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神世への追憶編
第二次エルヴスヘイム事件15(蒼太の波動とドグバのオーラ)
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このお話は真面目に第一部の“セイレーン編9”、“セイレーン編10”、そして第三部の“花嫁達の輪舞曲(ロンド)”及び“ナンバーワンとオンリーワン”を御覧になられてから読まれるとより理解が深まるかと存じます(と言うよりもその方がよろしいかと存じます)。
ーーーーーーーーーーーーーー
蒼太達は薄暗い洞窟内を縦横無尽に駆け続けて遂には底の底へと辿り着いた。
階層が深くなるにつれて敵モンスターの出現率は下がり、変わって“落とし穴”や“蔓橋”等の、手の込んだ罠(トラップ)の数々が彼等を待ち構えていたモノの、その道中も難なく突破して漸くにしてドクバの待っている“穢れの間”へと到達したのであるが、その途上に於いて。
蒼太はある、一つの決意を固めていたモノの、それと言うのは“ドグバを倒す”、“何としてでもこの場に於いて!!!”と言うモノに他ならなかった、何故かと言えば。
初めて矛を交えてから彼はずっと、ドグバと言う存在の“恐るべきいやらしさ”に付いてある種の危惧を抱き続けていたからであるモノの、それというのが“奴を取り逃がしたりすれば今度は更なる卑劣な手段での報復措置に訴えて来るだろう”と言う直感であったのだ。
それだけではない、ここに来る迄の酷薄なる部下の使い方といったら無かった、あれでは“自分の為に死んでこい!!!”と言って送り出しているに等しかったが、要するに“他の存在に対する愛情の欠片も無い”と言うのがハッキリと見え隠れしていたのであって、そこにも青年は自身とは絶対に相容れない何かを感じ取っていたのである。
(何となくだけど・・・。ドグバからはかつてのカインやメイルから発せられていたのと同じような非道さ、危うさを感じる・・・!!!)
それを考えた時に蒼太は、遙かなる昔日の事を思い返していたのであるが、それは彼等との二度目の対決の、あの時の事だ。
メイルの加護を受けて強力なバリアーを張り巡らせていたカインは序盤に蒼太を圧倒し、それをハラハラしながら見守り続けていたメリアリアにある取り引きを持ち掛けたのである。
即ち。
“自分達の手下になれば蒼太の命は助けてやろう”、“今後は自分達の為だけにその能力(ちから)を使うと誓え”と。
メリアリアは俯き加減で逡巡しながらも、それでも“蒼太の命が助かるならば”と泣く泣くそれを承諾し掛けていたのであったが、その姿を見て激昂した蒼太によって押し留められ、後方へと追いやられて結局は質問に対してハッキリとした答えを返す前に話を有耶無耶にされてしまったのであった。
その状況に、今回のそれは似ていると蒼太は考えるがだとすれば、ドグバは何らかの取り引きや脅迫的要求をノエルに対して行っている可能性も否定出来ず、そしてそれは自分がもし、今回の事でアイツに敗北したり取り逃がしたりしてしまえばその矛先が今後はメリアリア達にも向けられて来る事になり兼ね無い事も意味している訳であってだからこそ絶対に、討ち損じる訳にはいかないと、感じていた訳である。
その為。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ドグバ、何処だ!!?出て来い!!!」
“決着を着けに来たぞ!!?”と“穢れの間”の前へと至って花嫁達や伯爵連中が周囲を警戒する中で、ある種の覚悟を決めつつも青年が大声で叫ぶがそこには何者の姿も無くてただ、真っ暗な虚無の伽藍堂が何処までも何処までも広がっているのみだったのだ。
その間取りは恐ろしい程に高く、また奥行きを持たせて取られており天井と最奥部分とが目視できない程であったが、しかし。
「・・・・・」
(“暗闇の法術”を使っているな・・・?)
