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夫婦の絆と子供への思い
蒼太はエンブレムを切れるか? 7
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「おい、酒だよ。酒!!!酒が足りてねーぞ?」
「全くだ。せっかくの料理も、ワインが無いのでは魅力も味わいも半減してしまう・・・!!!」
「・・・・・」
ミシュランガイド三ツ星を獲得した超高級リストランテ“ラ・ミュー”の三階部分にある、かなりの広さを誇るVIPルームの中心で、ガリウスは連れの二人組と豪華な食事に舌鼓を打っていた。
彼はまだ、自分に対する討伐令が内々に実兄である“ルイ・メロヴィング”から出された事を知らずにおり、これが終わったら別荘に帰って飲み直そうと考えていたのだ。
そんな折ー。
「・・・おい、一体何をやっているんだ?給仕がいなくなってるじゃねーか!!!」
「本当だ、ここのレストラン味は良いが接客は最悪だな。落第点だぞ?」
「・・・・・」
“ちっ、しょーがねーな!!!”と付き人の一人が席を立った、“ちょっくら下に言ってくるわ”、“酒を持ってくる”と言い残して。
「ガリウス様、ちょっと待ってて下さいね?」
「ああ。気を付けろよ?お前、大分フラついているからな・・・」
ガリウスの言葉に男は“解ってますって!!!”と軽く頷いて応えると、千鳥足のまま階下に降りて行った、そこでー。
「おい、給仕。酒を持ってこいよ、ソムリエだっているんだろうが!!?・・・あん?」
フロアへのドアを蹴り明けて中へと乱入した男が見たモノ、それは。
客はおろか、店員が誰一人としていなくなった、もぬけの殻と化したリストランテの姿だった、テーブルには食べかけの料理や飲みかけのワインが置かれたままとなっており、まるで人々だけが忽然と掻き消えてしまったかのような不気味さを連想させる。
「・・・・・っ。な、なんだよ?こりゃあっ。おい、誰か居ねぇのか!!?誰か!!!」
“いるなら返事くらいしろよ!!!”と男が更に喚こうとした、次の瞬間ー。
彼は何者かに後ろから口元を覆われてしまい、大声が出せなくなってしまった、そしてー。
咄嗟の事に訳も解らず藻掻き始めた途端に今度は男の首筋、頸動脈付近に冷たい刃物が宛がわれてそのまま一気にズバッと切り裂かれ、辺りには大量の血液が噴出して流れ出ていった。
付き人の男は口元を塞がれたまま“うぐぉっ!!?”と言う短い悲鳴を残してその場で絶命していったのだが、それから暫くして。
「・・・アイツ、遅いですね。ちょっと様子を見て来ます!!!」
「・・・ああ、頼む。酔っ払って階段か何かで足を踏み外して居なければ良いが」
10分程経っても何の音沙汰も無い仲間の身を案じた馭者の男が立ち上がって彼と同じように下へと降りて行った。
彼は男を見付けたなら叱り飛ばしてやろうと、意気揚々と階段を降りて階下に広がるリストランテのロビーに侵入するモノの、そこで目にしたモノ、それは。
「・・・・・っ。な、なにぃっ!!?」
物言わぬ肉塊へと変わり果てた仲間の姿だった、“大変な事が起きた”と馭者の男は思った、それと同時に。
“このままここにいてはいけない”と、彼の直感が囁いていたモノのそれに従って彼がその場から離れようと後ろを振り向いた次の瞬間ー。
“ズビリッ!!!”と言う音と同時に彼の胸の中心が銀色のレイピアで刺し貫かれていた、見ると正面にはサラサラとした長い緑色の髪の毛の、端整な顔立ちの男が立っていて、彼の手から伸びている細身の剣に拠って己が串刺しにされている事が解った。
「・・・ぐわっ!!?」
馭者の男は痛みと苦しみのあまりに、それしか声が出せ無かった、何とかしてこの事を上階にいるガリウスに伝えようと試みたのだが上手く行かず、“ぐ、うぐぅ・・・っ!!!”と言う呻き声のみを残して遂には彼もまた、息絶えていったのである。
「・・・ふぅっ!!!」
(こっちは片付いたぞ?蒼太・・・)
事が済んだ後でアンリは、人を斬り殺した事に対する苦い思いを存分に味わいながらも上へと昇っていった親友の身を案じていた、一方で。
