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神世への追憶編

第二次エルヴスヘイム事件19(蒼太の敗北と花嫁達の覚醒)

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 蒼太の“時空間転位法術”によって多重世界線を纏めて跳躍したメリアリア達は青年共々“次元の狭間”へと足を踏み入れる事に成功した、そこは不可思議な世界であった、呼吸が出来て空気はあるモノの、天地が定かではなくて全体が鬱蒼とした暗緑色と赤紅彩とに薄く発光しており、目視は効く。

 蒼太もメリアリアもここには何度か来ているから一目で解った、“トワイライトゾーン”の中の、それもかなり奥まった領域へと至ってしまったのだ、と。

 しかし。

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

「ここは・・・っ!!?」

「ここが奴等の本拠地か・・・っ!!!」

 他の仲間達はその限りでは無くて、彼等の間でちょっとしたざわめきが起きるが、特に転位術式による移動はまだ慣れていない者が大半で、中々スペクタクルな体験に感嘆の声を漏らすが今回、起こった声はそのどれでも無くて、どちらかと言えば緊張感から漏れるそれだった。

 何しろ一瞬にして自分達が立っていた風景が吹き飛んで行き、代わって目の前に現れたのは禍々しいオーラを放つ、所々苔むしている古びた城だったから無理も無いが、この城塞は広さはかなりのモノがあって城壁も高くそそり立っており、それなりに頑丈そうである。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「どうやらあの城は。“魔精石”で出来ているようだね・・・」

 外側の景観を見渡しつつも蒼太が告げるが果たして彼の言う通りでこの城全体は魔力伝道でその本来の性質的威力を発揮する“魔精石”と呼ばれる加工性鉱物により構成されていた、これは“錬金術”の奥義の一つでチタニウム等の鋼鉄分に特定の薬を配合させて、最後に呪いを掛けて練り上げる事で精製される非常に硬くて粘着性、耐久性のある素材であり確かに城を造るのには打って付けの代物だった。

(アウディミアがこの場所を選んだのは、龍脈と地脈のエネルギーを己の魔力に変えて無限に魔精石を精製し続ける為の処置でもあった訳か・・・!!!)

 “と言う事は”と蒼太は思った、“ここに来た事はアウディミアの手の内に入ったのと同義語だな”と。

(・・・いいや、寧ろ望む所だ。敵の戦略を逆用するのも兵法の一つ。奴は今、狙い通りの現象が起きている事に多少は満足して慢心が起きている筈だ、そこに必ずや付け込む隙がある!!!)

「いよいよ突入するよ?みんな、準備は良いか?」

 そう思い立った蒼太が花嫁達や伯爵連中、夫人組にノエルとレアンドロを順々に見渡しながらも声を掛けると“オオッ!!!”と言う掛け声が返って来た。

 みんな気力も体力も充分な様子であり、精力的に漲っている、不安要素は全く無い。

 それがあるとすればー。

「・・・・・」

(大丈夫、大丈夫だ。僕は持つよ・・・!!!)

 他ならぬ蒼太自身であったが果たしてメリアリアの危惧した通りで彼はしこたまに消耗していた、皆の先導を務めつつも戦闘を熟して瞬間転位の術式を用い、更には難敵であるドグバを討ち破って見せたのである、甚だに力を発動させてその疲労が蓄積していた彼には正直に言ってあと二日か三日の休養が必要であったが、しかし。

(大丈夫だ。後はアウディミアを討ち取るだけで良い、どうかそれまで持ってくれよ・・・?)

 自分自身にそう願うとー。

 蒼太は“行くぞ!!?”と掛け声を発して、それと同時に全員で駆け出して行ったのであるモノの、果たしてそこに待ち構えていたのはー。

「矢をつがえっ!!!」

「構えっ!!!」

「放てーっ!!!」

 一千匹を数えようかと言うオークの大軍勢だった、しかも一個体一個体毎に鎧を装着しており弓矢や槍を持っている、通常では侮れない戦力だった、筈だったがー。

「どけっ!!!」

 その言葉と共に蒼太に率いられた一団は一塊となり中央突破を狙って突進して行った、その先頭で青年は杖の先端部分から“光の波動真空呪文”を発生させて炸裂させ、その分厚い多重衝撃波を用いてオークの軍勢の放った毒矢を軽々と跳ね飛ばし、撃ち落としてゆく。

