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夫婦の絆と子供への思い
夫婦の絆と子供への思い 13
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「・・・・・」
(はあ・・・)
宮廷から帰る専用の高級自動車の中で、蒼太は窓の外を見ながら内心で溜息を付いていた、あの後は突如として登場して来た皇太子であるルイに改めて歓待を受け、帰りのお土産までも手配してもらえたのだ。
最初こそ訝しがって厳めしい面構えを見せていたルイだったが話してみると礼儀正しくて物腰も柔らかく、不必要なまでに高圧的な態度を取ったりはしないが、それでも何処か威厳のある、王族に相応しい佇まいと人格、雰囲気を纏っている存在だった。
「そうか・・・。リアナがまた、迷惑をお掛けしてしまったね?」
「いいえ、その様な事は御座いません。皇太子殿下・・・!!!」
リアナ皇女のお茶会から始まって、皇太子直々の軽食会にまで発展した催しは慎ましくてそれでいて、非常に煌びやかなモノとなった。
その席で皇太子夫妻は改めて娘の突拍子も無い話を詫びて、“忘れてくれると有り難い”と告げた後、しかし“マエル次期フェデラール伯爵には婚約者はいるのかね?”と満更でもなさ気な表情で尋ねて来た。
それに対して蒼太とオリヴィアは隠しても仕方が無いので正直に“異性関係のお付き合いをしている幼馴染がいる事”、“もっともまだ将来は決まっておらず、どうしたモノかと思案をしている最中である事”等を包み隠さず彼等に伝えた。
「幼馴染か、悪くない。実は私と妻も幼馴染同士で婚約して今に至るからね。相手が居るのは結構な事だが・・・。そうか、まだ何も決まってはいないのか・・・」
「父上!!!」
するとそれを聞いたリアナが此処ぞとばかりに身を乗り出して発言する。
「マエルは将来、この私と結婚するの。この場で正式に発表してっ!!?」
「お前は黙っていなさい・・・!!!」
猪突猛進かつイケイケな第3皇女の言動に、皇太子夫妻も頭を抱えている様子が見て取れたが一応、和やかな雰囲気のまま軽食会は終了してその日はお開きとなった。
「蒼太君、と言ったかね?ちょっといいかな・・・」
「はい、皇太子殿下・・・!!!」
帰宅直前、蒼太はルイから呼び止められて何事かと密かに耳を貸した。
「・・・娘から話のあった婿の件な。あながち悪い相談でも無いと、私自身は考えている」
「・・・・・っ!!?」
「いずれにせよ、まだ本格的に決めるには早過ぎる話だがね?ともかく一度、関係者全員で良く話し合ってくれたまえ・・・」
「・・・は、はい。皇太子殿下、どうも有り難う御座います」
そう言ってその日は別れたのだが明けて次の日。
蒼太は早速、鍛錬が終わった後でマエルを呼び出して質問してみた、“君の気持ちはどうなのか?”と。
すると。
「僕はまだ、好きとか嫌いとか。そう言うのは良く解らない・・・」
「・・・そうか」
「ただリアナ皇女の事は気になっているよ?今はまだ、週1くらいで遊びに通うだけだけど。でもいつか、もっと仲良くなれたらもっと楽しくなると思う!!!」
「・・・ではリアナ皇女と結婚したいか?」
「うーん、ちょっとそれは良く解らない・・・」
「・・・・・」
“まあ、そうだよね?”と蒼太は肩を落として言ったがそれと同時に安心もしていた、もし万が一、マエルが“この話を受ける”となったらフェデラール伯爵家は名実共に帝室一家の類垣となる、そうすれば今までとは比べ物にならない位に権力と名声が得られるだろうし、人付き合いも増えるだろうが、一方で。
それはあまり、関わりたくない人物や事件とも接点を持たねばならない、と言う事を意味していた、特に蒼太が心配していたのが“内部抗争”であるモノの、これに敗れて落ちぶれて行った貴族は古今東西数知れず、間違ってもその仲間に入りたくは無かったのだ。
(フォンティーヌ伯爵家の例もある、地位や名声を持てば必ずや面倒事も舞い込む事になるんだ・・・!!!)
