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夫婦の絆と子供への思い
剣で槍が討てるか? 2
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「・・・それで私の所へ尋ねて来た、と言う訳か?」
「その通りです、お義父さん。お義父さんならば剣術や槍術の事情に精通している、と思いまして・・・!!!」
娘婿である蒼太の言葉にアルベール伯爵は“ふむ・・・”と一時思案顔となり、立ち上がって応接室の中央部分に象られている、大窓の傍まで歩みを進めた。
聞けば3日程前の晩、蒼太は切っ先が三つ叉に別れている槍である“ジャベリン”を使う凄腕の戦士と戦い、辛くも引き分けたと言うのだ。
その話を聞いた時にアルベール伯爵は“ほぅ・・・?”と実に興味深そうな眼差しを娘婿に送るが良くも剣で槍を相手に引き分けに持ち込めたモノだと、彼は内心で感心していた、通常は剣士と言うのは槍使いに対して圧倒的に不利な立場に立たされるのである、それをー。
「流石は婿殿だな、大した腕だ・・・!!!」
「・・・いいえ、お義父さん。正直に言って僕が生き延びられたのは、幸運だったからに他なりません。一歩間違えれば奴の得物で胸を貫かれて事切れていたでしょう、それだけの相手だったのです」
そう言って岳父に説明を試みる夫の事を、傍に立っていたオリヴィアが不安そうな面持ちで見つめていた、彼がこのフェデラール邸を尋ねて来た際には正直に言って意外そうな表情を見せつつもその実、飛び上がらんばかりに喜んでいた彼女だったが事情を聞くなり蒼太の身を案じて心配になり、同時に怖くもなってしまったのだ。
「・・・しかし、そうか。槍か、槍を相手にしなければならぬとは。それも剣で」
“それにそれほどの槍使いと言うのは・・・”と暫しの熟考の後に、難しそうな、それでいて厳しそうな顔付きとなったアルベールが口を開いた。
「信じられん話だが・・・。可能性があるとすればただ一つ、“グリモアルド流槍戦術”と言う一派であると仮定して間違いあるまい・・・!!!」
「・・・・・?」
「“グリモアルド流槍戦術”・・・?」
それを聞いて怪訝そうな面持ちを浮かべるオリヴィアと蒼太であったが、特に青年は詳しい説明を義父に求めた。
「教えて下さい、お義父さん。“グリモアルド流槍戦術”とはなんなのですか?そんな流派は聞いた事がありませんが・・・」
「それはそうだろう、何しろ我等が知っている歴史の公式記録からは抹殺されてしまった流派なのだから・・・」
そう言ってアルベールは話を続けるモノの、それに拠ると。
もともと、このガリア帝国と隣国のヒスパニア王国、それにプロイセン大帝国とは“フランク王国”と言う一つの巨大な国だったのである。
建国したのは古代ローマを打ち立てたとされる“レムス”と“レムルス”の再来とまで言われた“覇王シャルルマーニュ”であったが彼には幼い頃から親友にしてライバルとでも言うべき相棒がいたのだ。
それこそが“カロリング家”と呼ばれる名門中の名門に生まれた一人息子の“カール・マルテル・ピピン”であった、彼は小さな時分から父である“グリモアルド・カロリング”が創始した対人戦や対騎兵に特化した戦槍術“グリモアルド流”を受け継いでいて、しかも相当な手練れであったと言う。
それだけではない、空気が読めて人の心の機微を感じ取る事が出来た彼は、政治家としてもズバ抜けた手腕を誇っており、実力は高くともともすれば一人で暴走しがちだったシャルルマーニュと諸侯の間に立って両者を結びつける“宰相”の役割をになっていたのであった。
ところが。
ある日のこと、そのピピンは突然、シャルルマーニュに反旗を翻して自分の城に籠もってしまった。
しかも彼は一人で謀反を企んだのでは無い、シャルルマーニュに不満を持つ貴族達と連携して彼方此方で争乱を巻き起こしたのである。
ちなみに最初。
その報告を聞いた時にはシャルルマーニュは“冗談だろう?”と言って一瞥もしなかったのだが、やがて次々と同様の報告が入るに連れて事態の深刻さを悟り、かつまた自分を裏切った親友への憎悪を煮え滾らせて遂には反乱討伐の軍旅を起こした。