 やがてー。

 敵の第一陣に達した彼等は当たるを幸いに獣魔人共を蹴散らして行った、メリアリアは光炎を纏わせた鞭を縦横無尽に打ち振るい、オリヴィアは同じように発生させたパルサー呪文を剣に伝えてそれを手足の如く操り、アウロラは一歩下がった位置から蒼太やメリアリア達に補助魔法を掛けると同時に己の創出させた波動爆雷を敵に向かって叩き付け続けて相手を一匹、また一匹と物言わぬ肉塊に変えていった。

 続く第二陣、第三陣も同様の戦術で突破、殲滅していった蒼太達はいよいよ城の内部へと突入を果たして一路、アウディミアのいると思われる最上階目指して突き進んで行くモノの、しかし。

 一方でその様子を“尖塔の間”から忌々しげに眺めていたアウディミアは控えていたハイ・オーク達に“貴様らも出撃しろ!!!”と言い放つと同時に自らもまた“黒雲の魔術”を発動させて黒い霧となって城の中を移動していった。

 その結果。

 彼等はお互いに途中の“空中庭園”に於いて激突する運びとなった、そこはかなり広大な間取りで設計が成されており、ただし道の両側の至る箇所に異界の植物達だろうか、現実世界やエルヴスヘイムではまず見掛けなかった、毒々しい色合いのそれらが生い茂っている、その中央部分に於いてー。

 駆け続けて来た蒼太達一行はハイ・オークの群れを率いて来たアウディミアと正面切って相見える事となったのである。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・」

 その闘いを、両者は勿論覚悟していたし、理解もしていた、お互いに相手の波動を感知する能力を持っている彼等はだから、接近して来る敵の気配をヒシヒシと感じ取っていたのであり、だから遭遇しても別段に、驚く事は無かったのであるモノの、しかし。

「貴様がアウディミアか・・・?」

「・・・・・」

「虚空の彼方へと消え失せろ、その穢らわしい野望と共に!!!」

「・・・・・っ。ク」

 “ハーッハッハッ!!!”とそれを聞いた“黒雲の魔女”は高らかに笑い始めた、まるで蒼太の声を小気味良いとでも言うかのように。

 そうしてー。

 暫くの間、嘲笑し続けたその後で蒼太へと告げた。

「・・・小僧。貴様は恐れと言うモノを知らぬらしいな。だが私には解っているぞ?お前が相当な無理を重ねてこの場に立っているのだ、と言う事が!!!」

 そう言い放ち様に。

 アウディミアは魔力で形作られた黒雲の塊を蒼太目掛けて撃ち放つが、それを蒼太は“光の呪文”を纏わせた杖により、弾き飛ばして雲散霧消させてしまう。

 それを見たアウディミアは今度は同じ黒雲の塊を数個、連続して投射するモノの結果は同じ事だった。

「ならばこれはどうだ!!!」

 そう言って次にアウディミアが取った行動に、流石の蒼太も戦慄を覚えた、その時彼女は両手を天高く翳して呪いの言葉を唱え、そこにパリパリ、パチパチッと言う赤い雷光を絶えず帯電させている巨大で濃密な暗雲を出現させて、蒼太達一行に向かって一挙に投げ下ろしたのだが、その“つもり”を知覚した次の瞬間。

 蒼太はそれに対抗するための“波動真空呪文”を極集約させて生成し、それを宙に向かって突き出させた杖の先端部分から一気に解き放って空へと放った、するとその直後に。

 “バチバチバチィッ!!!”と弾けて発光する大量のプラズマオーラをその身に纏った強大なる光の大竜巻がその場に顕現して黒雲としのぎを削り合うモノの、やがてはー。

 雲を残らず蹴散らして光の粒子へと変えて行き、それが済んだ後に竜巻もまたゆっくりと自然消滅して行って辺りは静寂が支配するモノの、しかし。

「・・・・・っ!!!」

「フン・・・」

 尚も対峙する両者であったが険しい顔付きの蒼太に対してアウディミアは余裕綽々だ、それはそのまま二人の余力の差に由来している、とも言えたのモノの、それだけではない。

「・・・・・」

(コイツのレベルは現時点でも7次元を優に超えている。ドグバは勿論の事、あの“メイヨール・デュマ”よりも遥かに上だ。長引かせるのは不利だ!!!)

