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夫婦の絆と子供への思い
夫婦の絆と子供への思い 6
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今回のお話、実は元ネタがあります。
それはちょっと前に流れていた“サンドウィッチマン”さん主演のピザーラの“ボッタルガのCM”と、今現在再放送で流れております時代劇“必殺仕事人”からのオマージュです(それらから着想を得た上で色々と考えを巡らせ、膨らませて物語として組み立て直してみました)、ただしお話自体は私の完全なオリジナルです(パクッた訳ではありません)。
ちなみに、なのですが。
今になって思い返してみれば“昭和の時代”と言うのは人々の心に確かに“愛と正義”が存在しており、そしてそれ故に“正しい意味での”夢や希望が育っていた世界ではありましたけれども、それと同時に“言いようの無い陰鬱さ”、即ち“暗さ”が垂れ込めていた期間でもありました。
何故ならばあの時代、まずは“戦争”がありました(人々の尊厳や命が今以上に軽視された時代でもありました)、また当時のアニメや時代劇、ドラマを見返してみるとやはり(例えば暴力シーンだとか殺人シーンだとかもそうなのですけれども、何と言うかもっとこう、全体的に)、何処か影のある演出と言いますか“剥き出しの闇”とでも言い表すしか無いのですがそう言ったダークでシリアスな雰囲気が随所に溢れていた世界でもあったのです。
それを今回のお話に限って一つまみ、“スパイス”として投入させてみたのです(“良い意味で刺激になってくれたら良い”と切に願っております)。
ーーーーーーーーーーーーーー
「いやぁ、この“アスパラとボッタルガのグリル”、中々に美味ですな?」
「ボッタルガをトッピングしたサラダもかなりの極上品ですね!!!」
「チーズと和えても良い、ワインにもピッタリだ!!!」
明けて次の週の水曜日の夜。
予てよりの告知の通り、宮廷にて晩餐会が催される運びとなった。
もっとも今回はあくまでも裏貴族やそれに関わる上級階級向けの会合であったから、出席者達は一部の存在に限られたモノとなったがそれでもガリア帝国各地からそれなりの数の人々が集まって非常に華やいだ雰囲気が醸成されている。
その中にはメリアリアのカッシーニ家やオリヴィアのフェデラール家も含まれていて当然、彼女達も美しいドレスに着飾って蒼太と共に参加していた。
勿論、アウロラも同様であったが今回は彼等の子供達はそれぞれの実家でお留守番である、まだデビュタントには早過ぎる年齢であるために、蒼太やメリアリア、アウロラ、オリヴィアが揃って反対を表明し、今回は参加を見送る事となったのであった。
それに。
(もう既に、あの子達にも“幼馴染”はいるしな・・・)
と蒼太は思うが果たしてその通りであり、それぞれの花嫁達との間に彼が設けた子供達には、既にして仲の良い、同じ貴族や上級階級の幼馴染が数名程存在していて、その内の何名かは早くも“異性関係”を持っていたのだ。
「将来は是非、我が家の婿に来てくれないか?」
「行く行くはなんとか、こちらに嫁いできてもらいたいね・・・!!!」
相手方の両親からはそう言った話も内々に出ており、また本人達同士も異論は無く、蒼太の見た所双方の霊性や人格、相性等にも問題は無さそうに感じられてそちらの方は至って順風満帆である、だからデビュタントを急がなくとも別段、困る事は無かったのだ。
「大盛況ね、あなた?私も誇らしいわ!!!」
「流石です蒼太さん。お陰で助かりましたわ?」
「何やらフォンティーヌ伯爵家の危機を救ったとか。やるじゃないか、我が夫!!!」
関係者から漏れ聞こえてくる自分達の夫の活躍に、改めて彼に惚れ直していた花嫁達を前にして蒼太も悪い気はしない。
メリアリアもアウロラもオリヴィアも、皆顔を赤面させつつも、しっかりと彼の両腕や背中に腕を回してしがみ付いたりタキシードを掴んで引っ張ったりして蒼太と片時も離れなかった、彼女達の身も心も魂すらも完全に夫だけのモノであり、結婚から10年以上も経つと言うのに未だ以て彼に夢中でラブラブ状態であったのである。
思い返せば。
正直に言って過去に於いては蒼太より美形なイケメンや、一見逞しそうに見える男性もいるにはいたのだが彼女達は全くそれらに動じる事は無かった、ずっと蒼太の事が忘れられなかったからであり、メリアリアにとってもアウロラにとっても、そしてオリヴィアにとっても彼以上に格好良くて魅力的な人間など、存在し得なかったからに他ならなかった。
それに何より。
“この人は自分の事を、偽りなき真心で愛してくれている”。