その室内全体に充満している“漆黒の波動”を感知した後にそう判断した青年は一度、花嫁達を後方に下がらせて“辺りに気を付けて”と言い含めた。
「奴は多分、この暗闇を利用した奇襲を仕掛けて来る筈だ。以前のように自身の肉体を影と一体化させてね。だからもし、何某かが動く気配を感じたなら迷わずそこを集中して叩け!!!」
「解ったわ!!!」
「はいですっ!!!」
「心得た!!!」
メリアリア達3人が了承したのを見届けると蒼太は早速、自らは前方へと進み出て素早く真言を唱え、杖に波動を集中させる、そうしておいてー。
気合い一閃、両手で地面に突き立てるようにするモノの、するとその周囲に光りが戻って部屋の中が幾分、目視できるようになってきた、即ち闇が後退したのだが、それを見てドグバは焦った。
“呪(まじな)いが破られる!!!”そう思った彼はいても立ってもいられなくなり無言、無音のままに青年に近付くと続け様に杖を突き立て続けていた蒼太の横腹を狙って一気に愛用の魔剣を抜き去った、しかし。
“ガッキイイィィィン!!!”と言う音と同時にその剣は弾き飛ばされ、ドグバの巨体は宙を舞うが、寸での所で彼の存在に気付いた蒼太が“光の波動真空呪文”を纏わせた杖を“穢れし者”に向かって振り翳(かざ)し、その高次元の鋭い衝撃波が魔剣ごと、彼を弾き飛ばしたのである。
ただし。
ドクバもドクバで咄嗟に魔剣を盾にして身を守った為に傷一つ付くことは無かったのだが、それを“好機”と見た蒼太は続け様に衝撃波を発生させるとその力を杖へと伝えてそのまま、彼に飛び掛かって行き、上方や下方から何度も何度も叩き付けるモノのしかし、その全ては魔剣を“影の呪法”と一体化させたドクバによって防がれてしまった上に、今度は彼の者が上体を捩ってバックハンドで反撃を加えて来た。
それだけではない、絶えずドグバから発生している“魔のオーラ”が蒼太を圧して押し退けて行く為に、うっかり気を抜くと吹き飛ばされてしまいそうになるモノの、しかし。
「くそが・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!!」
流石に歴戦の猛者だけあって蒼太は“ガッチイイィィィンッ!!!”と“穢れし者”の打ち込みに真正面から対抗して防ぐと同時に、更にはその溢れ出る魔力の奔流を綺麗に無駄なく受け流して行き、影響を全く無力化してしまっていったが、一方で。
「ぬおりゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」
それに気付いたドクバは怒りと同時に一気に普段の彼に立ち戻って遮二無二攻撃を繰り出して行くモノの、蒼太はそれを身を引いて躱したり、或いは自身も杖を振り回したりして切り結び、また時にはドグバの見せる僅かな隙に乗じてすかさず間合いに一歩踏み込んでは必殺の刺突を繰り出し続けて応戦し、少しも臆すると言う事が無かったのだが、そうしている内に2人は何時しか“穢れの間”の中央部分で互角の鍔迫り合いを演じて見せるに至っていたのだ。
「ぐ、おおおぉぉぉぉぉっ!!!!!?」
「くうううぅぅぅぅぅっ!!!!!!」
それぞれに力み声を発しながらもその最中、ドクバは腹の中で驚愕していた、それというのも彼は当初は今、自身の目の前にいる青年の事を嘗(な)めてかかっていたのである、自分よりも小さく四肢もか細いこの優男に、一体何が出来るモノか、と。
しかし。
いざ戦ってみると如何(どう)だろう、彼は自分に劣る所か少しも屈する素振りも見せずに寧(むし)ろその膂力に体力、気力等は非常に充実したモノがあって肉体も精神もよくよく練り上げられており、現にドグバはこの青年と二十合を超える程の打ち合いを演じたにも関わらず、両者全く譲らず一歩も退かずの完全な膠着状態に陥ってしまっていたのである。
それだけではない、その攻撃は一々鋭くて重たい上に動きに全く無駄がなく、しかもこっちが闘気を叩き込んで威圧しても少しも怖じ気づく所か平然とそれを受け流して跳ね返して来るのである、少しの油断も出来なかった。
ただしもっとも。
「ぬうううぅぅぅぅぅっ!!!!!?」
「ちいいいぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
それは蒼太も同じであった、ドグバの攻撃を弾く度に筋肉が弛(たゆ)んで骨がミシミシと軋んで行くのを彼はハッキリと感じていたのだ。
(流石は!!!)
