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夫婦の絆と子供への思い
夫婦の絆と子供への思い 5
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ドラクエV31周年記念、誠に御目出度う御座います。
アウロラちゃんのお話を書いておいて何なのですけれども、数え切れない程プレイしましたが嫁はいつもビアンカ一択です(ビアンカ可愛いよ、ビアンカ)。
ーーーーーーーーーーーーーー
「お帰りなさい!!!」
「お父さん!!!」
「父さん!!!」
「パパ!!!」
「あはは・・・。アルチュールとアンナ、ジュールにミラ、ユーゴもマノンも、そして蒼矢も。みんなただいま、ちゃんと良い子にしてたかい?」
メリアリアとたっぷりの愛を交わしてから更に1週間程カッシーニ邸に滞在して心身をすっかりとリラックスする事に成功した蒼太は満を持して次の花嫁であるアウロラと、その家族の待つフォンティーヌ邸へと足を運んだ。
屋敷では連絡を受けたアウロラが、彼の到着を今か今かと待ち侘びており、また彼女との子供達も久方振りとなる父親の帰省に胸を躍らせていたのであるモノの彼等は皆素直で良い子達であり、生まれてから特に問題などは起こさずに今まで過ごす事が出来ていたのだ(ただし赤ん坊の頃は夜泣きやグズり等で散々に手を焼かされたが)。
「お父さん、お帰りなさい!!!」
「父さん。僕、新しい魔法を覚えたんだよ!!?」
「お祖父様が新しい玩具を買ってくれたの!!!」
「あはははっ。そっか、そっか。皆元気そうで何よりだよ・・・」
自らに飛び付いて来る子供達を順々に抱き締めたり、抱き抱えたりしながら蒼太は笑顔で彼等に応えていたモノの、その最後に。
「アウロラ・・・」
「・・・・・っ!!?」
「アウロラ、おいで?」
「・・・・・っ。あなた!!!」
今や立派な美淑女に成長していた青髪の愛妻を己の元へと呼び寄せては彼女と熱い抱擁を交わす。
正直に言って子供達の手前で遠慮していたのと最近、夫に会えていなかった寂しさから心に寒風の吹いていたアウロラは頬を赤らめつつも涙ながらに喜び勇んで彼の腕の中へと飛び込み、情熱的に全身を情熱的に何度も何度も擦り寄せるが、そんな彼女を。
「あなたぁっ。あなたあなたあなたあなたあなたっ!!!」
「あははっ。可愛いね、アウロラは・・・!!!」
蒼太は優しい笑顔でしっかりと受け止めるモノの彼は恥ずかしさかれ思わず赤面してしまう子供達の前にも関わらず、臆面も無くメリアリアやアウロラ、オリヴィアと言った花嫁達と抱き締め合い、頭を撫でては愛を囁き続けていたのであるが、これは実は、夫婦関係を円滑にするのみならず非常に重要な意味合いを持っていた。
子供達はこれを見て無言の内に感得して学ぶのである、男の女に対する接し方や女の男に対する応じ方、そして夫婦とはどう在るべきか、互いを愛でるとはどう言う事なのか、と言う事を、だ、そう言った意味もあってだから蒼太は(正直に言えば“ちょっと恥ずかしい”と言う思いも無くは無かったが)敢えて子供達の眼前でも、二人きりの時でも妻を労うと同時に愛でる事にしていたのだった。
「・・・グス、ヒグッ!!!も、もうっ、あなたったら中々私の所に来てくれ無いんだもん。寂しかったわ?」
「あはは・・・。ごめんね?アウロラ、一人にさせちゃって・・・!!!」
“来て・・・”と申し訳無さそうにそう告げる夫に対して青髪淑女はその手を引っ張り、屋敷の方に歩みを進める。
「父達も喜びますわ?皆あなたの話で持ち切りだったんですもの。ビックリすると思います・・・!!!」
そう述べ立てる彼女の顔にはしかし、何処か陰鬱な雰囲気が漂っていた、それを見て“何かあったのかな?”と考えた蒼太はアウロラにその事に付いて問い質す。
「・・・どうかしたのかい?アウロラ。何だか顔が暗いけど」
「・・・ちょっと色々とあるんですの。詳しくは父に会って、どうか話を聞いてあげて欲しいの!!!」
「お祖父ちゃん、大変なんだよ?お父さん!!!」