 “何とか神人化を使いたいな”、“それ以外に勝つ手立てはない”等と蒼太が考えていると、まるでそんな青年の思考を見抜いたかのように一呼吸置いて後にアウディミアが言い放った。

「蒼太、とか言ったな。此処までは確かに、敵ながら天晴れな奴だ。よくやったと褒めてやる」

 “だが”とアウディミアが尚も続けた“最早、貴様も此処までだ”と。

「貴様は限界が近付いている。否、貴様の力はもう尽きた!!!」

「・・・・・っ!!!」

 そう叫ぶと図星を突かれて苦しそうな表情を浮かべる蒼太に対して“黒雲の魔女”は再び暗雲を練り上げて行き、それを蒼太目掛けて叩き付けた、それは非常な迄の豪速で青年にぶち当たり彼をその場から庭園の壁際にまで弾き飛ばしていったのである。

「ぐはあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!?」

 壁に激突した蒼太は堪らずもんどり打って転げ伏した、それほどその時の衝撃は凄まじいモノがあったのであり現に魔法石で出来ている筈の頑丈な壁には罅(ひび)が入っていたのである。

「ぐううぅぅぅ・・・っ!!?く、くそ・・・っ!!!」

 辛うじて受け身を取った蒼太であったが彼にはもう、アウディミアの魔力を遮る程の力等、何一つとして残ってはいなかった、もしミスリル製の防具と“白精のローブ”を身に付けてもいなかったなら流石の彼とて無事に済まなかったかも知れなかったが幸いに、持ち前の強靱な肉体とこれある事を予測していたフォルジュナの気遣いによって何とか背骨や肩甲骨等をやられるのだけは防ぐ事が出来たのだ。

「・・・・・っっっ!!!!?」

「そ、蒼太さんっっっ!!!!!」

「蒼太ぁっ!!!!!」

 一方で。

 その様子を見た花嫁達は驚愕と悲壮の面持ちを浮かべつつ、ある者は声なき声を発したり、また或いは思い思いに夫の名を叫んで一目散に彼に向かって駆け出そうとするモノの、そんな彼女達に対しては。

「・・・・・っ!!!」

「きゃあ・・・っ!!!」

「くそ・・・っ!!!」

 “ビュンッ”、“ビュンッ”と音を立ててハイ・オーク達の群れが毒矢を連続して射立てて来た、それをメリアリア達は鞭で、剣で、或いはロッドでそれぞれに凌ぎつつ、何とか蒼太に近付こうとするモノの、その間にハイ・オーク達の別働隊が蒼太と彼女達の間へと割って入り、すっかり進路を塞いでしまう。

「くううぅぅぅ・・・っ!!!」

「あなた達・・・っ!!!」

「邪魔をするなああぁぁぁっ!!!」

 そう言って防御もそこそこに敵に向かって吶喊して行くメリアリア達であったモノの、ハイ・オーク達も手にした蛮刀や槍をつがって彼女達の行く手を阻む。

 鈍重なオークに比べて俊敏であり、また膂力も強いこのゾルデニールの手下共はしかし、良く訓練されていて花嫁達の連携攻撃に耐えて一歩も退かなかったのであるが、そんな最中。

「う、ぐ・・・っ!!!」

「・・・・・」

 アウディミアは倒れ伏している蒼太に近付くと彼に対して両手を翳し、その先端から黒いオーラを纏った魔力を直接、彼へと放射させて青年を更に追い詰めて行く。

「ぐあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「あなたっっっ!!!!!」

「蒼太さんっっっ!!!!!」

「蒼太っ!!!!!」

 それを見た花嫁達はもはやいても立ってもいられずに、力尽くでハイ・オークの群れの防衛線を突破に掛かった。

「どけえええぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」

「どきなさいっっっ!!!!!」

「邪魔だあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 メリアリア達がそう言って気合い一閃、一気にハイ・オーク達の群れを抜き去り、アウディミアの脇を擦り抜けて蒼太に掛け寄った時には蒼太は既に虫の息だった、それほど“黒雲の魔女”の魔力は強大だったのであり、彼はそれに無防備な体勢のまま直に受け続けてしまっていたのだ。