“本当に大切に思ってくれている”。
“未だ以て一人の女の子として扱ってくれている”。
そう言った事を“女の勘”と“人としての直感”の双方から見抜いて確信していた彼女達はそれ故に、蒼太が向ける以上の超絶的なまでの愛情を彼に抱き続けており何があっても揺るぎない程の熱烈な信頼と敬意と確かなる思いとを秘め宿し続けていたのであった。
一方で。
「“クリームチーズを添えたボッタルガ・ポテト”、奥深い味わいですな?」
「“ボッタルガとシラスのピザ”、これはイケる。幾らでも腹に入るぞ!!?」
「いや、流石は名にし負うフォンティーヌ伯爵家だ。見事な料理を揃えましたな?」
“ワインも極上品ですしね?”と褒めちぎられて、饗応役に任じられていたエリオット伯爵もその夫人のシャルロットも内心でホッと胸を撫で下ろしていた。
娘婿である蒼太から“何とかなると思います”との発言を聞かされて以降、詳細を説明された二人は驚愕してしまった、それによると“エウロペ連邦文化圏以外にもボッタルガは存在しており、しかも高級珍味として扱われている”と言うのだ。
「正直に申しまして、もう既にめぼしい所には全て“ルグランジュ侯爵家”の手が伸びていると思われます。今からでは此方が幾ら交渉しても無駄でしょう」
「・・・確かにな。しかし、しかしだ。ではどうすれば良いと言うのかね?」
「お義父さん。申し訳御座いませんが少々、電話をお借りしてもよろしいですか?国際電話を掛けたいのですが・・・」
「・・・それは別に構わんが。一体、何処に電話するつもりなのかね?」
「日本の豊洲市場です。今掛ければ時差でちょうど競りが行われている最中だと思われますので“ボッタルガ”が手に入るかも知れませんよ?ただし“日本の”ね!!!」
「なにぃっ!!?」
その言葉を聞かされたトキには流石のエリオットも驚きの余りに二の句が継げ無くなってしまった。
「日本にもあるんですよ、昔から食べられている“ボッタルガ”が。もっとも向こうでは“カラスミ”と呼ばれていますけどね?」
「・・・・・っ!!?」
「な、なんと・・・っ!!!」
それを聞いて固まってしまったエリオット伯爵夫妻に代わって蒼太の義兄であるマクシムが言葉を返した。
「本当なのか?それは・・・!!!」
「本当だよ?義兄さん。味わいは此方のモノに比べると、日本の方がちょっとだけしょっぱいらしいけれど風味は殆ど一緒の筈だよ?何しろ元となる材料と製法は全く同じだからね・・・。それに今から手を打てば来週の晩餐会までには余裕で届くよ、飛行機で空輸してもらえば良いんだから。ただし・・・」
“僕達は正規のお客さんじゃない”と蒼太はそこで初めて難しそうな顔をした。
「彼方には昔ながらの“お得意さん”もいる訳だし。それらに無理を言って譲ってもらう事になるから、それなりに値は張るだろうと思うけど・・・」
「構わん!!!」
するとその話を聞いて暫くの間沈黙していたエリオット伯爵が、頭を上げて発言する。
「背に腹はかえられん。蒼太君、ここは幾ら金額が掛かっても良いから話を付けてくれたまえ!!!」
「了解しました!!!」
エリオット伯爵の許可を取り付けた青年はアウロラ以下フォンティーヌ伯爵家の面々が見守る中で臆する事無く競りに参加しては、見事な交渉術を用いて晩餐会には充分な量のカラスミを確保する事に成功した、と言う訳である。
「いや、それにしても流石は蒼太君だ。まさか日本のボッタルガを用意するとは思わなかったな、その手は考えつかなかった!!!」
「本当です。些か値は張りましたけど空輸代と合わせて正規品のボッタルガよりも多少、高く付いた位ですし・・・。日本の方々が良心的で本当に良かったですわ!!!」
そう言い合って嬉しそうに、得意そうに皆の輪に入って行くエリオット伯爵夫妻を、苦々しい視線で見つめる一人の男の姿があった。
上下を黒いタキシードに身を包み、ガタイと恰幅は中々に良いが頭は頭頂部分まで禿げていて残されていた髪の毛は瞳と同色のブラウン、実に厳めしい面構えをした初老の紳士だが彼こそが今回、フォンティーヌ伯爵家を破滅に追いやろうと画策した黒幕であり張本人、ルグランジュ侯爵その人であるモノの、もっとも。
ルグランジュが人を嵌めようとしたのは今回が初めての話では決して無かった、過去には政敵や邪魔になりそうな者達を相当数、ありとあらゆる手段を用いて闇から闇へ葬って来たのであり、また蹴落としても来たのであって、その為に涙を流した人々の数は有に100を超えておりその為、彼に対する怨嗟の声が彼方此方から挙がって来ていたのであった。
「・・・・・」
(おのれ、エリオットめ。今回は何とか逃れたようだな、しかし思った以上にしぶとい奴だ・・・!!!)
