メサイアの灯火

ハイパーキャノン

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神世への追憶編

レウルーラの岐路

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「あなたっ!!!」

「良かった!!!」

「無事だったか!!!」

 セイレーン本部から緊急通信を受けた蒼太が復命の為にアンリ共々急いで帰所して玄関口まで立ち戻ると、そこにはメリアリア達花嫁組が待ち受けており、皆競い合うようにして青年に駆け寄って来ては人目も憚らずに真正面から抱き着いて来る。

「もう・・・っ。心配したんだからね!!?」

「蒼太さんに万一の事があったら、私。私・・・っ!!!」

「本当にもう・・・っ。こんなにまで私を不安にさせて・・・!!!」

 口々にそう言って潤んだ瞳を向けて来るメリアリア達に“ごめん、ごめん・・・!!!”と苦笑しつつも頭を下げた蒼太は一人ずつにハグをして返した。

「本部から、君達名義で緊急の帰所指令を受けたんだけれども・・・。何かあったのかい?」

「あったも何も・・・。レウルーラの“超新星”を覚えているわよね?」

「・・・ああ」

 メリアリアの言葉に蒼太が頷いた。

「勿論だよ。まだ日本にいた時に一度、一緒に戦ったっけ・・・。アイツらだろ?」

「そう。“黄昏のルクレール”と“青天のエヴァリナ”ね?だけど今回はそれだけじゃないの!!!」

 “マーガレットが来てるのよ!!?”と愛妻淑女が告げるモノの、その報告は少なからず蒼太を困惑させると同時に“いよいよ来たのか・・・!!!”とある種の覚悟を決めさせた、前々から彼等が“ガリアにやって来るかも知れない”旨の情報はもたらされていたから別段、驚く事は無かったモノのそれが現実のモノとなって来ると如実に脅威を感じざるを得ない。

「“玉泉のマーガレット”・・・。“レウルーラ”の誇る当代“泉の騎士”か・・・!!!」

「そうよ?そのマーガレットが来たの。それも仲間達からの情報に拠ると、目的はどうやらあなたみたいなのよ!!!」

「・・・なんだって!!?」

 これには流石の蒼太も驚いた、まさか今回の連中のターゲットが自分自身だったなんて。

「ほ、本当なのか?それって・・・!!!」

「エイジャックスに潜入させている、ミラベルの上級情報工作員からついさっき、極秘通信があったのよ。それに拠ると、だけれども多分・・・」

 “間違いはないわ!!!”とメリアリアは心配そうな面持ちのまま、縋り付くようにして蒼太に抱き着きながらそう述べた。

「ルクレールやエヴァリナ達も、間違いなく潜入して来るわ?いいえ、もう既にやって来ているかも知れない!!!」

「・・・超新星達はまず間違いなく、蒼太さんの抹殺か捕縛を目論んでいますわ!!?」

 すると次に口を開いたアウロラが、こちらも憂い気な表情のままに告げる、“その為に集団で潜入しようとしているのだ”と。

「彼方は殆ど全員にその指令が下されているようですし・・・。それで急いで蒼太さんに帰って来てもらったのですわ!!?」

「連中の狙いが君である以上、一人で行動させる訳には絶対にいかないからね!!!」

 最後にオリヴィアが不安そうな顔付きのままに、それでもやや興奮気味に声を発する。

「君の事が、心配なんだ。どうしたって奴等にやらせてなるものか!!!」

「私達全員で、きっと必ず守ってあげる。あなたは絶対にここにいて?今夜からずっと。ううん、今からずっと“女王の間”に詰めていて欲しいの・・・!!!」

「何があっても蒼太さんの事はお守り致しますから・・・!!!」

 そう言って改めて三人は青年に抱き着くが、それを横から見ていたアンリも“ただ事ではない”事を重々理解してくれたようで“お前、すぐに下に潜って動かずにいた方が良いぞ?”とのアドバイスをしてくれる。