「ほう、まだ生きていたか。しかしよく持ったな・・・!!!」

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

「なんだと・・・っ!!!」

 そんな蒼太の様子を見据えつつ、“黒雲の魔女”が声を発するモノの、その内容は三人の花嫁達を驚愕させて怒り狂わせるのに充分な代物だった。

「まだ原型を留めているのみならず、命を保っているとはな。流石は“白の導き手”だけの事はある、見直したよ・・・!!!」

「・・・・・」

「・・・・・?」

「・・・どう言う、事だ!!?」

「お前達の言葉に直すのならば“分子溶解レベル”での攻撃を繰り出してやったのだがな?それを数分間食らい続けても人の形を保っているのは大したモノだと言ったのだ」

「・・・・・っっっ!!!!?」

「・・・・・っっっ!!!!!」

「貴様ぁ・・・っっっ!!!!!」

 アウディミアの言葉に激昂したメリアリア達は三人で一気に前方から、“黒雲の魔女”へと攻撃を仕掛けるモノの、しかしそれはアウディミアの思う壺だった、メリアリア達の攻撃が届くかどうか、と言う刹那の合間に“黒雲の魔女”は今度は彼女達三人へと魔力を照射させてその動きを封じ込めに掛かる。

「きゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「うあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

「ぐわあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 吹き飛ばされた三人は、それでも何とか着地を成功させて難を逃れたがその攻撃の素早さと鋭さ、そして威力の凄まじさに改めて驚愕していた、流石に敵のボスだけの事はあると思ったモノの、それと同時に。

(この人は、蒼太はこんなのを食らい続けていたって言うの!!?冗談じゃ無いわ!!!)

(こんなのを受け続けていたなら、あれだけの装備を与えられていたとしても普通の人なら1分も持たないでしょうに・・・!!!)

(道理で周りの鉱物や植物が皆、灰になって消えた訳だ。アウディミアのヤツめ、許さんぞ!!?)

 そう思いつつも三人が改めて蒼太に駆け寄ると、蒼太は意識はある様子であり声を掛けると苦しみながらも応じてくれた。

「み、んな・・・。に、げろ・・・!!!」

「何を言っているのよ、蒼太ったら!!!」

「心配は要りません、必ず私達がお守りしてみせますわ!!!」

「暫くの間はそこで我慢していてくれよ・・・!!!」

 そう告げて花嫁達は至る所から出血し、また所々火傷を負って喘いでいる蒼太とアウディミアのちょうど中間に立ち塞がって向かい合う。

「アウディミア、覚悟!!!」

「・・・・・クッ!!!」

 “ハーッハッハッ!!!”とそれを聞いたアウディミアはまた高らかに笑い始めた、しかも今度はやや弓形に身体を撓らせ、宙を向いて思いっ切りふんぞり返っている。

「何かと思えば、下らぬ。貴様ら如きでは“白の導き手”の身代わりにもならぬわ。今一度我が魔力を味わうが良い・・・!!!」

 そう言うとアウディミアは再び稲妻状に変換させた魔力を放ってメリアリア達に放射させるが今度は不意打ちされた訳では無い彼女達はそれにキチンと対応して見せた、攻撃を予測していたメリアリアが瞬時に“絶対熱”を発動させて天性の炎の分厚い壁を造りだすと、その隙にアウロラは遥かな上空に於いて“星震魔法”を生成して行き、オリヴィアはオリヴィアで剣にパルサー呪文を纏わせる。

 勿論、三人は“超過活性状態”となって即座に動けるように体勢を整え、その上でそれぞれが行動に出たのであるモノの、それを見て彼女達のつもりを察したアウディミアは今度は本当に驚愕していた、“星震魔法”、“パルサー呪文”、“絶対熱の極意”。

 そのどれを取っても凡そ人間に許された魔法術式では決して無くて遙かなる高みである“神の世界”の産物だったからである、それを何故、目の前の小娘共が扱えるのか、正直に言って信じられなかったのだ。

(バ、バカな。そんな筈が無い!!!この“蒼太”と言う男と言い、一体何者なのだ?此奴らは・・・!!!)

 しかし今は戦闘中である、何時までもただ驚いている訳にも行かなかった、我に返ったアウディミアは先ずは“絶対熱の防御壁”を破るべく、魔力を集中させて撃ち放つが、それも揺らめく白銀色の炎に飲み込まれて行き、忽ちの内に四散して行ってしまった。

(・・・・・っ!!?)

