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夫婦の絆と子供への思い
蒼太はエンブレムを切れるか? 1
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これからは暫くの間、“ちょっとだけ影のあるお話”が続きます。
これは昭和のドラマや時代劇、アニメの持っていたシリアスな雰囲気と言いますか、ともすればダークな世界観を一つまみだけ投入して物語を再構築した為です(“夢と希望のある純愛物語”を根幹に据えたまま、それらを“スパイス”として付加してみました)。
何故こんな事をしたのか、と言いますとストーリーに緊張感を出したかったのです(本当はあんまりこう言う事は得意では無い、と言いますか、したくはなかったのですが)。
ただ甘々だけですとどうしてもダレてしまいますので多少の刺激が必要である、と判断致しました、どうか御理解下さい(あり過ぎても暗くて重苦しくなってしまいますのであくまでも“一つまみ”だけです)。
ーーーーーーーーーーーーーー
「待てっ。そこの・・・!!!」
「旦那様、アイツらです!!!」
「貴様ら、よくも家の娘を・・・!!!」
「なんだぁ?貴様ら・・・!!!」
「このエンブレムが目に入らねぇのか!!!」
ガリア帝国帝都ルテティア。
人口5000000人を数えるこの都市には喜怒哀楽様々な人間模様が日夜渦巻いていたモノの今、その第3環状区画の最東部の一角に於いて新たな騒動が巻き起ころうとしていた。
赤地に金色の獅子が二頭、互いに向き合っているエンブレム、それを血相を変えて追い掛けて来た面々の前に提示していた三人組の男達がいたのだ。
彼等は全員が端整な顔立ちをしていて燃えるような金髪碧眼の持ち主、上下黒の高級スーツに身を包み、黒革靴を履き慣らしていた。
背丈は二人は180cm前後だが、残りの一人は195cmはあろうかと言う巨人であり、しかも良く見ると四肢や肩、首筋や腹部等服がパンパンに膨らんでいる、要するに太っているのだが、しかし。
対照的に顔には全く脂肪は付いておらず、むしろスッキリとブラッシュアップされていた、そうだ、彼は単なる肥満では無くて、要するに“筋肉太り”を引き起こしていたのである。
それだけではない、その背中にはちょっとした槍ほどの長さのある、巨大かつ分厚い刃幅を誇っている大剣を背負っており、中々の威圧感を放っていたモノの、それらに加えて何よりかにより追っ手達を驚愕させたモノがあった、それは。
「・・・・・っ。な、何ぃっ!!?それは“帝室の御紋章”!!!」
「そうだよ、良く見なよ男爵さん!!!」
「これに向かって戦いを挑むって事は、あんたらは全員が反逆者になるんだぜ?」
「・・・・・」
男爵、と呼ばれた男を筆頭とする面々はそれを言われて“うぐぅ・・・っ!!!”と思わず口籠もってしまい、それまでの威勢が完全に雲散霧消してしまっていた。
そのエンブレムは皇帝の一族のみが使用する事を許されているモノであり、ここガリアに於いては絶対的権力と正義の象徴となっていたのだ。
「どうしたよ?男爵さん・・・!!!」
「何かするんじゃ無かったのかよ?」
彼等に追い打ちを掛ける様にしてそう悪絡みすると、男二人は“あはははははっ!!!”と高らかに笑いながら大男の後にくっ付いて行ってしまった、・・・“下級貴族じゃこのお方を御存知無いのも無理は無いな!!!”と言い残して。
「・・・・・っ。お、おのれぇっ!!!」
「男爵様、堪えて下さい!!!」
「アレに食って掛かっていったら、旦那様が反逆者にされてしまいます!!!」
従者二人が必死に男爵を押し留めて半ば無理矢理に屋敷に連れ帰ると、事情を聞いた夫人は怒りと悲しみのあまりに大声を挙げて泣き出してしまった。
「そんな、あんまりですっ。このままでは娘が、娘がぁ・・・っ!!!」