「お前にもしもの事があったらマリアが悲しむし、それに俺も親友を失いたくないんだ、頼むよ・・・!!!」

「あなた、お願い・・・!!!」

「ここは私達に任せて・・・!!!」

「今は自分の事だけを考えて・・・!!!」

 必死になって口々にそう告げて来るメリアリア達花嫁組や親友の言葉に、流石の蒼太も“ううーん・・・”と唸ってしまった、本当は彼は防御に回るのは好きでは無くて、どうあっても向こう側がやって来るのならば此方から3人~4人で一組のグループを作った上で打って出て、逆に相手を一人ずつ潰して行けたら、等と考えていたのである。

 しかし。

「向こうは多分、手段を選ばずに来るわ?何をして来るか解らないの、心配なの!!!」

「私達もあなたと行動を共にしますから、どうかお願いします蒼太さん。隠れて・・・!!!」

「本部の地下に入ってしまえば守りは鉄壁のモノとなる、向こうもみだりに手出しは出来ない筈だからな!!!」

 再びメリアリア達が必死の形相となって自身の思意を言の葉に乗せるがその様子からは彼女達の覚悟と決意とが窺えた。

「・・・解ったよ」

 暫しの沈黙の後に、蒼太が頷いた、“君達の言う通りにする”とそう述べて。

「だけど暫くは籠城する事になるとして・・・。食料とか日用雑貨はどうするんだ?僕なら10日間程は何も食べなくても大丈夫だけれども、流石に水や衛生用品は買い出しに行かないと・・・」

「・・・お前って妙な所で生活感があるよな?」

 それを聞いていたアンリが些か呆れた表情で告げた。

「そう言うのは俺を含めたセイレーンの隊員達に任せておけば良いんだよ。とにかくお前はメリアリアさん達の言う事を聞いて“女王の間”に籠もってろ!!!」

「行きましょう?蒼太。私が必ず守ってあげる・・・!!!」

「蒼太さん早く、取り返しが付かなくなる前に・・・!!!」

「急いで中に入ってくれ、狙撃手スナイパーでも配置されていたりしたらかなわんからな!!!」

 口々に捲し立てられて蒼太はそれでも、まだ何か言いたそうにしながらもそれでも“解ったよ・・・!!!”と言ってメリアリア達に付き添われる形でセイレーン本部の地下11階と12階のフロアぶち抜きで設置されている中枢司令塔である“女王の間”へと降りて行った。

 幸いにしてメリアリア達が迎撃態勢を構築するまでの間、レウルーラ側からの手出しは無かったモノの、一方で。

 そのレウルーラの最高戦力たる“超新星”達もまた、着々と決戦に向けた準備を整えていた、今回は8人いる彼女達の内の5人、そしてその直下で働く“親衛隊”と呼ばれる面々の、実に3分の2を動員して行われる作戦である、失敗は絶対に許されなかった。

「ルクレール、エヴァリナ。準備に抜かりはあるまいな?」

「ええ、マーガレット。大丈夫よ・・・!!!」

「はいです、マーガレットさん・・・!!!」

 超新星達の詰め所では当代“泉の騎士”である、“玉泉のマーガレット”が遠征組に指示を与えていた、長く伸びた金髪を後ろで束ね、それらを更に縦ロールで垂らしていた彼女はしかしその顔付きも凛々しさも、何処かオリヴィアを彷彿とさせる。

 鼻筋の通っている左右対称シンメトリーで整ったかんばせに切れ長で落ち着いたアイスブルーの瞳、キュッと結ばれた瑞々しい唇に身長169cmの、色白でよく引き締まってはいるモノの出る所は出ているナイスなバディの持ち主。

 それが“玉泉のマーガレット”の全体像であったのだが今日はいつもと違っていて、レウルーラに支給されている赤を基調とした儀礼服を身に纏っていた、これは何か重大事がある度にマーガレットが行う習慣と言うか癖であって、その事を知っていたルクレールとエヴァリナは一層、身が引き締まる思いがしていたのだ。

「今回のターゲットは、もう言わずとも知れているな?」

「ええ、知っているわ・・・」

「“風の導き手”とまで言われる存在、ソウタ・アヤカベの抹殺か拿捕。そうですね?マーガレットさん・・・」

 そんな2人の返答にマーガレットは“よろしい”と満足気に言って応えた、“ソウタ・アヤカベ”の名前は知っている、直接的に会った事はまだないが、聞けば先だっての日本に於ける接触の際にルクレールを圧倒したと言うのだ。