「おのれぃ・・・っ!!!」

 そう呻くと今度は前よりも出力を増して魔力の投射を行うモノの結果は同じ事であり、メリアリアの操る“絶対熱の白銀壁”は突破する事が出来なかったのである。

 そうしている内に。

 アウディミアは自身の頭上で峻烈無比なる魔法力が渦を巻いている事に気が付くモノの、見るとそこには青白い波動光弾が形成されていてしかもそれが徐々に己へと向かって落着する体勢に入っている事が確認されたのである。

「・・・・・」

(くそ、“スター・クエイク”か・・・!!!)

 流石にメリアリア達の“つもり”を察した“黒雲の魔女”はその直撃を食い止めるべく奔走しようとしたモノの、如何せん全てが遅すぎた、彼女がハッとなった時には既に白銀壁は消え失せており代わって煌々と燃え上がる炎を鞭に纏わり付かせたメリアリアと、パルサー呪文を剣に伝えたオリヴィアとが自身に向けて吶喊を開始していたのである。

「・・・・・っ!!?」

 “小癪な!!!”と叫んで迎撃に移るアウディミアであったが尚の事、遅かった、気付いた時にはメリアリアによってアッという間に片腕と首とを寸断され、同時にオリヴィアの手で片足を吹き飛ばされた挙げ句に心臓を刺し貫かれて堪らずその場に“ズダアァァァンッ!!!”と倒れ伏してしまったのだ、その状態のまま。

 彼女は自身が空中に押し上げられて行くのを感じていたのだがそれはメリアリア、アウロラ、オリヴィアの三人の波動法力によって成し得ている事柄だった、共同で“浮遊磁力”を生成した彼女達はアウディミアの本体を遙かなる上空にまで巻き上げてその周囲一帯に“亜空間フィールド”を造り上げて行き、更にはその内側に“反重力粒子曲線”を張り巡らせて頑丈な結界を張り巡らせる。

 そうしておいて、そこで待機していたアウロラの“星震魔法”を容赦なく炸裂させたのであったがそれでアウディミアの肉体は消滅し、確実にその息の根を止めた、その筈であった。

 ところが。

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

「な、なんだ?この波動は・・・!!!」

「・・・・・っ。ぐ、く!!!」

(いけない!!!)

 身動き等最早、指一本とて取れなくなった蒼太がその様子を見ていて心の中で思った、“奴はまだ死んで等いない”と、“早く皆に伝えなければ”と。

 “神人化”の出来る彼は深次元の存在に対する感知力も持ち合わせておりそれ故に、アウディミアの“正体”を理解したのである、即ちコイツは“魔神”の一柱である、と。

 そしてそれが肉体を捨てて霊体波動を身に纏い、真の力を顕現させようとしている、最早一刻の猶予も許されなかった。

 しかし。

(早くしなければ取り返しの付かない事になる・・・っ!!!)

 そう考えて青年がしかし、声を出そうにも“あ、あ・・・”とか“うう・・・”と言った、呻き声しか出せなかった、それまでの旅路でしこたま消耗していた彼はアウディミアとの闘いによって大怪我を負わされており、肉体はとうに限界を迎えて意識が朦朧としていたのである。

 要するに気力だけで持ち堪えていた訳だったがしかし、そんな自我が保てている合間に蒼太はせめてもの、最後の手段を取っていた、それは。

 己の持つ神通力即ち“神威”の力を自身の中で最大にまで練り上げて、それをメリアリア達に託して希望を繋ぐ、と言うモノだったのであるモノの、最早ろくすっぽ動くことが出来ない彼にはこれしか方法が残されていなかったのでありその為には今一度、花嫁達に側まで来てもらう必要があった。

(もう“神人化”は果たせない、ダメージを受けすぎた上に僕も些か消耗し過ぎた。最後の手段はあの子達自身に掛かっているんだ、頼む!!!何とか僕の側まで来てくれよ?メリー、アウロラ。オリヴィア!!!)