「話を聞いてあげてよ、父さん!!!」
必死の面持ちでそう縋り付く愛妻に青年は襟を正して子供達共々第二の義父であるエリオット伯爵の元へと向かった。
「お久し振りです、お義父さん。そしてお義母さんも!!!」
「おお、蒼太君!!!2ヶ月と半月ぶりだね、いま帰ったのかい?」
「蒼太さん、お久し振りです。今回の任務は終わったのですか・・・?」
突然の婿の来訪に何処かホッとした笑顔で出迎えてくれた義両親に対して蒼太は“ええ、何とか・・・”と思わず相好を崩した、フォンティーヌ家は相変わらず広大だが屋敷や庭の隅々にまでよく手が行き届いており、清潔感と落ち着きに満ち溢れていたのだ。
「・・・あれ、マクシムは?義兄はどうしたのですか?」
「う、うん。それが今、ちょっとな・・・」
「実は少し困った事態に陥りましてね。真にもって、お恥ずかしい話なんですけれども・・・」
蒼太の言葉にそう応えると、二人は暗い表情をして俯いてしまうが、それを見るなり“これはただ事では無い”と看破した青年は尚も口を開いて彼等に尋ねた。
「お義父さん、それにお義母さんも。一体どうなされたのですか?僕で良かったら話を聞きます・・・」
「・・・う、うーん。それがね」
「実は私達はこの度、宮廷の晩餐会の饗応役を仰せ付かりましたのよ?・・・それも皇帝陛下直々に、ね」
「へえぇ、それは凄いですね。名誉な事じゃ無いですか!!!」
蒼太がそう言って感心して見せるモノの、そもそもがこの“晩餐会の饗応役”と言うのはある程度以上の名声と財力に加え、礼儀作法と食文化に精通している者だけが使命される、非常に名誉な役職でありこれをキチンと果たした家系は間違いなく爵位が上昇する、とされていたのだ。
それだけではない、社交界に於ける発言力も増す等、政治的なメリットも多数、存在していたのだが反面、これをしっかりと努められなかった者は降格か、下手をすれば社交界から追い出されて笑い物にされた挙げ句に酷い場合だと“せっかく信じて任命して下さった皇帝陛下に恥を掻かせた”とのかどで家そのものが廃爵される可能性すらあったのである。
「ハッキリと言って私達のフォンティーヌ家は“裏貴族”に属している家柄だ、確かに隆盛はしたモノの本来ならば間違っても“宮廷晩餐会の饗応役”等を任じられる事は無い筈だったのだが・・・」
「そこで不審に思って調べてみた所、裏で“ルグランジュ侯爵家”が糸を引いているのが解ったのです」
エリオット伯爵の言葉を継いでシャルロット夫人が尚も続ける。
「ルグランジュ侯爵家は、昔から私達フォンティーヌ伯爵家を目の敵にしていてな?予てより様々な形で妨害や嫌がらせを繰り返して来ていたのだが・・・。それがいよいよ本格的にケリを着けに来た、と言う所だろうな」
「聞けばアウロラも、ガルダンプ修道院でルグランジュ侯爵家の御令嬢のグループから嫌がらせを受けたとか。可哀想な事をしました・・・」
「・・・アウロラが?」
その言葉にピクリと眉をひそめる蒼太は続けて青髪の愛妻を見やると、彼女は何処か寂しそうに、そして申し訳無さそうに微笑みながら肩をすくめた。
「・・・そのルグランジュ侯爵家と言うのも、裏貴族の一員なんですか?」
「ああ、そうだ。侯爵家を名乗っているだけあってその家格は我等よりも上、しかもやり口は冷酷で残虐であり、極めて利己的な連中だよ。ただし自己保身には非常に長けていてな?これまでも任務での失敗や仲間内での闇討ち等があっても噂ばかりで決して面には出て来なかった・・・」
「潰された人々や家は数知れず、しかしそのどれもが憶測や噂に過ぎません。勿論、彼等が犯人や黒幕である、と言う“状況証拠”は山ほどあるのですけれども直接的な“物証”が無いのです。それがルグランジュ侯爵家の狡猾な部分なのですよ・・・」
「・・・・・」
“それに下手に関わると手酷い報復を為される可能性もあるので誰も彼も手出し出来ずにいたそうなのですよ”と言う義両親からの話を聞いて蒼太は何事かを思案していたのだが、その途中で。
「親父殿!!!」
「マクシム!!!」
「戻りましたか!!!」