それを危惧していた蒼太はだから、まずはマエルを極力逞しくて立派な、それでいて抜け目ない男に育てる事にした、正直に言って自分だとて決して偉そうに言えるような完璧な存在では無いけれども、少なくともこのまま行ったら間違いなく、マエルは背中に気を付けて生きて行かねばならなくなるだろう、その際の苦しみ、悲しみ、恐怖を親として、出来る限りで軽減してやろうとしたのだ。
「・・・マエル、君に言っておきたい事があるんだけれども」
「・・・・・」
「君には激しさ、と言うのかな?アルベリク達にはある意気込みが無い、或いは全然足りていない。それは“これだけは絶対に負けない”、“譲れない”と言う強い思い、気迫だよ。それが無いから君は何時まで経っても鍛錬の最中で何処かダレて見えてしまうし、それに相手にとどめを刺す時に今一歩踏み込む気概が生まれないんだよ・・・」
「・・・誰にも負けない」
「そうだ・・・」
蒼太は言う、“誰でも良いから目標になってくれる人物や存在は居ないのか?”と。
「例えばライバルのような、そんな関係でも良いんだけどさ?とにかく“コイツにだけは負けたくない”と言えるような相手はいるかい?或いは“将来はこんな風になっていたい”とか。“誰彼のようになりたい”と言ったような、明確な夢があると尚良いんだけれど・・・」
「ええ?そんな事を急に言われても・・・」
「でもそれがあると、自分の中に張り合いが生まれるよ?だって目的意識がハッキリと出るからね、それに向かって精進を続けて行けば良い訳だし・・・」
「・・・じゃあ、お父さんは?」
「うん・・・?」
「お父さんは一体誰を、何を目指して生きているのさ・・・」
「・・・知りたいか?」
「うん・・・」
「そうだな・・・」
蒼太は少しだけ、考える様な素振りを見せてからこう答えた、“教えてあげない”と。
「今の君に言っても仕方が無いからね?でもね、“いつもいつもすぐ近くで見守ってくれている、すっごく遠い存在だ”とだけ言っておくよ・・・」
「・・・なにそれ。良く解んないよ!!!」
「あはは・・・っ。今はそれで良いよ!!!」
悪戯っぽく笑いながら、蒼太は続けた。
「ただね。僕はいつかその人達みたいになって、自分自身を救ってやりたいのさ。ううん、自分だけじゃない。メリーもアウロラもオリヴィアも、皆を救いに導ける存在になりたいんだよ。特にあの子達は、お母さん達はね?マエル。僕にとっては物凄く可愛い女の子達なんだよ、だからね?どんな事からでも守ってあげたいし、傷一つ付けさせたくない。彼女達にはいつもいつも安寧の中にいて、ずっと微笑んでいて欲しい。その為にもありとあらゆる苦しみや悲しみ、痛みから解き放って、より高みへと導いて。光に戻してあげたいのさ・・・!!!」
「・・・なにそれ。まるで神様みたいじゃん!!!」
「あははっ。そうだね!!!」
「そんなの、なれるわけ無いじゃん。不可能だよ!!!」
「ほら、それだ」
我が子の口から自然と出て来た諦観の言葉に対して蒼太が鋭く反応する。
「やる前からもう、気持ちで負けちゃってるじゃん。どうしてやりもしない内から“不可能だ”なんて諦める?やってみなけりゃ解らないじゃないか!!!」
「だ、だってそんな事を言ったって・・・。神様だよ?一体どうやってなれるのかすらも解らないじゃないか!!!」
「・・・今まで色々な人達が書いてくれた本や発信している情報があるよね?それらをちゃんと調べて精査したのか?ちゃんと自分で色々な方法を試して実践し、味わって来たのか?」
「そ、そんなこと・・・」
「・・・してないんだろ?なんにも。それじゃあ本当になんにもならないよ、ちゃんと実践すればした分だけ答えは出るもんだよ。例えそれがどんな事であってもね」
「・・・・・」
“勉強や修業と同じだよ”と蒼太は続けた、“最初は何も解らなくても、出来なくてもやっていく内に段々と色々な事が出来るようになり、解るようになって行くんだ”と。
「それを“体得する”と言う。ここまで出来て初めて、“物事を自分のモノとした”と言う事が出来るんだよ?それを繰り返して行けばやがては神様にだってなれる筈だよ?それに“一芸は道に通じる”と言ってね?一つの芸道についての奥義を究めたる者は、他の分野にも通じる道理をも身につけているモノだ、と言う意味の言葉だよ。僕もその通りだと思う・・・」
「・・・でも、それじゃあ夢が叶うのはいつになるのさ?人生の全部を使わなかったら、絶対に間に合わないじゃないか!!!」
「甘いんだよなぁ、マエルは・・・」
蒼太が再びニヤリと笑う。
「仮にも“神様になりたい”と言う願いを叶える為に、一度の人生くらいで足りると思うかい?」
「・・・・・っ。え、えっ?」
「何度死んで、生まれ変われば良い事か。でもそれでも“千里の道も一歩から”って言うしね。とにもかくにもやらないことには始まらないから!!!」
「・・・本気なの?父さん!!!」
「ああ、本気だよ?」
マエルは絶句してしまった、まさか“神になりたい”等と本気で志している人が、自分の直ぐ側にいるなんて!!!
