに第一”とアンリは続けた、“これ以上の犠牲者を出す事を許せば我々ミラベルに対する皇帝陛下の御信任が揺らぐ事にもなりかねません”と。
「皇帝陛下は一連の貴族や一般人に対する襲撃事件に頭を悩ませておいでです、そしてそれ以上に日々犠牲者が募ることに心を痛めていらっしゃいます。・・・ここらで一発逆転の特大アーチを描こうと行こうじゃ参りませんか?」
「・・・・・」
“皇帝陛下の御信任か・・・”とポールはまた、薄くなった頭を悩ませるモノの、彼にとってこの言葉は相当に効くらしく、アンリは蒼太を横目で見てニヤリと笑った。
「・・・よろしい、解った。君達二人は引き続き、オーブリー伯爵令息の護衛に就いてくれたまえ」
「「命令を受領致しました!!!」」
ポールの言葉に蒼太とアンリが敬礼をして応えるモノの、彼等は更に“本部と常に報告を密に取ること”、“何かあったら即座に増援を要請すること”等を言い渡されて再び、オーヴェルニュ伯爵家へと向かって行った。
「・・・なあ、蒼太」
「なにさ?アンリ・・・」
「お前、どうしてこの任務を続行する気になったんだ?最初は明らかに気が乗らなさそうな顔をしてたじゃないか・・・」
伯爵家へと続く道を、自身の高級スポーツカーで飛ばしつつもアンリが蒼太に尋ねて来た。
「・・・奴等の狙いは明らかに、この帝国や帝室を支えている人々の全てを抹殺する事にある。だとすれば早かれ遅かれ必ず、メリー達の元にもその矛先を向ける筈だ。だがらそれをここで食い止めるのさ、・・・例え自分の命を懸ける事になろうともね」
「あははっ。俺と同じ考えだな!!?」
するとその応えを聞いて、アンリが明るく笑って言った。
「俺も同じさ?マリアやコリンズ、それに親父とお袋だよ。要するに家族を守りたいんだ、何よりもな。・・・悪いけれどもオーブリー伯爵令息はそのついでだな?まあでもどっちにせよ守ってはやるんだからグダグダ文句は言わせないぜ!!!」
「あははっ。そうだな、そうかも知れない!!!」
するとそんな親友の言葉を受けて蒼太も思わず明るい表情で破顔する。
「だけど蒼太よ、お前も無鉄砲に過ぎるぜ?どうして最初から俺を誘わないんだよ・・・!!!」
「・・・だってお前、この前」
「ああ、まあな。あん時は確かに後味は悪かったさ、だけど」
アンリは突然神妙な面持ちになって語り始めた、“同時に俺はホッとしてもいたんだぜ?”とそう言って。
「これでガリウスの野郎に大事な妻や子供達を殺害されたり、汚されたりしなくて済むってな。あのまま行ってりゃ下手をすれば本当に、アイツの“生贄”にされるかも知れない所だったんだ。そうならなかったのは確かに、お前が奴を殺ってくれたから、と言うのもあるにはあるが、それ以前に。なによりかによりの話として俺もお前も全体的に、ただ単に“運が良かったから”と言うその一点のみの事実に過ぎん!!!」
「・・・・・」
「だけど正直に言ってもうやりたくは無い、とは思ったけれど・・・。それでも自分や家族の身を守る為なら、俺だって命の一つ位は懸けられるさ。・・・況してや親友が命懸けの戦いを行おうってのに、自分だけ指をくわえて見ているバカがいるか!!!」
「・・・すまない、アンリ」
「あははっ。別にお前のせいじゃないって、謝るなよ?気楽に行こうぜ、気楽にな!!!」