青年は思った、“アウディミアの魔力を受け継ぐ息子だけの事はある”と、“今日まで修羅場の只中で生き抜いて来ただけの事はある”と。
だがしかし。
「てやあああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「うおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!!?」
それに関するならば蒼太だとて、少しも人後に落ちる事は無かったのであり現に彼はここまで来るまでに幾度となく死線を突破して来たのである、その結果青年はかつてない程にまで鍛えられ、叩き上げられて来ていたのであって、その為。
ドグバと闘っても尚、彼は力強かった、否、いっそ強靱だった、と言って良かったが蒼太は腕に力を込めると更に杖にそれを伝えてそのままー。
気合い一閃、ドグバを押し退け、後方へと追いやって行った、その上で。
「はあああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「ぬうううおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!!!?」
杖の先端を彼に向けたままそこへと向けて最大出力で発生させた“光の波動法力”を極限まで集中、集約させて行くモノの、一方でそれを見たドグバもまた、魔剣を上段に構えるとその切っ先へと己が纏いし暗黒のオーラを練り込んで行った。
それは言うなれば“動かない戦い”であった、2人の間にはエーテルがプラズマ化して発生した膨大なエネルギーが渦巻いており、辺りに充満し尽くしていたのだがそれらの放電素子が衝突する度に“パリパリッ!!!”、“バチバチィッ!!!”と凄まじい迄の爆雷現象が巻き起こってその結果、その周囲一帯の温度は実に数万度にまで達していたのだ。
「・・・・・っ!!!」
「あ、あ・・・っ!!!」
「ぬううう・・・っ!!!」
それを後方に待機していた花嫁達と伯爵連中は、メリアリアが防護の為に発生させた光炎魔法の分厚い壁に覆われた中からハラハラしながら眺めていたモノの、やがてー。
「でやあああぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!!」
「とおりゃあああぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!!」
2人は掛け声と同時に集約し切った己の全てのエネルギーを一挙に開放させて残らず相手に向けて叩き付けるがするとその直後に猛烈な迄の光の波動法力と闇の魔導爆力とが互いにぶつかり合って反応し、結果として想像を絶する程の大爆発が巻き起こされる。
その衝撃波は尋常ならざるモノであり、遥か後方から様子を見ていたメリアリア達でさえも思わず吹き飛ばされそうになるモノの、しかし。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「あれは・・・っ!!!」
それら全てが収まりを見せて行き、やがて辺りを静寂が覆って来た時。
半壊した“穢れの間”の中央部分で立っていたのは蒼太であった、もう一方のドグバはと言えばその時は最早、影も形も無くなっていたのであるモノのそれは無理からぬ事と言えた、何故ならば。
二つの強大なるエネルギーの激突によって引き起こされたその余波を、余す事無く喰らってしまったからに他ならなかったが元々、彼と蒼太とではこの日本人の青年の方が法力に対する知識や理解が及ぶ範囲も上であったし、そしてまた扱いにも長けていた、片や闇と戯れ穢れと恐れ、そして暴力の只中で生きてきたドグバはどうしたって低次元に限定された世界線しか知らなかったのに対して遙かなる高みである“神の世界”に於いて修業を成し遂げて来た蒼太とではそもそも、感得して持ち得るオーラ波動領域の厚み自体が全く以て違っていたのだ。
それだけではない、一度に発現出来る量子力場の出力、質量もその練り上げられる密度もまた、青年の方が圧倒的に強かったのであってその為、一見互角に見えた勝負も蒼太に軍配が挙がる結果となったのである。
そしてもう一つ、何よりの決め手となったモノが。
「あなた・・・っ!!!」
「蒼太さん・・・っ!!!」
「蒼太・・・っ!!!」
思わず安堵の表情を浮かべて彼に駆け寄って来る花嫁達に笑顔を返す蒼太であったがそんな彼の内に秘めたる裂帛の気合い即ち“精神力”だったのであるモノの生来から傲慢で欲しいモノは何だって手に入れて来たドグバは蒼太の実力を知って尚、それでも“自分が負ける訳がない”と高をくくっていたのに対してドグバの危険性を察知していた蒼太は今後の事やメリアリア達花嫁の身の安全を考えて“何としてでもこの場で奴を倒す”、“自身の命に換えても”と言う確固たる決意を持ってこの戦いに臨んでいたのであった、それが故に。
土壇場で発揮される力の大きさ、技の鋭さに自ずと差異が生じて来てしまったのであり、それがこの日本人の青年をしてドグバに勝利たらしめる要因となっていたのである。
「メリー、無事か!!?アウロラもオリヴィアも!!!」
“良かった”、“みんな無事みたいだね・・・!!!”と駆け寄って来た妻達を順々に抱き寄せる蒼太であったがそんな中でも特に、メリアリアを抱き締めて全身で彼女を感じ、その匂いを嗅いでいると心底魂がホッとする。
一方でそれはメリアリアもまた同じであった、蒼太への愛を確立したとは言ってもやはり、彼女だって一人の女性である、出来る事なら最愛の夫に包まれながら何時までも何時までもその腕の中で過ごしたいと考えるのは決しておかしな事では無かったのであるモノの、しかし。
今の現状では、それは叶わぬ願いであった、蒼太は妻を三人、持っておりしかも他の二人には“言わないで欲しい”と言った、ある約束が蒼太とメリアリアの間にはあったのである。
即ち。
“蒼太が一番、愛しているのはメリアリアである”と言う事だったが当初はそれで良かったメリアリアもここ最近では些かに、彼女達二人に対するジェラシーや劣等感に苛まれる様になってしまっていた、それほどアウロラとオリヴィアの蒼太に対するモーションや愛情表現は激しく深いモノがあって(ただしこれはあくまでメリアリアから見た場合の話であって実際にはメリアリアとて決して負けてはいなかったのであるが)、正妻であるメリアリアとすればだから時折、嫉妬の炎が燃え上がるのをどうする事も出来ずにいたのだ。
(ふぅーんだ、良いもーん。この旅が終わったら後で蒼太に、夫にいっぱいいっぱい甘えちゃうもーんっ!!!!!)