「・・・・・」
ちょうどその頃、ガリウスは一人でワインを嗜んでいた、付き人の二人に比べて酒にも強く、また飲み方もゆっくりだった彼は殆ど酔うこともなく、その味わいを存分に楽しんでいた最中だったのだ、そんな折ー。
“コンコン”と、誰かが出入り口の扉をノックする音が聞こえて来た為に其方の方を向き直ると、直後に扉が開け放たれてそこには国家高等秘密警察“ミラベル”の正装に身を包み、鞘に収められた見事な宝剣を腰に佩いている、一人の異国の男性が立っていた。
身長は180cm前後だろうか、肌の色は浅黒く東洋人である事が窺える。
「・・・何者か」
「こんばんは、ガリウス殿下。私は“ミラベル”にてお世話になっております、“綾壁蒼太”と申します・・・」
そう挨拶をする青年の声と雰囲気とは、聞く人が聞けば恐ろしい程にまで冷たく冴え渡っており普段の優しくて暖かみのある彼のそれとはまるで違っていた。
「実はガリウス殿下にとっては、ちょっと耳の痛いお話を持って参りまして・・・」
「・・・・・」
蒼太は一礼した後に、そのまま何食わぬ顔でガリウスへと歩み寄り距離を詰めていった、そしてそれがある程度縮まった所で。
「・・・なんだ?」
「はい。実は殿下の付き人のお二人が今し方、階下で殺されているのが発見されました・・・」
「・・・・・っ!!?」
恭しく頭を垂れながら、ありのままをガリウスに伝えるモノの、その言葉を聞いた直後にガリウスは体中の血液がゾワゾワと煮え立って逆流するかのような、そんな感覚に襲われた、一瞬、目の前の東洋人の男が何を言っているのか解らなかったが漸く理解が追い付いて来た。
それと同時に。
(コイツはただモノではない・・・!!!)
その事に気が付いたガリウスは咄嗟に壁に立て掛けてあった大剣の柄に手を伸ばして掴み取ると、改めて感覚のセンサーをフル活用させてみた、すると。
それまでの空気が打って変わって一気に張り詰めたモノとなるがこれは蒼太もまた、感性を研ぎ澄まさせて周囲に張り巡らせていた為に引き起こされて来た現象である。
それは即ち、彼が今からここで何事かを為そうとしていると言う、証明に他ならなかった。
「・・・惨殺されていた、と言ってもよろしいのですが。ところで一つ、お願いがあって罷り越しました」
「・・・・・」
お辞儀をしたまま蒼太が自らも腰に差していた剣の柄に手を伸ばしつつも更に言葉を紡いて行くがこの時既にして、互いに闘志が一挙に練り上げられて行き、緊迫感が急速に高まっていった。
相手の隙を探り合い、そこに致命の一撃を加えるべく二人の意志と意志とがぶつかり合う。
「どうでしょう?私を新しい付き人に推薦しては下さいませんでしょうか・・・」
「・・・・・」
「ミラベルから支給されている御給金だけではとてもの事、やっていけませんのでね・・・!!!」
言葉が終わると同時に。
ガリウスは殆ど反射的に動いていた、彼が用いたのは“二ノ太刀要らず”と言うクローヴィス流剣術の奥義の一つで相手に向かって一歩踏み込むと同時に腰部や背筋、僧帽筋に両腕の筋肉をフルに使い、流れるような動きで上段から剣を振りかぶって敵を頭から一刀両断する大技である、それに対してー。
初動で後れを取った蒼太は生きるか死ぬかの刹那の合間に自身も軸足を一歩踏み込ませて切っ先と刃渡り部分とを充分に鞘走りさせ、全身の筋肉をバネのようにしなやかに用いて左から右へと超高速で剣を運んだ、次の瞬間。
ガッキイイィィィンッ!!!と言う衝突音が辺りに響いて火花が飛び散り、“先の先”を取った筈のガリウスの大剣が軌道を大きく逸らされる、その直後に。
蒼太は更に逆足を踏み込ませ、素早く体勢を立て直すと袈裟斬りの要領でキレイにガリウスの右肩から左脇腹にまで至るまで剣を入れ、鋼鉄の筋肉体を切り裂いて行った。
「ぐわああぁぁぁっ!!?」
ガリウスの断末魔の声がリストランテに響き渡り、切り口からは夥しい量の血液が噴出して来る。
“残心”を取りつつも一歩引いてそれを躱した蒼太は更に一太刀、ガリウスの体に浴びせて最後は心臓を刺し貫いた。
「うぐおぉぉっ!!?がふ・・・っ!!!」
(ず、ずっと思っていた。いつか誰かが私を殺しに来てくれる、と・・・っ!!!)
