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夫婦の絆と子供への思い
蒼太はエンブレムを切れるか? 5
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ガリウス・ジョナタン・ド・メロヴィング。
皇太子たるルイ・セドリック・ド・メロヴィングの双子の弟として生まれ落ちた彼は、幼い頃より何不自由なく育てられた挙げ句に“それなりの将来”を約束されていた。
「お前は弟なのだから、しっかりとルイを支えておくれよ?」
「頼みましたよ?ガリウス。お前はやれば出来る子なのだから・・・」
「はい、父上。母上・・・!!!」
両親の言葉にそう応えながらも、内心ではガリウスは別の事を考えていた、“冗談じゃない”、“どうして俺がルイの臣下とならなければならないんだ”と。
生まれた時からルイと一緒に育てられた彼は親から受ける愛情も待遇も何もかもがルイと同格であり、本人もそれを自負していた。
特に小さな頃のルイは泣き虫な所があり、また学問や剣術をやらせてみても中々に物覚えが悪かったのに対してガリウスは割かし力も強くてしっかりとしていたから、周囲から“そう言う眼差し”で見られる事も多かったのだ、即ち。
“将来はこの方が皇帝陛下となられるかも知れない”と。
しかし。
ガリウスはともすれば、イケイケで横暴な箇所があり、度々両親の手を焼かせていた、殊に十四歳になった折、宮廷で働くメイド相手に脅迫と強姦同然の行為を働いて初めてを済ませた事を知らされた時には流石のフィリップ・メロヴィングも激怒して彼を三ヶ月間の謹慎処分に処した程だったが、しかしそれでもガリウスの気質が改まる事は無かったのだ。
対して。
ルイは最初こそ出来が悪かったが“いつか皆を見返してやるんだ!!!”と言う密かなガッツと、そしてそれに本気で取り組めるだけの根性を持っていた、(それでも苦手な科目もあるにはあったが)いつしか彼は学業全般に精通するようになり、また剣術の力量もかなりの腕前を誇るまでになっていったのである。
それに何よりー。
元が不出来な少年だったルイは人の弱さや痛みもキチンと弁えており、空気を察する事が出来た、その結果厳しさ以上の優しさを兼ね備えている青年へと成長していったのだが、これに目を付けたフィリップ・メロヴィング七世は彼を正式に皇太子にするべく、反対派を説得(時には恫喝)しながら“立太子の儀”を執り行う運びとなったのだった。
ところが。
「ちくしょうっ!!!」
それに驚いたのがガリウスだった、彼はこの期に及んでも尚、“自分こそが次期皇帝になれる”、“きっとなってやるんだ!!!”と言う野心を抱いており、それを諦めきれなかったのだ。
(なんでルイが皇太子なんかに・・・!!!)
“あれは俺がなる筈のモノだったのに!!!”と事ある毎に喚き散らしては両親達から度々の注意を受けた。
「ルイを叩きのめして俺の力を見せつけてやる!!!」
“そうすれば父上も母上も、考えを改める筈だ”とガリウスはそう意気込んでいたのだがこの時、既に先天性の“ミオスタチン欠乏症”を発症していた彼の全身は筋肉で膨れ上がっており、骨格もそれに負けないようにと良く育っていた事からその身長は兄であるルイよりも15cm程も高かった、かてて加えて。
各神経系節も余すこと無く体中に張り巡らされていた彼は力も強かった上に動きも機敏で反射も鋭くそれ故に、こと宮廷内に於ける剣術の勝負では師範役の貴族も含めて忖度無しで右に出る者がいない程の実力を有していたのである。
それだけではない、全国からの腕自慢を集めて行われる剣術大会に於いても彼は負け無しの成績を収めていたのだが、しかし。
「ダメだ!!!」
「そうですよ?ガリウス。そんな事をする必要はありません・・・!!!」
両親は今更、ルイとガリウスを争わせるつもりは毛頭無く、また自分達の考えを翻意するつもりもサラサラ無かった、ルイはそれなりの強さと高い冷静さ、そして何より暖かみのある優しさを兼ね備えていて、後は有能かつ忠義者の臣下に恵まれさえすればこのガリア帝国を、恙無く治めて行ける筈である、問題は全く無かった。
だから。
「ガリウスよ、そなたは忠臣として兄を支えるのだ。皆の見本となるようにな?」
「良いですか?ガリウス。もうあなたはただの弟から臣下と言う立場も付与されたのですから、自分の行動に自覚と責任を持ちなさい?」