「・・・で、でもそれじゃあ。すんごい厳しい修業をずっとずーっとしなくちゃならないんじゃないの?自分にだって負けちゃったらまずいし!!!」
“へえぇ・・・”とそれを聞いた蒼太はジト目となって語り掛けた。
「・・・君なんか、今の今まで最初から自分に負けてたじゃんか。良く言えるよね?そんな事が」
「ううっ。そ、それは・・・!!!」
「ねえ、マエル。君は自分が、朝から何回の素振りをしたか覚えているかい?」
すると蒼太はここで打って変わって楽しそうに声を掛けて来る。
「・・・なにさ、急に」
「良いから、良いから。君は毎朝頑張って素振りをしているよね?今朝は何回やったか、教えてくれよ」
「・・・えーっと、確か。300回位、だったかな?早素振りは200回!!!」
「それはお母さんに言われたの?それとも自分で決めた日課?」
「最初はお母さんに“これ位はやりなさい”って言われたんだけど・・・。でも今は違うよ?ちゃんと自分で考えてやっているんだ、強くなる為にね!!!」
「勝ってるじゃん、自分に!!!」
「え・・・っ!!?」
あっけらかんと言われた父の言葉に、マエルは驚愕の顔を覗かせた。
「ちゃんと毎日、自分で日課を決めてやり続けているんだろ?自分に勝ち続けてるじゃん。自分で決めた課題をクリアーしているじゃないか、それって自分に勝っているって事なんじゃないの?」
「・・・そ、それは!!!」
「ねっ?マエル。確かに頭で考えると“修業する”とか“自分に勝つ”って物凄く大変な事のように思えて来るよね?でも実際にやってみると、こんなに簡単に出来ちゃうモノなんだよ!!!」
「・・・・・」
「君はちゃんと自分に勝っているよ、毎日毎日ね?だから昨日だって宮廷で、リアナ皇女を相手にあれだけの力が出せたんだ。君にはそれ位の底力があるんだ!!!その事を理解して、もっと自信を持って欲しいな・・・」
「・・・・・」
「“気持ちで負けない”って、凄く大事だろ?最初からその状態に陥ってしまうと、見えるモノも見えなくなってしまうんだよ。まずは何でも良いからやってみること。常に挑戦し続けて自分に勝つこと。“夢を叶える”ってのも、その延長線上にある話なんだよ。やってみると意外と何とかなるかも知れないよ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ねえ、お父さん」
「んん?」
暫しの沈黙の後にマエルが紡いだ胸の内に、蒼太は耳を傾けた。
「なんだい?マエル・・・」
「僕も目指してみようかな?神様・・・!!!」
「・・・あははっ。そっか!!!」
“それじゃあ二人で一緒に頑張ろうな!!!”と青年は我が子の頭を撫でながら改めて声を掛けるが、それを受けてマエルの心の中には漸く、“芯の部分”が生み出され始めていった。
神様になるためにはどうすれば良いのか、具体的な事はまだまだ解らない事だらけだけれど。
それでもまずは、やってみる。
やってみない事には本当に、何一つとして解らないし、得られるモノも何もない。
(そうだよ、頑張るんだ僕は。やりたいようにやれば良い、迷って悩んで傷付いて。それでも前に進んで行くんだ。失敗するのが当たり前、だって毎日が勉強じゃないか人生ってのは!!!)