 胸の内でそう祈り続ける蒼太であったがすると、それが通じたのか、彼女達が側へと戻って来るモノの、実際は稲妻の様に鋭くて茨の様にトゲトゲしい、強大なるアウディミアの波動に気圧されてしまい、後退りをして来ていたのだ。

「・・・・・っ!!?」

「・・・・・っ!!!」

「くうぅぅ・・・っ!!!」

 三人にそれぞれ、苦悶の表情が浮かぶモノの、すると漸く三人はアウディミアとは別の安らぎと暖かさとに満ち満ちた温もりを感じて振り返ると、何とか蒼太の周囲で物凄い濃密なる光が渦を巻いており、それは彼が“神人化”する前兆でもあった、しかし。

「・・・・・っ。蒼太、ダメよっ。そんな消耗し切っている時に“神人化”なんて使ったら!!!」

「そうです、身体も精神も壊れてしまうかも知れませんわ!!?」

「蒼太、止めてくれ。もう私達の為に無茶をするのは・・・っ!!!」

(違う、よ・・・)

 思わず蒼太の元へと駆け寄った彼女達が何事かを言い含めようとしたその時、三人の頭の中に直接、蒼太の声が響いて来た。

(君達に、この“神人化”の神通力を託す・・・。君達ならば必ずや“神人化”出来る筈だ・・・!!!)

「・・・・・っ。え、えっ!!?」

「なにこれ、どうして蒼太さんの声が聞こえて来るの・・・!!?」

「き、君は。精神感応も出来たのか・・・!!?」

(君達に、対してだけね?僕は君達と婚いだ、だからお互いに心を通わせる事も、相手の力も技も使う事が出来るんだよ。僕も前にやって見せただろう・・・?)

「・・・・・っ!!?“ハイラート・ミラクル”!!!」

 メリアリアの発した言葉に蒼太は“そうだ”と意識の中で頷いた。

(それぞれに意識の向いてる方向性やお互いの絆の強さでどれだけ相手の法力を纏えるのかが決まって来るんだけど・・・。君達ならば大丈夫、きっと“神人化”を果たして今まで以上の神通力を発揮する事が出来るようになる筈だよ・・・)

「・・・でも、あの。あのね?蒼太。私達どうすれば!!!」

「いきなり“神人化”と言われましても、私達は一度もやった事がありませんし・・・」

「ぶっつけ本番で何とかなる技能でもないだろうしな・・・!!!」

(大丈夫、僕の言う通りにやってくれれば。少しでも力と意識を引き出してくれれば後は僕がサポートする!!!)

 “先ずは”と蒼太が続けた、“全員で僕に触れてくれ”と。

(急いで。アウディミアが意識を集中させて霊体波動を顕在化させるまで、もうあまり時間が無い。僕の所に来てくれ・・・)

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 三人は頷き合うとそれぞれに、夫の元へと足を運んでそのススと血と汚れに塗れた肉体にソッと手を触れてみた、その瞬間に。

「う、うっ。う・・・っ!!!」

「蒼太、痛いの・・・!!?」

「まさか、骨が・・・!!!」

「なんて事だ・・・!!!」

 メリアリア達がそれぞれに、彼に対して心配の意を表するモノの、恐ろしい勢いで壁に叩き付けられた挙げ句にアウディミアの強力な魔力の稲妻を、それも間近で数分間も照射されてしまった蒼太は身体中の筋肉や筋繊維がズダズダに切り裂かれてしまっており、全身の骨という骨にも無数の罅が入っていたのだ。

 この状況で脳と心臓、及び呼吸器官と各神経系統とがまだ無事であったのは、奇跡と言う他無かったのだが、これは神界での修業の成果が出た結果とも言えた、過酷極まる神界での生活で彼の肉体は極限以上にまで鍛えられており、ちょっとやそっとの事では全壊しなくなっていたのである。

(皆、良いかい?僕の波動に意識を同調させて。感覚を研ぎ澄まさせて“今”、“この瞬間に”全てを集中させるようにする。呼吸を一体化させて心と身体とを溶け合わさせるイメージをするんだ・・・!!!)