「解っている。だけどどうか堪えておくれ?連綿と受け継がれて来た我が家の灯火を、私達の代で消すわけにはいかんのだ!!!」
崩れ落ちた自身に掛け寄って背中を優しく擦りながら告げられる男爵からのその言葉に、夫人は再び大粒の涙を流し始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「よう、お疲れさん!!!」
「・・・誰かと思えばアンリじゃないか。久し振りだな、1週間振りじゃん?」
“それって久し振りとは言わないよな?”等と軽口を叩き合いながら、蒼太は国家高等秘密警察“ミラベル”本部のエントランスホールで親友兼幼馴染のアンリと思いがけずに再会して談笑の一時を楽しんでいた。
25歳を以てそれまでの魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”からミラベル隊員へと昇級を果たしていた彼等は治安維持活動や諜報作戦等、ガリア帝国内外で目まぐるしく働き続けていて、たまの休みには妻子の元を訪れ、英気を養う事としていたのである。
蒼太とアンリは今年で同い年の31歳、これからまさに男盛りを迎えようとしていた二人は共に、任務のみならずトレーニング等にも積極的に打ち込み続けており、人知れず努力を続けていたのだ。
良質な細胞組織が凝縮されて形作られていた肉体を持つ蒼太は特に、気功までをも用いた瞑想呼吸法をも鍛錬の中に取り入れており、その甲斐あって筋肉はインナーもアウターも含めて限界まで良く練り上げられては鍛え抜かれていた。
それだけではない、骨格も密度が高くて頑健であり、また各神経系も筋繊維の筋も発達していて極めて高い膂力と人並み外れた俊敏な動作を可能とならしめさせていたのだ。
「ところでさ、なあ蒼太。知っているか?いま世間を騒がせている事件・・・」
「世間を騒がせている事件・・・?」
「そうだ・・・」
訝しがる蒼太にアンリが説明してやった。
「なんでもな?町人や貴族の家に無理矢理に押し入っては年頃の若い娘を弄んだり、また或いは大商人の元へやって来ては金を強請り取って行く連中がいるそうなんだ・・・」
「噂は聞いてる。しかし一体、何なんだ?そりゃ。第一セイレーンは何をしてるんだ。俺達も時々は駆り出されているけど、国内の治安維持と人心安定は彼等の役目だろうに・・・!!!」
「俺達が卒業したあと、女王位達も一般の隊員もかなり弱体化してしまったらしいからな。やっぱりメリアリアさん達の世代は凄かったって事だよ、見た感じで力の波動が濃密に伝わって来ていたもんな?」
「まあね?そりゃメリー達に比べりゃ今の女王位達は一枚も二枚も格が落ちるよ、まあ本人達の底力を知っている俺から言わせてもらえば“次元が違う”ってとこだろう・・・。ところでさ」
“話の続きは?”と青年が先を促すと、アンリはズイッと距離を詰めて、ヒソヒソ声で語り始めた。
「その強請りたかり野郎共は三人組でな?なんでもこのルテティアの彼方此方に出没しているそうなんだが・・・。問題は“エンブレム”なんだ」
「・・・“エンブレム”?」
「そうだ。それも何を隠そう帝室一家のエンブレムを掲げて脅して来るんだそうだぜ?“これに逆らう奴は反逆者となるぞ”ってさ。だから誰も何も言えなくなってしまうのだそうだ・・・」
「・・・・・」
“厄介だな”とそれを受けて蒼太は呟いた、確かにここ、ガリア帝国では皇帝一家の御紋章の前で騒ぎを起こす事は立場を最大限にまずくするし、場合に拠っては極刑に処される事にすら繋がってしまうのである、・・・例えそれが真っ赤な偽物であったとしてもだ。
「仮に偽物であったにしても、エンブレムはエンブレムだ。最悪の場合は皇帝陛下に逆らったと同じ事になるからな。しかしそんな大胆不敵で不敬な犯罪者を、なぜセイレーンやミラベルの上層部はほったらかしにしておくんだ?第一“親衛隊”の連中はどうした、普段ならこう言った案件は奴らの領分だろ?此方が何も言わなくとも血相変えて飛び出して来る、と思っていたんだがな」