“もう一度、考え直してくれ!!!”と言うガリウスに対してフィリップ達は一考も与えなかった、ガリウスは確かに強いが、ただそれだけの男である、それに自分の行動に責任を持つことをせずに、いざ叱られる場面になるとあれこれと言い訳をする始末であったから、今のままでは間違っても皇帝に据えてはいけないと、フィリップもアナ=マリアも親ながらにそう思っていたのだった。
「・・・・・」
それだけではない、ガリウスは確かに強かったがそれは、いつ倒れるか解らない危険性と隣合わせのモノだった、肥大化した筋肉体の隅々にまで絶えず血液を送らなければならなかった心臓には常時莫大な負担が掛かっており、それを恙無く維持させる為にガリウスには“己の寿命の半分を生命力に変えて肉体に付与する秘術”が掛けられていたのだ。
「ちくしょう!!!」
自分の主張を認められなかった悔しさと将来に対する絶望から、ガリウスは次第に酒に溺れるようになった、取り巻きもその大半が去って行き、残ってくれたのは従者と馭者の二人だけだった。
それでも最初の内は、まだ良かった、酒に溺れている内はガリウスはそれ以上の問題行動は起こさずにおり、宮廷内にある自室に籠もって毎日を酒浸りで過ごしていたから、誰にも迷惑は掛からなかったのだ。
「何故だ?」
ガリウスは人知れずに叫んでいた、“何故俺より弱い男の下に付かなければならないんだ!!?”とそう言って。
「例えばルイが俺より強くて頭も回るのならば、俺は喜んで奴の下に付いただろう。だがしかし、現実を見ろ。奴は結局、剣の勝負でも学問でも一度たりとも俺には勝てなかったじゃないか。それなのに、どうして・・・!!!」
ガリウスは己の真の力と言うのは技量や力量の事だと勘違いしていた、確かにそれも実力の一部には違いないが、間違っても全てでは無かった、本当の意味での実力とは“運”そのものの事であり、そしてそれらは自分の人格や霊格を高める事で無限に強化されて行くのだ。
何故ならば人格や霊格を高めた人間と言うモノはそれだけの強大なる波動領域を持つと同時に、やがて必ずガッツと根性とに目覚めて行ってそれらを体得するモノだからであり、そしてそれ故に自然と各能力も磨かれて増大して行く。
そう言う存在と言うのは得てして更に色々な物事に挑戦するようになるからチャレンジ精神が旺盛になり、結果として自らの魂をますます輝かせて行く事になるのである、そうするとー。
その人物と言うモノは、周囲から見た場合は堪らなく眩しく映るようになり、非常に魅力的で人々を一層、惹き付けるようになって行くのだが、ルイはスタートダッシュこそ決められなかったモノのこの“進化の王道”を見失う事無く歩む事が出来た為に、自らの目標を達成する事が出来たのみならず、次期皇帝に抜擢されるまでに至ったのであった。
一方で。
「何故なんだ・・・」
“俺の何がいけなかったんだ!!!”と何時まで経ってもその事に気付けなかったガリウスは飲んだくれながら考えていた、彼は自分の歩んできた道や自分自身と真正面からぶつかり合う、そして省みて反省する、と言う事を一切やってこなかった。
常に何か騒ぎを起こした場合も周囲の、誰かのせいにして己に罪が及ぶのをはぐらかして来たのだが、その為、言い訳をする事だけは得意になったが“精神的な成長”と言うモノが全く無かった、持って生まれた魅力も運も全く輝かずに不貞腐れるだけ不貞腐れていたのだ。
挙げ句の果てには。
「・・・母上が悪いんだ」
“俺を最初に産んでくれれば、こんな事にはならなかったのに・・・!!!”とそんな事まで言い始めるが、彼は彼なりに、この時心底絶望していたのである、自分が一番だ、と思っている彼はその自分を皇帝の座から弾き飛ばしたこの世の摂理、無情さをこの上なく憎んだのだ。
そうして、遂には。
「・・・死んでやる」
そう思い立つに至ったのだがしかし、ただで死ぬのはバカバカしいとも思った、特に自分は中々に強い剣士であるとの自負を持っていた彼は、誰でも良いから自分を殺しに来てくれるだけの気概を持った者と斬り結び、死闘を演じてやろうじゃないか、と言うのを密かな願いとして己の中に秘める事にした。
そうして、彼は。
宮廷を抜け出すと街へと繰り出して行き、そのまま凶行へと突き進んで行く事となったのである、・・・いつか誰かが自分を殺しに来てくれるだろう、と言う“破れかぶれな希望”だけを胸にして。
ただし。
彼は誰でも良いから自分を討ってくれ、等という投げやりな思想は持っていなかった、自分を殺しに来てくれるだけの気概と、本当にその実力を持った人間に殺されるつもりだったから、それを見極める意味もあって立ちはだかる者に対して手加減を加える気持ちは、当たり前だが全く無かった。
「・・・ふん!!!」
(来れるモノなら来てみろ、返り討ちにしてやる。俺は黙って殺されるような、無様な真似は絶対にせんぞ?)