 もっともその際に彼女が発揮した戦力と言うのはあくまでも“様子見的なそれ”であったから全力でやり合えばどうだかは解らないモノの、それでも油断が出来ない存在である事は間違いなく、気を引き締めて掛からねばならない。

「今回は任務が任務だ、事は極秘裏に行う必要があるのだが・・・。既にして向こうにも、即ちガリア帝国側にも恐らくは此方の作戦が漏れている可能性も考慮しなければならないだろうな・・・」

「私達の内側にまでスパイが入り込んでいる可能性がある事は、考慮しなければならないわね・・・」

「忌ま忌ましさ倍増です。此方の作戦目的が読まれてさえいなければ、事も幾らかは楽に運べる、と言いますのに・・・!!!」

 泉の騎士の発言に対してルクレールが静かに応え、エヴァリナが些か語気を強めて憤慨する。

「ですけどどうしてこんな時期に敵地に於いて積極的攻勢を仕掛けるのですか?普通ならばここは本土防衛と治安維持とに努めなければならない場面ですのに・・・」

「・・・そうよね、それに付いては私も同感だわ。マーガレット、どう言う事なのか聞いていない?」

「・・・あまりベラベラと喋りたくはないのだがな。今回の命令は“ガーター騎士団”の総長直々のお達しらしい。それで女王陛下が動かれたのだそうだ」

「・・・“ガーター騎士団”!!?王室の背後にいて儀式一切を取り仕切っている、あのロイヤル・ナイツが!!!」

「一切が秘密のベールに包まれている騎士団の総長の意志なのですか!!?それも女王陛下直々に下知を下されたなんて・・・!!!」

 “それって一体・・・!!?”等と三人が顔を見合わせつつも、尚も話しているとー。

 何者かが“コンコンッ!!!”と詰め所の扉を叩く音がした、“どうぞ?”とルクレールが言い放つと重々しい音と同時にドアが開いてそこには2人の人物が立っていたのだ。

 1人は栗毛色をした肩甲骨まで伸びた髪の毛をカールで巻いた、可愛らしい小柄な少女だったがその身に似付かわしく無い程の大型自動小銃を肩から担いでいる。

 そして、もう1人は。

 同じく色白で小柄で細身、一見すると“アルビノ”と間違えてしまう程にまで色素が薄い女性であった、だが。

 臀部近くにまで伸びたストレートロングの銀髪と、同じように銀色に輝く瞳をとが彼女が単なる“アルビノ”では無い事を物語っていた、アルビノならば髪の毛の色は銀髪でも瞳は美しいスカイブルーになる筈だからである。

「来たのかリエラ、そしてヴェルキナ・・・」

 マーガレットが声を掛けると“リエラ”と呼ばれた栗毛色の髪の毛の少女が“は、はい・・・!!!”と少し緊張した面持ちと声色で応え、一方の“ヴェルキナ”は無表情のまま真っ直ぐにマーガレットを見据えている。

「リエラ、お前は今回で最重要任務は3度目だった。3回目となると大抵の者達は気が緩んで隙が出来ると言うのに、流石に史上最年少でレウルーラに抜擢されただけの事はある・・・」

「恐縮です、マーガレットさん・・・」

「・・・・・」

 そう言い終わるとマーガレットは次にヴェルキナへと向き直った。

「ヴェルキナ、君は“ウィッチ”の出身だったな?確かその時に蒼太やメリアリアとの因縁があるとか。今回はどうだ、それが払拭出来そうか・・・?」

「・・・私はただ、与えられた命令を熟すだけ」

 マーガレットの言葉にただそれだけ応えるとヴェルキナは再び沈黙してしまい多くは語らなかった、だがしかし。

 その全身から静かな闘気が漲っているのを、この玉泉の騎士は見逃さなかったのである。

「・・・結構だ」

 満足気にそう言い放つとマーガレットは“出発は明朝だ!!!”と告げて各員に準備を怠らないように指示を出した、ただ今回は襲撃が主目標でありそれが今までとは異なっていたのであるが、いずれにせよ。

 “超新星”と“女王位”による戦いの火蓋は切って落とされた、否、既にして切られていた、と言って良かったが初戦の勝利は先ずはセイレーンが奪取した形である、なにせよレウルーラの内情をある程度とは言え掴んでそれを活かす事が出来たのだから。