まるで少女の様な純粋なる情熱と一途さとを発揮してこの年下幼馴染の夫の事を追い求め続けるメリアリアだったが蒼太も蒼太でそんな彼女の自分に対するピュアな気持ちはちゃんと感じ取って理解していたのであり、その為。
「メリー、メリー・・・ッ!!!」
「・・・・・?」
誰も見ていないタイミングを見計らっては彼女を呼び出し、口付けをすると言う事を何度となく繰り返していてその度毎に、メリアリアは“嬉しい”、“愛されてるんだなぁっ❤❤❤❤❤”と喜びを顕わにしていた。
そしてそれはこの時も同じ事であり一通り、三人との抱擁が済んだ後でアウロラとオリヴィアは勿論の事、義父達すらも見ていない事を確認した蒼太はメリアリアとの間に熱くて濃厚か時間を過ごしていたのであった。
「ゴメンね?いつも一人ぼっちにさせて・・・」
「ううん、良いの・・・」
本当に申し訳無さそうに告げる蒼太にそれでも何処か寂し気な笑みを浮かべて応えつつ、それでも愛妻淑女(メリアリア)は夫の腕の中で胸板へと頬擦りをする。
「あなたがいない時はね?私の中のあなたとお話しするの・・・」
「君の中に僕がいるのかい?」
「あなたは、私だから・・・!!!」
そう告げるとメリアリアは潤んだ瞳を蒼太に向けてジッと彼を見詰め続ける。
その頬は心なしか紅潮しており、心音はドキドキと高鳴っていて彼のそれと一つに蕩けて行ったのであった。
「でもやっぱり・・・!!!」
そう言い掛けるとメリアリアは蒼太の首筋に腕を回して抱き着いては爪先立ちとなって彼の唇に“チュプ・・・ッ!!!”と触れた、“正真正銘(ホンモノ)のあなたが良いの・・・!!!”とそう告げて、そしてそれを皮切りに。
濃密なキスの応酬を行った2人は短い一時だけだけれど確かに夫婦の時間を過ごしてやがて皆の前へと戻って行った。
「さあ、行こう!!!」
“ノエルさんを助けてあげなきゃね!!?”と、隣にメリアリアを置きながらその場にいた全員に号令を発すると彼等からは“オオッ!!!”と言う元気な掛け声が帰って来た。
ーーーーーーーーーーーーーー
ちなみにドグバのモデルになったのはもう皆さんお解りの通りにジャミなのですが(何度殺しても殺したりないんですよ、アイツは←バリアーさえ無ければそんなに強くも無いんですけどね。だって手こずった思い出が全くありませんもん)、一方でこの時の蒼太君は“ドラゴンの杖”等を装備している主人公がモデルになっています(レベルは大体、70前後位でしょうか←それに加えて“ロード・オブ・ザ・リング”のガンダルフの要素が少し入ってます)。
また私の考えではあれ以来、ボス戦でバリアーが使われなくなったのはやはり、バリアーを使っても天空の一族や主人公には効かないのが解った為であると思われます(そりゃ“伝説の勇者”や“マスタードラゴン”と同じ力を持っている存在に、魔界のバリアーなんて効くわけが無いですからね)。
それにもし、主人公がその気なら“エルヘブンの民”である彼は“ノアの箱船”とか“鳴動封魔”、“ギガジャティス”なんかを使えたと思うんですよね(スクウェア・エニックス社の皆様はもしまたDQ5をリメイクしてくれるならそこまで改造してくれないかな、等と密かに願い続けている今日この頃です)。
