星降る国の恋と愛

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神世への追憶編

第二次エルヴスヘイム事件17(“黒雲の魔女”と“無廟宮”)

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「ドグバが討ち取られただと!!?」

 “極北星下の禁足地”中央部に位置している“古代遺跡の神殿跡地”、そのまた上空に存在していた“次元の狭間”に揺蕩っている“無廟宮”の最上階部分である“尖塔の間”に於いて、巨大かつ複雑な魔法陣の中心に座して瞑想に耽っていた黒雲の魔女“アウディミア”はオーク族の部下達からの報告を聞いて驚愕していた、否、いっそ狼狽していた、と言っても良かったのだがそれ程この時彼女にもたらされた言葉の意味する所は大きすぎるモノだったのである。

「信じられん、一体何が起こったと言うのだ!!?」

 そう告げて詳しい続報を聞き届けた時、アウディミアは思わず激昂した、“あの役立たずが!!!”と叫んでは手当たり次第に辺りの家具や調度品に当たり散らして己が憤怒を発散させて行く。

「花嫁を手に入れようとしただと?下らん、実に下らぬわ。そんなモノは今回の騒動が済んで後、好きなだけ探せば良かったモノを・・・っ!!!」

 この時の部下達の報告は全てが全て、ドグバの真意を突いたモノでは無かったし、時系列も必ずしも正しいモノでは無かったのであったがただし。

 それでも大まかな所は事実に則って道筋を立てていたので充分に信頼に足るそれではあったのであり、なればこそアウディミアにしてみれば無念の極み以外の何ものでも無かったのである、それというのは。

 この時、彼女は蒼太達を自らの居城である“無廟宮”の奥深くにまでおびき寄せ、引き付けるだけ引き付けた所で全軍の力を結集させて一気に叩く腹積もりだったのであり、そしてそれら軍勢の指揮をドグバに任せようと考えていたのであった。

 勿論、戦況が思わしく無い場合は自らが参戦して一挙に相手を圧倒し、無に帰する、と言う青写真を描いていたのであるモノの、それが今回の事で台無しになってしまった、それが故の立腹であって別段、ドグバを惜しんでの事では無かったのであったが、しかし。

「・・・まあ、いい」

 アウディミアは臍を噛みつつしかし、それでいて直後に薄気味悪い笑みを浮かべてそう言い放った。

「斯くなる上はここ、無廟宮の軍勢と力を以て奴等を葬り去ってやる。直ぐさま体勢を整えよ!!!」

「で、ですがアウディミア様・・・」

 そう述べて意気盛んに逸る“黒雲の魔女”に対してオーク達が恐る恐る告げた、“向こうには白の導き手がおります”とそう言って。

「彼奴の法力はかなりのモノで御座います。聞けばドグバ様を一瞬で敗死させたのも彼の者のようですし、一体我等はどうすれば・・・!!?」

「心配は、いらぬ・・・!!!」

 するとそんな恐懼する部下達に対してアウディミアはにべも無く言い放った、“奴は私が殺してやろう”と。

「お前達は余計な事等考えなくても良い、それより今すぐ迎撃態勢を整えるのだ・・・」

「と申しますとアウディミア様。奴等はまさか、ここにまで・・・?」

「だからさっきからそう言っておるではないか、このたわけ共が!!!」

 物事に対する反応と理解がイマイチ鈍いオーク達の態度にアウディミアは再び激昂して腹の底から雄叫びを挙げる。

「良いからさっさと全軍を配置に付けろ、この“のうたりん”共。さもなければ“白き導き手”の前に私がお前達を貪り喰ってやろうぞ!!?」

「は、ははぁーっ!!!」

 怒り心頭に達していたアウディミアは一瞬、己が魔力が“黒雲のローブ”の裾から溢れ出てしまっているのを感じたが最早、それを隠そうともしなかったモノの、ここで良いとばっちりを食らってしまったのは部下のオーク達である、彼等はそんな“宮殿の主”の垣間見せた本性にすっかり恐れを成してしまい、慌ててその場を後にすると急いで全軍へと檄を飛ばして迎撃態勢を構築していったのであった、一方で。