そんな思惑を交えつつも、ガリウスが辛口の赤ワインの入った高級グラスを口へと運んでいる時。
「ただいま、メリー・・・!!!」
「お帰りなさい!!!」
アンリと一旦、別れてカッシーニ邸へと帰還を果たした蒼太はまずはいの一番に、最愛の花嫁である“メリアリア・サーラ・デ・カッシーニ”へと挨拶をする。
「あなたぁっ。あなたあなたあなたあなたあなたっ、あなたああぁぁぁっ❤❤❤❤❤」
「ああっ!!?お母さん狡いや!!!」
「私達だって、お父さんに挨拶したいですっ!!!」
「アツアツだねぇ。ヒュー、ヒュー・・・ッ!!!」
アランとリア、アシルとレナ、そしてレオとローズが口々に言葉を掛け合いながら、我先にと父親と、彼に抱き着いている母親の元へと駆け寄って来る。
そんな中で。
「お父さん・・・!!!」
「あはは・・・。雷太、またちょっと大きくなったね?この前よりも重くなってる・・・!!!」
他の兄弟姉妹達に比べてたどたどしい足つきでやって来た末っ子の雷太を抱き上げてあやす蒼太であったが、ここのところ、子供達の精神状態は安定しており皆スクスクと育っていた。
「あなた。御飯にする?お風呂かしら?それとも・・・」
「それとも、を是非ともお願いしたいんだけどね?メリー。実はちょっと大変な事になってるんだ、お義父さんは居るかい・・・?」
「ええっ?う、うん。三階にある、自分の書斎にいる筈だけど・・・」
「書斎、か・・・。解った」
“君達はここにいるんだ”、“皆はもうすぐ寝るんだよ?”等と花嫁や子供達に声を掛けつつ、蒼太が書斎に伺おうとした、その時だ。
「どうして・・・?私も一緒に行きます!!!」
「ええっ!!?な、何言ってるのさ。メリー・・・」
愛妻淑女からのその返答に、流石の蒼太も面食らってしまった。
「君はお母さんなんだから、子供達を寝かし付けてくれないと・・・!!!」
「ねえあなた」
するとそんな蒼太の言葉にメリアリアが応じた。
「私はこの子達の母親である前に、あなたの妻だわ?妻として夫の事は、ちゃんと知っていなければならないわ!!?」
「・・・・・っ。それは!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解ったよ”と暫しの沈黙の後に、蒼太が口を開いた、メリーには勝てないな、と思った彼は頷くと改めて子供達に“もう少ししたら寝なさい”と声を掛けてからメリアリアを連れたって三階にあるダーヴィデの書斎へと歩を進めて行った。
「・・・正直に言って。あんまり君には、関わらせたくは無かった」
「・・・・・」
そう述べ立てる夫の言葉に、しかしメリアリアは蒼太が何をしようとしているのか、と言う事に付いて既に薄々感付いていた、上手く誤魔化しているつもりであってももう付き合いの長い彼の、何処か影のある、それでいて何かを思い詰めたような面持ちを見た瞬間に、彼女は察したのである。
・・・夫がただならぬ事をしようとしているのだ、と言う事を。
皇太子たるルイ・セドリック・ド・メロヴィングの双子の弟として生まれ落ちた彼は、幼い頃より何不自由なく育てられた挙げ句に“それなりの将来”を約束されていた。
「お前は弟なのだから、しっかりとルイを支えておくれよ?」
「頼みましたよ?ガリウス。お前はやれば出来る子なのだから・・・」
「はい、父上。母上・・・!!!」
両親の言葉にそう応えながらも、内心ではガリウスは別の事を考えていた、“冗談じゃない”、“どうして俺がルイの臣下とならなければならないんだ”と。
生まれた時からルイと一緒に育てられた彼は親から受ける愛情も待遇も何もかもがルイと同格であり、本人もそれを自負していた。
特に小さな頃のルイは泣き虫な所があり、また学問や剣術をやらせてみても中々に物覚えが悪かったのに対してガリウスは割かし力も強くてしっかりとしていたから、周囲から“そう言う眼差し”で見られる事も多かったのだ、即ち。
“将来はこの方が皇帝陛下となられるかも知れない”と。