“何で今まで気付かなかったんだろう”等と、そう思い立つマエルの心には、今までにない積極性と気迫が醸成され始めて行ったのである。
(はあ・・・)
宮廷から帰る専用の高級自動車の中で、蒼太は窓の外を見ながら内心で溜息を付いていた、あの後は突如として登場して来た皇太子であるルイに改めて歓待を受け、帰りのお土産までも手配してもらえたのだ。
最初こそ訝しがって厳めしい面構えを見せていたルイだったが話してみると礼儀正しくて物腰も柔らかく、不必要なまでに高圧的な態度を取ったりはしないが、それでも何処か威厳のある、王族に相応しい佇まいと人格、雰囲気を纏っている存在だった。
「そうか・・・。リアナがまた、迷惑をお掛けしてしまったね?」
「いいえ、その様な事は御座いません。皇太子殿下・・・!!!」
リアナ皇女のお茶会から始まって、皇太子直々の軽食会にまで発展した催しは慎ましくてそれでいて、非常に煌びやかなモノとなった。
その席で皇太子夫妻は改めて娘の突拍子も無い話を詫びて、“忘れてくれると有り難い”と告げた後、しかし“マエル次期フェデラール伯爵には婚約者はいるのかね?”と満更でもなさ気な表情で尋ねて来た。
それに対して蒼太とオリヴィアは隠しても仕方が無いので正直に“異性関係のお付き合いをしている幼馴染がいる事”、“もっともまだ将来は決まっておらず、どうしたモノかと思案をしている最中である事”等を包み隠さず彼等に伝えた。
「幼馴染か、悪くない。実は私と妻も幼馴染同士で婚約して今に至るからね。相手が居るのは結構な事だが・・・。そうか、まだ何も決まってはいないのか・・・」
「父上!!!」
するとそれを聞いたリアナが此処ぞとばかりに身を乗り出して発言する。
「マエルは将来、この私と結婚するの。この場で正式に発表してっ!!?」
「お前は黙っていなさい・・・!!!」
猪突猛進かつイケイケな第3皇女の言動に、皇太子夫妻も頭を抱えている様子が見て取れたが一応、和やかな雰囲気のまま軽食会は終了してその日はお開きとなった。
「蒼太君、と言ったかね?ちょっといいかな・・・」
「はい、皇太子殿下・・・!!!」
帰宅直前、蒼太はルイから呼び止められて何事かと密かに耳を貸した。
「・・・娘から話のあった婿の件な。あながち悪い相談でも無いと、私自身は考えている」
「・・・・・っ!!?」
「いずれにせよ、まだ本格的に決めるには早過ぎる話だがね?ともかく一度、関係者全員で良く話し合ってくれたまえ・・・」
「・・・は、はい。皇太子殿下、どうも有り難う御座います」
そう言ってその日は別れたのだが明けて次の日。
蒼太は早速、鍛錬が終わった後でマエルを呼び出して質問してみた、“君の気持ちはどうなのか?”と。
すると。
「僕はまだ、好きとか嫌いとか。そう言うのは良く解らない・・・」
「・・・そうか」
「ただリアナ皇女の事は気になっているよ?今はまだ、週1くらいで遊びに通うだけだけど。でもいつか、もっと仲良くなれたらもっと楽しくなると思う!!!」
「・・・ではリアナ皇女と結婚したいか?」
「うーん、ちょっとそれは良く解らない・・・」
「・・・・・」
“まあ、そうだよね?”と蒼太は肩を落として言ったがそれと同時に安心もしていた、もし万が一、マエルが“この話を受ける”となったらフェデラール伯爵家は名実共に帝室一家の類垣となる、そうすれば今までとは比べ物にならない位に権力と名声が得られるだろうし、人付き合いも増えるだろうが、一方で。
それはあまり、関わりたくない人物や事件とも接点を持たねばならない、と言う事を意味していた、特に蒼太が心配していたのが“内部抗争”であるモノの、これに敗れて落ちぶれて行った貴族は古今東西数知れず、間違ってもその仲間に入りたくは無かったのだ。
(フォンティーヌ伯爵家の例もある、地位や名声を持てば必ずや面倒事も舞い込む事になるんだ・・・!!!)