 ちょうどその頃、無廟宮の前線基地とも言えた“オーガスタの沼地”を無事に抜き去り、ノエルの奪還を果たした蒼太達一行は一昼夜の間、近くの平原で休養を取った後で一路、アウディミアの潜んでいるとされている“古代遺跡の神殿跡地”を目指して旅を再開させていた、知らぬ間に“黒雲の魔女”の戦略を頓挫させる事に成功していた彼等は途中、さしたる妨害や襲撃を受ける事無く何処までも同じ景色の空の下を、ただひたすらに北へ北へと歩を進めて行ったのであったが、その最中に。

「ねえソー君、ソー君!!!」

「なんですか?ノエルさん・・・」

 パーティーに戻って来たノエルが存分にレアンドロとイチャ付き続けたその後で、今度は先頭を行く蒼太にちょっかいを掛けて来た、捕らえられていた最中の健気さは何処へやら、すっかり元のテンションに戻った彼女は相も変わらず脳天気と言うか、呑気なポジティブを発揮してはこの日本人の青年の事をヤキモキさせ続けていったのである。

「ねえねえ、ソー君。“真っ赤なお鼻の、トナカイさんは~”って歌ってみて?」

「・・・なんでこんなクソ寒い荒野の真ん中で、しかも敵陣の真っ只中でそんなクリスマスソングを口遊まなきゃならないんですか?」

「・・・は、は~ん?さてはお前」

 と、そんな蒼太の回答を聞いたノエルが途端に強気になって悪乗りチックに絡んで来る。

「全部歌えないんだな?本当は歌詞を知らないんだろう、このこの~っ!!!」

「いや、別に知っていますよ?ただなんで今、この緊迫している状況下に於いてそんな祝日系統の歌を歌わなければならないのかな~?って疑問に思っただけです」

「ふーん、そうなの?つまんなーい・・・っ( ̄○ ̄)( ̄○ ̄)( ̄○ ̄)じゃあさじゃあさ、“清しこの夜”って知ってる?」

「・・・・・」

 あからさまに悪戯っぽくニヤニヤとした笑みを浮かべて尋ねて来る(ついでに言えば謎の歌詞マウントを取ってくる)ノエルに対して最早、彼女の本性と言うべきか、そう言うおちゃらけた部分的性質がある事を熟知していた青年はこの時だから、ノエルの“つもり”を察してつい“お前、あれだろ?”と返してしまった、“ひょっとしてバカにしてるだろ?”と。

「実はバカにしてるよな?俺の事・・・」

「いや、別にバカにはしてねぇよ?ただちょっと・・・」

「・・・・・?」

 蒼太の言葉にそう言って応えると、ノエルは彼の眼前に人差し指を突き出して“クイクイクイッ!!!”と前後に揺らす。

 “こっちへ来い”、“耳を貸せ”と言うジェスチャーであったが蒼太が疑問に思いつつも言われた通りに聴覚器官を彼女に近付けてみるとー。

「嘗(な)めてる・・・っ❤❤❤❤❤」

「・・・・・っ!!!!!?」

 ノエルが“してやったり”と言った顔で、小声でそう告げて来るモノの、それを聞いた青年はー。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 “っざけんじゃねぇぞ!!?”とこの年上ピンクなゆるフワフレンドに対して思わず悪態を付いてしまうが、そんな友人の態度と返答に満足したのか、はたまた“これ以上はまずい”と思ったのかは定かでは無いモノの、取り敢えずノエルは相変わらずニヤけた顔を見せ付けながら漸くにして彼の場所を離れて愛しの恋人の元へと戻っていった。

「・・・・・っ。ったくもう、ノエルさんは!!!」

「あはははっ、でも良いんじゃない?別に。何処にも異常はなかったんだし、変に落ち込んでいるよりかはね・・・!!?」

 蒼太がぶつくさ言っていると今度はそこにメリアリア達がやって来て、柔らかな笑みを浮かべながらも夫に対して言葉を掛けた。

「ノエルが無事だったのは幸先が良いし・・・。後はこのまま何事も無く、アウディミアの討伐が終わってくれれば良いんだけれども・・・」

「プリンセスを取り戻した事で、此方も気兼ねなく動く事が出来ますしね。後はいよいよアウディミアとの決戦あるのみ、ですわ!!?」

「此方の今後の行動で、残す所は敵の本丸に突入するだけとなった訳だけど・・・。どう言った戦いになるのか、甚だ予想も付かないけれども、勝算はあるのかい?蒼太」

「・・・まあ、相手はあの“ゾルデニール”と互角の存在らしいからね?用心するにしくはないよ」

 そんな妻達からの質問と声に、落ち着きを取り戻した蒼太が静かに応える。

「“ゾルデニール”か・・・。だけど一体、どんな奴なのかしらね?今までだって名前は何度か出て来た事はあったけれども、正体に関する事柄は一切、表沙汰になっていないわ」