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蒼太達は薄暗い洞窟内を縦横無尽に駆け続けて遂には底の底へと辿り着いた。
階層が深くなるにつれて敵モンスターの出現率は下がり、変わって“落とし穴”や“蔓橋”等の、手の込んだ罠(トラップ)の数々が彼等を待ち構えていたモノの、その道中も難なく突破して漸くにしてドクバの待っている“穢れの間”へと到達したのであるが、その途上に於いて。
蒼太はある、一つの決意を固めていたモノの、それと言うのは“ドグバを倒す”、“何としてでもこの場に於いて!!!”と言うモノに他ならなかった、何故かと言えば。
初めて矛を交えてから彼はずっと、ドグバと言う存在の“恐るべきいやらしさ”に付いてある種の危惧を抱き続けていたからであるモノの、それというのが“奴を取り逃がしたりすれば今度は更なる卑劣な手段での報復措置に訴えて来るだろう”と言う直感であったのだ。
それだけではない、ここに来る迄の酷薄なる部下の使い方といったら無かった、あれでは“自分の為に死んでこい!!!”と言って送り出しているに等しかったが、要するに“他の存在に対する愛情の欠片も無い”と言うのがハッキリと見え隠れしていたのであって、そこにも青年は自身とは絶対に相容れない何かを感じ取っていたのである。
(何となくだけど・・・。ドグバからはかつてのカインやメイルから発せられていたのと同じような非道さ、危うさを感じる・・・!!!)
それを考えた時に蒼太は、遙かなる昔日の事を思い返していたのであるが、それは彼等との二度目の対決の、あの時の事だ。
メイルの加護を受けて強力なバリアーを張り巡らせていたカインは序盤に蒼太を圧倒し、それをハラハラしながら見守り続けていたメリアリアにある取り引きを持ち掛けたのである。
即ち。
“自分達の手下になれば蒼太の命は助けてやろう”、“今後は自分達の為だけにその能力(ちから)を使うと誓え”と。
メリアリアは俯き加減で逡巡しながらも、それでも“蒼太の命が助かるならば”と泣く泣くそれを承諾し掛けていたのであったが、その姿を見て激昂した蒼太によって押し留められ、後方へと追いやられて結局は質問に対してハッキリとした答えを返す前に話を有耶無耶にされてしまったのであった。
その状況に、今回のそれは似ていると蒼太は考えるがだとすれば、ドグバは何らかの取り引きや脅迫的要求をノエルに対して行っている可能性も否定出来ず、そしてそれは自分がもし、今回の事でアイツに敗北したり取り逃がしたりしてしまえばその矛先が今後はメリアリア達にも向けられて来る事になり兼ね無い事も意味している訳であってだからこそ絶対に、討ち損じる訳にはいかないと、感じていた訳である。
その為。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「ドグバ、何処だ!!?出て来い!!!」
“決着を着けに来たぞ!!?”と“穢れの間”の前へと至って花嫁達や伯爵連中が周囲を警戒する中で、ある種の覚悟を決めつつも青年が大声で叫ぶがそこには何者の姿も無くてただ、真っ暗な虚無の伽藍堂が何処までも何処までも広がっているのみだったのだ。
その間取りは恐ろしい程に高く、また奥行きを持たせて取られており天井と最奥部分とが目視できない程であったが、しかし。
「・・・・・」
(“暗闇の法術”を使っているな・・・?)
