星降る国の恋と愛

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神世への追憶編

第二次エルヴスヘイム事件13(ノエルの愛とレアンドロの覚悟)

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「奴らの女を一人、捕らえたそうだな?ドグバよ・・・」

「はい、母上。それも稀に見る極上品で御座います・・・!!!」

 果てしなく続く暗闇の中で“ソイツ”はニヤリとほくそ笑みながら“彼女”の問い掛けに嬉々として応えた、あの魔物共のボスであり黒雲の魔女“アウディミア”の長男、ドグバである。

 産まれて来た我が子に“ガドラの呪法”を掛けてオーク族の王と何度となく同性交配させた挙げ句にソイツを始末させてその血肉を喰らわせ、更に“暗黒の叡智”を叩き込みつつ育て上げて来たのだが、その甲斐あってドグバの体躯は全長が優に3メートルを超えており、筋骨隆々としていて並の人間やエルフ等は問題にならない位に屈強な存在であった。

 その全身からは絶えず禍々しいオーラが放たれており、それが周囲の空間を歪曲させて攻撃をあさっての方向へと弾き飛ばしてしまうためにドグバは産まれてこの方、ほぼほぼ“直接的な敗北”と言うモノを知らずにいてそれが故に非常に傲慢であって人情の欠片も持ち合わせてはいなかったのだ。

 もっとも。

 そんな彼でも頭が上がらないのが母親であるアウディミアであり、それと同格とされている反逆皇神ゾルデニールであったのだが、アウディミアに連れられてゾルデニールに引き合わされた瞬間、ドクバは産まれて始めて心底身震いをした、“喰われる”と。

 “自分はここで食い殺される”、“嫌だ嫌だ、死にたくねぇ”、“土下座してでも助かりたい、何としてでも!!!”。

 例えコイツの軍門に降ってでも生き長らえたいと、恥も外聞も捨ててその時心底願ったドグバであったがそんな彼の真意を見透かしたかのようにゾルデニールは“クックック・・・ッ!!!”といやらしい含み笑いを浮かべてアウディミアにこう告げた、“中々に前途有能ではないか!!!”と、ところが。

 一方のアウディミアはそんな我が子に対して少しの温情や愛情も感じていないのか終始冷めた眼差しを向け続けていたモノのその時、当の本人であるドグバは思った、“いずれ必ずコイツらを殺してやる!!!”と。

(今はまだ無理だ。正直に言って力に差があり過ぎる、だが今に見てやがれ・・・!!!)

 屈服を強要されて自尊心を痛く傷付けられ、そう思い立ったドグバはそれからと言うモノだから、ひたすら己の魔力を高める事に精を出して行った、霊力のある人間や波動の高いエルフを襲って殺し、その遺体を食い尽くしたり、また時には“トワイライトゾーン”に入って魔力、妖気を直接吸収したりもした。

 更には母親譲りの“漆黒の魔術”を用いて人々や生き物達の悲しみや苦しみの想念を集めて食し、それらを余さず力に変えて行った訳であったがそんなドグバの前にノエルがやって来た、見た瞬間に“ほうっ?”と思った、見栄えは悪く無い所か滅多に見られない上玉である、コイツは俺様に相応しい品(しな)だと判断した彼はノエルを自分の妻として側に置くことにしたのである。

 ・・・力を手に入れたる者の、強き者の証として飽きるまで弄(もてあそ)んでやろうと思った、精々、嬲り者にしてやる、と。

 しかし。

 彼女に触れようとした途端、信じられない事が起こった、何と“闇の波動”を纏っている筈のドグバの身体がいきなり弾かれ、吹き飛ばされてしまったのだ。

「・・・・・っ!!?」

(な、なんだ?今のは・・・!!!)

 一瞬だけ発動した、自らを撥ね除けたその光の力に最初は怪訝そうな顔を見せていたドグバであったがやがて徐々に合点が行ったかの様に、“なるほどな・・・”と短く呟いた。

(コイツには心に決めた男がいるようだ、面白い。まずはコイツの目の前でソイツを血祭りに上げてやる、そうすればコイツの心はその瞬間、粉々に砕け散るだろうからな!!!)

 その後でタップリと楽しんでやろう、とドグバは薄気味悪い笑みを浮かべつつノエルを見るが、人間の中には稀に、そうした“強い思い”を力に変える事が出来る輩がいる事を、ドグバもまた知っていたのだ。

(何という僥倖か。この女にはどうやら不思議な力があるらしい・・・!!!)

 正体はまだ解らないが恐らく、霊力の一種であろう、だとすれば。

(飽きたら頭から貪り喰ってやる。そうすれば俺様は更なる魔力を得る事が出来る、と言う訳だ!!!)