全身血塗れになりながら息絶えたガリウスを見て蒼太は、何とも言えない気持ちになった。
妖魔や悪鬼の類いは300体以上を撃滅し、また魔人や亜人を含めて人も20人近くを斬り捨てて来た彼であったがいつになってもこの感覚は“慣れる”と言う事が無かった。
「・・・終わったのか?」
暫く“残心”を取っていた蒼太の元へ、アンリが駆け付けて来る。
「・・・ああ、終わったよ。後は気を付けて帰るだけだな」
「ああ、そうだな・・・」
親友の言葉に頷きつつも、アンリはガリウスの遺体を見て痛々しさを覚えて押し黙る、それと同時に。
自分が何か、取り返しの付かない過ちを犯してしまったかのような気分に陥り、精神に暗い重圧がのし掛かって来た。
「蒼太、俺・・・」
「・・・気にするな、アンリ。後味が悪いのは俺も一緒だ、人にはそれぞれ“生き様”があるんだ。ガリウス殿下はそれを全うなさったのだろうよ、あの方なりにな」
「・・・ああ」
“そうだな・・・”と告げるアンリの心はしかし、何時まで経っても晴れる事は無かった。
ーーーーーーーーーーーーーー
対ガリウス戦で蒼太君が用いたのは“居合抜き”と呼ばれている日本の剣術奥義の一つです。
これは流派に拠って型ややり方が違いますが、刀を鞘走りさせる事で大体凡そ1・5倍~2・5倍速位にまで剣の速度を加速させる事が出来るそうです(それで敵を一挙に一刀両断するのだとか)。
ちなみに私に“居合抜き”を実地で一番最初に見せて下さったのは、とある陰陽師の方でした。
“なんで陰陽師が居合抜きなんてやるんだよ”と申しますと術を発動する際に時折、刀を用いる事があるからだそうでしてそう言った場面で心技体の全てを完成させ、出来うる限りに素早く呪いを発動させる為に修得されたのだそうです。
その方の居合抜きは(鎌倉時代の武士達のように)刀の刃を下に向けたまま軸足を前に出して(踏み込ませて)行う、と言うモノでしてこれ、実は非常に危険なやり方らしいのですが(一歩間違えると自分自身を切ってしまう可能性があるのだとか)反面、剣速を一気に最大にまで加速させる事が可能だと言う事でした(他の古流剣術はどうだか知りませんが、その方が見せてくれた居合抜きはそうやってやるモノでした)。
凄い迫力があって格好良かったので物語に取り入れてみました。
「全くだ。せっかくの料理も、ワインが無いのでは魅力も味わいも半減してしまう・・・!!!」
「・・・・・」
ミシュランガイド三ツ星を獲得した超高級リストランテ“ラ・ミュー”の三階部分にある、かなりの広さを誇るVIPルームの中心で、ガリウスは連れの二人組と豪華な食事に舌鼓を打っていた。
彼はまだ、自分に対する討伐令が内々に実兄である“ルイ・メロヴィング”から出された事を知らずにおり、これが終わったら別荘に帰って飲み直そうと考えていたのだ。
そんな折ー。
「・・・おい、一体何をやっているんだ?給仕がいなくなってるじゃねーか!!!」
「本当だ、ここのレストラン味は良いが接客は最悪だな。落第点だぞ?」
「・・・・・」
“ちっ、しょーがねーな!!!”と付き人の一人が席を立った、“ちょっくら下に言ってくるわ”、“酒を持ってくる”と言い残して。
「ガリウス様、ちょっと待ってて下さいね?」
「ああ。気を付けろよ?お前、大分フラついているからな・・・」
ガリウスの言葉に男は“解ってますって!!!”と軽く頷いて応えると、千鳥足のまま階下に降りて行った、そこでー。
「おい、給仕。酒を持ってこいよ、ソムリエだっているんだろうが!!?・・・あん?」
フロアへのドアを蹴り明けて中へと乱入した男が見たモノ、それは。
客はおろか、店員が誰一人としていなくなった、もぬけの殻と化したリストランテの姿だった、テーブルには食べかけの料理や飲みかけのワインが置かれたままとなっており、まるで人々だけが忽然と掻き消えてしまったかのような不気味さを連想させる。