何やら廊下がガヤガヤと騒がしくなり、数名の人の気配が近付いて来た、と思ったら、蒼太の幼馴染の一人にして今や義兄となったマクシム・フォンティーヌが息を切らせて応接室に入って来た。
「マクシム義兄さん!!!」
「おおっ!!?蒼太じゃないか、久し振りだな。今帰ったのかい・・・?」
義弟との思い掛けない再会に、マクシムから笑みがこぼれるモノの、すぐに神妙そうな顔付きとなった彼はエリオット伯爵に向き直った。
「ダメだよ、親父殿。既に市場では“ボッタルガ”が買い占められていて、我が家では手が出せなかった。何処も彼処も売ってくれなかったんだ・・・!!!」
「・・・・・」
「何という、事でしょうか・・・!!!」
それを聞いたエリオット伯爵とシャルロット夫人は肩を落とすと同時に俯いてしまうが、ここまで来ると蒼太にも段々と事態が飲み込めて来た、要するに晩餐会の食事でどうしても珍味である“ボッタルガ”が必要なのであり、それの調達にエリオット達は腐心している、と言う事なのであろう、多分。
それを恐らく、裏から手を回して妨害しているのが件の“ルグランジュ侯爵家”でありその為、エリオット達はホトホト手を焼いている、そう言う図式なのだろう事が窺えるが、さて。
「ただ朗報もある。仲買人の何人かから、“ルグランジュ侯爵家から直接、フォンティーヌ伯爵家にはボッタルガを売るなと指示された”と言う証言を得たんだ。これをもってすれば皇帝陛下も辛辣な処遇は・・・」
「・・・いいや、それだけではまずい。ルグランジュ侯爵家は昔からそう言った報告が上がる度に証人を闇討ちして消して来たし、それにルグランジュ侯爵もあれで中々、ずる賢さのある化け狸だ。逆に“我が家を貶める為のデマをフォンティーヌ伯爵家が流そうとしている”と偽って、此方に対する新たな攻撃材料にするかも知れん」
そう述べてエリオット伯爵は思わず頭を抱え込む。
「まずい、まずいぞ。“ボッタルガ”が無ければ晩餐会の成功は望めない、そうすれば我等は下手をしたなら一家揃って取り潰しの身となってしまうだろう。何か良い方法は無いモノか・・・」
「晩餐会はもう、来週に迫っているのです。早く食材を準備しなければ調理の仕込みに間に合わなくなってしまうのです・・・!!!」
「・・・お義父さん、お義母さん」
するとそこまで話を聞いていた蒼太が初めてゆっくりと口を開いた。
「要するに“ボッタルガ”が手に入れば問題は解決する、そう言う事ですよね?」
「それはそうだが・・・。しかし蒼太君、一筋縄ではいかないぞ?何しろ相手は侯爵家なのだ、家格は向こう側が上なのだから此方としては手の打ちようが無いんだよ・・・」
「ガリア帝国は勿論、隣のエトルリア王国やヒスパニア王国の市場にも出来る限りのコネクションを用いてアクセスをしてみたのですけれど・・・。結果は惨憺たるモノでした、やはりルグランジュ侯爵家が裏から手を回して私達を蹴落とそうとしているのでしょう・・・」
「・・・アクセスしたのはエウロペ連邦地域の市場だけですよね?」
「・・・まあそうだが。しかしな、蒼太君。“ボッタルガ”は正直に言って珍味中の珍味だ、あれ程の味わいを作り出せる食文化はエウロペ連邦以外には」
「ありますよ?“ボッタルガ”」
“なんとかなるかも知れませんよ?”と些か困惑しているエリオット伯爵夫妻に対して蒼太は悪戯っぽく笑って応えた。
ーーーーーーーーーーーーーー
“ボッタルガ”とは“ボラ”や“マグロ”の卵巣を塩漬けにして乾燥させたモノでして、その起源はフェニキア時代、即ち古代ローマよりも以前だとされています。
味わいはマイルドな塩辛さがあり、それでいてクリーミー、ねっとりとした食感が特徴です(フレンチやイタリアンで出て来る著名な高級食材であり珍味とされている代物です)。
今回、フォンティーヌ伯爵家は宮廷晩餐会にこれを用いたメニューをお披露目する筈でしたが、それをルグランジュ侯爵家に妨害されてしまいました(肝心要の“ボッタルガ”が手に入らなくなってしまったのです)。
しかし、蒼太君には何か思惑があるようです(この危機をどう切り抜けるのか、お手並み拝見と参りましょうか)。