「不思議な事はそれだけじゃあない。先日もトゥールーズ男爵の家が荒らされ、五人いる兄弟姉妹達の内で一人娘のベアトリスが辱められ、強姦されたらしいんだ。ところが被害者の筈のトゥールーズ男爵は一度は出した被害届を取り下げてしまったんだそうだぜ?それも“自主的に”な・・・」
「・・・・・」
「何やら焦臭いと思わないか?蒼太・・・!!!」
「そりゃ思わない訳じゃ、無いけどさ。それは現状で俺達と何の関係も無くないか?確かに被害者には気の毒ではあるけれど、まあ“こんな事もあるんだ”と思って・・・」
「お前、冷たくなったな。最近・・・!!!」
面倒臭そうに応じる蒼太にアンリが驚愕する。
「前は絶対に、そんな事を言う人間じゃ無かったのに。子供が出来てから、なんて言うかこう、冷めた感じになったよな?まず間違い無く・・・!!!」
「・・・あのな?アンリ。俺達は何も遊びでミラベルに所属している訳じゃ無いんだ、況してや俺達はお互いにかみさんを持っている身だぜ?それにお前の言った通り、子供だっている。あんまり変な事件に首を突っ込むのは避けたいんだよ」
「そりゃそうだけど・・・。じゃあ言うけどお前、もしメリアリアさん達やお前の子供達が同じ目に遭ったらどうするんだよ?その時になって後悔しても遅いぜ?それに被害者達は金を強請り取られてもいるんだ。フォンティーヌ伯爵の所なんか、特にヤバいんじゃないのか?」
「・・・お前ね、いくらなんでも言って良い事と悪い事があるぜ?解らないのか。お前だから許すけど、他の人間だったら場合に拠ってはぶっ飛ばしていた所だった!!!」
聞き捨てならないその言葉に、思わず蒼太が語気を強めるモノのそこにはハッキリとした憤怒が含まれており、手をワナワナと握り締めている。
「い、いやそりゃ悪かった。謝るけどさ・・・。だけど俺の所もマリアとコリンズしかいないだろ?正直言って心配なんだよ。いつ何時、何が起こるか解らないからさ・・・!!!」
「・・・・・」
「なあ蒼太。俺達二人で犯人共を追い詰めないか?手柄は半々、それにお前だってこれに成功すれば枕を高くして寝られるだろう?」
「・・・・・」
それを聞いて蒼太は腕を組んで思考に耽った、確かにそんな連中をいつまでも野放しにしておくのはよろしく無いし、それにこれを受ければ“国内任務”と言うかどでメリアリア達の近くにいる事が出来る、そんな犯罪が起きている現状では、彼女達も幾らか安心するだろう。
「・・・当てはあるのかよ?犯人共を捕まえる当ては」
「その三人組はな?最近では“第3環状区画”に集中して出没しているのだそうだ。そこで今現在、奴らがやって来そうな場所と言ったら一つしかない。“ミランザ商会”だ!!!」
アンリが自信満々に言い放つがこのミランザ商会と言うのはガリア帝国を代表する商家の一つで業界最大手のスーパーマーケット“カルラール”等とも取り引きのある卸売業者であった。
古くは砂糖貿易や奴隷貿易で栄えていた、とされている“曰く付きの商会”だったがただし、富は確かに巨万のそれを築いていて金に困る事は無く、噂によれば宮廷や教会等にも毎年のように多額の寄付をしているらしかったのだ。
「宮廷にも寄付をしているような商会だ、それにあの巨大さや知名度から言っても奴らが目を付けて少しも不思議じゃ無いぜ?」
「・・・まあちょうど、今回の任務が終わった所だったし。次の仕事も決まってはいないからな、やっても構わないが。ただし俺はあくまで手伝うだけだぞ?変な事件に巻き込まれて“ミイラ取りがミイラになる”のは嫌だからな!!?」
「解った、解った!!!」
蒼太の言葉にそう応えると。
アンリは意気揚々とミラベルの上層部に今回の任務の許可を得る為、直接交渉に向かって行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
何度か説明させていただいておりますけれども蒼太君は普段は“俺”と言い、メリアリアちゃん達の前では“僕”と言います(幼い頃はずっと“僕”と言っていたためにその名残です)。