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 メリアリア達は必死で言われた通りにした、“出来るかどうか”等と言う話を今はしている場合では無くて、“やるんだ!!!”と言う気持ちが三人の中に芽生えて行った、さもなくば蒼太を救う事は出来ないし、それに。

 こんなになってまで、それでも自分達を尚も信じようとしている夫の思いに、必死になって希望を託そうとしているその心意気に全力で応えてみせねばなるまいと、彼女達はそう考えていたのであった。

(呼吸をもっと深くまで、深く深く一体化させるんだ。お腹の底から全ての息を吐き出して、そしたら今度はタップリと吸って。それと同時に身体の隅々にまで僕と同調させた波動を行き渡らせるようにするんだ、それぞれの血流に乗せてね・・・)

 三人は黙って言われた通りにした、すると呼吸が深くなるに連れて自身の体内で波動が練り上げられて行く様がハッキリと感じられた、先程消耗した力が徐々に戻って来る感覚を覚えて一層、感性がシャープなモノになって行く。

 それを。

 蒼太と一体化する為だけに総動員させてひたすら彼と重なり合うイメージと同調呼吸法とを繰り返し続けて行った、すると。

 やがて段々と、蒼太の元に集まっていた神通力が少しずつ少しずつ自分達の中へと流れ込んでくるのを感じるようになって来た、“上手く行っている”と蒼太は頭の片隅で思った、元々彼女達は霊力の高い家系の出である上に自宅に“神宝”をいただいており、その影響を受けながら育って来ていた。

 それ即ち“神の波動”に親しみながら人生を歩いて来た事に他ならなかったがなればこそ、彼女達は扱う事が出来たのである、“絶対熱の極意”や“星震魔法”、そして“パルサー呪文”と言った宇宙の力を、だ。

 それは=で“天津神”の神力を扱える事と同義語であってなればこそ、蒼太は感じていたのである、“彼女達ならばサポートさえしてあげれれば何時でも神人化を果たす事が出来る筈だ”と。

 ・・・例えそれが“擬似的なモノ”であり“一時的なモノ”であったとしても、であるモノの果たして結果は吉と出て、しかも蒼太の神力を吸収して行く過程でメリアリア達の中に眠っていた神の部分が活性化して行き、徐々に目覚め始めて来る。

 こうなると最早、蒼太からのエネルギー伝導は必要では無くて彼女達自身の周囲に猛烈な光の波動が凄まじい速さで渦を巻き始めた、そしてそれが極大化して弾け飛んだ、次の瞬間。

 その場には三柱の“女神達”が立っていた、皆それぞれが光沢のある白金、群青、黒銀に輝くドレスを身に纏い、眩いばかりの輝きに満ち満ちたエネルギーを放ち続けている。

「・・・・・っ!!!」

(な、何という神々しい光の輝きだ。これがメリー達の“神人化”。“ハイラートミラクル”と“神の力”とを合体させた業だと言うのか・・・!!?)

 そう思って青年が驚愕していると。

 三柱の女神達はその場にしゃがみ込んだまま、蒼太の身を優しく撫で始めた、すると。

 何とした事だろうか、蒼太の全身の傷という傷がたちどころに癒されて行き、瞬く間に体力、気力も完全回復してしまう。

「・・・・・っ。こ、これはっ!!?」

「我が夫・・・」

「大丈夫ですか・・・」

「苦しい思いをさせて、済まない・・・」

 女神達は口々にそう述べて自らも膝を伸ばし、その場で立ち上がった蒼太に代わる代わる抱き着いては口付けを行うが、一方で。

「・・・・・っ!!?」

(バ、バカな。なんだ?これは・・・!!!)

 “何故神の波動が此処にある!!?”と、ちょうどその頃、漸くにして霊体波動を身に纏い、完全なる意識体の姿となったアウディミアが顕現するが、それと同時に彼女は驚愕していた、この世界には自分以外には神格化された存在はいない筈であったのに今、彼女の目の前には確かに神々の煌めきがある、そんな筈が無いと事態に理解が追い付かずにいたのだ。

 しかもそれは自分と同じく8次元以上の存在である、驚かずにはいられなかったのだが、そんな彼女の元に。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 三柱の女神達は無言のまま上がって来てアウディミアを睨み付けた、その瞳からは“絶対に許さない”と言う確然たる意志を感じる。

「よくも我が夫に仇を為したな・・・?」

「お前は危険だ、此処で討ち滅ぼす・・・!!!」

「邪なる者め、成敗・・・!!!」

 そう言ってそれぞれに武器を構えた女神達と大魔女王の決戦の火蓋は切って落とされたのである。
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