燃え盛る炎のように怒り狂ってはいても、シャルルマーニュは流石に冷静だった、いきなりピピンを攻撃はせずにまずは周辺諸侯への調略と戦略的圧迫とを同時に行い、反乱軍を内部から切り崩して行き、次第に戦況を自分に有利なモノへと持って行く事に成功する。
慌てたピピンは自分の城の前でシャルルマーニュを罵倒して挑発し、1対1の決闘を申し込んだが敗れて討ち死に、その際“グリモアルド流槍戦術”も後継者がいないまま途絶えて今に至っている、と言う事であったのだ。
「この“グリモアルド流槍戦術”と言うモノの最大の特徴はな?刃の部分が三つ叉に別れている“ジャベリン”と言う特殊な槍を扱う事にあるのだと言う。・・・婿殿が見た通りにな」
「・・・・・」
「・・・・・」
「以上が我が家を始めとして、この国の貴族の家々に古くから伝わる伝承だ。この中でハッキリと“グリモアルド流槍戦術”は滅びた、と言う事になっている。それもわが“クローヴィス流剣術”に敗北したかどでな、しかし・・・」
「“グリモアルド流槍戦術”は生き延びていた、何某かの手段に拠って・・・」
“恐らくはな・・・”と蒼太の言葉にアルベールは頷いて見せるが、それにしても。
「やっぱりここに来たのは正解でしたよ。流石はお義父さんですね、もう相手の流派の目星を付ける事が出来たのですから・・・」
「いやいや。君の役に立てて嬉しいよ、婿殿。しかしどうする気かね?剣で槍を相手にするのは、些か以上に分が悪過ぎるぞ・・・?」
「・・・だけどシャルルマーニュ陛下は勝利されたのでしょう?だとしたなら決して不可能ではありません。何か方法がある筈です!!!」
「む・・・っ!!!」
そう言い放つ蒼太の顔と目には堂々とした力が込もっており、全身からは精気が迸っている。
これは少しも彼が臆していない証拠であり、要するに気持ちで負けていないと言う現れに他ならなかった。
「・・・・・」
(流石は婿殿、頼もしいわ・・・!!!)
敢えて口には出さなかったがアルベールは内心でそう感嘆を叫ばずには居られなかった。
「ただ・・・。他にも謎はまだあります、なぜ奴らは貴族だけで無く一般人まで狙っているのか。それも如何に金持ちとは言えども老若男女問わずにです、彼等の目的が読めないんですよね・・・」
「単なる承認欲求や“グリモアルド流”を復活させたいだけで動いている訳では無い、と婿殿は言うのか?」
「ええ・・・。なんて言いますか、もっと巨大な陰謀みたいなモノを感じるんですよね。今回起きている一連の暗殺事件はその一端に過ぎないのでは無いか、と僕は睨んでいるんですよ・・・」
そこまで話した時、蒼太の面持ちは少し暗いモノとなり、やや俯き加減となってしまう。
「・・・その根拠は?」
「うーん、なんて言いますか。まあ殆ど直感なんですけどね?ただそれらを敢えて言葉に直すとするならば、“グリモアルド流”と言うのは突き詰めて行けば今の帝室である“メロヴィング朝”に対する謀反気の象徴とも言える立場の流派です。そんなモノをよりにもよってこのガリア帝国の、それも皇帝陛下のお膝元であるルテティアに於いて振るい続けている、等と言うのはまるで帝室に対して挑戦状を叩き付けているのに等しい行為な訳ですから“並大抵の覚悟や動機があってやっているのでは無い”と言う事は充分に伝わって来ます」
“それに”と蒼太は続けた、“今回の暗殺事件で襲われた人々には、ある共通点と法則性がある事が解って来ました”とそう言って。
「・・・その共通点とは、一体?」
「これは本来ならばミラベルの極秘情報なんですけどね?お義父さん。実はこれらの事件ではいずれの場合もまず“貴族が襲われてから一般市民の金持ちが狙われる”と言う変遷を辿っているんです。それだけじゃありません、襲撃された貴族達は皆“帝室に対して先祖が何某かの武勲を立てている家系である”と言う事も解って来ました・・・」
「・・・武勲?」
「ええ・・・」
そこまて話した後で、蒼太は今度は顔を上げて真面目な面持ちとなり言葉を紡いだ。