その室内全体に充満している“漆黒の波動”を感知した後にそう判断した青年は一度、花嫁達を後方に下がらせて“辺りに気を付けて”と言い含めた。
「奴は多分、この暗闇を利用した奇襲を仕掛けて来る筈だ。以前のように自身の肉体を影と一体化させてね。だからもし、何某かが動く気配を感じたなら迷わずそこを集中して叩け!!!」
「解ったわ!!!」
「はいですっ!!!」
「心得た!!!」
メリアリア達3人が了承したのを見届けると蒼太は早速、自らは前方へと進み出て素早く真言を唱え、杖に波動を集中させる、そうしておいてー。
気合い一閃、両手で地面に突き立てるようにするモノの、するとその周囲に光りが戻って部屋の中が幾分、目視できるようになってきた、即ち闇が後退したのだが、それを見てドグバは焦った。
“呪(まじな)いが破られる!!!”そう思った彼はいても立ってもいられなくなり無言、無音のままに青年に近付くと続け様に杖を突き立て続けていた蒼太の横腹を狙って一気に愛用の魔剣を抜き去った、しかし。
“ガッキイイィィィン!!!”と言う音と同時にその剣は弾き飛ばされ、ドグバの巨体は宙を舞うが、寸での所で彼の存在に気付いた蒼太が“光の波動真空呪文”を纏わせた杖を“穢れし者”に向かって振り翳(かざ)し、その高次元の鋭い衝撃波が魔剣ごと、彼を弾き飛ばしたのである。
ただし。
ドクバもドクバで咄嗟に魔剣を盾にして身を守った為に傷一つ付くことは無かったのだが、それを“好機”と見た蒼太は続け様に衝撃波を発生させるとその力を杖へと伝えてそのまま、彼に飛び掛かって行き、上方や下方から何度も何度も叩き付けるモノのしかし、その全ては魔剣を“影の呪法”と一体化させたドクバによって防がれてしまった上に、今度は彼の者が上体を捩ってバックハンドで反撃を加えて来た。
それだけではない、絶えずドグバから発生している“魔のオーラ”が蒼太を圧して押し退けて行く為に、うっかり気を抜くと吹き飛ばされてしまいそうになるモノの、しかし。
「くそが・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!!」
流石に歴戦の猛者だけあって蒼太は“ガッチイイィィィンッ!!!”と“穢れし者”の打ち込みに真正面から対抗して防ぐと同時に、更にはその溢れ出る魔力の奔流を綺麗に無駄なく受け流して行き、影響を全く無力化してしまっていったが、一方で。
「ぬおりゃあああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」
それに気付いたドクバは怒りと同時に一気に普段の彼に立ち戻って遮二無二攻撃を繰り出して行くモノの、蒼太はそれを身を引いて躱したり、或いは自身も杖を振り回したりして切り結び、また時にはドグバの見せる僅かな隙に乗じてすかさず間合いに一歩踏み込んでは必殺の刺突を繰り出し続けて応戦し、少しも臆すると言う事が無かったのだが、そうしている内に2人は何時しか“穢れの間”の中央部分で互角の鍔迫り合いを演じて見せるに至っていたのだ。
「ぐ、おおおぉぉぉぉぉっ!!!!!?」
「くうううぅぅぅぅぅっ!!!!!!」
それぞれに力み声を発しながらもその最中、ドクバは腹の中で驚愕していた、それというのも彼は当初は今、自身の目の前にいる青年の事を嘗(な)めてかかっていたのである、自分よりも小さく四肢もか細いこの優男に、一体何が出来るモノか、と。
しかし。
いざ戦ってみると如何(どう)だろう、彼は自分に劣る所か少しも屈する素振りも見せずに寧(むし)ろその膂力に体力、気力等は非常に充実したモノがあって肉体も精神もよくよく練り上げられており、現にドグバはこの青年と二十合を超える程の打ち合いを演じたにも関わらず、両者全く譲らず一歩も退かずの完全な膠着状態に陥ってしまっていたのである。
それだけではない、その攻撃は一々鋭くて重たい上に動きに全く無駄がなく、しかもこっちが闘気を叩き込んで威圧しても少しも怖じ気づく所か平然とそれを受け流して跳ね返して来るのである、少しの油断も出来なかった。
ただしもっとも。
「ぬうううぅぅぅぅぅっ!!!!!?」
「ちいいいぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
それは蒼太も同じであった、ドグバの攻撃を弾く度に筋肉が弛(たゆ)んで骨がミシミシと軋んで行くのを彼はハッキリと感じていたのだ。
(流石は!!!)