それを危惧していた蒼太はだから、まずはマエルを極力逞しくて立派な、それでいて抜け目ない男に育てる事にした、正直に言って自分だとて決して偉そうに言えるような完璧な存在では無いけれども、少なくともこのまま行ったら間違いなく、マエルは背中に気を付けて生きて行かねばならなくなるだろう、その際の苦しみ、悲しみ、恐怖を親として、出来る限りで軽減してやろうとしたのだ。
「・・・マエル、君に言っておきたい事があるんだけれども」
「・・・・・」
「君には激しさ、と言うのかな?アルベリク達にはある意気込みが無い、或いは全然足りていない。それは“これだけは絶対に負けない”、“譲れない”と言う強い思い、気迫だよ。それが無いから君は何時まで経っても鍛錬の最中で何処かダレて見えてしまうし、それに相手にとどめを刺す時に今一歩踏み込む気概が生まれないんだよ・・・」
「・・・誰にも負けない」
「そうだ・・・」
蒼太は言う、“誰でも良いから目標になってくれる人物や存在は居ないのか?”と。
「例えばライバルのような、そんな関係でも良いんだけどさ?とにかく“コイツにだけは負けたくない”と言えるような相手はいるかい?或いは“将来はこんな風になっていたい”とか。“誰彼のようになりたい”と言ったような、明確な夢があると尚良いんだけれど・・・」
「ええ?そんな事を急に言われても・・・」
「でもそれがあると、自分の中に張り合いが生まれるよ?だって目的意識がハッキリと出るからね、それに向かって精進を続けて行けば良い訳だし・・・」
「・・・じゃあ、お父さんは?」
「うん・・・?」
「お父さんは一体誰を、何を目指して生きているのさ・・・」
「・・・知りたいか?」
「うん・・・」
「そうだな・・・」
蒼太は少しだけ、考える様な素振りを見せてからこう答えた、“教えてあげない”と。
「今の君に言っても仕方が無いからね?でもね、“いつもいつもすぐ近くで見守ってくれている、すっごく遠い存在だ”とだけ言っておくよ・・・」
「・・・なにそれ。良く解んないよ!!!」
「あはは・・・っ。今はそれで良いよ!!!」
悪戯っぽく笑いながら、蒼太は続けた。
「ただね。僕はいつかその人達みたいになって、自分自身を救ってやりたいのさ。ううん、自分だけじゃない。メリーもアウロラもオリヴィアも、皆を救いに導ける存在になりたいんだよ。特にあの子達は、お母さん達はね?マエル。僕にとっては物凄く可愛い女の子達なんだよ、だからね?どんな事からでも守ってあげたいし、傷一つ付けさせたくない。彼女達にはいつもいつも安寧の中にいて、ずっと微笑んでいて欲しい。その為にもありとあらゆる苦しみや悲しみ、痛みから解き放って、より高みへと導いて。光に戻してあげたいのさ・・・!!!」
「・・・なにそれ。まるで神様みたいじゃん!!!」
「あははっ。そうだね!!!」
「そんなの、なれるわけ無いじゃん。不可能だよ!!!」
「ほら、それだ」
我が子の口から自然と出て来た諦観の言葉に対して蒼太が鋭く反応する。
「やる前からもう、気持ちで負けちゃってるじゃん。どうしてやりもしない内から“不可能だ”なんて諦める?やってみなけりゃ解らないじゃないか!!!」
「だ、だってそんな事を言ったって・・・。神様だよ?一体どうやってなれるのかすらも解らないじゃないか!!!」
「・・・今まで色々な人達が書いてくれた本や発信している情報があるよね?それらをちゃんと調べて精査したのか?ちゃんと自分で色々な方法を試して実践し、味わって来たのか?」
「そ、そんなこと・・・」
「・・・してないんだろ?なんにも。それじゃあ本当になんにもならないよ、ちゃんと実践すればした分だけ答えは出るもんだよ。例えそれがどんな事であってもね」
「・・・・・」
“勉強や修業と同じだよ”と蒼太は続けた、“最初は何も解らなくても、出来なくてもやっていく内に段々と色々な事が出来るようになり、解るようになって行くんだ”と。
「それを“体得する”と言う。ここまで出来て初めて、“物事を自分のモノとした”と言う事が出来るんだよ?それを繰り返して行けばやがては神様にだってなれる筈だよ?それに“一芸は道に通じる”と言ってね?一つの芸道についての奥義を究めたる者は、他の分野にも通じる道理をも身につけているモノだ、と言う意味の言葉だよ。僕もその通りだと思う・・・」
「・・・でも、それじゃあ夢が叶うのはいつになるのさ?人生の全部を使わなかったら、絶対に間に合わないじゃないか!!!」
「甘いんだよなぁ、マエルは・・・」
蒼太が再びニヤリと笑う。
「仮にも“神様になりたい”と言う願いを叶える為に、一度の人生くらいで足りると思うかい?」
「・・・・・っ。え、えっ?」
「何度死んで、生まれ変われば良い事か。でもそれでも“千里の道も一歩から”って言うしね。とにもかくにもやらないことには始まらないから!!!」
「・・・本気なの?父さん!!!」
「ああ、本気だよ?」
マエルは絶句してしまった、まさか“神になりたい”等と本気で志している人が、自分の直ぐ側にいるなんて!!!