しかし。
ガリウスはともすれば、イケイケで横暴な箇所があり、度々両親の手を焼かせていた、殊に十四歳になった折、宮廷で働くメイド相手に脅迫と強姦同然の行為を働いて初めてを済ませた事を知らされた時には流石のフィリップ・メロヴィングも激怒して彼を三ヶ月間の謹慎処分に処した程だったが、しかしそれでもガリウスの気質が改まる事は無かったのだ。
対して。
ルイは最初こそ出来が悪かったが“いつか皆を見返してやるんだ!!!”と言う密かなガッツと、そしてそれに本気で取り組めるだけの根性を持っていた、(それでも苦手な科目もあるにはあったが)いつしか彼は学業全般に精通するようになり、また剣術の力量もかなりの腕前を誇るまでになっていったのである。
それに何よりー。
元が不出来な少年だったルイは人の弱さや痛みもキチンと弁えており、空気を察する事が出来た、その結果厳しさ以上の優しさを兼ね備えている青年へと成長していったのだが、これに目を付けたフィリップ・メロヴィング七世は彼を正式に皇太子にするべく、反対派を説得(時には恫喝)しながら“立太子の儀”を執り行う運びとなったのだった。
ところが。
「ちくしょうっ!!!」
それに驚いたのがガリウスだった、彼はこの期に及んでも尚、“自分こそが次期皇帝になれる”、“きっとなってやるんだ!!!”と言う野心を抱いており、それを諦めきれなかったのだ。
(なんでルイが皇太子なんかに・・・!!!)
“あれは俺がなる筈のモノだったのに!!!”と事ある毎に喚き散らしては両親達から度々の注意を受けた。
「ルイを叩きのめして俺の力を見せつけてやる!!!」
“そうすれば父上も母上も、考えを改める筈だ”とガリウスはそう意気込んでいたのだがこの時、既に先天性の“ミオスタチン欠乏症”を発症していた彼の全身は筋肉で膨れ上がっており、骨格もそれに負けないようにと良く育っていた事からその身長は兄であるルイよりも15cm程も高かった、かてて加えて。
各神経系節も余すこと無く体中に張り巡らされていた彼は力も強かった上に動きも機敏で反射も鋭くそれ故に、こと宮廷内に於ける剣術の勝負では師範役の貴族も含めて忖度無しで右に出る者がいない程の実力を有していたのである。
それだけではない、全国からの腕自慢を集めて行われる剣術大会に於いても彼は負け無しの成績を収めていたのだが、しかし。
「ダメだ!!!」
「そうですよ?ガリウス。そんな事をする必要はありません・・・!!!」
両親は今更、ルイとガリウスを争わせるつもりは毛頭無く、また自分達の考えを翻意するつもりもサラサラ無かった、ルイはそれなりの強さと高い冷静さ、そして何より暖かみのある優しさを兼ね備えていて、後は有能かつ忠義者の臣下に恵まれさえすればこのガリア帝国を、恙無く治めて行ける筈である、問題は全く無かった。
だから。
「ガリウスよ、そなたは忠臣として兄を支えるのだ。皆の見本となるようにな?」
「良いですか?ガリウス。もうあなたはただの弟から臣下と言う立場も付与されたのですから、自分の行動に自覚と責任を持ちなさい?」
“もう一度、考え直してくれ!!!”と言うガリウスに対してフィリップ達は一考も与えなかった、ガリウスは確かに強いが、ただそれだけの男である、それに自分の行動に責任を持つことをせずに、いざ叱られる場面になるとあれこれと言い訳をする始末であったから、今のままでは間違っても皇帝に据えてはいけないと、フィリップもアナ=マリアも親ながらにそう思っていたのだった。
「・・・・・」
それだけではない、ガリウスは確かに強かったがそれは、いつ倒れるか解らない危険性と隣合わせのモノだった、肥大化した筋肉体の隅々にまで絶えず血液を送らなければならなかった心臓には常時莫大な負担が掛かっており、それを恙無く維持させる為にガリウスには“己の寿命の半分を生命力に変えて肉体に付与する秘術”が掛けられていたのだ。
「ちくしょう!!!」