青年は思った、“アウディミアの魔力を受け継ぐ息子だけの事はある”と、“今日まで修羅場の只中で生き抜いて来ただけの事はある”と。
だがしかし。
「てやあああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「うおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!!?」
それに関するならば蒼太だとて、少しも人後に落ちる事は無かったのであり現に彼はここまで来るまでに幾度となく死線を突破して来たのである、その結果青年はかつてない程にまで鍛えられ、叩き上げられて来ていたのであって、その為。
ドグバと闘っても尚、彼は力強かった、否、いっそ強靱だった、と言って良かったが蒼太は腕に力を込めると更に杖にそれを伝えてそのままー。
気合い一閃、ドグバを押し退け、後方へと追いやって行った、その上で。
「はあああぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
「ぬうううおおおぉぉぉぉぉっ!!!!!!!?」
杖の先端を彼に向けたままそこへと向けて最大出力で発生させた“光の波動法力”を極限まで集中、集約させて行くモノの、一方でそれを見たドグバもまた、魔剣を上段に構えるとその切っ先へと己が纏いし暗黒のオーラを練り込んで行った。
それは言うなれば“動かない戦い”であった、2人の間にはエーテルがプラズマ化して発生した膨大なエネルギーが渦巻いており、辺りに充満し尽くしていたのだがそれらの放電素子が衝突する度に“パリパリッ!!!”、“バチバチィッ!!!”と凄まじい迄の爆雷現象が巻き起こってその結果、その周囲一帯の温度は実に数万度にまで達していたのだ。
「・・・・・っ!!!」
「あ、あ・・・っ!!!」
「ぬううう・・・っ!!!」
それを後方に待機していた花嫁達と伯爵連中は、メリアリアが防護の為に発生させた光炎魔法の分厚い壁に覆われた中からハラハラしながら眺めていたモノの、やがてー。
「でやあああぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!!」
「とおりゃあああぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!!!!!」
2人は掛け声と同時に集約し切った己の全てのエネルギーを一挙に開放させて残らず相手に向けて叩き付けるがするとその直後に猛烈な迄の光の波動法力と闇の魔導爆力とが互いにぶつかり合って反応し、結果として想像を絶する程の大爆発が巻き起こされる。
その衝撃波は尋常ならざるモノであり、遥か後方から様子を見ていたメリアリア達でさえも思わず吹き飛ばされそうになるモノの、しかし。
「・・・・・っ!!!」
「・・・・・っ!!?」
「あれは・・・っ!!!」
それら全てが収まりを見せて行き、やがて辺りを静寂が覆って来た時。
半壊した“穢れの間”の中央部分で立っていたのは蒼太であった、もう一方のドグバはと言えばその時は最早、影も形も無くなっていたのであるモノのそれは無理からぬ事と言えた、何故ならば。
二つの強大なるエネルギーの激突によって引き起こされたその余波を、余す事無く喰らってしまったからに他ならなかったが元々、彼と蒼太とではこの日本人の青年の方が法力に対する知識や理解が及ぶ範囲も上であったし、そしてまた扱いにも長けていた、片や闇と戯れ穢れと恐れ、そして暴力の只中で生きてきたドグバはどうしたって低次元に限定された世界線しか知らなかったのに対して遙かなる高みである“神の世界”に於いて修業を成し遂げて来た蒼太とではそもそも、感得して持ち得るオーラ波動領域の厚み自体が全く以て違っていたのだ。
それだけではない、一度に発現出来る量子力場の出力、質量もその練り上げられる密度もまた、青年の方が圧倒的に強かったのであってその為、一見互角に見えた勝負も蒼太に軍配が挙がる結果となったのである。
そしてもう一つ、何よりの決め手となったモノが。
「あなた・・・っ!!!」
「蒼太さん・・・っ!!!」
「蒼太・・・っ!!!」
思わず安堵の表情を浮かべて彼に駆け寄って来る花嫁達に笑顔を返す蒼太であったがそんな彼の内に秘めたる裂帛の気合い即ち“精神力”だったのであるモノの生来から傲慢で欲しいモノは何だって手に入れて来たドグバは蒼太の実力を知って尚、それでも“自分が負ける訳がない”と高をくくっていたのに対してドグバの危険性を察知していた蒼太は今後の事やメリアリア達花嫁の身の安全を考えて“何としてでもこの場で奴を倒す”、“自身の命に換えても”と言う確固たる決意を持ってこの戦いに臨んでいたのであった、それが故に。
土壇場で発揮される力の大きさ、技の鋭さに自ずと差異が生じて来てしまったのであり、それがこの日本人の青年をしてドグバに勝利たらしめる要因となっていたのである。
「メリー、無事か!!?アウロラもオリヴィアも!!!」
“良かった”、“みんな無事みたいだね・・・!!!”と駆け寄って来た妻達を順々に抱き寄せる蒼太であったがそんな中でも特に、メリアリアを抱き締めて全身で彼女を感じ、その匂いを嗅いでいると心底魂がホッとする。
一方でそれはメリアリアもまた同じであった、蒼太への愛を確立したとは言ってもやはり、彼女だって一人の女性である、出来る事なら最愛の夫に包まれながら何時までも何時までもその腕の中で過ごしたいと考えるのは決しておかしな事では無かったのであるモノの、しかし。
今の現状では、それは叶わぬ願いであった、蒼太は妻を三人、持っておりしかも他の二人には“言わないで欲しい”と言った、ある約束が蒼太とメリアリアの間にはあったのである。
即ち。
“蒼太が一番、愛しているのはメリアリアである”と言う事だったが当初はそれで良かったメリアリアもここ最近では些かに、彼女達二人に対するジェラシーや劣等感に苛まれる様になってしまっていた、それほどアウロラとオリヴィアの蒼太に対するモーションや愛情表現は激しく深いモノがあって(ただしこれはあくまでメリアリアから見た場合の話であって実際にはメリアリアとて決して負けてはいなかったのであるが)、正妻であるメリアリアとすればだから時折、嫉妬の炎が燃え上がるのをどうする事も出来ずにいたのだ。
(ふぅーんだ、良いもーん。この旅が終わったら後で蒼太に、夫にいっぱいいっぱい甘えちゃうもーんっ!!!!!)