あと気分によっても一人称を変えます。
これは昭和のドラマや時代劇、アニメの持っていたシリアスな雰囲気と言いますか、ともすればダークな世界観を一つまみだけ投入して物語を再構築した為です(“夢と希望のある純愛物語”を根幹に据えたまま、それらを“スパイス”として付加してみました)。
何故こんな事をしたのか、と言いますとストーリーに緊張感を出したかったのです(本当はあんまりこう言う事は得意では無い、と言いますか、したくはなかったのですが)。
ただ甘々だけですとどうしてもダレてしまいますので多少の刺激が必要である、と判断致しました、どうか御理解下さい(あり過ぎても暗くて重苦しくなってしまいますのであくまでも“一つまみ”だけです)。
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「待てっ。そこの・・・!!!」
「旦那様、アイツらです!!!」
「貴様ら、よくも家の娘を・・・!!!」
「なんだぁ?貴様ら・・・!!!」
「このエンブレムが目に入らねぇのか!!!」
ガリア帝国帝都ルテティア。
人口5000000人を数えるこの都市には喜怒哀楽様々な人間模様が日夜渦巻いていたモノの今、その第3環状区画の最東部の一角に於いて新たな騒動が巻き起ころうとしていた。
赤地に金色の獅子が二頭、互いに向き合っているエンブレム、それを血相を変えて追い掛けて来た面々の前に提示していた三人組の男達がいたのだ。
彼等は全員が端整な顔立ちをしていて燃えるような金髪碧眼の持ち主、上下黒の高級スーツに身を包み、黒革靴を履き慣らしていた。
背丈は二人は180cm前後だが、残りの一人は195cmはあろうかと言う巨人であり、しかも良く見ると四肢や肩、首筋や腹部等服がパンパンに膨らんでいる、要するに太っているのだが、しかし。
対照的に顔には全く脂肪は付いておらず、むしろスッキリとブラッシュアップされていた、そうだ、彼は単なる肥満では無くて、要するに“筋肉太り”を引き起こしていたのである。
それだけではない、その背中にはちょっとした槍ほどの長さのある、巨大かつ分厚い刃幅を誇っている大剣を背負っており、中々の威圧感を放っていたモノの、それらに加えて何よりかにより追っ手達を驚愕させたモノがあった、それは。
「・・・・・っ。な、何ぃっ!!?それは“帝室の御紋章”!!!」
「そうだよ、良く見なよ男爵さん!!!」
「これに向かって戦いを挑むって事は、あんたらは全員が反逆者になるんだぜ?」
「・・・・・」
男爵、と呼ばれた男を筆頭とする面々はそれを言われて“うぐぅ・・・っ!!!”と思わず口籠もってしまい、それまでの威勢が完全に雲散霧消してしまっていた。
そのエンブレムは皇帝の一族のみが使用する事を許されているモノであり、ここガリアに於いては絶対的権力と正義の象徴となっていたのだ。
「どうしたよ?男爵さん・・・!!!」
「何かするんじゃ無かったのかよ?」
彼等に追い打ちを掛ける様にしてそう悪絡みすると、男二人は“あはははははっ!!!”と高らかに笑いながら大男の後にくっ付いて行ってしまった、・・・“下級貴族じゃこのお方を御存知無いのも無理は無いな!!!”と言い残して。
「・・・・・っ。お、おのれぇっ!!!」
「男爵様、堪えて下さい!!!」
「アレに食って掛かっていったら、旦那様が反逆者にされてしまいます!!!」
従者二人が必死に男爵を押し留めて半ば無理矢理に屋敷に連れ帰ると、事情を聞いた夫人は怒りと悲しみのあまりに大声を挙げて泣き出してしまった。
「そんな、あんまりですっ。このままでは娘が、娘がぁ・・・っ!!!」
「解っている。だけどどうか堪えておくれ?連綿と受け継がれて来た我が家の灯火を、私達の代で消すわけにはいかんのだ!!!」
崩れ落ちた自身に掛け寄って背中を優しく擦りながら告げられる男爵からのその言葉に、夫人は再び大粒の涙を流し始めた。