そう告げるとアンリは再びアクセルを踏み込み、12気筒エンジンの心地好い振動にその身を任せて行くモノの、一方で。
ちょうどその頃、オーヴェルニュ伯爵家には、ある男女の二人組が来訪していた。
一人は筋肉質な立派な体格をした、槍の一種である“ジャベリン”を装備している30代半ば程度の年齢の男性でありもう一人は背中にリカーブボウと矢筒、そして矢筒の中に豊富に弓矢を携えている若い女性であった。
「こんにちは、オーヴェルニュ伯爵。どうか門を御開錠下さい!!!」
「私達はミラベルから来ました、オーブリー伯爵令息の護衛任務を仰せ付かっております・・・!!!」
二人組は身分証を翳しながら頑丈な門の前に設置されているインターホンに向かって話し掛けるモノの、すると最初の内はお抱えのメイドと思しき人物が応対していたのだがやがてここ、オーヴェルニュ伯爵家の主である“オーヴェルニュ伯爵”本人が向こう側の通話口に出て来た。
「・・・・・っ。ミラベルからそのような報告は受けてはいないぞ?悪いがお引き取り願おうか」
「内々の指令ですので、上層部も一部の人間しか知りません・・・」
「先日、オーブリー伯爵令息が襲われたとの事で。私達に役目が与えられたのです・・・」
「だから、そんな話しは聞いていないと言っているだろう?それに見たところ君達は、弓矢と槍を持っている様だが・・・?」
「オーブリー伯爵令息を襲撃した犯人は、槍を持っていたと報告にありました。それ故に我々が選ばれたのです・・・!!!」
「詳しい事は、中に入れていただいてから致します。どうか我等を信じて下さい・・・!!!」
「・・・・・」
正直に言ってオーヴェルニュ伯爵は迷っていた、門前の二人は“ミラベルから来た”と言ってはいるモノの、確かな事は解らない。
一応、身分証はある様だがそんなモノは偽造しようと思えば幾らでも出来る筈である、何の保証にもならなかった。
(・・・先日。襲撃を受けてからと言うモノ息子はすっかり塞ぎ込んでしまっている。話しに拠れば犯人は槍を持っていたらしいし、やはりここは帰ってもらった方がよいだろうな)
“どうも気が進まんし・・・”等と考えてそう判断した伯爵は、インターホン越しにその旨を伝えて通話を切ろうとした、すると。
「旦那様、お電話が入っております・・・」
メイドの一人がいそいそと彼の元へとやって来た。
「・・・電話だと?我が伯爵家に、何者からだ」
「ミラベルのポール、と名乗っております。なんでも二人組のペアを、オーブリー様の護衛として此方に送った、とか・・・」
「・・・二人組だと?」
“それは”と伯爵は更に念には念を入れて聞き返した、“男女のペアか?”とそう言って。
すると。
「・・・いいえ?男性隊員のペアだそうですが」
「・・・・・っ!!!」
それを聞いた時に。
オーヴェルニュ伯爵は第六感がピンと来た、つまり今現在、門前にいるのは偽物であり、下手をすれば犯人である可能性があるのだ。
「通信を切れ、早く!!!」
「伯爵。大人しく通していただこう。その方が身のためですよ?」
「ミラベルに逆らうのですか?高く付きますよ?そう言う態度は・・・!!!」
「・・・・・っ!!!」
(間違いない、コイツらは息子を襲った犯人なのだ。息子を殺しに来たんだ!!!)