自分の主張を認められなかった悔しさと将来に対する絶望から、ガリウスは次第に酒に溺れるようになった、取り巻きもその大半が去って行き、残ってくれたのは従者と馭者の二人だけだった。
それでも最初の内は、まだ良かった、酒に溺れている内はガリウスはそれ以上の問題行動は起こさずにおり、宮廷内にある自室に籠もって毎日を酒浸りで過ごしていたから、誰にも迷惑は掛からなかったのだ。
「何故だ?」
ガリウスは人知れずに叫んでいた、“何故俺より弱い男の下に付かなければならないんだ!!?”とそう言って。
「例えばルイが俺より強くて頭も回るのならば、俺は喜んで奴の下に付いただろう。だがしかし、現実を見ろ。奴は結局、剣の勝負でも学問でも一度たりとも俺には勝てなかったじゃないか。それなのに、どうして・・・!!!」
ガリウスは己の真の力と言うのは技量や力量の事だと勘違いしていた、確かにそれも実力の一部には違いないが、間違っても全てでは無かった、本当の意味での実力とは“運”そのものの事であり、そしてそれらは自分の人格や霊格を高める事で無限に強化されて行くのだ。
何故ならば人格や霊格を高めた人間と言うモノはそれだけの強大なる波動領域を持つと同時に、やがて必ずガッツと根性とに目覚めて行ってそれらを体得するモノだからであり、そしてそれ故に自然と各能力も磨かれて増大して行く。
そう言う存在と言うのは得てして更に色々な物事に挑戦するようになるからチャレンジ精神が旺盛になり、結果として自らの魂をますます輝かせて行く事になるのである、そうするとー。
その人物と言うモノは、周囲から見た場合は堪らなく眩しく映るようになり、非常に魅力的で人々を一層、惹き付けるようになって行くのだが、ルイはスタートダッシュこそ決められなかったモノのこの“進化の王道”を見失う事無く歩む事が出来た為に、自らの目標を達成する事が出来たのみならず、次期皇帝に抜擢されるまでに至ったのであった。
一方で。
「何故なんだ・・・」
“俺の何がいけなかったんだ!!!”と何時まで経ってもその事に気付けなかったガリウスは飲んだくれながら考えていた、彼は自分の歩んできた道や自分自身と真正面からぶつかり合う、そして省みて反省する、と言う事を一切やってこなかった。
常に何か騒ぎを起こした場合も周囲の、誰かのせいにして己に罪が及ぶのをはぐらかして来たのだが、その為、言い訳をする事だけは得意になったが“精神的な成長”と言うモノが全く無かった、持って生まれた魅力も運も全く輝かずに不貞腐れるだけ不貞腐れていたのだ。
挙げ句の果てには。
「・・・母上が悪いんだ」
“俺を最初に産んでくれれば、こんな事にはならなかったのに・・・!!!”とそんな事まで言い始めるが、彼は彼なりに、この時心底絶望していたのである、自分が一番だ、と思っている彼はその自分を皇帝の座から弾き飛ばしたこの世の摂理、無情さをこの上なく憎んだのだ。
そうして、遂には。
「・・・死んでやる」
そう思い立つに至ったのだがしかし、ただで死ぬのはバカバカしいとも思った、特に自分は中々に強い剣士であるとの自負を持っていた彼は、誰でも良いから自分を殺しに来てくれるだけの気概を持った者と斬り結び、死闘を演じてやろうじゃないか、と言うのを密かな願いとして己の中に秘める事にした。
そうして、彼は。
宮廷を抜け出すと街へと繰り出して行き、そのまま凶行へと突き進んで行く事となったのである、・・・いつか誰かが自分を殺しに来てくれるだろう、と言う“破れかぶれな希望”だけを胸にして。
ただし。
彼は誰でも良いから自分を討ってくれ、等という投げやりな思想は持っていなかった、自分を殺しに来てくれるだけの気概と、本当にその実力を持った人間に殺されるつもりだったから、それを見極める意味もあって立ちはだかる者に対して手加減を加える気持ちは、当たり前だが全く無かった。
「・・・ふん!!!」
(来れるモノなら来てみろ、返り討ちにしてやる。俺は黙って殺されるような、無様な真似は絶対にせんぞ?)