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「よう、お疲れさん!!!」
「・・・誰かと思えばアンリじゃないか。久し振りだな、1週間振りじゃん?」
“それって久し振りとは言わないよな?”等と軽口を叩き合いながら、蒼太は国家高等秘密警察“ミラベル”本部のエントランスホールで親友兼幼馴染のアンリと思いがけずに再会して談笑の一時を楽しんでいた。
25歳を以てそれまでの魔法剣技特殊銃士隊“セイレーン”からミラベル隊員へと昇級を果たしていた彼等は治安維持活動や諜報作戦等、ガリア帝国内外で目まぐるしく働き続けていて、たまの休みには妻子の元を訪れ、英気を養う事としていたのである。
蒼太とアンリは今年で同い年の31歳、これからまさに男盛りを迎えようとしていた二人は共に、任務のみならずトレーニング等にも積極的に打ち込み続けており、人知れず努力を続けていたのだ。
良質な細胞組織が凝縮されて形作られていた肉体を持つ蒼太は特に、気功までをも用いた瞑想呼吸法をも鍛錬の中に取り入れており、その甲斐あって筋肉はインナーもアウターも含めて限界まで良く練り上げられては鍛え抜かれていた。
それだけではない、骨格も密度が高くて頑健であり、また各神経系も筋繊維の筋も発達していて極めて高い膂力と人並み外れた俊敏な動作を可能とならしめさせていたのだ。
「ところでさ、なあ蒼太。知っているか?いま世間を騒がせている事件・・・」
「世間を騒がせている事件・・・?」
「そうだ・・・」
訝しがる蒼太にアンリが説明してやった。
「なんでもな?町人や貴族の家に無理矢理に押し入っては年頃の若い娘を弄んだり、また或いは大商人の元へやって来ては金を強請り取って行く連中がいるそうなんだ・・・」
「噂は聞いてる。しかし一体、何なんだ?そりゃ。第一セイレーンは何をしてるんだ。俺達も時々は駆り出されているけど、国内の治安維持と人心安定は彼等の役目だろうに・・・!!!」
「俺達が卒業したあと、女王位達も一般の隊員もかなり弱体化してしまったらしいからな。やっぱりメリアリアさん達の世代は凄かったって事だよ、見た感じで力の波動が濃密に伝わって来ていたもんな?」
「まあね?そりゃメリー達に比べりゃ今の女王位達は一枚も二枚も格が落ちるよ、まあ本人達の底力を知っている俺から言わせてもらえば“次元が違う”ってとこだろう・・・。ところでさ」
“話の続きは?”と青年が先を促すと、アンリはズイッと距離を詰めて、ヒソヒソ声で語り始めた。
「その強請りたかり野郎共は三人組でな?なんでもこのルテティアの彼方此方に出没しているそうなんだが・・・。問題は“エンブレム”なんだ」
「・・・“エンブレム”?」
「そうだ。それも何を隠そう帝室一家のエンブレムを掲げて脅して来るんだそうだぜ?“これに逆らう奴は反逆者となるぞ”ってさ。だから誰も何も言えなくなってしまうのだそうだ・・・」
「・・・・・」
“厄介だな”とそれを受けて蒼太は呟いた、確かにここ、ガリア帝国では皇帝一家の御紋章の前で騒ぎを起こす事は立場を最大限にまずくするし、場合に拠っては極刑に処される事にすら繋がってしまうのである、・・・例えそれが真っ赤な偽物であったとしてもだ。
「仮に偽物であったにしても、エンブレムはエンブレムだ。最悪の場合は皇帝陛下に逆らったと同じ事になるからな。しかしそんな大胆不敵で不敬な犯罪者を、なぜセイレーンやミラベルの上層部はほったらかしにしておくんだ?第一“親衛隊”の連中はどうした、普段ならこう言った案件は奴らの領分だろ?此方が何も言わなくとも血相変えて飛び出して来る、と思っていたんだがな」
「不思議な事はそれだけじゃあない。先日もトゥールーズ男爵の家が荒らされ、五人いる兄弟姉妹達の内で一人娘のベアトリスが辱められ、強姦されたらしいんだ。ところが被害者の筈のトゥールーズ男爵は一度は出した被害届を取り下げてしまったんだそうだぜ?それも“自主的に”な・・・」