“それに”と彼は思う、“あのジャポネめ、余計な事をしてくれたな!!!”と。
(今回の一件が失敗したのは、奴の横槍の仕業だという噂もある。今度からは奴も抹殺対象に入れて掛からねばな・・・)
そんな事を考えつつもパーティー会場に戻って何食わぬ顔で恙無く全行程を終えたルグランジュは、一足先に待たせていた馭者の男に指示を出して馬車で帰宅の途に着いた。
「旦那様、首尾は如何で御座いましたか?」
「ふん。残念な事にエリオットめ、逃げ延びおった!!!」
「それは無念で御座いますね、ではフォンティーヌ伯爵家はどうなさるおつもりで・・・」
「なに、奴らはこのままでは済まさん。新たな計画は既に進行しているのだ、必ず抹殺してやる。・・・お前にもまた役に立ってもらうぞ?」
「畏まりました旦那様。仰せの通りに・・・」
自らも何度となくルグランジュ侯爵の謀略に加担していた馭者は恭しく頭を下げると主人が乗り込むのを待ってから、馬車をゆっくりと出立させる。
(・・・さてと。これから忙しくなるぞ?エリオット、それにソウタと言ったか?あのジャポネめ、ただでは済まさんぞ。私に楯突いて恥を掻かせた事を、タップリと後悔させてやるわ!!!)
自宅へと続く、小川の傍の小道を走りつつもルグランジュが頭の中でいかがわしい計算を始めた、その時だ。
「ぐわぁっ!!?」
「どうした・・・っ!!?」
不意に外から馭者の悲鳴が聞こえたと同時に馬車が停止して辺りが静寂に包まれる。
「おい、どうした。一体何をやっている・・・!!!」
幾ら待っても始動しない馬車に業を煮やしたルグランジュが外に出て馭者を問い詰めようとするとー。
「・・・・・っ!!!」
(なっ!!?し、死んでおるのか・・・っ!!!)
馬車の運転台の上に座り込んだまま、馭者の男は息絶えておりその体からは夥しいまでの血液が流出していた、どうやら斬り殺されたらしい。
「・・・な、なんだ。これは!!!どうなっておるっ!!?」
「ルグランジュ侯爵・・・」
すると血相を変えて慌てふためいていたルグランジュの耳元に、若者の声が響いて来た、聞き慣れない声だが確かに流暢なガリア語を話している、と言う事はこの国の者に違いなかった。
「・・・な、何者だ。姿を見せろ!!!」
大地に立って声のする方に向き直ると、そこには自分よりも多少、小柄なしかし、ガッシリとした雰囲気のある長い黒髪をした一人の若者が立っていた。
その若者に、ルグランジュは見覚えがあった、先程晩餐会に出席していたエリオットの娘婿だ。
(・・・確か。“ソウタ”とか言ったか?)