“その電話をこっちに持って来い!!!”と咄嗟にそう判断したオーヴェルニュ伯爵は大声で指示を出した、“ミラベルのポールに話しがある”とそう言って。
程なくしてー。
電話を持ってきたメイドからコードレスフォンの子機を受け取ると、オーヴェルニュは事の次第をポールへと話した。
「急いで隊員達を向かわせます、我々がそちらに到着するまで絶対に門を開かないで下さい!!!」
“取り敢えずまずは二人がそちらに向かっておりますので”、“もうすぐ到着する筈ですから持ち堪えて下さい!!!”と緊張した声でそう叫ぶと。
ポールは電話を切って直ちに、手の空いている隊員達に自動小銃や防弾チョッキを装備の上でオーヴェルニュ伯爵家へと急行するよう命じた。
「はいそうです、ポールさん。間違いありません」
「彼はこの一連の事件であまりにも漁夫の利を得すぎています。・・・何か裏があるに違いありません」
ノエルとの通信を切った後。
改めて電話でミラベル本部に事の次第を報告した蒼太とアンリであったが、すると今度は上層部の一人であるポール・アギヨンから“もっと詳しい話しが聞きたい”との要望が出された為に直々に彼と面会する事になったのであったモノの、その場で二人は口々に捲し立てていた。
「ロレーヌ公爵家自体の噂は、私も何度か耳にした事はあるが・・・。しかしロレーヌ公爵御本人にお会いした事は一度もない、あの方は本当に社交界の日陰者の様な存在なのだ。間違いなく事件の関係者なのかね?」
「彼はかつては槍の名手でした、そして今回の手配犯の得物も槍で同じなのです。それに先にも御報告させていただきました通り、ロレーヌ公爵は合衆国の主要銀行の幾つかに我が国の“忠心派”の貴族達と繋がりの深い有力企業の株式を、かなりの高値で売り払っています」
「このままでは“忠心派”の屋台骨が揺らいでしまいます、そしてそれは延いてはガリア帝国の根幹を破壊する事と同義語なのです。もしそれがロレーヌ公爵の目的だとするならば、彼は間違いなく今回の事件に一枚噛んでいる可能性が高いです。何故ならば襲撃犯の思想、目的とロレーヌ公爵の行動理念とは全く以て合致しているからです」
「・・・・・」
“カロリング家の復讐か・・・”と、そう呻いたきりポールは暫しの間沈黙してしまうモノの、正直に言って彼も彼でこの一連の暗殺騒動の裏にある犯人連中の“真の目的”に付いては計りかねており、ある種の不気味さを感じてもいたのだ。
しかし。
「・・・仮に、だ。これは仮の話なのだが君達の推測が事実だとして。ロレーヌ公爵が、カロリング家と繋がっている可能性は?」
「カロリング家に付いては、ある噂があるそうです」
そう言って蒼太とアンリは、先程ノエルから聞かされた“カール・マルテル・ピピンに妾がいて、その妾との間に隠し子がいた”と言う話をポールへと伝えた。
「・・・もし。その噂話が実は本当で、カロリング家が代々メロヴィング朝廷との間に近しい位置を占めていたとしたら?」
「・・・だが何の証拠も無いのだろう?もしこの段階でロレーヌ公爵邸へと踏み込んだとしても、のらりくらりと躱されるだけだろうさ。否、それどころか。却って此方の調査能力や手の内を晒す事になりかねん、非常に危険としか言いようが無い!!!」
ポールが結んだ。
「今回の事は、あくまで“途中経過報告”として聞いておく。君達は今後も分を守った上で捜査を継続してくれたまえ・・・!!!」
「そんな・・・っ。いやあのですね、ポールさん・・・!!!」
「了解しました、ポールさん」
するとそんなポールに尚も食って掛かろうとしているアンリとは対照的に、蒼太はあっさりと引き下がって見せた。
「ただ一つ、お願いがあります・・・」
「んん・・・?なんだ、言ってみたまえ」
「私を今一度、オーブリー伯爵令息の護衛に就けてはいただけないでしょうか・・・」
「・・・・・?」
「蒼太?お前・・・っ!!!」
その言葉に驚愕しつつも、更に何事かを言い掛ける親友を制するようにして蒼太は続けた。
「まだ戦いは終わってはいません。もし暗殺犯の狙いが本当に“忠心派貴族の撲滅”にあるのだとすれば奴等はまた必ず、オーブリー伯爵令息を襲撃に来るでしょう。これ以上の忠心派貴族の損失は、貴族院の運営と言う意味でも非常に問題になると思われます」