「・・・・・っ。な、なんだよ?こりゃあっ。おい、誰か居ねぇのか!!?誰か!!!」
“いるなら返事くらいしろよ!!!”と男が更に喚こうとした、次の瞬間ー。
彼は何者かに後ろから口元を覆われてしまい、大声が出せなくなってしまった、そしてー。
咄嗟の事に訳も解らず藻掻き始めた途端に今度は男の首筋、頸動脈付近に冷たい刃物が宛がわれてそのまま一気にズバッと切り裂かれ、辺りには大量の血液が噴出して流れ出ていった。
付き人の男は口元を塞がれたまま“うぐぉっ!!?”と言う短い悲鳴を残してその場で絶命していったのだが、それから暫くして。
「・・・アイツ、遅いですね。ちょっと様子を見て来ます!!!」
「・・・ああ、頼む。酔っ払って階段か何かで足を踏み外して居なければ良いが」
10分程経っても何の音沙汰も無い仲間の身を案じた馭者の男が立ち上がって彼と同じように下へと降りて行った。
彼は男を見付けたなら叱り飛ばしてやろうと、意気揚々と階段を降りて階下に広がるリストランテのロビーに侵入するモノの、そこで目にしたモノ、それは。
「・・・・・っ。な、なにぃっ!!?」
物言わぬ肉塊へと変わり果てた仲間の姿だった、“大変な事が起きた”と馭者の男は思った、それと同時に。
“このままここにいてはいけない”と、彼の直感が囁いていたモノのそれに従って彼がその場から離れようと後ろを振り向いた次の瞬間ー。
“ズビリッ!!!”と言う音と同時に彼の胸の中心が銀色のレイピアで刺し貫かれていた、見ると正面にはサラサラとした長い緑色の髪の毛の、端整な顔立ちの男が立っていて、彼の手から伸びている細身の剣に拠って己が串刺しにされている事が解った。
「・・・ぐわっ!!?」
馭者の男は痛みと苦しみのあまりに、それしか声が出せ無かった、何とかしてこの事を上階にいるガリウスに伝えようと試みたのだが上手く行かず、“ぐ、うぐぅ・・・っ!!!”と言う呻き声のみを残して遂には彼もまた、息絶えていったのである。
「・・・ふぅっ!!!」
(こっちは片付いたぞ?蒼太・・・)
事が済んだ後でアンリは、人を斬り殺した事に対する苦い思いを存分に味わいながらも上へと昇っていった親友の身を案じていた、一方で。
「・・・・・」
ちょうどその頃、ガリウスは一人でワインを嗜んでいた、付き人の二人に比べて酒にも強く、また飲み方もゆっくりだった彼は殆ど酔うこともなく、その味わいを存分に楽しんでいた最中だったのだ、そんな折ー。
“コンコン”と、誰かが出入り口の扉をノックする音が聞こえて来た為に其方の方を向き直ると、直後に扉が開け放たれてそこには国家高等秘密警察“ミラベル”の正装に身を包み、鞘に収められた見事な宝剣を腰に佩いている、一人の異国の男性が立っていた。
身長は180cm前後だろうか、肌の色は浅黒く東洋人である事が窺える。
「・・・何者か」
「こんばんは、ガリウス殿下。私は“ミラベル”にてお世話になっております、“綾壁蒼太”と申します・・・」
そう挨拶をする青年の声と雰囲気とは、聞く人が聞けば恐ろしい程にまで冷たく冴え渡っており普段の優しくて暖かみのある彼のそれとはまるで違っていた。
「実はガリウス殿下にとっては、ちょっと耳の痛いお話を持って参りまして・・・」
「・・・・・」
蒼太は一礼した後に、そのまま何食わぬ顔でガリウスへと歩み寄り距離を詰めていった、そしてそれがある程度縮まった所で。
「・・・なんだ?」
「はい。実は殿下の付き人のお二人が今し方、階下で殺されているのが発見されました・・・」
「・・・・・っ!!?」
恭しく頭を垂れながら、ありのままをガリウスに伝えるモノの、その言葉を聞いた直後にガリウスは体中の血液がゾワゾワと煮え立って逆流するかのような、そんな感覚に襲われた、一瞬、目の前の東洋人の男が何を言っているのか解らなかったが漸く理解が追い付いて来た。
それと同時に。
(コイツはただモノではない・・・!!!)