「気を付けて下さい、お義父さん。これはカッシーニ家やフォンティーヌ家にも言える事なんですけれどもお義父さん達は代々、“裏貴族”としてその時その時の皇帝陛下にお仕えして来られました・・・。もしそれらが明るみに出れば相手はあなた方をも暗殺対象にするかも知れません」
「・・・・・」
「お義父さん達は普段からあまり表には出ないでいるから注目がされにくく、外からのみでは情報も集まりにくいのです。そのお陰で助かって来た、とも言えますが。しかし相手方が今まで以上に情報収集能力を向上させてくれば、話は別になります」
“取り分け”と蒼太は続ける、“お義父さんは相手方からみれば憎い事この上ないクローヴィス流の剣豪なのですから”とそう述べ立てて。
「貴方を倒して名を挙げる、等と考える輩がいないとも限りません。そうなればこのフェデラール家は必ず襲撃を受ける事になります。・・・もしそんな事になったなら!!!」
「・・・なに、その時は」
するとそれまで黙って話を聞いていたアルベールが、突如として不敵な笑みを浮かべて言い放った、“存分に相手になってくれるわ!!!”とそう告げて。
「婿殿から新しく教わっている“居合い”の技も、徐々に完成に近付いている事だしな?それに我が家は代々が、剣術に拠って鳴らした家柄だし。そう言う事には慣れている、なあ?オリヴィアよ・・・」
「はい、父上」
その声がけに、蒼太の愛妻の一人にしてアルベールの娘であるオリヴィアもまた頷いて見せた。
「我等も戦士だ、蒼太。その矜持と腕前は常に持っているつもりだ、心配は要らないよ・・・!!!」
「・・・・・」
“君にもしもの事があったなら・・・”と蒼太は言い掛けて止めた、アルベールはもとよりオリヴィアの気概気迫も実に活き活きとして充実して来ており、精神的なモノでは確かに、後れを取ることはないであろう事が窺える、しかし。
(お義父さんはともかくとして・・・。オリヴィアはここ10年間程は第一線を退いて久しい、一応鍛錬は続けているようだけれども。果たしてアイツら相手に何処まで通用するかどうか・・・)
“やっぱりこの事件”と青年は自身の思いを改める事にした、“急いで解決しなくてはいけない”と、“グズグズしてはいられないな”と。
(気になるのは襲撃された貴族達と金持ち連中の間の関連性だよな?ここをもう少し突っ込んで調べてみるか・・・)
“またノエルさんに手伝ってもらうか・・・”、“アンリにも一応、今日の事を伝えておこう”と考えて蒼太はアルベール伯爵とオリヴィアの二人に厚く礼を言い、フェデラール邸を後にした。
「その通りです、お義父さん。お義父さんならば剣術や槍術の事情に精通している、と思いまして・・・!!!」
娘婿である蒼太の言葉にアルベール伯爵は“ふむ・・・”と一時思案顔となり、立ち上がって応接室の中央部分に象られている、大窓の傍まで歩みを進めた。
聞けば3日程前の晩、蒼太は切っ先が三つ叉に別れている槍である“ジャベリン”を使う凄腕の戦士と戦い、辛くも引き分けたと言うのだ。
その話を聞いた時にアルベール伯爵は“ほぅ・・・?”と実に興味深そうな眼差しを娘婿に送るが良くも剣で槍を相手に引き分けに持ち込めたモノだと、彼は内心で感心していた、通常は剣士と言うのは槍使いに対して圧倒的に不利な立場に立たされるのである、それをー。
「流石は婿殿だな、大した腕だ・・・!!!」
「・・・いいえ、お義父さん。正直に言って僕が生き延びられたのは、幸運だったからに他なりません。一歩間違えれば奴の得物で胸を貫かれて事切れていたでしょう、それだけの相手だったのです」
そう言って岳父に説明を試みる夫の事を、傍に立っていたオリヴィアが不安そうな面持ちで見つめていた、彼がこのフェデラール邸を尋ねて来た際には正直に言って意外そうな表情を見せつつもその実、飛び上がらんばかりに喜んでいた彼女だったが事情を聞くなり蒼太の身を案じて心配になり、同時に怖くもなってしまったのだ。
「・・・しかし、そうか。槍か、槍を相手にしなければならぬとは。それも剣で」
“それにそれほどの槍使いと言うのは・・・”と暫しの熟考の後に、難しそうな、それでいて厳しそうな顔付きとなったアルベールが口を開いた。