「・・・・・」
「何やら焦臭いと思わないか?蒼太・・・!!!」
「そりゃ思わない訳じゃ、無いけどさ。それは現状で俺達と何の関係も無くないか?確かに被害者には気の毒ではあるけれど、まあ“こんな事もあるんだ”と思って・・・」
「お前、冷たくなったな。最近・・・!!!」
面倒臭そうに応じる蒼太にアンリが驚愕する。
「前は絶対に、そんな事を言う人間じゃ無かったのに。子供が出来てから、なんて言うかこう、冷めた感じになったよな?まず間違い無く・・・!!!」
「・・・あのな?アンリ。俺達は何も遊びでミラベルに所属している訳じゃ無いんだ、況してや俺達はお互いにかみさんを持っている身だぜ?それにお前の言った通り、子供だっている。あんまり変な事件に首を突っ込むのは避けたいんだよ」
「そりゃそうだけど・・・。じゃあ言うけどお前、もしメリアリアさん達やお前の子供達が同じ目に遭ったらどうするんだよ?その時になって後悔しても遅いぜ?それに被害者達は金を強請り取られてもいるんだ。フォンティーヌ伯爵の所なんか、特にヤバいんじゃないのか?」
「・・・お前ね、いくらなんでも言って良い事と悪い事があるぜ?解らないのか。お前だから許すけど、他の人間だったら場合に拠ってはぶっ飛ばしていた所だった!!!」
聞き捨てならないその言葉に、思わず蒼太が語気を強めるモノのそこにはハッキリとした憤怒が含まれており、手をワナワナと握り締めている。
「い、いやそりゃ悪かった。謝るけどさ・・・。だけど俺の所もマリアとコリンズしかいないだろ?正直言って心配なんだよ。いつ何時、何が起こるか解らないからさ・・・!!!」
「・・・・・」
「なあ蒼太。俺達二人で犯人共を追い詰めないか?手柄は半々、それにお前だってこれに成功すれば枕を高くして寝られるだろう?」
「・・・・・」
それを聞いて蒼太は腕を組んで思考に耽った、確かにそんな連中をいつまでも野放しにしておくのはよろしく無いし、それにこれを受ければ“国内任務”と言うかどでメリアリア達の近くにいる事が出来る、そんな犯罪が起きている現状では、彼女達も幾らか安心するだろう。
「・・・当てはあるのかよ?犯人共を捕まえる当ては」
「その三人組はな?最近では“第3環状区画”に集中して出没しているのだそうだ。そこで今現在、奴らがやって来そうな場所と言ったら一つしかない。“ミランザ商会”だ!!!」
アンリが自信満々に言い放つがこのミランザ商会と言うのはガリア帝国を代表する商家の一つで業界最大手のスーパーマーケット“カルラール”等とも取り引きのある卸売業者であった。
古くは砂糖貿易や奴隷貿易で栄えていた、とされている“曰く付きの商会”だったがただし、富は確かに巨万のそれを築いていて金に困る事は無く、噂によれば宮廷や教会等にも毎年のように多額の寄付をしているらしかったのだ。
「宮廷にも寄付をしているような商会だ、それにあの巨大さや知名度から言っても奴らが目を付けて少しも不思議じゃ無いぜ?」
「・・・まあちょうど、今回の任務が終わった所だったし。次の仕事も決まってはいないからな、やっても構わないが。ただし俺はあくまで手伝うだけだぞ?変な事件に巻き込まれて“ミイラ取りがミイラになる”のは嫌だからな!!?」
「解った、解った!!!」
蒼太の言葉にそう応えると。
アンリは意気揚々とミラベルの上層部に今回の任務の許可を得る為、直接交渉に向かって行った。
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何度か説明させていただいておりますけれども蒼太君は普段は“俺”と言い、メリアリアちゃん達の前では“僕”と言います(幼い頃はずっと“僕”と言っていたためにその名残です)。
あと気分によっても一人称を変えます。
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