アウロラちゃんのお話を書いておいて何なのですけれども、数え切れない程プレイしましたが嫁はいつもビアンカ一択です(ビアンカ可愛いよ、ビアンカ)。
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「お帰りなさい!!!」
「お父さん!!!」
「父さん!!!」
「パパ!!!」
「あはは・・・。アルチュールとアンナ、ジュールにミラ、ユーゴもマノンも、そして蒼矢も。みんなただいま、ちゃんと良い子にしてたかい?」
メリアリアとたっぷりの愛を交わしてから更に1週間程カッシーニ邸に滞在して心身をすっかりとリラックスする事に成功した蒼太は満を持して次の花嫁であるアウロラと、その家族の待つフォンティーヌ邸へと足を運んだ。
屋敷では連絡を受けたアウロラが、彼の到着を今か今かと待ち侘びており、また彼女との子供達も久方振りとなる父親の帰省に胸を躍らせていたのであるモノの彼等は皆素直で良い子達であり、生まれてから特に問題などは起こさずに今まで過ごす事が出来ていたのだ(ただし赤ん坊の頃は夜泣きやグズり等で散々に手を焼かされたが)。
「お父さん、お帰りなさい!!!」
「父さん。僕、新しい魔法を覚えたんだよ!!?」
「お祖父様が新しい玩具を買ってくれたの!!!」
「あはははっ。そっか、そっか。皆元気そうで何よりだよ・・・」
自らに飛び付いて来る子供達を順々に抱き締めたり、抱き抱えたりしながら蒼太は笑顔で彼等に応えていたモノの、その最後に。
「アウロラ・・・」
「・・・・・っ!!?」
「アウロラ、おいで?」
「・・・・・っ。あなた!!!」
今や立派な美淑女に成長していた青髪の愛妻を己の元へと呼び寄せては彼女と熱い抱擁を交わす。
正直に言って子供達の手前で遠慮していたのと最近、夫に会えていなかった寂しさから心に寒風の吹いていたアウロラは頬を赤らめつつも涙ながらに喜び勇んで彼の腕の中へと飛び込み、情熱的に全身を情熱的に何度も何度も擦り寄せるが、そんな彼女を。
「あなたぁっ。あなたあなたあなたあなたあなたっ!!!」
「あははっ。可愛いね、アウロラは・・・!!!」
蒼太は優しい笑顔でしっかりと受け止めるモノの彼は恥ずかしさかれ思わず赤面してしまう子供達の前にも関わらず、臆面も無くメリアリアやアウロラ、オリヴィアと言った花嫁達と抱き締め合い、頭を撫でては愛を囁き続けていたのであるが、これは実は、夫婦関係を円滑にするのみならず非常に重要な意味合いを持っていた。
子供達はこれを見て無言の内に感得して学ぶのである、男の女に対する接し方や女の男に対する応じ方、そして夫婦とはどう在るべきか、互いを愛でるとはどう言う事なのか、と言う事を、だ、そう言った意味もあってだから蒼太は(正直に言えば“ちょっと恥ずかしい”と言う思いも無くは無かったが)敢えて子供達の眼前でも、二人きりの時でも妻を労うと同時に愛でる事にしていたのだった。
「・・・グス、ヒグッ!!!も、もうっ、あなたったら中々私の所に来てくれ無いんだもん。寂しかったわ?」
「あはは・・・。ごめんね?アウロラ、一人にさせちゃって・・・!!!」
“来て・・・”と申し訳無さそうにそう告げる夫に対して青髪淑女はその手を引っ張り、屋敷の方に歩みを進める。
「父達も喜びますわ?皆あなたの話で持ち切りだったんですもの。ビックリすると思います・・・!!!」
そう述べ立てる彼女の顔にはしかし、何処か陰鬱な雰囲気が漂っていた、それを見て“何かあったのかな?”と考えた蒼太はアウロラにその事に付いて問い質す。
「・・・どうかしたのかい?アウロラ。何だか顔が暗いけど」
「・・・ちょっと色々とあるんですの。詳しくは父に会って、どうか話を聞いてあげて欲しいの!!!」
「お祖父ちゃん、大変なんだよ?お父さん!!!」
「話を聞いてあげてよ、父さん!!!」
必死の面持ちでそう縋り付く愛妻に青年は襟を正して子供達共々第二の義父であるエリオット伯爵の元へと向かった。
「お久し振りです、お義父さん。そしてお義母さんも!!!」
