星降る国の恋と愛

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夫婦の絆と子供への思い

蒼太はエンブレムを切れるか? 6

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「そうか・・・」

「ガリウス殿下を・・・!!!」

 自らの書斎で蒼太から事の次第を聞いたダーヴィデとベアトリーチェは落ち着いた態度でそれだけを口にした。

「・・・正直に言って。ガリウス殿下の噂は、かねがね聞き及んでいた。貴族や一般人の婦女子を見境なく襲って手籠めにしている、と。それだけではない、有力な企業や商家からは金を無心する事までやっていたようだな?」

「その通りです、お義父さん・・・」

 蒼太は覚悟を決めた表情でそう告げるが傍で話を聞いていたメリアリアは漸く夫が、ともすれば悲痛な壮絶さを纏っていた合点がいった、彼は今夜、このガリア帝国第二皇子である“ガリウス・ジョナタン・ド・メロヴィング”を抹殺しようとしていたのである。

「あなた・・・」

「・・・・・」

「どうしてもやらなきゃならないの?」

「・・・・・」

 愛妻淑女のその言葉に、蒼太は“そうだ・・・”とだけ返事を返した、蒼太はやらなければならなかった、勿論、皇太子であるルイから直々の、討伐令を与えられた事もあったがそれだけでは無い。

「・・・もし。奴らをこのままのさばらせておけば、必ず君や子供達に魔の手を伸ばして来るだろう。それが早いか遅いかの違いなだけで、奴らは必ずやって来る。アイツらはそう言う奴らなんだ!!!」

「・・・・・」

 思い詰めたように言い放たれる夫の言葉に、メリアリアは何も言えなくなってしまった、ガリウスの事は噂程度ではあったモノの彼女の耳にも入っていたし、もし次は我が身かと考えるとおぞましくて怖くて寝られたモノでは無かったのだ。

 しかし。

「ガリウス殿下って、強いんでしょう?前にセイレーンのデータベースにアクセスした時に女王位の皆で見たわ?単に巨体なだけじゃなくて、剣の腕前はかなりのモノを誇ってるって・・・」

 愛妻淑女のその言葉に蒼太は“ああ・・・”と短く頷いて応えた。

「“クローヴィス流”と言う、古流剣術の使い手らしいね?それも宮廷内で行われた試合や全国大会では負け知らずの強さだったとか・・・」

「・・・そ、それって」

 メリアリアが思わず叫んだ、“相当な実力の持ち主だって事じゃないの!!!”とそう言って。

「いやよ、いやぁっ!!!絶対に行っちゃダメよ?あなた。本当に勝てるの?本当に無事に帰って来てくれる?」

「・・・・・」

「・・・ガリウス殿下に対する追討令は既に、私達の元にも届いている。恐らくはエリオット伯爵やアルベール伯爵の元にも届いている事だろう」

 自分に縋り付くようにして絶叫する花嫁に対して思わず押し黙ってしまう青年だったが、そんな彼に今度はダーヴィデが声を掛けた。

「・・・・・」

「どうしても、やらなくてはならないのだね?蒼太・・・」

「・・・はい、お義父さん。妻や子供達の、もっと言ってしまえばメリーの命運が掛かっているのです。これを受けなければ男じゃないです!!!」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解ったよ”と暫しの沈黙の後にダーヴィデは頷いたが、直後に続けて“せめて君のことを見守る事にする”と言い放ち、大きな水晶玉を取り出した、カッシーニ家に伝わる“投影伝達魔法”を使おうと言うのだ。

 これはどんなに遠く離れていても、自分が直接的に会った事がある人間の現状を確認して垣間見る事が出来る術式であった、精神を集中させて意識を飛ばし、対象となる存在の波動をキャッチする、そうしておいてー。

 それを水晶玉のような媒体に映し出させたその後に、更に真っ白で平坦な壁や壁紙等に投影して映画のように見る事が出来る魔法であったが、ダーヴィデやベアトリーチェはこれを用いて蒼太の状況を確認したい、と言い出したのである。

「構わないだろう?婿殿・・・」

「せめて見守るぐらいはさせておくれ・・・?」

「・・・・・」

 するとそれを聞いて何事かを言おうとしていた青年に対して、“待って!!!”と叫んで掴み掛かって来た存在がいた、他ならぬ彼の最愛の妻、メリアリアであるモノのそれまで黙って話を聞いていた彼女はいても立ってもいられなくなって夫に“私も一緒に見たい!!!”と申し立てて来たのだ。

「・・・あのね、メリー。君は見ないでいてくれた方が」

「いやよ、そんなの!!!」

 蒼太の言葉にメリアリアが鋭く反応する。

「夫が、あなたが私の為に戦いに行ってくれているのに。私だけ何も知らずに、何も言わずに黙って寝てろって言うの?冗談じゃ無いわ?そんなの!!!」

「・・・・・。メリー」

「私も、一緒に戦うわ?傍に居ることは出来なくとも、せめてあなたの事を見守っているわ。それ位は良いでしょう?」

 “本当は一緒に行きたいけれど・・・”とメリアリアは縋るような視線を向けて、尚も続けた、“それは絶対に、許してはくれないんでしょう?”とそう言って。

「・・・ああ」

「だったら・・・っ。せめて思いだけでも、心だけでも傍に居させてよ!!!私、あなたの妻なんだよ?なんにも出来ないなんて、そんなの・・・っ!!!!!」

 “辛すぎて、耐えられない・・・!!!”と再びそう叫んで彼女は蒼太にしがみ付いた、その瞳には必死さと共に、熱い涙が浮かんで来ており彼女の真心が伺える。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “解ったよ”と愛する妻の心からの訴えに、蒼太は遂に折れてしまった、本当ならば自分のそう言った姿は極力、彼女や子供達には見せたくなかったがこうなった以上は仕方が無い。

「でも、あの。だけど・・・!!!お願いだから、ちゃんと無事に帰って来てね?」

「・・・ああ!!!」

 “勿論だよ!!!”と花嫁からの懇願に応じると蒼太はクルリと踵を返してその場を後にした。

 向かう先は決まっている、ルテティア中心部第3環状区画の東側にある、ミシュランガイド三ツ星を獲得した超高級リストランテ“ラ・ミュー”の三階、VIPルームであるモノの、一方で。

 そんな彼を見送った後で“投影伝達魔法”の準備を終えたダーヴィデはこの事をエリオットとアルベールにも伝えた、すると。

 本人達も心配したようで“すぐさまカッシーニ邸に行く”との返事がもたらされたがその際、彼の二番目と三番目の花嫁であるアウロラとオリヴィアも“どうしても付いて行きたい”と言い出して聞かなくなってしまった為に急遽同道させる事とした、二人ともメリアリアと同じ気持ちだったのである。
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