「ルグランジュ侯爵・・・」
“いまお帰りですか?”と蒼太は再び口を開いた、その口調は冷たく冴えていて普段の優しくて暖かみのある彼とは纏う空気がまるで違う。
「・・・誰かと思えば。エリオットの所の小倅か、儂に一体何の用だ!!!」
「・・・何やら今夜は蒸しますね、ルグランジュ侯爵。水浴びでもされたら如何です?」
「何をバカな事を言っておる、いま何時だと・・・っ。ぎゃあっ!!!」
何事か言い掛けるルグランジュ侯爵だったが次の瞬間、それは短い悲鳴に取って代わられた、蒼太が愛用の聖剣“ナレク・アレスフィア”を一気に抜き放ち様、ルグランジュの肉体を刺し貫いたのだ。
「おが・・・っ。ぐはぁ・・・っ!!?」
「・・・痛いか?これはな、お前が今まで踏み潰して来た人々の悲しみと怒りだ。キッチリと抱き止めて三途の川を渡りな!!!」
そう言い捨てるとー。
蒼太は一度引き抜いた剣で更に一太刀、ルグランジュの体を切り付けた。
「ぐわあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
断末魔の呻き声を挙げながら、“ルグランジュ侯爵だったモノ”は絶命しつつも小川の中へと転がり落ちて行ったのだった、それを“残心”を取って眺めながら。
蒼太は剣を振るって空を切らせ、残った血を拭いつつ“ナレク・アレスフィア”を鞘に収めた、そうしておいてー。
周囲に注意深く意識を飛ばして警戒しながらも現場から足早に立ち去った彼は、そのまま少し離れた場所に止めてあった自動車に乗り込んでメリアリアやアウロラ、オリヴィア達の待っている宮廷へと引き返して行ったのである。
ーーーーーーーーーーーーーー
今回のお話で、なんで最後に蒼太君が“ルグランジュ侯爵”を斬り捨て、刺殺したのか、と言いますと、それは彼の残虐さや冷酷さ、そして何より執念深さからこれ以上、下手に生かしておくと自分は元よりアウロラ達にまで危害が及ぶであろう事を察した為です。
ちなみに前に何処かの後書きか何かで書かせていただいたかと思われますが、総勢で十数人前後ですが蒼太君は今までの人生で“人”を斬り殺した事が“あります”(これには“純粋な人間”のみならず“魔人”や“亜人”も含まれます)。
何故か、と言いますと3年間に渡る神との修業の結果、すっかり逞しくなって神界から現実世界に向けて帰還する途上、“時渡り”をしている最中に時空乱流に巻き込まれ掛けた結果、本来の時空軸線とは違う“並行世界”、即ち“パラレルワールド”の一つである“ガイア・マキナ”に迷い込んでしまった事があったのです。
ここは世界の大半が“闇の勢力”によって牛耳られている、“飢えと戦乱の世界線”でしたが蒼太君はここでも3年間程を過ごし、“この世界での自分自身”やメリアリア達から改めて戦闘訓練を受けて更に実力を付け、“闇の勢力”との戦闘に参加したのでした(彼等から世界を開放する為の戦いです)。
その際“闇の勢力”側の戦士達や用心棒達と何十回となく刃を交えたのですが、流石に闇の勢力が見込んで雇うだけあって彼等は誰もが皆、腕は篦棒(べらぼう)に立ちましたしその殺気もまた、凄まじいモノがありました。
ですからとてもの事、手心を加える、等という真似は出来ませんでしたし、それに彼等は誰もが戦う事しか知らない様な、実に血生臭い連中でした、そんな存在に下手に情けを掛けて命を助けると再び組織に戻って自分達に立ち向かって来る可能性がありましたから(即ち自分や味方に対しての脅威が持続してしまう事になってしまいますから)それを回避する為にも討たざるを得なかったのです(別にやりたくてやったのではありません)。
他者の命を奪うと言う、罪の意識と申し訳なさ。
また剣で生き物を斬り殺す際に刀を通じて伝わって来ると言う、肉を切り裂く感触と骨を断つ硬さ。
そう言った己の中に絶えず湧き上がって来る諸々の“心の苦味”と“痛々しい生々しさ”に耐えながら戦いや殺生を繰り返していったのです。
ちなみにメリアリアちゃん達花嫁組は三人とも全員がその事を知っています(蒼太君に打ち明けられたのです)、メリアリアちゃん達はそれでも蒼太君と共にある事を選びました(彼のいない人生等考えられなかったですし、その罪も汚らしさも一緒に背負う、と言う覚悟を決めたのです)。
その贖罪の意味もあり(またメリアリアちゃん達と共に、死んだ後も一緒に天国で過ごせるように、と言う目的もあって)彼は善行を積むために日々奮闘しています(例えば募金をしたりですとかあくまで“自分に出来る範囲で”ですが、人に見えない所で色々とやっているのです←これはメリアリアちゃん達も同じです)。