 “ハーッハッハッ!!!”と高笑いをするドグバに対してノエルは不安な気持ちでいっぱいだった、それはそうだろう、親しくも心安らぐ人々から引き離されて、こんな魔物だらけの何処とも知れぬ場所へと連れて来られてしまっていたのだから。

 しかも今回の事は明らかに自分のミスであり、蒼太達が助けに来てくれると言う保証も無い。

 “ああっ。神様!!!どうか私を御守り下さい。それが無理ならばどうか、ソー君達やレアンドロだけは何があっても助けて下さい!!!”

 半ば絶望しつつもそれでも“コイツにレアンドロを会わせてはいけない”と、持ち前の気丈さを発揮して自身を何とか保ちつつ、最愛の恋人や仲間達の為に密かに神に祈りを捧げるノエルであったが、一方で。

 ちょうどその頃、蒼太達一行は既に次の行動を開始していた、要するにノエルの追跡を開始していたのであるモノの、幸いにして彼女が連れ去られた場所については、ある程度の当たりを付ける事が出来ていたのだ、それはー。

「“古代遺跡の神殿跡地”じゃあないぞ?」

 意識を集中させつつも蒼太が呻くが彼は今、ノエルが連れ去られた軌跡を“波動探査”で逆探知して魔物共の本拠地を炙り出そうとしていたのであるが、その結果。

 ワイバーン達がノエルを連れ帰ったのは蒼太達一行が目的としている“極北星下の禁足地”中心部にあるとされる、“古代遺跡の神殿跡地”では無くてそれよりも大分前の地点にある“オーガスタの泉跡地”と呼ばれている所謂(いわゆる)一種の沼地である事が判明したのだ、そこでー。

 連れ去っていったワイバーン連中共々反応がパタリと途絶え、変わって何やら非常に遠くにいながらも、極(ごく)近くにいるかのような感覚が返って来るようになっていたモノの、蒼太は流石にそれを察知した瞬間“これは現実世界から異次元世界のような場所に身を潜めた証だろう”と直感した、“時空跳躍”の法術を用いて“時渡り”が可能であるのみならず幼い頃から“トワイライトゾーン”の雰囲気を何度となく身近で感じて来た彼だからこその咄嗟の判断だった訳である。

「ノエルさんはまだ生きている、急いで救出に赴けば必ずや無事に助け出せる筈だ!!!」

「ええっ。友達をこのまま放ってはおけないわっ!!?」

「プリンセス、きっと今頃途方に暮れておいでの筈です。必ず助け出して見せますわっ!!!」

「あのワイバーン共にはお仕置きが必要だな?蒼太・・・!!!」

 “ノエルにもね!!?”と自身の妻達の言葉に少しだけ笑顔になってそう応えると、蒼太達は“韋駄天の術”を用いて駆けに駆け、通常ならば一日は掛かる道程を僅か一時間で走破してみせた、そして。

 “オーガスタの泉跡地”まで来たるとダンジョン突入前に蒼太の扱う回復魔法である“癒やしの風”を発動させては皆の疲労を低下させて活力を与え、体力、気力を取り戻させるとそのまま青年は虚空を睨んで印を結び、素早く真言を唱えた、するとー。

 彼等の周囲の空間が不意に反転するかの様にグニャリと歪み、景観から色合いが失われて行く、それと同時に。

 あれだけ聞こえていた風の音が一切、止んで代わりに静寂と暗闇とが辺りを支配して行った、やがて。

 天地が定まり、地平が平穏を取り戻す頃には蒼太達は何処とも知れぬ、暗くて広い洞窟の中にいた、入り口は見当たらずに先はかなり奥まで続いている様子である、しかもその深淵の至る所に妖魔の気配が満ち満ちていたのだ。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「“当たり”だね?蒼太・・・!!!」

 レアンドロの言葉に“ああ”と短く頷くと、蒼太は懐から“エルフの虹水晶”を取り出してそれを杖の先端部分にセットする、そうしておいてー。

 何やら彼が呪(まじな)いの言葉を唱えると一帯が聖なる光で強烈に照らし出され、暗闇がみるみる内に後退して行った。

「・・・本当は危険なんだけどね?それでも灯りが無いのも拙いから」

 “行こう”、そう言うと蒼太は先頭に立って歩き出した。

 後にはメリアリア達花嫁組にその義父連中と夫人の面々、そしてレアンドロが続く。

 目指すは恐らく最深部であろう、底の底の更に底、そこにノエルの気配があった。

「・・・・・」

(待っていてくれよ?ノエル。必ず助けてあげるからね・・・!!!)