そんな思惑を交えつつも、ガリウスが辛口の赤ワインの入った高級グラスを口へと運んでいる時。
「ただいま、メリー・・・!!!」
「お帰りなさい!!!」
アンリと一旦、別れてカッシーニ邸へと帰還を果たした蒼太はまずはいの一番に、最愛の花嫁である“メリアリア・サーラ・デ・カッシーニ”へと挨拶をする。
「あなたぁっ。あなたあなたあなたあなたあなたっ、あなたああぁぁぁっ❤❤❤❤❤」
「ああっ!!?お母さん狡いや!!!」
「私達だって、お父さんに挨拶したいですっ!!!」
「アツアツだねぇ。ヒュー、ヒュー・・・ッ!!!」
アランとリア、アシルとレナ、そしてレオとローズが口々に言葉を掛け合いながら、我先にと父親と、彼に抱き着いている母親の元へと駆け寄って来る。
そんな中で。
「お父さん・・・!!!」
「あはは・・・。雷太、またちょっと大きくなったね?この前よりも重くなってる・・・!!!」
他の兄弟姉妹達に比べてたどたどしい足つきでやって来た末っ子の雷太を抱き上げてあやす蒼太であったが、ここのところ、子供達の精神状態は安定しており皆スクスクと育っていた。
「あなた。御飯にする?お風呂かしら?それとも・・・」
「それとも、を是非ともお願いしたいんだけどね?メリー。実はちょっと大変な事になってるんだ、お義父さんは居るかい・・・?」
「ええっ?う、うん。三階にある、自分の書斎にいる筈だけど・・・」
「書斎、か・・・。解った」
“君達はここにいるんだ”、“皆はもうすぐ寝るんだよ?”等と花嫁や子供達に声を掛けつつ、蒼太が書斎に伺おうとした、その時だ。
「どうして・・・?私も一緒に行きます!!!」
「ええっ!!?な、何言ってるのさ。メリー・・・」
愛妻淑女からのその返答に、流石の蒼太も面食らってしまった。
「君はお母さんなんだから、子供達を寝かし付けてくれないと・・・!!!」
「ねえあなた」
するとそんな蒼太の言葉にメリアリアが応じた。
「私はこの子達の母親である前に、あなたの妻だわ?妻として夫の事は、ちゃんと知っていなければならないわ!!?」
「・・・・・っ。それは!!!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
“解ったよ”と暫しの沈黙の後に、蒼太が口を開いた、メリーには勝てないな、と思った彼は頷くと改めて子供達に“もう少ししたら寝なさい”と声を掛けてからメリアリアを連れたって三階にあるダーヴィデの書斎へと歩を進めて行った。
「・・・正直に言って。あんまり君には、関わらせたくは無かった」
「・・・・・」
そう述べ立てる夫の言葉に、しかしメリアリアは蒼太が何をしようとしているのか、と言う事に付いて既に薄々感付いていた、上手く誤魔化しているつもりであってももう付き合いの長い彼の、何処か影のある、それでいて何かを思い詰めたような面持ちを見た瞬間に、彼女は察したのである。
・・・夫がただならぬ事をしようとしているのだ、と言う事を。
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