次のお話もなるべく早く出せたら良いと、つとに思っております(出来ましたならば遅くとも1週間~10日に一度ぐらいは新しい話を出して物語をスムーズに更新して行きたいです)。
それはちょっと前に流れていた“サンドウィッチマン”さん主演のピザーラの“ボッタルガのCM”と、今現在再放送で流れております時代劇“必殺仕事人”からのオマージュです(それらから着想を得た上で色々と考えを巡らせ、膨らませて物語として組み立て直してみました)、ただしお話自体は私の完全なオリジナルです(パクッた訳ではありません)。
ちなみに、なのですが。
今になって思い返してみれば“昭和の時代”と言うのは人々の心に確かに“愛と正義”が存在しており、そしてそれ故に“正しい意味での”夢や希望が育っていた世界ではありましたけれども、それと同時に“言いようの無い陰鬱さ”、即ち“暗さ”が垂れ込めていた期間でもありました。
何故ならばあの時代、まずは“戦争”がありました(人々の尊厳や命が今以上に軽視された時代でもありました)、また当時のアニメや時代劇、ドラマを見返してみるとやはり(例えば暴力シーンだとか殺人シーンだとかもそうなのですけれども、何と言うかもっとこう、全体的に)、何処か影のある演出と言いますか“剥き出しの闇”とでも言い表すしか無いのですがそう言ったダークでシリアスな雰囲気が随所に溢れていた世界でもあったのです。
それを今回のお話に限って一つまみ、“スパイス”として投入させてみたのです(“良い意味で刺激になってくれたら良い”と切に願っております)。
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「いやぁ、この“アスパラとボッタルガのグリル”、中々に美味ですな?」
「ボッタルガをトッピングしたサラダもかなりの極上品ですね!!!」
「チーズと和えても良い、ワインにもピッタリだ!!!」
明けて次の週の水曜日の夜。
予てよりの告知の通り、宮廷にて晩餐会が催される運びとなった。
もっとも今回はあくまでも裏貴族やそれに関わる上級階級向けの会合であったから、出席者達は一部の存在に限られたモノとなったがそれでもガリア帝国各地からそれなりの数の人々が集まって非常に華やいだ雰囲気が醸成されている。
その中にはメリアリアのカッシーニ家やオリヴィアのフェデラール家も含まれていて当然、彼女達も美しいドレスに着飾って蒼太と共に参加していた。
勿論、アウロラも同様であったが今回は彼等の子供達はそれぞれの実家でお留守番である、まだデビュタントには早過ぎる年齢であるために、蒼太やメリアリア、アウロラ、オリヴィアが揃って反対を表明し、今回は参加を見送る事となったのであった。
それに。
(もう既に、あの子達にも“幼馴染”はいるしな・・・)
と蒼太は思うが果たしてその通りであり、それぞれの花嫁達との間に彼が設けた子供達には、既にして仲の良い、同じ貴族や上級階級の幼馴染が数名程存在していて、その内の何名かは早くも“異性関係”を持っていたのだ。
「将来は是非、我が家の婿に来てくれないか?」
「行く行くはなんとか、こちらに嫁いできてもらいたいね・・・!!!」
相手方の両親からはそう言った話も内々に出ており、また本人達同士も異論は無く、蒼太の見た所双方の霊性や人格、相性等にも問題は無さそうに感じられてそちらの方は至って順風満帆である、だからデビュタントを急がなくとも別段、困る事は無かったのだ。
「大盛況ね、あなた?私も誇らしいわ!!!」
「流石です蒼太さん。お陰で助かりましたわ?」
「何やらフォンティーヌ伯爵家の危機を救ったとか。やるじゃないか、我が夫!!!」
関係者から漏れ聞こえてくる自分達の夫の活躍に、改めて彼に惚れ直していた花嫁達を前にして蒼太も悪い気はしない。
メリアリアもアウロラもオリヴィアも、皆顔を赤面させつつも、しっかりと彼の両腕や背中に腕を回してしがみ付いたりタキシードを掴んで引っ張ったりして蒼太と片時も離れなかった、彼女達の身も心も魂すらも完全に夫だけのモノであり、結婚から10年以上も経つと言うのに未だ以て彼に夢中でラブラブ状態であったのである。
思い返せば。
正直に言って過去に於いては蒼太より美形なイケメンや、一見逞しそうに見える男性もいるにはいたのだが彼女達は全くそれらに動じる事は無かった、ずっと蒼太の事が忘れられなかったからであり、メリアリアにとってもアウロラにとっても、そしてオリヴィアにとっても彼以上に格好良くて魅力的な人間など、存在し得なかったからに他ならなかった。
それに何より。
“この人は自分の事を、偽りなき真心で愛してくれている”。
“本当に大切に思ってくれている”。