「信じられん話だが・・・。可能性があるとすればただ一つ、“グリモアルド流槍戦術”と言う一派であると仮定して間違いあるまい・・・!!!」
「・・・・・?」
「“グリモアルド流槍戦術”・・・?」
それを聞いて怪訝そうな面持ちを浮かべるオリヴィアと蒼太であったが、特に青年は詳しい説明を義父に求めた。
「教えて下さい、お義父さん。“グリモアルド流槍戦術”とはなんなのですか?そんな流派は聞いた事がありませんが・・・」
「それはそうだろう、何しろ我等が知っている歴史の公式記録からは抹殺されてしまった流派なのだから・・・」
そう言ってアルベールは話を続けるモノの、それに拠ると。
もともと、このガリア帝国と隣国のヒスパニア王国、それにプロイセン大帝国とは“フランク王国”と言う一つの巨大な国だったのである。
建国したのは古代ローマを打ち立てたとされる“レムス”と“レムルス”の再来とまで言われた“覇王シャルルマーニュ”であったが彼には幼い頃から親友にしてライバルとでも言うべき相棒がいたのだ。
それこそが“カロリング家”と呼ばれる名門中の名門に生まれた一人息子の“カール・マルテル・ピピン”であった、彼は小さな時分から父である“グリモアルド・カロリング”が創始した対人戦や対騎兵に特化した戦槍術“グリモアルド流”を受け継いでいて、しかも相当な手練れであったと言う。
それだけではない、空気が読めて人の心の機微を感じ取る事が出来た彼は、政治家としてもズバ抜けた手腕を誇っており、実力は高くともともすれば一人で暴走しがちだったシャルルマーニュと諸侯の間に立って両者を結びつける“宰相”の役割をになっていたのであった。
ところが。
ある日のこと、そのピピンは突然、シャルルマーニュに反旗を翻して自分の城に籠もってしまった。
しかも彼は一人で謀反を企んだのでは無い、シャルルマーニュに不満を持つ貴族達と連携して彼方此方で争乱を巻き起こしたのである。
ちなみに最初。
その報告を聞いた時にはシャルルマーニュは“冗談だろう?”と言って一瞥もしなかったのだが、やがて次々と同様の報告が入るに連れて事態の深刻さを悟り、かつまた自分を裏切った親友への憎悪を煮え滾らせて遂には反乱討伐の軍旅を起こした。
燃え盛る炎のように怒り狂ってはいても、シャルルマーニュは流石に冷静だった、いきなりピピンを攻撃はせずにまずは周辺諸侯への調略と戦略的圧迫とを同時に行い、反乱軍を内部から切り崩して行き、次第に戦況を自分に有利なモノへと持って行く事に成功する。
慌てたピピンは自分の城の前でシャルルマーニュを罵倒して挑発し、1対1の決闘を申し込んだが敗れて討ち死に、その際“グリモアルド流槍戦術”も後継者がいないまま途絶えて今に至っている、と言う事であったのだ。
「この“グリモアルド流槍戦術”と言うモノの最大の特徴はな?刃の部分が三つ叉に別れている“ジャベリン”と言う特殊な槍を扱う事にあるのだと言う。・・・婿殿が見た通りにな」
「・・・・・」
「・・・・・」
「以上が我が家を始めとして、この国の貴族の家々に古くから伝わる伝承だ。この中でハッキリと“グリモアルド流槍戦術”は滅びた、と言う事になっている。それもわが“クローヴィス流剣術”に敗北したかどでな、しかし・・・」
「“グリモアルド流槍戦術”は生き延びていた、何某かの手段に拠って・・・」
“恐らくはな・・・”と蒼太の言葉にアルベールは頷いて見せるが、それにしても。
「やっぱりここに来たのは正解でしたよ。流石はお義父さんですね、もう相手の流派の目星を付ける事が出来たのですから・・・」
「いやいや。君の役に立てて嬉しいよ、婿殿。しかしどうする気かね?剣で槍を相手にするのは、些か以上に分が悪過ぎるぞ・・・?」
「・・・だけどシャルルマーニュ陛下は勝利されたのでしょう?だとしたなら決して不可能ではありません。何か方法がある筈です!!!」
「む・・・っ!!!」
そう言い放つ蒼太の顔と目には堂々とした力が込もっており、全身からは精気が迸っている。
これは少しも彼が臆していない証拠であり、要するに気持ちで負けていないと言う現れに他ならなかった。
「・・・・・」
(流石は婿殿、頼もしいわ・・・!!!)