「・・・今現在、オーブリー伯爵令息は御実家であるオーヴェルニュ伯爵邸の自室に閉じ籠もってしまっておられるそうだ。まあ、その方が確かに安全ではあるがな?ところで次また奴等が来るとして、はたして君はオーブリー伯爵令息を守りきれるかね?」
「相手は槍を持っています。まともに戦ったなら、正直に申し上げて私では勝ち目はありませんが・・・。しかし最悪の場合は御令息と共に逃げる事位は出来ます、少なくともこのまま無防備な状態で放置しておくよりは・・・!!!」
「ち、ちょっと待った。待って下さい!!!」
するとそこまで述べ立てていた蒼太の言葉を横から遮る形で咄嗟にアンリが口を開いた。
「ポールさん、俺も一緒に護衛任務に就けて下さい。何かあった場合でも二人ならば対応出来る事柄が増えますし、それに相手にも仲間がいるかも知れません。もし2対1になれば如何に蒼太と言えども後れを取ってしまう可能性があります!!!」
“それに第一”とアンリは続けた、“これ以上の犠牲者を出す事を許せば我々ミラベルに対する皇帝陛下の御信任が揺らぐ事にもなりかねません”と。
「皇帝陛下は一連の貴族や一般人に対する襲撃事件に頭を悩ませておいでです、そしてそれ以上に日々犠牲者が募ることに心を痛めていらっしゃいます。・・・ここらで一発逆転の特大アーチを描こうと行こうじゃ参りませんか?」
「・・・・・」
“皇帝陛下の御信任か・・・”とポールはまた、薄くなった頭を悩ませるモノの、彼にとってこの言葉は相当に効くらしく、アンリは蒼太を横目で見てニヤリと笑った。
「・・・よろしい、解った。君達二人は引き続き、オーブリー伯爵令息の護衛に就いてくれたまえ」
「「命令を受領致しました!!!」」
ポールの言葉に蒼太とアンリが敬礼をして応えるモノの、彼等は更に“本部と常に報告を密に取ること”、“何かあったら即座に増援を要請すること”等を言い渡されて再び、オーヴェルニュ伯爵家へと向かって行った。
「・・・なあ、蒼太」
「なにさ?アンリ・・・」
「お前、どうしてこの任務を続行する気になったんだ?最初は明らかに気が乗らなさそうな顔をしてたじゃないか・・・」
伯爵家へと続く道を、自身の高級スポーツカーで飛ばしつつもアンリが蒼太に尋ねて来た。
「・・・奴等の狙いは明らかに、この帝国や帝室を支えている人々の全てを抹殺する事にある。だとすれば早かれ遅かれ必ず、メリー達の元にもその矛先を向ける筈だ。だがらそれをここで食い止めるのさ、・・・例え自分の命を懸ける事になろうともね」
「あははっ。俺と同じ考えだな!!?」
するとその応えを聞いて、アンリが明るく笑って言った。
「俺も同じさ?マリアやコリンズ、それに親父とお袋だよ。要するに家族を守りたいんだ、何よりもな。・・・悪いけれどもオーブリー伯爵令息はそのついでだな?まあでもどっちにせよ守ってはやるんだからグダグダ文句は言わせないぜ!!!」
「あははっ。そうだな、そうかも知れない!!!」
するとそんな親友の言葉を受けて蒼太も思わず明るい表情で破顔する。
「だけど蒼太よ、お前も無鉄砲に過ぎるぜ?どうして最初から俺を誘わないんだよ・・・!!!」
「・・・だってお前、この前」
「ああ、まあな。あん時は確かに後味は悪かったさ、だけど」
アンリは突然神妙な面持ちになって語り始めた、“同時に俺はホッとしてもいたんだぜ?”とそう言って。
「これでガリウスの野郎に大事な妻や子供達を殺害されたり、汚されたりしなくて済むってな。あのまま行ってりゃ下手をすれば本当に、アイツの“生贄”にされるかも知れない所だったんだ。そうならなかったのは確かに、お前が奴を殺ってくれたから、と言うのもあるにはあるが、それ以前に。なによりかによりの話として俺もお前も全体的に、ただ単に“運が良かったから”と言うその一点のみの事実に過ぎん!!!」
「・・・・・」
「だけど正直に言ってもうやりたくは無い、とは思ったけれど・・・。それでも自分や家族の身を守る為なら、俺だって命の一つ位は懸けられるさ。・・・況してや親友が命懸けの戦いを行おうってのに、自分だけ指をくわえて見ているバカがいるか!!!」
「・・・すまない、アンリ」