まるで少女の様な純粋なる情熱と一途さとを発揮してこの年下幼馴染の夫の事を追い求め続けるメリアリアだったが蒼太も蒼太でそんな彼女の自分に対するピュアな気持ちはちゃんと感じ取って理解していたのであり、その為。
「メリー、メリー・・・ッ!!!」
「・・・・・?」
誰も見ていないタイミングを見計らっては彼女を呼び出し、口付けをすると言う事を何度となく繰り返していてその度毎に、メリアリアは“嬉しい”、“愛されてるんだなぁっ❤❤❤❤❤”と喜びを顕わにしていた。
そしてそれはこの時も同じ事であり一通り、三人との抱擁が済んだ後でアウロラとオリヴィアは勿論の事、義父達すらも見ていない事を確認した蒼太はメリアリアとの間に熱くて濃厚か時間を過ごしていたのであった。
「ゴメンね?いつも一人ぼっちにさせて・・・」
「ううん、良いの・・・」
本当に申し訳無さそうに告げる蒼太にそれでも何処か寂し気な笑みを浮かべて応えつつ、それでも愛妻淑女(メリアリア)は夫の腕の中で胸板へと頬擦りをする。
「あなたがいない時はね?私の中のあなたとお話しするの・・・」
「君の中に僕がいるのかい?」
「あなたは、私だから・・・!!!」
そう告げるとメリアリアは潤んだ瞳を蒼太に向けてジッと彼を見詰め続ける。
その頬は心なしか紅潮しており、心音はドキドキと高鳴っていて彼のそれと一つに蕩けて行ったのであった。
「でもやっぱり・・・!!!」
そう言い掛けるとメリアリアは蒼太の首筋に腕を回して抱き着いては爪先立ちとなって彼の唇に“チュプ・・・ッ!!!”と触れた、“正真正銘(ホンモノ)のあなたが良いの・・・!!!”とそう告げて、そしてそれを皮切りに。
濃密なキスの応酬を行った2人は短い一時だけだけれど確かに夫婦の時間を過ごしてやがて皆の前へと戻って行った。
「さあ、行こう!!!」
“ノエルさんを助けてあげなきゃね!!?”と、隣にメリアリアを置きながらその場にいた全員に号令を発すると彼等からは“オオッ!!!”と言う元気な掛け声が帰って来た。
ーーーーーーーーーーーーーー
ちなみにドグバのモデルになったのはもう皆さんお解りの通りにジャミなのですが(何度殺しても殺したりないんですよ、アイツは←バリアーさえ無ければそんなに強くも無いんですけどね。だって手こずった思い出が全くありませんもん)、一方でこの時の蒼太君は“ドラゴンの杖”等を装備している主人公がモデルになっています(レベルは大体、70前後位でしょうか←それに加えて“ロード・オブ・ザ・リング”のガンダルフの要素が少し入ってます)。
また私の考えではあれ以来、ボス戦でバリアーが使われなくなったのはやはり、バリアーを使っても天空の一族や主人公には効かないのが解った為であると思われます(そりゃ“伝説の勇者”や“マスタードラゴン”と同じ力を持っている存在に、魔界のバリアーなんて効くわけが無いですからね)。
それにもし、主人公がその気なら“エルヘブンの民”である彼は“ノアの箱船”とか“鳴動封魔”、“ギガジャティス”なんかを使えたと思うんですよね(スクウェア・エニックス社の皆様はもしまたDQ5をリメイクしてくれるならそこまで改造してくれないかな、等と密かに願い続けている今日この頃です)。
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