「・・・で、でもそれじゃあ。すんごい厳しい修業をずっとずーっとしなくちゃならないんじゃないの?自分にだって負けちゃったらまずいし!!!」
“へえぇ・・・”とそれを聞いた蒼太はジト目となって語り掛けた。
「・・・君なんか、今の今まで最初から自分に負けてたじゃんか。良く言えるよね?そんな事が」
「ううっ。そ、それは・・・!!!」
「ねえ、マエル。君は自分が、朝から何回の素振りをしたか覚えているかい?」
すると蒼太はここで打って変わって楽しそうに声を掛けて来る。
「・・・なにさ、急に」
「良いから、良いから。君は毎朝頑張って素振りをしているよね?今朝は何回やったか、教えてくれよ」
「・・・えーっと、確か。300回位、だったかな?早素振りは200回!!!」
「それはお母さんに言われたの?それとも自分で決めた日課?」
「最初はお母さんに“これ位はやりなさい”って言われたんだけど・・・。でも今は違うよ?ちゃんと自分で考えてやっているんだ、強くなる為にね!!!」
「勝ってるじゃん、自分に!!!」
「え・・・っ!!?」
あっけらかんと言われた父の言葉に、マエルは驚愕の顔を覗かせた。
「ちゃんと毎日、自分で日課を決めてやり続けているんだろ?自分に勝ち続けてるじゃん。自分で決めた課題をクリアーしているじゃないか、それって自分に勝っているって事なんじゃないの?」
「・・・そ、それは!!!」
「ねっ?マエル。確かに頭で考えると“修業する”とか“自分に勝つ”って物凄く大変な事のように思えて来るよね?でも実際にやってみると、こんなに簡単に出来ちゃうモノなんだよ!!!」
「・・・・・」
「君はちゃんと自分に勝っているよ、毎日毎日ね?だから昨日だって宮廷で、リアナ皇女を相手にあれだけの力が出せたんだ。君にはそれ位の底力があるんだ!!!その事を理解して、もっと自信を持って欲しいな・・・」
「・・・・・」
「“気持ちで負けない”って、凄く大事だろ?最初からその状態に陥ってしまうと、見えるモノも見えなくなってしまうんだよ。まずは何でも良いからやってみること。常に挑戦し続けて自分に勝つこと。“夢を叶える”ってのも、その延長線上にある話なんだよ。やってみると意外と何とかなるかも知れないよ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ねえ、お父さん」
「んん?」
暫しの沈黙の後にマエルが紡いだ胸の内に、蒼太は耳を傾けた。
「なんだい?マエル・・・」
「僕も目指してみようかな?神様・・・!!!」
「・・・あははっ。そっか!!!」
“それじゃあ二人で一緒に頑張ろうな!!!”と青年は我が子の頭を撫でながら改めて声を掛けるが、それを受けてマエルの心の中には漸く、“芯の部分”が生み出され始めていった。
神様になるためにはどうすれば良いのか、具体的な事はまだまだ解らない事だらけだけれど。
それでもまずは、やってみる。
やってみない事には本当に、何一つとして解らないし、得られるモノも何もない。
(そうだよ、頑張るんだ僕は。やりたいようにやれば良い、迷って悩んで傷付いて。それでも前に進んで行くんだ。失敗するのが当たり前、だって毎日が勉強じゃないか人生ってのは!!!)
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