「それについては僕も些か気にしている所なんだよね。だけどドグバに関する説明をフォルジュナ様から聞かされた時に、奴は“ゾルデニールとアウディミアが共同で誕生させた生命体だ”と言う箇所があったんだ。“あの2人は生物学上では確かにドグバの両親に当たる”ともね、だとするとゾルデニールは少なくとも現時点では“受肉している存在”だって言う事が考えられるんじゃないのかな?そうで無ければそもそも論として、アウディミアに精子を提供する、等という事が出来る訳が無いからね・・・」

「・・・・・っ。そっか、言われてみれば確かにね」

 蒼太の言葉にメリアリアが頷くモノの確かに、そうで無ければ話の整合性が取れない上に“生物学上は”と言う部分でのフォルジュナの言葉にも反している事となる、そう考えれば夫の推察は納得の行くモノだった。

 それに。

「相手に実体があった方が、いつも通りの戦闘が出来る」

 それが青年の見解であったが果たしてこれもその通りであり、相手が肉体を持っている存在ならばまだ、現実世界での戦いようはあるのだが、これが“意識のみの状態”で漂っている、となると些か厄介になってしまう。

 何故ならば対象との間に凄絶な波動のぶつけ合いである“呪術合戦”を行って勝利するしか手がなくなってしまうからであり、結果として討伐の難易度が飛躍的に増大してしまう事を意味していたのだ。

 もっとも。

「でも、だけど・・・。私の持つ“絶対熱の極意”やあなたの扱う“神人化”ならば現実世界に居ながらにして“霊的な存在”とも渡り合える事が出来るわ・・・。ただし」

「ああ。解っているよ、メリー・・・」

 何事かを続けて言い掛けた愛妻淑女(メリアリア)の言葉をそう言って蒼太が制するモノの、その場合でも仮に、敵の方が高次元に位置している場合は此方の放つ術式や法力は、その殆どが無力化されてしまう訳でありいずれにせよ相当に困難な事態になる事が予想されていたのである。

 それだけではない、実は彼女にはもう一つの、ある懸念が存在していたのであるモノの、それは。

「だけど僕も、そこは考えないでも無かったんだよね。だから万が一の場合に備えて“封真術”専用のアイテムを持って来てあるんだ・・・」

「・・・・・?それもそうなんだけど。でもそれだけじゃあ無いわ!!?私はあなたの事が!!!」

「・・・僕の事?僕がどうかしたのかい?」

「うん、あのね?私は心配なの、だってあなたは・・・!!!」

「・・・・・?僕のなにが心配だって言うのさ。メリー」

「それは・・・っ!!!」

「ちょっと待って。なんだ?あれは・・・!!!」

 メリアリアが尚も蒼太に何かを訴え掛けようとしていた時だった、不意に先頭を歩いていた彼の視界の遥か彼方、地平線の境界ギリギリの場所に黒い豆粒の様なモノが見え始めたのだ、それと同時に。

「・・・・・っ!!!」

「・・・・・っ!!?」

「あ、あうぅぅ・・・っ!!!」

「な、なんだ?この強烈な波動は・・・!!!」

 “頭が割れそうだ・・・!!!”と青年と花嫁達、それに伯爵連中も思わず呻くがそれ程までにこの時迸って来た“魔の波動”は悍ましいモノであったのだ。

「そうか、彼処(あそこ)が・・・!!?」

 “古代遺跡の神殿跡地か!!!”と蒼太が頭痛を堪えつつもそう発言するモノの、彼の言う通りでまさしくそこは目的地である“古代遺跡の神殿跡地”であり、即ちアウディミアの牙城たる“無廟宮”への入り口であった。

「・・・・・っ!!?皆、聞いてくれっ。あの遺跡の中心部に朧気だがアウディミアの魔力を感じる、それだけじゃない。上空には“次元の裂け目”の気配もある、どうやら敵は異次元に身を潜めて此方を待ち伏せしている様だ・・・!!!」