 皆一様に押し黙ったまま進む中、レアンドロだけは人知れずノエルへの思いを募らせ、そして同時に。

 その為ならば、ノエルを助ける為ならば死ぬことすら厭わない、と言う程の強い覚悟を決めていたのだが、そんな彼の胸中を見透かす様に蒼太は言った“戦闘になったなら君は下がってろ!!!”と。

「君の気持ちは、よく解るつもりだ。だからこそ戦闘になったなら潔く物陰に潜んで事が済むまで待機していて欲しい!!!」

「・・・・・っ。そ、そんな。蒼太、僕だって!!!」

「・・・君に何が出来るんだ?」

 蒼太が申し訳なさと悲しみと、そして困惑とがごっちゃになったような顔でそう応えた。

「悪いんだけど、ハッキリ言おう。これ以上捕虜を増やしたくは無いし・・・。それに“足手纏い”をされるのもゴメンだからね?」

「・・・・・っ。う、うぐっ!!?でも僕は・・・っ!!!」

「それに」

 すると何事かを言い掛けたレアンドロを制するように蒼太が力強く、しかし静かに続けた、“君を死なせたくない”とそう言って。

「レアンドロ、こんな時になんだけど君は良い奴だよ。本当にね?確かにちょっと世間知らずな所はあるけれどもそれでも、何事に対しても一生懸命だし、それに“正々堂々”を心掛けているのも解る。野営の時にだって真っ先に重労働や大変な作業をしてくれるし、それでいて笑顔を絶やさない」

 “何より”と蒼太は続けた、“どんなに大変な目に遭ってもへこたれない強さを持っている”とそう告げて。

「今もそうだ、普通ならば“足手纏いだ”と正面切って言われたりすればいじけてしまっても不思議じゃないのに、それでも尚も必死に自分を鼓舞して貫こうとしている。中々出来る事じゃ無いんだよ、そう言うのって」

「・・・・・っ!!!」

「正直、君の何にノエルさんが惹かれたのかが何となく解った。そう言った君の純粋さと一生懸命さが、堪らなく眩しく見えたんだろうなぁ・・・!!!」

「・・・・・っ。蒼太!!!」

「そんな君にもしもの事があったなら、とてもの事ノエルさんに顔向け出来ないんだよ僕は。きっとノエルさん、滅茶苦茶怒ると思うんだ。それも凄い大泣きすると思う、だからさ?レアンドロ。君には無事でいて欲しいんだよ・・・!!!」

「・・・・・」

 その言葉にレアンドロが感動して何事かを言おうとした、その時だ。

「みんな下がれ、メリーッ。僕の後ろに付いてっ!!!」

「解ったわ!!!」

 突然、蒼太が前方の暗闇を睨み付けたかと思うと戦闘態勢を取ってその場で向き直り、メリアリア達も即座に応じてそれに続いた。

 レアンドロは潔く後方へと退避しており、伯爵達が彼を庇護するが、すると。

 光に照らし出された暗闇から一体の巨大な影が出現して此方へと歩み寄って来た、それだけではない、同時に酷い腐臭が漂って来て女子連中が思わず顔を顰(しか)めるモノの、しかし。

「・・・・・っ。ふううぅぅぅっ!!!中々やるじゃないか、俺様の気配に気が付くとはな。さては貴様らが母の言っていた“風の導き手”の一味だな?」

「そう言う貴様は“沼の穢れのドグバ”か?アウディミアの息子らしいな・・・!!!」

「ほうぅ・・・っ!!!」

 蒼太だけが、身動(みじろ)ぎもせずにその“影”を睨み付けつつ言葉を発するが、するとそれを聞いた“影”は感心したかの様に口を開いた。

「さてはフォルジュナの奴が教えたか。一々忌々しい奴だ・・・!!!」

「虚無へと失せるが良い、貴様の主と共に!!!」

「クソガキが。貴様は口の利き方を知らんか?先ずは挨拶代わりにその身にタップリと教え込んでやる!!!」

 そう言うが早いか“影”は瞬時に間合いを詰めて、アッという間に蒼太に肉薄した、しかし。

「・・・・・っ!!!」

「ぐ、く・・・っ!!!」

 拳を振り上げて殴り掛かろうとした“影”の攻撃が、蒼太に命中する事は遂に無かった、ドグバと話している最中も油断無くその実体を探り続けていた蒼太は“影”と一体化していたドグバの本体のオーラ力場の中心点を瞬時に見抜いてその拳が自身に届くが否かの直前で杖を突き出し、“光の波動法力”で彼の首を括ったのだ。