“未だ以て一人の女の子として扱ってくれている”。
そう言った事を“女の勘”と“人としての直感”の双方から見抜いて確信していた彼女達はそれ故に、蒼太が向ける以上の超絶的なまでの愛情を彼に抱き続けており何があっても揺るぎない程の熱烈な信頼と敬意と確かなる思いとを秘め宿し続けていたのであった。
一方で。
「“クリームチーズを添えたボッタルガ・ポテト”、奥深い味わいですな?」
「“ボッタルガとシラスのピザ”、これはイケる。幾らでも腹に入るぞ!!?」
「いや、流石は名にし負うフォンティーヌ伯爵家だ。見事な料理を揃えましたな?」
“ワインも極上品ですしね?”と褒めちぎられて、饗応役に任じられていたエリオット伯爵もその夫人のシャルロットも内心でホッと胸を撫で下ろしていた。
娘婿である蒼太から“何とかなると思います”との発言を聞かされて以降、詳細を説明された二人は驚愕してしまった、それによると“エウロペ連邦文化圏以外にもボッタルガは存在しており、しかも高級珍味として扱われている”と言うのだ。
「正直に申しまして、もう既にめぼしい所には全て“ルグランジュ侯爵家”の手が伸びていると思われます。今からでは此方が幾ら交渉しても無駄でしょう」
「・・・確かにな。しかし、しかしだ。ではどうすれば良いと言うのかね?」
「お義父さん。申し訳御座いませんが少々、電話をお借りしてもよろしいですか?国際電話を掛けたいのですが・・・」
「・・・それは別に構わんが。一体、何処に電話するつもりなのかね?」
「日本の豊洲市場です。今掛ければ時差でちょうど競りが行われている最中だと思われますので“ボッタルガ”が手に入るかも知れませんよ?ただし“日本の”ね!!!」
「なにぃっ!!?」
その言葉を聞かされたトキには流石のエリオットも驚きの余りに二の句が継げ無くなってしまった。
「日本にもあるんですよ、昔から食べられている“ボッタルガ”が。もっとも向こうでは“カラスミ”と呼ばれていますけどね?」
「・・・・・っ!!?」
「な、なんと・・・っ!!!」
それを聞いて固まってしまったエリオット伯爵夫妻に代わって蒼太の義兄であるマクシムが言葉を返した。
「本当なのか?それは・・・!!!」
「本当だよ?義兄さん。味わいは此方のモノに比べると、日本の方がちょっとだけしょっぱいらしいけれど風味は殆ど一緒の筈だよ?何しろ元となる材料と製法は全く同じだからね・・・。それに今から手を打てば来週の晩餐会までには余裕で届くよ、飛行機で空輸してもらえば良いんだから。ただし・・・」
“僕達は正規のお客さんじゃない”と蒼太はそこで初めて難しそうな顔をした。
「彼方には昔ながらの“お得意さん”もいる訳だし。それらに無理を言って譲ってもらう事になるから、それなりに値は張るだろうと思うけど・・・」
「構わん!!!」
するとその話を聞いて暫くの間沈黙していたエリオット伯爵が、頭を上げて発言する。
「背に腹はかえられん。蒼太君、ここは幾ら金額が掛かっても良いから話を付けてくれたまえ!!!」
「了解しました!!!」
エリオット伯爵の許可を取り付けた青年はアウロラ以下フォンティーヌ伯爵家の面々が見守る中で臆する事無く競りに参加しては、見事な交渉術を用いて晩餐会には充分な量のカラスミを確保する事に成功した、と言う訳である。
「いや、それにしても流石は蒼太君だ。まさか日本のボッタルガを用意するとは思わなかったな、その手は考えつかなかった!!!」
「本当です。些か値は張りましたけど空輸代と合わせて正規品のボッタルガよりも多少、高く付いた位ですし・・・。日本の方々が良心的で本当に良かったですわ!!!」
そう言い合って嬉しそうに、得意そうに皆の輪に入って行くエリオット伯爵夫妻を、苦々しい視線で見つめる一人の男の姿があった。
上下を黒いタキシードに身を包み、ガタイと恰幅は中々に良いが頭は頭頂部分まで禿げていて残されていた髪の毛は瞳と同色のブラウン、実に厳めしい面構えをした初老の紳士だが彼こそが今回、フォンティーヌ伯爵家を破滅に追いやろうと画策した黒幕であり張本人、ルグランジュ侯爵その人であるモノの、もっとも。
ルグランジュが人を嵌めようとしたのは今回が初めての話では決して無かった、過去には政敵や邪魔になりそうな者達を相当数、ありとあらゆる手段を用いて闇から闇へ葬って来たのであり、また蹴落としても来たのであって、その為に涙を流した人々の数は有に100を超えておりその為、彼に対する怨嗟の声が彼方此方から挙がって来ていたのであった。
「・・・・・」
(おのれ、エリオットめ。今回は何とか逃れたようだな、しかし思った以上にしぶとい奴だ・・・!!!)