「おお、蒼太君!!!2ヶ月と半月ぶりだね、いま帰ったのかい?」
「蒼太さん、お久し振りです。今回の任務は終わったのですか・・・?」
突然の婿の来訪に何処かホッとした笑顔で出迎えてくれた義両親に対して蒼太は“ええ、何とか・・・”と思わず相好を崩した、フォンティーヌ家は相変わらず広大だが屋敷や庭の隅々にまでよく手が行き届いており、清潔感と落ち着きに満ち溢れていたのだ。
「・・・あれ、マクシムは?義兄はどうしたのですか?」
「う、うん。それが今、ちょっとな・・・」
「実は少し困った事態に陥りましてね。真にもって、お恥ずかしい話なんですけれども・・・」
蒼太の言葉にそう応えると、二人は暗い表情をして俯いてしまうが、それを見るなり“これはただ事では無い”と看破した青年は尚も口を開いて彼等に尋ねた。
「お義父さん、それにお義母さんも。一体どうなされたのですか?僕で良かったら話を聞きます・・・」
「・・・う、うーん。それがね」
「実は私達はこの度、宮廷の晩餐会の饗応役を仰せ付かりましたのよ?・・・それも皇帝陛下直々に、ね」
「へえぇ、それは凄いですね。名誉な事じゃ無いですか!!!」
蒼太がそう言って感心して見せるモノの、そもそもがこの“晩餐会の饗応役”と言うのはある程度以上の名声と財力に加え、礼儀作法と食文化に精通している者だけが使命される、非常に名誉な役職でありこれをキチンと果たした家系は間違いなく爵位が上昇する、とされていたのだ。
それだけではない、社交界に於ける発言力も増す等、政治的なメリットも多数、存在していたのだが反面、これをしっかりと努められなかった者は降格か、下手をすれば社交界から追い出されて笑い物にされた挙げ句に酷い場合だと“せっかく信じて任命して下さった皇帝陛下に恥を掻かせた”とのかどで家そのものが廃爵される可能性すらあったのである。
「ハッキリと言って私達のフォンティーヌ家は“裏貴族”に属している家柄だ、確かに隆盛はしたモノの本来ならば間違っても“宮廷晩餐会の饗応役”等を任じられる事は無い筈だったのだが・・・」
「そこで不審に思って調べてみた所、裏で“ルグランジュ侯爵家”が糸を引いているのが解ったのです」
エリオット伯爵の言葉を継いでシャルロット夫人が尚も続ける。
「ルグランジュ侯爵家は、昔から私達フォンティーヌ伯爵家を目の敵にしていてな?予てより様々な形で妨害や嫌がらせを繰り返して来ていたのだが・・・。それがいよいよ本格的にケリを着けに来た、と言う所だろうな」
「聞けばアウロラも、ガルダンプ修道院でルグランジュ侯爵家の御令嬢のグループから嫌がらせを受けたとか。可哀想な事をしました・・・」
「・・・アウロラが?」
その言葉にピクリと眉をひそめる蒼太は続けて青髪の愛妻を見やると、彼女は何処か寂しそうに、そして申し訳無さそうに微笑みながら肩をすくめた。
「・・・そのルグランジュ侯爵家と言うのも、裏貴族の一員なんですか?」
「ああ、そうだ。侯爵家を名乗っているだけあってその家格は我等よりも上、しかもやり口は冷酷で残虐であり、極めて利己的な連中だよ。ただし自己保身には非常に長けていてな?これまでも任務での失敗や仲間内での闇討ち等があっても噂ばかりで決して面には出て来なかった・・・」
「潰された人々や家は数知れず、しかしそのどれもが憶測や噂に過ぎません。勿論、彼等が犯人や黒幕である、と言う“状況証拠”は山ほどあるのですけれども直接的な“物証”が無いのです。それがルグランジュ侯爵家の狡猾な部分なのですよ・・・」
「・・・・・」
“それに下手に関わると手酷い報復を為される可能性もあるので誰も彼も手出し出来ずにいたそうなのですよ”と言う義両親からの話を聞いて蒼太は何事かを思案していたのだが、その途中で。
「親父殿!!!」
「マクシム!!!」
「戻りましたか!!!」
何やら廊下がガヤガヤと騒がしくなり、数名の人の気配が近付いて来た、と思ったら、蒼太の幼馴染の一人にして今や義兄となったマクシム・フォンティーヌが息を切らせて応接室に入って来た。
「マクシム義兄さん!!!」