 そのまま。

「でやぁっ!!!」

「ぐは・・・っ!!!」

 そう短く叫んで壁に押し付け、次いで地面に叩き付けるようにすると、寝転がりながらドグバが苦しそうな、それでいて“信じられない”とでも言うような口調で言い放った。

「バカな。俺様を放り投げただと!!?」

「・・・お前は“闇の法術”を扱うようだがそんなモノは僕の“光の波動真空呪文”の前には一切、無力だ。こう見えても何度と無く修羅場を潜って来ているんでね、伊達に“風の導き手”を名乗っている訳では無いんだよ」

「・・・・・っ。クソが!!!」

 そう短くのたまうと、しかし次の瞬間にはドグバは再びのいやらしい笑みを浮かべて言い放った。

「面白い、貴様とは直に決着を着けてやろう。俺様の“闇のプラズマオーラ”と貴様の“光の波動法力”のどちらが上なのか、よくよく思い知るが良い・・・!!!」

 それだけ言うと。

 “影の主”はその場から立ち去って行き、後には静寂だけが残された、念のため、暫くの間は“残心”を解かずにいた蒼太であったが、やがて漸く相手が本格的に消えた事を悟ると全員に向き直る。

「“沼の穢れのドグバ”だ、前にフォルジュナ様から聞いた事があるんだけど、どうやらアイツがワイバーン達を操っていたみたいだね・・・!!!」

「・・・ここの主ってこと?」

「そう言う事。まあでもアイツは僕が倒すよ、アイツの放っている“闇のオーラ”は中々にやっかいだし。それにもう宣戦布告もしちゃったしな・・・!!!」

「あなた・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 誰にとも無くそう言って蒼太は、心配そうな面持ちを浮かべて自身を見詰めて来る花嫁達に“大丈夫だよ?”と微笑んで応えた、そうしておいて。

 “行こう”と改めて全員にそう告げると、仲間達を引き連れて洞窟の奥へと向かって突き進んで行った。
ーーーーーーーーーーーーーー
 蒼太君の扱う“光の波動真空呪文”の法力は、ドグバの操る“闇のプラズマオーラ”を切り裂いて攻撃や衝撃を相手に届ける事が出来るのです(ただし強さにもよりますが)。

 ちなみに今後の展開なのですが、まず蒼太君とドグバの決着に加えて花嫁達とアウディミアとの激突、そして読んでいっていただけるとどうしてフォルジュナが“ノエルとレアンドロを連れて行け”と行ったのかが解るようになっています(伏線回収と言う意味に於いては当たり前ですけど)。

 それともう一つ、ノエルちゃんのレアンドロ君に対する心の変化にも注目していただけたら、と思っております(そこら辺の事柄を丁寧に、ちゃんと書くように努力します)。

 ノエルちゃんは感動します(皆様方も“自分だったら”と想像してみて下さい)、だって己のミスでたった一人、魔物だらけの何処とも知れぬ場所へと連れて来られてしまっていた上に(ついでに言えばドグバもいたし)蒼太君達やレアンドロが助けに来てくれるかどうかも解らない状況下に置かれていた訳なのですが(生きた心地がしなかったでしょうね、絶対)、所が蒼太君達は(もっと言ってしまいますとレアンドロは)凄く早く助けに来てくれます(それも自分の危険も省みずにです)。

 正直に言って嬉しかったと思いますよ?“自分の為に来てくれたんだ!!!”と物凄く心揺さ振られたと思います(だけど同時に“何でこんな危険な所に来ちゃったんだろう”、“何でこんな危険な奴がいる所に来ちゃったんだろう”とも思ったと思うんですよね)。

 “自分だって本当は助かりたい”、“でも最愛の恋人を死なせたくない”、そして“仲間達だって巻き込みたくない”と言う、そう言った葛藤もあるにはあったけれども、だけどやっぱり嬉しかったと思うんですよ(その辺りの事をキチンと表現出来れば、と思っております)。

 まだ冒険は暫くの間は続きますので全員揃ってのハッピーエンド、“イチャラブ新婚旅行編”はもう少し先になります。

 ちなみに我慢が出来ない、と言う方はちょっとジャンルが違うんですけど、私の新作小説であります、“真・私達は、女同士でエッチする。”と言うのが御座います。

 前に別名義で書いていて、途中で挫折してしまったモノを本格的に書き終えようと思いまして、新たに書き始めたモノなのですが、エロスは其方で発揮されております、よろしければ是非、お願い申し上げます。

                敬具。

          ハイパーキャノン。
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