その事に気が付いたガリウスは咄嗟に壁に立て掛けてあった大剣の柄に手を伸ばして掴み取ると、改めて感覚のセンサーをフル活用させてみた、すると。
それまでの空気が打って変わって一気に張り詰めたモノとなるがこれは蒼太もまた、感性を研ぎ澄まさせて周囲に張り巡らせていた為に引き起こされて来た現象である。
それは即ち、彼が今からここで何事かを為そうとしていると言う、証明に他ならなかった。
「・・・惨殺されていた、と言ってもよろしいのですが。ところで一つ、お願いがあって罷り越しました」
「・・・・・」
お辞儀をしたまま蒼太が自らも腰に差していた剣の柄に手を伸ばしつつも更に言葉を紡いて行くがこの時既にして、互いに闘志が一挙に練り上げられて行き、緊迫感が急速に高まっていった。
相手の隙を探り合い、そこに致命の一撃を加えるべく二人の意志と意志とがぶつかり合う。
「どうでしょう?私を新しい付き人に推薦しては下さいませんでしょうか・・・」
「・・・・・」
「ミラベルから支給されている御給金だけではとてもの事、やっていけませんのでね・・・!!!」
言葉が終わると同時に。
ガリウスは殆ど反射的に動いていた、彼が用いたのは“二ノ太刀要らず”と言うクローヴィス流剣術の奥義の一つで相手に向かって一歩踏み込むと同時に腰部や背筋、僧帽筋に両腕の筋肉をフルに使い、流れるような動きで上段から剣を振りかぶって敵を頭から一刀両断する大技である、それに対してー。
初動で後れを取った蒼太は生きるか死ぬかの刹那の合間に自身も軸足を一歩踏み込ませて切っ先と刃渡り部分とを充分に鞘走りさせ、全身の筋肉をバネのようにしなやかに用いて左から右へと超高速で剣を運んだ、次の瞬間。
ガッキイイィィィンッ!!!と言う衝突音が辺りに響いて火花が飛び散り、“先の先”を取った筈のガリウスの大剣が軌道を大きく逸らされる、その直後に。
蒼太は更に逆足を踏み込ませ、素早く体勢を立て直すと袈裟斬りの要領でキレイにガリウスの右肩から左脇腹にまで至るまで剣を入れ、鋼鉄の筋肉体を切り裂いて行った。
「ぐわああぁぁぁっ!!?」
ガリウスの断末魔の声がリストランテに響き渡り、切り口からは夥しい量の血液が噴出して来る。
“残心”を取りつつも一歩引いてそれを躱した蒼太は更に一太刀、ガリウスの体に浴びせて最後は心臓を刺し貫いた。
「うぐおぉぉっ!!?がふ・・・っ!!!」
(ず、ずっと思っていた。いつか誰かが私を殺しに来てくれる、と・・・っ!!!)
全身血塗れになりながら息絶えたガリウスを見て蒼太は、何とも言えない気持ちになった。
妖魔や悪鬼の類いは300体以上を撃滅し、また魔人や亜人を含めて人も20人近くを斬り捨てて来た彼であったがいつになってもこの感覚は“慣れる”と言う事が無かった。
「・・・終わったのか?」
暫く“残心”を取っていた蒼太の元へ、アンリが駆け付けて来る。
「・・・ああ、終わったよ。後は気を付けて帰るだけだな」
「ああ、そうだな・・・」
親友の言葉に頷きつつも、アンリはガリウスの遺体を見て痛々しさを覚えて押し黙る、それと同時に。
自分が何か、取り返しの付かない過ちを犯してしまったかのような気分に陥り、精神に暗い重圧がのし掛かって来た。
「蒼太、俺・・・」
「・・・気にするな、アンリ。後味が悪いのは俺も一緒だ、人にはそれぞれ“生き様”があるんだ。ガリウス殿下はそれを全うなさったのだろうよ、あの方なりにな」
「・・・ああ」
“そうだな・・・”と告げるアンリの心はしかし、何時まで経っても晴れる事は無かった。
ーーーーーーーーーーーーーー
対ガリウス戦で蒼太君が用いたのは“居合抜き”と呼ばれている日本の剣術奥義の一つです。
これは流派に拠って型ややり方が違いますが、刀を鞘走りさせる事で大体凡そ1・5倍~2・5倍速位にまで剣の速度を加速させる事が出来るそうです(それで敵を一挙に一刀両断するのだとか)。
ちなみに私に“居合抜き”を実地で一番最初に見せて下さったのは、とある陰陽師の方でした。
“なんで陰陽師が居合抜きなんてやるんだよ”と申しますと術を発動する際に時折、刀を用いる事があるからだそうでしてそう言った場面で心技体の全てを完成させ、出来うる限りに素早く呪いを発動させる為に修得されたのだそうです。
その方の居合抜きは(鎌倉時代の武士達のように)刀の刃を下に向けたまま軸足を前に出して(踏み込ませて)行う、と言うモノでしてこれ、実は非常に危険なやり方らしいのですが(一歩間違えると自分自身を切ってしまう可能性があるのだとか)反面、剣速を一気に最大にまで加速させる事が可能だと言う事でした(他の古流剣術はどうだか知りませんが、その方が見せてくれた居合抜きはそうやってやるモノでした)。
凄い迫力があって格好良かったので物語に取り入れてみました。
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