敢えて口には出さなかったがアルベールは内心でそう感嘆を叫ばずには居られなかった。
「ただ・・・。他にも謎はまだあります、なぜ奴らは貴族だけで無く一般人まで狙っているのか。それも如何に金持ちとは言えども老若男女問わずにです、彼等の目的が読めないんですよね・・・」
「単なる承認欲求や“グリモアルド流”を復活させたいだけで動いている訳では無い、と婿殿は言うのか?」
「ええ・・・。なんて言いますか、もっと巨大な陰謀みたいなモノを感じるんですよね。今回起きている一連の暗殺事件はその一端に過ぎないのでは無いか、と僕は睨んでいるんですよ・・・」
そこまで話した時、蒼太の面持ちは少し暗いモノとなり、やや俯き加減となってしまう。
「・・・その根拠は?」
「うーん、なんて言いますか。まあ殆ど直感なんですけどね?ただそれらを敢えて言葉に直すとするならば、“グリモアルド流”と言うのは突き詰めて行けば今の帝室である“メロヴィング朝”に対する謀反気の象徴とも言える立場の流派です。そんなモノをよりにもよってこのガリア帝国の、それも皇帝陛下のお膝元であるルテティアに於いて振るい続けている、等と言うのはまるで帝室に対して挑戦状を叩き付けているのに等しい行為な訳ですから“並大抵の覚悟や動機があってやっているのでは無い”と言う事は充分に伝わって来ます」
“それに”と蒼太は続けた、“今回の暗殺事件で襲われた人々には、ある共通点と法則性がある事が解って来ました”とそう言って。
「・・・その共通点とは、一体?」
「これは本来ならばミラベルの極秘情報なんですけどね?お義父さん。実はこれらの事件ではいずれの場合もまず“貴族が襲われてから一般市民の金持ちが狙われる”と言う変遷を辿っているんです。それだけじゃありません、襲撃された貴族達は皆“帝室に対して先祖が何某かの武勲を立てている家系である”と言う事も解って来ました・・・」
「・・・武勲?」
「ええ・・・」
そこまて話した後で、蒼太は今度は顔を上げて真面目な面持ちとなり言葉を紡いだ。
「気を付けて下さい、お義父さん。これはカッシーニ家やフォンティーヌ家にも言える事なんですけれどもお義父さん達は代々、“裏貴族”としてその時その時の皇帝陛下にお仕えして来られました・・・。もしそれらが明るみに出れば相手はあなた方をも暗殺対象にするかも知れません」
「・・・・・」
「お義父さん達は普段からあまり表には出ないでいるから注目がされにくく、外からのみでは情報も集まりにくいのです。そのお陰で助かって来た、とも言えますが。しかし相手方が今まで以上に情報収集能力を向上させてくれば、話は別になります」
“取り分け”と蒼太は続ける、“お義父さんは相手方からみれば憎い事この上ないクローヴィス流の剣豪なのですから”とそう述べ立てて。
「貴方を倒して名を挙げる、等と考える輩がいないとも限りません。そうなればこのフェデラール家は必ず襲撃を受ける事になります。・・・もしそんな事になったなら!!!」
「・・・なに、その時は」
するとそれまで黙って話を聞いていたアルベールが、突如として不敵な笑みを浮かべて言い放った、“存分に相手になってくれるわ!!!”とそう告げて。
「婿殿から新しく教わっている“居合い”の技も、徐々に完成に近付いている事だしな?それに我が家は代々が、剣術に拠って鳴らした家柄だし。そう言う事には慣れている、なあ?オリヴィアよ・・・」
「はい、父上」
その声がけに、蒼太の愛妻の一人にしてアルベールの娘であるオリヴィアもまた頷いて見せた。
「我等も戦士だ、蒼太。その矜持と腕前は常に持っているつもりだ、心配は要らないよ・・・!!!」
「・・・・・」
“君にもしもの事があったなら・・・”と蒼太は言い掛けて止めた、アルベールはもとよりオリヴィアの気概気迫も実に活き活きとして充実して来ており、精神的なモノでは確かに、後れを取ることはないであろう事が窺える、しかし。
(お義父さんはともかくとして・・・。オリヴィアはここ10年間程は第一線を退いて久しい、一応鍛錬は続けているようだけれども。果たしてアイツら相手に何処まで通用するかどうか・・・)
“やっぱりこの事件”と青年は自身の思いを改める事にした、“急いで解決しなくてはいけない”と、“グズグズしてはいられないな”と。
(気になるのは襲撃された貴族達と金持ち連中の間の関連性だよな?ここをもう少し突っ込んで調べてみるか・・・)
“またノエルさんに手伝ってもらうか・・・”、“アンリにも一応、今日の事を伝えておこう”と考えて蒼太はアルベール伯爵とオリヴィアの二人に厚く礼を言い、フェデラール邸を後にした。
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