「ソウタ・アヤカベか。アイツとは僕も因縁がある・・・」

 その夜。

 ルクレールが部屋に帰ると既に合鍵を使って中に入り込んでいた幼馴染にして許嫁である、クイーンズベリー公爵家の次男坊“ロバート・ダニエルズ・ウェズリー・ウェリントン”が彼女の話の内容に反応して来た、ちなみに今回の作戦には“M16”のメンバーとして彼も同道するため、彼等がこの話題に付いて議論していたとしても別に秘密を漏らした事には当たらなかった。

日本ジャパンで相見えた際に、結局返り討ちされてしまった。悔しいよ・・・」

「ボブッたら無茶ばかりするんだから・・・!!!」

 そんな彼氏を愛しそうにルクレールは抱き寄せて、ソッと唇に唇を重ね合わせる。

 彼女は知っていたのである、なぜロバートが蒼太にわざわざ喧嘩を吹っ掛けに行ったのか、勝てるかどうか解らない相手に対してどうしてそんな無茶な事を行ったのか、と言う事を。

 それはひとえに、自分の可愛いルクレールを苦しめたのが許せない、下手をすれば傷を負わされる所だった、と言う恋人としてみれば恐らくは、誰もが抱くであろう当然の義憤に基づくモノだったのであるモノの、それ故に。

 ルクレールは自身の制止を振り切ってまで決闘を仕掛けたロバートを許した、と言うよりもとてもの事怒れなかった、と言った方が正しいのだがとにもかくにもその事件の結果、ますますロバートに対する思いを燃え上がらせたルクレールは今回の事が終わったなら自分から積極的に、己の気持ちをアッピールして行くつもりでいたのだ。

 そんな矢先。

「なあ、レイ・・・」

「ん?なぁに、ボブ・・・」

「この戦いが終わったら・・・」

「ええっ!!?」

「僕は君と同い年だけど、どうにも頼り無いし、おっちょこちょいだし。その上君の事となると後先も見えなくなってしまう男だけれども・・・。それでもそれだけ、君の事を真剣に愛しているんだ、この思いだけは絶対に嘘じゃないし誰にも負けない自信がある。だから、だから・・・!!!」

「・・・・・っ!!!」

「僕と結婚して下さい・・・」

 そう言うとロバートはルクレールの、否、“レイチェル”の目の前で唐突に跪(ひざまず)いてポケットから指輪の入っている小箱を取り出し、それを開けて見せた。

「・・・・・っ!!?ボ、ボブ。貴男あなたは、貴男あなたって人は!!!」

 それだけ言うとレイチェルは最早、後の思いを言葉に出来ずに泣き出してしまっていた、彼女は純粋に嬉しかったし、かつ感動していた。

 まさかちょっと頼り無いと感じていたボブが、自分からプロポーズ等と言うこんな思い切ったサプライズを仕掛けて来てくれる等とは露とも思っていなかったのだ。

「・・・う、嬉しいわ?ボブ。はい、喜んで!!!」

「本当かいっ!!?」

 涙ながらにそう応えるレイチェルと、それに対して喜びを隠せないでいるロバート。

 2人は誰もいない部屋の中でしっかりと抱き締め合いながら、何時までも何時までもお互いの温もりを感じ続けていた。
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 次回からはいよいよ戦闘が開始されます(多分、そうなると思います)。

 ちなみにルクレールは本名を“レイチェル・エルシー・ルクレール・ウィンザー”と言い通称が“黄昏のルクレール”となります(ちなみに“レイ”とはレイチェルの愛称であり、“ボブ”とはロバートの愛称です)。

 この辺りの事は第二章終盤であります“ルクレールの憂鬱前編・後編”に詳しく載っております。

 また“レウルーラ”とは“開けの明星”とも“明星の乙女”を意味するとも言われております(語呂も良く、格好良かったので、それで登場させました)。

 もう一つ、“ヴェルキナ”についてなのですが、彼女と蒼太君やメリアリアちゃんとの因縁は第二章の“セイレーン編5”と“セイレーン編20”を御覧下されば、御理解していただけるかと思われます。
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