「・・・・・っ。次元の、狭間?」

「メリー、君は僕と一緒に行った事があるだろう?所謂(いわゆる)一種の“トワイライトゾーン”だ!!!」

「・・・・・っ!!!」

「トワイライト、ゾーン・・・?」

「な、なんだ?それは。初耳だぞ・・・?」

 その言葉にそれぞれに反応を返す花嫁達に蒼太が尚も説明を試みる。

「アウロラも一緒に行った事があるよね?ほら、かつて“ヒュドラのヴェルキナ”達と戦った時に、君の“星震魔法”を使って奴等を一網打尽にした事があっただろう?あの時のヤツだよ!!!」

「・・・・・っ!!!あの“魔物達が現実化する世界”の事ですか!!?」

 青髪少女の問い掛けに“そうだ”と応えて頷くと蒼太は尚も真正面を睨み付け、そしてー。

 洞窟の中でそうした様に、フォルジュナから頂戴して来た“エルフの虹水晶”を杖の上段に嵌め込むと一気に“カアァァッ!!!”と輝かせて見せた、すると。

 辺りから黒雲の魔力がこうたいして行き、彼等のいる周囲僅かな領域だけが静謐を取り戻すモノの、それを見た蒼太は“行こう!!!”と皆を鼓舞して言った。

「彼処(あそこ)が僕達の旅の終わりだ、あの場所を制圧すればアウディミアはその魔力の大半を消耗し尽くす。その時に奴はいよいよ打つ手が無くなり、僕達の足下に跪(ひざまず)くんだ。こんな所で絶対に負けるな!!!」

「・・・・・っ。ええ、大丈夫よ!!!」

「ここまで来て、負けるもんですか!!!」

「たかが奴の波動等、何ほどの事があるか!!!」

 青年の呼び掛けに先ずは花嫁達が猛って応え、続いて伯爵連中やレアンドロ、ノエルも気迫に満ちた表情を浮かばせる。

 目指すは無廟宮の最上段、“尖塔の間”。

 そこへと向けて蒼太達一行の決死行が始まろうとしていた。

 しかし。

(一応、昨日は休んだけれども・・・。蒼太、本当に大丈夫かな。ずっと皆を先導しているだけじゃない、私達に負けない位に戦闘を熟し続けて来ている筈なのに・・・!!!)

 “それに加えて”とメリアリアは尚も思った、“瞬間転位の術式だって発動させている”、“幾らなんでも疲れが溜まっていない筈が無いわ!!?”と、それだけがメリアリアには心配だったのであり、彼女はいっそある種の危惧を抱くに至っていたのであるモノのハッキリと言って蒼太は確かに強靱であり、また芯から逞しかった。

 それは一番、メリアリアが認識していたモノだったのだが何故ならば単に彼の事を側で見続けて来たからだけでは決してなくて、実際の触れ合いや命と命のぶつかり合いであるセックスを通してその激しさや猛烈さをよくよく思い知らされていたからに他ならなかった、その彼女をしても。

 今回の旅の過酷さは想像以上であったのであり、そしてそんな中で夫の肉体的、精神的な負担を思うとどうしても、先行きに対する不安が溢れ出るのを止められないでいたのだ。

(・・・ううん、大丈夫だもん。蒼太は本当に、うんと強い!!!)

 “それに”と彼女は続けて思った、“いざとなったらこの人の事は、私が守る”と、“例え命に換えても!!!”と。

 そうした覚悟を密かに抱きつつ。

 メリアリアは青年の横で彼と同じ時を生き、運命を共にしようとしていた。
ーーーーーーーーーーーーーー
 次回予告です。

 もしかして勘の鋭い方はもうお気付きになられたかもしれませんが。

 疲弊した身体と心でアウディミアとの直接対決に臨んだ蒼太君がとんでもない危機に陥ります、しかしそれを助けたのはメリアリアちゃん達花嫁組でした。

 と言う訳でサブタイトルは“蒼太の敗北と花嫁達の覚醒”です(多分です、そこまで書き切れなかったら次々回がそうなると思います←いずれにせよ、アウディミアをやっつけるのはメリアリアちゃん達花嫁組です)。
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