“それに”と彼は思う、“あのジャポネめ、余計な事をしてくれたな!!!”と。
(今回の一件が失敗したのは、奴の横槍の仕業だという噂もある。今度からは奴も抹殺対象に入れて掛からねばな・・・)
そんな事を考えつつもパーティー会場に戻って何食わぬ顔で恙無く全行程を終えたルグランジュは、一足先に待たせていた馭者の男に指示を出して馬車で帰宅の途に着いた。
「旦那様、首尾は如何で御座いましたか?」
「ふん。残念な事にエリオットめ、逃げ延びおった!!!」
「それは無念で御座いますね、ではフォンティーヌ伯爵家はどうなさるおつもりで・・・」
「なに、奴らはこのままでは済まさん。新たな計画は既に進行しているのだ、必ず抹殺してやる。・・・お前にもまた役に立ってもらうぞ?」
「畏まりました旦那様。仰せの通りに・・・」
自らも何度となくルグランジュ侯爵の謀略に加担していた馭者は恭しく頭を下げると主人が乗り込むのを待ってから、馬車をゆっくりと出立させる。
(・・・さてと。これから忙しくなるぞ?エリオット、それにソウタと言ったか?あのジャポネめ、ただでは済まさんぞ。私に楯突いて恥を掻かせた事を、タップリと後悔させてやるわ!!!)
自宅へと続く、小川の傍の小道を走りつつもルグランジュが頭の中でいかがわしい計算を始めた、その時だ。
「ぐわぁっ!!?」
「どうした・・・っ!!?」
不意に外から馭者の悲鳴が聞こえたと同時に馬車が停止して辺りが静寂に包まれる。
「おい、どうした。一体何をやっている・・・!!!」
幾ら待っても始動しない馬車に業を煮やしたルグランジュが外に出て馭者を問い詰めようとするとー。
「・・・・・っ!!!」
(なっ!!?し、死んでおるのか・・・っ!!!)
馬車の運転台の上に座り込んだまま、馭者の男は息絶えておりその体からは夥しいまでの血液が流出していた、どうやら斬り殺されたらしい。
「・・・な、なんだ。これは!!!どうなっておるっ!!?」
「ルグランジュ侯爵・・・」
すると血相を変えて慌てふためいていたルグランジュの耳元に、若者の声が響いて来た、聞き慣れない声だが確かに流暢なガリア語を話している、と言う事はこの国の者に違いなかった。
「・・・な、何者だ。姿を見せろ!!!」
大地に立って声のする方に向き直ると、そこには自分よりも多少、小柄なしかし、ガッシリとした雰囲気のある長い黒髪をした一人の若者が立っていた。
その若者に、ルグランジュは見覚えがあった、先程晩餐会に出席していたエリオットの娘婿だ。
(・・・確か。“ソウタ”とか言ったか?)