「あははっ。別にお前のせいじゃないって、謝るなよ?気楽に行こうぜ、気楽にな!!!」
そう告げるとアンリは再びアクセルを踏み込み、12気筒エンジンの心地好い振動にその身を任せて行くモノの、一方で。
ちょうどその頃、オーヴェルニュ伯爵家には、ある男女の二人組が来訪していた。
一人は筋肉質な立派な体格をした、槍の一種である“ジャベリン”を装備している30代半ば程度の年齢の男性でありもう一人は背中にリカーブボウと矢筒、そして矢筒の中に豊富に弓矢を携えている若い女性であった。
「こんにちは、オーヴェルニュ伯爵。どうか門を御開錠下さい!!!」
「私達はミラベルから来ました、オーブリー伯爵令息の護衛任務を仰せ付かっております・・・!!!」
二人組は身分証を翳しながら頑丈な門の前に設置されているインターホンに向かって話し掛けるモノの、すると最初の内はお抱えのメイドと思しき人物が応対していたのだがやがてここ、オーヴェルニュ伯爵家の主である“オーヴェルニュ伯爵”本人が向こう側の通話口に出て来た。
「・・・・・っ。ミラベルからそのような報告は受けてはいないぞ?悪いがお引き取り願おうか」
「内々の指令ですので、上層部も一部の人間しか知りません・・・」
「先日、オーブリー伯爵令息が襲われたとの事で。私達に役目が与えられたのです・・・」
「だから、そんな話しは聞いていないと言っているだろう?それに見たところ君達は、弓矢と槍を持っている様だが・・・?」
「オーブリー伯爵令息を襲撃した犯人は、槍を持っていたと報告にありました。それ故に我々が選ばれたのです・・・!!!」
「詳しい事は、中に入れていただいてから致します。どうか我等を信じて下さい・・・!!!」
「・・・・・」
正直に言ってオーヴェルニュ伯爵は迷っていた、門前の二人は“ミラベルから来た”と言ってはいるモノの、確かな事は解らない。
一応、身分証はある様だがそんなモノは偽造しようと思えば幾らでも出来る筈である、何の保証にもならなかった。
(・・・先日。襲撃を受けてからと言うモノ息子はすっかり塞ぎ込んでしまっている。話しに拠れば犯人は槍を持っていたらしいし、やはりここは帰ってもらった方がよいだろうな)
“どうも気が進まんし・・・”等と考えてそう判断した伯爵は、インターホン越しにその旨を伝えて通話を切ろうとした、すると。
「旦那様、お電話が入っております・・・」
メイドの一人がいそいそと彼の元へとやって来た。
「・・・電話だと?我が伯爵家に、何者からだ」
「ミラベルのポール、と名乗っております。なんでも二人組のペアを、オーブリー様の護衛として此方に送った、とか・・・」
「・・・二人組だと?」
“それは”と伯爵は更に念には念を入れて聞き返した、“男女のペアか?”とそう言って。
すると。
「・・・いいえ?男性隊員のペアだそうですが」
「・・・・・っ!!!」
それを聞いた時に。
オーヴェルニュ伯爵は第六感がピンと来た、つまり今現在、門前にいるのは偽物であり、下手をすれば犯人である可能性があるのだ。
「通信を切れ、早く!!!」
「伯爵。大人しく通していただこう。その方が身のためですよ?」
「ミラベルに逆らうのですか?高く付きますよ?そう言う態度は・・・!!!」
「・・・・・っ!!!」
(間違いない、コイツらは息子を襲った犯人なのだ。息子を殺しに来たんだ!!!)
“その電話をこっちに持って来い!!!”と咄嗟にそう判断したオーヴェルニュ伯爵は大声で指示を出した、“ミラベルのポールに話しがある”とそう言って。
程なくしてー。
電話を持ってきたメイドからコードレスフォンの子機を受け取ると、オーヴェルニュは事の次第をポールへと話した。
「急いで隊員達を向かわせます、我々がそちらに到着するまで絶対に門を開かないで下さい!!!」
“取り敢えずまずは二人がそちらに向かっておりますので”、“もうすぐ到着する筈ですから持ち堪えて下さい!!!”と緊張した声でそう叫ぶと。
ポールは電話を切って直ちに、手の空いている隊員達に自動小銃や防弾チョッキを装備の上でオーヴェルニュ伯爵家へと急行するよう命じた。
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