「おおっ!!?蒼太じゃないか、久し振りだな。今帰ったのかい・・・?」
義弟との思い掛けない再会に、マクシムから笑みがこぼれるモノの、すぐに神妙そうな顔付きとなった彼はエリオット伯爵に向き直った。
「ダメだよ、親父殿。既に市場では“ボッタルガ”が買い占められていて、我が家では手が出せなかった。何処も彼処も売ってくれなかったんだ・・・!!!」
「・・・・・」
「何という、事でしょうか・・・!!!」
それを聞いたエリオット伯爵とシャルロット夫人は肩を落とすと同時に俯いてしまうが、ここまで来ると蒼太にも段々と事態が飲み込めて来た、要するに晩餐会の食事でどうしても珍味である“ボッタルガ”が必要なのであり、それの調達にエリオット達は腐心している、と言う事なのであろう、多分。
それを恐らく、裏から手を回して妨害しているのが件の“ルグランジュ侯爵家”でありその為、エリオット達はホトホト手を焼いている、そう言う図式なのだろう事が窺えるが、さて。
「ただ朗報もある。仲買人の何人かから、“ルグランジュ侯爵家から直接、フォンティーヌ伯爵家にはボッタルガを売るなと指示された”と言う証言を得たんだ。これをもってすれば皇帝陛下も辛辣な処遇は・・・」
「・・・いいや、それだけではまずい。ルグランジュ侯爵家は昔からそう言った報告が上がる度に証人を闇討ちして消して来たし、それにルグランジュ侯爵もあれで中々、ずる賢さのある化け狸だ。逆に“我が家を貶める為のデマをフォンティーヌ伯爵家が流そうとしている”と偽って、此方に対する新たな攻撃材料にするかも知れん」
そう述べてエリオット伯爵は思わず頭を抱え込む。
「まずい、まずいぞ。“ボッタルガ”が無ければ晩餐会の成功は望めない、そうすれば我等は下手をしたなら一家揃って取り潰しの身となってしまうだろう。何か良い方法は無いモノか・・・」
「晩餐会はもう、来週に迫っているのです。早く食材を準備しなければ調理の仕込みに間に合わなくなってしまうのです・・・!!!」
「・・・お義父さん、お義母さん」
するとそこまで話を聞いていた蒼太が初めてゆっくりと口を開いた。
「要するに“ボッタルガ”が手に入れば問題は解決する、そう言う事ですよね?」
「それはそうだが・・・。しかし蒼太君、一筋縄ではいかないぞ?何しろ相手は侯爵家なのだ、家格は向こう側が上なのだから此方としては手の打ちようが無いんだよ・・・」
「ガリア帝国は勿論、隣のエトルリア王国やヒスパニア王国の市場にも出来る限りのコネクションを用いてアクセスをしてみたのですけれど・・・。結果は惨憺たるモノでした、やはりルグランジュ侯爵家が裏から手を回して私達を蹴落とそうとしているのでしょう・・・」
「・・・アクセスしたのはエウロペ連邦地域の市場だけですよね?」
「・・・まあそうだが。しかしな、蒼太君。“ボッタルガ”は正直に言って珍味中の珍味だ、あれ程の味わいを作り出せる食文化はエウロペ連邦以外には」
「ありますよ?“ボッタルガ”」
“なんとかなるかも知れませんよ?”と些か困惑しているエリオット伯爵夫妻に対して蒼太は悪戯っぽく笑って応えた。
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“ボッタルガ”とは“ボラ”や“マグロ”の卵巣を塩漬けにして乾燥させたモノでして、その起源はフェニキア時代、即ち古代ローマよりも以前だとされています。
味わいはマイルドな塩辛さがあり、それでいてクリーミー、ねっとりとした食感が特徴です(フレンチやイタリアンで出て来る著名な高級食材であり珍味とされている代物です)。
今回、フォンティーヌ伯爵家は宮廷晩餐会にこれを用いたメニューをお披露目する筈でしたが、それをルグランジュ侯爵家に妨害されてしまいました(肝心要の“ボッタルガ”が手に入らなくなってしまったのです)。
しかし、蒼太君には何か思惑があるようです(この危機をどう切り抜けるのか、お手並み拝見と参りましょうか)。
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