「ルグランジュ侯爵・・・」
“いまお帰りですか?”と蒼太は再び口を開いた、その口調は冷たく冴えていて普段の優しくて暖かみのある彼とは纏う空気がまるで違う。
「・・・誰かと思えば。エリオットの所の小倅か、儂に一体何の用だ!!!」
「・・・何やら今夜は蒸しますね、ルグランジュ侯爵。水浴びでもされたら如何です?」
「何をバカな事を言っておる、いま何時だと・・・っ。ぎゃあっ!!!」
何事か言い掛けるルグランジュ侯爵だったが次の瞬間、それは短い悲鳴に取って代わられた、蒼太が愛用の聖剣“ナレク・アレスフィア”を一気に抜き放ち様、ルグランジュの肉体を刺し貫いたのだ。
「おが・・・っ。ぐはぁ・・・っ!!?」
「・・・痛いか?これはな、お前が今まで踏み潰して来た人々の悲しみと怒りだ。キッチリと抱き止めて三途の川を渡りな!!!」
そう言い捨てるとー。
蒼太は一度引き抜いた剣で更に一太刀、ルグランジュの体を切り付けた。
「ぐわあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」
断末魔の呻き声を挙げながら、“ルグランジュ侯爵だったモノ”は絶命しつつも小川の中へと転がり落ちて行ったのだった、それを“残心”を取って眺めながら。
蒼太は剣を振るって空を切らせ、残った血を拭いつつ“ナレク・アレスフィア”を鞘に収めた、そうしておいてー。
周囲に注意深く意識を飛ばして警戒しながらも現場から足早に立ち去った彼は、そのまま少し離れた場所に止めてあった自動車に乗り込んでメリアリアやアウロラ、オリヴィア達の待っている宮廷へと引き返して行ったのである。
ーーーーーーーーーーーーーー
今回のお話で、なんで最後に蒼太君が“ルグランジュ侯爵”を斬り捨て、刺殺したのか、と言いますと、それは彼の残虐さや冷酷さ、そして何より執念深さからこれ以上、下手に生かしておくと自分は元よりアウロラ達にまで危害が及ぶであろう事を察した為です。
ちなみに前に何処かの後書きか何かで書かせていただいたかと思われますが、総勢で十数人前後ですが蒼太君は今までの人生で“人”を斬り殺した事が“あります”(これには“純粋な人間”のみならず“魔人”や“亜人”も含まれます)。
何故か、と言いますと3年間に渡る神との修業の結果、すっかり逞しくなって神界から現実世界に向けて帰還する途上、“時渡り”をしている最中に時空乱流に巻き込まれ掛けた結果、本来の時空軸線とは違う“並行世界”、即ち“パラレルワールド”の一つである“ガイア・マキナ”に迷い込んでしまった事があったのです。
ここは世界の大半が“闇の勢力”によって牛耳られている、“飢えと戦乱の世界線”でしたが蒼太君はここでも3年間程を過ごし、“この世界での自分自身”やメリアリア達から改めて戦闘訓練を受けて更に実力を付け、“闇の勢力”との戦闘に参加したのでした(彼等から世界を開放する為の戦いです)。
その際“闇の勢力”側の戦士達や用心棒達と何十回となく刃を交えたのですが、流石に闇の勢力が見込んで雇うだけあって彼等は誰もが皆、腕は篦棒(べらぼう)に立ちましたしその殺気もまた、凄まじいモノがありました。
ですからとてもの事、手心を加える、等という真似は出来ませんでしたし、それに彼等は誰もが戦う事しか知らない様な、実に血生臭い連中でした、そんな存在に下手に情けを掛けて命を助けると再び組織に戻って自分達に立ち向かって来る可能性がありましたから(即ち自分や味方に対しての脅威が持続してしまう事になってしまいますから)それを回避する為にも討たざるを得なかったのです(別にやりたくてやったのではありません)。
他者の命を奪うと言う、罪の意識と申し訳なさ。
また剣で生き物を斬り殺す際に刀を通じて伝わって来ると言う、肉を切り裂く感触と骨を断つ硬さ。
そう言った己の中に絶えず湧き上がって来る諸々の“心の苦味”と“痛々しい生々しさ”に耐えながら戦いや殺生を繰り返していったのです。
ちなみにメリアリアちゃん達花嫁組は三人とも全員がその事を知っています(蒼太君に打ち明けられたのです)、メリアリアちゃん達はそれでも蒼太君と共にある事を選びました(彼のいない人生等考えられなかったですし、その罪も汚らしさも一緒に背負う、と言う覚悟を決めたのです)。
その贖罪の意味もあり(またメリアリアちゃん達と共に、死んだ後も一緒に天国で過ごせるように、と言う目的もあって)彼は善行を積むために日々奮闘しています(例えば募金をしたりですとかあくまで“自分に出来る範囲で”ですが、人に見えない所で色々とやっているのです←これはメリアリアちゃん達も同じです)。
次のお話もなるべく早く出せたら良いと、つとに思っております(出来ましたならば遅くとも1週間~10日に一度ぐらいは新しい話を出して物語をスムーズに更新して行きたいです)。
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